――― シャルロット・デュノア ―――
予測接敵地点に到着後、打ち合わせ通りに班ごとに分かれた。
一夏をその場に残して、鈴たち第二班が一夏から3km後方に、私と箒の第三班は更に2km後方に移動した。
先頭の一夏が接敵するまであと5分。
今日の天気は快晴なれど雲多し、というところ。上空には雲、眼下には真っ青な海。こんな状況じゃなかったら遊覧飛行を楽しめたのかもしれないのに。
雨などは降っていないし、突風が吹くということもないから、特に問題はない無難な天気。もちろん海の上だからそれなりの風は吹いているので、普段の限定空間のアリーナで動くときより勝手は違うけど、これぐらいなら問題なく対処出来る。
宇宙空間での使用を目的とされているISだから多少の悪天候だったとしても問題はないけど、操縦者の私たちとしては天気が落ち着いているのに越したことはないけどね。
出来れば一夏のところで終わって欲しいな。それも出来れば今一夏がいるところを中心とした1km四方範囲で。
何しろ福音を倒すだけじゃなくて、倒した福音を回収してアメリカに引き渡さなきゃいけないんだよね。
だから福音を倒しても海中に落ちたりしたら海に潜って回収しなければいけないんだけど、今一夏がいるところを中心とした1km四方範囲の海中には回収用の網が浮かんでいるから、その範囲内に福音が落ちてくれれば網を引き揚げればいいだけで回収が楽になるし。
最悪の場合は、福音が日本に近づくかもしれないことも含めて篠ノ之博士が何とかするんだろうけど、一夏が言った通りに篠ノ之博士の重要度がこれ以上増すのはよくない。
デュノア社的にもただでさえ世界の変革に追いつけていないところがあるのに、これ以上世界情勢が変化したら追いつけなくなっちゃう。一夏が言ってたように、とにかく今は世界には時間が必要だよ。
何とか私たちで終わらせないとね。
まあ、どうせ一夏一人で終わらせちゃうんだろうけどさ。
…………ハァ、ウルフヘジンかぁ。話には聞いていたけど、実際に目にするとどうもなぁ。
ウルフヘジンのトンでもスペックもそうだけど、一夏があんなことを考えていたなんて……。
確かに地球を守る立場に立って自分の重要度を増させてテロの標的から外れようとする、という目的はわかるけど、明らかにやり過ぎじゃないかなぁ。
『ニッチ産業って憧れるよな』
って一夏は言っていたけど、これはニッチじゃないと思う。明らかに先端産業でしょ。
それよりも織斑先生が言ってた様に、一夏は何でもかんでも自分で背負い込む癖があるから、ニッチ云々じゃなくて一夏が“自分で出来ることは自分でしないといけない”と思っているからこういうことしたんじゃないかな。
一夏は優秀だから、自分一人でやった方が早く綺麗に終わらせることが出来るからそんな風に進める癖がついたんだろうけど、もうちょっと私たちにも相談してくれたらなぁ。
……いや、相談はしてくれるんだけどね。
相談はしてくれるんだけど、一夏の提案がブッ飛び過ぎているけど確かに効果的なことは間違いないから、私たちが説得されちゃうだけなんだけどね。
一夏の提案を却下出来るような代案が思いつけばいいんだろうけど、あいにく一夏みたいにブッ飛んだ案なんか思いつかないし……。
もうちょっと私も一夏の役に立つことが出来ればいいのに……。
……前からずっと不思議に思っていたんだけど、何で一夏は私なんかを気にかけてくれるんだろう?
いや、IS開発会社や女の子を選り取り見取りに出来る立場にいる一夏なのに、何でデュノア社にベルセルクルの開発を任せてくれて、私を秘書にしてくれたんだろう?
別にデュノア社や私でなくとも一夏的にはいいはずなのに……。
そりゃあ私としても一夏の役に立っているという自負はあるし、デュノア社については『倒産危機を救った恩返しにお願い(意味深)を聞いてくれるからいいや』とでも一夏の性格的に思ってそうだけどさ。
でもすいません、一夏のお願い(意味深)聞くのは経営陣の胃的にそろそろ厳しいです。普通の資金援助とかじゃ駄目ですか?
