そして、明けましておめでとうございます。
とても更新が遅くなり、大変申し訳ございません。
相変わらずのクオリティですが、楽しんで頂けると幸いです。
では、どうぞ。
なのはとフェイトは祐一の心配をしながらも、次の戦闘に備えるため、短い期間ではあるものの近接戦闘のトレーニングを行っていた。
なのはとフェイトが守護騎士たちとの戦闘で感じたことは、近接戦闘の実戦経験の少なさである。フェイトはまだマシではあったものの、なのはは自身の戦闘スタイルの関係上、どうしても接近されると弱い。故に、付け焼刃であるかもしれないが、二人は接近戦もトレーニングすることにしたのだ。
二人は魔力が回復するまで、学校へ行きながら、帰宅したらトレーニングを行うということを続けていた。
◆
そして、祐一が行方不明となってから数日が経過し、なのは、フェイト、アルフの三人は検査のため、管理局本局を訪れていた。
「――なのは、どうだった?」
先に検査を終え、外で待っていたフェイトが検査を終えて出てきたなのはへと声を掛けた。フェイトの横には同じく検査を終えたアルフの姿もあった。
フェイトの言葉を聞き、なのはは笑顔を見せると、それに答えた。
「ばっちりっ! 前よりも魔力量が増えたくらいだって。フェイトちゃんとアルフさんは?」
「わたしもなのはと同じ。魔力量が増えたぐらいだって」
「あたしは魔力量に変化はなし。だけど、もう全快だよ」
フェイトはなのはの問い掛けに笑顔で胸の前で拳を握り、アルフは犬歯を見せながら笑顔を浮かべていた。
「そっか。じゃあ、もう大丈夫だね」
「うん」
笑顔を浮かべるなのはに、フェイトも同じように笑顔で答えた。
それからなのはとフェイトの二人は、自分たちの相棒であるデバイス――《レイジングハート》と《バルディッシュ》の修復が完了したとの報告を受けたため、デバイスルームへと移動した。
ちなみに、アルフは同行していない。先にクロノたちのところに戻ったのだ。
「こんにちは。マリエルさん、いますか?」
「失礼します」
なのはとフェイトがデバイスルームへと足を踏み入れると、そこには二人が探していた人物がいた。
「お~いらっしゃい、二人とも……」
そう返事をしたのは、なのはたちがデバイスの修理を頼んでいた時空管理局本局メンテナンススタッフのマリエル・アテンザであった。
しかし、いつもの元気な姿ではなく、目の下に隈を作り、その表情には疲労が見え隠れしていた。
「いや~なんとか、間に合ったよ」
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「はは、大丈夫、大丈夫。二人とも今日は検査だったんでしょ? そっちは大丈夫だったの?」
「あ、はいっ。全然何も問題なかったですっ!」
「以前よりも調子が良いくらいですっ!」
なのはとフェイトの元気な言葉を聞き、マリエルは笑顔を浮かべながら、「いや~若いっていいわねぇ」と、年寄りくさく呟いていた。
「さて、無駄話はこのくらいにして。あの子たちの修理は完了してるから、見てあげてくれる?」
「はいっ!」
マリエルに促されながら、なのはとフェイトの二人は自分たちの愛機の下へと移動すると、そこには新品同様のデバイスが二機、待機状態で置かれていた。
「あっ! レイジングハート」
『お久しぶりです、マスター』
なのはの言葉に、レイジングハートが明滅しながら答えた。その姿は以前と意匠が変わっていた。
「形が……」
『なかなかお洒落でしょう?』
「うんっ! とっても、可愛い」
なのはは笑顔を浮かべながら、レイジングハートを見つめていた。
「バルディッシュも……」
なのはと同じようにフェイトも意匠が変化し、新型のように磨き上げられたバルディッシュを笑顔で見つめていた。それに答えるように、バルディッシュが明滅した。
笑顔で自身のデバイスと話しをしている二人を、マリエルが笑顔で見つめていると、部屋の扉が開き、一人の人物が入ってきた。
「なんだ、珍しいな。客人か?」
「あ、先生……」
三人が開いた扉へと目を向けると、そこにはボサボサの長髪に白衣を着た男性が立っていた。珍しいモノクルを掛け、口には煙草を咥えていた。
「あっ! 先生、また煙草っ!」
