真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「邪馬台国といえば、男の王を立てたら争いが耐えなかったから女王にしてみたら纏まったって感じだよね」「まぁ、ざっくばらんに言えばそうだな」「・・・あれかな。女王、萌えー! なんて結束を見せてたのかな。そうだとしたら流石日本人といわざるを得ないんだけど」「その後の壱与なんてホント、設定的にはヒロインだよね。幼いながらも女王として国を統治する、なんてさ」「・・・やっぱり、どれだけ古代でも日本人は日本人だったってことか・・・」

それでは、どうぞ。


第六十八話 邪馬台国に

「今日とか暇?」

 

「ん? まぁ、暇っちゃ暇だけど」

 

「じゃ、ウチくる?」

 

「・・・そういえばそんな話してたな。行けるのか?」

 

訓練を終えた俺を待っていたのは、卑弥呼と壱与の邪馬台国コンビだった。

そういえば年始に挨拶に向かうと約束してたな。

 

「ええ。わらわに触れてなさい。一緒に平行移動するわ」

 

「壱与にも触れてて良いんですよっ、ギル様っ」

 

「・・・卑弥呼、行こうか」

 

そう言って、卑弥呼の肩に手を乗せる。

壱与がなにやら文句を言ってくるが、それをスルーして卑弥呼は魔法を発動させる。

一瞬目が眩むような感覚がして――。

 

・・・

 

「ついたわよ」

 

そう言われて、思わず閉じていた瞼を開く。

そこは木造の屋敷とでも言うような場所だった。

おそらく、卑弥呼が引きこもっていたといわれていた神殿だろう。

 

「ここがわらわの神殿。・・・壱与、わらわは顔出せないから、代わりに弟呼んできなさい」

 

「はいっ」

 

軽い足取りで屋敷から出て行った壱与を見送り、勧められるままに座布団の上に座る。

・・・座布団あるんだ、今の時代に。

なんて思っていると、卑弥呼は俺の隣に腰を下ろして体を寄せつつ口を開いた。

 

「まぁ、ある程度見て分かってると思うけど・・・多分、あんたの知ってる邪馬台国じゃないと思うのね」

 

「だな。・・・俺の知ってる卑弥呼の生きた時代って言うのは、もっとこう・・・」

 

「原始人っぽい?」

 

「悪い言い方をすればそうだな」

 

弥生時代といえば、着るものは幅広い布を帯か何かで留めておくだけ、とか、食べる時は手づかみだとか、そういう時代だったはずだ。

 

「ま、そうよねー。それを良しとしないのがわらわなんだけど」

 

「と、いうと?」

 

「取り合えず平行世界行きまくったわ。ちょっとでも文明文化が進んでればそこから学んだし、それを利用して文化水準上げまくったもの」

 

「なんという内政チート・・・」

 

「ふふん。女王だもの。国のために粉骨砕身するのは義務でしょう?」

 

そう言って、まるで「褒めなさい?」とでも言うように胸を張る卑弥呼。

偉い偉い、と頭を撫でてやると、照れくさそうに笑う。

 

「ま、そんな感じだから・・・後で壱与に案内してもらいなさい。驚くわよー?」

 

こちらをニヤニヤと笑う卑弥呼は、自分の政務机らしいところへ移動すると、なにやら書き始めた。

 

「なんなんだ、それ?」

 

「んー? 日記みたいなもんかしらね。こういうのがあると、未来の歴史学者が助かるでしょ?」

 

「・・・凄い理由だな」

 

でもまぁ、確かにそういうのがあれば、学者なんかは大助かりだろう。

 

「あんたが来たこととか、忘れないうちに書いておかないと。・・・あんたのことなんて書けばいいのかしら。カタカナとかで書いて通じるのかなー」

 

「未来の歴史学者が一斉に首を捻るな。遥か昔に死んだはずの古代ウルクの王が邪馬台国に居たりしたら」

 

「そうよね。ま、取り合えず身体的特徴と、名前と・・・こんくらい分かりやすく残しておけば、疑われることも無いでしょ」

 

何故か、歴史を変えてしまったかのような感覚を覚えてしまう。

中身は一般人なんだけど・・・と言ってももう遅いだろう。俺自身、今はもう『ギル』としての意識が確立しちゃってるからな。

・・・あれ、ギルガメッシュってウルクの王だから・・・このまま日本に記録として残ると大変なことになりそうな気がする。

 

