魔法少女リリカルなのは~黒衣の騎士物語~   作:将軍

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なのはの決意、プレシアの想い

 なのはが魔導師となり、ジュエル・シードを集めるようになってから一週間が経った。

 元からの強大な魔力量の恩恵もあり、なのはが現在までで集めたジュエル・シードの数は五つとなっていた。

 今日はジュエル・シード集めをするとは、祐一は聞いていなかったので、今は自宅で休んでいるところであった。

 そんなとき、祐一の携帯になのはからメールが届いた。内容は、

 

「ユーノくんと相談したのですが、今日のジュエル・シード集めはお休みにします。祐一お兄さんもしっかり休んでね!」

 

 というものであった。おそらく、連日のジュエル・シード探しでなのはの体力も限界だったのだろうと、祐一は考えた。

 また、どうやらアリサやすずかとの約束もあるようだったので、祐一は「了解したよ。皆で楽しんでくるといい」という文面を打ち、メールを送信して携帯を閉じた。

 

「今日のジュエル・シード集めはなし、か。ちょうどよかったかもしれないな」

 

 祐一はそう呟き、机の上に置いてある手紙を手に取る。

 その手紙の差出人は、一年前、祐一に自身の娘である、フェイト・テスタロッサを一人前の魔導師にするという、依頼を出した人物――プレシア・テスタロッサであった。

 その手紙には簡単に、こう書かれていた。

 

 久しぶりね、祐一くん。あれから元気にしているかしら?

 久しぶりで悪いのだけど、あなたにお願いしたいことがあって連絡させてもらいました。

 手紙で話せる内容ではないから、直接会って話がしたいです。

 もし、話を聞く気があるのなら、《時の庭園》まで来て下さい。

 前回と同じように、今回も来てくれることを願っています。

 

                              プレシア・テスタロッサ

 

 この手紙が届き、祐一はしばらくの間考えていた。話を聞きに行くか、否かを。

 

「――だが、結局、行かないという選択肢は俺にはないのだがな」

 

 一人、祐一は自嘲気味に笑みを浮かべる。

 祐一がここまで考えていたのは、今現在、ジュエル・シード集めに奔走している、なのはの存在であった。

 いくら魔導師としての才能に満ち溢れていたとしても、なのはは小学三年生の子供なのだ。ユーノも付いているとはいえ、祐一は心配だった。

 祐一もそろそろ休息を取ってはどうかとなのはに言おうとしていたので、今回の話は行幸であった。

 

「なら、善は急げだな。――行くか、プレシアさんの話を聞きに」

 

 祐一はジャケットに腕を通し、プレシアがいる《時の庭園》へと向かった。

 

 

 

 祐一は約一年ぶりに《時の庭園》へとやってきた。

 

「フェイト達は元気でやっているのだろうか」

 

 出掛けているのか、フェイトとアルフの気配は庭園内にはなかった。

 祐一は、今はプレシアの話を聞かないといけないと思い、思考を切り替える。

 そして、程なくして祐一はプレシアがいるであろう部屋へと辿り着いた。

 一度、祐一は深呼吸をすると、扉をノックする。

 

「――祐一です。プレシアさん、入ってもいいですか?」

 

 祐一がそう声を掛けると、部屋から久しぶりに聞く声が聞こえてきた。

 

「――ええ。入ってちょうだい」

 

「失礼します」

 

 祐一が扉を開け部屋へ入ると、椅子に座ったプレシアの姿があった。

 

「よく来てくれたわね。さぁ、座ってちょうだい」

 

「ありがとうございます」

 

 プレシアに勧められ、祐一も椅子に座る。プレシアと対面になる形となる。

 祐一が久しぶりに見るプレシアの姿は、以前と変わりないように見えたが、どうも顔色が以前にも増して悪くなっているように祐一は感じた。

 

「お久しぶりです、プレシアさん」

 

「ほんとに久しぶりね。祐一くんは元気でやってる?」

 

「ええ。俺の方は何も変わりなく。……プレシアさんは体調の方は大丈夫なんですか?」

 

 祐一の言葉にプレシアは笑みを浮かべる。

 

「"そのこと"も含めて、あなたに話があったから手紙を出したの。――まずは私の体調のことから話さないといけないわね」

 

