いつか見た理想郷へ(改訂版)   作:道道中道

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鉢、枝、衣、珠、貝

 

 

 

 血の臭いが濃かった。胃液と血が混ざりあった液体は舌触りが最悪で、口内で唾液とさらに混合されたせいもあるかもしれない。軽く吐き捨てると幾分か血の臭いは薄れるが、根本的に、鼻先に脂っぽく貼りついてくるような臭いは解決されてはいない。血の臭いの原因は、外側からだ。

 

 いつも血の臭いは、外側からしてくる。

 

 幼い頃からだ。イタチにとって、子供が獲得する原風景は、フウコと初めて見た時の綺麗な空と、倒壊した街並みから漂う血の臭いが同居したものだった。血の臭いを嗅ぐ度に、背筋が凍る。ましてや、自分が全く関与していない血の臭いというのは、最悪だ。

 

 誰かが、誰かの命を奪う。

 

 あっさりと人の命が消えていく。

 

 価値の無い命は、きっと、この世にない。

 

 たとえ、今まさに自分を殺そうとしている相手だとしても。

 

 そして消えた命からもたらされるのは、血と、腐った臭いだけ。

 

 まるで命は汚いものなのだと訴えかけてくるようだ。さながら、会場はそう、廃棄場にも似た場所と化していた。

 

 木ノ葉の忍と音の忍の争い。木ノ葉の方が優勢だと、イタチは判断した。一秒と見た訳ではないが、転がる死体は音の忍らだけだ。いくら、この場において音の方が数が優っているとはいえ、ここに顔を出している木ノ葉の忍はエリートばかりだ。そう易々とは崩れない。直に会場は木ノ葉によって制圧されるだろう。

 

 だが、問題はある。

 

 三つだ。

 

 一つは、会場にいるサスケの事である。彼がこの会場にいることは既に察知していた。他にもサスケや、サスケの同期らしい子たちがいるのも分かっている。カブトによる幻術で眠ってしまっている子もいれば、幻術返しで無事に意識を保っている子もいる。サスケが意識を保っているのは、ついさっき確認した。カカシやアスマ、ガイ、紅などが積極的に彼ら彼女らを音の忍から守っているおかげで無事だ。しかし、危険な場所にいる事には変わりはない。忍の戦闘において、絶対というのはありえない。いち早く、サスケを安全な場所へと避難させてやりたいという感情があるが―――先ほど確認した際に見えたサスケの表情は、どうしても不安を拭えない要素だった。

 怒りと、困惑。それらが混ざり合った表情だったのだ。

 

 二つ。それは、火影であるヒルゼンのこと。物見櫓の屋根。そこには、結界術が展開されてしまっている。半透明に紫色の、縦にとてつもなく長い直方体。四紫炎陣と呼ばれる結界術だ。四人がかりで展開される結界術で、強固さは、術の中でも上の方だ。少なくとも、争いが行われている最中……しかも、結界の前には暗部の数人を瞬く間に殺した君麻呂が控えている状態では、結界を破るのは困難だろう。

 結界の中には、大蛇丸と、その部下らしき四人の少年らと、ヒルゼン。部下の少年らは、結界の内側で結界を維持させているのに集中している為、実質、大蛇丸とヒルゼンの二人だけだ。

 どうだろう。

 どちらが上だろうか。

 少なくとも大蛇丸は、ヒルゼンに勝てる公算があるはずだ。無ければ、わざわざ一対一の状況を作らない。火影が敗れるというのは、良くない状況だ。ましてや、争いの最中にその【もしも】が実現してしまえば士気に関わる。この争いの先が不鮮明になってしまうのだ。しかしこの問題は、完全に、ヒルゼンに任せるしかなかった。

 

 三つ。そう、この問題が、何よりも、厄介だった。

 

 いや、厄介と言うのは、語弊があるかもしれない。けれど、それ以外の表現が分からなかった。雨に濡れても大きく困る事が無いというのに、帰り道につい傘を使ってしまうのと同じだ。勝手に意識が、厄介だと、認識してしまっているのだ。イタチは写輪眼のまま、じっと、友人を見たまま、視線を一切に振らなかった。

 

「―――隊長」

 

 後ろから、声。女性の声だった。イタチが持つ部隊の、副隊長。彼女は会場が争いに包まれる中、イタチの所まで駆けつけてきたのだ。通信機を経由せずに。

 

 つまり、それ程までに部隊が混乱をしているということなのだろうと、イタチは即座に理解した。

 

「部隊はどうなっている」

「警備をしていた部下たちの、約半数を失いました。アレに……殺されて」

 

 アレ、という表現を用いた彼女に、しかしイタチは冷静に尋ねる。

 

「残った者はどうしている」

「マニュアル通りに、里の住民を避難させています」

「なら、継続させろ。だが、残った者の何人かを、アカデミーに行かせてくれ。子供を死なせるな」

「分かりました」

「それと、この子を避難所へ」

 