「っていうかカタカナあるのか」

 

「あるわよ。・・・文化水準高めまくったって言ったじゃない」

 

「そこまで上がってるとは思わないだろ、普通」

 

「つっても、わらわくらいしか使わないけどね。こういう風に歴史書作るときくらい?」

 

「完全に怪しい本になるな」

 

大丈夫なのだろうか。未来で偽物呼ばわりされないだろうか・・・。

そんな心配をしていると、こちらに近づいてくる気配を捉えた。

二人・・・壱与と弟くんだろうか。

壱与も弟くんも、何故か部屋には入らずに扉の外から声を掛けてくる。

 

「ただいま戻りましたー!」

 

「姉さん、来たよ。あ、あけましておめでとう」

 

「あけおめ。わらわの恋人が来てるのよ。壱与を案内につけるから、町を適当に見せてやってくれない?」

 

「分かったよ。じゃあ、準備が出来たら外に来て貰って。壱与ちゃんと外で待ってるから」

 

「んー」

 

外から聞こえた声に適当に答えると、卑弥呼はこちらに向き直る。

 

「聞いてたでしょ? 取り合えずあんたの準備が出来たら外に行きなさいな。わらわはここで書き物してるから」

 

「了解。・・・準備って言ってもな。特に準備することもないし・・・行くか」

 

よっこいしょ、と立ち上がって、だだっ広い卑弥呼の私室の出入り口まで向かい、扉に手を掛ける。

がちゃり、と音を立てながら、卑弥呼の神殿の扉が開いて、外の明るい日差しに少し目がくらむ。

そんな俺の背中から、卑弥呼の問いかけが飛んできた。

 

「いいの? 心の準備とか」

 

「ん? そんなに準備が必要・・・か・・・?」

 

卑弥呼の言葉に一度振り返り、光になれてきた頃にもう一度扉の外に目を向ける。

目の前に広がる光景を見て、思わず扉を閉めて後ずさる。

・・・あれー? 邪馬台国だよな、ここ。・・・うん、邪馬台国。

 

「もう一度・・・」

 

そう呟きながら扉を開いて・・・また無言で扉を閉める。

 

「・・・もうちょっと準備、いるんじゃない?」

 

「・・・いるっぽい」

 

苦笑いを浮かべる卑弥呼に、俺も苦笑いで返すしかなかった。

 

・・・

 

全速力で弟様を呼びに行った後、また壱与は卑弥呼様の神殿に向かって走っていました。

 

「おいおい、壱与ちゃん。そんなに早く走られると、僕もうおじさんなんだから追いつけないよ」

 

「ふふっ。壱与と卑弥呼さまの旦那様をお見せするんですっ。もう待ちきれませんよ」

 

後ろを付いてくる弟様は、少しだけ小走りで苦笑いしながら、私の後ろを付いてきます。

まだおじさんなんて年齢じゃないのに・・・もう、最近政務ばかりだから鈍ってるんじゃないですか?

 

「手紙で何度も聞いたけど、素晴らしい人みたいだね」

 

「ええもう、それはっ! 壱与にとって神のごとく・・・いえ、あの方こそ壱与の神! 崇め奉るべき神なのです!」

 

「・・・そこまで入れ込むのは凄いね。ホント」

 

こうしてるだけでも、ギル様の激しい攻めやお優しいナデナデを思い出して・・・ああ、壱与、達してしまいそう!

 

「んんっ。・・・ふぅ」

 

「・・・うわぁ」

 

立ち止まって一旦処理。

感情も落ち着いたので再び走り出すと、後ろの弟様がとても嫌そうな顔をしていました。

 

「?」

 

もしかしたら、久方ぶりの運動でやはりお辛いのかもしれませんね。

・・・うぅ、もうちょっとゆっくりにするべきだったかなぁ。で、でもでも、ギル様をお待たせするなんて壱与にはそんな失礼な真似・・・。

 

「壱与ちゃん、こっちこっち。行き過ぎてるよ」

 

「っとと。そうですね。・・・ただいま戻りましたー!」

 

・・・

 

弟様が声を掛け、ギル様の準備が出来次第出立ということでしたが、先ほどからギル様は扉を開けては閉め、開けては閉めを繰り返されております。

・・・どうしたんでしょうか?

