あ、後感想有難うございます。さっき気づきました。励みになります
弟、智貴との邂逅はやはりすんなりと行われた。
食卓につくと既に食べ始めていて、テレビを見ている。
わざわざこちらから話しかける事もないかと思い、私も静かに食卓についた。
というのも、いま弟との関係がどんな状態かも分からないのに、積極的に動くのはデンジャー過ぎる。
いや、積極的に動くと危険な姉弟関係ってなんやねんって感じだが、私が100パーセント混じりけなく全面的に悪いのでなんもいえねぇ。
だってだってこの頃の私といえば弟に対してトチ狂ったことばっかしてた気がするんだ......
「いただきます」
席について夜ご飯を食べていると、ふと対面から智貴の視線を感じた。あ、胃が痛い。
なんというか、目線の種類として「マジかこいつ」みたいな感じだ。なんでそういう目線を向けてくるのかは分からない。
お母さんのいる食卓で聞くわけにもいかず気づいていないフリをしていると、そのお母さんが地雷を踏み込んだ。
「あ、智貴も気づいた?智子可愛くなったでしょ」
ちょっ、弟に何聞いてんの!?
咽そうになったのを何とか抑えて平静を保ったままテレビ画面に視線を固定する。当然目に映る映像から何の情報も得てはいない。
テレビ画面で陽気に笑うアイドルに理不尽な怒りを抱きつつ完全無関係を貫き通す。
「あ......あぁ。うん。ま、前よりすっきりしたんじゃね?」
目をそらしながら弟は視線をテレビに戻す。
お、お、おおおおおおおおおおおおお
な、なんか大丈夫そうだ!
お母さんはまだ何か言ってるけど簡単に相槌だけして放置しておく。
正直冷や汗だらだらで、さっきから食べてるものの味が分からねぇ。
その後どうにか話題をシフトさせることに成功したが、結局私の胃の痛みが収まることはなかった。
明日胃薬買いにいこ......
ご飯を食べ終えて、私はそのまま風呂に直行。
弟の第一回目の遭遇は直接の会話なしとなり、なんとかこのままやり過ごせるのではないかと、そんな甘い考え持ったのが間違いだったのだろう。
俗に言うところのフラグがたったって奴だ。
風呂から上がり、ドライヤーで乾かした後十分に髪の毛の手入れをした私は、階段を上がったところで見事そのフラグを回収した。
「「あ」」
丁度トイレから出てきた弟とのバッティング。
完全に油断していた私は頭が真っ白になり小さく口を開けてフリーズした。
ど、ど、どうしよ......何かしゃべらないと。そうは思うが言葉が出てこない。ぽかんとしている私をおいて弟はすぐに復帰した。
そしてガシガシと頭をかくと、「あー、もう分かった。さっさと終わらせてくれよ」と、なぜか観念したように私を自分の部屋に招きいれた。なぜ!?
当然心当たりなどない私は何も考えられないままベッドに座った智貴のまえに座る。これが後のナチュラル正座である。
......。
......。
......。
あれ!?
私からなんか話しかけないといけないのかコレ!?
完全に待ちの体制に入っていた私が無言の空間に耐え切れなくなってきたところで智貴が動いてくれた。
「......はぁー。わかった。ねーちゃんが本気なのは良く分かった」
え、何が分かったの?お姉ちゃん本気でわかんないんだけど?