 プレシアの言葉に祐一は姿勢を正し、真剣な表情でプレシアを見つめる。

 そして、プレシアがゆっくりと口を開いた。

 

「――私の命は、もう永くないの」

 

「……事実、なんですか……?」

 

 祐一はプレシアの言葉を聞き、やはりかという思いと、信じたくない気持ちが心の中で渦巻き、そう言葉を返すのがやっとだった。

 そんな祐一を見つめながら、プレシアは静かに頷いた。

 

「医者には診てもらったのですか? ミッドチルダの技術力ならば、治せないことはないんじゃないですか?」

 

「もう診てもらったわ。……もう少し早く治療を受けていれば違う結果になったのかもしれないけどね。もう遅かったみたい」

 

 祐一はその言葉に、思わず頭を抱える。

 

「アリシアが死んでしまった、あの忌まわしい事故から少しづつだけれど症状は出ていたの。だけど、私はアリシアを甦らせるために研究を続けて、医者に診てもらうこともしなかった。そのツケが今になって回ってきた、ということかしらね」

 

 プレシアはそう話しながらも、笑みを絶やすことは無かった。

 その表情は、"もう決まってしまった現実"と向き合う決心を付けたかのようであった。

 

(――何故、そんな表情が出来るんだ……?)

 

 祐一はプレシアがもう永くないという現実にショックを受けるとともに、今のプレシアの表情を見て疑問が浮かぶ。

 

 ――何故、自分が死んでしまうというのに、そんな表情が出来る?

 

 頭を悩ませている祐一にプレシアは声を掛ける。

 

「――ここからが私の中での"本題"で、私の願い――」

 

「願い、ですか?」

 

 未だに頭を抱えている祐一だが、プレシアへと何とか言葉を返す。

 祐一の言葉にプレシアは頷き、話を続けた。

 

「確かに、私はもう永くはない。だけど、ただ黙って死を迎えるわけにはいかないの。……私にはやらなければならないことがあるから」

 

 祐一は黙ってプレシアの言葉に耳を傾ける。

 

「まず、忘れられし都《アルハザード》を目指すために必要な《ジュエル・シード》という青い宝石を集める」

 

「ジュエル・シード? それは、地球に散らばっている宝石の話ですか?」

 

「ええ、そうよ。知っているの?」

 

「そのジュエル・シードを回収しに来た少年と会って、その時に話を聞いたんですよ」

 

「そういうこと。ジュエル・シードの方は、すでにフェイトに頼んでいるから、祐一くんにはフェイトのサポートをお願いしたいの」

 

「サポートですか?」

 

「ええ、"サポート"よ。祐一くんは基本的に、フェイトがジュエル・シードを集めているところを見ているだけでいいわ。例え、"何らかの理由"でフェイトがジュエル・シードの捕獲に失敗しても無視して構わないわ」

 

 そのプレシアの言葉に祐一は訝しげに眉を顰める。

 

「俺がすることは、フェイトが危険なときに手助けをすることぐらいということですか? ジュエル・シードが必要なのでは?」

 

「確かにジュエル・シードは"いくつか"は必要だけど、"全て"が必要なわけではないわ」

 

 その言葉を聞いても祐一はいまいち合点がいってなかったが、無理に集める必要がないのなら、それでいいかと思い、プレシアへと頷きを返す。

 祐一が頷いたのを確認し、プレシアはさらに口を開いた。

 

「そして、"今から話す内容"が本題よ。いい? よく聞いて。――私の願いは――」

 

 

 ――祐一はプレシアの言葉を聞くと、驚愕の表情を浮かべた。

 

 

「それが、プレシアさんの願いだったんですね。ですが、それでは――」

 

「いいのよ。私はどうせ永く生きられない。だから、これが私の中では最善だと思ったのよ」

 

「…………」

 

 プレシアの言葉を聞き、祐一は何も言えずに黙ってしまう。

 そんな祐一を見つめながら、プレシアは変わらぬ表情で話を続ける。

 

「――最初は、あの娘のことをただの道具としか見てはいなかった。だけど、祐一くんが来てリニスにもいろいろ言われて。そして、祐一くんとリニスがいなくなってからのこの一年間で分かったわ」

 

