――― オータム ―――
IS学園の学園祭。
普段はセキュリティが厳しいIS学園に、部外者が入ることの出来る数少ないチャンス。
そしてこの私、
まあ、変装したというか、実際に存在するIS装備開発企業の“みつるぎ”の巻上礼子って奴の身分を借りただけなんだけどな。それでも持ってる身分証は正式なものだし、よっぽど不審に思われて本格的な取り調べを受けなきゃ平気だろ。
もしそうなったらアラクネ使って逃げるけどな。
もちろんアラクネ使っても織斑一夏に追撃されると逃亡は困難なんだが、奴の白式・ウルフヘジンには欠点がある。
それは“周りに人がいる状況では全力稼働が出来ない”ということだ。
ま、よくよく考えてみたら当然のことだよな。
もし近くに人がいるところで全力稼働してみろ。白式・ウルフヘジンが発生させたソニックブームで死人が続出するぞ。もちろん周辺の建造物にも被害が出るだろうよ。
これはIS競技を行う試合場なら全然問題ない欠点なんだが、私らみたいな人間にとってはつけ込みやすい欠点だ。
逃げるときに人が多い場所を通って逃げればいいだけ。真っ正面切って戦うなら悔しいが勝ち目はないが、わざわざ相手の有利な状況で戦ってやるかよ。
IS学園を出てから街中に出るまでは人気がないとはいえ、電車が通っているから全力稼働をすることは出来ないし、街中では言わずもがなだ。
それにこれはスコールの予測なんだが、織斑一夏は守勢の人間らしい。
敵が逃げて見失ったら、その相手を見つけるまで更に探し回ることなんてせず、増援を呼ぶなりして守りを固めるタイプ。おそらくIS学園の教員や三年生をISに乗せて警戒に当たらせたり、自衛隊のIS部隊を呼び寄せたりすることに力を入れるタイプとスコールは見ている。
堅実な物の考え方だな。
挑発が効かないってことでもあるからそれはそれで厄介なことでもあるんだが、逆に言えば一度でも逃げ切れば追撃されないってことだから、今回の目的のためには都合の良い性格してるぜ。
そんなわけで来たるIS学園一年生が修学旅行に行く日に実行するIS学園襲撃の下地を作るため、情報収集をしにこのIS学園にやってきたってわけだ。
乳臭いメスガキどもがはしゃぎまわっている光景を見るのは癪に障るが、せっかくなのでスコールのために件の織斑一夏のこともついでに調べておこうと思って、織斑一夏が在籍している一年一組にやってきたんだが…………、
『いらっしゃぁい』
……一年一組の教室の出入り口に変なのがいる。
変なのってーか、デュノア社の新マスコットの“おとうさん”のことだけど、アレが妙な威圧感を放っているせいで客の出入りがイマイチなことになってるぞ。つーかマジデケェ。
入りたがっている客も廊下にチラホラといるようだが、廊下を見渡しているおとうさんと目が合った瞬間に目を逸らしている。
まあ、アレは直視し難いわな。
「ちょっとおとうさん。
おとうさんがそこにいるとお客様が入りにくいみたいだから、おとうさんは店の中で接客してよ」
『しかしだねぇ~、シャルロット。
この店は“おとうさん喫茶”であるからして、私が店頭に立つのは当然のことじゃないかねぇ?』
店名が“おとうさん喫茶”。デュノア社全面協力による喫茶店か。
入口から覗ける範囲にも“おとうさん”のヌイグルミが置いていたりするから、本当にデュノア社がスポンサーになっているみたいだな。
……学園祭でそういうことしていいのかよ?
いや、きっと織斑一夏が協力を強要したんだな、きっと。
しかし、これはどうするかな?
織斑一夏本人と会えるのならともかく、着ぐるみ被った状態でキャラ作っている織斑一夏と会ってもどうしようもねぇ。
ここは素直に本来の目的である情報収集を優先し…………ヤベェ、おとうさんと目が合った。
「……」
『……』
「…………」
『…………』
「………………」
『…………
「えっ!? 何で!?」
ヒィッ!? ウサ耳が伸びた!?
しかもそのウサ耳が私に迫ってくる!? 私が何かしたか!?