 

「・・・やっぱりこの町並みを見れば、普通の人はびっくりするよ」

 

「そう、なのでしょうか? ・・・壱与は生まれたときからこの町なので、特に疑問は抱かなかったのですが・・・」

 

「僕は姉さんと一緒に育ってきたからね。君が生まれる前の邪馬台国も、それを変革しようとする姉さんの姿もずっと見てきた。・・・だからこそ、姉さんは『日記』として記録を残そうとするんだろうけどね」

 

「? ・・・壱与には、難しいお話でしょうか・・・?」

 

「・・・ふふ。かもね。まぁ、僕もたまには君のお父さんっぽいことをしないとな、と思っただけだよ」

 

そう言って、弟様・・・お父様は、壱与の頭をゆっくりと撫でてくれました。

ギル様とは違う、でも同じように温かいお手。

 

「あ、出てきましたわ! ギル様ー!」

 

「おっとと。・・・なるほどね、彼が『ギル様』、か」

 

ギル様に駆け寄ると、壱与を受け止めてそのまま流れるように頭を撫で梳いてくださいました。

 

「どうですか、邪馬台国は! とってもいいところでしょう!?」

 

「ん、ああ、そうだな。うん。・・・思えば俺も神様の部屋とか言ってるんだし、こういう超常現象にはもっと落ち着いて対処すべきなんだよな。うん」

 

なにやらしきりに頷いていらっしゃいますが・・・。きっと壱与には想像もつかないようなお考えが頭に浮かんでいるに違いありません!

 

「それでは、ギル様。邪馬台国をご案内いたします!」

 

「お、おう。頼むよ。・・・ゆっくりな?」

 

ギル様のお手を引いてお父様の元へと向かうと、ギル様とお父様が自己紹介されてました。

そのまま、お父様の先導でギル様を邪馬台国の色んなところへとご案内しました!

むこうの世界の大陸でも中々のものがありましたが、邪馬台国にも美味しいものはいっぱいあるんです!

 

「どうですかこのお味!」

 

「・・・壱与にも言ったけどさ、俺って中身は日本人な訳よ」

 

「はい! 壱与と同じ血が流れているのですよね!」

 

「やっぱりこういうのが懐かしいと思うのがその証拠だよなー」

 

「お口に合ったようで何よりです!」

 

「今度一刀と甲賀とランサーつれてくるか。・・・あいつらなら、この世界をもっと喜ぶだろうし」

 

遠い目で『塔』を見つめるギル様・・・。うぅ、何か遠い目をされてます。

こ、こういうときは『神殿』にお戻りいただいたほうがいいのでしょうか・・・。あぁ、壱与、こういうときは何をしていいか分からなくなっちゃいます・・・。

 

「っと、ごめんな、壱与。なんかしんみりしてた」

 

「ふぁっ!? あ、い、いえ! ギル様が謝ることでは!」

 

ぶんぶんと頭と手を横に振る。そんな壱与を見て、ギル様は優しく頭を撫でてくださいました。

・・・やっぱり、壱与はギル様のこと大好きなんだなぁ。

 

「そろそろ日も暮れる。僕も家に戻らないといけないから、壱与ちゃん、ギルさんを姉さんの屋敷まで送ってくれるかな」

 

「分かりました! それでは、いきましょ、ギル様!」

 

「ん、おう。・・・あ、弟くん。ありがとう。楽しかったよ」

 

「いえ。姉さんの夫になる方ですから。おもてなしして当然ですよ。・・・相当驚かれていたようですから、多分姉さんに根掘り葉掘り聞かれますよ、きっと」

 

「かも知れないな」

 

そう言ってお父様と別れを告げられたギル様は、壱与が手を引いて『神殿』までお送りいたしました。

途中にあった『塔』や『港』にちらりと視線を向けては軽いため息を吐くギル様に少し首をかしげちゃったりもしましたが、特に問題も無く卑弥呼様の『神殿』までやってこれました。

 

「ただいま戻りましたっ。卑弥呼様!」

 

「ただいまー」

 

「あら、お帰り。早かったじゃないの」

 

卑弥呼様に出迎えられ、お部屋の中へ。

すでに夕餉の準備がされていて、人数分の膳の上に乗っていました。

 

「ご飯は用意させといたわ。祝いの席ですものね、ある程度豪華よ」

 

「だな。・・・確かに、豪華だ」

 

? ギル様は今日何度目かになる妙な顔になりました。

どうしたんでしょうか? 

