これで、本当に無印編は終了です。
今回は繋ぎの部分なので、いつもより短いです。
では、どうぞ。
side 八神はやて
最近、わたしは一人の男性のことが気になっています。
――その男性の名前は黒沢祐一。
祐一さんの話をする前に、少しだけ自分の話をしておこうと思う。
わたしはごく普通の小学三年生の女の子――とは少し違って、昔から足に障害を抱えており、車椅子生活を余儀なくされていた。
そんなわたしは現在、小学校を休学中である。だけど、勉強を全くしないわけにもいかないので、毎日、図書館に来て勉強していた。
祐一さんと初めて話をしたのは、いつも通り、わたしが図書館に勉強をしにきているときだった。
さっきも言ったけど、わたしは足が不自由で立つことなんてできない。なので、高い場所にある本は、誰かの手を借りないと取ることができなかった。
祐一さんと初めて話した日――その日もいつものように係りの人に本を取ってもらおうと思っていたのだが、その日は係りの人が近くに見当たらなかったことと、頑張って手を伸ばせば届くであろうという自分の判断から、わたしは必死に手を伸ばして本を取ろうとした。
だけど、わたしの予想が甘かったのか本に手が届かった。そんなとき、わたしが無理に手を伸ばして本を取ろうとしていると、後ろからスッと本を取る大きな手がわたしの視界に入った。
わたしがあっ、と思い後ろを振り返ると、
『この本でいいのか……?』
そこには、長身痩躯な男の人が立っていた――それが祐一さんだった。
年齢は大学生くらいで、祐一さんの格好は黒を基調とした服装で統一されており、首から赤い剣を模したアクセサリーが掛けられていた。
わたしは初めて会った人ということもあり緊張しながら、祐一さんが取ってくれた本を受け取った。
『あ、それです! ありがとうございます!』
そのとき、わたしは思わず少し大きめな声でお礼を言ってしまい、『静かに、ここは図書館だからな……』と、祐一さんに注意されてしまった。
うぅ~、あの時は恥ずかしかったな……。
その後、祐一さんに『他に取ってほしい本は……?』と聞かれ、そのまま善意に甘える形となり、残りの本も取ってもらった。
それが、わたしと祐一さんの初めての出会いだった。
――そして、現在――
「――ここは、こう解くんだ」
「ああ、そっか! 流石、祐一さんやねっ!」
「いや……流石に俺が小学生の問題が分からなかったら不味いだろ……」
今、わたしは祐一さんに勉強を教えてもらっている。
なぜこんなことになっているかというと――話は祐一さんと初めて会った日から数日後のことになる。
わたしは本を取ってもらったお礼をしたくて、必死に考えた結果――お弁当を作って渡すことにした。
わたしの数少ない特技――というよりは趣味やけど――である料理を祐一さんに振舞おうと思ったのだ。
そして次の日、わたしはいつものように図書館に行くと、席に座り本を読んでいる祐一さんを見つけてお弁当を渡した。
祐一さんは最初はびっくりした表情を浮かべ、『……最近の小学生は義理堅いんだな』と呟き苦笑しながらも、最終的にはありがとうと言って、わたしのお弁当を受け取ってくれた。
そして、そのまま祐一さんとお昼ご飯を一緒に食べながら、わたしのこととか、祐一さんのことを自己紹介も兼ねて話をした。
その時に祐一さんが、一人で勉強しているわたしに対して、
『――なら、俺のわかる範囲で勉強を教えてやろうか? 俺も勉強をしに図書館に来ているからな』
と、そう言ってくれたので、わたしは二つ返事でOKを出した。
――そして、話は最初に戻る。
「でも、ホンマに祐一さん教えるの上手ですよね?」
「ああ、それはおそらく、はやてと同い年の子に、たまにではあるが勉強を教えているからだろうな。おそらくはそれが理由だろう」
祐一さんは少し顔を上げ、わたしにそう言葉を返してきた。ちなみに、祐一さんにはわたしのことを"はやて"と呼んでくれるようにお願いした。
だって、"八神"とか、あんまり可愛くないやん?
「へぇ~、そうなんですか」
「ああ。はやてと同じ女の子だからな、よかったら今度紹介しよう。きっと、仲良くなれるだろう」
「ホンマですか? じゃあ、今度紹介してください」
「ああ、約束しよう。……ほら、手が止まってるぞ?」
「へへっ、ありがとうございます」
わたしが笑みを浮かべながら返事をすると、祐一さんは苦笑しながら視線を本へと落とし、勉強へと集中するのを見て、わたしも同じように勉強へと集中した。
それからわたしと祐一さんは集中して勉強をし、気が付くと外はうっすらと日が翳ってきていた。
「あ、もうこんな時間。祐一さん、どないします?」
「ふむ。キリもいいし、俺はそろそろ帰ろうと思うが、はやてはどうする?」
「わたしも帰りますから、途中まで一緒に帰りましょ!」
「わかった」
そう話し合って片付けを済ませ、わたしは祐一さんに車椅子を押されながら、帰宅の途についた。
始めは車椅子を押してくれるという祐一さんの言葉に、わたしは遠慮していたのだが、最終的に祐一さんに押し切られる形となってしまった。
そして、他愛ない話をしながら帰っていると、祐一さんには家まで送ってもらってしまう結果となってしまった。
「すいません、祐一さん。結局、家まで送ってもらってしもて……」
「構わんさ。今日はお弁当ありがとうな」
祐一さんの言葉にわたしは笑顔となり、
「はいっ! また、お弁当作っていきますっ!」
「そこまでしてくれなくてもいいんだが……」
「いえ、わたしが作りたいだけなんで……もしかして、嫌やったですか?」
「その質問は卑怯だな。……そんなことを言われると断れない」
「ふふ、ほんなら、また作ってきますよ」
苦笑しながら頭を掻く祐一さんにわたしは笑顔で言葉を返した。
そんなわたしを見て、祐一さんは観念したように笑みを浮かべていた。
「そうか。それなら、楽しみにしているよ」
「はいっ!」
「じゃあ、またな、はやて」
「はいっ! またです、祐一さん」
元気よく手を振るわたしに、祐一さんは軽く手を上げることで答えてくれた。
そして、わたしは祐一さんの姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。
「わたしにお兄ちゃんがいたら、あんな感じなんやろか……?」
わたしは手を下ろしながら一人呟いた。
なんか祐一さんには、こちらを包み込んでくれるような温かさや優しさがあるようにわたしは感じていた。
「呼び方とか変えてみよかな……?」
わたしはそんなことを考えながら、笑みを浮かべ、
「また、お弁当作って、祐一さんを喜ばしてあげよう」
わたしは祐一さんに「ありがとう」と言われたことに温かい気持ちになりながら、家の中へと入っていった。
――祐一さんとの初めての出会い。
――この出会いから、わたしの運命は大きく変化していく。
――このときのわたしは、まだ、何も知らなかった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
誤字脱字などありましたら、指摘をお願いします。
やっと、無印編終了です……永かったなぁ~。
次回からA's編へと突入していくわけですが、おそらく、更新速度が落ちるかと思われます(汗)
ですが、更新は止めませんので、気長にお待ちください。
では、次回、また会いましょう。