 イタチが示したのは、左後ろに倒れているヒナタの事だった。幻術返しを使えないのか、それとも試験での疲労のせいなのか、幻術に嵌り眠ってしまっている。「了解しました」と副隊長は彼女を抱え上げる。

 

「君も、この場から避難するんだ」

 

 今度は、右後ろにいるネジに尋ねる。彼は幻術には嵌っていなかった。初めて経験するであろう大規模の争いを前にしても、取り乱す様子はなく、白眼を発動させて警戒をしていた。彼はイタチを見上げて、呟く。

 

「アンタ、うちはイタチか?」

 

 イタチは「ああ」と応えた。

 

「それがどうかしたのか?」

「何が起きているのか分からないが、これは砂隠れの里と音隠れの里が戦争を仕掛けてきたということなのか?」

「君がそれを知っても、役に立つことはない。今は上忍の方々や、俺たち暗部に任せろ」

「……ふん。自分の身くらい、自分で守れる。アンタの指図を受けるつもりはない」

「言う通りにしろ。―――死にたいのか」

 

 強烈な寒気が、ネジの肩を襲った。

 

 鋭い殺意というよりも、押しつぶすような怒りが、イタチの肩から押し寄せてきたのだ。今までで経験したことのない圧力に、気が付けばネジは頬に一筋の汗を垂らしてしまう。

 

「…………彼を、避難所に案内してくれ」

 

 大きいため息を吐きながらの指示に、副隊長の女性は「了解しました」と言い、ネジの肩を強引に掴んで会場から脱出させた。

 

 数秒の間が座り込む。もしかしたら、彼女は、待っていたのかもしれない。

 

 邪魔者がいなくなるのを。

 

「イタチくん」

 

 彼女は、そう呟いた。

 

 真正面。二十メートル程、距離は離れている。その距離は、彼女と、時折行う忍術勝負での距離だった。声のトーンも、その時と酷似している。

 

『今日こそは、君に勝つからね!』

 

 いつもの彼女なら、そう続ける。

 

 忍術勝負ができる事に嬉しそうに笑いながらも、心の底から勝ちたいと思っているのだろうと分かりやすい笑いを隠しているのも。透明で裏表のない笑顔。だが今は、対峙する彼女の表情は、違った。

 

 微かに浮かべた笑みは硬く、何か別の感情を強く抑えているようだった。

 

「何だか、すごい久しぶりな感じがするね。二、三週間ぶりかな?」

「ああ、それぐらいだな」

 

 争いの最中であっても、イタチは彼女に笑顔を浮かべる事が出来た。ぎこちないものだとは、本人も感じながら。

 

「あ、そうだ……。私の巻物とかは、どうなってるのかな。もしかして、捨てられてたり?」

「保管している。君がいつも大切にしていたマフラーもある」

「ありがとう。あはは、服とかは安物だから、別にいいんだけど、巻物は作るのに時間が掛かるから、あまり無くしたくないんだよね。さっきまで着てたコートも、作るのに一晩かかっちゃった。折角用意したんだけどね、無駄になっちゃった」

 

 計算用紙を丸めて捨てるような、無駄、という言葉。

 

 彼女が用意したという黒いコートが、何を目的としたものなのか、深く考える必要もなかった。イタチは尋ねた。

 

「イロミちゃん……君が望んだ状況なのか? これは」

 

 硬い笑顔は消えて、イロミの口元は一文字に結ばれた。やがてイロミは、静かに顔を物見櫓の屋根を見上げた。

 

「これは、あの人が勝手にやったことだよ。木ノ葉を崩壊させるつもりみたいだけど、私は手を貸そうとも、邪魔しようとも思ってない。ただ、他の人たちに邪魔されたくなかったから、利用しているだけ」

「逆だ……大蛇丸が、君を利用している」

「関係ないよ。イタチくんとこうして、二人で話したかったから」

 

 屋根から、再び、イタチに顔を向ける。前髪の毛先が不気味に揺れた。

 

 互いに動いていないのに、イロミとの距離が、突然遠くなったような気がしてしまった。親しい距離は無くなり、まるで、そう、敵対するような、距離。

 

「体調が悪そうだけど、大丈夫?」

「……ああ。問題ない」

「そう? あばら、折れたはずだけど」

 

 たしかに、あばらは折れている。鈍い痛みは継続している。呼吸をするたびに、痛みが主張してくる。だが、骨が肺に突き刺さっているような感じはしない。医療忍術に関する知識はあまりないが、肺を破っていれば、もっと苦しい状況であるはずだ。

 

「君が、そういう風に調節したんじゃないのか?」

 

 殺してしまえば。

 

 あるいは、口が聞けなければ、出ないのだから。

 

 答えが。

 

「調整はしたよ。だけどね、私、この身体の事をあまり分かってないんだ」

 

 と、イロミは淡々と呟いた。

 

