はぐれ悪魔 イッセー   作:夜の魔王

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Bridge across moon

 俺たちは裏京都を出た後、九重の先導で京都の案内されていた。

 九重は普通に出歩くと必ず見つかるということで、普通の子供服に帽子という、極一般的な格好をしていた。

 それ以外にも黒歌が誤魔化すために色々しているというから、まず見つかるということはないだろう。

 そのまま俺たちは金閣寺や銀閣寺、清水寺などの主だった観光名所を巡った。

 

「ううむ……そろそろ見つけてくれると思うのじゃが」

 いくら何でもあちら任せに過ぎる方法なのだが、あちらさんもそれを了承したのだ。大体のルートは教えてるらしいけど。

「あそこに流れておる川が桂川。そこに架かっておる橋が渡月橋じゃ」

 九重が指差したのは大きな木造の橋。そこから見える景色は紅葉がとても綺麗だ。

「あの橋の向こうにある湯豆腐屋は絶品なのじゃ。そこで昼餉にせんか?」

「いいな。アーシアも歩き通しで少し疲れてるし、休憩にしよう」

 アーシアは基本的に運動をしないので体力がないのだ。

「す、すいませんイッセーさん」

「あ、別に謝らなくても……」

 渡月橋に差し掛かったところでアーシアが謝ってきたので、気にしなくていいと言おうと思って振り返ろうとした時だった。

「ちなみに、この渡月橋には渡っている最中に振り向くと今まで授かった知恵を全て失ってしまうと言われておる」

「駄目ですイッセーさん」

 九重の解説を聞いたアーシアに強引に前を向かされた。アーシアはこういう迷信というか、言い伝えを結構間に受ける。

 そんなアーシアを微笑ましく思いながら歩いていくと、前から見知った顔がやって来た。

「――ッ!!」

 俺も一年とちょっとの間袖を通した駒王学園の制服を着ている坊主頭と眼鏡の男子の二人組。

「松田、元浜」

「あ、バカ……!」

 かつて親友であった二人の名前を呼んでしまい、それを黒歌に咎められる。

(そういえば、黒歌の術はこっちから話しかけたりすると効力が落ちるって話してたな)

 しまったと思うがもう手遅れであり、松田と元浜の視線は俺に真っ直ぐ向けられていた。

「ん? 誰だお前」

「なんで俺たちの名前を?」

 その反応を見て俺は一瞬強いショックを受け、そのすぐ後に納得した。

(そっか。約束は守ってもらえたんだな)

「ごめんな。友人に似てたから、つい」

「あ、そうなのか」

「名前まで同じなのか?」

「世の中には同じ顔の人が三人いるっていうから、それなのかもな」

 久しぶりの友人との会話は、とてもとても、懐かしい気分だった。

「足を止めさせて悪かった。修学旅行、楽しんでくれよ」

 そう言って、おそらく二度と会うことは無いであろう彼らとすれ違う。

(あばよ、悪友……)

 だが、思いに耽る時間もなく、俺は更なる衝撃に襲われた。

「ッ!?」

 後ろにいたので気づかなかったが、元浜たちの後ろにいる女子たちは、なんとグレモリー眷属のゼノヴィア、それに幼馴染だという転生天使のイリナだった。

 向こうは俺を見て警戒したように身構え、俺もアーシアを庇うように一歩前に出る。

「イッセーさん……」

「大丈夫だ、アーシア」

 俺を心配そうに見上げるアーシアの頭を撫で返す。

 その時、俺の全身を生暖かい雰囲気が包んだ。

 

 ○ ● ○

 

