ONE PIECE 自由気ままに   作:海鳴

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10.仲間

 アーロンを倒したことに行われた宴は翌日も続いていた。この8年間贅沢は一切してこなかっただろう住民たちは、この日を迎えるために生きていたと言っても過言ではないほどに盛り上がっていた。

「カイト~おめぇもっと食え!!」

 先行して来ていたウソップたちとは違い、宴の二日目にルフィとサンジ、ヨサクが到着した。そしてさっそくと言わんばかりに食料にありついている、というのは実にルフィらしいだろう。

「オレは昨日も食ってるからそんなにいいんだよ。それにオレたちはあくまでも余所者だから節度ある行動をしろよ」

 ルフィのハムスターのように口に詰めた顔を、呆れたように見たカイトは一応の釘を刺しておいた。

「カイトっつったか。改めてよろしく頼むぜ」

 ルフィに注意をすると、両手に器用に皿を複数持った金髪の男がカイトに話しかけた。スーツ姿にくわえ煙草の男だ。曲芸師か何かかと勘違いしてしまうほど絶妙に皿を持っている。

「……サンジだったな。船長は見ての通り戦闘以外じゃ頼りないがよろしくしてやってくれよ」

 カイトが座るテーブルに持ってきた料理を置いたサンジ。

「ははっ、確かに海賊とは思えない能天気さだな。バラティエよりも陽気かもな」

 サンジは持ってきた料理を食べている。食べると表情が少し変化していくのは料理人の性か。おそらくレシピや何が使われているかなどを考察していっているのだろう。

「しかしあんたすげぇな。魚人海賊団を一人で倒したんだろ?」

 サンジは食べながら話をふってきた。新しい船員との交流と言うやつだ。

「そうだ。何、わけないさ。サンジが料理を作ってくれるようにオレは船員の敵をできるだけ排除するのが仕事さ」

 カイトは感心するサンジに肩を竦めて返答した。

「そいつは頼もしーね。ルフィも大概強ぇがカイトはもっと強いんだろ?」

 サンジはルフィの強さを首領クリーク戦で見ている。悪魔の実の非常識さも子供の頃に読んだ悪魔の実の図鑑で知っていたのだが、やはり経験するとその異常さが分かった。そしてカイトが何かしらの能力者であることはルフィから聞いていた。

「伊達に偉大なる航路(グランドライン)で過ごしちゃいなかったってこった」

 適当に取ってきた飲み物を口に付ながらカイトはサンジの質問に答えた。

「そうだ! その偉大なる航路(グランドライン)には魚人島は本当に存在するのか!?」

 何かを思い出したように捲し立てるサンジ。明らかに興奮した形相だ。魚人島に何かしらの興味があるのだろう。

「魚人がいるんだから魚人島もあるさ」

 当たり前であるが先日までここを支配していたアーロン一味は、魚人海賊団に所属していた海賊である。そしてその魚人海賊団はまさに魚人島を拠点とした魚人のみで構成された海賊団なのだ。

「な、なら人魚もいるんだよな!?」

 やけにサンジは興奮してカイトに疑問を投げる。

「そうだな、人口は少ないが人魚はいたぞ」

 カイトの言葉を聞くとサンジはどこか遠くを見て鼻の下を伸ばした表情をした。かなりわかりやすくスケベな男である。

(そういえばあのお姫様は今頃どうしてるのやら……)

「あぁ、麗しい人魚のおねぇさま――」

 サンジはあるという事実だけを知りたかったのか、一人で妄想の世界に没入していった。

「カイト、ちょっといいか」

 サンジの妄想してる姿をまたも呆れ顔で見ていると、ゾロから声をかけられる。その顔は真剣そのもので何かしら思いつめたような顔だ。この陽気な雰囲気にはまったくそぐわない顔だった。

