今回、少し短いです。
楽しんでいただけたら幸いです。
では、どうぞ。
ギル・グレアム顧問官との面談も終わり、祐一たちはしばらくラウンジで休憩した後、今は修理中のなのはとフェイトのデバイスである、レイジングハートとバルディッシュの様子を見に来ていた。
クロノはやることがあるそうで、同行していなかった。
「――ごめんね、バルディッシュ……わたしの力不足で……」
「――いっぱい頑張ってくれてありがとね、レイジングハート……」
祐一の視線の先では、待機状態のバルディッシュとレイジングハートが自己修復を行っていた。それをフェイトとなのはは悲しい表情で見つめており、その瞳からは涙が零れ落ちそうになっていた。
「ごめんね。二機ともシステムチェック中だからお話は出来なくて……」
そう僅かに申し訳なさそうにフェイトとなのはへ話しをしたのは、ショートカットの髪に眼鏡を掛け、制服の上から白衣を纏った女性――マリエル・アテンザであった。
年齢は祐一よりも下で、クロノとエイミィの後輩であると話していた。
二機のメンテナンスを担当することになったため、祐一たちよりも先にメンテナンスルームへやってきており、先ほど祐一たちへと挨拶を交わしていた。
「ちょっと時間は掛かるけど、ちゃんと直るから心配しないで」
そう話しながらマリエルは二人に優しく微笑み掛けると、すぐに表情を戻し、話を続けた。
「でも、この二機をここまで破壊するなんて、よっぽどすごい相手だったんだね」
「はい、とても強かったです。――それに、"祐一お兄さんと同じ魔法陣"でした」
なのはは、横で黙って腕を組んだまま話しを聞いていた祐一へと視線を動かしながら話しを振った。
祐一は話しを振られることがもう分かっていたのか、すぐに口を開いた。
「ベルカ式――それが、俺となのはたちが戦闘を行った者たちが使用している魔法の名前だ。そして、俺とは違い、あいつらは本物のベルカの魔法を使用している」
「本物の……?」
祐一の言葉に、なのはは小首を傾げながら質問を返し、フェイトはすでに知っていたのか、静かに頷いていた。
「エンシェントベルカ――遠い時代の純粋な戦闘魔法。一流の術者は《騎士》と呼ばれる」
「じゃあ、デバイスの中で何か爆発していたのは?」
「そこは俺ではなく、専門家に答えてもらった方がいいだろう」
なのはの質問に、祐一は黙って話しを聞いていたマリエルへと話しを振った。
急に話しを振られてマリエルは慌てていたが、すぐに落ち着きを取り戻すと、説明を始めた。
「あれは魔力カートリッジシステム。圧縮魔力の弾丸をデバイス内で炸裂させて、爆発的な破壊力を得るの。頑丈な機体と優秀な術者、その両方が揃わなきゃただの自爆装置になりかねない、危険で物騒なシステムなの……」
「そういうことだ。あいつらはその魔力カートリッジシステムを使いこなせる程の魔導師、いや、この場合は騎士か。そんな強い連中だということだ」
マリエルの言葉を引き継ぎ、祐一が二人を見つめながら告げた。
すると、フェイトが見つめていたバルディッシュから視線を祐一へと移動させ、声を掛ける。
「じゃあ、今のわたしたちじゃあ、あの人たちには勝てないってこと……?」
「十中八九、勝てないだろうな」
「そんな……」
祐一のはっきりとした返答に、フェイトは悔しげな表情を浮かべた。
(……祐一がここまで断言するってことは、本当に今のわたしじゃあ、あの"シグナム"って人には勝てないんだ)
そう心の中で思いながらも、フェイトはそれを認めたくはなかった。そして、なによりも祐一にそこまで断言されることが、フェイトには悔しかった。
「じゃあ、祐一お兄さんならこの人たちに勝てるの……?」
フェイトが悔しさで表情を歪ませていたところに、今度はなのはが祐一へと質問してきた。
その質問に祐一は僅かに思考すると、静かに口を開く。
「……おそらく、難しいだろうな」
「……そう、なんだ」
祐一のその言葉に、なのはだけでなく、フェイトの表情が驚きに染まった。
自分たちが憧れ、慕う青年が負けるはずがないと、なのはとフェイトは心のどこかで思っていた。だが、祐一から発せられたのは二人が思っていたこととは違う言葉であった。驚かないわけがなかった。
「まぁ、今は俺の話よりもお前たち二人の話だ。それで、お前たちはどうするんだ? デバイスの修理が完了したとして、またあいつらと戦うのか?」
「そ、それは……」
「だって、祐一があの人たちには勝てないって……」
祐一の言葉に、なのはとフェイトの二人は珍しく暗い表情で俯いた。どうやら先ほどの祐一の言葉とこの前の戦闘で手も足もでなかったことから、思考がネガティブになっているようだった。
そんな二人を見つめ、祐一は僅かに溜め息を吐いた。
「――確かに"今"のお前たちではあいつらに勝つことはできない。だが、"これから"のお前たちならば、もしかしたら勝つことが出来るかもしれない」
「え……?」
祐一の言葉に二人は俯いていた顔を上げた。