それでも一夏が私を気に遣ってくれる度合いは、他の国や企業に比べて普通じゃないと思うんだよねぇ。
一夏は結構な身贔屓をするって知ってるから、仲良くなった今ならそういう扱いをしてくれることは納得出来るけど、仲良くなる前から気を遣ってくれていた気がするし……。
デュノア社はASショック直後に一夏へISを貸し出すことに真っ先に手を上げたことから一夏との縁が出来て、私は一夏がデュノア社に訪れたときに一夏との知己を得ることが出来たんだけど、一夏と出会ってから私の人生はそれまでとは一変した。
それまでは……お母さんが死んでお父さんに引き取られてからは、デュノア社の専属IS操縦者として忙しく働いても、お父さんは全然私を見てくれはしなかったし、お義母さんに至っては“泥棒猫の娘が!”と平手打ちされたこともあった。
だけど一夏と出会ったときの一件のおかげで、お父さんが私のことを戸惑っていた理由もわかったし、お義母さんの憤りも理解することが出来た。
あの後にお父さんとお義母さんと三人で話し合ったことで、私たちは少しは分かり合えることが出来たと思う。
というかちゃんと話し合うことで、お父さんの離婚の危機が地味に回避されてよかったよ。
あやうく三行半叩きつけられそうだったらしいから、これで離婚してたら家に居づらいってどころじゃなかった。
…………いや、泥棒猫云々はその通りだったのはショックだったけどね。
まったくお義母さんには頭が上がらないよ。お母さんあんなことがしちゃったのに、話をして少し落ち着いたら私が“お義母さん”と呼ぶことを許してくれたもの。
むしろ私自身には罪がないことはわかっていたのに、お母さんに似ていた私の顔を見て我慢出来なくなってしまった……って謝ってくれた。
謝らなきゃいけないのは私の方なのに……。
それからは何かと気にかけてくれて、私のことを娘として認めてくれたから、ぎこちないながらも母娘としてやっていけていると思う。
むしろ男一人になったお父さんの方が家に居づらいぐらいに。
きっとお義母さんがあんなに怒ったのは、お父さんとお義母さんの間には子供がいなかったからなんだろうな。
ずっと夫婦として暮らしていたお父さんとお義母さんの間には子供がいなかったのに、一夜のことでお母さんは私を産んだ。
一緒に暮らしていてわかった。お義母さんは本当にお父さんのことが好きなんだ。このことはお義母さんにとってはショックだったと思う。
……もしかしたら一夜じゃなくて、お母さんはお父さんの(御玉杓子)を冷凍保存しておいて、人工授精とかで私を産んだのかもしれないけど…………まあ、どっちにしろお義母さんにとってはショックなことには変わりないよね。
話が逸れちゃった。
まあ、そんなわけでデュノア社としても私個人としても私は一夏にはお世話になっている。
一夏の秘書として働けるようになったのは恩返しのためにはちょうどよかったんだけど、一夏の側で働いているうちに一夏のことが気になり始めていった。
いや、正直に言おう。一夏に惹かれていっちゃった。もちろん子供のときから一夏のことが好きだった箒には悪いと思ったけどね。
だってしょうがないじゃない。
織斑先生を始めとするIS学園の教師の人たちを見ててもわかるけど、IS関連の仕事をしていると男性との出会いがなくなるというジンクスがあるんだよ。
学園の教師でもフランシィ先生は未だに彼氏募集中なんだけど全然縁がないみたいだし、それこそ榊原先生なんてまた男の人と別れたっていうし、私たちの行く末があんな風になるのはさすがに嫌だよ。
現に私だってお父さんに引き取られてデュノア社の専属パイロットとなってから一夏に出会うまでは、会う男性といえばデュノア社の技術者や研究者を始めとするおじさんたちばかりだった。
あの当時はお母さんが死んじゃって気持ちが塞ぎこんでいたせいもあるけど、あのままずっと灰色の人生を送っていくのかな? と思ったこともあった。
だけどそんな私の前に現れたのが、よりにもよって一夏なんだ。
私にとっては人生を変えてくれた恩人で、デュノア社としては経営危機から救ってくれた掛け替えのない協力者で、世界にとっては唯一の男性IS操縦者という重要人物。
それに加えて今度のウルフヘジンを持ったことで、ISショックのときのような地球への隕石落下が再び起こったときに地球を守る
一夏本人だって無茶苦茶なところはあるけど、何だかんだで決して間違ったことはしていないし、AISという強大な力に溺れずに自分を律することの出来る強い人。
それに加えて文武両道で紳士だし、男の人なのに炊事洗濯家事一般は上手だし、やってもらったことあるけどマッサージも上手だし、今の一夏の立場なら女の子は選り取り見取りに出来るのに将来のことを考えて男女交際を控える節度も持っているしで、よくよく考えなくてもこれ以上ないっていう優良物件だよね。
これで一夏に惹かれなかったら、それは逆に一夏に失礼なんじゃないかな?
