魔法少女リリカルなのは~黒衣の騎士物語~   作:将軍

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楽しんで頂けたら幸いです。
では、どうぞ。


ゆずれぬもの

 海鳴へと戻ってきた祐一は、休む間もなく結界が張られている場所へと走っていた。

 道行く人々が疾風の如く駆け抜けていく祐一に驚きの視線を送っているが、それを全く気にすることなく、祐一は漆黒のジャケットをはためかせながら走る。

 

(封絶型の結界――間違いなくシグナムたちだろう。おそらく戦闘中。なら、シグナムたちと戦っているのは……)

 

 自分が考えた状況に対し、いつもは表情を変えない祐一の表情が珍しく歪んだ。

 

(いや、考えるのは後だ。今はあの結界内で起こっていることを確認せねば……)

 

 祐一はそう考えると、さらに走る速度を上げた。

 しばらく走り、結界が目前に迫ってきたのを確認すると、祐一は自身の長剣型のデバイス《冥王六式》を起動し、バリアジャケットを纏った。

 そして、結界を破るために長剣を上段へと構え、それを振り下ろそうとした。

 

「……っ!?」

 

 だが、その行動を邪魔するように何者かが放った魔力弾が祐一へと襲い掛かってきた。

 祐一は急に襲い掛かってきた魔力弾に僅かに焦りを見せるが、冷静に騎士剣で魔力弾を打ち消した。

 

「……誰だ。姿を見せろ」

 

 こちらを攻撃してきた人物に向けて、祐一は威圧的に言い放った。

 

「――不意を付いたというのに一撃も当たらないとは、流石、《黒衣の騎士》と呼ばれていただけのことはあるな」

 

 そう話をしながら姿を見せたのは、仮面を着けた青年であった。飄々と言った感じで話してはいるが、祐一の威圧にも動じなかったことから、かなりの使い手であろうと、祐一は気を引き締める。

 

「どこの誰かは知らないが、そこを通してくれないか。今はこんなことをしている暇はないんだ」

「まぁそう言うな。少し私と遊んでいかないか?」

「聞いてないのか? ――俺はどけと言ったんだ」

 

 祐一はさらに威圧するように仮面の男を睨みつけた。

 だが、仮面の男はくく、とくぐもったように声を上げただけだった。どうやら仮面の下で笑みを浮かべているようだった。

 

「お前に邪魔されるわけにはいかないんでな。もしここを通りたいのであれば、私を倒してから行くんだな」

「――なら、そうさせてもらおう」

 

 祐一は焦る気持ちを抑えながら、仮面の男との戦闘を開始した。

 

 ◆

 

 一方、なのはに代わりフェイトはヴィータと戦闘を繰り広げており、持ち前のスピードを生かしヴィータを翻弄していた。

 

「ハーケンセイバー!」

「ちっ、アイゼンッ!」

 

 ヴィータを撹乱しながらフェイトは金色の鎌を放ち、ヴィータはその攻撃を障壁で防御しながら魔力弾で反撃する。

 

(この子、攻撃力も防御力も並の魔導師のレベルじゃない。油断してると、すぐにやられちゃう)

(ちっ、さっきの白い魔導師といい、この金髪の魔導師といい、魔導師としてのポテンシャルが並じゃねぇ。あたしが負けるはずねぇけど、こいつは少し厄介だな)

 

 フェイトとヴィータの二人は心の中でお互いを観察すると、相手のことをそう評価した。

 ヴィータが意識を完全にフェイトの方へと向けていると、そこへ新たな人物が攻撃を仕掛けてきた。

 

「バリアブレイクッ!」

「っ!?」

 

 ヴィータは新たに現れた人物の出現に驚いた。

 現れた人物――フェイトの使い魔であるアルフは自身の右拳に魔力を纏わせ、ヴィータが張っていた障壁へと叩きつけ、その障壁を叩き割った。

 

「こっのやろーー!」

「……っ! ぐあっ!?」

 

