真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「アイドルとお茶会・・・ひらめいた!」「通報しといたぞ」「何処に!? っていうかひらめいただけだよ!?」「俺も通報しておいた」「だから何処にさ!」「知らないのか一刀。とある場所では、『ひらめいた』と言うと通報されるんだぞ」「世紀末過ぎるだろ・・・」


それでは、どうぞ。


第八十一話 アイドルの娘の才能とお茶会に

「はーい、いち、にー、にー、にー、さん、にー・・・そこ、動きずれてるっ」

 

「はいっ!」

 

「笑顔は忘れちゃダメだよー?」

 

「はいっ!」

 

「・・・こっちは休憩。ちゃんと水分補給。あ、それしつつ他の組の練習ちゃんと見てね?」

 

「分かりましたっ!」

 

ある日の午後、太陽の照りつける中で、汗を流す数十人の女性達。

全員地味な、動きやすい格好で・・・大雑把に言うと、ジャージっぽい服装で掛け声にあわせてステップを踏んだりしていた。

それを指導しているのは、三人。『元』アイドル、天和、地和、人和の三人である。・・・うん、『元』なんだ。すまない。

いや、謝ることじゃないんだけどさ。流石に出産した後にアイドルに戻るのは難しいだろうと言うことで、三人は引退を決意。

それからはこうして、自分達の後輩を育てることが彼女達の仕事だ。今までの知識や経験を、彼女達に叩き込んでいる。

・・・あ、ちなみにこの『アイドル候補生』たちは志願もあるが、侍女隊からも幾人か編入してきている。まぁ、ここは機動部隊の広報隊だし、侍女隊から何人か編入しても問題は無いだろう。

機動部隊の中で、侍女隊がアイドル達のライブ衣装を作ったりだとか、遊撃隊がライブ会場を建設したりだとか、それぞれ助け合ったりしているのだ。

 

「ギルが来てるからって緊張したりしないのよっ。足が乱れてるっ!」

 

「は、はいっ!」

 

「おー、揺れてる・・・」

 

「ギル後で殴るからねっ!」

 

「お、おう!?」

 

ぼそりと呟いた一言だったのだが、地和は聞いていたらしい。後で殴る宣言をされてしまった。

・・・うぅむ、『子供を妊娠すれば胸が大きくなる』と言う言葉を信じていた地和の胸は、まぁ、お察しの通り全く変わっていない。

人和にかなりの差をつけられているほどだ。だがそれで良い。・・・まぁ、そんなこともあってか、地和に対しての胸ネタは前よりも地雷である。

 

「ちぃ姉さんが殴ったら私が慰めてあげられるから、それはそれで役得」

 

「人和無表情で怖いこと言わないでくれるか・・・?」

 

「あ、ずるーい! お姉ちゃんがギルのことちゃんと慰めるもん! 上も下も!」

 

「忘れてるかもしれないけど、お前らアイドルだったんだぞ・・・?」

 

容赦なくギリギリのネタをぶっこんで来る元アイドル達にため息をつく。

その部下である広報隊の女の子達は苦笑いするだけだし・・・。

 

「あ、そういえばそろそろ天衣たちが来る頃だねー」

 

「そうだったわね。・・・時間もいいところだし、ギルぶん殴る時間も欲しいから、そろそろお仕舞いにする?」

 

「そうね。・・・うん、そろそろそうしましょう」

 

三人から解散を告げられ、広報隊の面々が片づけを始めると、こちらに駆けてくる影が見える。

お、アレは・・・。

 

「戻ったよー!」

 

「あ、天衣たちだー。お帰りー。楽しかった?」

 

「楽しかった! あ、パパだー!」

 

「おっとと」

 

天和に迎えられた天衣が、俺に気付いて飛び込んでくる。

その後ろに続くのは、一色と喜和だ。それぞれ、地和と人和の娘である。

・・・ちなみに、この子達は俺のことを『パパ』と呼ぶ。何でそんな呼び方するかと言うと、『他の子たちと違う呼び方をしたい』と言う三人の希望で色々と考えた結果である。

パパ、なんて言葉、この時代のこの大陸ではこの三人しか呼ばないだろう。ちなみに、俺がそう呼ばれるたびに俺だけではなく一刀や甲賀と言った『現代組』はむず痒い思いをしている。

 

「パパさん、ちぃママのこと怒らせたの? ・・・『はんにゃ』みたいな顔してる」

 

「してないわよ!」

 

「例えそうじゃないとしても、『あいどる』としてしちゃいけない顔してるよ、ちぃママ・・・」

 

くわ、と自分の娘・・・一色を睨みつける地和。・・・まだまだ子供だなぁ。え、あ、違うよ? 精神が、だよ? 

