久しぶりの投稿になってしまいました。。。
久しぶりな変わりに、いつもより少し長くなってます。
楽しんでいただけたら幸いです。
では、どうぞ。
地球から僅かに離れた人間が住んでいない管理外世界。今、そこに一人の青年と四人の男女が相対していた。
「――もう一度聞こう。蒐集を止める気はないのか?」
口を開いたのは、漆黒のバリアジャケットを身に纏った青年――黒沢祐一であった。
だが、祐一はそう口では言いつつも、守護騎士の皆が蒐集を止めるとは思ってはいなかった。
「くどいな、黒沢。我らは主を助けるため、止まるわけにはいかんのだ」
案の定、凛とした口調で祐一へと言葉を返したのは、桃色の長髪を後ろで縛ってポニーテールにした女性――守護騎士のリーダーを務めているシグナムであった。シグナムの格好は、女性らしいプロポーションを覆い隠すように騎士甲冑を纏っており、腰には自身の相棒である長剣型のデバイス《レバンティン》を携えていた。
「そのとおりです。祐一くんと戦うのは正直嫌ですけど、それでも私たちは止めるわけにはいかないんです」
シグナムの言葉に続くように声を発した人物は、金色の髪と優しげな表情が特徴的な女性――守護騎士の参謀を務めるシャマルであった。
「――ザフィーラ、ヴィータ。お前たちもそう思っているのか?」
そう問い掛ける祐一の言葉を、筋骨隆々の青年と真紅のゴスロリ衣装を身に纏った少女――ザフィーラとヴィータは黙って聞いていた。
ザフィーラの表情はいつもと変わらず無表情。腕を組んだまま押し黙っていた。
対するヴィータは、祐一へと何かを言おうとしているのだが、上手く伝える言葉が思いつかないのか顔を俯かせていた。
そんなヴィータを気遣ってか、組んだ腕を下ろしながらザフィーラが口を開いた。
「……ああ。残念だが、祐一、お前の頼みでも聞くことはできん」
「……そうか……」
ザフィーラの言葉に、祐一は僅かに表情を歪めながらも頷いた。
すると、今まで黙っていたヴィータが俯いていた顔を上げながら、静かに祐一へと声を掛ける。
「……なぁ、祐一。お前もさ、あたしたちに協力してくれないか……?」
「ヴィータ、それは……」
「わかってるっ! あたしたちがやろうとしていることが良くないことだってことくらいっ! だけど、それでもあたしたちははやてを助けるために、それをやらなくちゃいけないんだっ! あたしたちははやてを助けたい。……守りたいだけなんだ、今の幸せな時間を……」
「ヴィータ……」
ヴィータの慟哭を聞き、祐一の表情が曇った。ヴィータはそう声を上げながら、目尻に僅かに涙を溜めていた。
「それに、祐一とだって仲良くなれた。あたしたちは別に祐一と戦いたいわけじゃない。……だから、あたしたちの邪魔をしないでくれよ、祐一……っ!」
ヴィータの叫びが周囲に木霊し、祐一もまたヴィータの言葉を聞き、その想いを受け止めるように一度静かに目を閉じた。
(――守りたいものは同じなはずなのに、どうしてこうも相容れないんだろうな。……本当に、この世はままならないことだらけだ)
心の中でそう思いながら、祐一は静かに溜め息を吐いた後、閉じていた瞳を開くと、守護騎士たちをしっかりと見つめながら口を開いた。
「――それはできんよ、ヴィータ。俺にはお前たちがやろうとしていることが、正しいとは思えない」
「っ!? それじゃあ、祐一ははやてがいなくなってもいいって言うのかよ……っ!」
「そうじゃない。はやてを助けたい気持ちは俺も同じだ。……だが、"お前たちが言っている方法"が最善だと、俺は思っていない。――だから、何度でも言おう。蒐集を今すぐ止めるんだ」
そう話しを終えた祐一を、守護騎士たちは悲しみを含んだ瞳を向けながらも決意を内に秘めていた。
「――どうやら、これ以上何を言っても無駄なようだな」
「――はやてちゃんを悲しませたくないですけど、私たちの思いと祐一さんの思いは相容れないようです」
