祐一の助力により、フェイトとアルフは管理局から逃げることに成功し、今は部屋に戻ってきていた。
フェイトは管理局がもう介入してきたことにより、焦っていた。こんなにも早く管理局がやってくるとは予想していなかったのだ。
「やっぱり時空管理局まで出てきたんじゃ、もうどうにもならないんじゃないかい……?」
フェイトの気持ちが分かったのか、アルフが珍しく弱気なことを言う。フェイトはアルフへと言葉を返そうかと思ったが、現状がよくない状況へとなりつつあることが分かっているため、何も言えなかった。
「……もう、ジュエル・シード集めなんてやめて、祐一と三人でどっかに逃げようよ」
「……それは駄目だよ」
アルフが搾り出すように呟くが、フェイトは目を伏せ、悲しそうに首を横に振った。
「だってさっ! 確かに祐一もいるし何とかなるのかもしれないけど、あの祐一と戦闘してた魔導師、あいつは一流の魔導師だっ! それに管理局が本気を出せば、いつここが見つかるかもわかんないしさっ!」
悲しい表情でアルフはフェイトへと気持ちをぶつけていく。それに伴い、フェイトの表情も悲しみが溢れてきていた。
「フェイトには悪いけどさ。あの鬼ばば――フェイトの母さんだって、わけわかんないこと言って、フェイトのことも怒ってばっかだしさ……」
「……母さんのこと悪く言わないで……」
「言うよっ! あたしはフェイトのことが心配で、フェイトに笑って欲しいだけなんだっ! ……幸せになってほしいだけなんだよ。なんでわかってくれないんだよっ!」
アルフは目に涙を溜めながら、さらにフェイトへと気持ちをぶつける。
フェイトは、自分を気遣ってくれる嬉しさとアルフの気持ちには応えられないことへの申し訳なさを感じた。
「……ありがとう。それと、ごめんね、アルフ。……でもね? わたし、母さんの願いを叶えてあげたいの。母さんのためだけじゃない、きっと、自分のため。だから、あともう少し、最後までもう少しだから。わたしと一緒に頑張ってくれる?」
「……約束して、フェイトはフェイトのために自分のためだけに頑張るって。……そしたら、あたしは必ずフェイトを守るから」
「うん」
アルフの言葉にフェイトは頷き、アルフの頬を伝う涙を拭った。
(――ごめんね、アルフ。わたしは駄目な主人だね。……だけど、それでもわたしは母さんの願いを叶えてあげたい――それがきっと、自分のためでもあるんだ)
泣いているアルフを抱きしめながら、フェイトはそう自分に言い聞かせた。
フェイトとアルフの会話から数十分後、祐一が戻ってきた。
「戻ったぞ」
「あ、おかえり、祐一!」
「無事でよかったよっ!」
「ああ。二人とも、心配掛けたな」
祐一の声を聞くや否や、祐一へと駆け寄っていった。続いて、アルフもホッとしたような表情となっていた。
「祐一、大丈夫だった? 怪我とかしてない?」
「ああ、大丈夫だ。問題ない」
心配そうに見つめてくるフェイトに苦笑を返しながら、祐一は優しくフェイトの頭を撫でてやった。恥ずかしそうに頬を染めながらも、フェイトは嬉しそうに微笑んだ。
そんな二人に、真剣な声でアルフが話し掛ける。
「管理局の方は大丈夫なのかい?」
「ああ。お前たちと同じように多重転移で戻ってきたからな。問題はないだろう」
そっか、とアルフは少しホッとした表情になる。だが、すぐに表情を引き締める。
「あの執務官は大丈夫だったのかい? 祐一に怪我はないようだけどさ」
「問題ない。執務官は逃げる寸前に俺が吹き飛ばしておいた。まぁ吹き飛ばしただけだから、相手も特に怪我はしていないだろうがな」
「流石は祐一だねぇ~。管理局の執務官を相手に無傷で逃げるなんてさ。……正直、あたしとフェイトだけじゃ危なかっただろうからね」
「今回は相手も油断していただろうしな。今度戦うときはそう簡単にはいかないだろう」
祐一がそう話すと、アルフの表情は硬くなり、フェイトも配そうな表情となった。
「あの執務官……強いの?」
「ああ。今のフェイトでは勝てないぐらいの実力は持っているだろう」
祐一の言葉に、フェイトが少しだけムッとした表情となる。フェイトは見かけによらず、負けず嫌いであるため、戦いもしていない相手が自分よりも強いと言われることが、悔しかったのだ。
そんなフェイトに祐一は苦笑を浮かべる。
「現段階では相手の方が格上だというだけの話だ。将来どうなるかはわからないし、今のフェイトでも戦い方によっては勝ち得ることも可能かもしれないしな」