 カイトはゾロの問いに無言で頷くとその場を離れた。

 無言で歩くゾロに着いていく。心なしかいつもよりゾロの足取りは重い。

 場所は宴が催されている村から少し離れた場所だ。空地のように少しだけ広いスペースがあるところでゾロは足を止めた。

「カイト、おれと戦ってくれ!」

 いつもの腹巻ではなく、包帯をこれでもかと言うほど巻いている様は痛々しかった。『鷹の目』のミホークの大刀の一太刀を浴びたのだから当たり前だ。

「何を焦ってるんだ」

 そして自分の不甲斐なさに焦っている瞳もどこかで知っている目だった。

 修業当初覇気の習得に難儀していたときの自分だ。レイリーとの試合で完膚なきまでに叩き潰されていた時の自分のものだ。

 オレならもっとうまくやれるはずだ。オレならもっと早く習得できるはずだ。そう息巻いていた時だ。

「おれは世界最強の剣豪にならなきゃいけないんだ!!」

 そんなカイトにレイリーはどう応えていただろうか。カイトは自分の記憶をたどる――――。

「腹の傷は『鷹の目』にやられたのか」

 『鷹の目』のミホークは剣術と言う面において、カイトよりも格段に上をいっていたとカイト自身は思っている。

 あの時一合交わしただけでそれは分かった。カイトもある意味本気だったのだ。だからその一合だけで、剣だけで戦えばカイトは自分が負けると直感した。

 カイトの剣はあくまでもその程度までしか成長していない。剣はあくまで一つの道具と割り切っている。足りない部分は己の能力で補う。

 戦闘とはそういうものだ、殺し合いとはそういうものだ。

「ああ、そうだ。やつが『猟犬』、カイトに教えて貰えと言っていた」

 確かに今のゾロよりもカイトの剣の腕が上なのは明らかだ。だがカイトが剣をエモノにしているのは単に慣れているからであって、剣というものに対して誇りのひとかけらも持ってはいない。

「オレは剣士じゃない」

 剣豪の世界最強を目指すのに、剣士でないカイトに学ぶことはおかしいということだ。

「……それでもあんたは世界を知っている」

 だがゾロは剣士以外からも教わることを是とした。その眼は純粋に未知なる強者への畏敬だった。

 恥などない。先日に今まで培ってきたものは一刀の元に砕かれたのだ。自身が成長するには世界んの強さを知っている男を支持するほかないことをゾロは分かっていた。

「いいだろう。そのだがその怪我が治ってからだ」

 カイトはゾロの覚悟を見て取った。思えば『海賊狩り』と『猟犬』という立場は少し似ているかもしれない。だからというわけではないが弟子にするのもいいと思った。

 しかしゾロの負っている怪我は生半可なものではない。いつ貧血で倒れてもおかしくはない。後遺症が残るとも限らない。

 それほどまでに深手の傷を負っても気を失わない精神力は素晴らしい資質だった。

「待ってくれ! こんな傷なんとも――!!」

 ゾロが後ろを向いたカイトに対して抗議の声を上げた直後。ゾロの意識は暗転した。

「――――今は我慢する時だ」

 そう言ってゾロの意識を飛ばしたカイトは、彼を担いで村に戻っていった。伸び悩むことは誰にでもあることだ。だからといって焦ってはいけないのだ。

 

 

 ゾロを村の病院に寝かせると、櫓の上でウソップが大見えをきっていた。

「あれはおれがまだガキだったころの話だ!」

 いつものように法螺吹きであるが、その嘘の話は細かいことを気にしなければ物語としていいかもしれない。

 何より今この場にいる人は盛り上がれば何でもいいのだ。

 十数分後、話を終えたウソップは休憩のためか櫓から飛び降りた。

「ようカイト! おれの英雄譚108篇の内の一つ『ヤングウソップの山賊退治』はどうだったよ!?」

 意気揚々鼻高々とウソップはカイトに話しかけた。

「中々センスのいい創作物だったぞ。吟遊詩人にでもなればいいんじゃないか」

 カイトはウソップにそう言って親指を立ててやった。

「そうだろそうだろう、って創作じゃなくて実話!! じ・つ・わ!!」

 話の中に出てきたウソップ少年は、すでに現在の青年ウソップよりも確実に強い描写をしていたのに実話と言い切るのは無理がある。

「今のウソップよりも勇猛果敢だな」

 カイトは苦笑いをしながらもそのことについて指摘した。

「ばっかお前、今のおれの方が当時の何百倍も勇敢な海の男だぞ!?」

「まぁ山賊退治じゃ海の男にはなれないもんな」

「そういうことだ! わかったならいい!!」

 よほど英雄譚108篇『ヤングウソップの山賊退治』が好評だったと感じたのだろう。機嫌よく大笑いをしながらウソップは祭りの中に消えて行った。

「どういうことだよ」

 残されたカイトはウソップの背に向かって呟いた。

「あら、カイト。一人でどうしたのよ」

 また背中に声をかけられたカイトは振り返った。

「なんだナミか。いやウソップの創作話を聞いてただけさ」

 ナミは少しだけ眉を顰めるが、それも一瞬。

「なんだとはご挨拶ね。そうだ、これから一緒に飲みましょ」

 笑みを浮かべながらカイトを誘った。

「ああ、いいぞ」

 カイトは特に呑兵衛と言うわけではないが酒が嫌いと言うわけでもない。ついでに言うならば下戸ではないしどちらかというと上戸なのだが、白ひげ海賊団の宴会は常軌を逸していた。

