真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「俺の基本配色は金! そして赤!」「あー、俺は白、かな?」「俺は黒だな。あ、紺もありかもな」「私は緑ですかね。ライダーだったら白なのですが」「ちなみに2Pカラーは黒だな」「あ、俺も黒かも」「俺は白になるのかね。・・・忍者としてそれはどうなんだ・・・?」「わ、私は・・・私はぁ・・・!」「おい、ランサーがなんか苦しんでるぞ!?」「たまにこうなるんだ。イメージ固められてる英霊は大変だよなぁ。おちおちゲームにも出演できん」「あ、そういう話だったんだ、これ・・・」

「・・・あ、そうだ一刀」「ん? なんだよ、ギル」「・・・頑張れ」「えっ、何その哀れみの視線とこの肩に乗せられた手は・・・?」「強く、生きるんだ・・・」「えっ、なに、えっ? 俺、死ぬの? え、死ぬの!?」


それでは、どうぞ。


第七十三話 黄金と、緋色に

「はい、こんばんわー」

 

「・・・ちょっとげんなりするわ」

 

「第一声がそれとか、アナタ最近神様舐めてません? 神性ランク落ちてたり・・・しないよねぇ、EXだしなぁ」

 

「俺が神様を嫌うわけないからな。そうそう下がらないだろ」

 

手違いで殺されたとはいえ、こうして転生させてくれてアフターフォローまでされちゃあ、どうにもね。

 

「はうっ」

 

「? どうした、胸なんか押さえて」

 

「・・・落ち着くので、ちょっとお茶でも飲んでてくださいよ」

 

ぱちんと指を鳴らし、座る俺の前にテーブルとお茶のセットを出すと、神様はゆっくりと椅子から地べたに降り、そのままゆっくりと横たわった。

・・・心臓の調子でも悪いのだろうか。持病もち? そう思っていると、急に無言でどったんばったん跳ね始める神様。

 

「っ!? ど、どうした神様! 何の病気だ、それ!」

 

「ああああああっ! もぉぉぉぉぉお! なんなのこの人ぉぉぉっ!」

 

「ええー・・・? 俺こそ『なんなのこの人』なんだけど・・・」

 

びったんびったんと奇声を上げながら跳ね続ける神様を尻目に、緑茶を淹れてずず、と一口。

美味しいな、何時も通り。

まぁ、奇声を上げる子については壱与で十分慣れているので、意識の外に追い出すのは簡単だ。

目を瞑り、お茶の香りに意識を集中させれば、五感全てから神様は除外される。

 

「鈍感っ! 鈍感なのに優しいとかっ! ちょぉ主人公属性っ!」

 

「・・・ふむ、落ち着くなぁ、この香り」

 

しばらくお茶の香りを楽しんでいると、いつの間に落ち着いたのか、神様が地べたから椅子に戻っていた。

 

「ん、落ち着いたのか?」

 

「ええ。なんてったって神様ですから」

 

「・・・神様が取り乱すって時点であんまり誇れないような気がするけど」

 

私にもお茶ー、とねだられたので、とぽとぽとティーカップに緑茶を注ぐ。

ずず、と二人してお茶を楽しんでいると、何杯目かを飲み干した神様が思い出したように俯かせていた顔を上げる。

 

「そういえば、プレゼントがあります」

 

「プレゼント? 宝具か?」

 

「んー・・・なんというか・・・装飾品?」

 

「装飾品? 魔術道具とか?」

 

「ま、そんな感じですね。今の黄金の鎧に追加でくっ付く感じになります」

 

「これに?」

 

これ以上何か付くと、行動に支障きたしそうなんだけど。

そう思っていると、神様が再び指を鳴らす。

現れたのは、赤い布。

 

「聖骸布です」

 

「え、誰の?」

 

「? アナタのに決まってるじゃないですか」

 

「俺まだ死んでませんけど!?」

 

厳密に言えば一回死んでるけど!

 

「あー、えっとぉー・・・」

 

俺の突っ込みに、どう説明しようか悩んでいるのか、顎に手を当てて考え込む神様。

だが、すぐにぽんと手を打って説明してくれる。

 

「あの、座についてはご存知ですよね?」

 

「もちろん」

 

「時の流れに影響されず、過去に未来の英霊が呼ばれることも、全く不思議ではありません。時の流れから外れたのが、座というところです」

 

そこまでは分かる。例えるなら英霊エミヤが、衛宮士郎がまだ生きている時代に召喚されることもありうる。そういうことだろう。

 

「で、アナタはまぁ、『英霊として』座にいるわけなんですよ、すでに」

 

私も会ったことはないんですけど、とお茶を啜って口を湿らせる神様。

 

「生きている以上絶対なんですけど、いつか死ぬんです。で、その時から、聖骸布だけもって来ました」

 

「・・・あー、『俺が死んだ未来』から持ってきたわけだな?」

 

「そうなりますね。先取りですよ。お小遣いの前借りのようなものです」

 

子供のお小遣いと聖骸布一緒にしちゃいかんでしょ。

 

「だがまぁ、そういうことなら納得だ」

 

「これを、鎧のその肩の部分。丁度肩口の辺りに付けられそうなので、そこから下げちゃいましょう」

 

「・・・腕振るのに邪魔にならないか?」

 

「あなたの錬度なら、問題ないと思います。取り付けるので、鎧脱いで貸してください」

 

「ちょっと待てよ。これ確か肩の部分だけ外せたはず。・・・っと、こうかな」

 

