真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「なんていうか、ギルより決断早くて覚悟も出来るって、流石は武将だよな」「あれ、俺すげーナチュラルにディスられた? なんで?」「自分から男性に言い寄って告白できるのだ。ギルのような優柔不断ヘタレハーレム絶倫王には真似できんな」「おーい? 俺なんかしたかー?」「ギル様は本当、常に爆発してて欲しいくらいですよね」「え、俺リア充扱いなの? 不満は無いけど、常に爆発して無いといけないくらい罪深いの?」「ギルティ」「ギルティ」「ギルティ」「理不尽だ! 魔女裁判かよ!」


それでは、どうぞ。


第七十八話 あの子の覚悟に

「お疲れ様で・・・って、文ちゃんっ!?」

 

「おー、お疲れ、斗詩」

 

「あ、お疲れ様です。・・・いやいや、そうじゃなくてっ」

 

「? あ、猪々子が起きちゃうからもうちょっと静かに、な?」

 

ギルさんに言われて、慌てて自分の口を押さえる。

確かに、寝ちゃってる文ちゃんの前で騒ぎすぎたかもしれない。

・・・でも、驚いてしまった自分は悪くないはずだ。訓練を終わらせて天幕に戻ると、何時も通り書類作業をしている七乃さんたちに混ざって、ギルさんのお膝を枕に文ちゃんが寝ているなんて誰が思うだろうか。

 

「・・・どうしたんですか? そういえば途中から文ちゃんを見かけなかったですけど・・・びょ、病気、とか・・・!?」

 

「ああ、いや、そういうんじゃない。さっきまで手合わせしててさ。なんというか・・・自分の武器に頭ぶつけて気絶したんだよ」

 

「う、うわぁ・・・」

 

どういう状況でそうなったのかは分からないけど、文ちゃんったら・・・。ドジじゃすまないよ、それは。

あ、でもギルさんのことだから、文ちゃんを上手く挑発して突進させて、それを避けたらごっつんこ、とかありそう。

 

「多分、斗詩が考えてるので間違ってないよ。俺が避けて、猪々子がぶつかったんだ」

 

「う。・・・顔に出てました?」

 

苦笑しながら私の心を呼んだかのように話しかけてくるギルさんに、顔をぺたぺた触りながら答える。

うぅ、結構分かりやすい顔するのかなぁ、私。あんまり鏡見ないから分からないよぅ。

 

「はは、いや、あってたか。斗詩ともなんだかんだで付き合い長いしな。それなりに考えてることも読めるんだよ」

 

「・・・その割りに女心には鈍いんですけどねー」

 

「ですよねー。ドヤ顔出来る実績無いですよねー」

 

「おいコラそこ。何言ってるかは聞き取れなかったけど俺の悪口だろ」

 

隣り合って書類を片付けている隊長さん・・・迦具夜さんと七乃さんが、お互いになにやら耳打ちしてます。

・・・私もあんまり聞こえなかったんですけど、鈍いとか何とか聞こえた気がします。・・・私も、そこには同意です。

 

「お気になさらずー」

 

「そうですよぉ~。ご主人様は女の子のほうから言い寄られないと決心できない、にぶちんさんですもの~」

 

「よし分かった七乃ちょっと外に出ろ。久しぶりに俺が手ずから稽古をつけてやろう」

 

「遠慮しておきます~」

 

がたんと立ち上がろうとして、文ちゃんがいることを思い出したのか、ギルさんは立ち上がることを諦め、手で天幕の外を指し示します。ですが、七乃さんは立ち上がれないのを分かっているのか、のほほんとそれを受け流しました。

・・・なるほど、これが軍師の方の実力・・・! 相手の状況まで見極めて、自分に被害が及ばないと判断したのですね・・・!