「さっすが!」

 何が流石なのか定かではないが、カイトはナミに腕を掴まれて飲み屋に入った。まだ夕方になろうかという時間帯だが飲み屋には人が多くいて騒がしい。

「混んでるなぁ」

「そうね、お酒なんて飲めなかったもの……」

 ナミは感慨深げにカイトの何気ない呟きに反応した。

「そらそうか」

 今まで重税を課せられてきたのだ。酒を浴びるように飲むことなどできなかったろう。それも昼間からなど。

 ナミのオススメの酒が届いてから静かに乾杯する。

「ほんとに、終わったんだって考えちゃうのよね」

「…………」

「この八年間すごく努力をしてきたの。アーロンの指図で海図を描かされて、でも村の皆を救うためにはわたしが1億ベリー稼がなきゃならないかったから」

「…………」

 カイトは無言、だが首を縦に動かす。

「わたしの八年間の努力は……報われたのかな?」

 結果的にカイトがすべてを壊して解決した今回のアーロン海賊団の支配。

 こんなにもあっさりとことが終わってしまって、自分の八年間の努力は一体なんだったのだろう。ナミは昨夜冷静になった時に考えた。

「目標に向けて、指針を持って行った努力が無駄になることはないさ」

 俯いたナミの表情はカイトから見えてはいない。

「それに金を貯めようなんて思わなきゃ、ルフィやオレとは出会っていないんじゃないか?」

 実際海賊専門の泥棒をやっていたからルフィと知り合えたし、カイトとも知り合えたと言える。村を解放するための八年間の努力は間接的にだが、確かに結実したのだ。

「そう……かな」

「ああ、そうだ」

 二人はもう一度乾杯をした。

 

 ナミとカイトが飲み終わったのは日付が変わる頃合いだろうか。

 結局ウソップやサンジも参加した飲みは、ウソップの英雄譚を肴に盛り上がったと言えるだろう。

 ゾロも途中で来たのだがカイトが帰らせて寝かせた。強制的に。

 飲んだ飲んだ、と思ってナミを家まで送り届けたカイトはゴーイングメリー号を目指した。

 ナミを送り届けた際、ノジコには泊まっていっていいと言われた。しかも顔がにやけているのだからたちが悪い。魂胆が見え透いていたのもあり、船に戻ることにしたのだ。

「カイト」

 今日はよく話しかけられる日だ。そんなことを思いながらも目の前にいるルフィを見据えた。

「どうした。今日の宴は終わったぞ」

 ルフィがいた場所はメリー号と村の間のあぜ道だ。田園風景が月光に照らされ映し出されている。

「次のおれ達の目的地は偉大なる航路(グランドライン)にしようと思ってる」

「そうか、ならローグタウンによってからだな」

 ローグタウンは東の海(イーストブルー)から偉大なる航路に行くための島のようなもので、東の海の海賊は大体がここから偉大なる航路に入っていく。

「航路はおめぇとナミに任せる。おれはそういう知識がねぇからなからな」

 自分の欠点を恥ずかしげもなく言えることはある意味いいことだろう。

「剣もおめぇやゾロみたいに使えねぇし、サンジみたいに料理もできねぇ。ウソップのような嘘はおれには思いつけない」

 そして仲間だと思ったからこそそのことを話、仲間に頼るのはいいことだ。

 ルフィは自分のできることを弁えている。だから仲間を信じ、頼ることができる。

「……おれは船員(クルー)を護ることしかできねぇし、おれは仲間の道標にならなきゃならねぇ。だから何があっても負けちゃならねぇんだ」

 ルフィ自身がしなければならないことは、船員が迷わないように指針になり自らが進む道を指し示すことだ。それは船員からの信頼を裏切らない単純でない強さだ。

 だがルフィは『鷹の目』のミホークを見て一つの疑問が湧いてでた。今の自分では偉大なる航路(グランドライン)で仲間を護っていくことができるのかと。

 『鷹の目』が麦わらの一味に与えた影響は想像以上に大きかった。

「そうだ。船長ってのは皆の指針になるべき存在だ。そいつが目標を見ずに他の所を見てたらその船は沈むだろうな」

 海賊とは船長の絶対なる支配、もとい信頼の元に団結しているのだ。

「だからおれを鍛えてくれ! おれは誰にも負けねぇと思ってた。だけど現実は違った。カイトもそうだけど、『鷹の目』みてぇな奴がもう一度現れたら一味が崩れちまう」

 そう、もしもこの先でカイトと同レベルの強さの者が現れたとしたらカイトが引き受けるだろう。だがそれが一人ではなかったら?

 カイトは一人しかいない。だからルフィ自身も、『鷹の目』と同じところにいるその高みまで上り詰めなければ仲間を護ることなどできないのだ。

「……全く、ゾロといいお前といいオレの仕事を増やしやがって」

 カイトはルフィの見るものを引きつけるような瞳を見て、肩を竦めて口元を緩めた。カイトでは見せることのできない瞳だ。

「それじゃ!」

 ルフィはパッと笑顔になる。

「ああ、オレはこの船の“副船長”だからな。船員も船長もなんだろうが面倒見てやるよ」

 カイトはルフィたちに頼られるのを不思議とうれしく思っていた。

 ただルフィに誘われて着いて行っていた今までとは違い、エースやガープに頼まれたから着いて行っていた今までとは違い、自分からようやくこの船の一員になったと感じた。

 エースも一度だけ頼ってきているため兄弟の面倒をみたことになるのか、と笑顔のルフィを見てそう思った。

 




麦わらの一味のご意見番的な……。
ウルージさんの株爆上げ!!

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