「身体がスポンジにでもなったみたいでさ。動く感覚はあるのに、触れる感覚もあるのに……なんだろう、ぼんやりとしてるんだ」

 

 どこまで、本気を出せるんだろう。

 どこまでが、最小限のコントロールなんだろう。

 色んな人を食べたから。

 ついさっきも、色んな人を食べたから。

 

「分からないんだ。だから、調節できた自信もない。それに、イタチくんは天才だからさ。この身体の動きに、どこまで反応されるのか、分からなかった。イタチくんは私の動き、どこまで見えてたの?」

 

 正直なところを言えば。

 見えては―――いた。

 イタチの才能は、写輪眼は、間違いなく、イロミの動きを精密に観測していたのだ。手の動き、足の動き、毛先が揺れる方向と角度。どれも、観測し、予測していた。そして、予測通りの動きでイロミは目の前に姿を現し、予測通りに蹴りが行われた。

 

 何も……反応する事が出来ないまま。

 

 そう。

 

 見えているだけだったのだ。

 

 あばら骨の骨折に隠れていた身体の重みが、忍び足にイタチの意識の後ろ側から近付いてきた。込み上げてくる咳を……それでもイタチは、強引に息を呑み込んで、抑え込む。そのせいで、イロミの問いに応える機会を失してしまった。

 

「まあ……いいや。君に聞きたいのは、別の事だから」

 

 心臓が大きく震えた。

 それに呼応して、折れたあばらが軋む。

 

「ねえ、イタチくん。あの時の私の質問に答えて」

 

 辺りは、争いの音が駆け巡っている。嘘を許さないと言いたげな鋭く低い彼女の声は、サスケの元までは届かないだろう。

 

「うちは一族の人たちは、本当に、クーデターを起こそうとしていたの?」

「………………」

「調べて……くれたんだよね?」

「………………」

 

 イタチは、応えない。

 

 言葉が出ない、という訳ではなかった。

 

 出せる言葉を、持っていないのだ。

 

 この、正解の分からない問答の、答えを。

 

「……どうして…………応えてくれないの?」

「すまない、イロミちゃん」

 

 出したのは、答えではなく、保留にも近い、逃げだった。

 

 頭の中で、微かな既視感が一瞬だけ、生まれる。

 

 呟いた言葉が、どこかで聞いたかもしれない、あるいは似ているだけだったかもしれないフレーズだからだ。視界が暗転したのは、たったの一秒。瞬き二回程度で消費してしまう時間でも、その暗闇に浮かび上がった人のシルエットは、どこか懐かしさを抱いてしまった。

 

 だが、その残影も無くなり。

 

 イロミの口端が怒りに歪んでいる現実が、目の前に立ちはだかっていた。

 

「それって……ねえ、イタチくん…………どういう、意味なの?」

「……うちは一族の動向について、調べた」

「うん。それで?」

「君の言う……うちは一族の企てに関する証拠は―――なかった」

 

 ずっと、イタチは調べていた。

 

 ありとあらゆる書類を。うちは一族抹殺事件がフウコの手によって行われる日から、それこそ、イタチがアカデミーに通っていた頃までの全ての、些末なものから何でも、調べた。毎日毎日。まともに眠る選択を放棄してまで、ずっと。

 

 のみならず、イタチは影分身の術を使用して、うちはの町をも調査していた。イタチとサスケ、たった二人ではあるが、うちは一族の生存者がいる手前、完全撤去をせず、町は残っていたのだ。オリジナルは書類を調査しながら、影分身体は町を調べる。

 

 しかし。

 

 書類は、言ってしまえば元も子もないのだけれど、その気になればいくらでも改竄が可能だ。暗部の書類に関しては、当時、管理者はダンゾウである。

 

 そしてうちはの町に至っては、事件から時間が経ってしまっているということ。事件発生後、徹底的に調査されたということ。うちは一族がクーデターを行っていたか否か、その証拠が残っているはずもなく。

 

 それでも、イタチは微かな可能性を信じ、そして友人を助けたい一心で、調査し続け。

 

 得られた結果は―――前進も後退もしない……依然として、不明のままだった。

 

 どうしてフウコがうちは一族を滅ぼしたのか。

 

 分からないまま。

 

 そもそも、調べた程度で分かるならば、今の今まで、二人で頭を悩ませる必要がないのだから。

 

「……ふざけないで」

 

 イロミの声は、怒りに震えていた。

 

「それで私が、納得すると思ってるの? 馬鹿にしないで……。何もなかったら、フウコちゃんはあんなこと、絶対にしない」

「それは俺も同じ考えだ。だから君の言う、うちは一族がクーデターを考えていたというのは、否定しない」

「私が知りたいのは、否定されない材料じゃないの。肯定してくれる材料なの。ねえイタチくん、本当に、調べてくれたの?」

 

 彼女の声は、まるで、亡霊のように、冷たかった。

 寒気がしてしまうほどに。

 

「私はね、調べたよ」

 

 ダンゾウの部下を何人も食べて、その人たちの記憶を手に入れたよ。

 他の暗部の人を食べて、記憶を調べて。

 食べて食べて食べて食べて、分からなくて。

 ダンゾウの所まで行って、食べようとしたけど、分からなくて。

 ついさっきも、イタチくんの部下を何人か食べたんだ。

 里の外を警備していた暗部の人たちも。

 それでも、分からなくて。

 もう私は、里の敵だから。

 頑張ったんだけど、

 努力したんだけど、

 分からなかったんだ。

 

「ねえ、イタチくん」

 

 君はそこまでして、調べてくれた?