 

「・・・今回は猪々子に免じてやろう」

 

「ありがとうございます~」

 

ちなみに、このやり取りの間、全員手は止まっていませんでした。・・・平行していくつも考え事が出来るのも、軍師の必須技能なのでしょう。

 

「あ、そういえば斗詩。報告書持って来てくれたんだよな?」

 

「はい。これです」

 

「ありがと。・・・あー、猪々子が起きるまで暇だろう。座って休んでなさい」

 

「え? い、いえ、私も何か、お手伝いしますよ?」

 

七乃さん程ではないとはいえ、私も文官としてある程度の経験はあります。

文ちゃんほど役に立たないということは無いと思います。

・・・ですが、ギルさんはゆっくりと頭を横に振ると、私の頭を撫で、優しい声で言い聞かせるように、休んでてくれ、命令だ、と言うのです。

うぅ、何度されても、撫でられるのには慣れないです。しかも、ギルさんに優しい声で言われると、何も逆らう気が起きないのです。

これも、ギルさんの持つといわれている、『かりすま』の力なのでしょうか・・・? それとも、惚れた弱み、とか・・・。

 

「は、はわわわっ!?」

 

「お、おう? どうした、斗詩。なんと言うか、朱里みたいになってるぞ」

 

「いえっ! 何でもないんですっ」

 

「そ、そうか? ・・・まぁ、そこまで取り乱すような悩み事があるんなら、なおさら座って休んでいってくれ。後で猪々子が起きたら、道案内お願いしたいしな」

 

「は、はいっ」

 

火照って真っ赤になっている頬を隠すように手で覆い、ギルさんのお隣に腰掛ける。丁度、文ちゃんが寝ている反対側だ。

そもそも人が寝ることを想定して作られていないこの椅子は狭く、ギルさんの隣に座るとかなり密着してしまう。ど、どうしよう。汗臭くないかな・・・?

うぅ、そういう匂いは自分じゃ分からないからなぁ。・・・きょ、今日はあんまり動かなかったし、汗はかいたけどもう拭いてるし・・・。

 

「そういえば七乃、この前の評価表どこやった?」

 

「はい? あー、隊長さんに預けたと思いますよ」

 

「うあ、そうですね。私持ってます。はい」

 

「さんきゅー」

 

テキパキと書類整理をする皆さんを横目に、文ちゃんの様子を見てみる。

すやすやと眠っているその頭には、何か袋のようなものが。触ってみるとひんやりしたので、氷か何かで冷やしているのだろう。

・・・この季節に氷? とか思うのは、この部隊に慣れていない人間だ。ギルさんの部隊にいれば、夏に氷は見れるし冬に薄着で過ごせる部屋や、それこそ冷めないお風呂なんてものも見慣れてしまう。

そういえば、何でギルさんがお膝を貸しているのだろう、とふと思った。こういうと何だけど、文ちゃん若干男嫌いだし、確かにギルさんには心を許しているのかもだけど、お、お着替えを・・・その、見られた後だ。

何でそんな状態で、と疑問に思ったが、文ちゃんの手を見て納得した。

絶対離さない、と行動で語るかのように、ぎゅうとギルさんの服を掴む文ちゃんの手。・・・なるほど、文ちゃんが離してくれないから、そのままにしてあるんですね。

上官・・・と言うか、天上人に近い存在のギルさんにそんなことをするなんて、一部の人にしか認められない特権です。・・・ギルさん本人が、拒否しないって言うのもあるんでしょうけど。

侍女隊の人とかが今の状態を見たら、どんな騒ぎになるか・・・。うぅ、麗羽さま、無事にお仕事できてますか? なんだか急に心配になってきました。

 

「んみゅ・・・」

 

「幸せそう・・・」

 

「ん? ・・・ああ、確かに幸せそうな寝顔だ」

 

ぐしぐし、とギルさんのお腹に顔をすりつけ、満足そうに笑みを浮かべて寝続ける文ちゃん。・・・まるで子供みたい、とギルさんと二人、くすくす笑う。

 

「いや、なんていうか・・・娘が大きくなったらこんな感じなんだろうか」

 

「そうかもしれませんね。・・・ふふ、可愛い」

 

そっと文ちゃんの髪を直し、寝汗を少し拭う。いつもの髪留めも外しているので、前髪がおでこにぺたりとくっ付いてしまっていたのだ。

 

「お母さん、って感じだな、斗詩は」

 

「はい。文ちゃんも、麗羽さまも、手が掛かる子供み、たい・・・はわわわわわっ!?」

 

「おお? ど、どうしたっ。さっきより慌ててないか!?」

 

ぱたぱたと手を振り、違うんです、違うんです、と何が違うのか自分でも分かってないのに否定する。

ギルさんはそんな私の様子を見て、疑問符を頭に浮かべながらも、取り敢えずは気にしないことにしてくれたようです。

 

「・・・目の前でいちゃつかれると、暑いんですけどー」

 