・・・何で今、地和は俺を睨んでいるのだろうか。モノローグまで聞かれては堪らんぞ。

そんなこんなで内心で言い訳を続けていると、呆れたのか本当に心まで読んでいたのか、ふぅ、と短く息を吐いて地和が視線を逸らす。・・・生きた心地がしなかったぞ。

地和の使う妖術は魔術とは系統が違うものの、位の高いものだと神秘を内包したりする。しかも、『魔術亜種』とでも言うべきものなので、『対魔術』で弾けないときがあるのだ。

これの似たものとしては、卑弥呼の使う魔術とは違う体系の、『鬼道』だろうか。

 

「でも、まぁ・・・その、殴るのはナシにしといてあげるわ。ちぃの優しさに感謝しなさい!」

 

「ちぃママの優しさって詠さんみたいな優しさだよね、パパさん」

 

「だよな。不器用って言うか、勢いだけで発言してちょっと恥ずかしがるところとか」

 

つんと顔を背ける地和を他所に、俺と一色は顔を寄せ合って耳打ちし合う。

 

「我が母親ながら、流石『あいどる』だなーって思うよ、いーちゃんは」

 

「なんていうか、愛される性格してるよなー」

 

「だよねー。流石いーちゃんのママだよー」

 

そうして二人でしゃがみながらこそこそ話していると、影が差してきてふっと暗くなる。

あれ、と一色と顔を突き合わせて首を捻りつつ、影が差してきた方へ顔を向け・・・。

 

「あ」

 

「お」

 

――般若を見た。

 

・・・

 

「ギルぅー、生きてるー?」

 

「生きてるー」

 

上に一色を乗せながら、仰向けに倒れる俺に、天和が覗き込むように声を掛けてくる。

天衣は一色の頬をツンツンとつついているようだ。一色は白目を剥いているため反応はしていなかったが。

俺は地和から全力キックを貰っただけだが、一色は全力デコピン食らってたからな。そりゃ白目も剥く。

 

「よかったぁー。あ、こら、天衣ちゃん? いーちゃんのことツンツンしすぎたらダメでしょぉ~?」

 

「えー。じゃあパパをツンツン~」

 

「おぉう、何で俺・・・」

 

一色から俺に標的を変えた天衣が、俺の頬を突く。・・・当然痛くないし、娘のやることだからかわいいものだが。

 

「うみゅ? ・・・あふ、いーちゃん、寝てた? ・・・って、パパさん、何でお布団してるの?」

 

「あー、これには紙より薄く水溜りよりも浅い理由があるんだが・・・」

 

「それ聞かなくても良いってことだよね?」

 

俺の上で目を覚ました一色が、目を擦りながら起き上がって降りる。

それにつられる様に俺も起き上がり、背中を軽く払う。

 

「・・・パパさま。お背中はしぃが払うよ」

 

「お、おう。ありがとな、喜和」

 

人和の娘、喜和がいつの間にか背中に回りこんでおり、物静かながらしっかりとした言葉で主張してくる。

確かに背中には手が届かないから助かる。・・・静かに背後に回るのはちょっと勘弁して欲しいが。

 

「・・・ん、綺麗。終わったよ、パパさま」

 

「ありがとな、喜和。偉いぞー」

 

「あぅあぅ・・・んふー」

 

くしゃくしゃと撫でると、喜和は目を細めてはにかむ。母親と同じデザインで色違いの眼鏡が、光を反射して一瞬だけ目元を隠す。

この子は甘えん坊だからなぁ。

 

「あれ、そういえば地和は?」

 

「むこうで人和ちゃんにお説教されてるよー? ギルは兎も角、一色ちゃんまではやりすぎー、って」

 