 フウコちゃんの為に、努力してくれた?

 

「本当のこと、教えてよ。ね? あるんでしょ? 私に気を遣って、嘘を言ってるんだよね? イタチくんは昔から、優しいから……」

「……嘘じゃない」

「……あ、はは、止めてよ……。イタチくんは、天才なんでしょ? 馬鹿みたいな努力しか出来ない私より、ずっとずっと凄い、天才なんでしょ? なのに、そんな、頭の悪い答えしか用意してないの? ふざけないで……ふざけないでよッ!」

 

 怒りの声は微かに湿りを帯び始めた。

 何も、応える事が出来ない。

 ただ、そう。

 

「イロミちゃん……」

 

 名前を、呼ぶだけ。

 

「私を……イロミって呼ぶなあッ!」

 

 しかしそれも、彼女は、否定する。

 

「お前みたいな嘘つきに、名前なんか呼ばれたくないッ! それに私の名前は、イロリだッ! フウコちゃんが付けてくれた、大切な名前があるんだッ!」

 

 ちくしょう……。

 ちくしょう……ッ!

 

 イロミは、壊れたように。

 頭を掻きむしる。

 血が、彼女の特徴的な髪の色を、染めていく。

 壊れていく。

 ヒビだらけの壺が、水漏れを起こすように。

 大切な友達が、壊れていく。

 壊れる?

 いや、入れ替わってしまうのだ。

 あの夜の、フウコのように。

 大切なものが、遠くへ。

 未だ大切に隠している、四人で撮った写真。

 まだ、二人が残っていたから、繋ぎ止めていた写真の記憶は。

 たった一人になって、

 写真が、

 記憶が、

 感情が、

 散り散りになり始めてしまう。

 あの夜の恐怖が。

 あの夜の後の苦しみが。

 

 イタチの心臓を苦しめた。

 

「まだ、フウコの件について何かが決定した訳じゃない。落ち着いてくれ。それに、今ここで全てを放り投げたら、それこそフウコを追いかけられなくなってしまう」

「……フウコちゃんを、追いかけられない?」

 

 写真を。

 友達を。

 イロミを。

 繋ぎ止めようとした言葉は、

 逆に、彼女を、遠ざけてしまう。

 

「―――……ッ! フウコちゃんを追いかけられないのは、お前たちが邪魔するからでしょッ!? 里がッ! 皆がッ! 君がッ! ……私に嘘つくから…………邪魔するからッ! 私はここにいたんじゃ、何も出来ないッ! 努力しても……どんなに努力してもッ! 意味が無いんだッ! 意味が消されちゃうんだよッ!」

 

 だけど、とイロミは叫ぶ。

 

「特別上忍の立場を無視してッ! 君が里にいないことを良い事にッ! 一人で大蛇丸の所に行ったら、すぐにフウコちゃんの事が知れたッ! 分かる?! これがどういうことかッ!」

「大蛇丸の言葉が真実である保証はない。君を利用する為の虚言の可能性だってある」

「本当だっていう可能性もあるッ! もしかしたら、もう二度と来ないかもしれないチャンスなんだッ! 里の中じゃ絶対にやってこないチャンスなんだよッ! 私はそれに手を伸ばしただけだッ! そして私は、フウコちゃんの事を知ったんだッ! どこで何をしようとしているのか、少しだけだけど、教えてもらったッ!」

 

 君がいなかったおかげでッ!

 

「…………だけど、すぐに君が邪魔をしてきた……大蛇丸に近づけさせないようにッ!」

「……ッ! 当たり前だ…………。君は……死にかけたんだぞッ!」

「それがどうしたっていうのさッ!」

「友達が死にかけて、何もしないわけないだろうッ!」

「死にかけたくらいがどうしたッ!」

 

 血で赤く染まった、グローブを嵌めた両手を突き出しす彼女の顔が、頭皮から垂れる血が前髪の後ろから姿を現し、頬を零れ、顎からしたたり落ちる。

 

「君には分からないよッ! 天才な君には、才能を持ってるだけで、命なんか掛ける必要もない君にはッ! 私には才能がないんだッ! 私自身には、何もないッ! 努力に助けてもらう以外で使えるものなんて、私自身の命くらいなんだッ! 君にとって何も()()()必要のない安全な任務でも、私にとっては命を()()()()()出来ない危険な任務なんだよッ! 死にかけなんか、私にとっては大成功だッ! 賭けた命が戻ってきてるんだからさあッ!」

