「さて、追っ手が来ました。あなたはどうしますか? 一つ、更に逃げる。二つ、更に強くなって撃退する」
「…………」
ロウの質問に、俺はしばらく悩んでから結論を出した。
「二つ目だ。どうせ逃げてもすぐに追いかけられる。だったら強くなって、二度とそんな気が起きないように叩きのめす!」
その答えにロウは満足な笑みを返す。
「じゃあ、これからしばらくはスパルタで、私自ら鍛えて行くよ」
「頼む!」
「じゃあ、早速行くよぉぉぉ……」
ロウは煙管に火を入れて咥えるという、臨戦態勢を取る。
「と、いきなりかよ!」
『
「戦いはいつ始まるかわからないからね!」
大量に撒き散らされた黒煙に対して、イッセーは
○ ● ○
「おのれ、兵藤一誠……! よくも俺の眷属をやってくれたな……!」
自らの眷属を傷つけられたことに対して怒りを露わにするライザー。
「この借りはこの俺直々に返してやろう……!」
ライザーは怒りを炎に変え、炎の翼を大きく広げた。
○ ● ○
「ぐ、お、ぁぁぁぁぁぁ……」
一誠は傷だらけになって倒れこむ。
「イッセーさん!」
「アーシア、回復しろ」
冷たく言い放つ私を、アーシアはキッとにらみつける。
「ロウさん! こんなの酷いです! イッセーさんが死んじゃいます!」
一応死なないように調節はしている。
「死なせたくないのならそうならない様に回復しなさい。これはあなたにとっての修行でもあるんだよ」
高く上げた煙管を振り下ろすと、辺りに滞空していた煙でできた剣群が一斉に落下する。
アーシアを巻き込む規模で降り注いだ黒い剣は、赤いオーラによって弾き飛ばされた。
「アーシアに……手を出すんじゃねえよ!」
自分に向けて放たれる殺気。中々いい感じに仕上がってきただろう。
「そう、それでいい。どうせ今のあなたたちではフェニックスには敵わない。二人合わせてようやくの互角。でもまだ足りない。さあ、殺す気でいくから、死ぬ気でかかって来なさい!」
煙管を一振りし、宙に漂った煙を新たに剣に変え、煙管を再び振ってそれらを一斉に突進させる。
一誠は自分に直撃するコースの剣を籠手で弾くと、一気に加速して距離を詰める。
「このっ!」
思い切り振るわれる拳を数歩下がって避ける。そして空振って体勢を崩したところに放ったハイキックが顎を捉えて脳を揺さぶる。
「かっ……!」
更に一誠の頭上に無数の剣を構築。更に一誠から数歩離れるとそれらが重力に従って落下する。
「ぐぁぁぁっ!」
急所を外して剣が突き刺さる。
「イッセーさん!」
「はい、そこまで」
駆け寄ろうとしたアーシアの直上から鉄杭を落として簡易的な檻としてアーシアの動きを封じる。
「何を……?」
「そこから回復させなさい。戦闘中に近寄る余裕があなたには無い。遠くからでも回復できるようになるのがあなたの課題だよ」
理論上はできると立証されていることだ。そうでなくてもやる気さえあればどうとでもなるだろう。
「そうでなければ死ぬだけよ。相手が私かフェニックスかどうかの違いがあるだけだ」
煙を強く吐き出し、無数の三日月状の刃に変えて吹き付ける。
「――ッ!!」
辛うじて籠手で体幹を守るが、腕や足に傷を負う。
「さあ、回復させないと。失血で死にますよ」
「んっ――!」
アーシアは緑色のオーラを手の平に集めると、その手を一誠へと向ける。すると緑色の光が一誠に向かって飛び出した。
飛び出した緑色の光に包まれると、一誠の傷が徐々に回復していった。
「じゃあ、続けていくぞ」
煙を薄く吐き出し、続けて攻撃をする準備を取る。
「殺す気でいくから、精々死なないように努力なさい」
私は煙に力を通して刃に変えると、一誠に向けて撃ち放った。
○ ● ○
「お兄さま」
「レイヴェルか。今度は俺の眷属を全員連れて行く。お前も含めてだ」
