私がモテないのはどう考えても私が悪い   作:あるけみーあ

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ゆうちゃんとお出かけ編終了
ながい


第9話

 

翌日。

 

駅前のカフェに約束の時間の30分も前に到着していた私は気合の入った格好をしていた。

髪の毛もいつも以上に念入りに手入れし、何時も通り前髪の一部をピンで留める。

リボンのついたワンピースの上にデニム生地の薄手のカーディガン、靴にはちょっと可愛いサンダル。最後に白い帽子をかぶり完成。

先週デパートで有り金の半分を使って揃えた外行き用の夏装備である。いや、マジで夏服Tシャツしかなかったから。

ワンピースはリボンのせいで少し子供っぽいけど、私の体型と身長からしてセクシーさを求めるのは首都高速を逆走する行為に等しい。

自分で言ってて泣けるぜ。

この一着だけしかもっていない現状だが、一応は取り繕えているだろう。お金もないのでしばらくはこの一着で凌ぐ。

ただこの買い物袋がお母さんに見つかったときはなかなかに悲惨だった。

どのように悲惨だったかはご想像にお任せするが、お古のアクセサリーと化粧道具一式押し付けられた。というか次の日には半分くらい新品になっていて戦慄した。お母さん、これ結構高かっただろうに......お化粧は結局しなかったが、香水だけはありがたく使わせてもらう。ほんの少しだけ。

 

今日家を出るときも何度デートを疑われたことか分からない。というかお母さんはいくら否定しても取り合ってくれなかった。

確かに今日の私は(したことないけど)デート以上に気合入れてるが、それはゆうちゃんに会うが故だ。

だから弟よ、そんな誰だお前みたいな目で見ないで欲しい。明日にはいつものお姉ちゃんにもどってるから。

 

 

 

さて、流石に早く着すぎたかと腕時計を見る。

 

まだ涼しい時期なので持ってきた本を読んでいれば苦ではないが、もう20分はたちっぱで地味に足がしんどい。

それになんか変に視線を感じる。ずっと立ってるのはそろそろ変かな......

久々に妄想でもするかーなんてそんな駄目人間まっしぐらな事を考えていると、「あっ、もこっちー」というふんわりとした声が聞こえてきた。

ゆうちゃんだ。

 

「ごめん、待った?」

「ううん全然。今来たとこ!ホントに久しぶりゆうちゃん!」

 

そういって思わずゆうちゃんの両手を握る。ゆうちゃんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐににっこりと笑って握り返してくれた。

ただ一瞬だけ、私を見てほんの少し寂しそうな顔をしたのは気のせいだろうか?

いや、気のせいなはずがない。なんと言ってもこの私がゆうちゃんの表情の変化を見逃すはずがない。

 

「うん、ひさしぶりだねー、入ろうか?」

 

カフェに入っていくゆうちゃんの後を着いて行く。

あぁ、良い匂いがする。ゆうちゃんの匂いが......

 

「もこっち?何頼むの?」

 

おおっと危ない危ない。うっかり持ってかれるところだった。

なんというか私はゆうちゃんの前だと色んなスペックが14年前に戻ってしまう気がする。

 

「ゆ、ゆうちゃんは何頼んだの?」

「私はモカフラペチーノ」

「じゃあ私は......ブラックコーヒーで」

 

なんか自然と格好つけてしまった。

でも今はもうブラックコーヒーを無理することなく飲める。残業のお供としてよく飲んでたし。

お互い向かい合って席につくとゆうちゃんの顔が良く見える。ふんわりした髪の毛が可愛らしくて、服も良く似合っている。

でもその表情はやっぱりどこか寂しげだった。

なんで!?誰だゆうちゃんにこんな顔させてるのは!まさか......彼氏?

