魔法少女リリカルなのは~黒衣の騎士物語~   作:将軍

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投稿します。
今回は早めに書けました。
では、どうぞ。


過去の一端

 今、なのははリンディの計らいで高町家へ帰ってきていた。

 なのはが帰ってくると、母親である高町桃子は笑顔でなのはを抱きしめてくれて、なのはは嬉しくて、少しだけ涙を流していた。父の士郎、兄の恭也、姉の美由希はそんな二人を笑顔で見つめていた。

 その後はリンディを交え、リビングでなのはたちは話をしている。

 

「――と、そんな感じの十日間だったんですよ~」

 

「あら、そうなんですか~」

 

 そう笑顔で会話をしているのは、リンディと桃子である。桃子の横には恭也と美由希が座っており、美由希の膝の上には、フェレットの姿となっているユーノが座っていた。

 一方、なのははというとリンディと桃子の会話を聞きながら、僅かに笑顔を引きつらせていた。

 

『――というか、リンディさん、見事な誤魔化しというか、真っ赤な嘘というか……』

 

『う、うん。すごいね……』

 

『本当のことは言えないですからね』

 

 なのはとしては本当は、家族に嘘をつくのは気が引けるのだが、流石に今自分が行っていることを言うことはできないため、リンディが嘘で誤魔化しているのだ。

 そんなリンディの心配りに有り難さを感じていると、美由希が声を掛けてきた。

 

「なのは、今日明日くらいはこっちにいられるんでしょ?」

 

「うん。大丈夫」

 

「アリサもすずかちゃんも心配していたぞ? もう連絡はしたのか?」

 

「うん。さっき、メールを出しといた」

 

 美由希と恭也の質問になのはは笑顔で答える。

 

「そういえば、最近、祐一の姿を見ないんだが、なのはは知らないか?」

 

「……っ」

 

 恭也の質問になのはの表情が僅かに引きつる。

 

「どうした、なのは……?」

 

 なのはの表情の変化に気付いた恭也は首を傾げながら質問する。

 

「ううん、なんでもない。祐一お兄さんは、今、海鳴にはいないんだ」

 

「そうなのか? ったく、あいつは何も言わずにすぐどこか行っちまうからな」

 

「うん。そうだね……」

 

 恭也の言葉を聞きながら、なのはは力ない笑みを浮かべる。

 祐一と出会い、話をするようになってから、なのはは祐一のことをもう一人の兄のように慕っているのだ。そんな祐一がフェイト側についた。

 何か理由があるのだろうが、なのはにとっては少なからずショックであった。

 

「――なのは、寂しい?」

 

 そう静かに呟いた美由希の声を聞き、なのははそちらを見つめる。

 美由希は祐一がいない理由を知らないはずなのに、まるで全て分かっているかのような表情でなのはを見つめていた。

 ただひたすらに、自身の妹であるなのはを心配している姉の表情であった。

 そんな優しい姉に、なのはは微笑みを浮かべる。

 

「寂しいよ。……だけど、祐一お兄さんに頼りっぱなしじゃ駄目だと思うから」

 

「そう……」

 

 なのはの言葉に、美由希は同じように微笑んだ。

 

「それに、ユーノくんもいてくれるしね」

 

「キュイ!」

 

「そうだな」

 

「ふふ。それもそうだね」

 

 なのはの言葉に、ユーノが答え、恭也が頷き、美由希が笑みを浮かべながらユーノを撫でる。

 そんな優しい人たちに囲まれ、なのはは力をもらっているような気分であった。

 だから、これからも頑張ろうと、なのはは思っていた。

 

(――まだ、祐一お兄さんが何を考えているのかはわからない。だけど、わたしは祐一お兄さんを信じてるから)

 

 なのははここにはいない黒衣の青年の姿を思い浮かべながら、決意を心の中で固めていた。

 

 

 ――なのはが高町家へと戻る前。

 

 リンディからの連絡で、クロノ、エイミィ、なのは、ユーノがアースラのブリーフィングルームへと集められていた。

 

「みんな集まりましたね?」

 

 リンディの言葉に四人は頷きを返す。

 四人を見つめ、リンディは静かに口を開いた。

 

「――黒沢祐一がどのような人物なのか分かりました」

 

「っ!? ほ、ほんとなんですかっ!?」

 

 リンディの言葉に、真っ先になのはが驚いた声を上げる。

 このメンバーの中で祐一との付き合いが一番長く、そして、祐一のことを慕っているのだから当然の反応であった。

 そんな付き合いの長いなのはであったが、祐一の過去については特に何も知らなかった。祐一が昔のことをあまり話したがらなかったのが大きな理由ではあったが、今はそんなことは気にしていられない。

 なのはの言葉に静かに頷き、リンディは話を続ける。

 

「ええ。エイミィ、お願い」

 

「はい」

 