「冷たいものが欲しくなりますねー。あ、冷たい視線だったら送れますよー?」

 

「い、いちゃっ、いちゃついてなんて・・・!?」

 

「そうだぞ、いちゃついてるんじゃなくて、斗詩がやけに朱里っぽく・・・ん?」

 

そこまで言って、ギルさんは何を思ったのかこちらをじっと見つめてきました。

 

「ふぇ? な、なんでしょう・・・?」

 

「・・・いや」

 

真面目な顔でこちらを見て、顎をくい、と持ち上げるギルさん。

こ、これはもしやっ、世の一部の男性が女性にすると言われている、ちゅ、ちゅーの前フリ・・・!?

目とか瞑ったほうが良いんでしょうかっ! と言うか、私の気持ちに気付いて・・・!?

 

「・・・っ!」

 

ぎゅ、と目を瞑って、少しだけ口を突き出してみる。こ、これなら、気付いてくれる、かな・・・?

 

「お、おー・・・。ちょっと七乃さん、大将が鋭さを見せてますよ」

 

「ですねー。なんと言うか、俺様系を身に着けてきてますねー」

 

対面でこちらを見てひそひそお話している二人の声が、心臓の音で聞こえません。

はう、こ、ここで私、初めてを・・・!?

薄目で確認すると、ギルさんのお顔が少しずつこちらに近づいて・・・!

 

「・・・ん」

 

「ひゃうっ・・・?」

 

「あ、やっぱり熱っぽい」

 

私とギルさんのおでこが、ぴたりとくっ付きました。

・・・え?

 

「いやー、さっきから朱里っぽい朱里っぽいと思ってたんだけどさ。やっぱり熱があるみたいだな」

 

「ええっ?」

 

「朱里も、そうやって顔を赤くしてなんでもないです、って言うときは大抵熱があるときだからさ。ふふん、分かるんだよなー、俺くらいになるとさ」

 

自慢げに私の頭を撫でるギルさんを他所に、私の頭の中は疑問符で一杯でした。

あ、あれ? 私に気持ちに気付いてくれて、口付け・・・じゃなくて、私風邪ひいて熱っぽいと思われてた!? 嘘ですよね!?

 

「あー・・・七乃さん、やっぱり大将は大将でしたねー」

 

「ご主人様に鋭さを期待したのが間違いでしたね。ドヤ顔が更に残念さを醸し出してます~・・・」

 

多分朱里さんも熱っぽくて顔を赤くしてたんじゃなくて、ギルさんの前だから、好きな人の前だから緊張して真っ赤になってたんだと思います。

・・・に、鈍い・・・! 鈍すぎるっ。何でこういうときだけ鈍いの・・・!?

 

「ま、猪々子と一緒に部屋まで送るから、もうちょっとだけ我慢しててくれよ。あ、辛いなら俺の膝使っていいからな」

 

「うぅ~・・・うぅー! うーっ!」

 

「ど、どうした、斗詩。そんな辛かったか?」

 

ぼふ、とギルさんのお膝に頭を置き、先ほどの文ちゃんのように顔を埋めて唸る。

ギルさんのにぶちん、にぶちんにぶちんっ。緊張したのにぃっ。

 

「あーっと、大将? 辛いは辛いと思うんですけど、今は多分、大将の優しさが辛いと思うんで、ほっといてあげてください」

 

「そうか? ・・・まぁ、同じ女の子の隊長がそういうんだ。男に俺には分からん辛さがあるんだろうな」

 

「そうしてあげてくださいね~。・・・外堀を幾ら埋めても、そもそもご主人様は城と一緒に空を飛んでいるような人ですからねー」

 

「正攻法じゃ攻略できませんか、やっぱり・・・」

 

「・・・後で、一応声は掛けておきますねー」

 

「お願いします。なんと言うか、これ以上不憫な状態は見てられないです・・・」

 

私と文ちゃん。二人でギルさんのお膝を占拠していると言うなんとも謎な状態で、その日の訓練は終わっていくのでした。

 

・・・

 

「・・・あーっと、機嫌は直ったか、猪々子」

 

「べっつにぃー? 機嫌悪くなってねーし」

 

「悪かったって。まさかコブが出来るほどだとは」

 