だから男性でもISを使える理由が判明して、一夏が男女交際を気兼ねなく出来るようになった時に私を選んでくれたら嬉しいと思う。
そしてもし……もし私が選ばれなかったとしても、秘書としてでもいいから一夏の傍にいたい。
例え報われない結末になったとしても、一夏から受けた恩は一生かかっても返せないぐらいに重いものだから。
私はそのぐらいには一夏のことが…………あ、それとラウラが言ってたことじゃないけど、一夏の立場なら何人もの女の子を選んだとしても、多少の問題はあっても最終的にはゴリ押し出来ると思うんだよね。一夏の影響力的に。
一夏自身も根っこは人恋しい性格だから、一度仲良くなった女の子と離れるのは寂しいと思うだろうし。
だから最悪の場合はラウラと同盟を……簪も一夏の傍に居れたらいいって感じだから味方に出来るかもしれないし…………ウフフ。
「(一番の難敵は一夏の独占を目指している鈴と箒だよね……)」
「シャ、シャルロット? もうすぐ一夏が接敵するぞ?」
「えっ!? ……あ、うん。わかった!」
「(……百面相していったい何を考えてたんだ?)」
いけないいけない。今
考え事に耽って福音を逃したりしたら一夏に合わせる顔がないよ。
現在の福音と一夏との距離は約10km。
だけど音速を越える速度で移動している福音にとっては30秒足らずの距離でしかない。
一夏のファーストアタックが効けばそれで終了になるけど、もし外れたら皆で何とかしてこの空域から出さないようにして戦わなきゃいけない。
まあ、白式・ウルフヘジンの一夏だったら余裕で福音に追いつけるし、ラウラたちは機動力で劣るとはいえ4人がかりだからきっと大丈夫。
望遠で福音の姿が確認出来た。やっぱり速い。
福音と私たちの間にはラウラたちがいるのが見えるけど、もし福音がラウラたちを無視してコッチにそのまま突っ込んで来たら、何とかして足止めしないと…………あ、来る。
一夏のいる位置まで到達するまであと5……4……3……2……1……0! 交戦開始!
「これが俺の!
その瞬間、上空に浮かんでいた雲の中から一つの彗星が現れ、その下を通過しようとしていた福音へと激突した。
“した”と言ったけど、その彗星はいきなり何の前触れもなく現れ、とんでもない速さで福音に激突してそのまま福音と海に落ちていったので、ISのハイパーセンサーを使っていてもその一連の流れは認識出来なかった。
…………いや、一夏なんだけどさ、今のは。
そしてドッパーーーーーッン!! と、あまりの着水の衝撃によって、海にとんでもない高さの水柱が立った。
一夏ったらやり過ぎだよぉ……。
「……終わったな。
私の視界を録画しておいたもので確認したが、福音は一夏の攻撃を避けられず零落白夜で真っ二つにされたのが見え…………ん? しかもその後は随分と機体がバラバラに砕け散っているな?」
「あんな勢いでぶつかられたら仕方ないでしょ」
私も録画映像を確認したけど、1/100秒コマ送りで見ても一コマ分でしか攻撃の瞬間は映っていなかった。次のコマには既に攻撃は終わっているんだもん。
何でこんなことになったかというと、まずとんでもない速度で一夏が福音に突撃したのは、白式・ウルフヘジンで
後付部分展開スラスターも全部使って合計46基のスラスターで
超高機動型は伊達じゃないよ。
何しろあの状態の一夏の最高速度は音速を軽く超えている。激突瞬間時は最低でもマッハ3は出てるかな?