 リンディの言葉を聞き、エイミィがいくつかのモニターを映し出す。

 

「っ!? ……祐一お兄さん……」

 

 なのはの視線の先、モニターに映し出されているのは紛れもなく自分が慕っている――黒沢祐一であった。

 今よりも身長は低く、僅かに幼さの残る顔立ちであるものの、その瞳に宿っている力強さは変わっていなかった。

 

(これが、昔の祐一お兄さんなんだ……)

 

 じっとモニターを見ていたなのはであったが、何かに気付いたのか、自然と口から声が零れた。

 

「祐一お兄さんが着てるこの服って……」

 

「――そう。黒沢祐一はね……元管理局の人間なの」

 

「っ!? じゃ、じゃあ、まさかっ!?」

 

「――ええ。"あの"黒沢祐一よ」

 

 リンディの言葉にクロノは呆然となる。

 なのはは二人のやり取りの意味がわからず、モニター越しに祐一の姿を見つめながらユーノとともに首を傾げていた。

 そんな二人の反応に気付いたリンディが苦笑を浮かべる。

 

「勝手に話を進めてごめんなさいね。今から説明するわね――」

 

 そう話し、リンディに頼まれたエイミィが説明を始める。

 

「黒沢祐一――このときの年齢は一四歳。当時の魔導師ランクはS+で、空戦、陸戦のどちらも高い水準での戦闘が可能な、管理局内でも無類の強さを誇る魔導師で、管理局の期待のエースでした」

 

「そんなにすごかったんですか?」

 

 エイミィの言葉になのはが質問を返す。

 その質問に答えたのは、腕を組み話を聞いていたクロノであった。

 

「――ああ。当時の"あの人"――奴は、悔しいがとんでもない強さの魔導師だった。……今の僕でも太刀打ちできないくらいに、ね」

 

 クロノの言葉になのはは息を飲む。

 クロノは若くして執務官となった少年であり、自身もAAA+クラスの魔導師だ。そんなクロノをもってしても太刀打ちができないと言わせる祐一の強さに、なのはは戦慄を覚えた。

 なのはとクロノのやり取りを眺めていたエイミィが、二人の話しに区切りが付いたと判断し、説明を続ける。

 

「ですがその一年後――"ある事件"が切っ掛けで管理局を除隊しています」

 

(――"ある事件"……?)

 

 そのフレーズを聞き、なのはは首を傾げるが、それに気付かずクロノは一人頷く。

 

「なるほど。それから、この地球へとやってきたわけか……」

 

「うん。それでほぼ間違いないと思う」

 

「だが、今の黒沢祐一の魔力量はAランクと計測されている。意図的にランクを落としているということか……?」

 

 クロノの言葉に、エイミィは頷きを返す。

 

「そうだと思う。だけど、意図的にランクを落としている理由は不明。おそらくだけど、ここではあまり派手に動きたくないからだと思う」

 

 エイミィはパネルを操作しながら、そう話し、クロノとリンディもそれに同調するように頷く。

 

「何故ランクを落としているかは不明だが、正直、こちらとしてはありがたい。――とにかく、これで黒沢祐一の正体はわかった。これなら少しは対策を立てれるだろう」

 

「そうね。厳しい戦いになることは間違いないけれど、とにかく、これからやれることをやっていきましょう」

 

 リンディの言葉に皆が返事をしながら頷く。

 そんな中、なのはは祐一が何を考えているのかを考えていた。

 

(祐一お兄さんの目的はわかってないけど、祐一お兄さんが悪いことを企んでいるとは思えない。――きっと、何か事情があってフェイトちゃんの手伝いをしているんだ。――それに――)

 

 なのはは以前、祐一に言われたことを思い出す。

 

『――人の考えなど千差万別、それぞれ違う。もしかしたら、分かり合えないかもしれない。……だが、なのは、お前の考えは違うだろ? お前はちゃんと話し合えば人は分かり合えると思っている。現にアリサとは仲良くなって、今は親友と呼べる間柄だ。まぁ、たまには喧嘩もしてしまうかもしれない。だが、それでいいんだ。人は自分の意思をぶつけ合って、初めて分かり合うことも出来るのだからな』

 

 かつて、祐一はなのはにそう言っていた。

 だからこそ、そのようなことを自分に言っていた祐一をなのはは今でも信じているのだ。

 

『アリサと仲良くなれたのは、なのはが自分の意思を貫いた結果だ。だから、なのは――』

 

 ――これからも自分の意思、考えを大事にしろ。

 

 そう微笑み、自分の頭を優しく撫でてくれた祐一をなのはは信じると決めた。

 

(だから、わたしは自分が思ったことをやっていこう)

 

 新たな決意を心に秘め、なのはは次なる舞台へと上がっていく。

 

 ――決戦はもうそこまで迫ってきていた。

 

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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