Prologue
人生というものは何があるのか分からないものだ。
誰かを助けた見返りに何かを貰うこともあれば、逆恨みを買ってしまうかもしれない。
極悪非道な人物がのうのうと生きている事もあれば、当然の如く無残な末路を迎える者もいる。
至極真っ当に生きていた善人が幸福な人生を送っている事もあれば、それが報われずに無残な結末を迎える事もあるだろう。
善行を積んでも必ず幸福になるとは限らず、悪行を重ねてもその罰が下されるとは限らない。
その差が何によって齎されるかは分からない。だが、人類は平等でなく、同じ家に生まれ育った双子でさえも同じ人生は送らない。
その違いは一体どこで付くのか。
親? 兄弟? 姉妹? 祖父母? 友達? 先生? 近所の人? 能力? 環境? 時代? 国? 市町村?
何がそれを定めるのか。何がそれを左右するのか。何がそれを決定するのか。誰もそれは知らないし、きっと知りたくもないだろう。
自分の人生が一から十まで定められているというわけでないのなら、もしかしたらその一生には幾つもの可能性があるのかもしれない。
もしそうであるならば、本来そうなるはずだった彼が、別の人生を歩むという事もあるのかもしれない――
彼はどこにでもいる普通の少年だった。普通に生きて、普通に暮らして、普通に死ぬ。
過度な幸福も不幸もなく、その一生を終えるはずだった彼は、その身に宿した存在によってその人生を大きく変えた。
ただの少年は一度死に、種族を変えて蘇った。 そして少年は蘇らせて貰った主の為に強くなった。
堕天使を倒し、
七難八苦を乗り越えて、少年はとある世界の
如何なる困難にも屈せず、如何なる相手にも引かず、如何なる状況も打破し、二度目の死すら乗り越えた。
彼は子供に好かれ、王に期待され、仲間に愛され、少女たちに好かれた。
だが、もしかすると、無数の可能性があるこの世界には、そうはならない可能性もあったのかもしれない。
道半ばで打倒されたかもしれない。争いの渦中におらず、ただ数多くある存在の一つのままだったかもしれない。 死なず、蘇らなかったかもしれない。
もしかすると、普通で無くなった事を認めなかったのかもしれない。
今から綴られるのはそんな可能性の一つ。誰の為ではなく、自分の為に生きた、彼の一つの可能性だ。
誰だって、本来ではない在り方を求める事はできるのだ。