更新が遅くなり、大変申し訳ございませんでした。
楽しんで頂けると幸いです。
あれから何日か経ったある日、祐一は月村家へと歩みを進めていた。
祐一が月村家へ向かっている理由は、昨日、アリサから連絡があり、
「明日、すずかの家でお茶会をするので祐一さんも来て下さい」
と誘われたからである。
だが、祐一としては行ってもどうしたらいいのかわからなかったので、
「俺が行かなくても三人で楽しんだらいいんじゃないか?」
と言ったところ、
「祐一さんが来たらなのはも喜びますし、わたしも久しぶりに祐一さんとお話したいですからっ!」
と言われてしまい、祐一は結局アリサに押し切られる形となり、参加を余儀なくされてしまったのだ。
そのことを思い出し、祐一は一つ溜め息をつきながら月村家へと歩みを進めた。
「――相変わらず大きな屋敷だな」
祐一は月村家の前でそう一人で呟いた後、インターホンを押した。しばらくすると、メイドの格好をした綺麗な女性が扉を開けて現れた。
「いらっしゃいませ、祐一様」
そう祐一に挨拶したのは、月村家のメイド長である――ノエル・K・エーアリヒカイトだった。クールな性格で滅多なことでは表情を動かさないが、心優しい女性であり、綺麗な大人の女性というのが、祐一の認識である。
「邪魔させてもらうよ、ノエル」
「皆様、すでにいらっしゃってますよ」
ノエルはそう言いながら家へと招き入れる。
祐一が案内された部屋に入ると、なのは達が談笑している姿を見つけた。
「すずかお嬢様。祐一様がいらっしゃいました」
ノエルが声を上げると、なのは、すずか、アリサの三人が祐一の方へと視線を向けた。すずかとアリサは笑顔であったが、なのはは祐一の姿を見つけると、少し驚いた表情となっていた。
「お邪魔するよ、すずか」
「祐一さん、いらっしゃい」
「来てくれてよかったですっ!」
「あ、あれ? なんで祐一お兄さんが……?」
祐一の言葉に三人がそれぞれ声を上げる。
「祐一様、お飲み物をお持ちしますので、何に致しましょう?」
「冷たいお茶でももらえるか?」
「かしこまりました」
ノエルは一礼すると、そのまま退出した。
「それで、何で祐一お兄さんがここにいるの?」
「ふふん。それは、あたしが祐一さんを呼んだからよっ!」
なのはの言葉に何故かアリサが得意げに胸を張る。
そんなアリサを見て、祐一は一つ溜め息をつきながら空いている椅子に腰掛けた。
「聞いての通り、アリサに呼ばれて来た」
「そ、そうだったんだ。駄目だよ、アリサちゃん。祐一お兄さんに無理言っちゃ」
なのははアリサを見つめながらそう言葉を口にするが、アリサは相変わらず不敵な笑みを浮かべていた。
「ふふん。なによ、なのは、祐一さんが来てくれて、嬉しいくせに」
「にゃ!? べ、別にそんなこと思ってないもんっ! いや、でも、だからって、祐一お兄さんが来なきゃよかったとか、そういう意味でもなくて……っ!」
アリサの言葉になのはは頬を赤く染め、両手を振りながら弁解する。だが、もはや言っていることは支離滅裂であり、明らかに自爆していた。
「素直に嬉しいって、言えばいいのに」
「だ、だからぁ~っ!」
「ふふ」
アリサの言葉に再びなのはが身振り手振りで説明を始める。そんな二人をすずかは笑顔で見つめていた。
「相変わらずだな」
「そうですね」
祐一の言葉にすずかは笑顔で答えた。
そして、アリサがなのはをからかい終えた後、四人で談笑していると、ふいにアリサが真剣な表情となり、なのはへと声を掛ける。
「――今日は元気そうね、なのは」
「え……?」
「なのはちゃん、最近、少し元気が無かったみたいだから……」
すずかもアリサの言葉に便乗するように、僅かに表情を曇らせながら話す。
(なるほど。そのためのお茶会、というわけか――なのはは、本当に良い友人に恵まれているな)
祐一はすずかとアリサの気持ちに気付き、笑みを浮かべる。
二人は最近、なのはが元気がないことに気付いており、それを心配して今回のお茶会を開いたようだ。