訓練からの帰り道。

先ほどの約束どおり、ギルさんは私と文ちゃんを送り届けるため、城の通路を三人並んで歩いていました。

ギルさんを真ん中にして、両隣が私たち。いつもその場所は麗羽さまだったので、なんだか新鮮です。

文ちゃんが怒っているのは、頭頂部近くに出来た小さなコブ。触るとまだ痛いらしく、冷やしたとはいえまだ治るには時間が掛かると思います。

ぷく、と頬を膨らませて、怒っています、と表情で表している文ちゃんに、先ほどからギルさんは右往左往しています。・・・ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、ざまーみろ、って思います。

私の純情を弄んだ罰なんです、きっと。・・・そうじゃないと、溜飲が下がりませんっ。

 

「今度何か奢るからさ」

 

「・・・大通りの限定十個の肉まん。全部買い占めれる?」

 

「もちろん。その日だけ限定させないで作り続けさせることも可能だ」

 

そこまではしないけど、と呟くギルさんに、少しだけ笑う。今は赤ちゃんだけど、菫ちゃんが大きくなったら何でも買ってあげそうだなぁ、と思う。

それだけ子煩悩っぽさが溢れているのだ。

 

「あー、斗詩にも迷惑かけたし、斗詩もなんかあるか? ・・・その、覗きのお詫びも含めて、な」

 

「私ですか? ・・・んー、お部屋に着いたら言いますねっ」

 

「・・・お手柔らかにな?」

 

「どうでしょう?」

 

こてん、とあざとい位に首を傾げてみる。私の覚悟が、ギルさんの鈍さの壁を突破できるか・・・その勝負です。

心の中で何度も自分を奮い起こしていると、私たちの部屋が見えてきました。ギルさんの部隊に配属されてから与えられた部屋で、まだ住んで時間も経っていないので、綺麗なままの部屋。

その扉の前で立ち止まったギルさんが、私に視線を向けてくる。

 

「それで・・・斗詩はどうするんだ?」

 

「この際だし、あたいよりえげつないの頼んじゃえよ」

 

にししっ、と笑う文ちゃんに、えげつないかもなぁ、と自分が口に出す言葉を反芻しながら思う。

よし、覚悟は決まった。文ちゃんも巻き込むかもだけど、嫌がりはしないだろうし。

 

「あの、ギルさんっ!」

 

「おう」

 

「抱いてくださいっ!」

 

「おう! ・・・おう?」

 

さっきから、同じような返事しかしないギルさんが、戸惑ったように文ちゃんに視線を送る。

その視線を受け取った文ちゃんが、ぶんぶんと首を振って否定する。「あたいが言えって言ったんじゃない」と目で訴えているのだろう。

 

「・・・えーっと、それはその、抱きしめるとかって意味じゃなくて・・・」

 

「好きですっ! 性的な意味で抱いてくださいっ!」

 

「ごめん訂正しろって意味じゃないんだこんなところで叫ばないでくれっ!」

 

早口にまくし立てたギルさんと文ちゃんが、それぞれ私の口を押さえました。

もごもご、とその後に続けようとした言葉が意味を持たないくぐもった音として発されます。

 

「と、斗詩、もしかして酔ってるのか?」

 

「ううん、私、本気だよ。本気で、その・・・好きなの」

 

「あー、うー。・・・なんか、フクザツ」

 

ぼそり、と文ちゃんが呟く。・・・私のことが好きって公言してた文ちゃんだけに、心情は確かに複雑なのだろう。

・・・でも、『複雑』だと思うのは、心のどこかでギルさんが好きな気持ちもあるって事だ。じゃなきゃ、『複雑』な心境にはならないだろう。

いつもの文ちゃんみたいに、男の人を排除してはい終わり、といかないのが、その証拠だ。

 

「・・・ね。二人一緒なら、怖くないよ?」

 

「こ、怖いとかじゃなくて・・・斗詩は、良いのかよ」

 

「何が?」

 

「その・・・あたいと一緒で」

 

「一緒だと、嬉しいな。・・・だめ?」

 

にこ、と出来る限り優しく笑って、聞いてみる。ぽりぽりと赤くなった頬を掻く文ちゃんが、俯いて、ダメじゃない、と呟くように言った。

 

「・・・と言うことで、ギルさん。私たち二人を、お願いしますっ」

 

「・・・えと、よろしく」

 

「あーっと・・・俺まだ答えてもいないんだけどなー。・・・ま、まぁ、据え膳食わぬはなんとやら、か」

 