ニコニコとそう教えてくれる天和の指差すほうに視線を向けると、確かに地和と人和がガラス越しに見えた。

地和は正座をしており、いつもよりその体躯が小さく見える。人和は、説教をしていると言っていたが、怒っていると言うよりはどちらかと言うと諭している、のほうが正しいかもしれない。

表情には呆れのほうが多く含まれており、時折ため息らしき動きを見せる人和が、ちらりとこちらを見た。眼鏡の奥に動く瞳が、少しだけ大きくなる。

 

「あ、お説教終わったみたいだねー」

 

「・・・俺たちが起きるの待ってたっぽいけどな」

 

正確に言うと俺達と言うよりは『一色が』起きるのを待っていたというべきか。

幾ら妖術でキックを食らったとはいえ、流石にサーヴァントの身。気絶まではしない。

吹き飛ばされて地面に倒れたら、続くように一色が飛んできたのでキャッチしたら、俺の上に覆いかぶさるように気絶したので寝かしていただけだ。

下手に動かすのも問題あるかと思って放って置いたのだが・・・まぁ、無事だったのでよしとしよう。

 

「おはよう、一色。ちぃ姉さんがごめんね、恥ずかしさを隠そうとする余り手が出る馬鹿で」

 

「うぐぅっ・・・ちょ、ちょっと人和、娘の前でそういう・・・」

 

「ううん! ちぃママはちゃんと手加減してくれたよっ。あ、でもパパさんにはごめんなさいするんだよ?」

 

「あぐぅっ・・・む、娘に諭されたぁ・・・」

 

「あはは~。ちーちゃんよりお姉さんだね、いーちゃんは」

 

「そうだねぇ~。天衣さまほどじゃないけど~」

 

蜂蜜に砂糖を混ぜ込んだような甘い声が二種類。一つはもちろん天和の。もう一つは娘の天衣のものだ。

だが、天衣のほうには少しだけだけれど違うものが混ざっているようだ。

一人称が『天衣さま』と言う少しだけ偉ぶった言葉使いだが、違和感が無いほどには天衣からは覇気のようなものを感じる。

菫の次くらいに俺の血を濃く継いだのか、彼女には母親譲りの桃色の髪に、金髪が混ざっている。前髪の一部とアホ毛のみだが、他の子には無い特徴でもある。

・・・俺これ程までに偉ぶったこと無いけどな・・・。

 

「・・・あの、ギル? その・・・一応、ごめん」

 

「ん? ・・・ああ、気にしてないよ。だいじょぶだいじょぶ」

 

「そ、そう? ・・・妖術の腕落ちたかしら」

 

確かめるように手を握ったり開いたりして、地和は妖術の調子を確かめているようだ。

いや、調子が悪くて通用してないから俺が気にしてないんじゃないんだって。と言うかダメージ与える気満々か。反省してねえな・・・。

 

「あ、そういえばパパ何しに来たの? 天衣さまに会いに来たの~?」

 

「ああ、まぁ、それもある。・・・ぶっちゃけるとな、暇なんだよ」

 

「お暇? じゃあじゃあ、天衣さまと街にいこー? 『でぇと』、するのっ」

 

「天衣ちゃんと行くならいーちゃんも連れてかないと不貞腐れるかも!」

 

「・・・お留守番は、嫌です」

 

俺の腕を取る天衣と、背中に乗る一色。そして、そっと裾を掴んでくる喜和の三人に、うぐ、と小さく呻く。

小さいとはいえこの子達も『広報隊』の一員なのである。天和たち母親が直接の師匠みたいなもので、天性の才能と言うべきか、『自分の可愛さ』と言うのを理解してやってる節がある。

天衣以外は無意識にやってるみたいだけど。・・・無意識にやってくる一色と喜和も中々将来が怖いが、意識してやってくる天衣は一番怖い。

おそらくだが、これを断るとうっすらと目じりに涙を溜め始めるだろう。そして、悲しそうな声で『いや、なの・・・?』とかあざといことを言ってくるに違いない。

嫌なわけじゃないが・・・これ、他の男とかにやってないよね? 完全に小悪魔だよ、この子。世が世ならサークルクラッシャーとか呼ばれる類の子だよ。しかも完全に自分に被害が及ばないように出来る稀有な才覚の持ち主だよ。