『ジイィィクハイィィル・ブリタァァァニアァァァッッ!!』
「おとうさん混ざってます。ドイツとイギリスが混ざっていますわ」
「というかフランス企業のマスコットなんだからフランス語使ってよ」
「しかし何故にブリタニア?
アレか? おとうさんの名前は“シャルル・デュノア”なのか?」
何を傍観しているんだガキども!?
さっさとこの絡みついてくるウサ耳を何とかしろぉっ!!
だ、駄目だ。正体がバレるからISはこんなところで使えねぇ! 引っ張る力も生身じゃ勝てないから、このままだと教室の中に引き摺り込まれる!
「ち、千切れねぇっ!」
『フハハハハ、無駄無駄。
教師ゆえに試したことはないが、これに捕らえられたが最後、ブリュンヒルデといえども脱出できぬ逸品であると自負しているぞォッ!!
それでは一名様ごあんな~~~い』
「こ、これはいいのでしょうか?」
「お祭りなんだし、別にいいんじゃない?」
「よし、それではメニューとお冷やを持ってくる」
よくねぇよっ!! こんな風に客を引き摺り込む喫茶店があってたまるか!?
ってか何でよりにもよって私を教室に引き摺り込むんだよ!? 正体バレたわけじゃねぇよなぁっ!?
た、助けてスコールゥゥーーーっ!?
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『ささ、どうぞどうぞ。遠慮なさらずに冷めないうちに』
「は、はい(私が自分の金で頼んだモノだろーがっ!!)」
『砂糖もたくさん入っていますが、遠慮しないでくだぁさい』
「現実を直視させないでくれますか?」
周りの客もバツの悪い顔してるだろうがよ。
……私も最近の安宿暮らしのせいで、体型がちょっと怪しいことになってるんだよな。食事もジャンクフードが増えたし。
引き摺り込まれた直後はどうなるかと思ったが、普通に客席に座らされただけだったな。
触耳もすぐに解かれたので監禁されるということはなかったのはいいけど、流れるようにメニューと水を持ってこられたので店から出るに出れなくなってしまった。
まあ、元から情報収集が目的だったし、織斑一夏以外の専用機持ちも障害になる可能性は高いので、気を取り直して情報収集をすることにするか。
それにしても目の前……あれ? おとうさんって縮んでねぇか?
さっきは私より明らかに大きかったのに、椅子に座っていたら目線が私と同じくらいの高さにある。
……私も慌ててたからな。きっと見間違えしてたんだろう。
ちなみに頼んだメニューは“おとうさんとのお茶会”。
その名の通り、おとうさんが同じテーブルに座って一緒にお茶をするというメニューなんだけど、おとうさんの飲食代はコッチ持ち。
……\2500か。
私とおとうさんの分の軽食と飲み物とオマケがついているとはいえ、結構値段高いな。ヘタに金使ったら帰りは歩きになっちまうから、そんなに金を使いたくないんだが……。
チクショウ、いくら情報収集のためとはいえ、何でこんな奴に奢らなきゃいけないんだよ。
教室内を見渡すと、目の前にはおとうさんの着ぐるみを着ている織斑一夏。そしてウェイトレスとしてイギリス代表候補生のセシリア・オルコットとフランス代表候補生のシャルロット・デュノアにドイツ代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒがいる。
日本代表候補生の更識簪と中国代表候補生の凰鈴音、そして篠ノ之束の妹の篠ノ之箒がいないが、おそらく店当番じゃないからだろう。
『巻上さん、ケーキも食べろよぉ』
「え、ええ。甘いものは好きですのよ」
『好きとか嫌いとかはいい』
「え?」
『ケーキを食べるんだ』
何なの、この威圧感?
