Isse in the Hell
どうも、兵藤一誠です。何故だか死ぬまで一生来る予定のなかった地獄……もとい冥界に来ています。というか向かわされました。
というのも、冥界に行く予定のある方々――ヴァーリチームの転移に巻き込まれてしまったという、なんとも間抜けな原因なのですが……帰ったら転移を行った張本人であるロウを一発殴っても許されると思うんだ。
「どうすりゃいいんだ……冥界から帰る方法なんて思いつかないぞ……」
冥界? 地図でいうとドコ? そもそもここは地球の上? それとも地下なのか? 実は異世界とか?
「あの……」
本気で悲観していると、ここに来る原因となった白龍皇の仲間である少女、ルフェイ・ペンドラゴンがおずおずと話しかけてきた。
(この子はテロリストって感じしないなぁ……)
魔女っぽい三角帽を外せば普通の女の子で通りそうだ。
「私たちの要件が済んだらですけど、その際に一緒に人間界へお連れしますけど……」
「是非お願いします!」
地獄に仏とはまさにこの事か。感動のあまり俺は彼女の両手を掴んでお願いした。
(無事に帰れるんだったらたとえ悪魔の手だって借りてやる! ――あ、俺も一応悪魔か)
「ありがとうございます、ルフェイさん」
俺と一緒に冥界に転移させられてしまったアーシアも俺と同じようにルフェイの手を握る。その際に何かを言っていたようだが気のせいだろうか? ルフェイの顔色が若干青くなった気がするのだが。
「えっと……それでですね。私たちは所属しているある組織の命令で冥界に来たんですけど、今からその集合場所に向かわなくてはならないんです。ですので……」
慌てたように話題を変えるルフェイの言いたいことを先読みして頷く。
「はぐれたら困るからついて来いってわけだな。わかった」
こちらとしてははぐれて帰れなくなることだけは御免被りたいので、言われずともついて行く気であった。
「そういえば、お前たちが所属してる組織ってなんなの?」
「今私たちが所属している組織の名前は
対象が三大勢力じゃなかったら速攻でおさらばしていたと、後になって思うのであった。今だって逃げ出したい気持ちで一杯だけどね!
○ ● ○
ヴァーリたちについて行くこと歩いて20分。目的地を聞いたわけでもないのに、そのかなり近くに飛ばせるロウへの驚きが隠せない中、どう取り繕っても廃墟としか言えない建物に着いた。
「ここか?」
「指示された座標はここになっています」
展開した魔方陣に浮かぶ文字列(日本語じゃないから読めない)を見て、ルフェイはヴァーリの確認にそうだと返す。
「どう見ても誰かが居るようには見えないんだが」
崩れた壁の隙間から中が伺えるが、どこにも人影は見受けられなかった。
「赤龍帝ちん、居るのは地下にゃ」
足元を見ながら黒歌が仙術で生命の気配を察知した結果を口にする。
「なるほど、日陰者にはお似合いだな」
ヴァーリは一言呟くと廃屋の中に歩を進めた。
「俺は外で待ってた方がいいんだろうか?」
一緒に行って仲間だと思われたくない。
「やめといた方がいいにゃん。もしここに来た相手に出会ったら、出会う相手によっては殺されるわよ?」
「物騒だな!」
テロリスト集団ならそれが当たり前なのだろうか。テロリストなんて嫌いだ。
「黙ってついて来るにゃ。見つからないようにお
手を招き猫のようにして笑顔を作る黒歌。少しでも可愛いと思ったのは負けた気がするから内緒だ。
「この業界でのお呪いはご利益あるだろうな……」
何せ悪魔やドラゴンが普通に存在するからな。だけど字面が怖い。
「そういえば、お前には猫耳が生えてるけど、ひょっとして化け猫なのか?」
今まで流していたがふと気になったので尋ねてみた。
「まあそうにゃ。正確には猫又の希少種の猫魈にゃん」
「ね、猫しょー?」
猫又には聴き覚えがあるが、そっちについては聞き覚えがなかった。
「付け加えるなら転生悪魔でもあるけどねー。君と一緒ではぐれ悪魔にゃん」
「ああ……」
なんかとても納得できた。はぐれって言葉がこれほど似合う女もいないだろう。
「……なんか引っかかる物言いだにゃ」
「お前が誰かに従うのが想像できない」
こいつが従順だとか冗談キツいわー。冗談でも想像できない。