「――我らは守護騎士。主を守るためならば、邪魔をするものは全て蹴散らす」
「――だから、祐一。あたしたちのやってることが終わるまでは、絶対に邪魔させねぇ!」
シグナム、シャマル、ザフィーラ、ヴィータはそう言い放つと、各々のデバイスを構えた。
そんな守護騎士たちの姿を見て、祐一は深く溜め息を吐いた。
「――この、わからずやどもが……」
祐一がそう言い終えると同時に、守護騎士たちが一斉に動きを開始した。
――遂に戦いの幕が上がった。
◆
祐一は動き始めた四人に視線を向ける。
(シグナムのデバイスは剣。おそらく接近戦を得意としたアタッカー。ヴィータのデバイスはハンマー。見た目どおりの破壊力重視のアタッカーかと思うが、確認しなければわからない。シャマルはあまり動かないところを見ると、バックアップが主な役割だろう。ザフィーラはほぼアルフと同じか……)
そんな風に観察しながら、祐一も自身のデバイスである騎士剣《冥王六式》を右手に持った。
(一人一人でもかなりの力量だというのに、この四人が揃うとさらに厄介だな)
祐一がそう考えていると、シグナムがレヴァンティンを両手に持ち、突っ込んできた。
「はぁ!」
裂帛の気合いとともに、シグナムの一撃が祐一へと迫る。だが、祐一はそれを特に焦るでもなく、自身の長剣で受け止めた。
「流石にやるなっ! 黒沢!」
「これぐらい、どうということはない」
シグナムが笑みを浮かべながら叫ぶように声を上げ、祐一は表情を変えずに言葉を返した。
「ふっ!」
すると、すぐさまシグナムが短い呼吸音とともに、レヴァンティンを上下左右から祐一目掛けて攻撃を繰り出した。それを祐一は長剣を持って迎え撃つ。
(祐一のやつ、シグナムの攻撃を完全に見切ってやがるっ)
そんな祐一とシグナムの戦闘を、少し離れた場所から見ていたヴィータが心の中で驚嘆していた。
シグナムが攻め、祐一が迎え撃つという状態であり、見た目は祐一の防戦一方のように見える。だが、シグナムの攻撃はどれも決定打とは成りえていない。それが、ヴィータと同じように戦闘を傍観しているザフィーラやシャマルに驚きを与えていた。
(やっぱり、祐一のやつ相当やりやがるな)
シグナムは守護騎士のリーダーであり、近接戦闘のスペシャリストだ。そのシグナムと互角以上に戦える祐一を侮ることなど、ヴィータには出来ない。
(それに祐一の実力はまだこんなもんじゃない気がする。――だから)
ヴィータはそこで思考を止めると、声を上げた。
「シャマル、ザフィーラ!」
「わかったわ!」
「心得た」
ヴィータに名前を呼ばれただけなのにも関わらず、シャマルとザフィーラは行動を開始した。二人ともヴィータとの付き合いが永いため、もはや以心伝心と言っても過言ではないほど、互いが思っていることを理解できるのだ。
ヴィータが思っていることは、祐一が完全に本気を出す前に叩くこと。故に、騎士道を重んじるシグナムには悪いとは思うが、ヴィータたちは攻撃を始めた。
「クラールヴィント、力を貸してっ」
シャマルがそう呟くと、その足下に魔法陣が展開された。
そして、それと同時に祐一と激しくぶつかり合っていたシグナムの体が優しい光に包まれる。すると、シグナムの攻撃速度と重さがさらに増した。
「……っ! すまんな、黒沢。お前との戦闘を楽しみたいところだが、今回はそうも言っていられんのでな」
「お前たちがどう戦おうが、俺が気にするところではない」
「そうか。――ならばっ!」
シグナムがそう言うと同時に、先ほどよりもさらに苛烈に祐一へと攻撃を繰り出し始めた。
「ぐっ!?」
さしもの祐一もこの攻撃を全て避けきることが出来ないのか、深くはないものの、その体に傷を付けていく。
だが、それでもなお、祐一を倒しきるような決定的な一撃を与えることは出来なかった。
(やるなっ! ならば、これでどうだっ!)
