魔法少女リリカルなのは~黒衣の騎士物語~   作:将軍

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投稿します。
遅くなってしまい、申し訳ございません。
楽しんで頂けたら幸いです。
では、どうぞ。


海鳴温泉にて(後編)

「――この近くにジュエル・シードがあるのか?」

 

「うん、間違いなくこの近くにはあると思うんだけど、魔力の反応が不安定で見つけれてないんだ」

 

 祐一の質問にフェイトが少し悔しそうに答える。

 祐一も魔力の反応を探ってみたが、反応が小さすぎるため、場所を特定することは困難だった。

 

「祐一なら、見つけられるかな?」

 

 フェイトが期待するように祐一へと問い掛けるが、祐一は首を横に振る。

 

「いや、無理だな。反応が小さすぎる」

 

「そっか……」

 

 フェイトが少し残念そうに頭を垂れる。

 そんなフェイトを元気付けるように、祐一はフェイトの頭へと手を乗せた。

 

「俺も手伝うから、地道に探していこう」

 

「うん。わかった」

 

「りょ~か~い」

 

 祐一の言葉にフェイトとアルフが答え、三人はジュエル・シードの探索を開始した。

 

 

 

 そして、ジュエル・シードを探し始めてから数時間が経過したときだった。

 

「む? この反応は……?」

 

 空へと上がり、上空から周囲を見渡していた祐一は、反応があった方向へと視線を向ける。

 祐一が視線を向けた先から、魔力の反応があり、辺りがジュエル・シードの光で照らされていた。

 

「発動前に回収できたらよかったんだがな」

 

 祐一としては、周囲の被害も考慮して、発動前にジュエル・シードを回収したかったのだが、如何せん発動しないことには魔力が微弱すぎるため、流石の祐一も手間取ってしまったのだ。

 祐一はそう考えを巡らせるが、「仕方ないな」と首を横に振り、フェイト達へと念話を飛ばす。

 

『フェイト、アルフ、気付いているな?』

 

『うん。ジュエル・シードの反応だ』

 

『あたしがいるところのすぐ近くだね』

 

 フェイトとアルフは、祐一の問い掛けに即座に反応する。

 祐一は二人の反応の早さに僅かに喜んでいた。魔導師として、気を抜かずに即座に対応していたからである。

 祐一は自身の感情を表には出さないよう、二人に話し掛ける。

 

『そうか。ならば、ここからはフェイト達に任せる。――お手並み、拝見させてもらおう』

 

『うん、わかった。すぐに封印出来るだろうし、祐一は見てて』

 

『まっ! 余裕だねっ!』

 

 そんな二人の反応に、祐一は僅かに笑みを浮かべ、「では、頼むぞ」と最後に言い、フェイト達の手並みを拝見するため、移動を開始する。

 

 ――おそらく、戦闘になるだろうと、祐一はもう一人の魔導師のことを考える。

 

 その表情には、僅かな悲しさが浮かんでいた。

 

 

 

side 高町なのは

 

(祐一お兄さんは、どこに行ったのかな……)

 

 ジュエル・シードの反応を感じて、わたしとユーノくんは寝ているみんなに気付かれないように、部屋を出て、祐一お兄さんがいる部屋へ向かった。

 

 ――だけど、部屋に祐一お兄さんの姿はなかった。

 

 今、わたしはユーノくんと二人でジュエル・シードの反応がある方へと向かっている。

 わたしは走りながらユーノくんに問い掛ける。

 

「祐一お兄さん、どこ行ったのかな?」

 

「さぁ? だけど、祐一さんのことだから何か理由があるとは思うよ」

 

「そう、かな……?」

 

 これまで、ジュエル・シードを探すときや見つけて捕獲するときは、必ず祐一お兄さんが見てくれていた。祐一お兄さんが見てくれていることで、わたしは安心してジュエル・シードの捕獲が出来た。

 

 ――だけど、今、祐一お兄さんはいない。

 

 わたしはそれだけで、とても不安に感じていた。

 わたしも、祐一お兄さんからしてみたらまだまだかもしれないけど、少しは魔導師としての戦い方がわかってきていると思うし、ユーノくんも手伝ってくれる。

 不安なことなんてないと思っている。なのに、祐一お兄さんがいない――ただ、それだけのことで、不安が心の中で大きく広がっていく。

 

(――だめだっ! こんなことじゃ! 祐一お兄さんに頼ってばかりじゃ、わたしはいつまで経っても、強くなれないっ! ――祐一お兄さんの隣に立つことなんて、出来るわけないっ!)