 

 

 ――フェイトも私の大事な娘なんだ、とね。

 

 

 

 祐一はその言葉を聞き、今までリニスがやってきたことやフェイトの想いは無駄ではなかったと、心が打ち震えた。

 

 ――この感情は、久しく祐一が味わっていなかったものであった。

 

(やはり、この二人は親子だ。不器用ながらもお互いを想っているんだな。……だからこそ、上手くいかないこともあるようだが、な)

 

 プレシアはフェイトのために、フェイトはプレシアのためにと、お互いのために行動しているのにも関わらず、すれ違いがあることに僅かな憤りを感じた。

 

 ――また、それに対して何もすることが出来ない自分自身に対しても。

 

「――だから、私は"悪役"を演じ続けなければいけない。フェイトには辛い想いをさせてしまうかもしれないけれど、これが私の最善だと思うから」

 

 プレシアは全てを話し終え、黙って祐一を見つめている。

 そんなプレシアの視線を感じながらも、祐一は黙ったまま思考に没頭する。

 

(最善、か。俺には何が最善なのか、わかるはずもない)

 

 だが、と心の中で呟くと、祐一はゆっくりと口を開く。

 

「俺には何が最善であるかはわかりません。ですが、ここで降りるのも後味が悪すぎます」

 

 祐一の言葉にプレシアは嬉しそうな、それでいて申し訳なさそうな表情となる。

 

「――だから、俺に出来ることでしたら何でも言ってください。俺がプレシアさんの助けとなりましょう」

 

「っ! ……ありがとう。祐一くん」

 

 プレシアは祐一へとそう言葉を返した。

 その瞳からは、一滴の涙が光っていた。

 

 

 

 その後、祐一はプレシアと今後のことについて話し合い海鳴へと戻ってきた。

 そして、祐一が帰って来て目にしたものは――破壊された町並みであった。

 

「――これは、いったい何があったんだ? ……いや、考えるまでもない、か」

 

 どうやら、ジュエル・シードが発動してしまったようだな、と祐一は溜め息を吐く。しかし、ジュエル・シードの反応も感じないため、どうやらジュエル・シードは抑えたようだ。

 祐一は、破壊された町並みを歩きながら怪我人などがいないかを探して歩いた。

 だが、どうやら幸いにも死人が出る最悪の事態にはならなかったようであった。

 

(大事には至らなかったようだな。……なのはは大丈夫だったろうか?)

 

 祐一はジュエル・シードを抑えたであろうなのはのことを考える。

 

(――おそらく、今回の一件に責任を感じているだろうな)

 

 そんなことを考えながら祐一は家へと歩みを進める。

 そして、祐一が自身の家の近くまで帰ってくると――なのはがいた。そして、その傍にはユーノもおり、なのはを心配そうに見つめている。

 

「なのは」

 

「あ、祐一お兄さん……」

 

 祐一が名前を呼ぶと、なのははいつもの元気がある声でなく、覇気のない声で答える。

 祐一は元気の無いなのはへと近づき話し掛ける。

 

「俺がこちらにいない間に、ジュエル・シードが発動してしまったんだな」

 

「……うん……」

 

 なのはは今回のジュエル・シードの発動の経緯を祐一に説明を始めた。

 悲しい表情で話すなのはの言葉に祐一は真剣な表情で耳を傾ける。

 そして、なのはの話を聞き終え、祐一は一つ大きく息を吐いた。

 

「そうか。そんなことがあったのか」

 

「うん。……わたしが、あそこですぐにジュエル・シードを捕獲していたら、こんなことにはならなかったんだ」

 

 なのはは悲しさと悔しさから、瞳に涙を溜めていた。

 そんななのはの言葉を聞き、ユーノもまた、思いつめた表情で祐一に声を掛ける。

 

「僕が何を言っても聞いてくれなくて。……なのはが悪いわけじゃないのに」

 

「…………」

 

 ユーノの言葉を聞いても、祐一は表情を変えず、無言であった。

 しばらくの沈黙の後、なのはを見つめ、祐一がゆっくりと口を開いた。

 

「――では、ジュエル・シード集めを止めるか?」

 

「え……?」

 

