――管理局との邂逅から十日が経った。
あれからもフェイトとアルフと祐一は特にやることは変えず、ジュエル・シードを探すことに専念していた。だが、管理局に見つからないようにジュエル・シードを探すのは、予想以上に厳しかった。それでも、いくつかのジュエル・シードを確保できたのは僥倖であった。
しかし、索敵能力では管理局側の方が上回っており、それに加えなのはとユーノも管理局に協力し、集まっているジュエル・シードの数は管理局側の方が多くなっていた。
――なのはとユーノが管理局に協力している。
祐一はこれを聞いたとき、初めは眉を顰めたが、なのはたちが決めたことだと思い、気にするのを止めた。
今、祐一たちは目下ジュエル・シードの探索を行っている。時間さえあれば簡単に集めることが出来るであろうが、管理局との兼ね合いもあり、ジュエル・シード集めが上手くいっていないことから、フェイトは焦りを感じていた。
余裕がなくなってきているフェイトをアルフは心配そうに見つめ、祐一はどうしたものかと思考していたが、妙案など簡単に出るはずもなかった。
そんなことを考えているときだった。
「この反応は……」
「うん。ジュエル・シードの反応だね。しかも、魔力量がいつもより多い。……きっと、残りのジュエル・シード全部かもしれない」
フェイトの言葉に、祐一とアルフは頷く。
「この方向は……海の方かい……?」
「なるほど。どうりで、なかなか残りが見つからなかったわけだ」
「そういうことかい。でも、どうする? 海に潜って探すことは出来るけど、かなり時間が掛かっちまうよ?」
「確かにな。……どうする、フェイト?」
「……少し荒っぽいけど、ジュエル・シードは海底に沈んでるから、電気の魔力流を叩き込んで強制発動させて、位置を特定してから一気に封印したらいいと思う」
フェイトはどうかな、と祐一に確認するように視線を向ける。祐一は顎に手で撫でながらしばらく考え、
「確かにプランとしては間違ってはいない。……だが……」
「それだとフェイトの魔力が限界を越えちまうよっ!」
祐一の言葉にアルフがフェイトを心配するように、叫ぶように声を上げる。
「アルフの言うとおりだな。……だが、現状ではその方法しかなさそうなのも事実だ。俺では電気の魔力は作り出せないし、管理局の先手を取らねばならないだろう」
「でもさぁ~!」
「わたしなら大丈夫だから、心配しないで、アルフ」
そう微笑みながらフェイトはアルフへと声を掛ける。
「……わかったよ」
フェイトの言葉にアルフはしぶしぶながら頷いた。
「決まったな。では、行くぞ」
「うん」
「あいよ」
祐一の言葉と同時に、三人はジュエル・シードの下へ向かっていった。
――そして、三人は海上へと移動し、ジュエル・シードを確保するための作戦を開始した。
「アルカス・クルタス・エイギアス――」
フェイトがその綺麗な声が周囲に響き渡る。
今、フェイトは海中にあるジュエル・シードの位置を割り出すため、大規模な攻撃魔法の準備に入っている。
祐一はフェイトをいつでも守れるように、そう遠くない場所からフェイトを見つめていた。
(管理局がやってくるとしたら、おそらくはフェイトの魔力が底を尽きるぐらいのタイミングだろう)
サングラス越しにフェイトを見つめながら、祐一は管理局のことを考えていた。
それに、祐一は今回のジュエル・シードの封印はなかなか骨の折れる作業になるだろうとも考えていた。一つずつならば特に問題はないが、今回のジュエル・シードの数は全部で六つ。いくらフェイトの魔力でもきついことは間違いないと、祐一は考えていた。
(――それでも、"これは必要なこと"だ。きっと、これが良い方向へと向かってくれるはずだ)
祐一は再度、視線をフェイトの方へと向ける。
「撃つは雷、響くは轟雷――」
視線を向けた先、フェイトの詠唱も佳境に入っていた。直下には巨大な魔法陣が現れ、それだけ多くの魔力が込められていることがわかる。
(――考えるのは後だな。今は目の前のことに集中するとしよう)
祐一は自身のデバイスである、長剣型デバイス《冥王六式》を起動する。
この長剣型デバイスである冥王六式は、刃渡り一六〇cmほどの両刃の剣であり、デバイスとしては珍しいものである。これは祐一の"友人"に作成してもらったデバイスであった。
「はぁぁぁぁ!!」
祐一が準備を終えると、フェイトの力強い声が響き渡り、それと同時に魔力を海へと打ち込んだ。
すると、その魔力に反応したジュエル・シードが覚醒し、魔力の柱が海から空へと昇っていく。
「はぁ、はぁ……見つけたっ! 残り六つ!」
フェイトが声を上げるが、大量の魔力を消費した影響から酷く疲れた表情となっていた。
そんなフェイトを祐一は横目で見つめつつ、誰ともなく話を始めた。