シグナムは上乗せされた自身の力によって、下から上へとレヴァンティンを走らせ、それを防御した祐一の長剣を跳ね上げ、渾身の一撃を上段から祐一目掛けて振り下ろした。
その一撃が直撃すると誰もが思っていた。だが、祐一はその期待を裏切ってみせた。
「……っ……がはっ!?」
祐一は跳ね上げられた長剣を持っていない方の手で拳を作り、それでシグナムが両手で持っていた柄の部分をその拳で跳ね上げて上段の一撃を防ぎ、さらに強烈な蹴りをシグナムの体へと叩き込んだ。
強烈な攻撃をくらったシグナムは、吹き飛ばされた勢いそのままに、体勢を整える間もなく壁へと激突した。
「……シグナムッ!? ……っ! 祐一!」
そんなシグナムの姿を見て激昂したヴィータが、祐一へとグラーフアイゼンを両手に持ち、そのまま突っ込んできた。
「頭に血が上りすぎだ、ヴィータ」
「なっ!?」
祐一の静かな声が響くと同時に、ヴィータが真紅のバインドによって捕獲された。
(あたしの行動が読まれたっ!?)
祐一はシグナムを吹き飛ばしたと同時に、ヴィータが突っ込んでくるであろうことを予測し、設置型のバインドを準備しておいたのだ。
そんな用意周到な祐一の行動に、ヴィータはただただ驚愕するしかなかった。
「フレイムランサー」
祐一は瞬時に炎に包まれた魔力弾を生成し、それをヴィータへと放った。
「そうそう好きにはさせんっ!」
しかし、ヴィータへと放たれた魔力弾はザフィーラによって防がれた。いかに祐一の魔力弾であろうとも、盾の守護獣の異名を持つザフィーラの防御壁を抜けることは出来なかった。
「迂闊だぞ」
「ごめん、ザフィーラ」
そう言い合いながらも、ザフィーラはバインドを解除しヴィータを自由にした。
ザフィーラは未だに悠然とこちらを見つめている祐一へ、同じように視線を向ける。
(これほどとはな。流石は我らが主が認めた男だ)
ザフィーラが心の中で祐一へと賞賛を送っていると、先ほどの攻撃で吹き飛ばされていたシグナムとシャマルが傍へとやってきた。
「大丈夫か?」
「ああ。シャマルに治療してもらった。少し痛むが、問題ない」
「でも、あくまで応急処置だから、あまり無理は禁物よ」
「ああ、わかっているさ」
シャマルの心配そうな言葉に、シグナムはしっかりと頷きを返した。
対する祐一も右手に長剣を持ったまま、四人を見つめていた。
(強いな。流石は守護騎士と言ったところか。近接戦では、やはりシグナムに分があるか)
祐一は心の中でそう客観的に分析していた。確かに最後の攻撃は当たったが、一日の長があちらにある分、近接戦闘では祐一も押され気味だった。
(それにあいつらはまだ、カートリッジシステムを使っていない。あれが使われるとなると、実に厄介だ)
ベルカ式魔法最大の特色で、前もって魔力を込めたカートリッジをロードし、使用者の魔力を一時的にブースとすることで、その魔導師が本来持つ力以上に魔法の効果を高めるシステムのことである。
シグナムとヴィータのデバイスにはそれが組み込まれており、二人はそれをまだ使用していない。
(あれを使われると、おそらく防御しきれないだろう。"今"の俺のデバイスではカートリッジシステムは使えないしな)
祐一がそう考えていると、シグナムたちが体勢を整え、再度戦闘の構えを見せ始めていた。
それを見て、祐一は長剣を持つ手に力を入れ、
「ソニックムーブ」
瞬時にシグナムたちへと肉薄した。
「「っ!?」」
シグナムたちは祐一のスピードに驚き、息を飲んだ。
そんなシグナムたちに構わず、祐一はそのままの勢いで上段から騎士剣を振り下ろす。その標的は、戦闘要員ではないシャマル。
戦闘要員ではないものの、治療やサポートが可能なシャマルは今の祐一にとってはすぐにでも倒しておきたい人物であったため、標的としたのだ。
「何度もやらせんっ! おおおぉぉっ!」
突然の祐一の攻撃に動けなかったシャマルを守るように、ザフィーラが祐一の眼前へと現れ、その一撃を防いだ。
祐一は攻撃が防がれたのを確認したと同時に、後方へと跳躍する。
「もう、逃がさねぇぞっ! 祐一!」
だが、祐一が下がることを予測していたヴィータとシグナムが、左右から祐一へと襲い掛かった。
「吹き飛べっ!」
「レバンティンッ!」
ヴィータは数個鉄球を取り出し、それに魔力を込めると、グラーフアイゼンでそれを祐一に向けて撃ち出した。
同じくシグナムも距離を僅かに開けたまま、レバンティンを連結刃と呼ばれる刃を備えた鞭《シュランゲフォルム》へと変え、それを祐一に向けて振りぬいた。
(どちらの攻撃も正確で、速いっ! だが……っ!)
