私がモテないのはどう考えても私が悪い   作:あるけみーあ

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第5話

 

さて、今日は体育も無く授業を聞いているとすぐに昼休みになった。

 

ちなみに授業はアレだ、つよくてニューゲーム状態だった。

英語の授業で一度だけ当てられたがそこは元教師。たとえ担当教科でなくとも余裕である。大卒なめんな。

和訳で即答したためか、続けてもう一文の訳もさせられたが高一の英文ならまだまだ余裕である。

 

圧倒的単語量、圧倒的解答力。我が軍は圧倒的ではないか!

 

ふふ、関係代名詞もまだ使えこなせない君たちとは違うのだよ。

よろしいの一言で私は着席して英語の教科書を読み進める。周りから微妙に視線を感じたが、多分気のせいだろう。

 

 

そんなこんなで昼休み、流石にいきなり誰かに誘われるなんてことも無く、昼食は一人で食べ終える。手作り弁当の味がしみるぜ。

教室を見回してみると一人飯も何人かいるのでそこまで気にすることも無いだろう。

昨日の晩も遅くに就寝し朝も早かったので結構な睡魔が襲い掛かってきたが、ここで突っ伏すのもなんなのでボーっと教室を眺めていた。

主人公席とはよく言ったもので、他人に気兼ねすることなく空を眺め暖かい陽気を堪能できるこの席はある意味教室の一等席だ。

 

授業が始まる20分前くらいになった頃、私の席のすぐ横の女子グループがなにやら授業の予習を始めた。

教科は英語......って今回はWritingか。

一日に英語が二時間とは英語嫌いにとっては地獄だなー。

でも結局英語を話せる人なんて一握りにしかならないんだから、もっとListeningやSpeakingに力を入れるべきだってのはあながち間違っていないのかも。

そんなことをボーっと考えているとふと机を囲んでいた一人の娘と目が合う。いやまぁ私がぼんやり眺めていたからなんだけど。

 

「えっと黒木さんだっけ」

「え、うん。そうだけど。どうしたの?」

 

いきなり話しかけられるとは思わなかった。

 

「黒木さんって英語得意なんでしょ?コレどうやった?」

 

ちょっと押しの強そうなタイプの(多分そのグループのリーダー的な)娘だけど、今回は渡りに船だ。周りの娘達も問題集のほうに目がいっていて入りやすい。

すぐ横なので席を立って覗き込むだけで良かった。さっとそのページを見せてもらって安堵する。

あぁコレね。私はWritingはあまり得意ではなかったからちょっと不安だったが、良くある定型で英訳できる文章だった。

その場でサラッと英訳を言うと「ちょ、ちょっと待って!」と言いながら周りの娘が皆自分のノートに写し始める。

中学レベルとはいわないけどそんなに難しい問題でもないんだけどなー。

もう中間テスト近いのにこの子達大丈夫か?

気づいていなかったが、このとき私はすっかり教師モードに入っていた。なんてったって昨日のこの時間には受験生に向かって教鞭を振っていたのだから。

聞いてもいないのに、その文章を解説する。

 

「ほら、この文章。日本語だと面倒くさい言い回しだけど、英訳するならこの言い換えで十分だよ?

 それにそこの関係代名詞はすぐ前の単語にかかってるんじゃなくて......そうそう先行詞はこっちのchildrenだから......」

 

そんなことを言ってると「じゃあここは?」なんて他の問題も聞いてくる。教師として生徒の質問に答えるのは実は結構好きなのだ。

そういう意味で私は教師と言う職業が向いていたのだろう。教えを請うよりは教えるほうが好きなタイプだった。

機嫌よく質問に答えていく。

というか途中から勝手に解説までしてそのページの問題のほとんどを解いてしまった。

残った最後の数問は「じゃあコレもできるよね。これと、これの組み合わせだから、同じようにできるよ」と、締めくくる。

全部といてしまっては教師としては名折れである。教えたことを一度は考え直してほしいのだ。

 

と、そこまでやって周りから視線を感じる。

教えていた女の子達だ。

あ、ちょっと調子乗りすぎたかな?と我に返り、苦笑いであわてて付け加えようとして。

 

「あ、ちょっと偉そうに「黒木さんってやっぱり勉強できる人だったんだ!」......え?」

 

「私、今初めて英語と分かり合えたような気がしてるんだけど!」

 

周りからも口々に凄い凄いと褒められる。

うお、なんだこれ。なんだこれ!なんか昔してた妄想みたいになってるんだけど!?

自身の妄想の痛さに顔を赤くしていると、どうも照れてると勘違いしてくれたみたいだ。

 

「ちょー分かりやすかった!先生みたい!」

いや、先生だったんだけどね。昨日まで。

「あー中間テスト。諦めてたけど光明が見えてきたー」

やっぱり諦めてたんかい。

「いやーでもホント助かったよー!また聞いてもいい?」

 

最初に声をかけてくれた娘がそう言ってきたので、笑顔で了承すると軽く抱きついて喜んでくれた。体格の小さい私は埋もれてしまいそうになったが。

 

ちょうどその時、チャイムが鳴って英語の先生が教室に入ってくる。

「席に着けー」という声とともに、生徒達は皆自分の席に戻っていった。

そのときに教えてた娘達が「ホントありがと、またねー」といってそれぞれの席に戻っていく。嵐のようだったな。

私も自分の席に戻り、そして平静を装いながら教科書と問題集を取り出す。

ふぅーとため息をつき、

 

よっしゃあ!

 

内心では後方かかえ込み2回宙返り2回半ひねり下りしていた。

しゅたっ!と着地し、周りのギャラリーが大拍手。

審査員達もみな10点!10点!10点!と札を上げていく。

やりました私。私凄い。自分で自分を褒めてあげたい。

 

まさかたったの半日でここまでいけるとは自分でも思っていなかった。

喝采をあげていると、先生があの娘達を指名する。

どうやら今日当たることが分かっていたようで、だからこそ昼休みに集まって予習していたのだろう。

まぁ高校一年生から完璧に予習しろとは言わないが、これを機にもう少し勉強してほしいな。

なんて、そんなことを教師目線で考えている間も彼女達は自信満々に解答していき、先生もいくらか上機嫌に授業を進めている。

その中の一人がこちらを向いてVサインを送ってきたので小さなVサインとともに微笑み返しておいた。

 

これが学力チートか。

 

そう呟いた私は、三十路手前にしてまだ結構アレなのかもしれない。

体に引っ張られてるだけだと思いたいな......

 

 

 




教師とかズル過ぎ!
ちなみにもこっちは理系です

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