「な、なんだ!?」

 気づいたら、俺たちの周りには誰もいなくなっていた。

「お前たちの仕業か!?」

 ゼノヴィアはカバンから短剣を取り出して構える。

「だったら俺が驚くか!」

 こちらも赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を出して身構える。

Boost(ブースト)!』

「ゼノヴィア!」

 更にその後ろからはイケメンの木場が駆け寄って来ており、その上からはアザゼルが飛んでいた。

「う、更に厄介なことに……」

 ゼノヴィアとイリナから視線を外さずに後退(あとずさ)る。

 少し離れた場所から彼らの話を盗み聞きしていると、ここは辺り一体をそのままそっくり模した空間で、俺たちはそこに転移させられたことがわかった。

「それにしても、本当にそっくりそのままだな……違いなんて足元に霧が立ち込めてるぐらいだ」

「そういえば、母上の護衛の者が死に際に残しておった。気づいた時には霧に包まれておった、と」

 俺の言葉を聞いた九重が青い顔をして呟く。

 その時、渡月橋の向こう側から複数の気配が現れた。

 学生服らしき服を着た集団。その先頭に立っている、学生服の上に漢服を羽織り、槍を持っている男が俺たちに話しかけてきた。

「お初にお目にかかる。アザゼル総督。それに赤龍帝。俺は曹操というものだ。一応、英雄派を率いる立場にある」

「ご丁寧にどうも。九重のお母さん返して家に帰れ」

 人に迷惑かける奴はとっとと反省しろ。

「おやおや、釣れないな。初対面だというのに嫌われたものだ」

 曹操は手にした槍で肩を叩く。その槍は見るからに危険な感じがした。

「あの槍は『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』。神滅具(ロンギヌス)の代名詞にもなった最強の神滅具(ロンギヌス)だ。当代の持ち主がテロリストとは皮肉だな」

 なんか凄い槍のようだ。解説ありがとうございますアザゼルさん。

「あれが聖槍ですか……」

 アーシアはその槍をしばらくジッと見ていたが、すぐに視線を外した。

「おい貴様、母上を攫ったのは貴様らだな? 何が目的だ!」

「あなたのお母上には我らの実験に協力してもらうべくお付き合い願ったのですよ」

 誘拐犯の身勝手な言い分って聞くだけでムカつくよね。

 グレモリー眷属も戦闘態勢を取る中、曹操は近くにいた小さな男の子に話しかけた。

「レオナルド、悪魔用のアンチモンスターを頼む」

 小さな男の子の影が広がり、それが渡月橋の横幅一杯まで広がると、そこから二足歩行の黒い人型の怪物が現れた。

 しかもその数は十や二十じゃない。百に近い数の人型の怪物が整列した。

「え、何あれ」

 数が多い。多すぎる。しかもまだまだ余裕がありそうなんですけど。

「これは悪魔用のアンチモンスターだ。君たち相手には丁度いい相手だろう」

 曹操が手を挙げて下ろすと、怪物の口から光が放たれた。

 チュドーン!

 光が命中した建物が跡形もなく吹き飛んだ。この威力だと光関係なしに当たったら死ぬだろ。

「――行け」

『ゴガァァァァァ!!』

 曹操が槍の穂先をこちらに向けると、アンチモンスターたちが大挙して押し寄せてきた。

「黒歌、白音ちゃん。アーシアと九重を守ってやってくれ」

「任されたにゃ」

「……ご武運を」

「イッセーさん。私、全力で回復します」

 助かるぜ、アーシア。

「よーイケメン。思うところはあるだろうが、あいつらをどうこうするまでは手出し無用で頼むぜ?」

「危険度としてはあっちの方が上だからね。彼らが片付くまでは君のことは見逃しておくよ。けど、事が済んだ後は――」

 木場の視線は俺についていた白音ちゃんに向いていた。

(それは俺は関係ないんで勘弁してもらいたい)

「よし、かかってこいや怪物どもッ!」

Explosion(エクスプロージョン)!!』

 気合の入った声を上げると共に、俺たちは倍化を停止させて怪物たちを迎え撃つ。

『ふっはっは、空気を読まずに邪魔させてもらいますよー』

「へっ?」

 だが、俺は思わず空から降って来た声に動きを止めた。それは俺だけでなく、この場にいる全員がそうだった。

 何故なら、頭上に空を覆い尽くすほどの黒い魔方陣が展開されていたからだ。

『キュッとして――』

 そしてその魔方陣が一気に小さくなり――

『ドカーン!!』

 そこから黒い何かが俺たちと英雄派の丁度真ん中に落ちた。

「ハァーハッハッハ! 天にも地にも呼ばれてないが、幼女に呼ばれて即、推☆参! 漆黒系意味不明正体不詳キャラ! 通称ロウことこの私、ここに降臨!」

 起き上がって見ると、普段と違って花魁(おいらん)風の格好をしたロウが仁王立ちで高笑いしていた。

「やかましい!」

(いきなり現れてなんだこいつ)

「君は、各地で俺たちの邪魔をしている者かな?」

 曹操がロウを注意深く見据えながら尋ねると、ロウは小首を傾げた。

「そうかも?」

「なぜ疑問形……」

「なぜなら自覚がないから!」

 こいつ最悪だな。

「私にやられたというならそれは相手の方に問題があるわ。だって私があなたたち『禍の団』(カオス・ブリゲード)は全滅させるって決めてるから!」

「サラッとおっかないことを言ったぞこいつ」

 テロリスト相手なのが唯一の救いである。

(あれ? それだとヴァーリたちも対象になるんじゃ……)

「なおヴァーリチームは除く。だってあいつらただの戦闘狂だし!」

 それはそれで問題だと思うがな!