 

「・・・天和、子供達と出かけてくる」

 

「はぁい。・・・うふふ、大変だねー?」

 

天衣のことをきちんと理解できている天和は、全部お見通し、とでも言いたげに笑う。うぐぅ、これで天衣を煽ってくるんだから天衣の性格の五割は天和の所為だろう。

え? もう五割? そりゃ天和から受け継いだ才能の所為だろう。・・・あれ、天和の所為が十割になってしまった。

将来について若干の不安を抱いたりしていると、なんだか地和たちが天和親子から離れてなにやら話をしているようだ。そちらに意識を向けてみると、真剣な声色が聞こえてくる。

 

「一色、あんたは一番お姉さんなんだから、天衣が暴走し始めたら喜和と一緒に止めるのよ? 気絶までなら許可するわ」

 

「はいっ」

 

「喜和。・・・一色の言うことを良く聞いて、『殴れ』と言われたら躊躇なく天衣を殴るのよ」

 

「・・・はい」

 

「そこまでしなくとも良いだろう。天衣もちゃんと分かってるよな?」

 

「うん!」

 

俺の言葉に、天衣は元気よく頷く。そんな俺達を、ジトリとした目で見る四人。

まるで、『その言葉に信頼性など一欠片もない』と言わんばかりだ。むむ、そこまで疑われては仕方があるまい。

天衣に向き直ると、ぴっ、と指を立てて確認を始める。

 

「よし、じゃあこの前までに約束したことを言ってご覧」

 

「はい! 『町の人にお菓子をおねだりして破産させません』! 『お店の人に愛嬌を振りまいて仕事出来ないほど骨抜きにしません』! 『兵士さんたちにあざとい挨拶をしてその後の訓練に支障が出るようなことはしません』!」

 

「よろしい! 守れるよな?」

 

「うん!」

 

「ほら、大丈夫だろ?」

 

そう言って四人を振り返ると、なにやら戦慄したような顔をしてこちらを見ていた。

そして、地和と人和の二人は、慌てて自身の娘に向き直ると、一つ一つ確認するように話しかける。

 

「いい、一色。先週より一個増えてたわ。街の平和を守るためなら、ママが教えた妖術を使っていいわ」

 

「分かりました・・・! いーちゃん、頑張るよ!」

 

「喜和、貴方も天衣や一色と同じく、ギルの血を引いてる。やってやれないことは無いと思う。・・・無事を祈ってる」

 

「・・・はい。無事に、天衣ちゃんを止めます・・・」

 

なんだかあそこだけ戦場に向かうみたいな空気を感じるんだけど・・・。大丈夫か?

そんな四人を他所に、天衣は天和から身嗜みやら持ち物のチェックを受けていた。

 

「手ぬぐい持った? お水はまた汲んで持っていくんだよー? あ、お小遣い大丈夫?」

 

「手ぬぐい・・・うん、持ったー! お水もね、帰りに汲んできてるよ~。今月あんまりお買い物してないし、お小遣いも大丈夫ー」

 

「そっか~。じゃあ、安心だねぇ。パパの言うこと良く聞いて、一色お姉ちゃん達から離れないようにするんだよぉ?」

 

「分かってるよぉ。んもぅ、天衣さまも子供じゃないんだからぁ」

 

ふわふわと甘い声でお互い会話しているが、他の子たちの緊張感は高まって行くばかりのようだ。

・・・確かに小悪魔的でカリスマ半端ないけど、俺もいるんだし、大丈夫だって。

 

・・・

 

――そんな風に考えていた時期が、俺にもありました。

やばい。何がやばいって俺と天衣が一緒に歩くとカリスマがやばい。

初めて知ったんだけど、天衣と歩くと俺のスキル『カリスマ』が切れなくなるらしい。

押さえることは出来るけど、それでも天衣のと合わせてかなり空気が変わってしまうようだ。

それなりに耐性のある武将クラスならば問題ないみたいだが、街の人たちは『カリスマ』に慣れてないからか、全開切り忘れたときのように、影響されてしまっているようだ。

 

「ギルさま! 天衣さま! こちら貢物でございます!」

 