がちゃり、と黄金の鎧の肩の部分。あの大きく膨らんでいる部分だけを外して神様に渡す。

それを受け取った神様は、悪戦苦闘しつつも何とかマントを取り付けられたようだ。

 

「どうぞ。これで取り付けも問題は無いと思うんですけど」

 

神様に手伝ってもらいながら肩の鎧を取り付ける。

 

「立ってみて下さい。長さも丁度いいと思うんですけど・・・」

 

「よっと。・・・ほほう、これは凄いな」

 

垂れたマントは、丁度足で踏まない程度の長さに調整されているようだ。

なんというか・・・機能性を潰しているようだが、実際動いてみると邪魔にならない。

凄まじいな。さすが神様謹製。

 

「そういえばこれ、どんな能力なんだ?」

 

「『英霊を使役する際のデメリット軽減』です」

 

「・・・座に上がってから役に立つタイプだな」

 

「そうなりますね。あ、後カッコイイですよ!」

 

きゃっきゃとはしゃぐ神様に、ああそう、と返すのが精一杯だった。

 

「ちなみにその軽減される『デメリット』って言うのは?」

 

「色々ありますよ。魔力消費、召喚時の手順の省略、令呪の回復魔力量軽減とか」

 

「そいつは凄い。さんきゅな」

 

「いえいえ、どういたしまして」

 

「じゃあお返しにこれをあげよう」

 

「? なんです、これ?」

 

「髪飾り。魔術の練習で上手くいってな。いつも世話になってるし、色合い的にも似合いそうだからあげるよ」

 

はい、とテーブルの上に髪飾りを置く。

 

「くおぉ、何これ、すっごい嬉し・・・」

 

髪飾りを掲げるように持って「ふおぉ・・・」と感激したように呟く神様。

そこまで喜んでもらえれば、贈った甲斐があるというものだ。

 

「つ、付けますねっ。あ、いえっ、つけて貰いたいなー、なんて・・・」

 

「いいよ。ついでに俺好みの髪型に変えてやるよ」

 

「お 願 い し ま す !」

 

「うお、何だ、普通そういうの嫌がるんじゃないのか・・・?」

 

くわ、と凄まれてしまったので、今更「冗談です」とは言い出せなくなってしまった。

・・・俺の好みの髪型かー。色々あるからなー。

神様の髪型もそのままで全然いいんだけどな。

 

「じゃあ、こうして・・・」

 

「どきどき」

 

「ここがこうなって・・・」

 

「わくわく」

 

「これでどうだっ」

 

「な、なんでしょ、これ」

 

「おさげ? なんていうか、こういう素朴っぽいのが似合いそうな顔してる」

 

そんなに複雑な髪型にしてもあんまり良さを生かせないと思ったので、簡単に梳いて纏めただけだ。

三つ編みにしてみたりスリーテールにしてみたりと複雑な髪型も似合うとは思ったのだが、まぁそこまでいじくるのは女性の髪に対して失礼だろう。

 

「あっと、鏡鏡・・・おぉ~、これがあなた好みの髪型・・・」

 

「まぁ、それぞれに似合う髪形ってあると思うから、一概にこれだけしか好きじゃないとは言わないけど」

 

「いえ、気に入りました。新鮮ですし、イメチェンにいいかもですね。しばらくはこれで過ごすことにしますっ」

 

「そこまで気に入ってもらえたんなら嬉しいな。髪留めも二つだし、丁度良いかもしれないな」

 

しばらく色んな角度から自分の髪を見ていた神様は、もう一度ぺこりと頭を下げた。

 

「ありがとうございます。・・・まさか、プレゼントもらえるとは思ってなかったので、びっくりしましたけど・・・それ以上に、嬉しいです!」

 

「なら良かった」

 

「・・・む、今日はここまでのようですね。それでは、またお会いしましょう」

 

「おーう、じゃーなー」

 

・・・

 

「っと」

 

若干気だるいが、上体を起こす。

隣にはもちろん月の姿。頬を何度かふにふにする。

 

「んぅ・・・」

 

「なるほど」

 

何が『なるほど』なのか分からないが、取り合えず口をついて出てきてしまった。

 

「よっと。今日も良い天気だなぁ」

 

すでに肌寒い時期は過ぎている。春も近く、暖かくなってきて、ほぼ雪は無い。

最近は美以達も暖を取りにもぐりこんでくることは無くなった。・・・『暖を取りに』来ることがなくなったのだ。

どういう意味かは、想像にお任せするが。

 

「ふむ・・・こちらでももう反映されてるのか」

 

ためしに鎧を着けてみると、神様の世界でつけてもらった聖骸布はそのままこちらでも着いている状態になっているらしい。

ステータスを確認してみると、スキルがいくつか追加されているようだが、ロックされてしまっている。

『英霊』となってから追加されるものだから、矛盾の起きないように神様のほうでスキルを封印してくれているのだろう。

こういう気遣いは出来るんだけどなぁ。いかんせんミスるしなぁ。

 

「なんにしてもこれはいいものだ。・・・早速、動きに影響が無いか試しに行くとするか」

 

・・・

 

朝起きると、すでに隣の温もりはありませんでした。

・・・ギルさんはいつも早起きです。今日はそれに輪をかけて早起きなので、多分『神様』のところに行っていたのだと思います。

何でも、ギルさんが懇意にしている神様だとか何とか・・・。知り合いに神様がいるなんて、さすがは天の御使いのお一人・・・。

 