 ヴィータは破られた障壁には目もくれず、即座にアルフへとグラーフアイゼンを振るい、アルフを吹き飛ばした。

 だが、休む間も与えないつもりなのか、フェイトがバルディッシュをサイズフォームにしてヴィータへと斬りかかる。

 

「はぁぁぁっ!」

「ちっ!」

 

 ガキンッ! と、金属同士が擦れ合う音が周囲に響き渡った。

 フェイトが振るってきたバルディッシュをヴィータはグラーフアイゼンで受け止めた。フェイトはそこから一歩も引かずそのままバルディッシュを押し込み、ヴィータはそれを押し返し、そんなお互いのデバイスが擦れ合い、激しく火花が散っていた。

 

(くそっ、ぶっ潰すだけなら簡単なんだけど、それじゃあ意味ねぇ。――カートリッジ残り二発、やれっか?)

 

 ヴィータは心の中で自分に問い掛ける。

 おそらく、ヴィータの力を持ってすれば、フェイトとアルフを倒すことは可能だ。だが、それではヴィータにとっては意味がなく、相手を無力化して《闇の書》に魔力を蒐集させなければならないのだ。

 

(――いや、やれるかじゃねぇ! やらなきゃいけないんだ!)

 

 ヴィータはそう心の中で自分を奮い立たせ、グラーフアイゼンを握る手に力を込めた。

 

「てめぇらには悪いが、あたしには時間がねぇんだ。ぶっ倒させてもらうぞっ!」

「こちらもそう簡単にやられるわけにはいかないっ!」

 

 ヴィータの叫びに、フェイトも力強く言葉を返した。

 お互いに譲れないもののために、二人の戦闘はさらに激しさを増していった。

 

 ◆

 

 あれから数分が経ったが戦況は変わらず、僅かにヴィータが押されていた。

 単純な力押しならばヴィータが負けるわけないのだが、相手はフェイトとアルフの二人でコンビネーションも抜群であり、かつフェイトはヴィータが苦手とする速さに速さに特化した魔導師だ。それに加えアルフからのサポートもあるため、ヴィータが押されるのが自然な流れであった。

 

(くっそっ! こいつら、結構、やりやがるっ!)

 

 ヴィータは舌打ちしながら、フェイトへとグラーフアイゼンで襲い掛かった。

 

「やらせないよっ!」

「ちっ!」

 

 しかし、ヴィータの攻撃はフェイトに届こうかとする寸前にアルフによって邪魔される。

 ヴィータは先ほどからこの流れでフェイトに攻撃を当てることが出来ずにいた。

 

(あんまり時間は掛けられないってのに)

 

 ヴィータは僅かに焦りを募らせていた。

 ここで長く戦闘を続けていると、管理局の大部隊がやってきてしまい、ヴィータの居場所が――ひいてははやての居場所もばれてしまう。

 

(それだけは避けないといけねぇ!)

 

 自身の主である、八神はやてを何としてでも守る。それが、今のヴィータの願いであった。

 ヴィータはグラーフアイゼンを握る手に力を入れ、邪魔をしてきたアルフへと攻撃を仕掛けた。

 

「てめぇは邪魔だっ!」

「ぐ……っ!?」

「アルフッ!」

 

 ヴィータの渾身の一撃により、アルフは吹き飛ばされビルへと激突し、フェイトはそんなアルフを心配して名前を叫んだ。

 

「次はてめぇの番だっ!」

「っ! そうはさせないっ!」

 

 吹き飛んだアルフには目もくれず、ヴィータは空中で反転しながら次なる標的であるフェイトへと肉薄する。

 対するフェイトもバルディッシュで迎え撃つ。だが、そんなフェイトの防御を物ともせず、ヴィータは暴風の如くグラーフアイゼンを振るう。

 

「おらぁっ!」

「くっ!?」

 

 ヴィータの攻撃によってフェイトの防御が抉じ開けられてしまった。

 

「これで、終わりだぁ!」

 

 そこへ、ヴィータが渾身の一撃を叩き込む――はずだった。

 

「スキありっ!」

「っ……なっ!?」

 

 グラーフアイゼンの一撃をフェイトへと叩き込もうとする直前、ヴィータの両手がバインドで拘束されてしまった。

 

(っ……さっき吹き飛ばした使い魔かっ!)