 

「もこっちも......やっぱり変わったね。凄く、可愛くなった」

 

私が名前も知らぬゆうちゃんの彼氏を呪い殺そうとしていると、ゆうちゃんが突然そんなことを言い出した。

いきなりの発言に驚いた。

ゆうちゃんに可愛くなったといわれて嬉しくないわけがない。しかし今回に限っては私は違うことに衝撃を受けていた。

ゆうちゃんの言葉は本心からのものだろう、しかしその寂しげな表情の理由が分かってしまった。

 

そして、かつての自分が、実はこんな所で少しでもゆうちゃんの助けになれていたことに気づいて嬉しかった。

ならばこの場面、このゆうちゃんを元気付けてあげる役を他の誰かに譲ってやるもんか。絶対やらねー。

私は帽子を脱いでせっかくセットした髪の毛をぐしゃぐしゃにかき混ぜた後、軽く手櫛で整える。

ポカンとしてこっちを見ていたゆうちゃんにニヤッと笑った。

 

「ねーゆうちゃん、ゆうちゃんってまだアニメとか見てるの?」

「え?」

「私の高校って全然こういう話できる人いなくてさー、ホント嫌になるよ!」

 

私はそこまで言ってブラックコーヒーを半分くらいまで一気に流し込んだ。

 

「だから今日、ゆうちゃんと会うの凄く楽しみだったんだ!」

 

隣の席の人がこっちを振り向くぐらいの声で言ってやった。

ちょっと恥ずかしいけど、そんなことは些細な問題。

ゆうちゃんの顔を見ると、どこかびっくりしたような顔をしていて、でもすぐに満面の笑みになった。

 

「うん、わたしもだよもこっちー。こっちもそういう話できる人全然いないのー!今なんか面白いのやってる?」

「今期は萌え豚用のアニメしかやってないよ」

「そうなの?」

「今は規制激しいから日常系のアニメしかできないんだって」

「それより今面白いのは----------------」

 

そうやって私の話を聞いてくれるゆうちゃんの顔に、もうさっきみたいな寂しさはなかった。

 

 

 

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「やっぱりもこっちといると楽しいなー」

 

それから結構長い間はなし、二人の飲み物も空っぽになってそろそろ出るかなーなんて思っていた頃、ゆうちゃんが唐突に言った。

その言葉自体は凄く嬉しいのだが、やっぱりどこか影がある。

さっきのとは別件みたいだが、原因は分からない。

さっきから記憶を探っているのだが、この後もゆうちゃんとは何度も会うし、いまいちはっきりと覚えていないのだ。

唯一印象に残っていることはこの頃のゆうちゃんには彼氏がいたということ。それだけだ。

 

「ずっと中学生のままならよかったのになー」

「......」

 

なんと。

 

ゆうちゃんもこんな風に言うことがあったんだ。

過去に縋っていた私にあんなふうに諭してくれたゆうちゃんにも。

ならばこそ、今度は私の番だ。私は席を立って不思議そうにこちらを見ているゆうちゃんに言った。

 

「あのさーゆうちゃん......」

「うん?」

 

 

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「わー、ゲーセンとか久しぶりー」

 

というわけで、私はゆうちゃんを連れてゲームセンターにやってきた。

ガチャガチャうるさい音も私は結構好きで、後ろを歩いてるゆうちゃんもなかなか楽しそうだ。

 

「あっ、これもこっちの得意なやつじゃん。やってやって!」

 

そう言ってゆうちゃんが指差したゲームは私がかつて極めたリズムゲーだった。

うわーまじか。ブランク5年以上あるけど大丈夫かな.....しかしこの瞳を裏切るわけにいかない!

もともとまくってるカーディガンを更に捲り上げて両手を解す。

 

「しばらく(マジで)やってないからなー。いやーレベル40とか(結構ホントに)無理だよー」

 

そういいながらコインを投入して、

 

 

うおおおおおおお命を燃やせぇえええええええええええええええええええああああああああああああああ

 

 

パパパパパパパパンッパパパッパパパパパパパンパパパパパパパパッパパパパパパパパパパパパパッパパパパン

 

 

「はぁ、ゲホゴホッ、はぁーはぁーうぇ......全然、はぁー全っ然だよーーーゴホッ」ふしーふしー

「落ちついてからでいいよ」

 

画面にひかるパーフェクトの文字。

私はやったのだ。

文字通り命を削る勢いでゆうちゃんの期待にこたえたのだった。

いやーなんか今まで能力上がってても落ちてるって事なかったから、ホントしんどかった......