音は340m/sで進むから、マッハ3だと1/100秒コマ送りで見たとしても一コマで最低でも10mは移動していることになるからね。
そして次に何故一夏が福音に気付かれずにいたのかなんだけど、これは一夏の伏せ札である“ISコア隠匿のためのステルス機能”を利用したから。
ステルス機能はウルフヘジンについているもので、元はといえば一夏が篠ノ之博士からASを貰ったときに、一夏がISコアを持っていることを周りから悟られないようにするために最初からASに搭載されていた機能だった。
確かに“切り”札じゃないし“隠し”札でもないよねぇ。思いっきりASショックのときの記者会見で喋ってたし……。
といっても、いくらASに使用しているISコアの反応をステルス状態に出来るとはいえ、さすがに展開している白式のIS反応をステルス状態に出来るようなものじゃない。
だから一夏は白式を展開せずに、福音を雲の中で待ち伏せしていた。
そしてどうやってISを展開しないで空を飛んで雲の中に隠れたかというと、昨日鈴に火曜サスペンス断崖絶壁ごっこをしたときみたいに、ウルフヘジンに搭載してあるPICで飛んでいたからだった。
攻撃の手順としては、ウルフヘジンに搭載しているPICを利用した舞空術で空に浮かんで雲に隠れる。
そして福音が眼下を通り過ぎるタイミングに合わせて白式・ウルフヘジンを展開し直し、すぐさまチャージしておいた
「下手したら、アレを私たちの誰かが喰らっていたんだろうねぇ」
これは避けられない。速さの桁が違う。
相手が避けられないぐらいに早く動いて、その上で一撃必殺の攻撃をするなんてどう対処すればいいのさ?
「ウルフヘジンじゃなくてベルセルクルのときだったとしても脅威だな。
一夏のことだから、煙幕か何かで視界を塞ぐと同時にステルスモードに移行。そして隠れた一夏を探すために私たちがハイパーセンサーのモードを赤外線計測か何かに切り替える隙を狙って
……初見では回避不可能だな」
「福音も可哀想に。完璧にラウラたちを標的に定めていたのに、ステルスで隠れていた一夏に気付けなかったために何も出来ずに終わるだなんて……」
もしかしたら福音は一夏のことも気付いていたかもしれない。だけどISの反応がないことから、気付けていたとしても精々が雲の中に何らかの物体が浮遊しているということだけ。
それこそ雲があることによる観測の乱れかと認識するかもしれないし、何よりも目の前にはラウラたちのIS反応が4つ。
どう考えてもこの状態なら雲の中のあるかどうかわからないものは無視して、4機のISに向かっていくよね。
誰だってそーするだろうし、私だってそーする。
ましてや無人機である福音なら、なおさら機械的にISを脅威として捉えるはず。
相変わらず一夏に勝てる気がしないなぁ。
私だってデュノア社の専属操縦者でありフランスの代表候補生なのだから、IS操縦者としてそれなりの自信を持ってはいたけど、一夏と付き合っていたらそんなこと考えられなくなるよ。
今度は更識先輩も入れての七人がかりを考えていたけど、白式・ウルフヘジン相手には更識先輩を入れても無理っぽい。
むしろ一夏に勝っちゃったら、それの対策を一夏が考えてさらに極悪になっていくような予感がするから、もう一夏は放っておいた方がいいんじゃないかな。
……アレ? そういえば一夏といえば、福音ごと海に入ってからまだ戻ってこないね。
何かあったのかな?
『おい! 全員早く一夏を回収しろ!』
織斑先生? 何をそんなに慌てたような声を?
「どうかしたんですか、織斑先生? 一夏に何かあったんですか?」
『それはこっちのセリフです! いったい織斑君に何があったんですか!?
モニターしてたらいきなり白式・ウルフヘジンの右背面
福音の撃墜は確認出来ましたが、もしかして織斑君は相討ちにでもなったんですか!?』
「や、山田先生? ……すいません、ちょっと待ってください」
「わ、私は一夏の元に行く!」
うん、箒は先に行ってて。
ラウラたちが既に一夏を回収しているから、回収が終わったら絢爛舞踏でシールドエネルギーの回復をしてあげて。
えーっと、それじゃあ私は録画映像を1/10000秒コマ送りで再確認してと…………あ、一夏と福音が本当に激突してる。
正確に言うなら、零落白夜で福音の胴体を腹の部分で上下に真っ二つした直後、目測を誤ったのか通り過ぎようとした白式・ウルフヘジンの右背面
一夏が右上から左下に雪片弐型(改)を振ったからだね。
その振り方のせいで一夏の身体の向きが左下を向くようになったから、その分だけ身体の背面に位置している
そしてマッハ3以上の速度でぶつかったんだから、そりゃ
……。
…………。
………………一夏(AIS使用時)の初撃墜は自爆かぁ。
でもこれはこれで逆に一夏らしいのかな?
