はぐれ悪魔 イッセー   作:夜の魔王

31 / 33
Break impact

「それじゃ、お前さんらがここにいるのはただの偶然ってことだな?」

 渡月橋での一戦の後、アザゼルにとっ捕まえられて尋問されていた。

「その通りです」

 正直ここに来たのはロウの指示だから、仕組んだ者がいるならそれはロウだろう。

 そのロウといえば泣き疲れた九重を膝の上で寝かしている。あと、格好はいつも通りに戻ってる。

「つまり、あいつらが何をしようとしてるのかもわからねえってことだな」

「はい。というか、俺はあいつらのことを今日初めて知ったぐらいで」

 前に見たことはあるけど、本当に見たことがあるだけだ。

「そういえばあいつもそんなようなこと言ってたか」

 そうですだから無関係です勘弁してください。

 

 そうやって問い詰められる俺の隣で、白音ちゃんとイケメン木場が話していた。

「……すいません、祐斗先輩。私は今は帰るわけにはいかないんです」

「理由を聞いてもいいかな?」

「……姉さまです」

 ……ちょっと話が気になったのでアザゼルと一緒に聞き耳を立てることにした。

「小猫ちゃんのお姉さんというと……黒歌だよね」

「……はい。姉さまをこの手でふん縛るまでは帰るわけにはいきません」

 あれ、なんか物騒なことが聞こえた。

「……ついでにイッセーさんも連れて帰ります」

 あれ、更におっかないことが聞こえた。

「そう……待ってるから、頑張ってね小猫ちゃん」

 周りは敵ばかりだった。もう信頼できるのはアーシアだけだ!

 

 

 

「さて、いきますか」

 夜もすっかり老けた頃、ロウも含めた四人で二条城へと赴くことになった。

 ちなみに黒歌は姿を眩ませて以降、影も形も見えない。

「待て、私も行くぞ!」

 さて二条城に向かおうとしたところで、巫女装束に着替えた九重がロウに飛びついた。

「いや、危険だって!」

 この子にまで何かあったら責任が取れない。

「ま、大丈夫でしょ。この子の面倒は私が見るよ」

 ロウは九重をひょいと抱き上げると肩車する。

「大丈夫なのか?」

「子守は慣れてるし、私はこっちの方がやる気が出る。問題ないぞ」

 お前の精神には問題ある気がする。

「そんなことより、お出迎えみたいだぜ」

 ロウがそう言うや否や、足元に生ぬるい霧が立ち込めた。

 

「っく――また異空間かよ」

 霧が晴れた後、京都に良く似た別の空間に転移させられた。

「ロウは……いないな。白音ちゃんだけか」

「……みたいですね」

「二条城は……あっちか」

 遠くで高くそびえる建物を見ると、その方角に一つの人影があった。

「英雄派か!?」

Boost(ブースト)!』

 英雄派の制服を着た男は俺たちから離れた所で立ち止まると、大仰な態度で話し始めた。

「ようこそ、赤龍て――」

「先手必勝!」

 相手が口を開くと同時にオーラを放つ。

 倍化中は攻撃とかすると途切れてしまう危険性があるが、この程度なら大丈夫なのだ。

「なっ……卑怯な!」

 チッ、避けられたか!

「卑怯卑劣は強者の余裕だぁー!」

 禁手(バランス・ブレイカー)のできない俺がまともに相手なんかするか!

「喰らえぃ!」

 右のストレート。左のフック。ローキックからのアッパー。パンチとキックの連撃を放つも、敵もうまく躱していく。こんちくしょう。

「やるな赤龍帝! ならば、俺も本気を出そう。(バランス)……」

「……すきあり」

「ごふっ!」

 白音ちゃんの遠慮容赦のない鉄拳が英雄派の構成員を吹き飛ばす。……骨の折れる音がした。

「……さ、行きましょう」

「イエスマム」

 最近この子からオーラを感じる。抽象的な意味で。

 

 ――一方

「子供を誘拐した奴に必要なのは地獄だ。というわけでアーシアちゃん、回復よろしく。いやー、回復役がいると拷問が(はかど)る。さじ加減が適当でいいという意味において」

「私、怪我してる人を治したくないと思ったのはこれが初めてですよ……」

 ロウの所業にアーシアがまた一つ成長してしまった。

「覚えておきなさい。善意は時に人を傷つけることもあるのよ」

「この場合は少し違うと思います」

 傷つけているのは間違いなくロウの悪意だ。

「ま、聞き出せそうな情報は手に入れられたからいいか」

 ロウは構成員をそこらに打ち捨てると、二条城に向かって歩き出した。

「全く……目的自体はどうでもいいけど、やり方が気に食わない。意地でも邪魔してやるわ」

 

 