私たち二人を見ながら何か呟いていたギルさんも、決心が固まったようです。

それぞれの手で私たちの頭を撫で、部屋の中へ促します。

緊張した面持ちの文ちゃんを先導して、お部屋の中へ。後ろからは文ちゃんとギルさんの足音。・・・うぅ、今更ながらちょっと緊張。

でも、全部終わった後、存分に恥ずかしがろう。今は、ギルさんに気持ちを伝えて、だ、抱いて貰って・・・。はう。

 

「あ、と、斗詩?」

 

「? どうしたの、文ちゃん」

 

寝室に入ったとき、なんだかいつもよりしおらしい文ちゃんが、私に耳打ち。

いつもと調子が違うから、なんだか可愛らしく見える。

 

「お、お風呂入ってないよ、あたいら」

 

「あー・・・」

 

確かに、と自分の身体を見下ろして思う。

自分の鼻では文ちゃんも含め、臭ってないとは思うけど・・・。

 

「二人とも、汗臭くなんてないよ。大丈夫」

 

「え? ひゃっ」

 

「わわっ・・・!」

 

いつの間にか後ろにいたギルさんが、私たち二人の背中を押し、優しく寝台に押し倒しました。

き、聞かれてた・・・?

慌てて仰向けになって、ギルさんと顔を合わせる。

私たち二人の間に覆いかぶさるように、ギルさんの体が寝台に乗る。

流石に三人乗ることは想定されていない寝台が、ぎし、と少し不安な音を立てる。

 

「あ、あたいさっ、やっぱり・・・ひゃんっ!?」

 

「わ・・・」

 

お風呂に入ってない、と言うのが気になったのか、文ちゃんが弱気な発言をしようとして、ギルさんに首筋を舐められる。

な、なんだろ・・・凄くやらしい・・・。

 

「大丈夫だって。においなんて全然しないから。むしろ良い匂いだよ。女の子らしい匂いだ」

 

「は、恥ずかしいこと言うなよっ」

 

「はは、猪々子は可愛いなぁ、斗詩」

 

「はいっ。文ちゃんはがさつですけど、女の子らしい部分もちゃんとあるんですよ」

 

私がそう答えながら服を脱ぎ始めると、ギルさんは文ちゃんの服を脱がせ始める。

・・・そういうのも、良かったかも。という考えが頭をよぎり、次はそうしてもらおう、とすぐに解決する。

二人並んで肌を空気に晒し、二人並んでギルさんを見上げる。

 

「・・・優しく、してくださいね?」

 

「・・・痛くしたら、殺す。あたいじゃなくて、斗詩を痛がらせたら、だからなっ」

 

「もちろんだ。猪々子も、優しくするから」

 

強がる文ちゃんと一緒に、ギルさんの口付けを受ける。

・・・今の季節は夏。日が暮れた後が、一番長い季節だ。沢山、愛してもらえるだろう。

 

・・・

 

「・・・あー、その顔だと、やりましたね」

 

「やったんですねー。・・・あーあ、折角斗詩さんに助言をしようとしていたのですが、無駄になりましたね~」

 

「何だお前ら、訓練も始まらないうちから」

 

猪々子と斗詩と夜を過ごした後。いつものように訓練に顔を出し、斗詩と猪々子の欠席を伝えると、二人にはため息混じりに返事をされた。

その無駄な洞察力は何処で磨いているのだろうか、と疑問に思うが・・・まぁ、取り合えず仕事をするとしよう。

 

「今日は二人の分の仕事を終わらせて、そのまま広告隊のほうに顔出すよ」

 

「ああ、そういえば会議の日でしたね。昨日帰ってきていたんでしたっけ」

 

広告隊というのは、しすたぁずのことだ。彼女達も俺の部隊に編入しているため、正式な名称は『機動部隊情報広告分隊』なのだが、まぁめんどうなので『広告隊』と呼んでいる。

彼女達の主な任務は、城下町でのアイドル活動もそうなのだが、他の邑などに赴いてライブをしてきたり、そのついでで情報を収集してきたりと言うのが主な任務だ。

人和隊長が指揮官で、その下に天和、地和の二人が班長、その下に自動人形(暗殺モード)が二人ずつ付いている。暗殺モードではあるが、情報収集という任務のため、ほぼ護衛のようなものだ。