「ウチの商品を全て持って行ってください!」

 

「今日の訓練は全て中止! ギル様と天衣様を護衛せよ!」

 

「寄らば斬るぞ! どけどけ! ギル様と天衣様が通るぞ!」

 

「天衣さまー! きゃー! こっちむいてー!」

 

わらわらと人の壁。ある一定の距離から決して近づかないが、それでもかなり進行の邪魔にはなっている。

『貢物』として置いていかれていく店の商品やら何やらが、うず高く積まれていくからだ。

 

「・・・あれ、俺天衣と歩くの初めてだけど、いつもこんなのなの?」

 

「知らなかったの? ・・・でも、いつもはもうちょっと大人しいよ。挨拶した兵士さんとか、お店の人だけだもん。物くれるのは」

 

「・・・自主的に全て捧げてくるのは、今回が初めて。・・・多分、パパさまの所為」

 

「そ、そうかー。・・・帰ろうか」

 

この状況はまずい。さっきから自動人形フル稼働で店の商品やらなんやらを元の持ち主の下へ戻してはいるが、それをまた持ってくるという無限ループに陥っている。

自動人形からも、思念でシンプルに『ウザイ』と送られてきているので、相当ご立腹のようだ。

だが、俺の言葉に異を唱える人物が一人。

 

「え? やだよー。だって天衣さま、パパとの『でぇと』初めてなんだもん! ・・・天衣さまね、今日はまだ帰りたくないなぁ・・・」

 

喧騒の中、天衣だけがマイペースに振舞っている。

って言うか、後半の台詞は場所が場所なら桃色のホテルに直行の台詞である。まだ君には早いぞ。

だがまぁ、確かに出かけてまだ一時間も経っていない。これで城に帰るのはなぁ・・・。

 

「・・・ふむ、ならば俺の父としての威厳も見せておくか」

 

「? パパ、何するのー?」

 

「天衣の無力化、って所かな」

 

不思議そうにこちらを見上げる天衣たちに、苦笑いしながら答える。

・・・不幸の日がある詠には、サーヴァントの中でも随一の幸運値を持つ俺がいることで打ち消せた。

不幸には幸運を、と言う対極のもので打ち消すという方法だが、もう一つ、能力の影響を打ち消すことが出来る方法がある。

それは・・・『もっと強いもので上書きする』というものだ。

 

「――落ち着け」

 

全力も全力。カリスマを一片たりとも抑えることなく周辺に叩きつける。

判定次第では敵をも従わせられるという超級の『カリスマ』が、町民たちの頭を冷ましていく。

 

「・・・あ、あれ? 何で俺達こんなところに・・・。はっ! お、おい! 巡回の経路から外れてるぞ!」

 

「っ! ぜ、全隊員は持ち場に戻れー!」

 

「あら大変! 店番放って来ちゃったわ! 戻らないと!」

 

我に返った人々が、それぞれ自分達の生活に戻っていく。その様子を、天衣と一色が驚いた表情で見ながらぼそりと口を開く。

 

「・・・うわ、すご。流石天衣さまのパパ」

 

「ふわー・・・パパさん、凄い! ちぃママにもそうすれば殴られないのに!」

 

「・・・パパさま、ばんざーい。パパさま、ばんざーい」

 

「あ、やべ、喜和にカリスマが変な方向にきまってる」

 

目がグルグルと回っているように見える喜和を、ぽふぽふと軽く叩いて目を覚まさせる。

感受性が強いのだろうか。こういう精神系スキルを、良くも悪くも受けやすいということだろう。

後である程度耐性を持てるような道具を貸すとしよう。

ずっと壊れた機械のように同じ言葉をリピートしていた喜和が、目をぱちくりとさせて首を傾げる。

 

「・・・っは。あ、あれ。しぃは何を・・・」

 

「よし、これで全員戻ったな」

 

「パパーっ。凄いすごいっ。あのね、天衣さまこんなに静かな街をみるの初めて!」

 

「静か・・・これでも賑わってるほうだと思うんだが、まぁ、天衣が今まで歩いてた時よりは静かだろうな・・・」

 

