真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「おめでとう!」「おめでとう」「おめでとうございます!」「・・・え、何で俺祝われてんの? なんかめでたいことあったっけ?」「・・・ギルに聞け。俺は結構納得したが」「ですね。・・・まぁ、どちらかと言うと餌食になるほうですからねぇ」「え? 何が? ん? 餌食?」「・・・うん、なんと言うか、一刀のことなんか祝おうと思って調べたらさ」「あ、ああ」「・・・お前、一部の調査で『ウェディングドレスが似合いそう』ランキングで魏呉蜀の武将全員押さえて一位になってるらしい」「は!? 俺が!? ドレス『似合う』側なの!?」「そう。・・・悩んでるなら、ほら、性転換の薬、あるぞ?」「いらねーよ! ギルに攻略されるか華琳の玩具にされる未来しか見えない!」「・・・外史の管理者に尻を狙われる心配は無くなるが」「その代わりに失うものが多すぎる!」


それでは、どうぞ。


第八十四話 祝いの一日、ハレの日に

白い空間。ここは、神域と言っても過言ではない場所。・・・というかぶっちゃけ神様空間なんだけど、ここってそういえば厳密にはどういうところなんだろう。

まぁ、別に細かいことを知らなくてもここを利用できるっちゃ出来るので、まぁ良いんだけど。

 

「お久しぶりですねー。いやいや、ゆっくりして行って下さいよ」

 

「ん、ああ。そうさせてもらうよ」

 

数えるのも億劫になるくらいここには来ているので、テーブルと椅子を出現させて座るのも慣れたものだ。

俺が座るのと同時くらいに、目の前にティーセットが現れる。このあたりも、ここに来てからのお決まりの流れなので、神様も分かっているのだろう。

 

「娘さん、元気に育っているようですね」

 

「おかげさんでな。菫に加護って言ってたけど、あの宝具使えるようになったのもそれの一環なのかな?」

 

「あ、アレは純粋に貴方の力を継いだだけですよ。私もびっくりしてます。これだから人間見るのはやめられません」

 

「やめとけ。ノートで殺人する何処かの死神みたいな目になってるぞ。・・・あ、今日は新しい茶葉だな」

 

「分かります? ちょっと育ててみてるんですよ。いやー、園芸も楽しいものですねぇ」

 

「・・・育つのか、植物」

 

脳内で如雨露片手に植物に話しかける神様を浮かべる。・・・うん、のほほんとした空気が合うといえば合うな。

どちらかといえば牧歌的なイメージの外見してるしな、神様。

 

「ふんふーん。・・・あ、そういえばまたアレから何人か増えましたよ」

 

「・・・ああ、そう。アレって神様が決めて良いもんなの? 俺と相性悪い英霊とかいるじゃん?」

 

「いますかねー・・・? あ、アルトリアさんとかはもしかしたら時期によってはやばいかもしれませんね。開幕で聖剣ぶっぱもありえるレベルです」

 

「・・・いないよね?」

 

「さぁ、どうでしょう」

 

ドヤ顔でこちらを見下ろす神様に、ぐぬぬ、と悔しげな顔を浮かべてみる。

・・・だがまぁ、この神様のことだし、本当に俺の嫌がることはしないだろう。それなりに長い付き合いだしな。そのあたりは信頼してもいいだろう。

そんなことを思いながらお茶を一口啜ると、目の前の神様が顔を真っ赤にして俯いているのが見えた。・・・何やってんだ、この神は。

 

「どうした? トイレならそこの扉を出て左・・・」

 

「無いですから! この部屋に扉ないですから! ・・・って、違う! そもそもトイレじゃないのっ」

 

「えー? じゃあ何でそんな顔真っ赤にしてんの? あ、暑いのか!」

 

「ばかぁ! 貴方は私が心を読めること忘れてませんか!?」

 

「いや、覚えてるけど」

 

もう一度、お茶を一口。うん、落ち着ける、良い香りだ。『ナイススメル』、である。

なんというか『香り』じゃなくて『スメル』とかって言うと、そこはかとないフェチズムを感じる。あ、俺は女の子の髪の匂い派です。

なので、風と一緒に寝たりするともう、髪の毛の中に顔を埋めて眠るまである。アレはとても良いものである。

 

「・・・うぅ、そこは鈍感なのか。まぁ、助かったというかなんと言うか・・・」

 

「?」

 

「もうっ! 兎も角、信頼してくれてありがとうございます! 嬉しいです!」

 

