魔法少女リリカルなのは~黒衣の騎士物語~   作:将軍

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投稿します。
楽しんでいただけたら幸いです。
では、どうぞ。


望んだ願い

 ――ジュエル・シード暴走の一件から数日。

 

 祐一はフェイトたちと《時の庭園》へと足を運んでいた。目的は、プレシアへの現状報告である。

 フェイトはプレシアと会うからなのか、とても緊張しているようで、表情が強張っていた。そんなフェイトをアルフは少し不安そうに見つめている。

 祐一はまだ、ジュエル・シード暴走の一件で傷付いた両腕に包帯を巻いている。まだ完治とまではいかないものの、通常の戦闘なら可能なレベルにまで回復していた。驚くべき回復速度である。

 そんな祐一の両腕の具合が気になったのか、隣を歩いているフェイトが緊張しながらも祐一へと話し掛ける。

 

「祐一、怪我の具合は? 大丈夫?」

 

「ああ、問題ない。まだ完治したわけではないが、ほぼ回復している。これもフェイトが治療してくれたからだろう。ありがとうな」

 

「べ、別にお礼を言われるようなことしてないし。祐一にはお世話になりっぱなしだから……」

 

 祐一の言葉にフェイトは僅かに頬を染めながら答える。そんなフェイトに苦笑しつつ、祐一は別の話題を振る。

 

「バルディッシュの方はもう大丈夫なのか?」

 

「うん、大丈夫。あともう少ししたら修復も終わるから、そしたらまた戦闘可能だよ」

 

 フェイトが待機状態のバルディッシュを祐一に見えるように掲げながら話す。確かに、見た限りではほとんど修復も終わっていそうであった。

 そんな他愛ない話をしていると、三人はプレシアがいる部屋の前へと辿り着いた。

 祐一が隣にいるフェイトへと視線を移すと、その表情は先ほどまで落ち着いていたのにもかかわらず、表情が硬くなっており、とても今から自身の母親に会いに行くような表情ではなかった。

 

(今から母親に会うというのに、こんな表情になってしまうとはな……)

 

 フェイトの硬い表情を見つめながら、祐一は僅かに表情を歪める。それは、フェイトにそのようなことをさせてしまっている自身の不甲斐なさへの怒りであった。

 僅か一年間という時間であったが、フェイトたちと過ごしている内に、祐一の心にもフェイトたちを幸せにしてやりたいという想いが芽生えてきたのだ。

 だからこそ、プレシアの願いを叶えることが最善の選択なのかと、自問自答を繰り返しているのだ。

 

「……祐一? どうしたの?」

 

 フェイトの声と服の袖を引っ張られる感覚とともに、祐一は思考の渦から戻ってきた。見ると、フェイトが服をくいくいと引っ張り、何も言わず立っていた祐一を不思議そうに見つめていた。

 祐一は僅かに首を振り、なんでもない、とフェイトに言葉を返した。

 そして、フェイトがやはり緊張した面持ちで、扉をノックした。

 

「フェイトです。報告に来ました」

 

「入りなさい」

 

 失礼します、とフェイトが言いながら扉を開け中へと入っていく。

 

「祐一、フェイトを頼んだよ」

 

 プレシアの命令なのか、アルフはどうやら中には入れないようで、祐一へとそう言葉を口にした。アルフの言葉に頷きを返し、祐一もフェイトの後へ続き部屋へと入る。プレシアは大きな椅子に腰掛け、こちらを無表情に見つめていた。

 そんなプレシアの視線に、フェイトはさらに体を縮こまらせていた。

 

「祐一くんも来ていたのね」

 

「はい。フェイトの付き添いと、状況の報告に来ました」

 

 そう、とプレシアは表情を変えずに頷く。

 

「では、報告を聞くわ。今、いくつジュエル・シードが集まっているのかしら?」

 

 その言葉にフェイトの体が僅かに震えた。フェイトが集めたジュエル・シードの数は合計で四つ。決して、多くはない数字であったからだ。

 フェイトが恐々とプレシアにその数を告げると、プレシアの表情が僅かに歪んだ。

 

「四つ……ですって……?」

 

 プレシアの怒りが伝わったのであろう、フェイトは視線を床に落とした状態で震えていた。

 

「たったの四つ。これは、あまりにも酷いわ。……いい、フェイト? あなたは私の娘、大魔導師プレシア・テスタロッサの一人娘。不可能なことなど、あってはならない……」

 

 プレシんは椅子に深く腰を掛け、冷たい表情でフェイトを見つめながら話す。

 

「こんなに待たせておいて、上がった成果がこれだけでは、母さんは笑顔であなたを迎えるわけにはいかないの……わかるわね、フェイト……?」

 

「はい、わかります……」

 

「次までに全てのジュエル・シードを集めてきなさい。……母さんを失望させないでね、フェイト……?」

 

「……はい……母さん……」

 