「もし、何か心配事があるなら話してくれないかなって、二人で話してたんだ」
「――すずかちゃん、アリサちゃん」
そんな二人の言葉に、なのはは驚きと喜びがない交ぜになった表情となっていた。
二人を心配させてしまったことと、そんな自分を心配してくれていることの嬉しさでそうなっているのだろうと、祐一は思った。
そんな感動のシーンとなっていたときだった。
「きゅいーー!!」
動物の大きな鳴き声が聞こえた。
祐一は僅かに眉を顰め、声がした方を見る。するとそこには、見覚えのあるフェレットが一匹の猫に追い掛け回されている光景があった。
三人は暴れる二匹に慌てた様子で、声を上げてる。
するとそこに、大きなお盆にお菓子と飲み物をを載せて運んできたノエルの妹である――ファリン・K・エーアリヒカイトがやってきた。
(まったく、タイミングの悪い)
祐一は心の中で嘆息していると、自分が思った通りの状況が目の前で起こり始めた。
「わわっ!? わわわっ!?」
ファリンがお盆を持ったまま、足下を駆け回る二匹の動物に驚き、くるくると回り始める。ファリンは姉であるノエルとは違い、少々抜けているところがあり、こういう状況に弱かった。
「ゆ、ユーノくんっ!?」
「アイっ! 駄目だよっ!?」
なのはとすずかが叫ぶが、それでも二匹は走り回り、
「きゅ~~」
くるくると回っていたファリンが目を回し、お盆を持ったまま後ろに倒れそうになる。
「ファリンっ! 危ないっ!?」
「わわっ!?」
すずかが叫ぶが時すでに遅く、ファリンが持ったお盆が宙に舞い――そうになった。
「大丈夫か? ファリン」
「ゆ、祐一さんっ!?」
ファリンが驚きの声を上げる。
祐一は素早く移動し、倒れそうになったファリンを左腕で受け止め、宙を舞いそうになったお盆を器用に右手だけで落とさないように持っていた。
ファリンは祐一に抱きしめられないまでも、左腕で軽く受け止められているため、恥ずかしさから頬を赤く染めていた。
そんな二人へとなのは、すずか、アリサが近づいてきた。
「ファリン、怪我とかしなかった?」
「あ、はい。大丈夫ですよっ!」
すずかが心配そうに問い掛ける。ファリンは祐一から体を離しながら笑みを持って答えた。
「祐一さん。ありがとうございます」
「いや、別に構わない」
ファリンの変わりにお礼を述べるすずかに、祐一は何でもないように答える。
「さっすが祐一さんねっ!」
「――ファリン、ちょっと羨ましいなぁ~」
アリサも祐一に賛辞を贈っていたが、なのははファリンを羨ましそうに見つめていた。そんななのはの言葉を、アリサが聞き逃すはずもなかった。
「んふふ。なのはも祐一さんにあんな感じで抱きしめてもらいたかったのぉ~?」
「んにゃ!? べ、別にそんなつもりで言ったんじゃ……っ!?」
「またまたぁ~そんな言い訳しなくていいからぁ~」
アリサの言葉になのはが頬を赤く染めながら叫ぶが、アリサはにやにやと笑みを浮かべるだけで聞こうとはしなかった。
そんな二人のやり取りを見つめていた祐一は、再度溜め息をついたのだった。
そして、その後は特に何事もなくお茶会をしていた。なのは達三人も久しぶりに面と向かって会話をしていたためか、とても盛り上がりとても楽しそうにしていた。
――そんな、楽しい一時を過ごしていたときだった。
(――魔力の反応がある、か。――しかもかなり近い)
祐一はこの周辺で魔力の反応があったことに気付いた。
そして、おそらく同じように気付いているであろう二人へと念話を飛ばした。
『――なのは、ユーノ』
『うん、わかってる。すぐ近くだ』
『僕も感じました』
祐一の念話に二人は即座に反応を示した。なのはとユーノの二人も近くで魔力反応があったことに気付いていたようだ。
『どうしよう? 祐一お兄さん』
『さて、な。流石にアリサとすずかにばらすわけにもいかないしな』
今、この場には魔法とは全く無縁であるアリサとすずかがいるため、祐一もうかつには動けないと判断していた。なのはも同じことを思ったようで、祐一を見つめ、どうしようと僅かに眉を寄せていた。