私用に頼んだのはコーヒーとチョコレートケーキ。
まあ、味はそれなりだな。これが一人前\2500だったら高いが、飲み物と合わせて\1000だったらまだ妥当な感じだ。
おとうさんの分も私が選ぶことになっていたが、織斑一夏が何を好きなのかは知らないから、とりあえず紅茶と“ピー○ーラビットのお父さん風パイ”ってのにしておいた。
パイを温める時間が必要だし、事前に淹れておいた分があるコーヒーと違って紅茶は注文されてから淹れるらしいから、おとうさんの分はまだ来てないけどな。
それとピ○ターラビットってのがイギリスのウサギの絵本だってことぐらいは私でも知っている。
フランスのデュノア全面協力の店に何でそんなメニューがあるかは知らんが、このクラスにはイギリスの代表候補生もいるし、おとうさんの耳がウサギの耳だからウサギ繋がりなんだろう。
それで“ピータ○ラビットのお父さん風パイ”のお父さん風ってのがどんなことかは知らないが、とりあえずウサギ繋がりということでそれをおとうさん用に注文したんだが…………何か失敗したかな?
私が“ピーターラビ○トのお父さん風パイ”を注文したときウェイトレスたちがざわついたぞ?
いや、客の何人かも私を信じられないものを見るような目で見てきた。
こんなことで正体バレたらマヌケって話じゃねーから、変なミスをしたって思いたくねーんだが……。
『どうだ? うまいか? ケーキがうまいのか?』
「お、おいしいですわ」
『…………こんなにカロリーが高いのに、巻上さんはおいしいという』
「ぐがっ!?」
こ、この野郎……接客する気があるのかよ?
それともこういうキャラ設定なのか。
ダ、ダメだ。イラつく。頬がヒクヒクいってるのが自分でもわかる。
でも今ここで暴れるわけにはいかない。
さすがの私でも、専用機持ちが七人在籍している……例え目に見えている専用機持ちが四人だったとしても、そんなクラスのど真ん中で暴れて勝ち目があるとは自惚れてはいないし、何よりも織斑一夏が目の前に座っている。
スコールが最大限に警戒している男を甘く見ようとは思わないし、おそらく私がアラクネを展開するよりも織斑一夏が雪片弐型(改)を部分展開する方が早いので、ISを纏うような敵対行動と見られることをしたらあっという間に戦闘不能にされるだろう。
それに例え織斑一夏の不意を突けたとしても、おとうさんの着ぐるみにはシールドバリアーがあるらしいから、一撃で仕留めることは出来ないのですぐさま白式・ウルフヘジンを展開される。
大人にもなっていないガキにここまで警戒するのは癪だが、普段からテロリストによる襲撃を警戒していることを隠していない織斑一夏なら、警戒し過ぎることによる損はねぇだろ。
周りの客や生徒たちを人質に取る方法もあるが、あくまで今日の私の役目は来たるべき日のための情報収集。そしてその情報を持って帰るのが一番大事な役目だ。
余計なことをして捕まりでもしたら、それこそ本末転倒になっちまう。だから今は耐えないと…………よし、スコールの顔を思い出したら落ち着いた。
この程度の攻めなんか、スコールの足元にも及ばねぇ。気を取り直していこうか!
……しかし何を話せばいいんだ?
一応はIS装備開発企業みつるぎの巻上礼子としての名刺は渡したけど、いくら何でもデュノア社のマスコットの着ぐるみ相手にセールスなんて出来っこねぇよ。
しかも教室内にはそのデュノア社の娘であるシャルロット・デュノアがいるし、セールスなんかしたら絶対邪魔される。
あ、おとうさんの分の紅茶が来た。
そこから話を広げ…………そういえばどうやって飲むんだ、コイツ? 着ぐるみ着てるだろ。
「失礼します。紅茶をお持ちしました」
「そちらはおとうさんの方に」
『それでは頂きますよ、巻上さん』
そう言ってティースプーンを掴ん……掴んでいない!?
手の先っぽにティースプーンをくっつけている。そしてティースプーンで砂糖を紅茶に入れてかき混ぜていやがるぞ。
ヤモリみたいに分子間力でも応用しているのかはわからねーが、着ぐるみに無駄に凄い技術を使っていやがるなデュノア社!
そしてそのまま紅茶のカップを口に持っていき、傾ける仕草をする。
目の前にいる私には本当に飲んでいるかわからないが、もしかしたら形だけかもしれ…………あ、減ってる。
テーブルに戻されたカップを見てみると、明らかに紅茶の量が減っている。どうやってかは知らないが、ちゃんと飲めるようだ。
すげぇなぁ、デュノア社。
『ところで失礼だが、巻上さんは日本の方なのかねぇ?』
「えっ!? ……な、何故そうお思いに?」
『なぁに、顔立ちが私のように日本人離れしていらっしゃるからねぇ。
いや、別にそれが悪いと言っているわけではないんだ。ただその割にはお名前が日本風だったから少し気になっただけなんだよ』
「(ツッコミたくねぇっ!)