ただ、アイドルの護衛とはいえそこまで物騒な武器を持たせられないため、壱与に解析、複製してもらった仕込み刃を装備し、護衛に回ってもらっている。

 

「そうそう。昨日帰ってきて、今回は休み長かったはず。夏の長期休暇で。一ヶ月だったっけか」

 

もちろん、その間ずっとフリーなわけではない。任務がないだけで、訓練・・・まぁ、トレーニングはある。

新しい振り付けや衣装を考え、それを覚えたり合わせたりしないといけないのだが・・・任務についているときよりは自由があると言っていいだろう。

なんせ城下町が目の前だし、事務所も近いから便利だしな。お気に入りの店もあるし。

 

「ほえー。私だったら出張とか我慢できないかもー。アイドルってすっげーっすねー」

 

「ですねぇ。私たちもすっかり任務で外を回ることもなくなりましたねぇ」

 

「偉くなりましたから」

 

七乃と隊長が話しているとおり、我が部隊では隊長や七乃が直接指揮を取って出撃、なんてことは滅多にない。

その下の連隊やらにも指揮官が育ってきているし、猪々子や斗詩たちも増えてきた。副長の白蓮だって大体のことはそつなくこなすので、重宝している。

・・・『普通』だと自嘲するように特徴がないことに悩んでいる白蓮だが、まさか武器の扱いだけじゃなく教育まで『普通』にこなしてくれるとは思わなかった。

ああ、誤解されないように言っておくが、この『普通』と言うのは悪い意味じゃない。どんな兵士でも、一人も脱落させることなく、『普通』に立派な兵士として育て上げると言うその才覚。

どんな軍隊にもばらつきがあるものだが、白蓮の育てた部隊は完成度が素晴らしい。きちんと最後まで『普通』に教育が終わっているので、良くありそうな軍規の乱れが見られない。

そこから更に華雄や猪々子たち武将についてこれるものや、斗詩や七乃の様に頭のキレる文官兼任できそうな兵士達も出てくるし、縁の下の力持ちと言う意味では素晴らしい人材だ。

目立たない分、残す成果は素晴らしい。ここ毎月、白蓮の月給が上がり続けているのを見ると、その評価の高さが窺える。

 

「・・・よーっし、じゃ、訓練見てくるかな」

 

「いてらー、です。暑いんで、水分補給と休憩だけはきちんとお願いしますねー」

 

「あ、塩の用意とかも出来てるので、お願いします~」

 

「・・・小間使いか、俺は。・・・まぁ、やるけど」

 

監督役として、きちんとやることはやらないとな。

無理も無茶もさせるが、無謀と無駄なことはさせない。

・・・え? 昨日の一刀? いやほら、一刀は一刀だろ?

あ、ちなみに昨日はダウンした後猪々子たちを送る前に回復して、俺がいない間も兵士達混ざって訓練してたらしい。なんとも真面目なことだ。

 

「よし、集合!」

 

天幕から外に出て、中隊ぐらいに分けて指示を出していく。大雑把に弓、剣、槍、騎馬、工兵と分けているだけだが、それでも同じ兵種を纏めて訓練するのは無駄を無くせるので大事だ。

そうしてしばらく訓練を見ていると、なにやら城に続く通路のほうが騒がしい。

・・・デジャヴのような胸騒ぎを覚えてそちらに視線を向けると、華々しい女性の集団。・・・勿体つけずに言うなら、しすたぁず達だ。

フードを被った自動人形たちに守られながら訓練場に入ってきたしすたぁずは、俺を見つけると手を振って駆けてくる。

 

「ギルーっ! ひっさしぶりー!」

 

「会いたかったよぉ~!」

 

「・・・ひ、さしぶり・・・」

 

走ってきたからか、少しだけ息を切らせている三人が、俺の前に飛び出してくる。

あー、確かにしばらく会ってないからなぁ。あ、そういえば菫生まれたの知らないじゃん。伝えないと。

三人を労い、挨拶をして、菫のことを報告。三者三様の反応を返してくれたが、三人とも共通して、祝いの言葉をかけてくれた。

 

「菫ちゃん、かぁ~。後で見に行こうねっ」

 

「そうね。ちぃの可愛さには敵わないと思うけど、可愛いでしょうしっ」

 

「・・・ギルさんと月さんの子供なら・・・かなり可愛いと思うけど」

 