周りを囲まれてあれもこれもと貢がれながら街を歩くよりは、この普通の街の状況が静かに思えても仕方がないだろう。

ゲームセンターでしばらく遊んだ後に外に出ても、車の音が五月蝿く聞こえないように。麻痺してるんだろうな。

 

「あのね、天衣さま、パパのこと好きだったけど、もーっと好きになっちゃった!」

 

「はっはっは、そうだろうそうだろう」

 

首に手を回して抱きついてくる天衣を抱きかかえつつ、よしよしと撫でる。

満足するまで撫でてやってから降ろし、よし、と手を叩く。

 

「それじゃ、今度こそお買い物・・・じゃなくて、『デート』だったな。『デート』、再開しようか!」

 

「はーいっ!」

 

「・・・みて、あれ。天衣ちゃんの目が・・・」

 

「あぁ・・・しぃ、ああいう目する人知ってます。お酒に酔ったときの紫苑さんか、パパさまに踏まれてるときの壱与さんがあんな目してます」

 

・・・

 

天衣たちとのお出かけはとても順調に終わった。小物を見て回り、服を何着か試着してみて、気に入った小物や服はある程度なら買ってあげたりもした。

そして、城に帰ってきたのだが、その際に俺にコアラのように抱きついてきて、何故かいつもより別れを嫌がる天衣。それを一色と喜和に手伝ってもらって引っぺがし、天和たちに娘を返した。

これから練習をするとのことなので、それが嫌だったのかなぁ。でも天衣って自分の魅力を磨くことに関しては前向きだからなぁ。ダンスも歌も、ビジュアルに関しても努力は惜しまない子だし。今まで練習を嫌がることはなかったし。

 

「あら? お父さまじゃありませんの」

 

「ん? あ、麗奈。卯未に詩織もいるのか」

 

「おっすー、親父殿!」

 

「卯未、お父さんにはちゃんと挨拶をしないと、だよ? こんにちわ、お父さん」

 

一人悩んでいると、別の娘達から声を掛けられる。麗羽、猪々子、斗詩との子たちだ。

 

「・・・ふむ、わたくしが推測するに・・・何か悩んでらっしゃいますわね!」

 

「む、良く分かったな、麗奈」

 

「当然です! お父さまのことは、わたくし、一目見ただけで分かるんです!」

 

ドヤ顔をしながら胸を張る麗奈の頭を撫でてやる。アレかな、身内だからそういう微妙な変化にも気付くのかな。

 

「・・・いやいや、さっきあたいらと一緒にずっと見てたからじゃん。・・・そりゃ分かるよ」

 

「しっ。麗奈ちゃんはお父さんにいいところ見せたいんだよっ」

 

「このわたくしがお話を聞いてあげましょう。さ、こんなところではなんですし、ええと、その、わたくしのお部屋とかに・・・」

 

ぽ、と頬を朱色に染めて、麗奈はそう提案してくる。・・・うぅむ、しかし、娘に悩みを聞いてもらうというのは・・・しかも悩みも娘に関してだし。

・・・でもまぁ、悩みって程でもないんだよな。さっきの天衣の妙な態度についてちょっと考えてただけだからなぁ。・・・だが、麗奈がこうして少しでも俺の負担を軽くしてやろうと思ってくれているのは嬉しい。

そんな俺の様子を見かねたのか、詩織がぼそっと耳打ちしてくれる。

 

「あの、深く考えず、適当に麗奈ちゃんに話を合わせてお茶を飲むくらいでいいと思います」

 

「そーだぜー。あ、あたいもお茶飲みたいから、一緒に行こうぜ、親父殿っ」

 

そう言って、卯未も詩織と反対側に回って耳打ちしてくる。そのまま俺の腕を取り、ぐい、と引っ張る。

 

「あっ、あなた達っ。何処へ行くんですのっ!」

 

「麗奈の部屋だろー? 早く行こうぜー」

 

「卯未たちが来る必要はありませんわっ。お父さまはわたくしがきっちりと歓待します! お母さまに教わった、『めいどの極意』を今こそ使うときですわ!」

 

「えー。麗奈だけ親父殿独占とか、母さんじゃないんだからさー」

 

「そうだよぉ。ウチのお母さんも、お父さんに会うと私たちほっぽってイチャイチャするんだもん。・・・今なら、邪魔なお母さん達もいないし」

 

詩織も、卯未とは逆の手を取り、麗奈の部屋へと連れて行こうとする。・・・あれ、いつ麗奈の部屋に行くって言ったっけ・・・?