 

 思い浮かぶのは、祐一お兄さんの大きな背中。いつも、わたしのことを助けてくれる。――わたしが憧れている一人の男性の姿。

 

 その姿を脳裏に刻み、わたしは気持ちを切り替え、右手にレイジングハートを持つ。

 

「レイジングハート、お願い!」

 

『Stand by ready』

 

 レイジングハートの声が聞こえ、わたしは瞬時にバリアジャケットを纏い、わたしは速度を上げる。

 そして、ジュエル・シードがある場所へと到着した。

 すでにそこには、先客がいた。

 

「あ~ら、あら、あらあら♪ 子供はいい子でって、言わなかったっけかい?」

 

 そうおどけた様に声を上げる、一人の女性がそこに立っていた。格好は違ったが、旅館で声を掛けてきた女性で間違いない。

 そして、少し視線を上げると、数日前に戦った漆黒のバリアジャケットを纏い、その手に戦斧型のデバイスを持った、金髪の女の子が立っていた。

 

(――やっぱり、あの子も来てたんだ)

 

 そう考えながら、女の子をわたしは黙って見つめる。

 わたしが黙っていると、ユーノくんが声を上げる。

 

「それを――ジュエル・シードをどうする気だ! それは、危険な物なんだ!!」

 

「さぁ~ね? 答える理由が見当たらないね。――それにさ? 私言ったよね? いい子でないと、がぶっといくよってっ!」

 

「っ!?」

 

 わたしはその光景に息を飲んだ。

 目の前にいた女の人が――大きな赤い狼へと変身したのだ。

 驚いているわたしを他所に、ユーノくんはわたしに説明するように呟く。

 

「やっぱり。あいつ、あの子の使い魔だ」

 

「使い魔?」

 

 わたしが呟くと、赤い狼が自慢げに答える。

 

「そうさ。あたしはこの子に作ってもらった魔法生命。製作者の魔力で生きる代わりに、命と力の全てを懸けて守ってあげるんだ」

 

 その言葉には、とても力が篭っていた。

 

(とってもあの子のことを大事にしてるんだ)

 

 少ししか言葉を交わしてないけど、その力強さから、あの子のことがとても大事なんだということが伝わってきた。

 そうわたしが思っていると、狼が女の子へと声を掛ける。

 

「先に帰ってて、すぐに追いつくから」

 

「――うん。無茶しないでね?」

 

「オーケー!!」

 

 そう叫ぶと同時に、狼がこちらに向かって襲い掛かってくる。

 わたしも遅れてレイジングハートを構えるが、それより先にユーノくんがわたしの肩から飛び降りると、瞬時に防御結界を張り、相手の突撃を防いだ。

 

「なのはっ! あの子をお願いっ!」

 

 ユーノくんは結界を張りながら、わたしに向かって叫ぶ。すると、それを聞いた狼がさらに大きな声で叫んだ。

 

「させるとでも思ってんのっ!」

 

 相手がさらに力を入れ、結界を壊そうとする。――だが、

 

「させてみせるさっ!」

 

 ユーノくんの叫びと同時に、足下に大きな魔方陣が出現した。

 

「移動魔法!? まず……っ!?」

 

 ユーノくんと狼は姿を消し、この場に残ったのは、わたしと、狼の主である女の子だけとなった。

 

「結界に強制転移魔法。良い使い魔を持っている」

 

「ユーノくんは使い魔ってやつじゃないよ。わたしの大切な友達!」

 

 女の子の言葉に、わたしは力強く答える。

 女の子がわたしを威嚇するように、鋭く睨みつけるが、負けじとわたしも相手をじっと見つめる。

 すると、女の子が静かに問い掛けてくる。

 

「――で、どうするの?」

 

「――話し合いで、何とか出来るってことない?」

 

 わたしの言葉に女の子は首も振らずに答える。

 

「わたしはロストロギアの欠片を――ジュエル・シードを集めないといけない。そして、あなたも同じ目的ならわたし達はジュエル・シードを懸けて戦う敵同士ってことになる」

 

「だからっ! そういうことを勝手に決め付けないために、話し合いって必要なんだと思う!」

 

 女の子の言葉にわたしが言い返すと、女の子の雰囲気が変わった。やっぱり、話し合いじゃ、解決しそうになかった。

 

「話し合うだけじゃ、言葉だけじゃ、何も変わらない――伝わらないっ!」

 

 女の子が叫ぶと同時に、わたしの視界から姿を消した。だが、わたしは何とか視界の端で相手を捉える。女の子はすごい速さで、わたしの背後へと回り込み、手に持っている戦斧で攻撃を仕掛けてくる。

 

「っ!?」

 

 なんとかその攻撃を回避し、空中へと飛翔しながら叫ぶ。

 

「けど……っ! だからって!」

 

 わたしは思いをぶつけるように叫ぶが、相手には届かない。

 

「賭けてっ! それぞれのジュエル・シードを一つずつ……!」

 

 そう言い放ち、女の子は戦斧を手にわたしへと襲い掛かってくる。

 

 相手の意思はとても固く、わたしの言葉は届かない。

 

(わたしじゃあ、何にも出来ないの……?)