「流石にジュエル・シードが六つとなると、魔力も並ではないな」
「そうだね。……それに、フェイトは今ので魔力の大半を使っちまってる。いくらなんでも、ここから六つのジュエル・シードを封印するのなんて無理だよっ!」
アルフはフェイトを心配そうに見つめながら、悔しそうに唇を噛む。
そんなアルフに、祐一は僅かに笑みを浮かべた表情で言葉を返す。
「だろうな。……だからこそ、俺たちがいるのだろう?」
「……っ!? ああ、そうだったねっ!」
祐一の言葉にアルフは不安そうだった瞳に決意を灯し、強く頷いた。
「アルフ! 空間結界とサポートをお願い!」
「ああ! 任せといて!」
フェイトの言葉にアルフは力強くそれに応える。
祐一は二人にわからないように笑みを浮かべる。フェイトとアルフの関係が、以前から全く変わっていなかったことに、嬉しさを覚えたのだ。
そして、祐一はすぐに表情を引き締めなおし、冥王六式を握っている手に力を込める。
「俺も手伝おう。おそらく、管理局も気付いている頃だろう。出来るだけ早く終わらせるのがベストだ」
「わかった!」
「あいよ!」
祐一の言葉を聞き、フェイトはバルディッシュを構えるとジュエル・シードへと突撃していき、アルフも即座に空間結界を張り、フェイトのサポートへと回る。
「さて――やろうか」
祐一も二人のサポートのため、行動を開始した。
一方、その頃、管理局側に味方をする形となったなのはは、待機中だったアースラ艦内で唐突に鳴り響いた警報に、急ぎブリッジへと向かっていた。
「はぁ、はぁ……フェイトちゃんっ! 祐一お兄さん!」
なのはがブリッジへと駆け込むと、映し出されたモニターにはジュエル・シードを封印するため、激しい戦いを繰り広げているフェイトの姿が映し出されていた。映し出されたフェイトの表情は、魔力を辛そうであった。
そして、そんなフェイトを守るようにして戦闘を行っている祐一の姿もあった。
「わたしもすぐに現場に――」
「その必要はないよ」
なのはの言葉にクロノが冷たく言い放つ。そんなクロノを驚きの表情でなのはは見つめる。それを知ってか知らずか、クロノはそのまま話を続ける。
「放っておけばあの子――フェイト・テスタロッサも自滅するだろうし、それを守りながら戦っている黒沢祐一の魔力も減って好都合だ」
クロノの言葉になのはは驚きで言葉を失う。
「仮に自滅しなくても、力を使い果たしたところで叩けばいい。黒沢祐一も魔力が減り、フェイト・テスタロッサを守りながらでは満足には戦えないだろうからね」
「っ!? でもっ!」
「今のうちに捕獲の準備を!」
「了解」
クロノはあえてなのはを無視するように、管理局員に指示を出した。
(確かに、クロノくんの言いたいこともわかるし、それがフェイトちゃんや祐一お兄さんを捕まえるには好都合なんだろうけど……だけどっ!)
なのはは悔しさともどかしさから、自然と握った拳に力が入る。そんななのはを見つめながら、艦長席に座っていたリンディが諭すように話す。
「私たちは常に最善の選択をしないといけないわ。残酷に見えるかもしれないけど、これが現実……」
「……でも……っ!」
なのはは叫ぶが、言葉が続かない。
なのはは小学三年生にしては、大人びている少女であり、自分が現実を見ていない子供であるという認識があったため、リンディやクロノに返す言葉が見つからなかった。
(だけど……こんな、こんなのって、ないよ)
なのはの表情が悲しみに歪む。
フェイトや祐一と話がしたい。だけど、今は戦うべき相手――それがわかっているからこそ、なのはは思い悩んでいた。
そんなとき、なのはの頭に響いてきた声があった。
――行って――
そう聞こえてきた声に振り向くと、そこにはユーノが微笑みを浮かべながら立っていた。聞こえてきたのは、ユーノの念話による声であったのだ。
『なのは、行って。僕がゲートを開くから、行ってあの子と祐一さんを……』
『でも、それはわたしの理由で、ユーノくんとは……』
『うん。関係ないかもしれない。……だけど、なのはが困ってるなら、僕はなのはを助けたい。――なのはが僕にそうしてくれたように』
ユーノの言葉になのはは驚きの表情を浮かべる。
そんななのはの表情を見たユーノは微笑みの表情を崩さず、背後に転送用のゲートを作り出した。
そして、なのはそれに向けて走る。
「っ!? ……君はっ!?」
それに気付いたクロノが声を上げるが、
「ごめんなさい! 高町なのは、指示を無視して勝手な行動を取りますっ!」
「あの子の結界内へ――転送!」
ユーノの言葉と同時に、なのはの姿はアースラから消えた。
――自身の想いを伝えるために、なのはは戦場へと赴く。
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