と言うか、麗奈の部屋と言うことは麗羽の部屋でもあるんだし、行けば行ったで麗羽たちも混ざって詩織の言う『邪魔』が入ると思うんだが。

そこまで頭が回ってないんだなぁ、と微笑ましく思う。

 

「まぁまぁ。別に部屋じゃなくても茶は飲めるだろ? あっちに厨房あるし、最初の目的地はそこだな」

 

「むぅ・・・まぁ、別に個室でなくても問題はないですわね。・・・ええ、行きましょうか」

 

「あ、親父殿、厨房ってことはお菓子あるかなー」

 

「あるだろ、多分。なければ作ればいいしね」

 

「ごま団子! 前に亞莎さんに作り方を教えてもらったので、お父さんにも作ってあげたいです!」

 

「あー、ごま団子なー。いいかもなー」

 

確か材料もあったはずだし。それに、厨房なら流流とか料理関係の武将がいても不思議ではない。

・・・『料理関係の武将』と言う不思議ワードを違和感なく思い浮かべてしまうあたり、流流たちの特殊性が分かるな。

 

・・・

 

「あ、とーさま」

 

「ん? おお、漣じゃないか。流流は? 一緒じゃないのか?」

 

「ん、かーさまはエビかカニ取りに行った。・・・あ、海にじゃないよ?」

 

「いや、流石にそれは分かる」

 

きょとんとした顔で、『そーお?』と小首を傾げる。

 

「あ、そういえば衣鶴は? こういうときは季衣と一緒にいそうなもんだけど」

 

「鶴ちゃんはかーさまについてったよ。私はお鍋みてたりできるけど、鶴ちゃんは食べちゃいそうだし」

 

・・・えーと、そういえば言って無いかと思うけど・・・季衣と俺の子が衣鶴である。え、いつの間にって? ・・・それは、ほら、菫が生まれてから数年あったわけだし。ね?

ちなみに妊娠してから季衣は少しだけ胸が大きくなったそうだ。鈴々にドヤ顔で自慢して、鈴々だけではなく流流からも叩かれていたので、今のところ季衣は鈴々と流流よりは胸が大きいらしい。

 

「そういえば麗奈さんたちもお昼? ・・・って、ちょっと過ぎてるよね。あ、これは晩御飯の下拵えだから、食べられないよ?」

 

俺の後ろにいた麗奈たちを見て、それから煮込んでいる鍋を隠すように立つ漣。

 

「いやいや、ちゃんとお昼は食べたって。親父殿と一緒にお話でもしよっかってお茶飲みに来ただけだから」

 

「お茶・・・東屋でも行って侍女隊に頼めばいいのに。・・・あ、もしそうするときはとーさま置いてってね」

 

「それでは意味がありませんわ! お父さまを独せ・・・ごっほん! お父さまのお悩みを聞くためにわたくしたちはいるのですから!」

 

「・・・へぇ。あ、そういえば冷たいお茶は作り置きがあるよ。ま、座って座って」

 

そう言って、漣は俺の手を引いて席に座らせる。

 

「麗奈さんたちも。お茶と・・・あ、お茶菓子あった気がする。ちょっと待っててね」

 

「あら、なら私がお鍋見ておきますよ」

 

「本当ですか? 詩織さんなら信用できますね。お願いします」

 

腰を折って丁寧に礼をして、漣は厨房に隣接している食料庫に向かった。

麗奈と卯未は俺の隣に座り、詩織は受け取ったおたまで鍋をかき混ぜたり、火を見たりして焦がさないように見張っている。

 

「いやー、詩織は偉いよなー。あたいは真似できないよ、あんな面倒そうな作業はさー」

 

「面倒と言ってはいけませんわね、卯未。将来的に、料理が出来ることに越したことはありませんわ。・・・お父さまも、料理の出来る女性のほうが良いですわよね?」

 

「ん? まぁ、出来たほうが良いとは思うけど、出来ないからって嫌いにはならないさ」

 