「というわけで――」

 ロウは背中から木刀を取り出した。

(お前、実は京都観光満喫していなかったか?)

 そうでなかったらこいつは木刀と花魁の衣装を持参して来たことになる。そんなの嫌だ。

「くたばれ♥」

 並んだ怪物たちに向かって横薙ぎに一閃する。そこから伸びた黒いオーラが怪物をまとめて断ち切った。

「嘘ぉ!」

 まさか一撃で全滅させるのかよ!

「どんどん逝け」

 怪物を全滅させたロウは連続で木刀を英雄派に向かって何度も振る。

 その度黒いオーラが木刀から飛び出すが、簡単に避けられていた。

「このっ……大人しく倒されろっ」

 上段に掲げた木刀に黒いオーラが収束し、振り下ろすと同時にそれらが無数に別れて英雄派の面々に襲いかかる。

 奴らはそれを回避しようとするが、なんと驚くことにロウが放ったオーラはそれを追いかけるように動いた。

(追尾性能あり!?)

 ロウの技巧に感心しながら攻撃の行方を目で追う。

「ふぇッ?」

 ロウが無駄に可愛らしく驚いた。それは、ロウの攻撃が霧のようなものに防がれたからだ。

「ディ、絶霧(ディメンション・ロスト)!? 神滅具(ロンギヌス)が二つも三つもまとめて来るな!」

 まあ世界で13種しかない神滅具(ロンギヌス)が三つも集まれば厄介だよな。その内一つを所有している俺が言うことじゃないが。

「あ、違う違う。三つの神滅具(ロンギヌス)っていうのは曹操の持ってる黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)、さっきの絶霧(ディメンション・ロスト)、そこのガキの魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)の三つよ」

 あの魔獣を出したのも神滅具(ロンギヌス)なのか……。

「しかし……どうするか。遠距離攻撃は届かない。なら近接攻撃しかないけど……」

 どう見ても動きにくいよねその格好。

「ぐぬぬ……こうなったらあいつらの所まで下がって巻き込むか」

「お前ホント外道だよな」

(そこは嘘でも共闘とか言えよ)