「・・・へう。この感覚だと・・・中庭かな?」

 

若干の魔力消費と高揚感を繋がりから感じる。大分この感覚にも慣れてきて、今ではギルさんのいる大体の方角と距離はわかるようになっていて、そこから居場所を推測するくらいは出来るようになりました。

転ばないよう慎重に寝台から降りて、服を着替える。

大分大きくなってきたお腹を締め付けないような、ゆったりとした服を最近ずっと着ているので、普通の服を着たときにお腹周りとか大丈夫かな、と少し不安になりつつ、袖を通す。

 

「よいしょっと」

 

一応鏡でおかしいところは無いか確認して、最後に化粧台へ。

あんまりお化粧はしないけど、一応髪を整えて、少しだけ紅をつける。

 

「ん・・・大丈夫、かな」

 

顔を左右に軽く振ってみて、変なところは無いか再度確認。

さっきは服装だったけど、今度はお化粧。

ばっちり、だと思うけど・・・。

 

「んしょ」

 

立ち上がり、寝室から居間へ。ここには、直立不動で詰めている自動人形さんが一人、必ずいる。

最初は部屋の隅で静かに立っているのを見て、その、幽霊かなー、とか思っちゃって、慌ててギルさんを起こして笑われたこともあります。

へぅ。私は本当に幽霊さんが出たのかと思って慌ててたのに、ギルさんったらにこりと笑って私の頭を撫でるだけなんですもん。

 

「おはようございます。今日もご苦労様です」

 

何日かごとに別の自動人形さんに変わっているらしいのですが、全員全く見た目が一緒なので、いつ変わったかはギルさんと本人達しか知りえません。

いつ、どんなときにギルさんのお部屋を訪ねてもいるので、城の一部では『あまりにも黄金の将に懸想しすぎている侍女が、死してなお仕えようとしている』だとか、怪談の一つとして語られるほどです。

壱与さんという前例があるだけに、どうにも否定しきれないのが痛いところではあります。

 

「・・・」

 

こちらに首から上だけを向け、少しだけ会釈。

基本的に・・・というか、絶対に喋らない彼女達の意思疎通手段は、念話になります。

自動人形さんたち同志は感覚も何もかも共有しているらしく、私たちとの念話も言葉で話すのではなく、なんというのか・・・『意味』だけを送ってくる感覚です。

後宮に詰めて私専属となってくれている自動人形さんは私のお願いを色々聞いてくれて、話をすることを学んでくれたので、ある程度は会話をしてくれるようにはなりました。

たまに知識とか常識があまりにも先進的過ぎて齟齬が生じることもかなりの頻度でありますが、理解出来ていないことを分かってくれて、更に噛み砕いて説明してくれるので、とても助かっちゃいます。

先ほども言ったとおり彼女達は何もかもを共有しているので、最近はギルさんも彼女たちが話しかけてくれて嬉しい、と仰っていました。

・・・ただ、傍から見ると無言で見詰め合っているだけにも見えるので、とっても不審者です。

 

「少し出てきますね。ギルさんは中庭ですか?」

 

「・・・」

 

こくり、と首肯。

それと同時に、私の頭の中に現在地から中庭までの詳細な地図が流れ込んできて、目的地までの案内まで送られてきました。

おそらく中庭の丸く光っているのが、ギルさんなのでしょう。そこから線が引かれて『ここ』と表示されているので、間違いないと思います。

 

「ありがとうございます。それでは、行ってきますね」

 

ふりふり、と小さく手を振ると、むこうもふりふり、と同じように手を振ってくれました。

扉を開けて通路へ。少し風があるけど、それを見越してある程度厚着はしてきました。問題はありません。

そして目的地まで歩き始めて、一つの疑問が頭をよぎりました。それは、彼女達の表情のこと。

私は、彼女が目を開けたところを見たことがありません。というか、喋りもしないので、彼女達の表情が動いたところを見たことがありません。

眉一つ、頬すらピクリとも動かさないのです。・・・後宮で以前、二人きりだからとくすぐったこともありましたが、脇腹がとってもふにふにとしていたことと、お肌がすべすべだったことが分かった以外、収穫はありませんでした。

ご飯を一緒に食べたこともありましたが・・・口の開閉だけで、咀嚼する動きすら見せないので、もうワザとなんじゃないかと思い始めています。

そんなことをつらつらと考えていると、剣戟の音が聞こえてきました。頭の中の地図も、目的地に近いことを教えてくれています。

 

「・・・あ、いたっ。ギルさんだっ」

 

副長・・・あ、えっと、隊長さんと、白蓮さんを筆頭に、部隊の将の方を全員相手取って、剣を振るうギルさんの姿。

・・・あれ? なんだか、鎧がいつもと違う? ・・・いえ、というより追加されているような・・・。

ああ! あの赤い垂れ布! 鎧の肩口から伸びているあの赤い布は、昨日までは無かったはずです。新しい宝具・・・いえ、礼装・・・?