 

 ヴィータが視線を向けた先、フェイトの使い魔のアルフがヴィータの方へ両手を構えていた。

 先ほどのヴィータの一撃でアルフは弾き飛ばされたが、それは演技だった。張っていた障壁が持たなかったように見せ、弾き飛ばされたのだ。実際にはほとんどアルフにダメージはなかった。

 普段のヴィータなら気付いていたかもしれないが、時間を気にして焦っていたことから、このような策に嵌ってしまったのだ。

 

(ちっくしょ……っ!)

 

 ヴィータは己の迂闊さを呪いながら、なんとかバインドを消せないかと腕を動かすが、かなり強固に作ってあるため、すぐに消すことは出来なかった。

 そんなヴィータの姿を確認し、フェイトがバルディッシュを構えながらヴィータへと声を掛ける。

 

「――終わりだね。名前と出身世界、目的を教えてもらうよ」

「くっ!」

 

 そう話すフェイトをヴィータは悔しそうに睨みつけ、何も話そうとはしなかった。

 そんなヴィータの反応を見て、フェイトがさらに口を開こうとしたときだった。

 

「――っ!? ぐっ!?」

 

 新たな人物の攻撃により、フェイトは大きく弾き飛ばされた。

 

「シグナム……?」

 

 ヴィータは新たに現れた人物――シグナムを見て驚きの表情を浮かべていた。

 

「うおぉぉぉ!」

「くっ……ぐあっ!?」

 

 そしてアルフもさらに現れたもう一人の人物に吹き飛ばされた。

 

「ザフィーラまで……」

 

 ヴィータはさらに驚きの表情でもう一人の人物――守護騎士唯一の男性であるザフィーラを見つめた。

 そんなヴィータに二人は視線を送り、頷き合った。

 

「――レヴァンティン、カートリッジロード」

『Explosion』

 

 自身が持つ剣型のアームドデバイス――レヴァンティンと天に掲げながら声を上げた。すると、レヴァンティンから薬莢が排出され、そして膨大な魔力が炎となってレヴァンティンを包み込んだ。

 

(――いきなり魔力が跳ね上がったっ!?)

 

 レヴァンティンから吹き荒れる膨大な魔力を見て、フェイトは心の中で叫び声を上げた。

 そんなフェイトに構わず、シグナムは炎を纏ったレヴァンティンを手にフェイトへと瞬時に接近し、それを上段から振り下ろす。

 

「――紫電一閃!!」

「っ!?」

 

 シグナムの初撃をフェイトはバルディッシュで何とか防いだが、その一撃でバルディッシュは柄の部分から真っ二つに切られてしまった。

 

「くっ!」

 

 だが、フェイトも諦めない。

 二つに切られてしまったバルディッシュを両手に、シグナムの攻撃を何とか凌いでいた。

 ――だが、

 

「終わりだ」

「っ……ぐぁっ!?」

 

 シグナムの声が聞こえたかと思うと、フェイトはまたも放たれた上段からの一撃によって、空中で戦っていたフェイトたちの真下にあったビルを倒壊させながら地面へと叩きつけられた。

 それを見届けると、シグナムは未だにバインドで拘束され動けないでいるヴィータへと視線を向けた。

 

「どうしたヴィータ。油断でもしたか?」

「うるせーよ。こっから逆転するところだったんだ」

「ふっ、そうか。それは悪かったな」

 

 シグナムは強気に発言するいつものヴィータに笑みを浮かべながら、バインドを解除した。

 

「だが、あまり無茶はするな。お前が怪我をすると、我らが主が心配する」

「わーってるよ、もう」

「それから、落し物だ」

 

 シグナムの小言にヴィータが顔を背けていると、何か頭の上に乗せられた。

 それは、ヴィータがなのはに燃やされた大事な帽子であった。

 