「……もういいわ、出て行きなさい。祐一くんは少し話があるから残りなさい」

 

「……はい」

 

 プレシアの冷たい言葉を聞き、フェイトは俯き、涙を堪えるようにして部屋から出て行った。

 そして、祐一はフェイトが完全に部屋から出たのを確認すると、プレシアへと声を掛けた。

 

「……よかったんですか?」

 

「……ええ、これでいいのよ……」

 

 先ほどまでの無表情とは違い、今のプレシアの表情はとても辛そうであった。

 そんなプレシアを見つめながら、祐一は淡々と告げる。

 

「フェイトは頑張っていました。この短期間で四つもジュエル・シードを集めました。邪魔が入ったにも関わらず、ね」

 

「ええ、わかってるわ」

 

 祐一がそう言うと、プレシアは椅子に腰掛けたまま、少し疲れた表情で天井を見上げ、右手で表情を隠した。

 

「……邪魔が入ったと言ったわね? まさか、もう管理局が……?」

 

「いえ、違います。現地の俺の知り合いの、フェイトと同い年の女の子です」

 

 祐一の言葉を聞き、プレシアは天井を見上げていた体勢を元に戻し、祐一を真剣な表情で見つめる。

 

「……あなたは大丈夫なの?」

 

「ええ。敵対してはいますが、俺が戦うわけではないですから。……もしかしたら、戦わなければならないかもしれませんが、ね」

 

 プレシアの言葉に祐一は自嘲気味な笑みを浮かべた。祐一の言葉にプレシアは静かに頷いた。

 そして、祐一はさらに言葉を続ける。

 

「――それに、その子がフェイトに良い影響を与えてくれると、俺は思っているんです」

 

 勘ですがね、と祐一はそう話しながら、少し笑みを浮かべる。そんな祐一にプレシアは僅かに笑みを浮かべる。

 

「祐一くんが言うのだから、間違いないのでしょうね」

 

 その言葉に、祐一も僅かに笑みを浮かべた。だが、すぐに祐一は表情を真剣なものへと戻す。

 

「おそらく、ここからが"正念場"になってくると思います。昨日の小規模な次元震で管理局が動くでしょうから……」

 

「少し早すぎるのではないかしら……?」

 

「その可能性もあります。……が、備えておくにこしたことはないでしょう」

 

 祐一がそう言うと、プレシアも僅かに考えた後、頷きを返した。

 

「そうね。……祐一くん、フェイトのこと、よろしく頼むわね」

 

「わかりました。最善は尽くすつもりです」

 

 祐一の言葉に、プレシアは安心したように、ありがとう、と静かに呟き頭を下げた。

 そして、祐一はプレシアの言葉に頷くと、部屋から出て行った。

 

 

 

 プレシアへの報告を終え、少し元気の無くなったフェイトと、それを心配そうに見つめるアルフとともに地球へと帰還した。

 

「――大丈夫かい、フェイト?」

 

「うん、大丈夫。心配しないで……」

 

 アルフの言葉にフェイトは笑みを浮かべるが、その笑みが無理やり作られているものだと、祐一とアルフの二人は見抜いていた。二人に心配を掛けるわけにいかないと、無理をしているようであった。

 そんなフェイトを見つめながら、アルフは何か思うところがあるような表情をしていたが、わかったよ、と笑みを浮かべるだけであった。

 祐一はそんな二人のやり取りを静かに見つめていたが、

 

「……む? この反応は……」

 

 強い魔力の反応を感じ、祐一はそれを感じた方へと視線を向ける。間違いなく、ジュエル・シードの反応であった。

 

「――もうすぐ発動するジュエル・シードが近くにいる」

 

「そうだね。あたしにも分かるよ」

 

 祐一の呟きが聞こえたのか、フェイトとアルフも魔力の反応があった方向へと視線を向けていた。

 そして、フェイトはおもむろに自身の相棒であるバルディッシュへと問い掛ける。

 

「バルディッシュ、どう……?」

 

『Recovery complete』

 

「そう、頑張ったね」

 

 バルディッシュの答えにフェイトは満足気に微笑み、自身の相棒を労った。

 

「フェイト、これからどうする?」

 

 アルフが確認するようにフェイトに問い掛ける。その質問にフェイトは真剣な表情で答える。

 

「うん、いくよ。……それが、母さんの願いだから……」

 

 そう決意を込めるように答えた後、フェイトは祐一へと視線を向ける。その表情は悲しみに彩られていた。

 そんなフェイトの視線に祐一は首を傾げるが、すぐに合点がいったようで頷きを返す。

 

「――気にするな。"あいつ"もこうなることはわかっているんだ。お互いに譲れない想いがあるのなら、それは仕方のないことだ。だから、気にするな、フェイト」

 