いつものお正月のご飯ですが・・・ああ、そういえばギル様が前にいらっしゃったところはここより遥か未来。

そして、今生活されているのはかの大陸。となればこの邪馬台国と食生活が違うのも納得です。

 

「取り合えず、いただいちゃいましょうか。・・・いただきまーす」

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

もぐ、とお漬物を一口。うん、美味しい。

ギル様も一口食べてお気に召したみたい。とても美味しそうな顔をされてます。

良かったぁ。

 

・・・

 

「で? 今日は泊まってくの?」

 

「どうしようかなぁ・・・正直、一泊ぐらいしてみたい気がしないでもないんだよな」

 

「いいじゃないの。していけば。わらわの夫ってことは、あんたの家も同然なんだから、ここは」

 

「そうですよっ! それに、ここなら他の女の邪魔も入りませんから・・・壱与が一晩中、ご奉仕できます!」

 

「はぁ!? 壱与にだけ任せられるわけないでしょ!? もちろんわらわも一晩中ギルのお世話してやるんだから!」

 

なんですか!? なんだって!? と何時も通り言い合いに発展した二人を見て笑いつつ、まぁ一晩泊まっていくかと思う。

二人の一晩中の奉仕というのが気になる、というのもあるが、まぁ久しぶりに布団で寝てみたいな、とふと思ったのだ。

 

「じゃあ、お言葉に甘えるよ。三人で川の字で寝るって言うのも良さそうだ」

 

「川の字って普通親子よね? ・・・どっちが娘でどっちが嫁?」

 

「もちろんっ! 決まってるじゃないですか! 卑弥呼様が奥さんで、壱与が娘です!」

 

「・・・即答なんだ」

 

「・・・即答なのね」

 

壱与こそギル様のお嫁さんです! 位は言いそうだと思ったんだけど。

アイコンタクトを取った卑弥呼も同じことを考えていたらしい。

そんな俺達に、壱与は小首をかしげながら口を開いた。

 

「え? だってだって、娘って設定のほうが背徳感あって興奮するじゃないですか」

 

「・・・卑弥呼、壱与の教育は任せた」

 

「はぁ? やめてよね。教育は夫婦二人の仕事なんだから」

 

嫁に娘の教育を押し付けようとしたら、普通に反論を受けた。

・・・仕方あるまい。

 

「あ、でも壱与のお父様は弟さまがすでにいらっしゃいますね。・・・となると、壱与が奥さんで卑弥呼様が娘・・・フォカヌポゥ」

 

「おい、なんか変な妄想始めたぞ。お母さんを止めて来い、娘よ」

 

「嫌よ。こういうのは夫の役目でしょ? お、と、う、さ、ん?」

 

娘に嫁の矯正を押し付けようとしたら、普通に反論を受けてしまった。

・・・む? どっちみち俺は苦労するのか。

 

「取り合えず、ご飯食べ終わったら寝ましょ。いつの時代でも、日が暮れたら寝るのが健康の秘訣なんだから」

 

「っ! ご、ご馳走様! 壱与、お布団用意してきますね!」

 

はぐはぐ、と急いで食事を終えた壱与が、とたとたと膳を下げ、部屋を出て行く。

どうやら布団を取りに行ったようだ。侍女のような人も呼んでいたので、おそらく人数分。

 

「・・・あいつ、またなんか企んでるわね。まぁいいわ。あいつがいないならいないで、いつもは出来ないことが出来るもの。・・・ほら、あーん」

 

「あーん。・・・ほら、卑弥呼も」

 

「あー・・・んむ。・・・ふふっ。おーいしっ」

 

頬に手を当てて顔を赤く染めながら恥ずかしがるその姿は、完全に乙女のものだ。

・・・流石は乙女女王。同じ名前で漢女を名乗る似非乙女とは一線を画すな。

 

「去年の正月は、まさか恋人と甘ったるく過ごすなんて思ってなかったわね。・・・いい気分よ、わらわ」

 

「それは良かった。・・・おいで、卑弥呼。もっと甘くしてやろう」

 

「・・・んふ。我慢弱いのよ、わらわは」

 

だって女王だもの、といつもの台詞を言い切らせず、そのまま口を塞いで服の中へと手を滑らせる。

・・・その後、その場を目撃した壱与によって光弾を打ち込まれた後、布団できちんと二人とも相手をさせられたのは言うまでも無い。

 

・・・

 

「・・・っと」

 

