Black and Black
堕天使のその後
「はぁ……」
堕天使レイナーレはため息を吐く。
というのも彼女はアーシア・アルジェントを巡る一件の後に、そこそこ騒動に巻き込まれていたのだ。
そして、今はその事を報告書にまとめているところだった。
「ええと、まずはコカビエルさまの一件ね」
● ○ ●
「おい、そこの堕天使」
グリゴリ本部の通路で後ろから声をかけられたレイナーレは、振り返ると共に驚愕した。
「コ、コカビエルさま!?」
かの大戦を生き残った伝説の堕天使に声をかけられて、レイナーレは萎縮した。
コカビエルといえば研究肌の堕天使が多いグリゴリの中でも武闘派――というか戦争狂で有名だった。
「い、一体何の御用でしょうか!?」
レイナーレはコカビエルに話しかけられたことに驚きながらも、同時になぜ自分に声をかけられたのかを不思議に思った。
「確か、お前はこの前までグレモリーの小娘の縄張りにいたな?」
「は、はい。そうですが……」
「ならばついて来い。案内役にでもなってもらおう」
「は、はい!」
レイナーレは喜んで着いて行くのだが、この後彼女は想像だにできない出来事に見舞われるのだった。
● ○ ●
「ほっほーう! こいつが聖剣って奴ですか! こんなピカピカ眩しい剣を俺みたいな奴が使っていいんでしょうかね!? ダメって言われても遠慮なく使っちゃうんですけどね!」
手にした聖剣――七本に折れたエクスカリバーの内の一本を手にしたはぐれ
「……うるさいわよ、フリード」
レイナーレはバルパー・ガリレイという元司教の手によって聖剣を扱えるようになった自分の配下を煩わしげに見る。
「お前はコカビエルさまの言う通りに町に入り込んだ教会関係者を殺しなさい」
「あいよ! 神に仕える子羊ちゃんを片っ端からスッパンってね!」
そう言って隠れ家にしている廃棄された教会を出て行くフリードを見送ると、レイナーレは転がっている椅子の中で比較的まともなものに腰掛ける。
「人工的な聖剣使いだなんて……人間の欲望には本当に限りがないわね。穢らわしいことこの上ないわ」
人間の本質はかつてアザゼルさまたちから知識を掠め取った時から何も変わっていないとレイナーレは思った。
「それにしても、戦争……ね。それをアザゼルさまがお許しになられるとは思えないのだけれど」
前線で戦ったわけではないが、堕天使であるレイナーレは戦争を身を以て体験している。
戦争は二天龍によって止む終えず休戦になったものの、それ以降のアザゼルは戦争に対して消極的になり、専ら趣味である
(私個人は戦争には反対だけど)
戦争で一度死にかけているレイナーレは、再び戦争を引き起こそうとするコカビエルには賛同しかねていた。
(けど、私が幹部であるコカビエルさまに意見することなんてできないものね)
せめてもの抵抗をしてはみたものの、それが身を結ぶかどうかは不明である。
「でも、もう私のやることはもう終わっているものね」
この町の地理を伝えてこの場所と子飼いのはぐれ
「これにどう対処するか、見せてもらうわよグレモリー」
● ○ ●
ところは変わって駒王学園の旧校舎。校庭に走る光の線とその中央に浮かぶ四本の
というのも、後天的に聖剣使いされた配下のはぐれ
彼の経緯を知れば納得できなくもないのだが、レイナーレにとっては腕は立つが下品な男なので、少々腹立たしくあった。
その全てを黙って見守っていると、学園を包むように結界が張られてリアス・グレモリーたちが現れた。
「よく来たな。サーゼクスの妹よ。貴様の兄はここに来るのか?」
「お兄さまは来ないわ。あなた程度、私たちだけで十分よ!」
「コカビエルを前にして不遜な」
リアスの口上を聞いたレイナーレは反射的に反感を覚える。
(これだから戦争を知らない若い悪魔は)
コカビエルはかの戦争で終始前線に居続け、その上で生き残った豪傑だ。多少才能があるとは言え、戦争も知らない若い悪魔とには天と地ほどの力の差がある。
それを証明するかのように、塔ほどの大きさを光の槍が体育館を貫いた。
「つまらん。サーゼクスが来ないというのなら、俺が戦う必要もない。貴様らには俺のペットで十分だ」
コカビエルが指を弾くと、三つ頭を持つ魔犬――ケルベロスが三頭姿を表す。
グレモリー眷属がケルベロスたちと戦う最中に、四本の折れたエクスカリバーを束ねた聖剣が完成する。
「フリード。それを使って奴らを始末しろ」
「あいあいさー! ウチのボスは太っ腹だね! こんな立派で凄い武器を俺みたいなのに軽く渡してくれるんだからよ!」
その剣をフリードが手にすると同時に、新たな者がこの場に現れた。
「バルパー・ガリレイ……僕は『聖剣計画』の一員――お前によって無意味に殺された者だ!」
それはかつて聖剣を使えるようになるための訓練を受け、仲間諸共一度殺された木場だった。
「過去の亡霊が悪魔になって蘇ったか。だが、貴様らの犠牲は無意味ではなかったぞ」
「何だと?」
「貴様らを殺したのはこれを抽出するためだ」
そう言ってバルパーは懐から光り輝く球体を取り出した。
「これは聖剣を扱うのに必要な因子を抽出したものだ。もう量産体勢が整っているのでもう私には必要ない。欲しければくれてやるぞ」
バルパーは聖剣使いの因子を木場へと放り投げ、それを木場は優しい手つきでそれを拾い上げる。