 しかし、ロウは花魁風の格好をしていたため、動きが相当遅かった。

 さらばロウ、貴様のことは忘れない。

「隙有りだよ!」

 そのロウの後ろから白髪の男が剣を持って襲いかかった。

「ふぬっ!」

 振り下ろされた剣を振り返りながら木刀で受け止めるロウ。しかし、明らかに強度が違うため木刀はミシミシと嫌な音を立て始めた。

「ああっ、1,000円もしたのに」

 情けない悲鳴を上げるロウであったが、木刀が折れた瞬間に飛び退いた。

「ま、即席の武器じゃこの程度か。なら、今度はこれで!」

 ロウは腕を降って袖口から扇を取り出すと、一閃して無数の風の刃を飛ばした。

「っと!」

 白髪の剣士は手に持った剣でロウの攻撃を防ぐ。

「ふっ!」

「なんのっ」

 ロウは再び振るわれた剣を扇で受け流すと、そのまま右腕を取って体を地面に押さえつけた。

「合気鉄扇術……!?」

「ま、昔取った杵柄って奴だけどね。手習い程度だけど、普通の人間相手には結構有効よ?」

 あんな動きにくそうな格好でよく技を極められるものだ。いや、アイツは普段から結構動きにくい格好をしていた。

「そう、普通の人間だったらこれで決まりだろう。だが、僕たちは生憎と『普通の人間』じゃない!」

 そう叫んだ白髪の剣士の背中から銀色の鱗のようなものに包まれた腕が生えた。

「のわぁぁぁッ!?」

 目の前に銀色の腕が生えてきたので、ロウは身を仰け反りながら白髪の剣士から慌てて離れた。ちなみにその際に腕を脱臼させていた。

「このっ、もっと動き易い格好するんだった」

 完全に自業自得なのでかける言葉がない。

「く、やるね……」

 外れた肩を継ぎながら、白髪の男は立ち上がって三本の腕それぞれに剣を握る。

「その腕……ドラゴンのものか。『龍の手』(トゥワイス・クリティカル)だな?」

「そう。僕のこの腕は龍の手(トゥワイス・クリティカル)。その亜種さ」

 あれの背中から生えた腕は神器(セイクリッド・ギア)なのか。色んなものがあるんだな。

「さあ、ここからが本番だ」

「えー、ガチな魔剣三刀流の相手だなんてしたくないんだけど……」

 三本の魔剣に対して、ロウは扇に加えて和傘を手に持った。

「斬り合いになんぞ付き合えるか」

 ロウは傘を前に突き出すと、先端の石突からオーラが飛び出す。

「ふんッ」

 白髪の剣士はそれを右手に持った剣で弾くと、左の剣と背中の剣を使ってロウを責め立てる。

「よっ、ほっ、はっ」

 和傘と扇で三本の剣をいなすロウではあるが、激しい攻めに押され気味であり、慣れてなさそうな格好だということも合わせてかなりよろめいていた。

「わわっ」

 一歩下がろうとしたところで裾を踏んだロウが転んでしまいそうになった。

「隙有り!」

 そこに白髪の剣士がロウに目掛けて右手に持った一際禍々しいオーラを放つ剣が振り下ろされた。

「――まだまだだね」

 ロウは受身を取りながら両足を白髪の剣士に向けて足を上げる。

「ぬっ!?」

 その足の間から、黒い刃が無数に飛び出した。

「スカートの中には秘密が一杯なのよ? ――まあこれスカートじゃないけど」

 和服の裾を持ち上げながらおどけるロウ。あいつなんで戦闘中に萌え動作を挟めるんだろう……心情的に。

「よっと。危ない危ない。後で衣装の調節しておかなきゃ」

 逆立ちを間に入れながら立ち上がると、裾を持ち上げながらやれやれと呟いた。

「これ以上は分が悪いかなー。そもそも私雑魚相手には無双できるけど、強者相手には弱いんだから」

 ロウは取り出した煙管を咥えると、煙を大量に吐き出した。

「後は彼らにでも任せるとするかな」

 そして、その煙を突き抜けて俺と木場にゼノヴィア、イリナが飛び出した。

 ロウは煙でこちらからは煙に紛れてやってしまえと指示してきたのだ。

 正直ロウの言う通りにするのは誰もが嫌だったが、好機であったため、全員一斉に駆け出した。

 木場が神速の勢いで白髪の剣士に斬りかかる。だが、その神速の一閃は白髪の剣士の簡単な動きだけで回避した。

「ふっ!」

「やっ!」

 そこにゼノヴィアとイリナも加わるが、白髪の剣士は単身で三人と拮抗していた。

 俺も援護したいところだったが、俺が割り込めそうな雰囲気ではなかった。

「イッセー、こっちに譲渡なさい。まとめて始末してくれるわ……!」

「お、おう……」

Transfer(トランスファー)!』

 少し身の毛もよだつ発言をするロウへと、恐る恐る倍化した力を譲渡をする。

「すぅー……はぁぁぁぁぁ――」

 ロウが吐き出した大量の紫煙は、八つの首と尾を持つ蛇の姿を取った。

「さて、少々キャパシティギリギリだが……襲えッ!」

 八つの蛇の頭が鎌首をもたげ、ロウが煙管を振り下ろす動作に合わせて英雄派の面々に襲いかかった。

「はっ!」

 そんな中、曹操が手にした槍を一閃させる。その槍の先端は開いており、そこから金色のオーラが出て刃になっていた。

 その刃は八つある内の蛇の首の一つが切り飛ばされた。

「甘いわ。煙なんだから斬られた程度でどうにかなるとでも?」

 切り落とされた首が再生する。

「なら、操っている君を倒せばいいだけだ」

「おっと、お前の相手は俺がするぜ」

 ロウに攻撃を仕掛けようとした曹操を、金色の鎧を纏ったアザゼルが攻撃する。二人はそのまま下流の方へと向かっていった。

(嵐山の景色が変わっていく……)

 二人を少しの間目で追ったが、それだけでかなりの被害が出ていた。ここが異空間でよかった。

『ゴギャァァァァァ!』

 いつの間にか新しいアンチモンスターが出現していた。

「何度来ようが無駄無駄無駄! その程度の魔獣、何体居ようが同じことだ!」

 だが、そのアンチモンスターたちはロウの煙の蛇の八つ首に次々引き千切られていく。

 しかし、こうなると俺のやることがない。

Boost(ブースト)!』

 せいぜい力を倍化させるぐらいだ。

「赤龍帝、覚悟!」

 だが、どうやら高みの見物というわけにもいかず、俺の前には剣や槍を持った数人の女の子が近づいてくる。

「くそっ、今はあんまりやり合いたくないないんだけどな!」

Explosion(エクスプロージョン)!』

 倍化を停止させ、女の子たちを迎え撃つ。

「はっ!」

 先制攻撃として、左手からオーラを衝撃波のようにして放つ。しかし、それはあっさりと回避されてしまった。

(ちっ、右腕が使えないのは痛いな)

 もし封印である包帯が破れでもしたら、戦っている余裕はなくなるだろう。

 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が出ている左腕で攻撃を弾く。

「はぁ!」

 真正面から振り下ろされた剣を、籠手で覆われた左腕で受け止める。

 そして動きの止まった女の子を右の掌打で吹き飛ばす。

(手のひらに柔らかい感触!)