「なら……なら君は…………今度こそ死んでもいいって言うのかッ!」

「死んでもいいよッ!」

 

 イロミの顔が、いよいよ、血で真っ赤に彩られる。

 

「死ぬのは、怖いよ……。怖いけど…………。フウコちゃんを追いかけられないなら……、フウコちゃんがいないまま生き続けるなら……、死んだ方が良いッ! だって、私が生きたいって思うのは―――」

 

 今日お布団で寝たら、またフウコちゃんに会える。

 夜が明けたらフウコちゃんと遊べる。

 また次会った時に、フウコちゃんに、イロリちゃんって呼んでもらえる。

 楽しい明日がある。

 

「そんな風に、今日を想えるから、明日も生きたいって思うんだッ! ……今日を想えないで寝るくらいなら、ずっと眠ったまま、死んだ方がマシだッ! …………お願い……お願いだよぉ………………」

 

 お願い、イタチくん。

 本当の事を教えて。

 君は、うちは一族の中にいたんだよ?

 書類の情報なんかどうでもいいよ。

 今だけ。

 今のこの瞬間だけ。

 君の。

 君の記憶だけを。

 信じるからぁ。

 教えて。

 本当に何も知らないの?

 覚えてないの?

 

「教えて……イタチくん…………」

 

 懇願するような、弱々しいイロミの声は……直感的に、最後の問いなのだと分かった。無意識の内に、未来を想定してしまう。ほんの、数秒先の、未来だ。

 

 問いに、正しく答えられなければ。

 

 また、あの夜がやってくる。

 

 昼間の空に化けた、悍ましい夜の空が。

 

 だけれど。

 

 それでも。

 

 イタチの意識は。

 

 真実に到達する事は、叶わなかった。

 

「―――そっか……。そうなんだ…………。あ……あははは………………。ずっと、友達だと、思ってたんだけど、っ、なぁ…………。ずっと……()()()()()()、最後は……無視だなんて………」

「俺は……君の味方だ………」

「―――黙ってよ、敵のくせに」

 

 皮肉な事に。

 ()()の力が。

 里を平和へと導こうとした力が。

 里の平和を崩壊させる化物を生み出してしまう、

 友達を化物へと導いてしまう、

 力となったのだ。

 

「……もういいよ」

 

 イロミは呟く。

 

「もう、全部、どうでもいいや……。全部食べれば、いいんだから。そうすれば分かる。里にいる人をみんな食べれば、分かるんだから」

 

 その言葉がイロミの心の方向性が歪んでいるのを示すように、首元が、肩が、紫色に変色し始める。その紫は、赤く見えてしまう。血の様に、赤く。

 

 あの夜に立つ、フウコが見えてしまった。

 

 あの夜が再び、目の前に。

 

「お願いだ、イロミちゃん。まだ君は、里に戻る事が出来る」

「こんな里に居たくない。ここには、フウコちゃんがいない。私の大切な人がいない……」

「フウコは必ず助ける。約束したじゃないか」

「でもイタチくんは、私に嘘を言う。ずっとずっと……あの時だって君は、嘘を付いた。悔しかった……。努力してきたのに……。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 長いイロミの前髪の奥から垂れ続けている血液が。

 彼女の涙のように、見えてしまった。

 

「フウコの事について、嘘を付いた事は一度もない。本当だ……、信じてほしい……」

「信じられるわけ……ないでしょ……。もう君は……敵なんだ…………」

 

 君だけじゃない。

 里の全部が、敵だ。

 私の大切な人を奪った、木ノ葉隠れの里が。

 私の大切な人がいない平和を楽しんでいる、全ての人が。

 敵だ。

 敵なんだ。

 恩返しなんて、もう、どうでもいい。

 ここに恩なんて感じない。

 全部。

 全部全部全部全部全部全部全部。

 

「食べてやるッ! 食べ尽して―――」

 

 イロミの叫びを、大量の砂が、横から呑み込んだ。物見櫓で一度、彼女を呑み込んだ砂である。しかし量もチャクラも、先ほどの二倍はあるだろう。イタチは咄嗟に、砂の使用者である我愛羅を見る。彼はちょうど、観客席から降り立ったところだった。観客席では、我愛羅の行動が理解できていない表情のテマリとカンクロウが。イタチにも、理解は届かない。

 

 我愛羅がどうして、イロミを二度も砂で呑み込んだのか。イタチと我愛羅の二人の視線が一瞬だけ交差する。その交差には、互いに敵意が滲んでいたが、その二つは別の所に集中した。

 

「キャハハハハハハハハハァッ!」

 

 気狂い声のする、イロミを呑み込んだ砂を、二人は見た。

 

「イィィィィィィタァァァァァァチィィィィィィィッ!」

 