……いえ、日本の血は半分入っています。ただ生まれも育ちもアメリカでして。
今年、みつるぎに入社してから日本に来たのです。おかげでまだ日本に慣れることが出来ていなくて大変ですわ」
こう言っておきゃ、ちょっと違和感を感じても気にしないでくれるだろ。
コイツと話しているとボロを出さない自信がなくなってきた。
『なるほどねぇ。今年から日本に来たのかい。
それでは初めての梅雨なんか大変だったんじゃぁないかね? ウチの(社長の)娘も湿気で髪の毛が広がってしまうのを愚痴っていたよ』
「そうですわね。私も大変でしたわ」
『巻上さんは特に髪の毛が長いからねぇ。
でも、もう梅雨は終わったし夏の蒸し暑さのピークも過ぎた。これからは秋だから楽になるよぉ』
「ええ、確かに。梅雨も大変でしたが、日本の夏の蒸し暑さも大変でしたわ。
アメリカで住んでいたところは乾燥地帯でしたので余計にギャップが辛くて」
『そうかいそうかい。
私は日本の季節では秋が一番好きでねぇ。気温もちょうどいいし、食べ物も美味しい。春も気温はちょうどいいが、花粉が飛び散るからねぇ。
夏は私の名mゲフゲフンッ!!』
おい、“私の名前”って言おうとしなかったか? 一夏の“夏”か?
中の人のことについて口を漏らすなよ、マスコット。
『いや、失礼。まあ、これからは秋だよ。英語で言うならオータム。
初めてというのなら、是非とも今年の日本のオータムを楽しむといいさぁ。オータムを』
……正体バレてないよな? 私の名前を知っているわけじゃないよな?
アメリカ人って言ったから、わかりやすいように秋をオータムって言ってくれてるだけだよな?
でもアメリカでは秋って
「し、失礼します。
……ピ、“ピーター○ビットのおとうさん風パイ”をお持ちしましたわ」
『ありがとう、マ○レガー夫人』
は? マク○ガー夫人って誰だよ?
運んできたウェイトレスはイギリス代表候補生のセシリア・オルコットだろ?
それに“ピータ○ラビットのお父さん風パイ”ってキャロットパイか何かだと思ってたけど、別にニンジンの色とかはしていないなぁ。
パイの中身は何なんだろ? 肉か、コレ?
「それとコチラは“おとうさんとのお茶会”をご注文なされたお客様へのプレゼント、“おとうさん帽子”ですわ。
ちょっと失礼しますわね」
「あ、ありがとうございます」
そういって私は変な帽子を被せられた。
オレンジ色でおとうさん目と口の間から上の部分を模した帽子なんだが、ウサ耳だけならともかくおとうさんの目が不気味だ。
こんなもん貰っても嬉しくねーよ。
「か、可愛らしいですね……」
だけど褒めなきゃいけないのがつらい。
アレだな。世の中の営業の人間のつらさがこの任務でわかった気がする。根が直情だと自覚している私には無理だわ。
『……可愛らしい、かね?』
「え? ええ……」
『私のここから上を切り取ったような帽子がそんなに可愛らしいかね!?』
「ヒィッ!?」
『そんなことされたらどんな気持ちになる!?』
「ごめんなさいすみません!」
おとうさんが変色したっ!? おとうさんが目と口の間で手を横切らせたら、その上部分の色が変わった!?
コイツはいったい何の素材で出来ていやがるんだ!?
っていうか、何で私が謝らなきゃいけないんだよ!?
怒るぐらいならそもそもこんな帽子を作るんじゃねぇっ!!
『いや、怒っているわけじゃない。
君がここから上を切られたらどうなる?』
「死……死にます」
『死ぬようなことを!?』
「おおおお、おとうさん!? パイが冷めないうちにどうぞ!」
『私にこのパイを食べろと!? 私は偽物のウサギだと!?』
理不尽過ぎる!? わけわかんねぇよっ!!