左右から同時に迫ってくる攻撃に、さしもの祐一も僅かに焦りを覚えたが、それでも心は冷静であった。
瞬時に祐一は魔力弾を作り出し、それをヴィータが撃ってきた鉄球へとぶつける。轟音とともに粉塵が辺りに舞い上がりながらも、祐一は最小限の動きで今度はシグナムの連結刃の攻撃を回避しようとする。
「甘いっ!」
だがシグナムはそれを見越していたのか、腕を動かし鞭の起動を変え、さらに攻撃を仕掛けた。
「ぐっ!?」
祐一は流石に回避できず、腕を浅く切り裂かれた。
シグナムはさらに続けて変幻自在に鞭の起動を変えながら、祐一を追い込んでいく。上下左右と変則的で速い攻撃を祐一は何とか長剣で防いだり、回避したりとやり過ごしていた。
だが、祐一はここで自らの過ちに気付く。
(っ!? ヴィータは……っ!?)
そう、一度目の攻撃からヴィータの姿が見えなくなっていたのだ。
「――アイゼンッ!」
すると、祐一が立っている上空から叫び声が聞こえた。しかし、その声の主であるヴィータの姿が"見えなかった"――いや、そこにいるのかがわかりにくいが、ヴィータは上空にいた。
(ちぃ! これは、ヴィータを幻術魔法で姿を見えにくくしているのか……っ!)
祐一がそう心の中で舌打ちをする。
ヴィータは最初の攻撃の後、シャマルの幻術魔法によって姿を消し、シグナムの攻撃に紛れて祐一の上空へと飛んでいたのだ。
「――ロード、カートリッジッ!!」
ヴィータに掛かっていた幻術が解け、その姿が露になると、その叫び声と同時にグラーフアイゼンの形態が《ラケーテンフォルム》へと変化していた。ロケット噴射で加速しながら、ヴィータは祐一へと突っ込んでいった。
(この攻撃は避けられん! リミッター解除っ!)
シグナムの攻撃を防御しながら、こちらへと突っ込んでくるヴィータを確認した祐一は回避することを諦め、自身のリミッターを解除した。それと同時に、祐一から膨大な魔力が噴出される。
ヴィータはそんな祐一の魔力に驚き、目を大きく見開いていたが、それでも構わず祐一へと突っ込んでいった。
「ラケーテンハンマーー!!」
「プロテクション!」
ヴィータは叫び声を上げながら、祐一にグラーフアイゼンを叩き込んだ。対する祐一は、長剣を寝かせた状態でヴィータの攻撃をプロテクションを張って受け止めた。
ドゴンッ! という音が周囲へと響くと同時に、祐一の足下の地面が陥没する。ミシミシと金属同士が擦れ合うい、火花が散っていた。
「うおおぉぉっ!」
「ぐおおぉぉっ!」
ヴィータは声を上げながら祐一へとハンマーを押し込み、祐一は防いでいる長剣でそれを押し返そうとしていた。激しいぶつかり合いに地面の陥没はさらに大きさを増していた。
長い時間拮抗していたように感じたが、それの状況も次第に変化しつつあった。
「う、おぉおおぉぉ!!」
「ぐっ!?」
祐一のプロテクションに次第に亀裂が入り始めていた。祐一も押し返そうとしているが、僅かにヴィータの力が勝っていた。
「っ! ――ぶちぬけぇ!!」
そして、ヴィータの叫び声と同時にグラーフアイゼンの噴射の威力が増し、遂に祐一のプロテクションが破られた。
さらに祐一が持つ騎士剣《冥王六式》へとグラーフアイゼンが直撃し、その刀身を真っ二つに叩き割った。
「おっらぁっ!!」
「っ!? ぐ……っ!?」
最早祐一にヴィータの攻撃を防御する手などなく、その攻撃は祐一へと直撃し、その巨体を軽く吹き飛ばした。轟音とともに祐一の巨躯は壁へと激突し、その余波から土煙が辺りを満たしていた。
「はぁ、はぁ……」
「大丈夫か、ヴィータ?」
「ああ、問題ねぇよ」
ヴィータは近づいてきたシグナムにそう言葉を返しつつ、呼吸を整えていた。
(正直、ギリギリだった。もう少し祐一の魔力が持つか、もしくはデバイスの強度が高かったらあたしの攻撃は防がれて、きっとカウンターもらってだろうな。だけど、結果はあたしの攻撃力が勝った。手応えから攻撃は直撃してるのは間違いねぇ。だけど、もしこれでも立っているようなら――相当の化物だ)
