魔法少女リリカルなのは~黒衣の騎士物語~   作:将軍

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投稿します。
少し遅くなりました。
楽しんで頂けたら幸いです。
では、どうぞ。


《黒衣の騎士》 vs 《仮面の男》

「ふっ!」

「シッ!」

 

 二人の声が聞こえると同時、祐一と仮面の男がぶつかり合う。

 祐一が仮面の男と遭遇してからそれほど時間も経っていないが、すでに何度も同じことを繰り返していた。

 

(急いでいるというのに、この男――戦い方が上手い)

 

 祐一は表情には出さなかったが、心の中では焦りを募らせていた。

 祐一とて、自分がそれなりの強さを持っている魔導師であると自負している。だが、その祐一をして、今対峙している仮面の男は戦闘が巧みであった。

 祐一自身の焦りもあるのだろうが、何より仮面の男が正面切って戦うのではなく、祐一を結界内に行かせないことを前提に戦っているということもあった。

 

「ちっ!」

 

 祐一は舌打ちをしながら仮面の男から距離を取った。

 そしてすぐに魔力弾を生成し、仮面の男へと放つ。

 ――だが、

 

「……無駄だ」

 

 仮面の男は障壁を張り、それを難なく防いで見せた。

 祐一はそれを見て、厳しい表情となる。

 

(やはり駄目か。身体能力と魔力を魔法で強化しているな。生半可な攻撃は通らないと考えた方いいだろう。負けないにしても、こいつを倒すのは中々骨の折れる作業だ)

 

 祐一はそう考えながら油断なく仮面の男を見据える。

 

(――だが、早急にこいつを倒さなければ、この結界内にいるだろうシグナムたちの下へ行くこともできず状況も把握できん)

 

 どうするか祐一が考えていると、女性の声が祐一の頭の中へと響いてきた。

 

『――祐一くんっ! 聞こえますかっ!』

 

 念話で僅かに焦った女性の声を祐一は聞いた。

 祐一は久しぶりに聞いた女性の声に、僅かに懐かしさを感じたが、今はそれどころではないと思い直し、即座に念話を返した。

 

『聞こえています。お久しぶりです、リンディ・ハラオウン提督』

『良かった、やっと繋がりました。そちらの状況はどうなっていますか?』

 

 念話越しに僅かにほっとしたようにリンディの声が祐一へと届いた。

 時間があれば世間話に花を咲かせたいところだが、今はそれどころではない。

 

『俺は今、"敵"と交戦中です。仮面を被っていて誰だかわかりませんが、かなりの強敵です。こいつが邪魔で結界を破ることができない状況です。この結界内には何があるんですか?』

『祐一くんが現在戦闘を行っている人物は不明ですが、結界内ではなのはさんたちが"何者か"と戦闘中です』

 

 祐一はリンディの言葉を聞き、僅かに首を傾げた。

 

『――なのは"たち"、ですか?』

『ええ。結界内にいるのは、なのはさん、フェイトさん、アルフの三人です。フェイトさんとアルフには、先行してなのはさんを助けに行ってもらったの』

 

 リンディの言葉を聞き、祐一はそういうことかと頷いた。

 この結界内ではなのは、フェイト、アルフの三人と守護騎士たちが戦闘中なのだ。

 祐一は当たって欲しくなかった自分の予感に表情を歪ませるが、すぐにリンディへと念話で話し掛ける。

 

『管理局の増援は?』

『ごめんなさい。局員たちを向かわせるため、今、急ピッチで準備を進めてはいますが、そちらに着くにはまだ時間が掛かるわ』

『……そうですか』

 

 リンディの悔しそうな声に、祐一は静かに頷くしかなかった。

 僅かに二人とも沈黙するが、リンディが念話で話し掛けてきた。

 

『祐一くん、その結界を破壊することは出来ないかしら……? 邪魔をしている人物がいるといっていたけど、それほどの相手なの?』

『ええ。魔法で能力の底上げをしているし、それを加味しなくても魔導師としては一流でしょう。それにどうやら、こいつは俺の邪魔をしたいだけのようですから、まともに戦闘もしてくれない。厄介な相手です』

