はぐれ悪魔 イッセー   作:夜の魔王

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Sword Dance

 その禁手化(バランス・ブレイク)の変化は静かだった。

 膨れ上がったオーラは全て手にした剣に集まり、その形状をより禍々しいものに変えていた。

禁手(バランス・ブレイカー)――『聖破の降魔剣』(ソード・オブ・リベンジャー)。これで君の相手をしよう」

 木場が目にも止まらぬ俊足で駆けてくる。どこから来るかはわからない。だが、攻撃されるタイミングは大体予想できた。なので、その瞬間に後ろに飛ぶ。

 さっきまでのやり取りでは木場の攻撃をまともに受けても鎧を突破する事はできなかった。

 なので、たとえ禁手化(バランス・ブレイク)していても後ろに下がって威力を軽減すれば、攻撃は鎧を突破する事はないと思っていた。

「はぁッ!」

「――ッ!!」

 しかし、刃が通り抜けた脇腹には鋭い痛みが走る。木場の剣が鎧を切り裂いて俺の脇腹に届いたようだ。

「ふっ!」

 痛みに顔をしかめる俺を、木場の返す二の太刀が襲う。

Boost(ブースト)!』

 瞬間的に力を倍化して一気に飛び退く。それでも切っ先が届いたのか、鎧の胸部が浅く切り裂かれた。

(間違いない。相手の攻撃は俺に通じるようになった。つまり、それが奴の禁手(バランス・ブレイカー)の能力だ)

 特に力が強くなったわけでも速くなったわけでもないから、俺と同じ身体強化じゃない。

 なら、変わったのは剣の方だ。見た目だけでなく、能力か、それとも出力か。まずはそれがわからないことには太刀打ちできないだろう。

 そこまで考えたところで、再び木場が距離を詰めてくる。

 その手にした剣を見据えて、俺はある一つの動作を行った。

 

 ○ ● ○

 

 所が移り変わり、距離的に近くても絶対にたどり着けない場所で、二本の伝説級の聖剣が激突していた。

 片やアーサーの持つコールブランド。片やゼノヴィアが持つデュランダル。どちらも名高い伝説級の聖剣である。

 伝説の聖剣同士が激突する度、周りには莫大な聖なるオーラが撒き散らされる。

 しかし、その度に被害を受けているのはその担い手である二人ではなかった。

「ヒィィィィィ! 余波で体が焼けるぅぅぅぅぅッ!!」

 元ハーフヴァンパイア、現悪魔なギャスパーに取って弱点である聖なるオーラはただ浴びるだけで被害を受けていた。最早日光に晒された吸血鬼状態である。なお、彼はデイライトウォーカーと呼ばれる類の吸血鬼であるため日光に晒されても影響はない。

 その有様は彼と相対するルフェイが心配になり、攻撃するのを躊躇(ためら)うほどである。

「せりゃぁぁぁぁぁ!」

「ふっ――」

 ゼノヴィアが振り下ろしたデュランダルから放たれた聖なるオーラが黒い迷宮を砕きながら突き進み、それをアーサーが振ったコールブランドが空間ごと抉りとる。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

「きゃあ!」

 二本の聖剣の激突は、周りに災害のような被害を出していた。ルフェイもギャスパーもここから一刻も早く離れたいのだが、下手に動けば巻き込まれそうなので動けない。

「はぁぁぁ!」

「はっ!」

 脳筋と戦闘狂の激突で被害を被るのはいつだって周囲なのである。

 

 ● ● ●

 

「鬼さんこちら、手の鳴る方へ――」

「大人しく喰らいなさい!」

 リアスの放つ滅びの魔力をひらひらと躱し、時に広げた和傘で防ぎながら、ロウは飄々(ひょうひょう)と笑う。

「そんなにムキにならなくても。姉妹の再会ぐらい許容しなさいな」

「黒歌はその妹を捨てたのよ!」

「だってそうしなかったら共倒れだしぃ? お前(あくま)らって上下関係厳しいから下僕が主を殺したら、その存在を許容できないでしょう? だったら確実に共倒れになるよりも可能性が薄くても生き残れる方法を取るに決まってるよね? それに――」