 

その後は特にそういうこともなく、私はゆうちゃんと楽しくゲームセンターで遊ぶことができた。

 

しかし結局最後まで、ゆうちゃんにちらつく影をなくすことはできない。

空も夕暮れに染まり、もう帰らなければならない時間。どこかしこりの残るまま、別れの場所についてしまう。

 

「あー楽しかった。また遊ぼうね、もこっち」

「うん」

 

じゃあねー、と踵を返していってしまうゆうちゃんに、私は思わず声をかけた。

何を言いたいのかはまだ、ちゃんとまとまってなんかいない。多分、ずっとまとまらないだろう。

それでもこのまま帰すような、後味の悪いことはできない。

 

「......ねぇゆうちゃん」

「ん?どうしたのもこっち?」

 

夕日を背負うゆうちゃんはホントに女神のように可愛く幻想的に見えた。

私とゆうちゃんの間の距離はたったの3メートル。

その光景が、私のはるか未来の記憶に重なる。

あぁ、あの時と、立場は逆だったなーなんて思った。

そのうち口から勝手に言葉が溢れてきた。

 

「私もさ、年をとっていくのと同じ速さで、面倒なこととか、思い通りにならないこととか、自分を邪魔するものだけがたくさん増えてる気がして、嫌になったことがあるんだ」

 

どこか変な言葉のはずなのに、ゆうちゃんは黙って話を聞いてくれている。

ぎゅっと自分のワンピースの端を握って続けた。

 

「でも、それと同じくらい、自分の味方も実はいて、それに、置いて行っちゃったと思ってた過去も、しっかり自分の後ろをついて、背中を押してくれてることに気付いた」

 

自分はいきなり何を言ってるのだろう。

なんか無償に恥ずかしくなってきて、それでもゆうちゃんから目はそらさなかった。

 

「そこでようやくプラマイゼロ。後は自分が踏み出すだけでプラスになるんだって」

 

そう言って最後に私の背中を押してくれたのはゆうちゃん、貴女なんだ。

目の前のゆうちゃんが、あの日のゆうちゃんに重なって、私に笑いかけた気がした。

 

 

 

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言い終わって、私は顔がこれ以上ないほど熱くてたまらなかった。

つい俯いてしまう。

な、何いってるんだろ......ってこれゆうちゃんからしたら完全に変な子じゃね!?

というか、ホントお前何様だよ。セリフもほとんどゆうちゃんの丸パクリだし......

穴があったら入りたい状態の私だったが、そのときふわっと、あたたかいものに包まれた。

 

ゆうちゃんだ。

 

今私はゆうちゃんに抱きしめられてる。

 

「ありがとう、もこっち。やっぱりもこっちには適わないなー」

 

そういうゆうちゃんの声はさっきより晴れ晴れとしているような気がした。

 

「私、実はちょっと悩み事があったんだけど、そんなことどうでも良くなっちゃった」

 

そう言って耳の横でゆうちゃんが小さく笑った。

私は嬉しさでいっぱいになって、しかしまだ少しだけ罪悪感が残っていた。

私がこのセリフを使うの良かったのか。正解だったのか。分からない。でもゆうちゃんが元気になってくれるなら、たぶん間違ってはいなかった。

 

「......それなら、良かった」

 

 

 

 

大きく手を振って遠ざかっていくゆうちゃんにこっちも大きく手を振って分かれる。

お互いの姿が見えなくなって、私はこの時代でもやっぱりゆうちゃんはゆうちゃんだなぁなんて思って帰路に着いた。

その胸には確かな充足感で満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

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なお、家に帰ってから記憶が完全復活し、語ってしまった自分に悶える事になったのはこれまた完全にご愛嬌である。

 

 

 




ゆうちゃんがほんとに彼氏だけのことで悩んでいたのかは分からんけど
次からはまた軽く短くしたいなー

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