『……そう、なの』

 

 リンディの言葉を聞き、祐一は少し息を吐くと言葉を続けた。

 

『ですが、今この状況では俺がやるしかないでしょう。厳しいかもしれませんが、何とかしてみます』

『ありがとう。私が頼むのも何だけど、よろしくお願いね。出来るだけ局員をすぐにそちらに派遣できるよう手配します。……だからそれまで頑張って』

『了解です。期待して待ってますよ』

 

 祐一はそれだけ話すと、念話を終了した。

 すると、仮面の男が静かに祐一へと声を掛けてきた。

 

「どうした、念話は終わったのか?」

「気付いていたのか。ならば、何故攻撃してこなかった?」

「こちらの目的はキサマを結界内に入れないことだからな。時間を使ってくれるのならば、こちらとしては好都合だ」

 

 仮面の男の言葉に、祐一は僅かに眉を寄せた。

 

(完全に時間稼ぎをしているだけか。ならば、無理をしてでも結界内に行かなければ……)

 

 祐一はふぅと息を吐き、右手で持っていた《冥王六式》を構える。

 

「もう一度聞くが、そこを退く気はないのだな?」

「くくっ、もう何度も言っているが、こちらにも事情があってな。お前を通す訳にはいかないんだよ」

「そうか。――なら、ここでお前を倒させてもらおう」

 

 そう祐一が声を上げた瞬間だった。

 

「……っ!? な……っ!?」

 

 仮面の男が初めて焦ったように声を上げた。

 それもそうだろう。眼前にいた祐一が"いつの間にか自分の目の前で騎士剣を振りかぶっていた"のだから。

 

「くっ!?」

 

 仮面の男は自分の体に祐一の騎士剣が触れる寸前に障壁を張り、何とか防御したが、寸前で張った障壁であったため、祐一の一撃をこのまま抑えておけるほどのものではなかった。

 

「き、キサマッ!?」

「悪いが、決めさせてもらう」

 

 祐一がさらに騎士剣へと力を込めると、障壁にヒビが入り始めていた。

 

(――このまま押し切る)

 

 そして、障壁のヒビが大きくなっていき、

 

「っ!?」

 

 そして遂に障壁が破れ、仮面の男の無防備な姿が祐一の前に晒された。

 

「もらったぞっ!」

 

 祐一は珍しく声を張り上げ、騎士剣を仮面の男へと振り下ろした。

 

 ――そのときだった。

 

 祐一が目の前の仮面の男へと集中していた所へ、別の方向からいくつもの魔力弾が飛んできたのだ。

 

「……ぐっ!?」

 

 目の前の仮面の男に集中していた祐一には、それを回避することは出来ず、いくつかはギリギリで張った障壁で食い止めたが、残りの何発かを喰らってしまった。

 そして、その隙に目の前にいた仮面の男は祐一から距離を取った。

 

(くっ、まさかもう一人いるとはな)

 

 魔力弾を受けた箇所が問題ないことを確認しながら、祐一は魔力弾が放たれてきた方向へと視線を向けた。

 するとそこには、目の前にいる仮面の男と瓜二つの男がもう一人立っていた。

 

(さて、どうする。一人相手でも苦戦をしていたのに、同じのがもう一人いるとはな。……いや、違うか。後から来た仮面の男の魔力弾は目の前にいる奴よりも洗練されていた。どちらかといえば、厄介なのは後から来た方か……)

 

 祐一が頭の中で冷静に状況を把握していると、仮面の男二人が話を始めた。

 

「――油断したな」

「……すまない。だが、もう大丈夫だ」

「そうか。だが、気をつけろ。こいつはかつて《紅蓮の魔女》とともに名を馳せ、《黒衣の騎士》とまで呼ばれた程の実力者だ」

 

 そう話す仮面の男の会話に、祐一は注視していなければわからない程度、ピクリと眉を動かした。

 だが、仮面の男はそれには気付かず、今度は祐一へと話し掛けてきた。

 

「今のが、お前のレアスキル――《自己領域》か。始めて見させてもらったが、厄介な能力だな」

 

 そう言葉を口にする仮面の男に祐一は眉を顰めた。

 

(俺の能力を知っているのか? 俺のことを調べたにしても能力のことまで知っているとなると、こいつ等……管理局の人間か?)