 そこで一度言葉を切り、ロウは右手に持った煙管をひと振りして、無数の剣群を創りだす。

「何もしてない白音を、ただ妹だという理由だけで殺そうとした悪魔がどの口で何を言っている? ――コロスゾ?」

 ゾッとするほど冷たい声音が響くと共に、剣群がリアスに向かって殺到する。

「くっ……!」

 それを防御魔方陣でなんとか防ぐリアス。その様子を冷めた目で見ながら、ロウは言葉を吐き続ける。

「そもそも、殺された主にも非があるとは一切考えなかったわけ? いや、お前らの事情なんて一切知らんし、だからと言って殺していいわけじゃねーですけどね」

 煙管を口に咥えて空いた手に扇を持ち、それを振るって無数の風の刃を放つ。それらをリアスは再び魔方陣で防ぎ、強い口調で問いかける。

「主に非があるって言ったわね。それは一体どういうこと!?」

「説明なんて嫌よ。当の本人に聞け。それに私が言っても信じないでしょうから」

 いつの間にやら口に咥えた煙管をピコピコ上下に動かし、ロウは口の端から紫煙を吐く。

「どうせ真相や闇の中。過ぎたことにいつまでも拘ってもしょうがないだろう? ――かつて闇に(ほうむ)って、今になってそれを言い出した私が言うのもなんですけどね」

 言葉を切ると同時に、扇を左手に打ち付けて閉じる。

「私とあなたはその立ち位置からして相容れない。もう会話も必要ないでしょう。後はただ、殺し合うだけ――」

 言葉を切ったロウは閉じた扇を大きく振るい、数は一つになったものの、先よりも巨大な風の刃を飛ばしてリアスの防御魔方陣を切り裂いた。

「ぐちゃぐちゃにしてあげますわ」

 そして、それを連打した。

 

 ○ ● ○

 

「ぐ、なんとか成功した……」

 迫る刃に対して俺が取った方法は、両手で自分に向かって振り下ろされる剣を横から挟んで止めることだった。俗に言う真剣白刃取りである。

 両腕を震えさせながら受け止めた成果は、目の前の剣の刃に走る高温の炎だった。

「くっ!」

 俺の腹を蹴って剣をもぎ取って離れる木場だが、もう確認することはし終わっていた。

「確か……お前の力は色んな属性の剣を作る能力だったな」

 その言葉で種が割れたと察したのか、木場は剣先を下げて言葉を返してくれた。

「僕の禁手(バランス・ブレイカー)聖破の降魔剣(ソード・オブ・リベンジャー)は通常の魔剣を数本分束ねた力を持つ魔剣を創り出すことだ。魔力を注ぐことで更に威力を底上げすることもできる。その分力の消費は通常よりも多いけどね。今君に使っているのは熱刃剣(ヒート・エッジ)という刃に高熱を宿した魔剣だ」

「そこまでネタばらしていいのかよ?」

 手の内が知られるという事はそれだけで不利だ。たとえば、俺の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)

 倍化に時間がかかることが知られれば相手は短期決戦で来るだろう。そうなれば俺は不利だ。まあ、禁手化(バランス・ブレイク)できるようになった今では大した問題じゃないけど。

「構わないさ。わかったからといって容易く対処できるようなものでもないしね」

 確かに、様々な種類の魔剣を創れるというなら、どれか一つに対処したところで無意味だ。まあ剣しか創れないのは弱点かもしれないけど、それは見ればわかることだからな。

(そんじゃ、試しに一つ……)

Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)!!』

 息を大きく吸って……吐く!

Transfer(トランスファー)!!』

 一応ドラゴンだということで覚えた(体で)炎のブレスを吐く。倍化した力を譲渡してあるので小部屋を丸々火の海に変えられるぐらいの規模なので、足が速くても避け切れないと踏んだんだが……

炎凍剣(フレイム・デリート)!」

 木場の手にした剣が氷の剣に変わり、木場がそれを振ると、俺が吐き出した炎は凍り付いて砕け散った。炎を凍らせる剣って……流石魔剣。常識じゃ考えられない現象が簡単に起こるな。

(やっぱ直接殴らないと倒すのは無理か)

 だが、それがわかってもそう簡単にはいかない。

 相手の方が足が速い上に相手の武器が剣のため、間合いもあっちが広いせいでこっちの攻撃は服の裾に掠るのがやっとだ。

 見る感じ、当たれば一撃K.O.もできると思うのだが、そもそも当たらなければ意味がない。

 一応、最大威力の攻撃を放てば防御ごと吹き飛ばせる自信はあるのだが、小刻みにヒット・アンド・アウェイを繰り返してくるため、撃つまでに若干の時間がかかるそれを放つ隙もない。

「くそっ!」

『鎧の修復はまだ余裕はあるが、このままだとジリ貧だぞ。どうする相棒?』

 十数回目の空振りの後、鎧の切断面を塞ぎながらドライグが話しかけてきた。

(そう言われてもよ。あいつの動きが速過ぎて目が追いつかないぐらいなんだが)

『だったら頭を使え。奴に攻撃を当てるにはどうすればいい?』

(足を止める……のは無理だとしても、せめて攻撃される方向がわかればなんとかなるんだが……)

『そうだ。なら、こんな広い部屋の中央に止まっているべきではないな?』

 そうか!