「ん? あ、ああ。うん? ・・・結局何の話だったんだ?」

 

ぷんすか怒ってしまったので、神様からこれ以上話を聞くのは難しいだろう。うん、まぁ、残念。

しばらく無言の時間が続き、なんか気まずいなぁ、と思い始めた頃、神様が口を開いた。

 

「・・・ええと、なんかごめんなさい」

 

「いやいや、気にするな。なんか俺もデリカシー無いこと言ったんだろう。ま、嫌な事あれば話くらい聞くからさ」

 

「・・・はぅ、神様より懐深いってそれはそれでどうなの・・・?」

 

なにやらもう一度落ち込んでしまったらしい神様に、良くは分からないが、と立ち上がって近づく。

その気配を感じたのか、顔を上げてこちらを見る神様の頭を、くしゃくしゃと撫でてやる。

 

「ふわっ、あぷ、なんですかっ!?」

 

「へこむなへこむな。笑ってた方が可愛いし、俺は笑ってる神様のほうが好きだぞー?」

 

こんな発言できるのも、付き合いが長い故だ。全く、もうちょっと神様も俺を信頼して、気にせずぶつかってきてくれてもいいのに。

・・・まぁ、神様だしなぁ。元人間とは色々考え方も違うのかもしれないが・・・。ま、これから長い付き合いになるんだ。ゆっくりやっていこうかな。

 

「・・・あぅ。・・・今日はもう、終わりですっ。おしまいおしまいっ」

 

「おお? なんだ急に・・・って、押し出される・・・っ!?」

 

強制的に目覚めさせやがったな、神様! どんだけ恥ずかしかったんだ、全く!

 

「・・・あー、もう、あの馬鹿ぁ・・・。狙ってやってるんじゃないでしょうねぇ・・・」

 

目覚める直前、何か聞こえたような気がしたが・・・何が聞こえたかまでは分からなかった。

 

・・・

 

「・・・あ、起きた。・・・うなされてた。だいじょぶ?」

 

目を覚ますと、俺を覗き込む恋の顔。心配そうな表情を浮かべる彼女に、出来るだけ優しく手を伸ばし、撫でる。

くすぐったそうに身を捩る恋に微笑みかけながら、身体を起こす。・・・うなされていたのか。どれだけ無理矢理追い出したんだよ、神様。

頭を軽く振って残った気だるさを追い出して、寝台から降りる。くぁ、と小さく欠伸が漏れてくる。

 

「・・・今日は、大事な日。月が手を離せないから、ぎるを代わりに起こしてって」

 

「そこまで心配されてたのかよ」

 

「・・・んと、前日に頑張ってたはずだから、多分疲れてるって言ってた。・・・さくやは、おたのしみ?」

 

「何処から習ってくるんだそういう言葉。・・・ああ、いい。言わなくていい。大体分かった。後で隊長と七乃をお仕置きしておく」

 

「・・・恋も、たまにはぎるにおしおき、されたい」

 

「何言ってるんだ君は」

 

真顔で壱与みたいなことを言ってくる恋に、本気で心配してしまう。こんな子じゃなかったよね?

恋はちょっと油断すると寝込みを襲ってきていつの間にかズボン脱がしてたりとか、突然押し倒してきたりとか、真顔で『こづくり、する』とか言ってくるような、純粋な子だったはず。

・・・あれ、なんか違和感を・・・。んー?

そんな俺を無視して、恋はのそのそと俺の上に登ってくる。・・・あれ、俺を起こしに来たんじゃないの、この子。

 

「ん、実は、時間よりちょっと早い。・・・だいたい、一回分くらい」

 

「何その具体的数値。ちょ、だから潜り込むなって・・・ああもう、ほら、もぞもぞしないっ。分かったから!」

 

上に乗る恋を逆に寝台に押し倒し、ちょっと暗いのでカーテンも開ける。

 

「・・・あ、明るいのは、恥ずかしい」

 

「寝込みを襲う子にだけは、恥ずかしいとか言われたくないよ、俺」

 

それに、お仕置きされたいといったのは恋だからな!