「あーもうっ! 死ぬかと思ったぞチクショウがっ!!」
あ、一夏が海から飛び出て来た。無事だったみたいだね。
しかも何だか口調がチンピラ風味?
――― 篠ノ之束 ―――
『何か知らんけど、右腕を三角巾で固定した白い女騎士と涙目の白い女の子に蹴り入れられながら、これまた右前脚怪我した白い犬に噛みつかれる夢を見たわ。
アレはいったい何だったんだろうか?
……あ、はい。白式・ウルフヘジンと福音の回収部品の仕分けですね。大きいのだけ仕分けて、細かくてどちらの部品か判別出来ないのは機密保持のために爆破処理ですか。わかりましたです、ハイ』
「アッハッハッハッハ! 一眠りして起きた直後の発言がそれかぁ!
いっくんってやっぱりおバカさんだよね」
「我が弟ながら否定出来んな」
いやー、爆笑したわ。こんなオチはさすがの束さんも予想出来なかったよ。
いっくんって何でこんな風に真面目にやったら笑える結果になって、お遊びを混ぜたような不真面目にやったら笑えない結果を引き起こすんだろうね?
あの後、いっくんと箒ちゃんは無事に旅館に帰ってこれた。
損害はいっくんの白式・ウルフヘジンのみ。
バラバラになった福音も前もって海中に用意しておいた網で回収出来たんだけど、壊れた白式・ウルフヘジンの
何しろ機密の塊のISの部品が混ざっちゃったんだ。いくらバラバラに壊れているとはいえ、アメリカ・イスラエルとしては福音の部品を倉持技研に見せたくないし、倉持・デュノア社も白式・ウルフヘジンの部品はアメリカ・イスラエルに見てもらいたくない。
かといって丸ごと爆破処理するのは惜しい。
というわけでアメリカ・イスラエルと倉持・デュノア社の話し合いの結果、一番中立と目されるいっくんがある程度の部品の仕分けをすることになりましたとさ。
帰ってきた後はさすがのいっくんも疲れてたみたいで、アメリカ・イスラエルと倉持・デュノア社の話し合いが終わるまで一眠りしてたんだけど、起きて直ぐそんなことさせられるなんていっくんも災難だねぇ。
別に束さんが手伝ってあげてもいいんだけど、ちーちゃんとの夕食をいっくんに進められちゃったからお言葉に甘えてる。
でもいっくんの方こそもうちょっと甘えてくれてもいいんだけどなぁ。
まあ、いっくんに怪我がなくて何よりだよ。
どうやらいっくんはあの福音とぶつかると判断したあの一瞬で
あのままシールドバリアーを展開し続けていても、あの速度でぶつかったならシールドバリアーが突破されて絶対防御が発動してただろうしね。
そのシールドバリアーを切るまでの一瞬だけでシールドエネルギーが1000近くも減ったみたいだから、絶対防御が発動していたらシールドエネルギーが0になっていたかも。超々高感度ハイパーセンサーがなかったら危なかったかな?
とはいえ白式・ウルフヘジンはシールドエネルギーを2500に設定しているけど、これは別に2500しかエネルギーがないんじゃなくて、エネルギーを2500消費したら試合が負け判定になるだけだから実際にはもっと多くのシールドエネルギーを保持している。
だから例え福音と真っ正面から激突してても、操縦者保護機能があるから無事だっただろうけどさ。
「……で、ちーちゃんはいっくんを放っておいていいのかな?
いっくんは夕飯も食べずに必死こいて部品の仕分けをしているみたいだけどさ」
「仕方あるまい。白式・ウルフヘジンも福音も機密の塊だ。
特にアメリカ・イスラエル共同開発の福音はいくら今はIS学園の教師とはいえ、日本代表になったこともある私が見るには差し障りがある。
それにあの馬鹿にはイイお灸になるだろうよ」
「えー、いっくんがこんなんで反省すると思う?