『――そうだっ!』
すると、ユーノが突然叫んだかと思うと、一人で森の中へと駆けて行った。
祐一はユーノが走って行ったのを見て、なるほど、と静かに頷いた。
なのはは一瞬困惑していたが、祐一の表情を見てユーノの意図に気付いたようだ。
「あれ? ユーノ、どうしたの?」
「うん。何か見つけたのかも。……わたし、ちょっと探してくるね」
「一緒に行こうか?」
「大丈夫。すぐに戻ってくるから、待っててね!」
ユーノが思いついた作戦とは、現在、動物の姿をしているユーノは自由に動けるため、ジュエル・シードの方へと向かい、それを心配したなのはが追いかけるという、単純なものであった。
そして、作戦通りになのははユーノの後を追っていった。
祐一はそんな二人へと念話を飛ばす。
『二人で大丈夫か?』
『大丈夫! ――って、確定は出来ないけど、まかせて! 祐一お兄さんは何かあったときのために待機しといて!』
『そうか。無理はするな?』
『うんっ! ありがとう!』
なのはの元気な声を聞き、祐一は念話を終えた。
二人ならば大丈夫だろうと思い、祐一は残っていた静かにお茶を飲み干した。
side 高町なのは
――わたしとユーノくんはジュエル・シードの反応があった場所までやってきた。それはよかったんだけど――
「――あ、あれは?」
「――た、たぶん、あの猫の大きくなりたいっていう願いが正確に叶えられたんじゃない、かな?」
そっかと、わたしは呟きながら、ジュエル・シードを取り込んでしまった、目の前にいる大きな猫を見つめる。
とても巨大だ。まるで怪獣映画に出てくるぐらいの大きさである。
見た感じ、襲ってくる様子もなく、特に害もないとは思う。
「にゃ~ん」
「――だけど、このままじゃ危険だから元に戻さないとね」
「そ、そうだね。流石にあのサイズだと、すずかちゃんも困っちゃうだろうし」
ユーノくんの言葉に返事をし、レイジングハートを取り出す。
「襲ってくる様子はなさそうだし、ささっと封印しよ。レイジングハート……っ!?」
わたしがレイジングハートを出して準備をしようとした瞬間だった。
――突然、わたし達の後方から金色の光が猫目掛けて放たれた。
「にゃお~ん!?」
猫はその攻撃にびっくりしたのか、表情を少しだけ歪めて、たたらを踏む。
「っ!?」
わたしは金色の光が放たれた方向を見る。――するとそこには、金色の長髪をツインテールにし、黒を基調とした服に赤黒のマントを付けた、わたしと同い年くらいの女の子が少し離れた電柱の上に立っていた。
「バルディッシュ、フォトンランサー連撃」
わたしが驚いていることも気にせず、その女の子が持っている杖の先端を猫に向け、続けて金色の光を放つ。
(――あれは、魔法っ!? じゃあ、あの子はわたしと同じ、魔導師ってこと……?)
先ほどの金色の光は魔力弾だったようだ。
「なっ!? 魔法の光……そんな……」
「っ!! レイジングハート、お願いっ!」
ユーノくんが第三者の出現で驚いているけど、このままではいけないと思い、わたしはレイジングハートに告げた。
『Stand by ready set up』
わたしは瞬時にバリアジャケットを纏うと、猫の前に飛び出す。
『Wide area protection』
レイジングハートの声とともに展開された障壁によって、相手の魔力弾を防ぐ。
「……魔導師……?」
相手の女の子はわたしを見てそう呟く。少し目を見開いていることから、驚いているようだ。
だが、それも一瞬ですぐに攻撃を仕掛けてくる。
手に持っている杖の先端に、今までと同じように魔力を込めこちらへと撃ってきた。
「にゃお~ん!?」
「わわっ!?」
だけど今回の攻撃は直接打ち込んでくるものではなく、猫の足下へと攻撃してきた。
そこまではわたしの障壁は届かず、その攻撃で猫が転倒してしまった。
(な、なんなの、この子……? どうしてこっちを攻撃してくるの……?)