 祐一が言っている"あいつ"とは、もちろんなのはのことである。フェイトが悲しい表情を祐一に向けていたのは、またなのはと戦わないといけないということから、申し訳ない気持ちがあったからだ。

 そんなフェイトの気持ちに気付き、祐一は大丈夫だと言い、フェイトの頭を優しく撫でる。フェイトは少し頬を赤く染めながら、静かに頷いた。

 

「じゃあ、行こうっ!」

 

「ああ」

 

「はいよっ!」

 

 フェイトの言葉を聞き、祐一とアルフは頷き、三人はジュエル・シードの方へと飛翔した。

 

 

 

 祐一たちが現場に到着すると、そこには巨大な木の化物がいた。ジュエル・シードを取り込み、暴れているようであった。

 そして、他にこの場にやってきている者がいた。

 

(やはり、なのはたちも来ていたか)

 

 サングラスを掛けた視線の奥から見つめる先、そこに白いバリアジャケットを纏ったなのはがそこにいた。なのはも祐一たちが来たことに気付いたのか、そちらへと視線を向け、僅かに寂しそうな表情となったが、すぐにジュエル・シードの方へと視線を向けた。今はジュエル・シードを押さえることが先決だと思ったようだ。

 祐一も同じように視線をジュエル・シードへと向ける。

 

「わぁ~お、生意気にバリアなんか張っちゃって」

 

「うん、今までの相手より手強い。それに、あの子もいる」

 

 なのはの魔力弾をバリアを張り防いだ木の化物を見て、アルフとフェイトが声を上げる。木の化物は体の一部である根の部分を使い、なのはへと攻撃を仕掛けていた。

 だが、そのような攻撃など、腕を上げてきたなのはに当たるはずもなく、なのはは空中へと飛翔することによって回避し、攻撃か届かない所まで避難した。

 

「あのジュエル・シードはわたしとアルフで捕獲するから、祐一は待機してて」

 

「了解した。どのみち、そうするつもりだったからな」

 

「うん、ありがとう」

 

 フェイトはそう言い終えると、アルフを伴い、即座にジュエル・シードのもとへと向かう。即座にバルディッシュをサイズフォームへと切り替え、襲い来る木の化物の攻撃をその速度をもって回避し、バルディッシュで切りつけ、アークセイバーで攻撃していく。

 そして、それに呼応するように、上空高く上がっていたなのはがレイジングハートを構え、砲撃魔法の体勢に入っていた。また、フェイトもそれに合わせるように邪魔になる木の枝をアークセイバーで切り取っていく。

 そして、防御が薄くなった瞬間、なのはがデバインバスターを放つ。なんとか木の化物は防御するが、次の攻撃が放たれた。

 

「貫け、轟雷!」

 

『Thunder smasher』

 

 バルディッシュから、フェイトの数少ない砲撃魔法の一つであるサンダースマッシャーが放たれた。その雷を纏った金色の砲撃がジュエル・シードへと直撃した。

 そして、二人が叫ぶ。

 

「ジュエル・シード、シリアルⅤⅡ……」

 

「封印……!」

 

 なのはとフェイトの声とともに、ジュエル・シードの封印は完了した。

 だが、なのはとフェイトはお互いに向かい合い、デバイスを構えたまま話を始めた。

 

「……ジュエル・シードには、衝撃を与えたらいけないみたいだ」

 

「うん。昨夜みたいなことになったら、わたしのレイジングハートもフェイトちゃんのバルディッシュもかわいそうだもんね」

 

「……だけど、ゆずれないから……」

 

「わたしは、フェイトちゃんと話をしたいだけなんだけど……」

 

 フェイトとなのははお互いに真剣な表情で見詰め合う。

 

「わたしが勝ったら、ただの甘ったれた子じゃないってわかってもらえたら……お話、聞いてくれる……?」

 

 なのはが決意を持った瞳でフェイトを見据え、そう言った。

 

(……そうか。それがお前の決意なのだな)

 

 祐一はなのはの言葉に笑みを浮かべた。

 そして、なのはが話を終えた直後、二人は戦闘を開始しようと互いにデバイスを構え、相手に向かって突撃する。――そのときだった――、

 

 

「――ストップだっ!」

 

 

 青い魔法陣が展開されると同時に、フェイトとなのはの間に割って入るように、一人の少年が現れた。しかも、フェイトとなのはのデバイスを片腕ずつで受け止めている。

 年齢は祐一よりも年下であろう、漆黒のコートに似たバリアジャケットを着ていた。それは管理局の執務官が着ているものであった。

 

「このでの戦闘は危険すぎる!」

 

 執務官の少年はそう言い放ち、鋭い眼光でフェイトとなのはを交互に睨んでいた。フェイトとなのはは未だ呆然とした表情でその少年を見つめていた。

 

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ! 詳しい事情を聞かせてもらおうか?」

 

 ここからが正念場だと、祐一は静かに自身のデバイスへと手を伸ばした。

 

 




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