「大丈夫だ。火は着いていない」
「そういう問題じゃないですっ! 子供たちもいるんですから、控えてくださいっ!」
マリエルに怒られ、白衣の男性――リチャード・ペンウッドは「わかった、わかった」と言いながら、咥えていた煙草を仕舞い、二人のやり取りを呆然と眺めていたなのはとフェイトへと視線を向けた。
リチャードに見つめられたことから、二人は僅かに緊張しているのか、背筋を伸ばしていた。
「あっ、この子たちは嘱託魔導師をしてくれている子たちで、わたしがデバイスの整備担当をしてるんですよ」
マリエルの言葉に、リチャードは僅かに眉間に皺を寄せる。
「……こんな子供が嘱託魔導師とは、な。初めまして、わたしはリチャード・ペンウッド。デバイスマイスターで、マリエルの講師を務めていた。よろしく」
リチャードの自己紹介を聞き、なのはとフェイトも慌てて自己紹介を始めた。
「えっと、高町なのはです。嘱託魔導師をしています」
「同じく嘱託魔導師のフェイト・テスタロッサです」
フェイトの名前を聞き、リチャードは僅かに眉を動かした。そんなリチャードの表情を察したのか、マリエルが首を傾げながら声を掛けた。
「どうしたんです、先生?」
「……いや、なんでもない」
マリエルの言葉にリチャードは首を振った。
(なるほど。この金髪の娘がフェイト・テスタロッサ――あのプレシア・テスタロッサの娘であり、祐一の教え子か……)
祐一から話を聞いていたため、フェイトの名前を聞いたリチャードはすぐに思い出していた。
(なるほど。祐一が優秀だと言っていたわけだ。この年齢にしてAAAクラスの魔導師とは。こちらの娘も同様か……)
リチャードがそう考えていると、ジッと見つめられているのが恥ずかしくなってきたのか、フェイトとなのはが僅かに身じろぎしていた。
「っと、不躾すぎだな。二人とも優秀な魔導師だと聞いていてな。思わず見入ってしまっていた」
「い、いえ、そんな……」
「きょ、恐縮です……」
リチャードの言葉に、なのはとフェイトは恥ずかしそうに頬を赤く染めた。
すると、リチャードは二人から視線を外すと、レイジングハートとバルディッシュの方へと視線を向けた。
「ほう。これが二人のデバイスか?」
「あ、はい。レイジングハートとバルディッシュと言います」
「ふむ。少し見ても構わないか?」
「はい、どうぞ」
なのはとフェイトに了解を取り、リチャードは二機をまじまじと見つめた。
「――どちらも素晴らしいデバイスだ。よほど作成者の腕が良かったのだろうな」
リチャードがそう呟くと、なのはとフェイトは自身の相棒が褒められたのが嬉しかったのか、笑顔を浮かべていた。
すると、リチャードが何か疑問に思ったのか首を傾げていた。
「この二機には、カートリッジシステムが組み込まれているのか?」
「あ、はい。どうしても、この子たちがシステムを組み込みたいと言ってきたので……危険だとは言ったんですけど……」
「そうか。それだけ、マスター想いのデバイスだったんだろう。二人とも、このデバイスは大事にするんだぞ」
「はいっ!」
リチャードの言葉に、なのはとフェイトが真剣な表情で返事をした。
すると、なのはとフェイトへと通信が入った。
『なのはちゃん、フェイトちゃん……っ!』
「エイミィさん?」
モニターに映し出されたのは、僅かに焦りの表情を浮かべているエイミィであった。
『二人とも緊急事態! 都市部上空で守護騎士たちを補足したよっ!』
「っ!? また、あの人たちが……っ!?」
『管理局の魔導師で包囲してはいるんだけど、いかんせん相手が強敵だからちょっと分が悪いんだ。……まだ病み上がりの二人に頼むのは、本当は心苦しいんだけど……』
モニター越しに、エイミィが表情を曇らせた。本来ならば、正規の管理局員だけで対処しなければならないのに、二人に頼まなければならない不甲斐なさと、本気で二人を心配しているエイミィの気持ちが見え隠れしていた。
そんなエイミィに、なのはとフェイトは微笑みを浮かべる。
「エイミィさん、大丈夫。体調は万全ですっ!」
「それに嘱託とはいえわたしたちも管理局員だし、あの人たちともう一度話がしたいですから」
『……なのはちゃん、フェイトちゃん』