 砂が四散し、呑み込まれたイロミが、姿を現す。

 

 金属音同士が強く擦れ合うような耳障りな甲高い声は、あまりにも本来の彼女とは程遠く。見える肌の色は濃い紫色で。唾液と血が混ざった体液を、歯茎をも見せる大きく歪んだ口を開き。何より、彼女の腰後ろからは、蛇にも似た巨大な尻尾が、彼女のパンツを突き破って生えていた。

 

 心臓の痛みが、いよいよ、耐え難い激痛へと変貌し、喀血を呼び寄せる。

 

 その隙を、化物は許さず嗅ぎ取った。

 

 屋根の上で見せた速度をさらに上回る速度と暴力で、イロミはイタチの眼前へと迫った。自身の血で染まった両手が、イタチの両頬を捕まえた。

 

 優しく包み込む様に。

 腹部を蹴られる直前の、再現の様に。

 

 だがイタチにとっては、まるで異なっていた。

 蛇が獲物の味を確認するように、二つに分かれた舌の先端を伸ばしているそれのように思えて、寒気を感じたのだ。

 

 イロミはイタチに顔を近付ける。

 

 互いの息が掛かるほどまでに、近くに。

 

「キャハハハッ! イタチくん……ああ、良い匂い……、美味しそぅ……」

 

 ずっとずっと、食べたかった。

 君を。

 君の、その才能が。

 欲しかった。

 

「いぃぃぃただぁきまぁああああああすッ!」

 

 歪みに歪んだ笑みを浮かべるイロミの顔は、自身の包帯をズラした。何周にも巻かれた包帯は下に、上に、ズレて。さらに彼女の前髪は彼女自身の速度のせいで、重力に逆らって毛先が宙に舞っていた。

 

 暗い穴が、二つ。

 

 穴からは、赤い液体が。

 血が。

 その血は、イロミの歪んだ口端に流れ込み。

 

 今まさに、彼女は口を開けた。

 

 唾液と血が混ざった体液が糸を引いている。

 

 その悍ましい口は、イタチの眼を狙っていた。

 

 才能の塊を。

 

 捕食しようと。

 

 友達が、

 

 化物が、

 

 問いの不正解への、

 

 難題への不正答への、

 

 代償が、

 

 近づいてきたのだ。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 

 魂が鈍くなっていく。

 

 遺伝子が予め組み込んだものだったのか、身体の衰えと共に、感性というものは砂時計にもさも似たようなもので、気が付けば擦り減っていく。そう感じたのは、別段ごく当たり前の日々の中だった。

 

 ふと見上げた夕焼けの赤に心を震わされたのは、いつだろう。初めて見た時のような感動を手に入れた最後の日は、果たしていつだっただろうか。

 

 幼い頃に、初めて夜更かしをして、そして燃えるような朝焼けの空と、遅れてやってくる空の蒼と冷えた空気を吸った時の、彼方まで心が震えたあの衝撃を得たのは、いつだっただろうか。

 

 いつかまた、同じような感覚はやってくるのだろうか。

 

 新しいものを発見する度。

 知らなかった事象を観測する度。

 徐々に衝撃は小さくなっているような気がする。

 

 知識という言葉に変換されて。

 経験という安易に凝結されて。

 

 魂が、錆び付いた羅針盤のように、機能しながらも、鈍い音を立てている。

 

 動かないものへの情緒というのは、鈍くなった魂が求める、最後の感動なのかもしれない。

 やがて、全ての存在は消える。

 消えて、失せて、どこの何者の中にも残らず、消え失せる。

 

 その虚無は、生きている間では、理解できない。

 

 死ぬ間際の何かを見て想像するか。涙を流し、その量と情動で感じ取るか。はたまた、理解を放り投げて、きっと楽園が待っているのだろうと、昼行燈の如く鈍い光のような妄想を繰り広げるか。つまりは、動かないものへの情緒は、それらと同じだ。

 

 消えゆく過程のシミュレーション。

 

 一度経験する事によって、恐怖を和らげる。

 

 怖いものに目を指で塞ぎながらも、微かな隙間から覗く子供と、何も変わらない。隙間から覗いても恐怖が和らぐ訳ではないというのに、その行為に意味があると確信している。動かないものに情緒があるというのも、空想だ。

 

 身体という器が壊れかけているという事を言い訳に。

 

 幼い頃に体験した躍動や、魂の溌剌を、無思慮の産物だと愚かに鼻で笑いながら。

 

 情緒があるなどと、魂の鈍さを顧みない、馬鹿げた行為だ。

 

 魂は鈍くなる。

 

 必ず。

 

 気が付かない間に。

 

 砂時計のように。見ている間は大した動きではないけれど、微かにでも目を離せば、あっという間に砂の位置が逆転しているように。

 

 ならば、魂を磨かなければいけない。

 ならば、魂を潤さなければいけない。

 