あんまり魔術的なことには詳しくないですが、宝具程の神秘とはいえないまでも、相当な代物のようです。

・・・それにしても・・・。

 

「あのお姿は・・・か、かっこいいなぁ・・・」

 

「王の威厳が増していますよねぇ。ふひっ、あのお姿で踏んでいただきたい・・・」

 

「踏んで貰うよりも、こう壁に追い込まれて、どんっ、て手を突いて欲しいです・・・。それで、『月・・・』なんて呟かれたら、私、へうぅ・・・!」

 

「そ、それ、イイ、かも。・・・えへへ、こう、あごもくいって持ち上げられたりして・・・」

 

「いつもは優しいギルさんが、強引に――って、壱与さんっ!?」

 

「強引、って、いい言葉・・・って、はい? いかにも壱与は壱与ですけど・・・?」

 

柱の影からギルさんを見つめていると、いつの間にか壱与さんが私の背後にいたようです。

肩に顎を乗せているので、私の顔の真横に壱与さんのお顔がありました。とってもびっくりしました。

 

「いっ、いつからっ!?」

 

「『かっこいいなぁ』のあたりですね。ギル様が装いを新たにされたという情報を掴みまして、これは早速いじめて・・・いえ、痛めつけてもらおうと思いまして・・・」

 

「・・・なんで言い直したんでしょう・・・」

 

どっちも変わらないような気もしますが、壱与さんの言うことですから、多分細かいところで意味が違うんでしょう。

そう思わないと壱与さんとはお付き合いできません。

 

「ああっ、壁に追い詰められてドンとされるのもいいですが、騒音を立ててお隣のお部屋にいるギル様に壁ドンされるのも、怒られているようでたまりませんっ」

 

そこまで言うと、はぁはぁと息を荒くした壱与さんが中庭で戦っているギルさんの元へと走り出す。

 

「ギル様ーっ。壱与はっ、壱与は壁も股も床も何処でもドンしていただいて構いませんよぉーっ! もちろん私の中にある壁、所謂しきゅへぶぁっ!?」

 

「あ、やべっ、壱与さんが割り込んでくるから殴っちゃった・・・」

 

「・・・一旦休憩するか。・・・ん? 月?」

 

「あ、えと、こんにちわ」

 

はぁ、とため息をついて壱与さんの足を持ち、ぐいっと持ち上げた状態のギルさんに話しかけられ、壱与さんの扱いって素であれなんだ、と少し恐ろしくなりながらも、ギルさんの元へと駆け出す。

 

「おっとと。あんまり走るなよ。転んだらどうするんだ」

 

「えへへ。そのときは、ギルさんが受け止めてくださいますよね?」

 

「・・・もちろん。だけど、万が一ってあるし・・・」

 

ぽふぽふと私の頭を軽く叩くように、ギルさんは私に注意する。

・・・へう、なんていうか、こう怒られてると、なんだか、大事にされてるって感じがして・・・。

 

「いいかも・・・」

 

「え・・・? ちょ、壱与の変態ってうつるのか・・・?」

 

頬に手を当てていやいやと首を振る私にかけられたその言葉は、誰にも聞かれずに中庭に響きました。

 

・・・

 

おいこら月に何をうつしてるんだ、と手に持つ壱与をぐらぐらと振ると、あー、とかうー、とか頭に血が上ってぼうっとしているような声を上げる。

目の前では月がいやいやと恥ずかしがって首を振っていて可愛いし、この手に持つ変態もいつもとは違って大人しくて可愛い。

・・・はっ。月は兎も角壱与も可愛いと思えてる・・・? 異常だぞ、これは・・・!

いや、好きな子が変な性癖持ってたらある程度は対応しようと思うけどさぁ・・・。

 

「大将、そろそろ壱与さん離してあげたらどうです?」

 

「ん、まぁそうするか」

 

ようやく慣れてきたのか、どもらずに俺を呼べるようになった隊長が、ちょいちょいと壱与を指差す。

それもそうだな、と足から手に持ち替えて、ゆっくり降ろす。

 

「・・・はれ? いい感じに気持ち悪くなってたんですけど・・・」

 

先ほどよりはしっかりした声で、壱与がまるで不満でもあるかのように呟く。

・・・お前、ホント極まってるよなぁ。

 

「後で死ぬほど苦しい思いさせてやるから、今は黙っておけ」

 

「はひっ! し、死ぬほど苦しい思い・・・生かさず殺さずが一番興奮します・・・!」

 

「はいはい。・・・そういえば、何かあったのか、月?」

 

「ふぇ? あ、いえ、特に用があったわけではなくて・・・その、朝起きたらいらっしゃらなかったので」

 

「あー、書置きでも残しておけばよかったかな。見て分かると思うけど、新しく装備増えてさ。それを試しに訓練に乱入してたんだけど・・・」

 

「こっちとしては訓練捗って助かるけどある意味地獄でしたからね。・・・正直どこの部隊よりそれなりの将が揃ってるはずなのに、全く歯が立ちませんもの・・・」

 

まぁ、迦具夜じゃない、『勇者』の状態の隊長なら、『擬似月面空間』は無いわけだし、全力出せるからな。

この新しい聖骸布も、動きの邪魔にならないことが確認できたから良かった良かった。

 

「・・・恋、最近はギルに一撃入れるのが目標」

 

「そういえば最近恋がギルに一撃いれてるの見たことないな」

 

「それほど実力に差が出てきたということですか。・・・大将、ホント人間離れしてきましたね。っていうかほぼ神様でしたっけ」

 

ドン引きしてるけど、お前もだいぶ人間離れしてるからな?

というか確実に人間とは別種だからな、お前。宇宙空間でデメリット無しで活動できるとか、人間舐めてるの?