俺の顔を見上げながら呟くように言った人和が、俺の隣に座る。

それを見て、二人も椅子に。・・・流石にこの状況で膝の上には乗せられないので、人和の反対側が地和、更にその隣が天和だ。

ちらりとそれを確認してから、ちらちらとこっちを見ている兵士達に苦笑い。確かに、気になるよなぁ。

 

「三人とも、兵士達を激励してやってくれ」

 

ただ黙って座って不審人物になるよりは、声を掛けてやってやる気のもとになってもらうのがいいだろう。

本来の任務である、『士気向上』は三人の得意分野だからな。

 

「はーいっ。・・・みんなーっ、訓練、頑張ってーっ」

 

「怪我しないようにねーっ。私たちのらいぶにこれないようなドジ、踏むんじゃないわよーっ」

 

「民を守れるように・・・頑張って」

 

三人の声は、流石と言うべきか訓練中の兵士全員に届いたようだ。

一番声量の低い人和も、『通る』声をしているので、静かながらもきちんと相手に届く。

他の二人は言わずもがな。と言うか、地和のお陰で他の二人も妖術によって声が大きくなるので、そのあたりの心配は無用だろうが。

兵士達の反応は、まぁ現金なものだ。掛け声が先ほどより見違えるように上がっている。うんうん、美少女の応援は効くよなー。俺もしすたぁずに頑張れと言われたら限界まで頑張るもの。

 

「そういえば、他の人はまだ妊娠してないの?」

 

「ん? ああ、紫苑と桔梗、祭がな」

 

「え、ホントに? 体とか、大丈夫なの?」

 

「華佗に見てもらってるし、地和たちみたいに自動人形に見てもらってるからな」

 

「なら、安心ね。・・・この人たち、護衛として凄まじく有能よ?」

 

「だろうな。あ、そういえば華琳いるだろ」

 

「うん。魏の国主でしょ?」

 

「ああ。華琳な、一刀が頑張ったお陰で、先日無事妊娠した」

 

「そうなんだ! わー、華琳さんには最初の頃お世話になったからねー。後でおめでとうって言いに行かなくちゃ~」

 

「北郷さんにも、ね。ギルに隠れて陰は薄いけど、あの人も相当な女っ誑しだから」

 

言外に『一刀以上の女誑し』と言われたが、否定しても無駄なので否定はしない。

・・・いやまぁ、手を出している女性の数は凄いことになるけど。誑してはいない。・・・いない、よな?

 

「これから一ヶ月夏休みだしっ。お姉ちゃん、頑張ろうかな~?」

 

「ちぃの方が若いんだし、ちぃのが先に妊娠するわよっ」

 

「・・・その理論でいくと、私が一番可能性高いのだけど」

 

「うぐ・・・あ、あんたねっ。妹の癖に私より胸大きいってどういうことなのよっ」

 

「胸だけじゃなくて、背も姉さんより大きいのよ?」

 

「うぐぅ・・・!」

 

「やめとけ、地和。古傷が開くだけじゃなく、塩も塗られるぞ」

 

人和に噛み付いて反撃された地和を慰めつつ、人和にも余り言い過ぎるなよ、と宥めておく。

 

「分かってるわ。・・・ただ、体のことでからかわれてる姉さんはかわいいから」

 

くすり、と悪い笑みを浮かべる人和を見なかったことにして、取り合えず地和を撫で続ける。

・・・いやはや、これは多分、今夜から忙しそうだ、と時計に目をやりながら思う。

 

・・・

 

「では、会議を行う。・・・地和、天和を起こしてくれるか」

 

「はいはい。ほら、姉さん。おきなさーいっ」

 

「んみゅぅ・・・」

 

「起きないわねー・・・。もっと揺する?」

 

「あー、いや、寝かせておいてやれ」

 

兵士達の訓練を終わらせ、夜を待たずに城内の廊下で三人の相手をして、そのまま会議室へやってきた俺達。

天和は移動の疲れもあってか、俺が会議の準備をしているうちに机に突っ伏して眠ってしまったようだ。

俺と同じように準備を手伝ってくれていた人和が頭に手を当ててため息。

 

「まぁ、ギルさんが何を思ったのか天和姉さんを集中していじめるから」

 

「いやほら、なんかいじめて欲しいオーラ出てたから」

 

「・・・」

 

「なんていうか・・・ごめん」

 

人和の冷たい視線に、反射的に謝る。

 