「なんですと!」
思うところをそのまま口にしたが、黒歌に強い調子で反論された。
「黒歌、そこまでにしておけ。つまらないことは早く済ませたいんだ」
ヴァーリは心底退屈そうな顔をして廃墟の中に歩いて行った。
(こいつ、団体行動とか苦手だろ)
○ ● ○
廃墟の地下は陰鬱で暗く、
もっとも、ここに居るのは悪魔だけじゃないみたいだ。見るからに魔とはかけ離れた――むしろ相反するオーラを発している槍を持ってる奴もいるからな。というかあの槍怖い。
「あれは……」
「アーシア?」
その槍を見て呆けたように見つめるアーシアの視界を、スーツの袖に包まれた腕が遮った。
「どうやらあなたは教会の関係者だったようですね。でしたら、あれをあまり見ない方がいい。意識を持って行かれかねません」
「どういう事だ? お前はあれが何か知ってるのか?」
アーサーに長身の男が持っている槍について尋ねてみる。
「あれは神殺しの槍――最初の
「あれが聖槍……」
名前だけなら俺でも聞いたことはある。それなら教会出身のアーシアにとっては感慨深いものがあるだろう。だけど、それがテロリストの手にあるって……教会関係者が聞いたら卒倒しそうだな。
「あなたたちは前に出ない方がいい。あの聖槍の持ち主……曹操に見つかると色々面倒ですからね」
聖槍の持ち主は曹操と言うらしいが……何というか、同じ組織だと言っても、そんなに仲が良いわけではないようだ。
○ ● ○
話し合いが始まると、険悪な雰囲気はより一層強くなった。今は言い争いで済んでるが、一触即発の雰囲気で今すぐ乱闘になってもおかしくない。
(これ、本当に同じ組織の人間なんだろうか。日本の議会でもここまで仲悪くないと思うんだが)
「敵対する相手が共通していることで、ようやく組織として集まっているだけですからね。いつ分裂してもおかしくないです」
……それ組織になった必要あるのかな。
「簡単に説明しますと、この組織『
ルフェイが説明してくれるそうなので、その言葉を注意して聞くことにする。
「まず、旧魔王派は冥界を追われたかつての魔王の子孫とそれに協力する悪魔の方々。英雄派はかつての英雄の子孫を始めとする
(ああ、ペンドラゴンってそういうことか……)
しかし……なんだろう。どっちとも仲良く出来そうにない。破天荒のヴァーリチームが一番仲良くできそうな印象なのがこの組織の危うさを表していると思う。
「その他には正当な組織に馴染めないはぐれ魔法使いなどがいますが、前の二つに比べて規模が小さいので余り気にされておりません」
「ん? あそこに居る女の子は誰だ?」
円形にくり抜かれた地下には有象無象が
椅子にペタリと座り込んでうつらうつらしている女の子。悪鬼羅刹が集まってる中で場にそぐわないことこの上ない。
(しかし、あの格好際どすぎるだろ。前面無しで胸はシール?って日本だったらアウトだな)
「ああ、彼女はオーフィスさんです。『
「と、トップぅ! あれがぁ!?」
思わず大声を出してしまった瞬間、この場の視線が全て俺に集まった。
アーサーは目を伏せている。申し訳ない。
でも、ヴァーリは薄く笑ってるし美猴と黒歌は腹を抱えて笑っている。やばい、全員まとめて一発殴りたい。
「ヴァーリ、彼は一体誰だい?」
周りが困惑する中、聖槍を持った男、曹操がヴァーリに質問を放った。
「赤龍帝だ」
ヴァーリの言った回答で、俺に向けられた視線に敵意が上乗せされた。この場の雰囲気が辛い。今すぐにでも帰りたい。
(ヴァーリの奴を殴るのはもう一発追加しよう)
「赤龍帝が何故白龍皇である君と一緒にいるのかな?」
「成り行きだな」
確かにその通りだがそれは何の説明にもなってない。当然不満は続出だ。
「――面倒だ」
ヴァーリがボソッと呟いたのは紛れもない本音だった。――ホント、何でこいつら組織になってるんだろ。絶対ヴァーリは一匹狼が向いてるだろ。
「俺、帰っていいかなぁ……」
俺はただ巻き込まれただけなのに、どうしてこんな事になっているのか。
(今度会ったらロウを
俺はそれを心に決めた。
○ ● ○
結局、何故だかあれよあれよという間に組織に組み込まれました。当然バックれます。
(誰がテロ行為なんてするか。俺はアーシアと平和に暮らすんだ!)