 

「・・・大将が考えてること手に取るようにわかりますけど、月の『人間』って言うのは私みたいなのがデフォルトですよ?」

 

「こんな近くに宇宙人っていたんだなぁ」

 

「えへへー、異星間恋愛なんて、多分歴史上初じゃないです?」

 

「だろうな。というより、宇宙人が本当にいるって言う事実が史上初だと思うがね」

 

隊長を撫でてやりながら、どっかりと木陰に腰を下ろす。

動きについては大体慣れたし、これ以上参加しても邪魔になるだけだろうから、ここで月と一緒に観戦するとするかな。

 

「月、こっちおいで」

 

「あ、はい」

 

手招きすると、遠慮がちに俺の隣に腰掛ける月。

ちなみに膝の上・・・というか胡坐の上は恋が占拠してしまっている。

それを引き剥がそうとする隊長と、呆れたように見ている七乃と白蓮。

華雄は華雄で月のお腹を触ったり俺の聖骸布を触ってみたりと忙しそうだ。

 

「ぎぃーるぅーさぁーまぁー・・・」

 

「あーはいはい、構ってやるから」

 

「えへー、肩をお揉みしますよー」

 

「え、壱与の筋力で大丈夫か・・・?」

 

俺の背後に壱与が回り込んだので、鎧から普段着に変更。そうすると、小さい手の細い指でむにむにと肩を揉まれる。

・・・まぁ、なんていうか、良くも悪くもお姫様の手って感じだな。

とっても柔らかいしすべすべでさわり心地もいいのだが、力仕事には全く向かないであろう。

なので、肩を揉まれて気持ちいいかは・・・お察しである。

 

「壱与、非力すぎるわ。全く揉まれてる感じしないぞ?」

 

「ふえっ。そ、そんなはずは・・・! これが壱与の全力全開ですよっ!?」

 

「・・・そ、そっか。いや、うん、まぁ、気持ちいい・・・よ・・・?」

 

「下手に慰められるより心に来ますっ。で、でも、この胸の高鳴りこそが・・・最果ての性癖の潮騒なのです・・・」

 

「お前・・・よくもまぁ俺の前でその台詞言えたな」

 

というか、自分の性癖を『最果て』扱いするんじゃない。

 

「ふえっ!? は、発言すらも許されないと・・・!? も、もっとぎちぎちに束縛していただけませんでしょうかっ!」

 

物理的にもっ、とはしゃぐ壱与。

 

「例えば?」

 

「例えば、ですか? ・・・えっとぉ、そうですねぇ・・・。発言縛って、体も縛って、あ、呼吸とか鼓動とかも!」

 

「・・・死ぬよ?」

 

そこまで縛ると確実に死ぬんだけど・・・え、何? 即身仏にでもなりたいの?

流石に前向きな餓死させるほど優しくないよ俺。

 

「はっ!? し、死ぬともういじめて貰えません・・・よね?」

 

「もちろん。俺はしばらく死ぬ予定も無いしな」

 

「じゃあやめておきます! えっと、取り合えずこれで壱与を縛ってくださいませんか!?」

 

「・・・たいちょー」

 

「了解ですっ! 積年の恨みっ! しっぺ!」

 

「あいたぁっ!?」

 

俺の気の抜けた声に、恋を引き剥がしに掛かっていた隊長がいつの間にか壱与の背後を取り、腕をぱっちんとしっぺした。

まさか隊長にやられるとは思わなかったのか、壱与は少し涙目だ。

 

「はうぅ・・・こ、このクソアマぁ・・・! ぎ、ギル様と卑弥呼様にしかしっぺされたこと無いのにぃ・・・!」

 

「た、たいしょー! 壱与さんがっ、壱与さんがっ」

 

「分かってるわかってる。壱与ー、怒るな怒るな。俺がやらせたんだから、俺からのしっぺと同じだろ?」

 

「・・・そう・・・ですか・・・ね?」

 

流石の壱与も誤魔化されないか? 凄く苦虫を噛み潰したような顔で首を傾げられる。

 

「取り合えず、これで記念すべき三人目だぞ、壱与。ほれ、隊長もう一発!」

 

「え、えぇー? ・・・えっと、これは大将にいわれたからやるんですからねっ!?」

 

「ツンデレとかいらないので、やるならさっさとやってください」

 

「ツンデレじゃな・・・ああもうっ、しっぺっ!」

 

「ぐうぅっ・・・! こ、これはギル様のしっぺ、これはギル様のしっぺ・・・!」

 

自己暗示で自分を騙さなければならないほどには苦痛らしい。

というか、詠の説教といい隊長のしっぺといい、俺以外からのアクションは全てこいつにとって罰ゲームだな。

俺がしっぺしたときと違って、壱与の表情が百八十度違うからな。

 

「壱与、ほれしっぺ」

 

「はあぁあぁんっ! こ、これぇっ、これがしゅごいのぉっ!」

 

「・・・大将って、ホント物好きですよね。いえ、そのうちの一人が言うのもあれなんですけど」

 

「いや、今回ばかりは否定しきれん」

 

美少女たちの集う中庭で、青空の下、嬌声が響くのだった・・・。

 

・・・

 

「・・・斗詩、そっちの書類取ってくれるか」

 

「はいっ。あ、後こちら、数字を纏めておきましたので」

 

「助かるよ。・・・悪いんだけど、こっちも頼むよ」

 

「分かりました!」

 

「っと、七乃、これを・・・」

 

「分かってますよ~。朱里さんに届けてきますね~」

 

簡単に『三つの部隊を纏めるから』と言っても、それには相当な面倒がある。

金、人、施設・・・様々な面倒ごとが、書類として押し寄せてくる。

三国の政務にプラスしてこの書類は流石に手が足りないので、ウチの部隊で事務仕事が出来る斗詩と七乃に手伝ってもらっている。

ちなみに、隊長・・・迦具夜や、人和、そして詠も頭脳担当として働けないことは無いが、迦具夜や詠はそれぞれの部隊で忙しいし、人和は流石にしすたぁずの活動から外すわけにもいかないだろう。

というわけで、何とか都合のつく二人に着てもらったのだ。

え? 白蓮? ・・・あっ。・・・えっとー・・・その、ほら、あれだ! 迦具夜の補佐があるから! な?