 祐一の言葉に俯いていた顔を上げたなのはの表情には、驚きと困惑の感情が入り混じっていた。ユーノもまた、同じような表情で祐一を見つめている。

 そんな二人の表情に気付いているにも関わらず、祐一は淡々と話を続ける。

 

「今回の一件で自分の力不足を感じただろう? ならば、もうここからはジュエル・シード集めは俺が行おう」

 

「で、でも――っ!」

 

「別に俺一人というわけではない。元からジュエル・シード集めを一人でやっていたユーノと一緒に集める。ユーノ一人では難しかったかもしれないが、俺も手伝うのだから大丈夫だろう」

 

 祐一の言葉になのはは何かを言おうと口を開こうとするが、今回の一件が自分の所為でもあると思っているため、上手く言葉を口に出せないでいた。

 それに構わず、さらに祐一は話を続ける。

 

「少なくとも、俺はなのはよりは経験も豊富のつもりだし、戦闘もそれなりにこなしてきた。そんな俺とユーノが一緒になって探せば、ジュエル・シード集めも捗るだろう。……だから、お前の力はそこまで必要ないということだ」

 

「――っ!?」

 

「っ!? ゆ、祐一さんっ!」

 

 なのはは、尊敬している祐一に、自分の力が必要ないと言われたショックで堪えきれず、その大きく綺麗な瞳から大粒の涙を零す。

 ユーノも祐一の言葉に反論するように大きな声を上げる。その表情には、僅かながら怒りが混ざっていた。

 そんな二人を見つめ、祐一は少しだけ笑みを浮かべる。

 ユーノはそんな祐一の行動に首を傾げた。

 そして、再度、祐一はゆっくりと口を開いた。

 

「――だが、それはあくまで客観的に見た場合の意見だ」

 

 祐一の言葉になのはは、ハッと顔を上げる。顔を上げたなのはの視線の先に、笑みを浮かべる祐一の顔があった。

 

「俺はあえて自分からジュエル・シード集めを止めろとは言わない。だから自分の道は自分で決めろ。――ジュエル・シード集めを止め、普通の生活に戻るのか。それとも、"自分の意思"でジュエル・シードを集めるのか」

 

 祐一は笑みを消し、真剣な表情でなのはに問い掛ける。

 

「――なのは、お前はどうしたい?」

 

 

 

side 高町なのは

 

 ――嬉しかった。

 

 魔法の力を手に入れて、他の人には出来ないことが出来るようになって、その力で祐一お兄さんやユーノくんのお手伝いが出来るようになって嬉しかった。

 だから、祐一お兄さんの言葉を聞いたとき、わたしは本当に悲しかった。

 

「――お前の力はそこまで必要ないということだ」

 

 そう祐一お兄さんに言われ、わたしは今まで堪えていた涙を流してしまった。

 わたしでも、誰かの役に立てる。そう思っていたのに、わたしが見逃してしまったジュエル・シードが発動してしまい、いろんな人に迷惑を掛けてしまった。

 だから、祐一お兄さんにそう言われても仕方ないと、心のどこかで思ってしまった。

 

 ――だけど、それ以上に悔しかった。

 

 そんないろんな感情がぶつかり合って、自然と涙が零れるのを、わたしは拳を握り締め、なんとか堪えようとした。

 だけど自分が不甲斐ないと思えば思うほど、涙が自然と零れてきた。

 

 ――わたしは、止めるべきなのかな……?

 

 そうわたしが自問自答していると、俯いたわたしの頭の上から、いつもわたしの背を押してくれる力強い声が聞こえてきた。

 

「――だが、それはあくまで客観的に見た場合の意見だ」

 

 わたしは俯けていた顔をハッと上げる。

 

 ――そこには、わたしが尊敬してやまない祐一お兄さんの笑顔があった。

 

 驚いているわたしに構わず、祐一お兄さんは話を続ける。

 

「俺はあえて自分からジュエル・シード集めを止めろとは言わない。だから自分の道は自分で決めろ。――ジュエル・シード集めを止め、普通の生活に戻るのか。それとも、"自分の意思"でジュエル・シードを集めるのか」

 

 笑顔を消し、祐一お兄さんは真剣な表情でわたしに問い掛けてくる。

 祐一お兄さんは、あくまでわたしに考えさせて全てを自分で決めさせるつもりなんだ。――決して強制させることなく、自分の意思で。

 