本当に正体バレてねーよな!? これはただ単におとうさんのキャラがこういうのってことなんだよな!?
「“マグレ○ーさんの畑にだけは、行ってはだめですよ。お父さんはね、マグレガ○のおくさんに、パイにされてしまったのですからね”」
……えっ? セ、セシリア・オルコットは何を朗読した?
周りを見渡してみると、理不尽なことを言っているおとうさんにではなく、私の方にこそ非難の目が集中している。
そして“おとうさん可哀想……”、“共食いを強制……”、“何で知らないの……”というヒソヒソ話も聞こえてくる。
……“共食い”?
もしかして○ーターラビットのお父さんって……。
「ウ、ウェイトレスさん?」
「……はい、何でしょうか、お客様」
「こ、この“ピーターラ○ットのお父さん風パイ”の中身ってナンデスカ?」
「…………ピーターラビ○トのお父さんです」
お父さぁぁぁーーーんっ!?
つーか、このパイってウサギ肉っ!?
マズい、共食い強制してたっ!? ある意味で正体バレるよりアホなこと仕出かしちゃった!?
……って何でそんなものがメニューにあるんだよチクショウが!!
ああ、そんなこと言っている場合じゃねぇ。
おとうさんと他の連中の反応が道理で微妙なわけだよ。アホなことでミスっちまった!
「ワ、ワザとじゃないんです知らなかったんですっ!!」
『いや、だから怒っているわけじゃぁない。
私は偽物じゃぁないがっ……本当のウサギとそうでないウサギがぁっ! いるということだねぇっ!?』
「ほ……本当に怒ってないですか?」
じゃあ何で変色しながら発光して、身体を前後に大きく揺らすんだよ?
確かにウサギ?にウサギを食わそうとした私の方が悪いけどさ!
……ど、どうしよう?
正体がバレたようなミスじゃないけど、それ以上に失敗した感が凄すぎる。
IS学園の警備データを始めとする情報収集は終わってるから、これ以上の騒ぎになる前にさっさと撤収をした方がい「まいどー」……お気楽な声を出してる奴は誰だよ!? コッチはそれどころじゃないんだ『あ、まいど』…………ホッ、おとうさんの変色と発光が止まった。
今、教室に入ってきた織斑一夏の呼びかけで、どうやらおとうさんが落ち着いてくれ…………お、織斑一夏?
「へぇ、ここが一夏のクラスか?」
「箒や鈴たちのクラスでもあるがな。それと言った通り担任が千冬姉さんだから、アホなことしたらブリュンヒルデが飛んでくるからな、弾」
「せっかくのIS学園でそんなことしねーよ」
「ならいいけどな。それで何飲む? お薦めは紅茶だ」
え? ……あ…………は? いや、だって私の目の前にはおとうさんが……ってぇっ!?
「な、中の人が違『中に人などいなぁいっ!!』ヒィッ!? スミマセンでしたぁっ!!」
ごめんなさいすみませんお願いだから変色しないで発光しないで。
というかもう帰らせてください本当お願いします許してください。
――― 五反田弾 ―――
おいおい、あのお姉さんやけにしょんぼりした顔して帰っちゃったぞ。
それでいいのか客商売?
「いや、ウサギにウサギ肉食わせるのは流石にないわ」
「でも俺もピーターラビッ○のお父さんの末路は知らなかったぞ。一夏と一緒に来なかったらマズかったかも」
「末路っていうか、物語開始時には既にパイにされてるけどな」
なにそれ怖い? それ本当に児童書なのか?
イギリスの児童書ってブラックなんだな。
というか、あのおとうさんをウサギと呼ぶことに抵抗を感じるのは俺だけだろうか?