「破損は直しておいた」

「……あ、ありがと、シグナム」

「ああ」

 

 ヴィータの小さなお礼にシグナムは返事をすると、戦闘を繰り広げているアルフとザフィーラへと視線を向けた。

 

「先ほどの金髪の少女はもう立ち上がれないだろうが、私が行って確認してこよう」

「了解。……あと、あたしが倒した奴がもう一人いると思うんだけど」

「そちらはシャマルに任せてある。そろそろ蒐集が終わるはずだ」

「そうか。なら、あたしはザフィーラに加勢してくるよ」

「頼む。そろそろ終わらせて、早く我らが主の下へ帰ろう」

「あいよっ!」

 

 話を終えると、ヴィータはザフィーラ下へと向かっていった。

 それを視線で追った後、シグナムは視線を眼下へと向ける。そこは未だに土煙が上がっており、フェイトの姿を視認することはできなかった。

 

(――このような戦闘は望んでいないが、我らが主のためだ。誰かは知らないが、すまないな)

 

 シグナムは心の中でフェイトに詫びると、眼下にいるはずのフェイトの下へと降りていった。

 

 ◆

 

 一方、ヴィータにやられた傷で動けないなのはの下に、僅かに申し訳なさそうな表情をした一人の女性がやってきていた。

 

「――ごめんなさいね。終わるまでじっとしててね、悪いようにはしないから」

「う……くっ……」

 

 なのははヴィータにやられた痛む体に鞭を打って、ボロボロの状態のレイジングハートを構えた。だが、そのような満身創痍な体では戦闘など出来るはずもなかった。

 そんななのはを守護騎士の一人である――シャマルは悲しい表情で見つめていた。

 

「ほんとうに、ごめんなさい」

 

 シャマルがそう呟くと、掲げた手の上に《闇の書》が現れた。

 ――そして、

 

「《闇の書》、蒐集開始」

「あ……っ……うぁ……」

 

 なのはの呻き声とともに、魔力が《闇の書》へと蒐集されていく。

 

(……フェイトちゃん、祐一お兄さん)

 

 なのはは心の中で二人の名前を呼びながら、そこで意識を失った。

 

 ◆

 

 そして、シグナムもまた自分が打ち倒した少女を見つめていた。

 だが、驚いたことにその少女はまだ意識を失ってはおらず、痛む体に鞭を打って、ゆっくりと立ち上がっていた。息も切らし、傷が痛むだろうに、その少女はそれでも立ち上がっていた。

 

「ほう、その傷で立ち上がるのか。素晴らしい精神力だな」

「はぁ、はぁ……」

 

 思わず口に出た言葉にも、フェイトは言葉を返す余裕などなかった。

 そんなフェイトにシグナムは僅かに表情を歪めたが、すぐにいつもの表情へと戻す。

 

「――すまなかったな。抵抗しなければ何もしない。お前もお前の使い魔と――"あの少女"も無事に帰してやる」

「っ!? アルフとなのはに何かしたら、わたしはお前たちを許さないっ!」

 

 フェイトはそう叫びながら、シグナムの瞳をジッと見つめた。

 それに気圧されたわけではないが、シグナムは僅かに驚いた表情をしていた。

 

「――あのもう一人の魔導師の娘は、お前の家族か?」

「友達だ。ずっと会えなくて、やっと会えた。――友達なんだっ!」

 

 そう瞳に涙を浮かべて叫ぶフェイトをシグナムは黙って見つめていたが、僅かに申し訳なさそうに口を開いた。

 

「そうか。それはすまなかったな。――だが、我らにも成さねばならんことがある」

 

 シグナムが話を終えると、シャマルと同じように掲げた手の上に《闇の書》が現れた。

 

(……ごめんね……なのは、祐一)

 

 フェイトは心の中で二人に謝りながら、そこで意識を失った。

 

 




最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
誤字脱字などありましたら、指摘をよろしくお願いします。

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