「……今回のお相手はそれほど危険なのですか?」
「……イザベラ、カーラマイン、シーリスがやられた。こちらも生け捕りなどという生ぬるい手をとってはいられん」
「お兄さまは結婚も間近だというのに……」
「そいつさえ倒してしまえばそれも叶う。安心しろ、レイヴェル」
○ ● ○
「うおお!」
右手からオーラの弾丸を散弾状にして飛ばし、迫り来る黒剣を弾き飛ばす。
「せやっ!」
左手からは固く圧縮した弾を飛ばす。弾丸は煙が形を変えた盾を弾き飛ばし、ロウへと向かう。
「お次は手を変えてみましょうか」
ロウは手元の煙管を一回転させると、煙管の先端である火口が赤々と燃える。
そして、普段なら吸うはずの吸い口を咥えて思い切り吹いた。すると火口から炎が吹き出してこっちに迫る。
「くっ……」
迫る熱波をオーラで防ぎ、手の平にオーラを集めて大きな弾丸を作る。
『
更にそこに倍化した力を譲渡して巨大化させて投げる。
大きすぎるせいか速度も飛距離もそれほどではないそれは地面に落ちると大爆発を起こし、炎どころか辺り一体を吹き飛ばしてしまった。
「……少し休憩にしようか」
吹き晒しになった地面に一人立つロウは服をはたきながらそう言った。
「再開するときは不意打ちするから。それまでドライグと少し話していなさい」
そう言ってロウは立ち去った。
「やっぱり倍化が解けると大変だな。どうにかならないのか、ドライグ?」
木に腰掛けながら左腕の籠手に向かって話しかけると、籠手の宝玉が点滅しながら返事をしてきた。
『手はあるがな。
「それはどうしたらなれるんだ?」
『歴代の赤龍帝はすぐになれたんだがな。正直に言うとお前には才能が欠片もない』
な、なん……だって?
「才能がないのはいいとして、結局どうしたらなれるんだよ?」
『地道に力を付けていく他にないな。いざとなれば体の一部と引き換えに使わせてやろう』
なんともおっかない話だ。できることならそれは最後の手段として取っておきたい。
『体の一部を払うだけの価値はあることは保証してやろう。この力さえ扱えればたとえフェニックスとて簡単に打倒できるさ』
「そうか。できることなら自力でそうできるようにしたいな」
『俺としてはどちらでも構わんさ。どの道を行くかはお前次第だ』
「おう」
目標を新たに決意を固めると、頭上からガサガサという木の葉が擦れる音がした。
「アーシア!」
近くに居るアーシアを抱えて飛び退く。その直後に黒い弾丸が降り注いた。
「不意打ちにも対応できるようで安心安心。じゃあ、続けていくよ」
煙を使って大剣を構築し、両手で握って斬りかかってくる。
籠手と大剣で数合打ち合ってから、ロウは大剣を投擲する。
「ふっ!」
それを左の正拳突きで弾き飛ばす。すぐに右の手にオーラを集中させ、左腕を引くと同時に右腕を振ってオーラの球を飛ばす。
山なりに飛んだ赤い光球はロウが持つ煙管にあっさりと弾かれる。
「お前の遠距離攻撃は弱すぎる。そのままでは下級の天使や悪魔ぐらいしか倒せない」
ロウは言葉を紡ぎながら煙管を振って複数の鉄球を構築する。
「だからあなたが格上相手に狙うとしたらそれは
鉄球をこちらに飛ばしながら、ロウ自身も接近してくる。
左腕で弾き飛ばした鉄球が鉄球にぶつかるように狙って殴り飛ばす。
鉄球同士がぶつかって金属音と共に煙となって消える。その煙は
上と下。どっちに先に対処するかを少し悩んだが、まず驚異度の高い巨鳥を落とすべく、巨大なオーラの球を作って飛ばす。
しかし、オーラの球が激突する一瞬前に巨鳥は煙に変わり、無数の小球になって重力に従って落ちてくる。
「くっ……」
一度大量にオーラを放出したせいですぐに次の球を出現させることができず、左腕を盾にして自分の体を庇う。頭を庇ったせいで腹部ががら空きになり、無防備になったそこに蹴りが命中した。