一夏のデザインしたっていうデュノア社の新マスコットキャラだけど、やっぱり一夏ってセンス変だよな。一夏に惚れていて贔屓目に見ている蘭ですら、アレを初めて見たときは言葉に詰まっていたし。
まあ、シュールなデザイン過ぎるということで、絶賛はされていないけど酷評もされていないというか、何て言ったらいいか困るってのが大半の人の反応らしい。
それにしても一杯\500するような紅茶を初めて飲んだが、いつも飲むような紅茶とは違うな、やっぱり。
砂糖を入れてないのに甘みを感じる。キャンディって名前が付けられているだけあるわ。
「違う。キャンディ地方の紅茶だから名前がキャンディなんだよ」
「え? マジで?」
「それに\500っていっても儲けをほとんど考えていない原価ギリギリだぞ。
イギリス貴族御用達の紅茶の葉だからな」
し、仕方ねーだろ。
普段は紅茶を飲むとしても午後ティーとか、ティーパックでインスタントに淹れるぐらいなんだし。
えーと、ホラ、セイロンティーとかそういうの。
「キャンディはセイロン……というかスリランカの一地方だ」
「もういい。やっぱり日本人は麦茶でいいんだよ。ウチの食堂的にもな」
「別に麦茶だって悪くないだろう。日本では平安時代から飲まれている伝統的なお茶だぞ」
へぇ、そうなんだ。麦茶ってそんな古くからあったんだな。知らなかったわ。
相変わらず一夏って雑学が豊富だな。
しっかしまぁ、ここがIS学園かぁ。
一夏以外の男がいないってだけあって、見渡す限り女子ばっかり。客も女性が多いな。
俺がIS学園に行くって知ったクラスの野郎どもや蘭からズルいだの羨ましいだの、散々文句を言われたが、ここに来れただけで感無量だぜ。
来年になったら蘭もIS学園を受験するっていうが、どうなるんだろうな?
でも感無量なのはいいけど、周りからの視線が痛い。
正確に言うなら俺じゃなくて同席している一夏への視線であって俺はオマケみたいなもんだけど、それでも周りの女の子たちがヒソヒソ話しているのがわかる。
IS学園に入るときも、騒ぎにならないようにと、あらかじめ一夏が校門のところにいてくれなかったら“何で男がここにいるんだ?”って視線に耐えきれなかっただろう。
でも一夏が俺に話しかけて来てからの方が女子の視線が強くなったのにはゲンナリしたわ。
一夏はよく平気でこんな場所で過ごせているなぁ。
「(会長があそこまで傍若無人であの帽子を渡した……ということは、もしかしてアレがオータムか?)」
「ん、どした? 微妙な顔して?」
「いや、あとで千冬姉さんに相談しなきゃいけないことが出来てな。
それでこの後はどうする? 俺は生徒会の手伝いで校門に戻らなきゃいけないから、弾一人になっちゃうけど。
何だったら誰か知り合いにお前の案内頼もうか?」
「いやいやいや、それは流石にマズいだろ。俺一人で回るよ」
「そうか、ならいいけどな。
(やべ、そういえば布仏先輩とのフラグ潰しちゃったか?)」
焦った顔してどうしたんだ一夏は? 何かマズいことでもあったのか?
それこそテロリストが学園祭に来ていたとか?
それなら俺を放っておいてくれてもいいぞ。
事前に俺には陰ながらの護衛がつくって聞いていたから、お前の友達ってことでテロリストに狙われても大丈夫なんだろうしよ。
「そういうわけじゃないさ。
……こ、ここは俺が奢っておこう」
「え、いいの? サンキュな。
今度ウチの食堂来たときサービスするわ」
「ああ、それと鈴と箒が午後から当番だから、その時になったら顔出せよ。俺も午後になったら生徒会の手伝いから解放されるから。
それじゃあ俺は行くぞ、また後でな」
「おお、サンキューな」
一夏も大変だなぁ。
世界で唯一の男性IS操縦者で、尚且つ個人的にも優秀だからアチコチに引っ張り出されている。俺には真似出来んわ。
でも何で一夏は去る間際に「許せ、弾」って呟いたんだ?
小声で言ったつもりだろうけど、ちゃんと聞こえていたぞ、おい。
ま、いいか。それはともかくとして、次はどうしようかな。
一通り見て回りながら、頼まれている蘭や数馬への土産とかを探すとするか。
中身は会長だけど、もうやりたい放題。
書いてて楽しかったです。
そして弾、ゴメン。
わざとじゃなかったけど、フラグ折っちゃった。