「そうだよなー。じゃなきゃ、愛紗さんとかそっこーフラれちゃうからなー」

 

「おい馬鹿」

 

「っとと。今は美味しいんだけどさー。親父殿もかなり苦労したっしょ?」

 

「・・・否定はしないが」

 

今では普通に料理が出来て、子供に食べさせても問題ないほどの腕前にはなったが、そこに至るまでには相当な苦労があったのだ。

鈴々に抜かれ、璃々に抜かれ、最終的には美以にも料理の腕前で抜かれた愛紗を立ち直らせるのはかなり骨が折れた。

 

「わたくし、料理の話をしたときに、『上手な人』が挙げられる前に『下手な人』が出てくるのは不思議に思っておりましたが・・・。愛紗さんのお料理を食べた後だと、納得できますわね」

 

「あー・・・あれはホント、料理できる人総員で教えたからな・・・」

 

そのときは愛紗も覚悟済みだったとはいえ、武のほうがかなり疎かになっちゃったからな。

 

「・・・うん、もう思い返すのはやめておこう」

 

「だねー。誰も得しないよー」

 

ため息と共に、あのときの苦い記憶も一緒に吐き出す。

卯未からの苦笑いを苦笑いで返すと、とたとたと軽い足音。

 

「お待たせー。はい、とーさまにはこれ。一番上手く出来たやつ」

 

「お、ありがとう」

 

「いやー、なみーは親父殿贔屓がひでぇなぁ」

 

「え、とーさまを優先せずして何を優先するの?」

 

「ですよねー。あ、火は止めておきましたよ。後は仕上げだけだと思います」

 

「あ、ありがと」

 

かたん、と俺の対面に、漣と詩織が座る。

 

「いや、俺だけじゃなくてさ、ほら、お母さんとか」

 

「かーさまもとーさまを優先するし・・・そしたら、娘の私もとーさまを優先しないと」

 

「何その謎理論」

 

「わたくしのお母さまは侍女でお父さまのお世話をしておりますよね? でしたら、わたくしもお父さまのお世話をしませんと」

 

「だからなんなのその謎理論」

 

娘達の理論武装が理不尽なのに強力で辛い。っていうか怖い。

 

「納得できません? ・・・んーと、あ、それなら、皆お父さんのこと好きなんですよ! だから、皆優先するんです!」

 

「・・・さっきのよりはまともだけど・・・」

 

まぁ、嬉しいことだし・・・いっか。

素直に喜んでおこう。数年後には、反抗期とかでそんな台詞も聞けなくなるだろうしな。

しみじみとそんなことを思いながら、目の前で喧々諤々の言い合いをする娘達を微笑ましく見守る。

 

・・・




古民家より文献 1000年以上前の『黄金』と呼ばれる人物のものか――

M県S市のとある古民家より、とある文献が見つかった。内容は欠損も酷く読み取れる部分は一部であったが、戦国時代のものであると専門家の解読により分かった。
内容は日記のようなものであるらしく、日記の筆者が日々あったことを綴っているらしい。文章や内容から、かなり高貴な人物のものではないか、と言う専門家の意見もある。
その中でも目を引くのが、何度か出てくる『黄金』のような人物の話だ。以前この特集でも取り上げたが、第二次世界大戦中、大日本帝国海軍の上空に『黄金の船』のようなものが浮かんでいることが当時の報告書に記述されていたり一人逸れたゼロ戦が、その『黄金の船』に助けられたという証言をしていたり(あまりの荒唐無稽さに、極限状態での幻覚だと判断された)と、日本には昔より『黄金』と呼ばれる何者かが人知れず存在していたのかもしれない、と一部で話題になっていた。今回の文献によって、その人物に近づけるのではないか、と編集部でもこの人物についての調査に力を入れることを決定した。

※今回の特集は、『ついに見つかったか! UMAツチノコ!』の予定でしたが、急遽内容を変更してお送りしました。





「あー・・・あの人こっそり動いてても外見が派手だからなー。そりゃ文献も残るか。・・・ま、悪いことではないですし。人の熱意というものがどれほど真実に近づけるか、神様として見てあげようじゃありませんか。・・・頑張れ、人類」


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