 

「初めて忘れたな・・・」

 

「え? 何か言いましたか?」

 

「あ、いや、なんでもないよ」

 

俺の言葉に反応して顔を上げた斗詩に、手を振って答える。

後で白蓮に謝っておくとしよう。特に謂れの無い謝罪が白蓮を襲う!

 

「あー、政務もあったか。ちょっとこっちやっちゃうな」

 

「はい。じゃあ、こっちは私が」

 

「悪いな」

 

にこりと笑って書類の一部を持って行ってくれた斗詩に礼を言いながら、別の書類を手に取る。

・・・あー、これは久しぶりに、夜まで掛かるかなー。

 

・・・

 

ご主人様からの指示を受け、朱里さんに書類を届けた帰り道。

侍女服を着て、侍女長の証である腕章をつけている詠さんに出会いました。

 

「こんにちわ」

 

「ん? ・・・ああ、七乃じゃない」

 

詠さんはなにやら窓に寄りかかり、黄昏ているようでした。

どうしたのでしょう? なにやら物憂げですが。

 

「どうかしたんですか~? なにやら、元気が無いようですが~・・・」

 

「んー? ・・・どうかしたのかしらね。ボクにもわかんないわよ」

 

どうやら、重症のようですねぇ。

かなり不定期に、『不幸の日』という被害に悩まされているというのは聞いていますが、それでもないようですし・・・。

 

「そういうあんたは何してんの? 散歩・・・にしてはやけにきびきびしてたけど」

 

「ご主人様のお手伝いですよ~。新設した連合部隊の事務仕事と、国の政務、陳情その他諸々・・・人手が足りないようでして、私と斗詩さんがお手伝いしているんですー」

 

「はぁ・・・ギルってば、自分から面倒なほうに進むわよね。・・・ボクも手伝うわ」

 

「はえ? 詠さんは侍女隊のほうのお仕事が・・・」

 

「侍女隊を舐めるんじゃないわよ。一から十まで全部指示しないと動けないような部隊に、月がするわけ無いでしょ。ある程度仕事割り振ったら、ボクの仕事なんかほぼなくなるわよ」

 

「そうなんですかー?」

 

首をかしげてそう言ってみる。でも、結構忙しそうに動いてた気もするんですけどー。

私の表情から何を言いたいのか読み取ったのか、ため息をついてから詠さんが口を開く。

 

「まぁ、最初は部隊の把握とか月からの引継ぎとか・・・最近ではまさに『連合部隊』の話もあったからね。それも落ち着いた今じゃ、ボクの役割なんてほぼ監督役みたいなものよ」

 

「なるほど~。・・・でも、詠さんが来てくださるのはいいかもしれませんねぇ」

 

「なによ。そんなに書類たまってるわけ?」

 

全く仕方ないわね、と嬉しそうにため息をつく詠さんに、いいえ~、と首を振る。

 

「ご主人様、詠さんが一緒にお仕事してくれるってなれば喜びますから~」

 

「は? ・・・っ! ば、ばっかじゃないの!? ぎ、ギルが喜ぶとか、そんなの、そんなわけ無いわっ」

 

「うふふ。まぁまぁ~。行けばわかりますよ、行けばー」

 

「ちょ、手を引っ張らないで・・・ああもう、自分で歩くからぁっ!」

 

ぐいぐいと手を引っ張って、詠さんを無理矢理ギルさんのお部屋へ連れて行く。

ご主人様の臣下らしく、ご主人様が喜ぶことをしませんとねー。

 

・・・

 

「あー・・・よし、休憩にする!」

 

「さ、さんせー、ですぅ・・・」

 

時計を見てそう言うと、斗詩が筆をおいてんぅ、と背伸びした。

・・・ほほう、これは中々。恋は超えてるな。え? 何の話かって? 胸に決まってんだろ、胸に。

 

「はふぅ。・・・それにしても、七乃さん遅いですねぇ」

 

「確かに。ま、朱里も忙しいからな。中々つかまらんのかもしれんな」

 

「あぁ。確かに、一時期いつ寝てるのか分からないくらいお仕事されてたときありましたからね」

 

斗詩が思い出しているのは、多分天下三分の当たりの朱里と雛里のことだろう。

思えば、朱里が『寝不足を隠すために濃い目の化粧をする』ことを知ったのは、確かその時期だ。

今日の晩にでも夜這いをかけに行き、きちんと寝てるかを詰問しなければなるまい。

 

「ただいま戻りました~」

 

頭の中で朱里雛里捕獲計画を立てていると、扉が開いてのんびりとした声が聞こえた。

どうやら七乃が帰ってきたようだ。思考を一時中断して視線をそちらに向けると、何故か七乃につれられるようにして詠の姿が。

・・・おいおい、忙しいだろうからとわざわざ誘わなかったのに、そんな無理につれてきたらダメだろう。

叱責の念を込めて七乃をちらりと見ると、七乃は頬をかきながら苦笑い。

 