 と思った瞬間にアーシアから回復のオーラが届いた。……真意を考えると怖いので真面目にやろう。

「うりゃ!」

 左腕に炎を纏わせると、その左腕で手刀を放って剣や槍を途中で断ち切る。そして武器を失った女の子をパンチやキックで気絶させていく。

Reset(リセット)

「うげっ」

 一定時間が経ったことで能力の倍化の効果が切れてしまった。

「せやッ!」

 しかも運悪く、一人だけ残っていた女の子が後ろから攻撃してきた。

「……てい」

 しかし、その女の子はいつの間にか近づいて来ていた白音ちゃんに吹き飛ばされた。

「ありがとう。助かった」

「……いえ、お気になさらず」

 この子に助けられる日が来るとは夢にも思わなかったな。

「だぁぁぁ――もう! こんな無限プレイやってられっか! スコル! ハティ!」

 ロウが叫ぶと同時にあいつの影が二つに分かれ、そこから二匹の狼が飛び出した。

(て、あれ小さくなってるけど子フェンリルじゃん!)

 そういえば薄れ行く意識でロウが子フェンリルを捕まえていた覚えがある。

「目標はあの不格好な魔物たち! まとめて殺せッ!」

 ロウの指示を受けた子フェンリルたちは見失うほど速く飛び出し、アンチモンスターたちの体を食いちぎっていく。

 煙でできた八つ首の蛇と二匹の子フェンリルのアンチモンスターを倒していくスピードは、少年がアンチモンスターを生み出すスピードを超えていた。

「はい、チェック!」

 アンチモンスターがほとんど消滅した瞬間、煙でできた八つ首の蛇がアンチモンスターを生み出し続ける少年を襲った。

 その内の幾つかは発生した霧や周囲の英雄派によって止められるが、その内一つが少年の間近まで迫った。

「チェック・メイト――」

 ロウがそう呟いた瞬間、最後の蛇の頭が吹き飛んだ。

「危ない危ない。チェックメイトにはまだ早いよ」

 間一髪のところで割り込んできた曹操が聖槍で蛇の頭が吹き飛ばしたのだ。

「くっ……」

 ロウが悔しそうに歯噛みした瞬間、煙でできた八つ首の蛇が霧散する。どうも維持するのが限界に達したようだ。

「ここは引き時かな。――だが、祭りの始めとしては上々だ。アザゼル総督!」

 曹操が戻ってきたアザゼルに向かって声をかけると共に、英雄派たちが徐々に霧に包まれていく。

「我々は今夜、京都と九尾の御大将と使い、二条城で大きな実験をする! 是非とも制止するために我らの祭りに参加して欲しい!」

 曹操の口上が終わると、霧はどんどん濃くなっていき、前すら見えないほど霧が立ち込めた。

「お前ら、空間が元に戻るぞ! 武装を解除しておけ!」

 アザゼルの声に従い、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を解除すると同時に、周りが一気に明るくなった。

 

 視界が効くようになると、周囲には普通に人たちが歩いている普通の景色に戻っていた。

 だが、英雄派の面々は姿を消しており、ロウはいつの間にか俺の近くにいて、珍しくも普通の格好をして何食わぬ顔をしていた。

(あの霧の中で着替えたのか? というか、なぜ今更普通の格好を?)

 もしや目立たないためだろうか。確かにロウは今まで人目のある所ではあの格好はしてなかったからな。

「……姉さま、逃げましたね」

 あ、本当だ。黒歌の奴、逃げやがったな。

 まだ近くにいないかと周りを見回していると、何かを殴る音が聞こえた。

「京都で実験だと……ふざけるなよ若造が!」

 アザゼルは完全にキレている様子で鉄柱を横殴りしていた。

「母上は何もしてないのに……どうして?」

 泣きそうに体を震わせる九重をロウが優しく抱きしめた。

「子供泣かすとか胸糞悪いことしやがって……本気でキレたぞおい」

 九重を撫でる手は優しく、しかし怒気を宿らせた声音で呟くロウ。

 珍しいことに、俺はロウの意見に賛成だった。

「あいつら、絶対にぶっ潰してやる……!」

 


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