「……ほんとに? ほんとに、祐一そう思ってる……?」
「ああ、本当だ。今は相手の方が格上でも、フェイトなら近い将来、きっと勝てるようになる。そうそう出てくることはないと思うが、万全を期すため今回は俺が執務官の相手をする」
「うん。わかった」
フェイトは祐一の言葉に納得したのか、静かに頷いた。そして、祐一を見つめながら表情を綻ばせる。
「でも、いくら相手が強くても――祐一は負けないよね?」
そう笑顔で言うフェイトに対し、祐一は僅かに目を見開いた。
しかし、すぐに祐一はいつもの表情に戻ると、フェイトへと言葉を返す。
「――当然だ」
祐一の力強い言葉に、フェイトとアルフは笑みを深くするのだった。
一方、高町家に戻っていたなのはとユーノは――
「――だから、僕もなのはもそちらに協力させていただきたいと……」
『協力、ね』
ユーノの言葉に管理局執務官である、クロノが静かに呟く。
今、ユーノは管理局に協力する形で今回の一件に関して、引き続き調査できるように交渉しているところであった。
「僕はともかく、なのはの魔力は有効な戦力だと思います。ジュエル・シードの回収、あの子たちとの戦闘、どちらとしても、そちらにとっては便利に使えるはずです」
『ふむ。なかなか考えてますね』
ユーノの言葉に納得するように、巡行艦《アースラ》艦長のリンディが顎に手を当てながら頷く。
それからしばらくリンディは思考すると、モニター越しにユーノたちへとあっさりと言った。
『それなら、まぁいいでしょう』
『か、母さ……か、艦長っ!?』
クロノもまさかこんなに簡単にリンディが承諾すると思っていなかったのか、驚いたようにリンディに向かって声を荒げた。
『手伝ってもらいましょう。こちらとしても切り札は温存したいもの、ね? クロノ執務官……?』
『……はい』
しぶしぶといった感じで、クロノが頷く。
リンディはいつもの笑みを浮かべた表情から、少し真剣な表情となり、ユーノたちとクロノへと話を始めた。
『それに、あちらには"黒衣の青年"――黒沢祐一もいます。協力者は多いに越したことはないでしょう』
リンディの言葉にクロノは悔しそうに拳を握る。
ユーノもリンディの言葉を聞き、僅かに表情を曇らせた。
――黒沢祐一。執務官であるクロノをも退ける力を有する青年であり、未だにその目的はわかっていない。
僅かに空気が重くなったのを感じたリンディは、とりあえず、と手を叩く。
『そちらの対応は、また後で考えましょう。今は、あなたたち二人のことを考えましょう』
その言葉になのはとユーノは静かに頷く。
『わたしたちと協力するにあたり条件は二つよ。両名とも身柄を一時、時空管理局の預かりとすること。それから指示を必ず守ること。……よくって?』
「わかりました」
リンディの言葉に、ユーノはそう告げた。
side 高町なのは
ユーノくんから管理局と話がついたことを聞き、わたしはお母さんと話をした。
お母さんに話したのは、ユーノくんと会ってから今までのこと。もちろん魔法などの話などは伏せている。だけど、言える限りのことは言った。
それから、そのために家を少し空けないといけないこと。
「もしかしたら、危ないことかも知れないんだけど、大切な友達と一緒に始めたこと、最後までやり通したいの。……心配かけちゃうかもしれないんだけど」
「それはもういつだって心配よ~! お母さんはお母さんなんだから。なのはのことがすごく心配……」
お母さんが心配そうにそう言ってくる。わたしはそれを聞き、心配かけることへの罪悪感で少し俯いた。
「だけどね。なのはがどっちにするか決めてないんだったら、危ないことは駄目よって言うんだけど。……でも、もう決めちゃってるんでしょ? 友達と始めたことをちゃんとやり通すって。なのはが会った女の子ともう一度話をしてみたいって……」
「……うん」
「じゃあ、いってらっしゃい。後悔しないように」
お母さんはそう言いながら、優しくわたしの頭を撫でてくれた。そんなお母さんの気持ちが嬉しくて、わたしは少し泣きそうになったけど、笑顔でお母さんに言った。
「ありがとう、お母さん! いってきます!」
わたしはもう迷わない――そう強く心に決めた。
side out
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
誤字脱字などありましたら、指摘をお願いします。
更新、遅くなってしまいました。
ただ、遅くても更新はしていきたいと思います。
頑張ります。