 二条城の前に到着した時、そこにはロウたちとグレモリー眷属の面々も到着していた。

「ところで、そこの銀髪のお姉さんはどうしたんだ?」

 近くの電信柱に手を着いてげーげーやってる美人さん。残念な気配がプンプンする。

「彼女はロスヴァイセさんって言うんだけどね。昼間お酒を飲み過ぎちゃって」

「悪酔いか……」

 アーシアの力でも酔いは覚めさせることはできないからな……

「水飲ませろ水。血液中のアルコール濃度を薄めろ」

「なんか経験あるみたいだな」

「ま、酒を飲んだことがないとは言わないけど」

 あるんだ。成人してるようには見えなかったけど。

「さ、全員揃った所で行きましょうか」

 ロウが率先して城門を蹴り開けた。自動で開き始めてたのに……

 

 ロウを先頭に二条城の中を進んでいくと、本丸御殿で曹操を始めとする英雄派の面々と遭遇した。

「俺たちの中で下位から中堅程度の使い手とはいえ、禁手(バランス・ブレイカー)使いを倒すとはね」

 不意打ちだったから余裕でした。

「母上! 九重です、返事をしてくだされ!」

 九重が見ている先には着物姿の綺麗な女性がいた。頭部には狐の耳があり、幾本もの尻尾も生えていた。

(あれが九重のお母さん――八坂さんか)

 だが、九重が幾ら呼びかけてもその女性は虚ろな表情で佇んでいるだけだった。

「精神操作でもかけられてるみたいだな。何が目的だ」

「言っただろう。我らの実験に付き合ってもらうと――!」

 曹操が聖槍の石突を地面に打ち付けると、八坂さんが悲鳴を挙げて変貌を始めた。

 変貌した後は10メートルぐらいの金色の獣。大妖怪、九尾の狐。

「九尾が相手だなんて……また死にそうな目に遭うのは嫌なんだがね。九重ちゃん、アーシアの所まで下がってなさい」

 肩車をしていた九重を下ろすと、八坂さんを見上げてため息を吐く。

「おい曹操! お前たちは一体何が目的なんだ?」

「わざわざ九尾の御大将を誘拐して、京都に似せた異空間まで作ったんだ。それにも意味があるんだろう?」

「ああ。俺たちはこの都市と九尾を力を使って、この空間にグレートレッドを呼び出そうとしている」

「グ、グレートレッド?」

 聞き覚えのない単語が聞こえた。呼び出すってことは生き物か何かだろうか。

「『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』。グレートレッドってのは真龍と呼ばれている黙示録に登場する龍のことだよ」

 俺の疑問を聞いたロウが説明してくれた。

「次元の狭間と回遊しているだけの無害なドラゴンなんだが……一体そいつを呼び出してどうする気?」

「うちのボスが故郷に帰るのに邪魔なんだ」

 曹操の返答を聞いたロウは、それを鼻で笑い飛ばす。

「お前がそんな殊勝な者ではないだろうに。人の身で異能の者を超えることをお題目に掲げている貴様らがオーフィスにそこまで義理立てする意味もないだろう」

「ふっ……確かに、俺たちには俺たちの目的がある。当面の目的は赤龍神帝に『龍喰者(ドラゴン・イーター)』がどこまで有効かの検証かな」

 『龍喰者(ドラゴン・イーター)』? やけに物騒な名前だが……

「……まあいいわ。どちらにせよ、あなたたちをこのまま見逃すわけにもいかないのだし――」

 ロウが喋っている最中、俺の横から莫大な聖なるオーラが立ち上った。

 その根元には青髪の聖剣使い――ゼノヴィア! 悪魔が聖剣使っていいんだろうか……

「九重のお母さんは返してもらうってことで――死ね」

 ロウが立てた親指を下に振り下ろすというジェスチャーをすると同時に、まるで巨大な剣の刀身のような聖なるオーラが振り下ろされた。

 振り下ろされた聖なるオーラは波のように前方をごっそり消し飛ばしていった。

(鳥肌立った……)

