はぐれ悪魔 イッセー   作:夜の魔王

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ゴッド・バスター
Homecoming


 突然だが、最近の俺はよく襲われている。

 宝くじが当たって急に金持ちになったというような特別な理由があったのではなく、俺が特別な存在――というと中二病のようだが残念ながら事実だ――であるからだ。

 しかも、襲ってくる存在というのも普通の存在でなく、悪の秘密結社の戦闘員のようなのっぺりとした黒い人型の何かを伴った、炎やら光の矢やらを放つびっくり人間であった。

 襲われる原因はわかっている。何故なら、誰もが最初にこう口にするのだ。『赤龍帝か?』と。

 ちなみにそこで人違いですと言っても結局襲ってくる。なら何故一々確認するのだと小一時間ほど問い詰めたい。

 救いといえば、襲ってくる相手はどれも戦った経験の少ないと思われる素人さんと、大した力がない黒子人形だということだ。

 おかげで今のところ鎧を纏うまでもなく倒せている。あれは強力な分、使った後の疲れが大きいのが難点なのだ。

 

「やっ!」

 だが、今日の敵は少し手強かった。

 影を操って攻撃してくる敵。

 問題なのはその影は攻撃を飲み込んでまた別の影からそれを出すという厄介な特性だった。そのせいで自分で自分を殴るなんてことを二三度繰り返してしまった。

「なら、これでどうだ!」

 突き出した拳が影の中に飲み込まれた瞬間に合わせてオーラを爆発させる。

「ぐあッ!」

 影の中で起こった爆発は影を操っている男を襲ったのか、男は悲鳴を上げて倒れた。

「トドメだ!」

 倒れた男の足目掛けて右足を振り下ろすと、何かが折れる嫌な感触が返ってくる。

(よし、逃げる!)

 行動不能にしたらとどめを刺さずにすぐに逃げる。だって倒してもまた別の奴が来るんだから倒す意味がない。殺すのもできるだけ遠慮したいし。

(けど、これがいつまでも続くようなら対応を変えないといけないかもな)

 そう何度も何度も夜逃げするわけにはいかないのである。

 

 ○ ● ○

 

 やっとこさ今の住まいに帰って来たのだが、なんだか酷い予感を覚えた。家にアーシアが居なかったら回れ右するところである。

 念の為に左腕に籠手を出現させて、自室のドアを開ける。

「ただいま、アーシア」

「お帰りなさい、イッセーさん」

 出迎えてくれるアーシア。ここまではいい。

「邪魔している、赤龍帝」

「よう、赤龍帝の兄ちゃん。久しぶりだねぃ」

「なんでお前らがここにいるんだよ?」

 ヴァーリと美猴という厄介者二名が居座っていた。

「何の用だ。やっぱ言うな、帰れ」

 何の用かと尋ねてみたが、別に聞かなくてもろくでもないことなのは想像がついた。

「まあまあ、そう言わずに話だけでも聞いてくれや」

 だが、こいつらはどうやら話をするまで帰ってくれる気は無いようだったので、仕方ないので座って話を聞くことにした。

 

 ○ ● ○

 

「北欧神話を知っているか?」

 座ってアーシアからお茶を受け取ったところで開口一番にヴァーリの口から飛び出したのは、そんな言葉だった。

「名前と出てくる神様の名前を少しぐらい知ってるだけだけど、それがどうかしたか?」

「その中にフェンリルという、神殺しの狼が存在する」

「うん、大体わかった」

(どうせそれと戦おうって話だろう。こいつらならやりかねない)