 動かないものへ、徹底的に反逆しなければ。

 感動を、躍動を。

 夕焼けに飛び込みそうだった、あの果てしない感動を。

 朝焼けに涙を零しそうだった、あの止まらない躍動を。

 

 無知の感動を、また。

 

「想像するだけで、ワクワクしてしまいますねえ。五大里の中でも、今や最大勢力の木ノ葉が崩壊するのは。ましてや、猿飛先生。貴方の弟子である私と、貴方の養子であるアレが、この里を破壊するというのは」

 

 感動を渇望した日を一瞬だけ想起し。

 そして今、その渇望が満たされ始めようとしているのを、大蛇丸は確かに、自身の内側から感じ取っていた。挑発的でありながらも、物腰柔らかな言葉遣いとは裏腹に、四紫炎陣の結界越しにでも伝わってくる空気の振動は、まるで魂の震えと同調するかのように、身体を空の彼方へと押し上げるほどのように思えてしまった。

 

 紫色の結界が、周囲を囲んでいた。縦に長い直方体。高さは窺い知れず、空を突き抜けているかのように高かった。その足元の四隅には、四人の忍が。大蛇丸が育てた、弟子たちである。弟子といっても、大蛇丸にとっては単なる手駒に過ぎないが、結界を張っている四人の少年たちは、一様に張り切っている。君麻呂と同様に、大蛇丸への信仰を持っているようだった。

 

 結界の外で、巨大な蛇たちが暴れまわっているのが見える。家屋よりも格段に大きく、里を囲う塀よりも蛇は巨大だ。塀を易々と破壊し、本能に任せて暴れているのか、蛇の下には砂煙が立ち込めている。

 眼下の会場では、音の忍と木ノ葉の忍の争いが繰り広げられている。一瞥しただけでも、音の忍が劣勢であるのは分かった。仕方ない。ここにいるのは、木ノ葉のエリートばかり。しかし、特に期待もしていない。木ノ葉のエリートらも、音の忍らも、大蛇丸にとっては、どれも小さな羽虫程度の力量だ。たとえ音の忍が全滅したところで、恐ろしいとすら思わない。

 

 木ノ葉崩しにおいて、厄介だと判断したのは、二人―――いや、()()だ。

 

 しかし、その内の二人は既に抑えている。

 

 一人は、うちはイタチ。彼は今、会場の中央で、足止めを食らっている。全く期待していなかった失敗作を相手に。何やら二人は会話をし、イロミが何かを叫んでいる。はた目から見ても、爆発寸前な空気だと分かる。いつ爆発するのだろうと、ワクワクしてしまう。さあ見せてほしい。イロミ。貴方の暴力を。失敗作の、成果を。

 そして、一人は、すぐ目の前にいる。今まで一度として向けてくれなかった、本気で本物の殺意を彼は向けている。

 

 猿飛ヒルゼン。

 

 自分がまだ幼かった頃、直々に忍の技術を教えてくれた、唯一の師。

 

 ゾクゾクと、ワクワクと、肌が逆立つ。彼と本気で争った事など、一度もない。どんな状況になるのだろうと、花火の火薬を集めてマッチ棒を擦ろうとする子供のような危険な好奇心がやってくる。

 

 ああ、と大蛇丸は思う。

 

 今確実に自分の魂は満たされている。幾月幾年ぶりの潤いだろうか。

 

 延々と、この興奮が、時間が、続かないだろうか。

 

「お前は昔から変わらぬの。知的好奇心の為ならば、倫理や人の心の領域を容易く踏みにじる」

 

 ヒルゼンの低い声に、大蛇丸は愉快に返した。

 

「歳は取りたくはありませんね。忍の神と呼ばれ、数多の忍術を扱えた貴方が、探求への歩みを、たかだか倫理や価値観如きで止めようとするなんて。倫理など思い込みに過ぎず、価値観など基準に過ぎない。つまり、どれも幻想でしかないのよ。平和だとか、秩序だとか、そんな二束三文と同じよ。それを後生大事に抱えるなんて、馬鹿のする事よ。木ノ葉の長が、そんな愚か者だなんて」

「多くの者の命が集った里を治める者として、平和と秩序を守るのは当然の事じゃ」

「平和と秩序? それを守ろうとして、散々と愉快な事が起きてきたじゃありませんか。その結果が、今なのではありませんか? うちはフウコが里を出ていったことも、猿飛イロミがああなってしまったのも」

「ワシの努力不足が……招いた事に過ぎぬ。フウコの事も……、イロミの事も……。そして、お主の事もの。だからワシは、責任を、誰よりも負わなければならんのじゃ。里の平和と秩序を守る事と、そして―――」

 

 火影の衣をヒルゼンは投げ捨てた。衣の下には、黒い忍び装束があった。

 