 

・・・

 

唐突な恋とのバトル(意味深)も無事に終わり、そのまま恋につれられて城の中庭までやってきた。

今日の中庭はいつもとは違い、訓練や見回りをする兵士達の姿は見えない。代わりに、自動人形が中庭に置いてある卓の間を忙しそうに歩き回っている。

規則正しく並べられた卓の上には、大量の料理と、暗くなった後のための灯りが用意されている。一応椅子も置いてあるが、大体毎年落ち着いて座って食べるのは一部だ。

他の子たちは話したり遊んでたりと、特別な今日を祝う。

一段高く設置された席には、本日の主役がいつもとは違う服を着て着飾っている。・・・んまぁ、自分の娘とはいう贔屓目無しでも可愛いと言えるだろう。うん、可愛い。

親譲りの軽くウェーブの掛かった髪を揺らしてこちらに振り向き、俺に気付くと月に窘められるのも聞かずにぶんぶんと大きな手を振っている。

 

「お父様ーっ。菫はこちらですよーっ」

 

「ああ、分かってるよー」

 

俺も手を振り替えして、恋と一緒に菫の元へと向かう。近くまで寄ると、我慢できなくなったのか、菫は立ち上がってこちらに飛び込んでくる。

月と恋の驚く顔を横目に、内心俺もびっくりしながら難なくキャッチ。この程度の突発的ハグごとき、この俺が対応できないとでも思ったか!

 

「っとと。危ないだろ、菫。幾らめでたい日だからって、何でも許されるわけじゃないからなー?」

 

「ふふっ、ごめんなさい。今日はとても嬉しい日ですので、つい」

 

「・・・まぁ、許すけどな。ほら、ちゃんと座ってなさいって」

 

今日の菫の格好は、白いドレスである。・・・これは苦労した。一刀に図面起こしてもらっても、服屋がかなりの複雑さに頭を悩ませるレベルだった。

メイド服のときの職人をもう一度招集して、三日三晩の喧々諤々の会議によって、漸く満足行くものが出来たのだ。そして、それから試作品を何度も重ねて、ついに完成したのが、この菫が着ているドレスなのである。

・・・だから、あんまり汚すなよ? なんと言うか、携わっていた一人として微妙な気持ちになるから。

 

「・・・しっかし、ここまでやることは無かったんじゃないのか?」

 

「え? ・・・でも、私のときもこんな感じでしたよね?」

 

俺の呟きに答えたのは、不思議そうな顔をする月だ。・・・うん、確かにそうだったかもしれないけど。

ぐるりと視線を移してみると、菫の席の近くに鎮座しているのは巨大なケーキ。・・・これは、製作朱里雛里という蜀のお菓子職人・・・じゃなくて、二大軍師によって作成されたものだ。

重ねるのが大変だったらしい。

 

「・・・あれ、重ねる必要あるか?」

 

「? 朱里さんが言うには、『場所の節約のため』らしいですけど」

 

「・・・なるほど」

 

それなら納得せざるを得ないだろう。・・・あ、まだ気になるところある。

何で白いドレスを菫が着てるの? いや、もちろん作ったのは俺達サイドなんだけど、何でこういう服を着たいと言い出したんだろうか。

白いしトレーン付いてるし、何故かグローブとベールも作らされたし。・・・あれ、なんか聞いたことあるドレスな気が・・・。

 

「・・・なんで菫あのドレス着たいって言ったんだっけ」

 

「? 菫が言うには、『大人っぽい服』をキャスターさんに聞いたら『どれす』というのがあると教えられたかららしいですが・・・」

 

「・・・なるほど。あ、腕のとかは・・・」

 

「もう春ですからねぇ。あの子も、日焼けを気にする年頃になったんじゃないですか? 『どれす』は袖が無いもので完成しちゃいましたから」

 

「・・・そ、そうか。・・・うん、そうなんだな・・・?」

 

ちょっと自分が言いくるめられてるっぽい空気を感じてきたが、まぁ、うん、納得できる理由ではある。

ベールも同じ理由なんだろうか。日焼け対策的な。・・・うん、そうだよな。この時代に『あの』ドレスの文化ないもんな。・・・あれ、いや、ローマと年代被ってるぞ、三国志の時代って、確か。

い、いやいやいや、まだだ! まだ決め付けるには早いぞ!

 

「そういえばあそこにある花束は・・・」

 

「? ああ、環ちゃんが作ってくれたみたいです。お祝いだからって。嬉しいことですねぇ」

 

「・・・そ、う、だな? ・・・そう、だよな?」

 

他意はないんだよな? 環からのプレゼント、ってだけだよな?