 そんな俺の考えを嘲笑うかのように、ヴァーリはそれを遥かに上回ることを口にした。

「それを神仏への対抗策として手に入れておきたい。なので、フェンリルをロキから奪うのに協力して欲しい」

「馬鹿じゃねえのお前」

 聞こえてから言葉にするまでの速度は脊椎反射並みだった。

「ロキってその北欧神話に出てくる神様だったよな? 神仏相手取るために神様に喧嘩売るって本末転倒してるじゃねえかよ!」

 こいつ本当になに考えて生きてるんだろう。少なくとも俺には一生理解できない思考回路をしているのは間違いない。

「てか、神様ってそんな簡単に襲撃できるもんなのか?」

 確かに俺とヴァーリの神器(セイクリッド・ギア)神滅具(ロンギヌス)と呼ばれているが、実際に神様を殺した例は前に見た聖槍以外は無いと聞く。

「普段なら無理だったろう。だが、ロキは近日中にオーディンを殺すためにフェンリルを連れてとある町にやってくる」

「ちょっと待て」

 ちょっと理解できないところがあったので整理させてもらいたい。

「確かオーディンってのもロキと同じ北欧神話の神だったよな? それがどうして殺す殺されるの話になってるんだよ?」

「三大勢力が他の神話体系に和平を持ちかけていることは知っているか?」

「知らん」

 基本一般人として暮らしているのでそういう事は一切知らない。そういう事を聞いてもいないのに話してくるロウも最近見てないしな。

「オーディンはそれを受けようとしているが、ロキはそれが不満なのさ。三大勢力の神話系統は北欧神話を含む様々な他の神話系統を駆逐していたからな。だから、三大勢力とオーディンの和平会談を阻止しようとしている」

 今まで好き勝手やってたくせに突然和平を出されて何様だってことなのかね。

「で、それにどうして俺が協力しなくちゃいけないんだよ。自分たちで勝手にやればいいだろうが」

 俺が率直な感想――勝手にやってろと伝えたら、ヴァーリはその整った顔を若干歪ませた。

「神であるロキは言うに及ばないが、目標であるフェンリルはそれよりも強い。全盛期の二天龍に並ぶほどであり、この世界で十本の指に入るほどだ」

「――!」

 思わず絶句する。この世界で十番目以内に強い。それはつまり、人間では及びもつかない様な世界各地の修羅仏閣の中で十番以内の強さだ。後二天龍ってそんなに強かったんだ。

『これでも一応三大勢力を相手取れた身だからな』

 ドヤ顔してるところ悪いんですけど、ドライグさん結局は負けて封印されてますよね?

「そんなのに勝てるのかよ?」

「まともに戦えばまず負けるだろうな」

 それはヴァーリにしては珍しい弱気な発言だった。

「だが、フェンリルには有名な対処法がある。それと奥の手(・・・)を使えば封じ込めることは十分可能だと考えている。問題はロキだ。かの悪神の強さはフェンリルほどではないが、それでもかなりの強敵だ。それらを同時に相手にするんだ。保険の一つでもかけておきたくなるのさ」

 この何事においても自信満々なこの男がここまで言うからには、今回は本当に危ない橋なのだろう。

「……ちょっとだけだからな」

 本当なら遠慮したいのだが、この孤高を気取る最強厨の自称ライバルが俺に頭を下げる――実際に下げてないが、比喩的な意味で――のだ。このまま見送るというのは些か寝つきが悪くなりそうだった。

「ただし、こういうのはこれっきりだからな。二度目はないぞ」

「感謝する。――では、早速行こうか」

 いきなりだった。こっちの事情とかは考慮に入れてくれないのだろうか。予定なんて一切ないから問題ないけど。

「行くって、どこに行くんだよ」

「三大勢力とオーディンの会見が行われる所だ」

「具体的な地名で頼む」

 聞いても判るかどうかはわからなかったが、一応訊いておくことにした。

「――――だ」

 その地名は聞いたことがあった。別に有名ではない地方都市。――そこは、俺の生まれ育った町だったのだ。

「この話はやっぱり無しということで――!」

 

 

 ○ ● ○

 

 

 あれから迂余曲折あり、俺はヴァーリたちについてアーシアと一緒に自分の故郷へと帰って来ていた。一度口に出したことはそう簡単には撤回できなかったのだ。

「気が重い……」

 間違っても知人に会わないように行動は常に深夜。ついでに唾の長い帽子を被って顔をできるだけ隠すことにする。

「それで、オーディンだっけか。ロキに狙われてる神様ってのは。そいつにでも会いに行くのか」

「それがロキに接触する一番手っ取り早い方法だろうな」

 そうは言うけどな、ヴァーリ。お前テロリストって自覚あるか? 普通に会いに行ったらその場で戦闘になるぞ。

「だろうな。だから、できるだけ恩を売ることのできるタイミングで会いに行くことにする。――たとえば、今のような、な」

Vanishing(バニシング) Dragon(ドラゴン) Blance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!』