「まぁいいわ。後で私やちぃ姉さんから伝えておくから。ちぃ姉さんはきちんと聞いておいてね」

 

「はーい。分かってるわよー」

 

頬杖を付いて、仕方が無いなぁ、とでも言いたげな表情で渋々頷く地和。

・・・まぁ、今回は居眠りも許すか。

 

「で、今後の予定なんだけど・・・」

 

これから夏。夏と言うのは、活動的な季節になる。

なので、新曲やら新衣装やらは基本的に夏発表することになっているので、その打ち合わせが主となる。

 

「次の衣装はどうしよっかー。ふりふりとか、結構やりきった感あるよねー」

 

「動いたときに目立つからな。フリルとかつけてると。・・・うーん、でも確かに、ネタ切れは否めないな・・・」

 

新曲用の衣装はタイプを変えて色んなフリルやらを使っていってるし、基本的なライブ衣装は最初のものからほぼ変わってないしな。

うーん、いっそのこと逆に振り切れるか? フリフリから、余計な装飾一切無い、スマートな衣装に・・・。

 

「こんなんどうだ」

 

「見せて。・・・なるほど、装飾に飽きられるまえに、こちらから無駄な装飾を捨てるのね」

 

「どれどれー? あー、これなら夏でも暑くないかもね。あ、いっそのことさ、三国それぞれの国主の意匠でも取り入れてみる?」

 

「ああ、いいかもな。天和は桃香で確定として・・・」

 

「似てるものねー。あ、じゃあ私は華琳っ。クルクル似てるー」

 

「じゃあ、私が蓮華さ・・・あれ、この場合は雪蓮さん・・・?」

 

「蓮華のほうでいいんじゃないか。でも結構いいアイディアかもな。三人とも結構近いところはあるし・・・」

 

ささっとデザインを書き換える。・・・こういうのはやっぱり一刀のほうが上手いな。後で清書を頼むとしよう。

で、お抱えの服屋に持っていって出来るのが一週間くらいかな。

 

「新曲はどうする? 落ち着いたものか激しい曲調か」

 

「夏! って感じなら、激しいほうがいいんだろうけどー」

 

「でも、落ち着いた曲で・・・そうね、大人の夜、って言うのを表現するのも良いかも」

 

「あー・・・んー、でもほら、基本ライブでやる曲だから、激しいっていうか元気になれるような、動きの多い曲にしたいよな」

 

「・・・そうね。確かに、静かな曲はライブで三人並んで、ってなると少し盛り上がりに欠けるわね・・・」

 

んむぅ、と唸る人和が、すらすらと筆を滑らせていく。基本的に歌詞や曲を作るのは地和と人和、それを見て修正したり加筆するのが俺や天和だ。

天和はやはり天性のセンスがあるのか、ここをこうするといいんじゃない、と言うアドバイス程度のものが後々良い方向に影響したりする。

なので、俺が見るのは本当に変なところとか、誤字脱字くらいだ。

 

「歌詞は大体こんな感じ・・・ちぃ姉さん、どう?」

 

「いいと思うわよ。あ、こういう言葉も入れたいわね」

 

人和から受け取った歌詞に、地和が色々と書き加えていく。

ここからまた人和へ渡し、書き加えて地和、また人和、と言う風に繰り返していくと、曲の大体の部分は完成する。

・・・こうなったら、しばらく放っておいたほうがいいだろう。天和の寝顔を見ながら、静かに二人を見守ることにする。

さて、これから夏だ。祭りにライブ、天下一品武道会などなど、様々なイベントが目白押し。・・・いやー、開催する側になると、大変だなぁ。

 

・・・




「あ、どもー」「あれ、神様? 俺は声掛けてないから・・・神様のほうでなんか用があるのか?」「ええ。えと、何から話すべきかな・・・」「話すなら嘘偽り無く最初っから話した方が、神様の尻のためだぞ」「私のお尻に何する気ですかっ!?」「百叩き」「ぐむぅ・・・! そ、それはそれで嫌だ!」「っていうかそれ以外に何を考えて・・・ああ、そういう。変態め。やっぱりムッツリンじゃないか」「やめて! そのあだ名やめて!」「うるさいぞ、ムッツリン子」「お米みたいな呼び方もやめて!」

結局、神様の『お話』は聞けずじまいで目覚めてしまいましたとさ。


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