そんなふうに混乱している私を置いて弟は話を進めていく。
「あー、確かに、少なくとも、前のアレよりは努力の方向性も間違ってないんじゃねーの。俺は良くわかんねぇけど、たぶん」
つーか弟に分かるわけねぇだろ。なんてぼやきながら智貴は続けた。
努力の方向性って何だ。
でも基本的にこの頃の私は全力で後ろ向きに努力していた気がする。
そんなことだけ確信を持てるのがつらい。
しかし次の智貴の言葉に流石に黙って聞いているわけにはいかなくなった。
「一ヶ月......は分かんねぇけど、その調子でがんばればその内彼氏ぐらいできるんじゃね?それまでなら、まぁ付き合っ「ちょいまって」......なんだよ」
待って。
待ってくれ。
ホント待って。なんか思い出してきたぞ。
確か高校生になった頃、何を血迷ったか弟で他人と話す練習してた気がする。
--------弟、トークしよう----------
--------だからリハビリの為、毎日一時間私と会話して----------
--------彼氏ができるまで---------
--------いやたぶん一ヶ月くらいあれば--------
--------お姉ちゃんってかわいい?--------
あ、思い出した。
完全に思い出したわ。
死にたいわ。
ほんま死にたいわ。
心折れそうだわ。
弟に何言ってんだ私。
なんて嘆いている場合ではない。怪訝そうな顔をしている弟を待たせるわけにはいかない。
「あ、あの智貴さん.....私が他人と話す練習とかトチ狂ったこと始めたのっていつでしたっけ......」
「(なぜ敬語!?)トチ狂ったって......昨日からじゃねーの?」
弟の顔が引きつり、完全にかわいそうなものを見るような目になっている。
しかし私は内心ほっと幾ばくか安堵していた。
まだ二日目だったということは、前向きに考えればまだ傷は浅いということだ。
いや、死んでいたけど溺死でなく刺殺だったくらいの違いだが。
それでも、他人と話せないから練習台に忙しい弟を使うという痛すぎる行動も、何とか初回だけでとめることができたと考えればいいのだ!
ふぅーと小さく私は息を吐き、いまだに何ともいえない表情をしている弟の前で正座を整えた。
そして両手を丁寧に前につき、頭を床にこすりつける。
「......本当に、申し訳ございませんでした」
そこには夜、弟の部屋で、弟に、全力土下座している姉の姿があった。
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それから暫く、全力で私の土下座を止めようとする弟と私の攻防が続くことのなったが、「あ、これ逆に迷惑になってるんじゃ」と気づいた私が土下座をやめたことで無事、終結を迎えた。
なんか迷惑をかけてしまったが、謝ってる途中に色々思い出してきてもう申し訳なさがナイアガラのごとくだったのだ。
お互い息を整え、しばらくまた無言タイムになり、今回も智貴がさきに口を開いてくれた。
「......分かった。もう十分分かったから土下座するのはやめてくれ」
疲れたように言う智貴に私はまた感動する。
あぁ、なんていい子なんだ。
さっきもなんか私に彼氏ができるまで付き合うとか何とか言ってたし。
私がこの子の立場だったら、姉とか関係なくボコってるぞ。いや冗談抜きで。ぼっこぼこやぞ。
とにかく、気を取り直して最後にお礼を言おう。このままいても邪魔になるだろうし。
「ありがとう......あ、そういえばテスト期間中だっけ。何かわかんないとこあったらすぐ聞いて。何でも教えてあげるから!」
「お、おぅ......」
その時、私の脳をある記憶が掠めた。こ、これは......言っておかないと
「あ!で、でも願書出すのはお母さんにやってもらうか自分でやったほうが良いかもしれない!!いや、も、勿論私でも、もう一度チャンスを頂けるのなら、この命に変えてでも届ける所存ではあるけれども!!」
「お、おおぅ......」
「あーでもでも、そもそも県外の高校受ける必要ないから!お姉ちゃん恥ずかしくないお姉ちゃんになるから!!!」
「お、おおおぅ......」
「それじゃ!なんか困ったことがあったら何でもいってね。私にできることなら何でもするから!!!」
智貴は完全にひいているが、私は取りあえず言いたいことが言えて少しすっきりした。
この言葉に嘘はない。
本気で私はコレくらい思ってる。正直、一時は智貴に死ねといわれたら死んでもいいくらいの心意気だった。勿論今はそんなことはないが、この感謝の気持ちだけは誰にも負けないぐらいの心意気だ。
ポカンとしている智貴をおいて部屋を出る。
そうだ。
そうだった。
この時代に来て、今まで私は自分のことばかり考えていたけど、これは同時に誰かの為に生きるチャンスでもあるのだ。
確かに私の記憶は私の歩んだ道のものであって、それを今に重ねる気はない。
でも、この報いたいという気持ちは、決して間違いではないはずだ。
自己犠牲なんてものじゃない。これはいうなれば愛。今まで私を支えてくれた人たちへの愛で、私はできているのだ!!
「私は、私はやってやる!!!」
私は大きくうなずいて、決意新たにこれからの人生に思いを馳せるのだった。
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「......ねーちゃんが、壊れた......」
これで取りあえず第一章的な部分が終わりましたわー
ヤンデレではないですご心配なく。
因みに逆行してきた時点は、弟を会話の練習台にした夜でした
(原作一巻喪2参照)
願書云々はもっと新しい巻ですな。