 ヴァーリはいきなり白い鎧を纏うと、突然飛んでいってしまった。

 その先を見上げると、そこには巨大な馬と狼。それと悪魔がたくさんと天使と堕天使が少し。それと、その中でも一際強い存在感を放つ黒いローブを着た悪そうな男がいた。

「あれがロキか?」

「そうみてぇだな。俺もヴァーリの後を追うかね」

 美猴は金色の雲――筋斗雲を出してヴァーリの後を追って飛んでいってしまった。

「お前らは行かないのか?」

「私飛ぶの苦手なのよね。元が猫だから」

「私はそもそも飛ぶことができません」

 一緒に居た黒歌とアーサーは動きがなかったので尋ねてみると、そんな答えが帰ってきた。ちなみに、小猫ちゃんとルフェイは別行動を取っている。

 小猫ちゃんとあいつらを会わせるのは少しあれなので、それはいいと思う。

「あ、ロキとフェンリルが居なくなった」

 ヴァーリの介入によって、ロキという驚異は一先ず去っていった。

「なあ、この後の顔合わせに俺も出なくちゃダメか?」

 俺は駒王学園の悪魔たち――特にリアス・グレモリーと顔を合わせたくないのだ。あとこいつらと仲間扱いされたくない。

「決戦の場にいきなり現れても混乱を招きますからね。我慢してください」

 アーサーの正論に、俺は言葉もなく俯くのだった。

 

 ○ ● ○

 

 場所は変わって駒王学園旧校舎のオカルト研究会の部室。そこにはこの場の主であるリアス・グレモリー。その右腕的ポジションである姫島朱乃。堕天使の総督であるアザゼル。更に駒王学園の生徒会長であり、リアス・グレモリーと並ぶ上級悪魔であるソーナ・シトリー。それに二天龍であるヴァーリが集められていた。

 ちなみにその場に全員いないのは単にスペースの都合であり、それ以外の者はその部屋の外の廊下で待機していた。

 仮にも敵対している間柄なので、会話は一切無かった。沈黙が痛い。

「あの……イッセーくん?」

 そんな居た堪れない雰囲気の中、明るい茶髪をツインテールにした少女が俺に話しかけてきた。

(はて、こんな美少女は記憶にないんだが、一体誰だろうか)

 駒王学園の制服を着ているからここの生徒だとは思うんだが、こんな美少女がいたら俺が気づかないはずがないのだが……

「えっと……どちら様で?」

「わ、忘れちゃったの!? 私、紫藤イリナだよ! 小さい頃よく遊んだでしょ?」

「――すまん、全然覚えてない」

 冗談とか無しで、これポッチも覚えていない。そもそも子供の頃に女の子と遊んだ覚えが俺にはない。

「そ、そんなぁ……久しぶりに帰ってきて尋ねてみたら行方不明になってるし、しかもその理由が悪魔に転生したからって聞いて心配してたのにこの扱いはないと思うわ!」

「ご、ごめんなさい」

 悪いとは思うが本当に思い出せないのだ。

 まあそれはそれとして、俺にはそれよりも優先して聞かなくてはいけない事ができた。

「父さんと母さん、やっぱり心配してたか?」

 それはこの町に残した唯一の心残り。俺を産んで育ててくれた両親の事だった。

 俺の問いかけを聞いたイリナはコクりと頷く。

「お二人とも目に見えて疲れてて……ねえ、イッセーくん。あなたの立場は理解してるつもりだけど、せめてご両親に顔を見せるぐらいはできないかな?」

「――それはできない」

 本心ではイリナの言う通り、俺だって父さんと母さんに会いに行きたかった。

 だが、俺はもう変わってしまったのだ。しかも今の俺はよくわからないが狙われている。もし両親が巻き込まれたのなら、俺はそれを一生後悔することになるだろう。

 ――だが、イリナの話を聞いて、俺は一つの決心がついた。今までずっと考えていたものの、そのままなあなあにしていた事への。

 

 ○ ● ○

 

「アザゼルさん」

 話し合いが終わったのか、部室から出てきたアザゼルへと声をかける。

「どうした赤龍帝。俺に何か用かな?」

「頼みがある」

「……ま、言ってみな」

 アザゼルは俺の言葉を聞いてしばらく考えていたようだったが、話を聞いてくれるようだった。

「俺はあんたの部下に殺されて、そのせいで悪魔に転生したのは知ってるか?」

「報告にあったからな。その償いをしろってことか?」

「大体そんな所だ」

 だが、俺に特に何をしろってわけじゃない。

「堕天使って人間の記憶を自由にできるんだろ?」

 堕天使レイナーレが天野夕麻としての記憶を消したように。

「確かにできるが……それをどうしろって?」

 アザゼルに問いかけられ、躊躇いを振り切って一息で考え抜いた内容を口にした。

 

「――俺の、兵藤一誠の記憶をこの町の住人から全て消して欲しい」

 


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