わたしは倒れた猫を気にしつつ、相手を油断なく見つめながら杖を構える。ただ、未だに状況を把握していないわたしは、相手を攻撃する気持ちになれなかった。
わたしがそう考えている間に、相手の子もこちらに近づいてきていた。
「――同系の魔導師。ロストロギアの探索者か」
赤い瞳をわたしに向け、その子は静かに呟く。
「間違いない。僕と同じ世界の住人。そして、この子はジュエル・シードの正体を――」
ユーノくんが相手を見つめながらそう呟く。相手の子もユーノくんに気付き、少しだけ視線を向けた後、またすぐに視線をわたしの方へと戻した。
「――バルディッシュと同系のインテリジェントデバイス」
「バルディッシュ……?」
「――ロストロギア、ジュエル・シード」
『Scythe form set up』
その子が呟くと、持っているデバイス――バルディッシュの形状が変化し、その先端から金色の魔力光が出てきて、まるで鎌のように変化した。……その姿はまるで、死神を彷彿とさせるような姿であった。
わたしが黙ったまま見つめていると、その子は両手でバルディッシュを正眼に構えて言った。
「――申し訳ないけど、頂いていきます」
そう言ったと同時に、こちらに瞬時に接近し鎌を振り抜いてきた。
「っ!?」
とても速くて鋭い攻撃を、わたしは何とか飛行魔法でその攻撃を回避する。
だけど、ホッとしたのも束の間、その子は右手にバルディッシュを構えた姿勢でこちらを見つめ、
『Arc saber』
「ふっ!」
思い切りスイングして振り抜いた。
すると、鎌のように先端から出ていた魔力光がこちらに向かって放たれ、そのまま回転しながらすごい速度で迫ってきた。
「っ!?」
わたしはその攻撃を障壁を張り、何とかやり過ごした。
だけど、それは相手も予測済みだったようで、先ほどの攻撃に紛れてこちらへと手の届く距離まで近づいてきていた。
そして、バルディッシュを上段から振り下ろしてくる。
「きゃっ!?」
その攻撃もわたしはレイジングハートで防御することによって防いだ。
相手はこの攻撃は防がれると思っていなかったのか、少しだけ目を大きく開き、驚いた表情となっていた。
わたしは相手の表情を見つめながら、言葉を放つ。
「な、なんで、急に、こんな……っ!」
「――答えても、たぶん、意味がない」
わたしは、相手に何故このようなことをするのか問い掛ける。だけど、返ってきた言葉は冷たく突き放すような言葉だった。
「くっ!?」
鍔迫り合いの状態から、何とか相手の攻撃を跳ね返して距離を取る。
そして、瞬時にレイジングハートをシューティングモードに切り替えた。相手も鎌を仕舞うと、こちらと同じように杖を構えた。
わたしは相手を見つめながら思考する。
(きっと、私と同い年くらい。綺麗な瞳と綺麗な髪。……だけど、この子は――)
そう思考していると、倒れていた猫がその身を起こした。
わたしはそれに一瞬だけ気をとられた。――それが、いけなかった。
「――め――ね」
相手の子が何かを呟くとほぼ同時に、金色の魔力弾がわたしを襲った。猫に気を取られていたわたしはそれに反応することが出来ず、それに直撃した。
攻撃の余波と爆風でわたしは空へと舞い上がり、そこで意識を手放した。
side out
なのはとフェイトが交戦している中、それよりも遥か上空からその戦いを見つめている一人の青年の姿があった。
漆黒のロングコート型のバリアジャケットを纏った青年――黒沢祐一はロングコートをはためかせながら、なのはとフェイトの戦闘を見つめていた。
「やはり、今のなのはではフェイトには歯が立たないか」
祐一は当然か、と静かに呟く。
フェイトとなのはでは、魔導師となってからの経験値が違うのだ。いくらなのはが才能豊かで、魔力量も多いとはいえ一朝一夕で勝てる相手ではない。
祐一はフェイトに撃墜され、ユーノに助けられるなのはを見つめる。
「フェイトも手加減していたようだから大丈夫だとは思うが、そろそろ行くか」
そう呟き、祐一はなのはとユーノの元へと向かう。
(――この戦いが、きっと状況を良い方向へと動かしてくれるだろう)
それが、祐一がこの戦いに手を出さなかった理由でもあった。
一度、なのはは敗北を経験するべきであると思ったのと、フェイトとなのはを会わせることが祐一の目的であった。
祐一はそう思考しながら、なのは達の元へと向かった。
その後、祐一はユーノから状況を聞いた後、なのはを抱きかかえすずかの屋敷へと戻った。
アリサやすずか達からは、「何があったんですかっ!?」と、迫られたが本当のことは言うわけにもいかなかった祐一は、「ユーノを探しているときに転んで気絶してしまったようだ」と答えた。
二人は若干眉を顰めていたが、すぐになのはが起きて俺の話に合わせてくれたので、納得してくれたようだった。
なのはは皆に心配を掛けたことと、フェイトに会って何か感じたのか、終始悲しい表情を見せていた。