 あんなの食らったら死ぬどころか跡形もなく消滅する。アーシアにも治せないぞ。

「今、俺の横を聖なるオーラが駆け抜けて行きました……」

 あ、ロウが冷や汗を掻いてる。無理もない。あと一歩隣に剣が振り下ろされてたからな。

「でも、これであいつらもケガぐらいはしたと思うんだが……」

 死んでくれても一向に構わないが、流石にそんなに簡単な話ではないだろう。

 などと思いながら廃墟になった建造物を見ていると、その中から手が伸びてきた。

「うわっ、ゾンビかよ」

 下手なホラーよりも怖い。

「追★撃!」

 勢いよく飛び上がったロウが、和傘を逆手で持って手が突き出した場所に突き刺そうとする。

 上から降って来た傘の石突と地面から飛び出してきた槍の穂先が衝突する。

 発生する衝撃と閃光。それによって吹き飛ばされたロウは和傘を広げてふわりふわりと降りてきた。ピンクボールか。

 英雄派の面々は瓦礫の中から這い出してくると、それぞれ腕を回す、首を鳴らすなどの思い思いの動作を取る。

「いやー中々の一撃だった。さて、じゃあこっちも実験を始めようかな。――ゲオルグ!」

 曹操が合図すると、魔法使いのようなローブを羽織った青年が手を突き出す。

 するとゲオルグの周囲に多種多様な魔方陣が無数に出現し、それらが一斉に動き始める。

 そして八坂さんが輝き始め、その下に巨大な魔方陣が展開される。

「本格的に始めやがったな。妨害してみるけど、本職じゃない私にどこまでできるか……」

 ロウは手にした足元に簪を突き刺すと、そこから黒いラインが幾何学的な模様を描きながら八坂さんの足元に展開されている魔方陣に取り付いて侵食し始める。

「曹操。奴の干渉で術式に悪影響が出ている。このままではグレートレッドを呼び出すには至らないかもしれない」

「わかった。なら排除しよう」

 曹操がロウに向かって聖槍を向ける。向けられたロウは不敵な笑みで応える。

「やれるものならやってみろ。――こいつらを倒せるのならな!」

「ここに来てまさかの人任せ!」

 俺たちの後ろ――アーシアたちと同じ位置まで下がって言うな。

「ジークフリート、ジャンヌ、ヘラクレス、誰とやる?」

 白髪の剣士は木場とゼノヴィアを両手に持った剣で指した。

「それじゃあ私は天使ちゃんと銀髪のお姉さんね」

「じゃあ俺はあの白いチンチクリンかよ。赤龍帝も貰っていいか?」

 どうやら俺の相手は筋肉質な巨漢のようだ。まだ金髪のお姉さんの方がいいんだけど。精神的に。

「って、それじゃあ私が一番大変な相手じゃないの」

 悪いなロウ。相手さんのご指名なんだ。

「本調子じゃないからあんま戦いたくはないんだけどな!」

 本調子でも戦いたくはないけどな!

Boost(ブースト)!』

「……諦めましょう」

「はっはー! そんな釣れないこと言うなよ。楽しくやろうぜ!」

(楽しくない。全然楽しくない)

 振り下ろされる豪腕を避け続ける。時々軽い攻撃を放つが相手はビクともしない。

「硬っ……お前本当に人間かよ?」

「英雄の魂を受け継いでるってのは、普通の人間とは違うんだよ!」

 勢いよく振り下ろされた拳を紙一重で避けると、殴られた場所が爆発した。

「痛っ! な、なんだ一体!?」

「これが俺の神器(セイクリッド・ギア)『巨人の悪戯』(バリアント・デトネイション)!!  攻撃と同時に相手を爆発させる神器(セイクリッド・ギア)よ!」

 じょ、冗談じゃない。そんなもの生身に食らったら死ぬ。アーシアがいてもなくなった体の一部を元に戻せるかどうかはわからないんだぞ?

「……てや」

 俺を追うヘラクレスの横から飛び出た白音ちゃんがローキックを放つ。

「おっ!?」

「今だ!」

Explosion(エクスプロージョン)!』

 ローキックでよろめいたヘラクレスの顔面を殴りつける。

「ぐっ! やるじゃねえか!」

 結構本気で殴ったのにあんまり堪えていない様子で、ヘラクレスは両腕を振り上げた。

 それに気づいた俺と白音ちゃんが飛び退いた後、周囲を吹き飛ばすほどの大爆発が生まれた。

「うあぁぁぁぁぁぁ!」

 直撃は避けられたものの、爆発が大きかったせいで吹き飛ばされてゴロゴロと転がる。

「イッセーさん、大丈夫ですか!?」

 吹き飛ばされたせいでアーシアの近くまで吹き飛ばされてしまったようだ。

「大丈夫だ。アーシア、もっと離れててくれ!」

「おら行くぜぇぇぇっ! 禁手化(バランス・ブレイク)ゥゥゥゥゥ!」

 ヘラクレスの体が光り始め、それが収まったと思ったら全身からミサイルのような突起が生えた姿へと変わっていた。

「喰らいやがれ! 『巨人による悪意の波動』(デトネイション・マイティ・コメット)ォォォォォ!!」

 そして全身のミサイルが一斉に発射される!

「くそっ!」

 こっちに向かって飛んでくるミサイルをオーラの弾丸を放って撃ち落としていく。

 だが、それも徐々に追いつかなくてなっていき、そして一発撃ち落とし損ねてしまった。

(でも、あの程度なら避けられ――しまった!!)

 今、俺の後ろにはアーシアと九重がいた。今ここで俺が避けたら二人に当たってしまう。

「く――お、おおおぉぉぉぉぉ!」

 せめてもの抵抗として全身のオーラを防御に回す。その直後、俺に一発のミサイルが直撃した――

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。