ヴィータは祐一が吹き飛んだ方向を見つめながら、そう心の中で思っていた。
そして、ヴィータの呼吸も段々と安定してくると、立ち込めていた土煙も晴れてきた。
――すると、そこには、
「――おいおい、マジかよ」
黒衣の青年が悠然と佇んでいた。だが、その体はヴィータの一撃により満身創痍。頭から血を流し、漆黒のロングコートもズタズタに引き裂かれており、肌が見える箇所からも血が流れていた。
しかし、それでもなおその瞳からは他者を圧倒する力が宿っており、思わず後ずさりしてしまいそうになるぐらいであった。
「流石に、守護騎士の名は伊達ではないな。今の一撃は相当効いたぞ」
「……はは、そんなあたしの攻撃を受けてなお立ってる祐一はさらに化物だっての」
静かに話す祐一に、ヴィータは思わず笑みを浮かべてしまった。
そして、ヴィータは表情を真剣なものへと戻すと、満身創痍な祐一を見つめながら口を開いた。
「……なぁ、祐一。もうこんな戦い止めよう」
「ヴィータ、お前たちに譲れないものがあるように、俺にも譲れないことがあるんだ。ならば、戦うしかない。それは、お前も分かっているだろう」
「わかってる。だけど、それでもあたしは本当は祐一とは戦いたくなんかないんだ」
ヴィータの言葉に祐一は僅かに眉間に皺を寄せた。そんな二人の会話をシグナム、シャマル、ザフィーラの三人は黙って見つめていた。
「あたしだけじゃない。シグナムとシャマル、ザフィーラだって、本当はこんな戦いなんて望んでない。あたしたちはただ、はやてと一緒に静かに暮らしたいだけなんだ」
「……そんなことは分かっている。だが、それでもお前たちははやてを助けるためだと、見ず知らずの他人を襲い、《闇の書》を完成させようとするのだろう」
「それははやてを助けるためで仕方の無いことなんだよっ! それに、《闇の書》を完成させる以外にはやてを救う方法なんかないんだよっ!」
ヴィータの悲痛な叫びに祐一は僅かに表情を曇らせるが、それでも口調ははっきりとしていた。
「《闇の書》を完成させる以外にはやてを救う方法がない、か。……お前たちは本当にその方法でしかはやてを救えないと思っているのか? なぜ、その一つしか思いつかない……?」
祐一のその言葉にヴィータだけでなく、シグナムたちも訝しげな表情となった。
そんな表情となるヴィータたちに対して、祐一はさらに表情を曇らせる。
「――その方法しか思い付かないようならば、俺がお前たちに賛同することなど、ありえんよ」
「っ!? なんでだよっ、祐一!」
変わらない祐一の決別の言葉に、ヴィータはたまらず叫び声を上げた。
「……考えろ、ヴィータ。その方法では誰も救えない。最善の方法は今の俺にはわからないが、きっと、必ず良い方法が他にもあるはずだ。考えることを止めるな。考えるからこそ人間なんだ。――もし、それを放棄してしまったら、それは人ではない。ただ命令され、それを実行するだけの機械だ」
「……祐一……」
ヴィータは祐一の言葉に、静かにそう呟くしかなかった。なぜか、祐一のその言葉が頭の奥深くに違和感として残ったからだ。
(――あたしたちは――)
ヴィータが祐一の言葉に、自分たちがやろうとしていることの正しさを考えようとした。
しかし、その思考は途中で中断することとなる。
――このときを待っていたぞ、黒沢祐一。
そう祐一とヴィータたちの周囲に声が響き渡った。それは若い男の声であった。
「誰だっ!?」
ヴィータたちが周囲を警戒するように辺りを見回した。――そのときだった。
「っ!? がは……っ!?」
祐一の呻きが聞こえ、ヴィータたちがそちらへと視線を向けると、そこには、
「っ!? 祐一!?」
口から大量の血を吐き、背後から突き抜けるように胸から腕を生やした祐一の姿があった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
誤字脱字などありましたら、ご指摘をよろしくお願いします。