 思えば出会ったときから、祐一お兄さんはこんな感じだった。

 普段は大きくて、ちょっと怖いけど優しいお兄さん。そして、わたしが困ってたり、悩みを抱えていたら助言などはしてくれるけど、最終的には自分で決めろと言うことがほとんどだった。

 わたしが見上げると、変わらずその漆黒の瞳がわたしを真剣に見つめていた。

 

 ――ほんとに会ったときから、変わってないね。祐一お兄さん――

 

 わたしは大きく深呼吸をする。それだけで、とても落ち着いた気持ちになり、変わらず見つめてくる祐一お兄さんへと言葉を口にする。

 

「自分のせいで、周りの人に迷惑を掛けることはとても辛いから。……だから、わたしはユーノくんのお手伝いをしようと思ったの」

 

 わたしは一呼吸間を置き、さらに言葉を口にする。

 

「でも今回、魔法使いになって、初めての失敗をして思った。……自分なりの精一杯じゃなくて、本当の全力で、ユーノくんのお手伝いでもなく、"自分の意思"でジュエル・シード集めをしようって、決めたんだ」

 

 そして、わたしは祐一お兄さんを見つめながら声を上げる。

 

「だから、わたしは魔法使いを止めないっ! もう絶対、こんなことにならないようにって、そう思ったから……っ!」

 

 わたしが声を上げた後、しばらく祐一お兄さんは黙ったまま、わたしを見つめていた。

 だけど、唐突にふっと表情を和らげ、その大きな手でわたしの頭を力強く撫でた。

 

「そうか。ならば俺は何も言わんよ。――その気持ちを忘れないようにな」

 

 わたしは祐一お兄さんに撫でられながら話しに耳を傾ける。

 

「今回の失敗も忘れずに、次の糧とすることだ。それでも、自分の力が足りないと思ったときは、俺やユーノを頼るといい」

 

 祐一お兄さんは、ぽんぽんとわたしの頭を優しく叩き、その手を放す。

 

「ユーノもなのはのサポートを頼むぞ。今日のように俺がいないときには、いろいろと助けてやってくれ」

 

「わかりましたっ! 祐一さん!」

 

 元気よく返事をしたユーノくんに、祐一お兄さんは笑みを浮かべる。

 

「さて、もう時間も遅くなってきたし、送って行こう」

 

「うん!」

 

 そう話し、祐一お兄さんの横に並び、歩き始める。

 わたしは横を歩いている祐一お兄さんへと声を掛ける。

 

「――祐一お兄さん。……ありがとね」

 

「――俺は何もしてはいない。なのはが全て自分の意思で決めたことだ」

 

「それでも、だよ。祐一お兄さんがそう言ってくれたから、わたしは自分の意思で決めることが出来たんだよ」

 

 わたしは自然と笑顔になりながら祐一お兄さんと話をする。相変わらずの素っ気無い言葉で思わず苦笑してしまう。

 いつも、何もしていないと祐一お兄さんは言うけど、その言葉一つ一つにどれだけわたしが助けられているか。

 

 ――ほんとうに祐一お兄さんは変わらないな。

 

 横を歩く祐一お兄さんを笑顔で見つめていると、ふと祐一お兄さんの手が空いていることに気付いた。

 わたしは普段から人に甘えるとか、そんなに得意ではない。――だけど、今日のわたしは少しだけ違う気分だったみたいだ。

 

「ん……?」

 

 祐一お兄さんが異変に気付き、こちらを向いた。

 それもそのはず――わたしが祐一お兄さんの手をぎゅっと握り締めていたのだから。

 

「――っ!」

 

 わたしは頬が熱くなっていくのを実感しながらも祐一お兄さんの手を握り締めていた。

 そんなわたしの行動に祐一お兄さんは少し驚いたような表情をしていたが、何も言わずにそのままにしてくれた。

 そんな気遣いもわたしは嬉しくて、頬を染めながらも笑顔で、さらにぎゅっと祐一お兄さんの手を握りながら家へと歩いていく。

 

 

 ――祐一お兄さんと繋がれた手の温もりが、とても心地よかった。

 

 

side out

 

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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