「それを破壊する元凶を排除する事を。それがたとえ何者でも容赦はせぬ。ワシの元弟子であってもだ……大蛇丸」

「……衣の下に、忍び装束だなんて…………、先生はせっかちですねえ。まだ見世物は残っているというのに。ほら、見なさい。貴方の娘が、私の娘が、天才を食い殺し始めますよ」

 

 イロミの叫びが、結界を震わせ、その中の空気を振動させる。

 

 作ったばかりの時は、弱々しい泣き声を出していたというのに。立派な絶叫を出せるようになったではないかと、大蛇丸はほくそ笑む。

 

 いや、どうだろう。

 

 空気が震えているのは、イロミの咆哮のせいだけではないだろう。

 

 ヒルゼンの殺気が、溢れんばかりのチャクラの猛りが、生み出しているのだ。

 

 ヒルゼンは、イロミとイタチの対峙を見たくないかのように、じっと大蛇丸だけを睨み続けた。

 

 今すぐにでも、自身の魂の鋭敏を身体に実行したい。木ノ葉崩しを実行したい。

 

 しかし。

 しかし、まだだ。

 まだ、戦い始める訳にはいかない。

 戦いを始めてしまっては、他の演劇を始められないかもしれないのだから。

 

 戦う訳にはいかない。けれど、大蛇丸の我慢を他所に、ヒルゼンは動き始めた。手裏剣を一つ投げ、次の瞬間には印を結ぶ。とても老齢とは思えないほどの印を結ぶ速度。投擲された手裏剣は大蛇丸に届く前に、印を結び終える。

 

「手裏剣影分身の術!」

 

 投擲された一つの手裏剣が、瞬く間に多量に分身し始める。影分身の術と同様に、分身した手裏剣は、チャクラによって実在するものとなっている。同時にヒルゼンは、大量の手裏剣の軌道をチャクラを用いて操作した。大蛇丸を追い詰めるように、多角的な軌道で手裏剣は彼の命を狙う。

 

 ―――まあ、順序がズレてしまうけれど、仕方ないわね。

 

 演劇のアドリブは時として、本来の台本を凌駕する。

 順番がズレてしまうというスパイスも、演劇には、魂の潤いには必要なのかもしれない。

 大蛇丸は、印を結ぶ。

 役者を登場させる為に。

 

 ―――穢土転生の術ッ!

 

「一つッ!」

 

 大蛇丸の足元から、一つの棺桶が出現―――いや、口寄せ―――する。棺桶には「一」と、炭で大きく書かれていた。その文字と棺桶の形を見て、ヒルゼンの表情は驚愕へと変貌した。

 

 その中に入っているであろう遺体の事を。

 

 そして。

 

 次に口寄せするであろう、人物の顔と、約束を。

 

 ヒルゼンはすぐさま新たに印を結んだ。穢土転生の術を阻止する為の、妨害用の忍術。大蛇丸のチャクラに干渉し、次の口寄せを何としても阻止しようとしたのだ。

 

 しかし―――間に合わない。

 

「二つッ!」

 

 棺桶がもう一つ、出現する。「二」と書かれた、棺桶。それら二つは、大蛇丸の盾であるかのように、大量の手裏剣たちを受け止めたが、まだ、穢土転生の術は終わらない。さらに三つ目の棺桶を、呼び寄せようとし。

 

 そして、それは阻止されてしまう。

 

 ―――まあ、二つ目まで呼べただけでも十分でしょう。

 

 残念半分、達成半分。少なくとも、ノルマは達成できただろうと確信する。二つの棺桶の隙間から、大蛇丸はヒルゼンの表情を伺った。

 

 先ほどまでの殺意は薄れ、どこか、怯えたような色が見え隠れする。

 

「クク、猿飛先生。何をそんなに恐れているのですか?」

「…………よもや、お二方の遺体を暴いておるとはの」

「本来なら、貴重な遺伝子を使いたくはなかったのですがねえ。ですが、貴方とサシで勝負するとなると、出し惜しみなんてしてられないわ。それに―――」

 

 貴方も会いたかったのではありませんか?

 この二人に。

 言葉が終わると同時に、棺桶は静かに蓋を開けた。棺桶の中身は勿論、人間。けれど、その状態は、遺体ではない。けれど、生者でも、無かった。その中間―――というのも、相応しくはないかもしれない。

 

 ただ、いるだけ。在るだけ。

 石のように。

 坂道を転がる、石のように。

 生きてもいないし、死んでもいないけれど、動き、喋る存在だった。

 

「久々のご対面ですよ、先生。まだ木ノ葉崩しは始まったばかり……。役者が揃うまで、少し世間話でもしていてくださいな。―――初代火影、二代目火影のお二人と」

 

 特に、二代目とは積もる話しもあるのではないですか?

 うちはフウコの事について。

 

 棺桶から現れたのは、二人の男性だった。

 

 大蛇丸は笑った。

 

 己が魂が潤っている事に。

 

 ヒルゼンが、この難題にどんな答えを見出すのか。




 投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。

 次話は、9月15日に投稿します。

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