 

 女の子を見つめながらわたしは問い掛ける。

 

(無理なのかな。……祐一お兄さん)

 

 わたしはこの場にいない祐一お兄さんに心の中で呟いた。

 

side out

 

 

 

 祐一はフェイトとなのは達の戦いを、さらに上空から観察していた。バリアジャケットを纏い、腕を組んだまま、真剣な表情で戦闘を見つめている。

 祐一が見つめる先では、アルフ対ユーノ、フェイト対なのはの構図となり、戦闘が繰り広げられている。派手に戦闘を行ってはいるが、周囲に結界を張っているため、魔導師でない人間では気付くことは難しくなっている。

 

(やはり、アルフとユーノの力はほぼ互角といったところか……)

 

 攻撃面ではアルフに軍配が上がるが、防御面ではユーノに軍配が上がる。

 アルフがその攻撃力を持って、ユーノへと攻撃するが、ユーノの障壁の前では決定打とはならず、片やユーノはアルフの攻撃を防ぐものの、アルフを倒す決定的な攻撃が無い。

 故に、この二人の戦いは互角であり、長期戦は必至であると祐一は感じていた。

 

「やはり、この戦いは、フェイトとなのはのどちらかが勝利することによって、勝敗が決まる、か」

 

 そう呟く祐一の視線の先では、金色の光と桃色の光が激しく激突を繰り返している。

 なのはが話し合いでの解決を望んでいるのに対し、フェイトは戦闘による解決を望んでいる。その気持ちの差か、なのはが後手に回っている。

 

「なのはも上手く状況を把握し攻撃に転じてはいるがな」

 

 なのはの状況把握と空間把握能力に関しては、祐一でも目を見張るものがあった。

 その証拠に、圧倒的に経験が豊富であるフェイトの攻撃を、なのははぎりぎりではあるものの、致命的な攻撃は回避していた。

 

 祐一が見つめる先で、フェイトが自身が持つ数少ない遠距離・直射系砲撃魔法であるサンダースマッシャーを放つ。だが、対するなのはも自分の代名詞となりつつある砲撃魔法ディバインバスターで応戦する。

 そして、数秒も経たない内にフェイトのサンダースマッシャーはなのはのディバインバスターによって掻き消され、ディバインバスターがフェイトを襲う。

 

「すごい攻撃力だな。遠距離からの攻撃力ならば、この中では誰も勝てる奴はいないだろう」

 

 なのはが放つ砲撃魔法の攻撃力に、祐一は目を見張る。それに加え、魔力量、魔力コントロールともにずば抜けた才能があると、祐一は確信している。だが――、

 

「――決着、か」

 

 なのはがディバインバスターを撃った後、フェイト姿が見えなくなったことで僅かではあるものの、気を抜いてしまった。その隙を見逃すようなフェイトではなく、瞬時になのはに接近し、死神の鎌のようにバルディッシュを喉元に突きつけていた。

 

 そして、決着がついたのが分かったのであろう。レイジングハートがジュエル・シードを吐き出し、フェイトへと渡した。フェイトはジュエル・シードを受け取ると、アルフを伴い、森の中へと消えていった。

 フェイト達が消えて行くのを見届ける。

 すると、祐一へと念話が届いた。

 

『祐一、聞こえる?』

 

『ああ、聞こえている』

 

 声の主は、先ほどなのはと戦闘を繰り広げていたフェイトであった。

 

『無事にジュエル・シードも捕獲出来たから、わたし達は戻ろうと思ってるんだけど、祐一はこれからどうするの?』

 

『俺はあの子と一緒に戻る。フェイト達は先に戻っておけ』

 

 祐一が言っている"あの子"とは、当然、なのはのことである。

 

『――うん、わかった』

 

 その言葉を聞くと、フェイトの声に元気がなくなったように祐一は感じた。

 祐一は僅かに思考すると、フェイトへと言葉を掛ける。

 

『フェイト』

 

『……?』

 

『よく頑張ったな』

 

『っ! うんっ! ありがと、祐一』

 

 念話越しではあるが、嬉しそうなフェイトの声を聞き、祐一は笑みを浮かべる。

 

『また連絡するよ。帰ってゆっくり休むといい』

 

『うん、わかった。またね、祐一』

 