 

「あ、俺もプレゼント聞いたんだけど、『お母さんの宝物と一緒がいい』って言ってたんだよな。月、大切にしてるものとかってあるのか?」

 

「? もちろんありますけど・・・。あっ。・・・そうですね、ギルさんからいただいた、とても大切なものが一つ、ありますね」

 

そう言って、自身の指を・・・もっと断定すると、そこに付けられている装飾具を撫でる月。

・・・なんだか胃痛がしてきた。・・・え、それプレゼントしろって? 『結婚指輪』を!?

 

「ちょ、ちょっと待て。・・・最後に一つ、確認したいことがある」

 

「はい、なんでもどうぞ、ギルさん」

 

「・・・今日のは、菫の『誕生日会』で間違ってないよな?」

 

「はい、もちろん。菫の『誕生日会』で間違ってないですよ?」

 

きょとん、とした顔の月と、数秒見つめあう。・・・すぐに顔を赤くして逸らしてしまったが。

可愛い。・・・じゃなくて! そうだよね、『誕生日会』だよね!?

毎年この規模で全娘分やると大変だから数年に一度『大誕生日会』として規模の大きいもの開催しててそれが今日だけど・・・間違ってないよね!?

どう考えても結婚式なんだけどどうなってんのこれ! パーティー会場にキャンドルあるしウェディングケーキあるし菫はウェディングドレス着てるし!

挙句の果てに指輪要求されたんだけど! 求婚しろと!?

 

「・・・バックレようかな」

 

「どうしたんですか、突然。毎年の娘の祝の日ですよ? ・・・こういう日だけは壱与さんですら祝ってくださいますのに」

 

「いやいや、だって、ほら、おかしいでしょう!?」

 

「おかしいのはギルさんですよ・・・? お疲れでしたら、少し休まれますか?」

 

「・・・いや、いい。病んでる人扱いは非常に不本意だが、調子が悪いわけじゃないから」

 

ありがとな、とだけ伝えて、月の頭をくしゃりと撫でる。これで恥ずかしがるあたり、お母さんになっても月は月だなと安心するところでもある。

 

「はーい! そろそろ時間だよー! 皆、席に座ってー!」

 

ある程度立ち直り、普通に参加できそうなほどには回復したのを見計らうように、地和の声が響く。

これは、拡声の妖術を使って自分の声を大きくするといういつものライブ方式の技法である。

手には一応マイクっぽいものを持っているが、これは地和が妖術を調整したりしやすくするための、魔術礼装みたいなものである。

 

「じゃあ、これから菫ちゃんの『大誕生日会』! 開催するからねー!」

 

将と、その子供と、更に一部の招待客。それらを全てあわせて三桁を突破する人数が、歓声を上げる。

大きい声だが、不快ではない。それほど、菫の誕生日を祝ってくれる人間がいるということだからだ。

 

「早速だけど、開会の挨拶と行こうかなっ。はいギル、一言どうぞ!」

 

そう言って、地和は俺にマイクをパスする。・・・これ、俺でも妖術使えるの?

地和に視線で聞いてみると、何度も頷いているので、問題ないんだろう。後で術式聞いておこう。

 

「ん、あー。・・・よし。・・・えー、本日はよく集まってくれた。自分の娘ながら、今年もこうして誕生日を祝えたことを嬉しく思う。・・・さ、あんまり長く語っても我慢できない子いるみたいだし、このあたりで。・・・菫、おめでとう」

 

「・・・ありがとうございます、お父様」

 

再び起きた歓声の中、地和にマイクを返す。それを難なくキャッチした地和がこちらにウィンクを飛ばしてから、サムズアップ。『よくやった』と言うことだろう。

それから、参加客のほうへ向き直り、口を開く。

 

「じゃあ、『大誕生日会』開催します! 食べてもよし、遊んで良し、話しても良し! ・・・でも、ちゃんとお祝いの気持ちは持つこと! それじゃ、どうぞ!」

 

地和の声を皮切りに、全員がざわざわと騒ぎ出す。母親に料理を取り分けてもらって食べ始める子や、早速走り出す子、お話を始める子もいる。

皆、何度もやっているうちにある程度分かってくれたのか、祝われる側へのお祝いの言葉をかけるのに、ある程度ローテーションを作ってくれているらしい。

最初にやったときは全員こちらに駆け寄ってきて大騒ぎになったからな。だから、一部の人たちが挨拶に来てくれて、それが戻ったらまた別のグループ、とある程度順番を決めているようだ。

最初に来るのは、大体祝われる子に一番親しい子。つまり、菫を祝いに来る一番手は・・・。

 