むしろ逆に『次はもっと上手くやろう』とか思っていそうだけど?」
「……言うな。せめて旨い夕食を食べているときぐらいはストレスから離れさせてくれ」
おお、良い飲みっぷりだねぇ。
アハハ、さすがのちーちゃんもあの結末は予想外だったか。
そういえばちーちゃんとこうやって向かい合ってお酒を飲むのは初めてだね。
この臨海学校へは飛び入り参加の私だけど、どうやらいっくんが前もって旅館に私が来るかもしれないということを言っておいたらしく、今朝の朝食から一緒に食べることが出来た。
いやー、朝食といい、今食べている刺身と鍋の夕食といい、ここの旅館の食事は美味しいね。
しかも支払いはいっくん持ち。ゴチになりまーす。
そして何よりも嬉しかったのは、今朝の箒ちゃんと一緒のご飯!
箒ちゃんと一緒にご飯食べるなんてもう4年振りだよぉ! 会うのがそもそも4年振りぐらいなんだけどさ。
箒ちゃんは今はクラスメイトたちと夕飯を食べてるみたいだけど、明日の朝食も一緒に食べようっと!
いやぁ、それにしても箒ちゃんもおっきくなってたねぇ。
特におっぱいが!
……そういえばおっぱいといえば、
「おっぱーい! 日本酒の熱燗もう一本ちょーだい!」
「は、はい! ただいま!」
「……山田先生は旅館の仲居ではないぞ」
「えー、いいじゃん。どうせ学園のつけた監視役でしょ。
私というより不機嫌なちーちゃんの」
「やかましい」
うわー、ちーちゃんったら不機嫌。
そんなにいっくんに隠し事されていたのが気に入らないのかなぁ。
「どうも、今戻りました」
「私らの分もあるのか。
織斑一夏君は相変わらず律儀だねぇ」
「デュノア社長に篝火所長か。お疲れ様です。
白式・ウルフヘジンの具合はどうでしたか?」
ん? なんだ、誰かと思えばウルフヘジンの製作をしているデュノア社の社長と、白式の製作をしている倉持技研の担当者か。
せっかくちーちゃんを楽しくご飯を食べているのに邪魔してくれちゃって……。
いっくんもいっくんだよ。
私たち以外の人間ために食事なんて旅館に用意させなくてよかったのに。
「ウルフヘジンの方は問題ないですね。
右背面
「白式の方も似たようなものだね。
右背面
雪片弐型(改)は織斑一夏君が予備を持ち込んでいたからいいけど、あいにく
ただしASであるウルフヘジンと違って、ISである白式は
とはいえ私はプログラミングが専門だから、正確なところは織斑一夏君が倉持に来て精密検査してからじゃないとわからないけどね」
「そう、ですか……」
「? ……ああ、戦闘は駄目といっても、テロリスト相手に自衛するぐらいなら問題ない。
それに右背面
何しろ全損した
「それでも精密検査は必要でしょう。
わかりました。臨海学校が終わったら織斑を倉持技研に行かせます」
いっくんの操縦技術もだいぶ上がっているね。
あの状況で目論見通りに、捨てた右背面
まあ、ちーちゃんだったら雪片弐型(改)の刀身を曲げたりはしないだろうから、まだまだちーちゃんには敵わないみたいだけど。
「……ところで束。
結局はどういうことだったんだ?」
「? どういう意味かな、ちーちゃん?」
「惚けるな。出撃したときに一夏が言っていたことだ。今回の件、いったいどこまでお前の手が回っているんだ?
いや、お前の口から言うのが差し障りがあるのなら、一夏の言葉を否定するかしないかだけでもいい」
「ん、ん~……まあ、否定はしないよ」
「……そうか。ご苦労だったな、束」
「アハハ、別に気にしなくていいよ。本当にご苦労様だったのはいっくんだし。
それにアレだよ。いっくんの“鬼札を暴くため”というのも否定しないんだしさ」
「…………またお前は変なこと仕出かそうというのか?