「そんな怖い顔で見ないでくださいよ~。ちゃんと、お暇なときを狙って攫って来たのでー」

 

「攫ったっていう自覚はあるのね。・・・後で覚えておきなさいよ、七乃」

 

「あははー・・・」

 

「で? 七乃、詠を攫って来てどうした? ・・・はっ! 俺への差し入れかっ! そうだな、そうなんだな!? 詠、こっち来い! 膝の上で愛でてやろう!」

 

「はぁっ!? ちょ、バカっ! 人前でそんな事・・・」

 

最近詠成分を摂取していなかったのだ。

ちょっと俺の膝に座ってもふもふさせてくれるだけでいいのだ。俺は今、ツン子に飢えている。

桂花や地和もツン子属性を持っているのだが、生憎近くにはいない。

ので、俺は早急に彼女を膝に乗せる義務がある。愛でねば。

 

「ほら、ご主人様もお喜びですよ?」

 

「・・・あんたの想像通りって言うのは中々癪だけど・・・まぁいいわ。乗ってあげる」

 

七乃となにやら言葉を交わした後、真っ赤になった詠が遠慮がちに俺の膝の上に乗ってくる。

 

「重く、なってない? 最近、ちょっと食べすぎたから・・・」

 

「問題ないね。むしろ軽いくらいだ。体重を気にしすぎるのも、どうかと思うぞー」

 

最初は身体全体に力が入っていてかちかちだったが、何度か撫でると、完全に体重を預けてこちらに寄りかかってくる。

これだよ、これ。背中を全面的に預けてくれるこの感覚・・・。

それでいて、恥ずかしがって顔を真っ赤にするこの表情!

 

「さっすがツン子!」

 

「ツン子言うな!」

 

がっ、と振り子の要領で俺の脛辺りに詠の膝が入る。

若干魔力が通してあったのか、少し痛みを感じた。

 

「あははー・・・お茶、淹れてきますねー」

 

「あ、お願いしますー」

 

空気に当てられたか、斗詩が一旦離脱。隣の簡易厨房へと消えていった。

それを見届けた詠が、ちょいちょいと俺を手招き。

『こっちへ来い』というよりは、『ちょっと耳を貸せ』ということだろう。

素直に詠の口元に耳を寄せる。

 

「・・・す、少しだけ素直になるわ」

 

そういった後詠が七乃に視線を向けると、その視線に気付いた七乃が笑顔で耳を塞いだ。

・・・なんと。そんな意思疎通が出来るほど、二人は仲良くなってたのか。気付かなかったなぁ。

七乃の行動を確認した詠は、ぼそぼそと話し始める。

 

「ぼ、ボク・・・最近、ギルに会ってなかったから、ちょっと寂しかった・・・わ」

 

「・・・そだな、色々あったし・・・すまん」

 

「謝って欲しくて言ったんじゃないの。・・・えと、なんていうか・・・うぅ」

 

その先が言いづらいのか、詠が少し言いよどむ。

 

「・・・ボクも、少し素直にかまって欲しいって言うわ。我侭だけど・・・あんたも、ボクを構って・・・ね?」

 

何この可愛い生物。今すぐ隣の寝室に連れて行って・・・いや、むしろここで開戦することもやぶさかではないが、流石に理性で押さえ込んだ。

さすがツン子の先駆者。真っ赤な顔で耳元でそう言われて、落ちない男はいないだろう。・・・俺以外にやらせるつもりは無いが。

目の前でニコニコからニヤニヤにシフトチェンジした軍師を後で抱き締めて褒めてあげることを決めつつ、今は詠だな、と手に力を込める。

少し強めに抱き締められるのが好きという、壱与ほどじゃないが少しMっぽい詠は、こうしてあげると喜ぶ。

・・・ちなみに、壱与のレベルまで行くと、骨が軋む、あるいは折れるくらいが一番興奮するらしい。もうちょっと自分の身体を大事にしろと蝋を垂らしながら説教したときは、思わず自分の頬を自分で殴ったが。

あの時は大変危なかった。

 

「んぅ・・・こうされるの、好き、よ」

 

「そっか」

 

しばらくそうしていると、斗詩がお茶を淹れて戻ってきた。

それと同時にぽんぽんと俺の腕が優しく叩かれる。詠からの、『もういいよ』のサインである。

 

「っと。さ、お茶を飲んだら再開ね。ボクも手伝うんだから、深夜までなんて長引かせないわよ?」

 

俺が手を緩めると、膝から降りた詠がいつもの腰に手を当て指を指すポーズでそう言い放った。

・・・その言葉どおり、詠の加入によって予定より早く作業は終了した。・・・作業終了後の空いた時間は、詠と七乃のために、たっぷりと使った。

 

・・・

 

「お、朱里発見」

 

「はわぁっ!? な、何故抱えられてるのでしょうっ!?」

 

「よく自分の心に聞いてみるんだな。後雛里も捕獲予定だ」

 

「はわわ・・・!? わ、私も雛里ちゃんも、何もしてませんよ!?」

 

肩の上に朱里を担ぎながら、城内を闊歩する。

すでに深夜。見回りの兵以外誰も歩いていないような時間だ。

こんな時間に起きているということは、また何か夜更かししてるな・・・?