「フェニックスは不死身。倒したと思っても再生するよ。次の行動をすぐに起こせるにしておかないと」
更に飛んでくる蹴りを痛みを堪えながら腕でガードすると、ロウはすぐに後ろに下がった。
「うーん……結構マンネリになってきたかな。もっと驚異を与えたいんだけど、私のこの力ではそろそろ限界かな」
ロウは煙管を通常の用途で用いて一息吐く。
「かと言って、
目を伏せて悩みながらも攻撃の手は休めることなく、煙管を振るって攻撃を仕掛けてくる。
「取りあえず、できるだけ最大で行ってみましょうかね」
煙管を咥えて大きく息を吸い、最大限まで大きく吐き出す。
辺り一体を包み隠すほどに広がった煙はすぐに圧縮されると、すぐに巨大なドラゴンの形を取る。
「行け」
5メートルを超える大きさのドラゴンは木々をなぎ倒して駆け出し、こちらに近づいてくる。
「おわっ!」
機関車のような暴力的な突進を間一髪の所で飛び退いて避けるが、その余波だけで吹き飛ばされた。
「どうした。本当の龍王だったら破壊力はこれ以上だ。今の一撃で死ぬことも有り得る」
煙管を振って再びドラゴンをこちらに
煙でできてるとはいえ、ドラゴンの質量はそれなりにあるのか、地を抉りながら土を跳ね飛ばす。
ほど近い所にいたアーシアが巻き込まれないように抱えながて飛び退く。その俺を追いかけるドラゴンに牽制のオーラの球を放つが、赤い光球は体表に当たって霧散する。
「これには私の力のほとんどを費やして作られている。並大抵の力では倒すことは敵いませんよ」
ドシンドシンと音を立てて駆けてくるドラゴンだったが、足をググッと曲げると低い軌道で跳躍してくる。
「ぐっ!」
高速で迫る爪を体を倒して避けようとするが、アーシアを抱えている分動きが遅れて肩を掠めた。だが、アーシアがすぐに肩を治療してくれて傷はすぐに
ドラゴンは木々に突っ込みながら突進の勢いを殺し、多少よろけながら方向を変え始める。
(やるなら今しかない!)
アーシアを脇に避けながらドラゴンに向かって駆け出す。
『
倍化が始まってからこれで三分。倍化できるギリギリの時間だ。これで決められ無ければ俺はあれには勝てないだろう。
「せ、あああぁぁぁ!!」
『
左腕の籠手からオーラの噴射を行い、ドラゴンに真っ直ぐ突き進み、その額に拳が突き刺さる。だが、返ってくる感触は硬く、ドラゴンの体はビクともしない。
「でりゃぁぁぁ!」
『
右の手の平にオーラを集めて力を譲渡、最大まで高めたそれを思い切りドラゴンへと叩きつける。
赤い光球は閃光と共に大爆発を起こす。
「おわっ!」
「イッセーさん!」
その余波で吹き飛ばされて地面に転がると、アーシアが駆け寄ってくる。だけど俺はアーシアを手で制す。
「まだ倒せてないかもしれない」
「その心構えは立派だけど、ちゃんと倒せてるよ。というか、あんなのくらって無事な相手なんてほとんどいないって」
煙管から灰を落としながらロウがため息混じりに呟く。
「まあ、あれが倒せたなら辛うじて及第点かな。後は相手がフェニックスだってことだけだけど……まあ、そこはアーシアちゃんに頑張ってもらうしかないかな」
……フェニックス。無限の再生能力を持つ悪魔の一族。精神が折れない限り体の傷は回復し続けるらしい。だから勝つためには相手が諦めるまで倒し続けないといけないらしい。
「まあ、存在そのものを消し飛ばせるぐらいの火力があれば別だけど、今のお前じゃそれは無理でしょう」
というわけで、できるだけ勝率を上げるためにはアーシアの協力が不可欠らしい。
「そろそろ襲撃される頃だろうし、できるだけ体を休めておきなさい。フェニックスとの戦いは長期戦。体力なくしては勝てないよ」
勝つために必要なのは強い心。
ロウが言ったその言葉を胸に刻んで、俺たちは戦いに備えた。