 

 祐一が頭の中でいろいろと考えている間も、仮面の男は話を続けた。

 

「だが、解せないな。お前の力はそんなものではないだろう?」

「……どういう意味だ?」

「言葉通りだ。お前――何故、リミッターなど掛けている?」

 

 仮面の男の言葉に、祐一は僅かに眉を顰めた。

 

「今のキサマの魔力量は良くて、A+ほどだろう。だが、かつてのお前の魔力量は――S+以上だったはずだ。それにどうやら、昔とデバイスも違うようだが……」

 

 仮面の男の言葉に、久しぶりに祐一の表情が目に見えて歪んだ。

 

「……こちらにも"事情"があってな。それに、お前たちにとやかく言われる筋合いはない」

「くくっ、そうかもしれんがね。まぁ、こちらとしてはお前の力が落ちていてくれる方が戦いやすいしな。だが、いいのか? このままでは――"また"、守れないかもしれないぞ?」

「……っ!?」

 

 仮面の男の言葉を聞き、祐一の頭の中でかつて守りたかった女性の姿が浮かび上がった。

 

『――大丈夫だよ。だって、祐一が守ってくれるんでしょ?』

 

 かつて、祐一が守りたかった女性は、微笑みを浮かべながらいつもそう話していた。

 自分があまりにも強いはずであるのに、いつも背中は祐一に任せるといったように彼女はいつも前だけを向いていた。

 ――だが、祐一が守りたかった彼女は、もういない。

 

(――また、俺は……)

 

 祐一は自分の愚かさに歯を強く噛み締めた後、静かに口を開いた。

 

「――ならば、そこをどいてくれないか?」

「何度も言っている。ここは通さない」

「――そうか」

 

 仮面の男の言葉を聞き、祐一は溜め息を吐くように静かに口を開いた。

 そして、次の瞬間――それは突然起こった。

 

「っ!?」

「こ、これはっ!?」

 

 仮面の男二人が同時に驚愕の声を上げた。二人の視線の先には、僅かに表情を俯かせた祐一の姿があった。

 二人を驚かせたのは、祐一の体から噴出している魔力の奔流であった。祐一の魔力光である紅の魔力が炎のように祐一の周りを渦巻いていた。

 これには二人も焦りの色を浮かべていた。

 

「もう時間は掛けていられない。早々に決めさせてもらう」

 

 静かに口を開いた祐一は、紅の魔力を纏わせながら前方にいる仮面の男へと瞬時に肉薄する。

 

「ちぃ!」

 

 舌打ちしながら仮面の男は祐一を迎え撃ち、自身の拳に魔力を乗せ、祐一の騎士剣を何とか弾き続けていた。

 それが出来るだけでも相当な技量ではあるが、今の祐一相手では時間稼ぎにしかならなかった。

 

(先ほどとはパワーもスピードも桁違いだっ! これが、《黒衣の騎士》の真の実力と言うわけかっ!)

 

 心の中でそう叫ぶが状況が変わるはずもなく、段々と押し込まれていく。

 しかし、それをもう一人の仮面の男が黙って見ているはずもなかった。

 

「調子に乗るなっ!」

 

 援護するようにもう一人の仮面の男が砲撃魔法を祐一へと放った。その威力はなのはのディバインバスターほどではないものの、並の魔導師ならば一撃で落とせるような砲撃魔法であった。

 ――そう、並の魔導師であったならば。

 

「シッ!」

「っ!? ガハっ!?」

 

 砲撃が放たれた瞬間、祐一は目の前の仮面の男を前蹴りによって弾き飛ばした。

 その間にも、放たれた砲撃は祐一へと向かっていく。

 

(あの体勢なら回避はできないはず……)

 

