私がモテないのはどう考えても私が悪い   作:あるけみーあ

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第6話

その後の休み時間、教えた子達の何人かにお礼を言われたりしたが、以降は今まで通り本を読んだりして時間をつぶして一日が終わった。

学生時代は無理をして読んでいる部分があったが、案外私はこういうスタイルがあっているのかもしれない。

そして教室から出るときに何人かに「またね」と声をかけられたのは凄まじい進歩と言っていいのではないだろうか。

 

校門の所で担任が一人一人に声をかけている。

教師になって思ったが、この人は教師として尊敬に値する人物である。変に熱血でなく、自然な笑顔で生徒と接することのできるというのは、簡単そうに見えてなかなか難しいのだ。

 

「黒木、気をつけて帰れよ」

「はい、さよなら先生」

 

自然に笑顔でそう帰すと、先生が少し驚いた顔をして。しかしすぐに笑顔に戻って

「ん、じゃあな」

と返してくれた。

 

 

 

そのまま駅のほうまで歩いていき、美容院へ向かう。

メールで来ていたのだが、お母さんが午前中のうちに予約を入れてくれていたみたいだ。

いつもお母さんが利用しているところらしいが、実は未来で私も何度かお世話になったところなので場所はばっちりである。

あまり時間に余裕が無いので早足で歩き、何とか間に合った。お母さんちょっと時間早いよ!

うちの娘にかぎって放課後に予定があるはず無い、というボッチの娘を持った母特有の現象に凹む。

お母さんごめんね。智子がんばるよ。

 

受付の人に名前を言い、しばらくすると美容師さんがきて案内してくれる。奇遇にも、彼はその「何度か」で私の髪の毛を切ってくれた人だった。

一番最初の時にきょどりまくって凄い恥ずかしい失態をみせたことが苦い思い出として残っているけど、その後も笑顔で接してくれた良い人なのは間違いない。

 

「初めてですね。どんなふうにします?」

「前髪を目にかかるくらいまで短くして、全体的に梳いて欲しいです。あー......あとはお任せで」

「分かりました。じゃあシャンプーしますねー」

 

その後も散髪はつつがなく進んだ。

本当ならこの前髪はこの後数年このままで、私の視界をさえぎり続けていく予定で。それが目の前でなくなっていくのが、変わっていく未来を暗示しているような気がした。

もう一度シャンプーし、髪の毛を乾かされたとき、鏡に映る私はすっかり整えられている。

前髪も短くなったといってもまだ普通よりは長く、後ろ髪もほとんど長さは変わっていないが、全体的にすっきりと軽くなっていた。

髪をとかされて外していた黒いピンで前髪の半分を留めると、今まで隠れていたほうの目もしっかりと良く見える。

 

「よくお似合いですよ」

「あはは、有難うございます」

 

カラーリングは取りあえず保留にしておいて、やはりこの人の散髪の腕はこの頃から良かったみたいだ。

私の要望どおりで、全体的に明るい印象になって満足である。

 

有難うございましたーという店員さんたちの声を背に外に出ると、世界が広がったように思えた。

先日まで同じように前髪は短かったはずなのに、妙な感動とともに空を見上げる。

 

「なんかうまくいきそうな気がする」

 

小さく笑って弾んだ足取りのまま、私は帰路に着いた。

 

 

 

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「ただいまー」

 

で、家に帰ると玄関には既に智貴の靴があった。

そういえば中学はもうテスト週間か。

それなのに朝練があるとはなかなか厳しい部活だったんだなーといまさらながらに気づいて、いまさらそんなことに気づく私って.....と微妙に凹む。

 

「おかえりなさいー......ってあら、あんた」

 

少し遅れてお母さんが玄関にきて、私を見て目を丸くする。フッ、その反応にはもうなれたぜ......

どこか悟った様な気分でやさぐれていたが、お母さんが余りに嬉しそうにしているのよしとする。

 

「ホントに良く似合ってるじゃない!......ホントにお母さん心配だったの。

 あんた何歳になってもお洒落しないどころか身だしなみにも気を使わないし、いつになったら......」

 

そのままお説教が始まってしまったが、本当に心配させてしまっていたことを知っているから殊勝な態度で聞くことにする。

だってこの数年後にひと悶着あった後、しっかり身だしなみを整えてお化粧したときに私はお母さんに泣かれたのだ。いや、もうホントに申し訳なくて申し訳なくて。

 

「でも本当に良かったわ。これならきっとその男の子もイチコロね」

 

でも結局その方向にもっていってしまうのはやっぱりといったところか。勘弁してください。

長年の経験からいくら言い募っても無駄だと思い、苦笑いでそれでも一言否定はしておく。

 

 

私服に着替えて部屋に戻り、改めてその懐かしい品々をひとつずつ見ていく。因みに家では後ろ髪を一つにまとめている。

取りあえずデスクトップパソコンを起動させ、待ち時間に机の引き出しや押入れの中も簡単に見ていく。

......結果、これ以上なく顔が引きつることとなった。

趣味は変わっていないはずなのに、その在りようが凄まじい。

というかこんなもんそこら辺にほっとくなよ!

正直人様にお見せできないようなものが大量に出てきて、急遽部屋の整理が始まった。

持ってるのは良い。未来の自分も少なからずこういったものを保有していたが、コレはない。

15歳という若さでこれほどの業の深さをもつ自分に戦慄しつつ、取りあえずアレなものを一つのダンボールの中に収納していく。

二つのダンボールがいっぱいになった所で取りあえず一応の応急処置ができた。

おかげで本棚はスカスカになってしまったが、他の本でカモフラージュだ。ポスターは......もう知らん。

そんな風に簡単な整理を終えた頃にはパソコンもすっかり立ち上がっていて、そのデスクトップ画面にまた吹いた。

昨晩はよく見ていなかったが、いきなり乙女ゲーのショートカットがいくつも鎮座している。題名がアレな奴も普通にあった。

学園モノっぽいのはまだしも『俺様生徒会長と奴隷な私』ってどうなんだ。しっかりしろ私。

学校で読んでいた本といい、学生時代の私は実は勇者だったのではないか。なんて変なことを思いながら、次はドライブ内を整理していく。

一般ドライブとアレなドライブを分けて、他人の前でパソコンを使える状態にしていく作業が終わる頃にはすっかり日が沈んでいた。

 

タイミングよく下からお母さんがご飯ができたと呼んでいる。

 

さぁ、実は地味に避けていた弟、智貴との再開の時間だ。

今、彼との関係がどんな状態なのか覚えていない分怖いぜ。

しかし同じ家に住んでいる以上先伸ばすわけにも行かず、私は連行される罪人のような気分で階段を下りていった。

 

 

 

 




次回やっと弟君登場。
これでようやく時系列がはっきりしますな。

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