今度は何か? 二学期に行われるキャノンボール・ファストでも狙っているのか?」
「いや、それこそ白式・ウルフヘジンに敵いっこないじゃん。
機動力だけで考えるなら、
「それもそうだな。しかしそれではさすがにキャノンボール・ファストには白式・ウルフヘジンでは出場させられんな。白式単体で出場するようにルールを変えておくか。
……ところで一夏の鬼札は暴けたのか?」
「ん、ん~~~……まあ、暴けたというより、前々から予想はしてたんだけど今回の一連のことで確信したって感じかな」
「ほう、今回の一連で確信か……。
いったいそれは何なんだ? 私も前から考えてはいるのだが、全然予想がつかなくてな。
……もしかしてまたもや
問題……は
「聞きたいような聞きたくないような……。
「織斑一夏君のことだから、またブッ飛んだことでも考えたのかね」
「? デュノア社も倉持技研も知らないのですか?
……教えろ、束。デュノア社も倉持技研も知らないということは、鬼札に関してはお前が関わっているんだろう?
早いとこ心の準備を済ませておかなければ、私や山田先生の身が持たん」
アハハ、いっくんの面倒を見なきゃいけないちーちゃんも大変だねぇ。
でも普段の日常生活はちーちゃんの面倒をいっくんが見てるんだからこれでイーブンじゃん。
ま、そんな大したことじゃないよ。
今までいっくんが話してたことを纏めれば、簡単に答えはでるからさ。
えーっと、クラス対抗戦のときのこと覚えてる?
ゲッ○ーが落とされた後、私はいっくんに向かってこう言ったんだよ。
『いっくんがリクエストした“ありとあらゆる干渉、制約、介入を無効化出来る”
ってさ。
白式をいっくんのために設計するときに、いっくんに
まあ、実は白式の
それでいっくんは各国で対ISの切り札として開発が進められているとされる
実際のところISの護衛さえいれば対ISは何とかなるから、搦め手への対策を重視したって言ってたね。
でもさぁ――変に思わない?
あのいっくんがそんな理由でわざわざ貴重な
それこそ
それで不思議に思って色々考えてみたんだけど、今回の白式・ウルフヘジンで確信したよ。
ホラ、白式・ウルフヘジンがいくら優れた性能を持っていても、ちーちゃんがやったように大型隕石の落下を阻止するためにはエネルギーが足りないよね?
……それでさぁ、ちーちゃん。
“ありとあらゆる干渉、制約、介入を無効化出来る”
シャルロ(以下略)
一夏の鬼札、それは『
長くなったので切ります。どうやって無効化するかなどの詳しい説明は次話です。
……使っている人いませんよね? 『
まあ、ISは究極の機動兵器とされており、原作では第一世代の白騎士が戦闘機207機、巡洋艦7隻、空母5隻、監視衛星8基を死人一人出すことなく破壊しました。
でも白騎士以降のISはその戦闘力を
なら、その
という考えです。
エネルギー無効化攻撃はともかく、最小のエネルギーをほぼ無制限に増大させるという絢爛舞踏があれば原発も火力発電所もいらねぇじゃん的なトンデモ能力も発現する
そして
要するに第一段階の“
第二段階の“
それに何よりも地球上では空気の壁があるから、その全性能は発揮出来ません。あくまで本来の目的用途は宇宙空間においての活動です。
ですので専用機持ちの中では榴弾弾頭やロッド型弾頭の山嵐を使える簪が天敵になります。本物のシュライバーと同じく、範囲殲滅攻撃が苦手です。
逆に一番有利なのはラウラですかね。AICもその加速力で無理矢理破れますし、残りの武器はレールカノンとワイヤーブレード、そしてプラズマ手刀と、攻撃発生源が特定しやすいので超々高感度ハイパーセンサーがあれば避けられるようなものばかりですから。
ちなみに“ありとあらゆる干渉、制約、介入を無効化出来る”
理想郷のときから自分の作品を読んで頂いている読者様も多いようですが、これについて“簡単すぎる”と違和感を感じられた読者様はいらっしゃいませんでしたか?
“嘴広鴻がこんなに下衆じゃないわけがない”とか不思議に思われてたなら、あなたはよく訓練された読者様です。ホント、二次創作は地獄だぜ! フゥハハハーハァー!
……あ、一夏がシャルロットに甘い理由ですが、原作キャラということもありますけど、最大の理由は初めて会ったときに失禁させてしまったことの罪悪感ですよ。
シャルロットは心の奥底に封印することで忘れてますけど。
それとそろそろ登録タグに“主人公最強”を入れた方がいいですかね?
正確に言うなら“主人公(機)最強”ですけど。