 フェイトの言葉を聞き、祐一は念話を終了する。

 そして、祐一はもう一人の少女へと目を向ける。そこにはフェイトが去っていった方向を呆然と眺めている白い魔導師の少女――高町なのはが立っていた。

 

 

 

side 高町なのは

 

 戦っていた女の子――フェイト・テスタロッサが去って行った方向をわたしは呆然と見つめていることしか出来なかった。

 

「また、負けちゃったな……」

 

 ――強かった。今のわたしでは、到底勝てるとは思えないほどに。

 だけど、わたしは戦いに負けた悔しさよりも、何か別の感情が湧き上がっていた。

 

「わたしは……どうしたいんだろ……?」

 

 自分の気持ちが分からず、思わず口に出してしまう。

 

「なのは、大丈夫……?」

 

 すると、わたしの側まで来ていたユーノくんが心配そうに声を掛けてきた。

 

「うん。大丈夫だよ。……それより、ごめんね? 結局、ジュエル・シードを二つも取られちゃって」

 

「ううん、いいんだ。なのはが無事だったし、また取り返せばいいよ」

 

 わたしの言葉にユーノくんは、そう答えてくれる。

 そんなユーノくんの優しさが辛くて、わたしはもう一度、ごめんね、と静かに呟いた。

 ユーノくんもそんなわたしを見て、何も言えなくなったのか、悲しそうな表情となり、黙ってしまった。

 そんな気まずい空気が流れ出し始めたときだった。いつの間に近づいてきたのか、一人の男性の声が辺りに響いた。

 

「――ジュエル・シードは取られてしまったか」

 

 わたしは、はっと声が聞こえた方向へと振り向いた。そこには、しばらく姿が見えなかった、祐一お兄さんが立っていた。

 

「祐一さんっ! 今まで、どこにいたんですかっ!?」

 

 ユーノくんは思わずといったように声を荒げる。ユーノくんは、わたしのことを心配して、祐一お兄さんに激昂しているのだと思う。祐一お兄さんが側に居てくれれば、今回の戦闘も勝てたのに、と。

 だけど、ユーノくんの言葉にも祐一お兄さんは表情を崩さず、淡々と答えた。

 

「――近くで、お前達の戦いを見させてもらっていた」

 

 その言葉に、わたしはそれほど、動揺することはなかった。心の中で、やっぱり、と納得していた。

 

「見てたって……何で手伝ってくれなかったんですかっ!?」

 

「すまないとは思ったんだが、な。手を出そうかとも考えていたが――なのはの表情を見て、手伝うのを止めた」

 

 ユーノくんに冷静に言葉を返しながら、祐一お兄さんは真剣な表情でわたしを見つめてきた。

 わたしも、同じように祐一お兄さんを見つめる。

 

「――逆に聞こう。なのはは、俺に手を貸して欲しかったか?」

 

 わたしは、祐一お兄さんに手を貸して欲しかったのだろうか? ――それは違うと、わたしは自身の思いを否定する。

 確かに、ジュエル・シードを集めることは最優先ではあるけど、あの子――フェイトちゃんとの戦いは、わたしがやっていること。だから、例え、祐一お兄さんでも手を貸して欲しいとは思っていなかった。

 

(そっか。祐一お兄さんは、わたしのことを考えて、敢えて手を出さなかったんだ)

 

 そんな祐一お兄さんの気遣いに、わたしは思わず笑みを浮かべる。

 

「まだ頭の中がごちゃごちゃしてるし、わかんないことが一杯で、自分がどうしたいのかもわかってない……けど……」

 

 わたしは深呼吸した後、祐一お兄さんの目を見ながら話す。

 

「自分がどうしたいのか、ちゃんと考えて決めるよ。胸を張って歩いて行けるように。自分の考えに自信を持てるように」

 

 祐一お兄さんは黙ってわたしの話を聞いていたが、話を終えると、真剣な表情を崩し、笑みを浮かべた。

 

「――そうか。なら、しっかり自分がどうしたいのかを考え、後悔しないようにするといい。もし、どうしようもないことがあったら、そのときは俺も手伝おう」

 

「うんっ!」

 

 わたしが笑顔で返事をすると、祐一お兄さんはその大きな手で頭を撫でてくれた。少し恥ずかしかったけど、それよりも嬉しい気持ちの方が大きかった。

 

「じゃあ、そろそろ戻ろう。流石に疲れちゃったよ」

 

「そうだな。流石に俺も眠い」

 

「僕も、疲れたよ」

 

 そう言い合い、わたし達は旅館へと戻っていった。

 

side out

 

 




最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます。
誤字脱字などありましたら、指摘をお願いします。

更新が日に日に遅くなっていますが、頑張ります。
今年の更新は無理だと思いますが、早めに更新出来るように頑張りたいです。

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