「バルパー・ガリレイ……! 貴様だけは絶対に許さない!」
叫んだ瞬間、木場のオーラが膨れ上がり、それが剣の形に凝縮される。
「
「フリード」
「あいよ! このおっさんを殺りたかったら俺を先に殺れなんてお決まりの台詞を言わせてもらいますよぉぉぉ!」
殺意と共に魔剣と聖剣が交錯し、辺りに激しいスパークが
「
木場の手にした剣の刃が闇に変わり、エクスカリバーの聖なるオーラを削っていく。
「おいおいおい、こちとら折れたとはいえ名のある聖剣だろうがよ! それがどうして悪魔風情の創った魔剣に押されてんだよ!?」
「この剣は同士たちの無念が込められた剣だ! だからこそ、エクスカリバーだけには負けるわけにはいけないんだッ!」
幾度の接触で闇の魔剣はエクスカリバーの纏う聖なるオーラを打ち合う度に減じさせていった。
「おいおい嘘でしょー! 伝説の聖剣さまがどうしてクズ悪魔のカス剣に敗北するんですかー!?」
「これで終わりだ!」
木場の魔剣が一閃されると、聖なるオーラを失ったエクスカリバーはフリードごと真っ二つに切り裂かれた。
「まさか、エクスカリバーが……」
エクスカリバーが折れたことに余程ショックを受けたのか、バルパーは膝を落として呆然とした。
「ふん、まさかエクスカリバーが敗れるとはな。所詮折れた聖剣ではこの程度か」
その一部始終を高みの見物していたコカビエルが宙に浮かべた椅子から立ち上がる。
「この町を壊す術式が完成するまで少し時間がある。どれ、少し遊んでやろう」
コカビエルが校庭に降り立つと、そこにリアスの滅びの魔力が放たれた。
だが、それをコカビエルは片手で受け止める。
「なるほど。才能は感じられる。――だが、この程度では俺を倒すことなどできん!」
滅びの魔力を打ち払うと、そこに雷が落ちる。
「バラキエルの娘か! それが悪魔に堕ちるとはな」
バラキエル。それは堕天使の幹部であり、筆頭の武闘派で知られている。
「黙れ! 私はあの者とは違う!」
「リアス・グレモリー。貴様は余程のゲテモノ好きのようだな!」
「私の眷属を侮辱するな!」
リアスが怒り任せに滅びの魔力を放つが、二度目は当たりもせずに躱された。
多勢を相手にしても譲らないコカビエルは、抗戦している中で隠されている重大な事実を口にした。
「仕えるべき主を亡くしたというのに、貴様ら神の信徒と悪魔はよく戦う」
「なんだと?」
コカビエルが口にした言葉。それは神が既に死んでいると事実を指していた。
それを聞いて、教会関係者のゼノヴィアがショックを受け、デュランダルを取り落とす。
「天使は神、悪魔は魔王を失い、堕天使は幹部を除くほとんどが死んだ。今戦争を起こせば三大勢力は揃って共倒れになる。だからもう誰も戦争は起こさない。だが! このままで終わらせられるか! あのまま戦いを続けていたら勝っていたのは俺たち堕天使だった! それを俺一人でも証明してやる!」
コカビエルが声を荒げて叫び、リアスたちに向かって襲いかかろうとしたとき、空から一条の白い光が降ってきた。
「貴様、『
「アザゼルからお前を連れ戻すように言われてね。大人しくついて来て貰えるか?」
「断る!」
「なら、力尽くだ」
コカビエルと白い龍――ヴァーリが戦い始めるも、白龍皇の相手の力を半減させる力を受けたコカビエルはその力を大いに縮小させられ、為すすべなくヴァーリに倒された。
「さて、そこの堕天使」
「――何よ」
今まで見ているだけだったレイナーレに声がかかり、彼女はそれに憮然とした言葉を返す。
「お前にもついて来てもらうぞ。アザゼルへの経緯の説明をしてもらう」
「わかってるわよ」
ならいいと呟いて、コカビエルを担いで飛び上がったヴァーリの後を追って、レイナーレは駒王学園から飛び立った。
● ○ ●
その後、レイナーレは堕天使総督アザゼルに謁見し、一連の事情を告げた後、三大勢力の和平会談にも付き添うことになるのだが……
「正直、あの時のことは覚えてないのよね」
(時間停止を受けたみたいで、気がついた時にはもう全部終わった後だったし)
なので、和平会談の時のことは書くほど覚えていないのだ。
「でも、アザゼルさまはお変わりなかったわね」
かつての思い出の中と寸分違わぬ姿と、戦場でも変わることのなかった余裕溢れる態度。
(あの方はかつて自分を戦争の最中に救ってくれた時となんら変わりない――)
「どうやったらあの方のお役に立てるのかわからないけど、まずはこの報告書を仕上げましょう」
レイナーレは羽ペンにインクを浸すと、机に向かって文字を書き連ねるのだった。
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黒いのの独白
「オーフィスくぁいいよオーフィスオーフィスをちっちゃな体をはぐはぐしたい長い髪をもふもふしたい首筋をくんかくんかしたい綺麗な肌をぺろぺろしたいあどけない顔にすりすりしたい小さな頭をなでなでしたいオーフィス可愛いよオーフィスオーフィスマジウロボロスオーフィスは俺の嫁――今すぐ攫って誰の手の届かない所に監禁して誰の目にも触れさせない場所で一生面倒見たいぐらい大好きっ! べ、別に好きって言っても世界を敵に回せるぐらい好きなだけなんだからねっ!
――……はっ、今一体何をしていた? 精神安定剤切らすと意識がちょくちょく飛ぶなー」