そしてさらに、祐一は話しを続ける。
「以前もそうだったろう。一度負けたぐらいで諦めるのか? 違うだろう。お前たちはそんなに柔ではないはずだ。確かに相手は強い。――ならば、勝てるように努力しろ。相手よりも優れている点で優位に立て。欠点があるのならばそれを直せ。お前たちは強いといっても、まだまだひよっこなんだ。いくらでも改善の余地はある。だから――」
そこで祐一は一度息を吐き、僅かに笑みを浮かべて言った。
「――その不屈の闘志をもって足掻き続けろ。危なくなったら、必ず俺が助けてやる」
祐一はそこまで話し終えると、なのはとフェイトの頭をポンポンと優しく叩いた。
すると、ポカンとしていたなのはとフェイトの表情がじょじょに笑顔になっていき、二人は声を上げた。
「そうだよねっ。ここで諦めるなんてわたしらしくないし、今出来ることを精一杯、全力でやっていくよっ!」
「わたしも後悔しないように、もっと頑張っていくよっ!」
「ああ。その意気だ」
なのはとフェイトの言葉に、祐一は笑みを浮かべながら静かに頷いた。
◆
それからしばらくの間、マリエルを交え、バルディッシュとレイジングハートの状態を話していていた。
「すまないんだが、少しだけデバイスのメンテナンスを頼みたい」
「はいはい、どのデバイスですか?」
祐一の急な願いにも関わらず、マリエルは笑みを浮かべながらそう言葉を返した。
「すまない。デバイスはこれなんだが……」
「えっ? これって……」
祐一が見せたデバイス――《冥王六式》を見て、マリエルは驚きの表情を浮かべた。
そんなマリエルの態度に、祐一は首を傾げ、黙って成り行きを見守っていたなのはとフェイトの二人もどうしたんだろうというように、首を傾げていた。
「祐一さん、このデバイスを作ったのって、誰ですか……?」
「……? リチャード・ペンウッドという人だが……?」
祐一の言葉に、マリエルの表情がぱっと笑顔になる。
「やっぱり、先生が作ったデバイスだったんですねっ!」
「先生……?」
「はい。――実は私、リチャード・ペンウッド先生の教え子なんですよ」
「先輩が……?」
マリエルの言葉に祐一は僅かに驚きの表情を浮かべた。
どうやら、マリエルの話しによるとリチャードは若くしてデバイスマイスターの資格を持ち、その他の技術関係の知識が豊富であることから、管理局の技術部の主任を勤めるまでに至っており、そこまで教えている人数は多くはないものの講師も勤めているということであった。
マリエルはそんな数少ない内の一人であるとのことだった。
「祐一さんと先生は知り合いだったんですね。先生、昔のことはあんまり話したがりませんし、そもそも自分のことを他人に話すような人じゃなかったですし」
「先輩らしいな」
マリエルの言葉に、祐一は苦笑を浮かべながら言葉を返した。
そんな話しをしている内に、デバイスのメンテナンスが終わり、マリエルが祐一へと冥王六式を返してくる。
「チェックしましたが、どこにも異常はありませんでした。ですけど、あまり無理な使用は控えた方がいいかもしれません。このデバイスって、結構昔から使ってますか?」
「それなりには。少なくとも、四年は使っていると思う」
「そうですか。普通に使用する分には問題ないとは思いますけど、結構痛んできてるところもありますから油断は禁物ですよ。部品は交換した方がいいかもしれません」
「そうか。ありがとう」
「いえいえ、今度会ったら先生の話し聞かせてくださいね」
マリエルの言葉に祐一はお礼を述べると、なのはたちを伴い部屋を退出した。
◆
デバイスルームを後にした祐一、なのは、フェイトの三人はリンディたちと合流し、今後のことについて話をしていた。
「――じゃあ、アースラは今は使えないんですか?」
「ええ。今はメンテナンス中で使用できないの。それに、他の艦も三ヶ月先まで空きがないの」
リンディが困ったように頬に手を当てながら祐一へと、そう返した。
「では、今回の事件はどう対応するんですか? 流石に本局からでは距離が離れすぎていると思いますが……」
「そうなのよね……って、言ってるけど、実はほとんどプランは決まってるのよね」
「――だと思いましたよ」
リンディの言葉に、祐一は苦笑を浮かべた。同じく話しを聞いていた、フェイト、なのは、そして先の戦闘から回復したアルフは首を傾げていた。クロノは何故か溜め息を吐いていたが……。
そして、リンディは表情を笑顔に変えて口を開いた。
「――みんなでお引越ししましょうか」
そんなリンディの言葉を聞き、祐一とクロノ以外は一瞬ポカンとした表情で驚いていたが、なのはとフェイトの表情はすぐに笑顔が浮かべ、嬉しそうにしていた。
(――騒がしくなりそうだな)
祐一はそんなことを思いながらも、なのはとフェイトの表情を見つめながら笑顔を浮かべていた。
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