「という訳で、そろそろ人間界に帰してくれ」
テロとか死んでもしたくない。
(まあもう一回死んでるんですけどね!)
「すいません。まだ帰れないんです」
「なんですと!?」
ルフェイさんそりゃないですよ。
「これから赤龍帝ちん勝手に連れて来た罰で、悪魔のパーティの見張りだなんてつまんない任務を課せられたにゃん」
「一応言っておくが、俺のせいじゃないからな!」
悪いのは全部ロウだ。強いて上げるならヴァーリもか。俺は悪くない。
「まあまあ、少しは付き合ってもバチは当たらないぜぃ?」
美猴が肩に腕を回してくる。
「いや、悪い予感がひしひしとしてるぞ!」
会いたくも無い奴と会うことになる予感が第六感にビリビリ来てる。
「大丈夫だってば! 見つからなければ戦闘にはならないだろうしよぅ」
間違いない、それはフラグだ。
「嫌だ! 俺は嫌だぁぁぁぁぁ!」
明後日の方向に向かって走り出した俺を美猴と黒歌が両脇から引き止める。
「「まあまあ」」
「やめろ、離せ! 帰る! 俺は帰るんだぁぁぁ!」
「イッセーさん! 私、帰ったらロウさんから転移術を習いますね!」
アーシアの言葉に全俺が泣いた。
(ああ、アーシアだけが俺の癒しだ……)
「あの、よろしかったら私が少し教えましょうか?」
「あ、はい。お願いします!」
金髪美少女同士が仲良くしてる。アーシアにはそういう無害そうな子と仲良くなって欲しいです。
ところで最近どうも好みがスレンダー系に偏って来た気がする。……絶対にロリコンにはならないと信じたい(願望)。
「それじゃあ行くか」
今まで黙っていて、口を開くなりシレっとそういうことを言うヴァーリに殺意が隠せない。元はといえばお前のせいだろうが!
(よくわかった。俺とこいつは絶対仲良くなれないと思う)
これが宿敵というものか……!
『そうだ相棒。俺もアルビオンの奴とは初めて会った時からどうにも反りが合わなくてな。その時に俺はこいつとはこの世には一生仲良くできないと思ったよ。俺とあいつが仲良くなるのは価値観が崩壊しない限り無理だろう』
『言ってくれるな赤いの』
突然聞こえる聞き慣れない声。それはヴァーリから発せられていた。
『なんだ白いの、起きてたのか。今まで何も言わなかったからまだ寝てるのかと思ったぞ』
『起きるのが遅かったのはお前の方だろうが赤いの。今までぐーすか寝ておってからに』
『それは宿主が極めて資質が低かったからだ! 俺のせいではない!』
つまり俺のせいですねごめんなさい! 俺だって好きで資質が低かったわけじゃないやい!
『それも含めて貴様の責任だろう』
『転生する先を選ぶのは
……本当に仲が悪いなこいつら。伊達に
(こいつらに喧嘩するほど仲が良いって言葉が当てはまるなら相当な仲良しだけど……それはないな)
二天龍が言い争う声をBGMに、悪魔がパーティを開くという城に向かうのであった。……本当に行かなきゃ駄目ですかね?
アンケート締め切りました。