(ありがとよ、ドライグ!)

 礼を言って後ろに向かって走り出す。

 突然の俺の行動に驚いて一瞬動きを止めた木場だが、すぐに俺の考えに気づいて俺を止めるために駆け出した。だけど、もう遅い。

 目的の場所に向かって飛び込む俺の後ろを剣が空振りする。そのまま俺は転がりながら距離を取り、体を反転させながら立ち上がる。

 俺が飛び込んだのはここに来るまで歩いていた通路だった。木場はその入り口で立ち止まっている。

「……考えたね。ここなら真正面から攻撃するしかないし、動ける範囲も制限できる」

 通路は幅も高さも大体3メートルぐらいだ。剣を振るには支障がないが、俺の横をすり抜けて後ろに回るのもまず不可能な場所。欲を言えばもっと狭いと完璧だったのだが。

「でも、僕がわざわざ自分が不利な場所に飛び込むと思うのかい?」

「いや」

 正直こんな不利な状況に自ら飛び込むのはバカだ。だが、俺は木場がきっと飛び込んでくると考えている。

「でも、お前が来ないならお前はここでずっと足止めだ。俺にとってはそれでも十分勝ちだって言える」

 別に俺がこいつを倒すことには何の価値もない。正直あの姉妹が話し合える時間さえ稼げればいいので、むしろこのままの方が都合がいい。つーか来んな。

 唯一の懸念材料は鎧の持続時間だが、2、3時間ぐらいは保つから多分大丈夫だろう。限界ギリギリまで出してるとしばらく神器自体が使えなくなるからあんまりしたくないけど。

「さて、どうするよイケメン。不利を覚悟でかかって来るか?」

 俺が挑発気味にそう言うと、木場は剣を持つ手に力を入れ直す。

(まあ、そう来るよな……)

 それを見て、俺は右腕を引いて、正拳突きの構えを取る。

 きっと、次の一撃で決着が着くだろう。だが、そのためには木場も相当深く踏み込む必要がある。俺の拳が届く距離まで。

 俺の拳か、木場の剣か。先に届いた方が勝つ。そんな場面だ。

 だが、俺よりもあいつの方が速い現状、勝つのは十中八九あいつになるだろう。

(だけど、別に攻撃手段は拳だけじゃない。頼むぞ、ドライグ)

『ああ、任せておけ』

 すぐに力の倍化ができるように、ドライグに声を出さずに準備してもらう。

 緊張が高まり、一秒が何秒にも感じられる時間の中、とうとう木場が動いた。

「はあぁぁぁッ!」

 剣を高く上げて木場が走り出す。目にも止まらぬ速度。だが、真正面から来るなら動きを捉えるのは簡単だった。

 その体が通路の中に入った瞬間、俺は右の拳を突き出し、それと同時に力を倍化させる!

Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)!!』

赤火拳(しゃっかけん)ッ!」

 拳が前に突き出される動作に合わせて、俺の右拳から炎が噴き出す。

 これぞディーネちゃん直伝赤火拳。ちなみに、ディーネちゃんのは火じゃなくて水で流水拳という。一説によるとダイヤも貫けるとか。

「甘い!」

 しかし、俺の拳から出た炎は木場の振り下ろした氷の剣によって砕かれた。だが、それも予想通りだ。

「知ってるか? 正拳突きって放った後の姿勢がそのまま反対側での拳の正拳突きの構えになるんだぜ?」

 剣を振り下ろして動きの止まった木場に向かって近寄りながら、後ろに引かれた左の拳に力を込める。

「しまっ――」

 剣を振り上げつつある木場だが、それが俺に届く前に左の拳を勢いよく突き出す。

Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)!!』

「食らいやがれッ!」

 木場の剣が跳ね上がる前に、俺の拳が木場の体を吹き飛ばした。

 




オリジナル要素説明

聖破の降魔剣(ソード・オブ・リベンジャー)

魔剣創造の禁手
能力は通常の魔剣の数倍の力を持つ魔剣を創ること
質は低いものの魔剣であるため使用する度に生命力もしくは魔力を消費する
消費量を多くすることで威力の増幅が可能である

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