二人の言葉に僅かに驚いているエイミィを見つめながら、二人は静かに頷いた。
『……わかった。なら、今すぐこっちに戻ってきて。あんまり長くは持たないかもしれないからっ!』
「はいっ」
「わかりましたっ」
二人が答えると同時に、モニターが消えた。
「――というわけでマリーさん」
「わたしとなのははもう行きます」
「うん。わかった、気をつけてね二人とも」
「はいっ!」
マリエルの言葉に二人は元気よく言葉を返した。
「それでは、リチャード先生も失礼します」
「ああ。二人とも頑張れよ」
フェイトとなのはは律儀に礼をした後、急いで部屋を出て行った。
二人が出て行った扉を見ながら、リチャードは心の中で考えていた。
(――守護騎士、か。"アイツ"の話によると、第一級捜索指定されているロストロギア《闇の書》を守護するプログラムだと言っていたな。守護騎士全員がかなりの力を持った魔導師であり、古代ベルカの騎士。戦闘経験から考えるに、あの二人には厳しい戦いになるだろうな)
そこまで考え、リチャードは静かに息を吐いた。
「――どうやら、暢気に寝ている場合ではないようだぞ、祐一」
今この場にはいない黒衣の青年の名前を呟きながら、リチャードは自身の溜まっている仕事を片付けるために、デスクへと足を向けた。
◆
なのはとフェイトが新しくなったデバイスとともに海鳴へと帰還する中、管理局本局より離れた場所に一つの管理世界があった。ミッドチルダのように栄えてはいないものの、多くの人が穏やかに暮らしていた。
そんな世界の都心部にある病院の一室に二人の男性がいた。
一人はベッドで眠っており、腕からは点滴の管が伸びている。そこで眠っているのは、常人よりも頭一つは大きい長身と漆黒の髪が特徴的な青年であった。その筋肉質な体には、包帯が巻かれていた。
そしてもう一人は、ベッドの横にある椅子に深く腰を掛けた、真紅の髪に真紅のジャケットが特徴的な青年であった。
赤毛の青年は携帯端末を弄りながら、僅かに顔を顰めていた。
「――また、地球で戦闘が始まったみたいだな」
『そのようですね。いいのですか? このまま放っておいて……』
「流石にそこまで俺が出張る必要もねぇだろう。旦那と知り合いってだけで、俺が戦闘に介入するのもおかしな話しだしな」
赤毛の青年――ヴァーミリオン・CD・ヘイズは携帯端末の電源を切りながら、自身の相棒であるインテリジェントデバイスであるハリーに言葉を返した。
『そう言いながら眉間に皺が寄っていますよ、ヘイズ?』
「……うるせぇよ」
ハリーの言葉に、ヘイズはベッドで眠っている黒髪の青年――黒沢祐一を見つめながら、さらに眉間に皺を寄せながら答えた。
ヴァーミリオン・CD・ヘイズは一見クールでやる気がないように装ってはいるが、内心は熱血漢であり、困っている人がいたら放っておけないお人好しな性格の持ち主である。そのため、祐一の知り合いであるなのはとフェイト、それに守護騎士たちが戦っているのが我慢ならないのだ。
「……まぁ、正直な話し、今回の一件についてはいろいろと分かっていない点が多すぎるしな。《闇の書》のこととか、あの《仮面の男》の正体とかな。そんな状態で俺が出張れるわけないだろ? それに旦那もこんな状態だしな」
『それもそうですね』
ヘイズはそう話しながら一度指を鳴らし、ハリーは淡々とそれに答えた。
「なんにしても旦那が目覚めないことには、何も始まらねぇわな」
《仮面の男》との戦闘で負傷した祐一はヘイズに助けられた後から、今も眠り続けていた。祐一を助け、リチャードの伝手でこの病院を紹介してもらい、自身の航行艦である《Hunter Pigeon》でここまでやってきて――現在に至る。
その間、祐一は一度も目を覚ましていない。
(旦那なら余裕でなんとかするだろうと軽い気持ちに思ってたが、面倒なことに巻き込まれたもんだな。ささっと目を覚ましてくれよ、旦那)
ヘイズは祐一を見つめながら、そう切実に思っていた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
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