そんななのはを見て、祐一はほんの少しだけ罪悪感に苛まれた。
その後、なのはが目を覚ましたことで解散となり、祐一は皆と別れて別の場所へと足を向けていた。
――もう一人の魔法少女に会うために。
side フェイト・テスタロッサ
わたしは今、アルフと一緒にこの地球にいる間だけ借りているマンションに向かっている。
今回の件で、わたし達以外にもジュエル・シードを集めている人がいることには驚いたけど、無事にジュエル・シードを確保することが出来てよかった。
「――少し邪魔が入ったけど、無事に手に入れることができたよ」
「さっすが私のご主人様だねっ!」
「ふふ、ありがと、アルフ」
わたしがそう言うと、横を歩いているアルフが笑顔で褒めてくれた。そんなアルフに笑顔を見せながら声を掛ける。
「でも、いくつかはあの子が持ってるのかな?」
「そうかもしれないねぇ~。ま、そのときはそいつからジュエル・シードを奪えば済む話だからねっ!」
アルフが余裕とでも言うように、拳を振り上げながら言ってくる。いつもの感じのアルフにわたしは苦笑する。
「出来れば戦いたくはないんだけど、ね」
「フェイト……」
アルフが少し心配そうに見つめてくる。
わたしは大丈夫、とアルフに笑顔を見せと、アルフも少しぎこちないが笑顔を見せてくれた。
「そういえばこの世界なんだよね? 祐一が住んでる場所って」
「そう聞いてるけどね。……祐一に会いたいかい、フェイト?」
「確かに会いたいけど、わたし達はジュエル・シード集めでこの世界に来てるし。……それに――早く母さんにジュエル・シードを届けてあげないといけないから」
「フェイト……」
もし会えるのなら、祐一に、会いたい。
祐一と別れてから約一年が経つけど、ほんとはもっと長い時間会ってないんじゃないかって思えるくらい、時間が経っている気がしている。
わたしを魔導師として一人前に育ててくれた先生であり、わたしが尊敬している人であり、わたしの大好きな人だ。会いたくないなんて、思える訳もなかった。
だけど、待っている母さんのために、一刻も早くジュエル・シードを集めないといけないし、なにより、祐一に迷惑を掛けたくはなかった。
「――大丈夫だよ。わたし、強いから」
「……うん。わかったよ」
アルフはそんな私の言葉に納得はしていないようだったけど、静かに頷いてくれた。
それから、アルフとこれからのジュエル・シード集めをどうするかっていう話をしながら歩いていると、程なくして目的地であるマンションに着いた。
「――誰かいるね?」
「え? ――ほんとだ。誰だろ?」
アルフが見ている方向を見ると、マンションへと入っていく玄関口に一人の男性が壁に背を預けて立っていた。誰かを待っているようだった。
街を歩いているときに見掛けた一般の男性よりも長身で、もう夜だというのに漆黒のサングラスを掛けていた。当然、わたし達は他に知り合いなどいようもないので、そのまま素通りしようと思っていた。
だけど、その男性はわたし達に気付くと、壁から体を離してこちらに近寄ってきたのだ。
そして、それを見たアルフはわたしを守るように前に立ち、その男性に向かって声を掛けた。
「どちら様か知らないけど、あたし達に何か用事かい?」
「あ、アルフ……」
わたしはアルフの言葉に僅かに汗が流れるのを感じた。
いくらわたしを守ってくれているとは言っても、流石に好戦的過ぎる感じが否めなかったからだ。
この世界で、悪目立ちすることは避けたかった。
「だ、駄目だよ、アルフ。そんな威圧するような感じじゃあ」
「――わ、わかったよ」
わたしがアルフの服を少しだけ引っ張りながら言うと、アルフはしぶしぶといった感じで引き下がってくれた。
わたしはホッとしながら、わたし達から少し離れた場所で歩みを止めた男性へと話しかける。
「す、すみません。それで、わたし達に何か用でしょうか?」
わたしがアルフの変わりに声を掛けると、男性がふっと笑みを浮かべた。
「久しぶりの再会にしては、ずいぶん好戦的だな、アルフ」
「……えっ!? あんた、まさか――」
アルフが男性の声を聞き、困惑した表情となっていた。それもそのはずだ。
――今の声は――
「だが、元気でやっているようでなによりだ」
笑みを浮かべながら話す男性をわたしはアルフと同じように呆然と見つめていた。
――そうだ。何で見たときに気付かなかったんだろう――
「約一年ぶりか」
そう言葉を口にして、その男性はサングラスに手を掛けると――それを外した。
「元気にしてたか? ――フェイト」
その言葉を聞いたら、わたしの瞳からは自然と涙が流れてきた。
――ああ、わたしは、この人に会いたかったんだ――
わたしは駆け出し、その男性――黒沢祐一の胸の中へと飛び込んだ。
side out
最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます。
誤字脱字などありましたら、指摘をよろしくお願いします。