 

「雛里が何処にいるか分かるか?」

 

「多分、私たちのお部屋かと・・・」

 

「よし、じゃあ襲撃するか」

 

「襲われるっ・・・!?」

 

「もちろん。夜這いに来たんだから」

 

「よばっ!?」

 

はわわ、と何時も通りの声を上げる朱里を担いだ状態から横抱きに変える。

 

「夜更かししてる悪い子を寝かせる為に、疲れさせてあげようかと」

 

強制的に落とす(気絶させる)気ですかっ!?」

 

「言っても聞いてくれないみたいだからな。仕事が溜まったんなら俺に頼れって言ってるのに」

 

「はわ・・・で、でも最近はお忙しそうだったし・・・今日はちょっとお手伝いいただきましたけど、私はあんまりギルさんに頼りすぎるのも、と思って・・・」

 

「『頼りすぎる』のは確かにいけないことだけど、『頼らなさ過ぎる』のも個人的に気に食わない」

 

朱里にそう気持ちを伝えつつも、最近話してすらいない俺の言うことじゃないな、と自省する。

もっとアレだな、皆のこと気にかけてあげないと。・・・それが、最低限の礼儀というものだろう。

なんてことを思っていると、朱里たちの部屋に到着。

 

「っし。夜だから静かに・・・悪い子はいねかーっ」

 

「あわわぁっ!? て、敵襲っ!?」

 

静かに扉を開けて静かに雛里に接近し、耳元で静かに声を掛けると、びくぅ、と跳ねるように驚いた雛里が椅子から落ちた。

 

「はれ・・・? ギルしゃん・・・?」

 

「こんばんわ、雛里」

 

「あ、こんばんわ、です」

 

魔女帽を深く被り、顔を少し隠しながらてれりこと挨拶を返してくれる雛里。

だが、すぐに顔を上げる。俺が抱える朱里が気になるらしい。

 

「しゅ、朱里ちゃん・・・? 何でギルさんに抱っこされてるの・・・?」

 

「それが・・・その、ギルさんが、最近夜更かししてるだろう、って・・・」

 

取り合えず、朱里を降ろしてあげることにした。

少し残念そうな顔をしたが、朱里はそのまま雛里にあのね、と話し始めた。

ちょっと手持ち無沙汰な俺は、雛里が向かっていた机に視線を移す。

・・・ん? 何だこれ、絵・・・か? 

 

「あわわ・・・そんな事が・・・。って、ギルさんっ!? そ、それはダメ、でしゅっ!」

 

「はわっ!? そ、それは新刊の・・・」

 

気になって視線を向けていると、二人が飛び掛るようにその紙の束を回収しようとしたので、それより早く俺が取り上げる。

 

「か、返してっ、返してくだしゃいっ!」

 

「はわ、それを見ちゃ、らめですっ、えいっ、えいっ!」

 

ぴょんぴょんと飛び跳ねて俺から取り返そうとするものの、その低身長が仇となって全く届いていない。

というより、必死に跳ねるたびに二人の体が当たるので、もとより返す気はない。

 

「・・・って、これ・・・」

 

『新刊』ってこういうことか。

最近の夜更かしの原因もこれだな?

 

「一刀×ライダー・・・? いや、出来るのか・・・?」

 

危うくその光景を想像しそうになって、慌てて頭を振る。

あっぶねえ、俺も腐るところだった・・・!

 

「っていうか、朱里たちって良く一刀をネタに描くよね。なに、俺より一刀のほうが良いの?」

 

「はわっ!? そ、そんな事ありえません! ・・・で、でも何故か、北郷さんで描かなきゃ、って体が・・・」

 

「・・・アレか。神の意思みたいなものか」

 

まぁ、俺をネタにして欲しいって訳じゃないし、そこはスルーするとしよう。

 

「・・・だが、俺の独占欲に火が付いたので、今日は二人とも手加減しないからな」

 

「はわわっ!? 独占欲、なんて・・・えへへ、ちょ、ちょっと嬉しい、かも・・・」

 

「あわわ・・・で、でも、手加減しない、って・・・」

 

「というわけで、二人ともこっちへおいで。・・・安心しろ。死にはしない」

 

深夜の城内、最近はずっと灯りがついているといわれていた蜀の二大軍師の部屋が、久しぶりに真っ暗になったと兵士に噂されるのは、翌朝の朝礼のときであった。

・・・そして、『寝坊により本日休暇』ということになった二人と、その代わりとばかりに書類を片付ける俺の姿に、ひそひそと何かしらの噂が広められるのに、そう時間は掛からなかった。

 

・・・




「ほんと、恐ろしいくらい一刀が八百一本の餌食になってるよなぁ。・・・神様、ちょっと聞きたいんだけどさ」「読めますよ?」「・・・あ、そうなんだ。ちなみに今の予測返答は俺の心を・・・」「読みました」「ですよねー。神様って便利ー。で、朱里たちは何で俺をネタに使わないかとかって分かる?」「・・・『ギルさんは私たちの恋人であって、題材にしていいような方じゃないから』、だそうですよ?」「ふぅん。・・・そっか、なんか嬉しいな」「はいはい、惚気は勘弁してくださいねー。・・・あ、ちなみに良く題材にされる北郷さんは、『男でもいけそう。貂蝉とかライダーでもイけそう』と思われてます。・・・起きたら慰めておいてあげてくださいね」「お茶啜りながらそんな事言われても・・・俺、一刀どころか朱里たちとどう接していいか分からなくなるんだけど・・・」


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