「・・・おめでと、菫」

 

詠に連れられやってきた、環である。

少しそっぽを向きながらではあるが、言葉はきちんと祝いの言葉を紡いでいる。

 

「ありがと、環ちゃんっ。えへへ、今年も一番に来てくれて、嬉しいな!」

 

「っ、ま、まぁ、その、と、友達、だから」

 

「親友、でしょ?」

 

「うひぇっ!? そ、そう思ってくれてるの・・・?」

 

「もちろんだよ! 雪蓮さんと冥琳さんの絆にも負けないと思ってるもん!」

 

「・・・えへへ、それは、嬉しいわ」

 

あたふたとしながら菫と話す環を微笑ましく見つめながら、詠と月も話を始める。

その中に俺も混ざったり、たまに菫たちから話を振られたりしていると、環達が名残惜しそうに去っていく。話をする時間もある程度決めているのだ。・・・まぁ、それでも夜まで掛かるから灯りを用意してるんだけど。

それから、菫の元に来た子達と話したり、菫自身が他のグループのテーブルに行ったり好きに動いているのを見ながら、俺と月はちょっと離れたところにテーブルと椅子を出し、二人で座っていた。

ちなみにトレーンは取り外して宝物庫に入れた。動きづらいらしい。そりゃそうだ。

 

「・・・今年も、開けましたね」

 

「だなぁ」

 

「菫の誕生日も、他の子の誕生日も・・・毎年祝えるのがとても楽しくて、嬉しいです」

 

「俺もだよ。・・・今年は『大誕生日会』何人いたっけ?」

 

「んと、睡蓮ちゃんと、百合ちゃん、瑠璃ちゃん、扇ちゃん、だったと思います」

 

「あー、そのあたりの年かー」

 

大体同じ年に生まれた子が、同じ年に『大誕生日会』を開くので、同世代かどうかが分かりやすいな。

月もシャオも、紫苑たちも、大体同じ時期に出産してたからな。・・・あれ、ちょっと菫が早かったか?

 

「準備も大変ですし、開催中も侍女隊はてんやわんや。お片づけに二日掛かるなんてザラ、で負担も凄いですけど・・・」

 

ぎゅ、と俺の手を月が握る。恥ずかしくてこちらを見れないのか、正面の会場を見つめたまま、頬を赤く染めながら、しかしはっきりと言い切る。

 

「お祝いしてあげると喜ぶ、ってだけで、やる気でますよね。親としての本能なんでしょうか」

 

「なのかもな。・・・まぁ、こうして祝って欲しいって言うのももう少しのことだろうしなぁ。もっと年齢重ねたら、多分恥ずかしいって言い出すぞ」

 

「ふふ。かもしれませんね。明里ちゃんとか碧里ちゃんなんか、毎回はわあわ言ってますから」

 

あの子達は恥ずかしがりやだからなぁ。本人達の強い希望で、余り規模を大きくせず、二人一緒に祝うこと、で納得はしてるけど。

・・・まぁ、こうして規模が大きくなるのは何も俺や月、菫が目立ちたいから、というわけではもちろん無い。

『祝いたい』と言う人たちが、街の人も含めて大量に殺到するからなのである。他の邑の長も長旅してまで来る場合もあるし。

だから街の人たちも祭りを開いてお祝いしてくれるわけだし・・・。皆に愛されてるなぁ、菫は。父親として嬉しい限りである。

 

「・・・あ、そういえば」

 

「ん? どした?」

 

「贈り物、もしかしたら必要ないかもしれませんね」

 

再び、薬指の指輪を撫でる月が、嬉しそうに呟く。

 

「『私の宝物(家族の絆)』は、もう菫も持ってるみたいですから」

 

そう言って、月ははにかんだ。・・・ああ、『宝物』って、そういうこと。

これは、まぁ、してやられたというべきか。

 

「・・・何処から気付いてた?」

 

「んと、最初からです」

 

・・・




「ん? ・・・おい、菫はなんであの花束投げようとしてるんだ?」「? さぁ。・・・あれ、こっちに飛んできますね。わっ、と、取っちゃいました!」「・・・いやいや、ブーケトス受け取るにはちょっと遅かったんじゃないかなー。既婚者がブーケ受け取るとどうなるんだろ」「『ぶーけとす』ですか?」「・・・いや、なんでもない。兎に角、大事に取っときなよ」「・・・そうします。菫からの贈り物ですからね」


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