 砲撃を放った仮面の男はそう心の中で思ったが、その期待は裏切られた。

 

「アッ!!」

 

 祐一は砲撃に向かって、炎を纏わせた騎士剣を上段から振り下ろした。すると、騎士剣に纏わせていた炎と魔力が斬撃となり砲撃を相殺した。

 

「なっ!?」

 

 これには砲撃を放った仮面の男も驚きに声を上げた。

 そして、祐一は仮面の男が驚いている間に《自己領域》を使用し、仮面の男の真横へと瞬時に移動し、今度は横薙ぎの一閃を放った。

 

「グフッ!?」

 

 騎士剣の横薙ぎの一撃を腹部に受け、仮面の男は吹き飛ばされビルへと激突した。

 

「ロッ――キサマぁ!」

 

 すると、先ほど祐一に蹴られて吹き飛ばされていた仮面の男が叫び声を上げながら祐一へと突撃してきた。

 もう一人の仮面の男が吹き飛ばされたため、怒りで本来の自分のやるべきことを見失っているようであった。

 

(だが、それは俺にとっては好都合だ)

 

 こちらに向かってくる仮面の男から目を離さず、祐一は騎士剣を構え迎撃体勢を取った。

 

「ハッ!」

 

 普通の魔導師では考えられないスピードで仮面の男は祐一へと肉薄し、魔力で強化した打撃を祐一へと放つ。その攻撃のスピード、正確さ、どれを取っても並の魔導師では歯が立たないほどのものであった。

 

(くっ!? ギリギリのところで全て回避されている……っ!)

 

 仮面の男はその事実に驚愕すると同時に、《黒衣の騎士》の噂は伊達ではなかったことを初めて感じた。

 仮面の男は焦ったように、祐一へと次々に攻撃を仕掛けていくが、

 

「――終わりだ」

「っ!?」

 

 祐一が呟くと、仮面の男の攻撃が祐一によって大きく弾かれ、無防備な状態を晒してしまう。

 

「っ!? しま……っ!?」

「業炎――」

 

 仮面の男が驚愕の声を上げると同時に、祐一が両手で騎士剣を持ち、それを地面と水平に構えながら静かに呟くと、刀身に紅の炎が集まっていく。

 そして、それを祐一は無防備な仮面の男の胴体へと一閃する。

 ――そのときだった。

 

「っ!? 結界がっ!?」

 

 祐一の眼前に張られていた結界が突然消失したのだ。

 それを見た祐一は思わず攻撃の手を止めてしまった。

 

「――ははっ、どうやら、この勝負は私たちの勝ちのようだな」

 

 勝ち誇ったように声を上げた仮面の男の声に、祐一は自分が間に合わなかったことを悟った。

 そして、祐一はその結界内があった場所から四つの魔力反応が逃げていくのを感じていた。

 

(結局、間に合わなかったか……)

 

 表情を歪め、騎士剣を握り締めている祐一を余所に、仮面の男が声を上げる。

 

「一時はどうなることかと思ったが、計画通りだ。これで私たちは失礼させてもらうよ」

 

 そう話す仮面の男に、祐一が視線を戻すと、そこには吹き飛ばしたはずのもう一人の仮面の男も立っていた。

 

「――逃がすとでも思っているのか?」

「思っているよ。私たちに構っている時間はお前にはないだろう?」

 

 仮面の男の言う通り、今の祐一はなのはたちの安否が気になってそれどころではないし、また仮面の男が二人に戻ってしまった今、いくら祐一でもこの二人をすぐに倒すことなど、今の状態ではできなかった。

 

「――次に会ったとき、また邪魔をするようならば容赦はしない」

「肝に銘じておこう。では、また」

 

 そう話すと、仮面の男二人は祐一に背を向け、この場を去った。

 

(――俺は、昔から何も変わっていないのか……)

 

 祐一はそう心の中で自身に問い掛け、魔力反応を頼りに、なのはたちの下へと急いだ。

 その表情には、自身の無力感への怒りが浮かんでいた。

 

 




最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
誤字脱字などありましたら、指摘をお願いします。

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