これで帰ってこれたのかな。

うん、周りは見慣れたいつもの自室だ。

お、シーツが代えられてる、侍女隊の仕事だな。

麗羽も手伝いをしているのだろうか。元気にやってくれているといいのだけど。

 

「それにしても、邪馬台国は衝撃だったなぁ」

 

どうだったのか、と聞かれると説明に窮するんだけどさ・・・。

まぁ、新鮮で懐かしさを感じるというある意味矛盾した思いを抱いたとだけ言っておこう。

・・・あそこを統治してるのか・・・凄いな卑弥呼。

 

「ま、取り合えず気分を切り替えよう」

 

じゃないと、いつまでもあの邪馬台国のことを引きずりそうだし。

気分変換も兼ねて、本でも読むかなー。

そう決めて宝物庫から椅子と本を取り出す。

 

「えっと、前は何処まで読んだかなー」

 

外は雪が積もっていて寒そうだが、まだ昼間だからか日光は暖かい。

この俺の部屋は要塞かと見紛う程に結界マシマシの部屋なので、冷気ならば遮断できる。

ちなみに、月のいる後宮はもっと結界マシマシである。冬暖かく、夏涼しいというもので、更に魔力を循環させるというキャスターの神殿のようなところになっている。

 

「お、ここだ。・・・ふむ」

 

しばらく、ぺらり、という頁を捲る音だけが部屋に響く。

・・・読み進めていくと、この部屋に近づいてくる気配が一つ。

 

「おーい、ギルー? いるかー?」

 

声からして白蓮だな。

どうしたんだろうか。声に緊急性が無いから、麗羽たちが何かやらかしたということではないのだろう。

 

「いるぞー。はいっといでー」

 

「邪魔するぞ」

 

がら、と扉を開けて白蓮が部屋に入ってくる。

少し部屋を見渡して俺を見つけると、そのまますたすたと近づいてくる。

 

「どうした? 白蓮が俺の部屋に来るなんて珍しいな」

 

麗羽が何かやらかしたときだとか、たまに暇なときに、「よう」と遊びに来て本を読んだりお茶を飲んで行ったりはするが。

 

「いや、ほら、麗羽が侍女になったりとか、色々あっただろ? ・・・上手くやってんのかなって」

 

「まだ一日しか経ってないぞ?」

 

「だからだよ。最初の数日さえ何とかなれば、麗羽もキチンと仕事をこなせる様になってくからさ」

 

「それもそうだな。・・・ええと、ここに確か報告書が・・・っと」

 

机の引き出しを捜してみると、綴じられた報告書が出てくる。

今月の分なのでまだ数日分しかないが、ここには新人教育についてだとかも書いてある。

 

「読んでみるか?」

 

「おう、借りるよ。・・・何々? 『本日より、新人として、ギル様のお知り合いの袁紹という方が入隊。ギル様のお部屋掃除を手伝わせたところ、見所有りと判断』・・・へえ、中々高評価じゃないか」

 

「うん。侍女の班長に話を聞いてみても、手際も良いし、見所があるって言ってたよ。もしかしたら、天職かもしれないな」

 

「はは・・・。あの麗羽の天職が侍女って言うのも、なんか皮肉だよなぁ」

 

苦笑いをする白蓮に、頷きを返す。

確かに、どっちかって言うと侍女にお世話してもらう側だろうしなぁ。

それに、見所有りと言われても初日は結構大変だったらしい。

 

「ま、これからだろうさ。・・・白蓮も意外と世話焼きだよな」

 

「な、なんだよいきなり」

 

「あれだけ振り回された麗羽のこと、ちゃんと心配しちゃって。・・・意外と悪くなかったのか?」

 

「ばっ! ・・・ま、まぁ、振り回されたときも迷惑って程じゃなかったけどさ・・・」

 

「ツンデレか。詠とか華琳と被ってると思うぞ」

 

「・・・お前、私がいつも方向性を見失っているみたいな扱いはやめろよな・・・」

 

「はっはっは、すまんすまん」

 

まぁ、白蓮は『影が薄いことを気にする』とか『方向性を見失っている』というのがキャラのような気がするので、これからも多分方向性とか見つからないんじゃないだろうか。

その分、色々言いくるめて色んな服装を着せられるので、とても重宝する将の一人である。身体のコンプレックスも無いしな。

・・・その汎用性のある性格のせいで、麗羽の世話とか武将同士の折衝とかに駆り出されることが多く、皆から雑用係のようなイメージを持たれている白蓮だが、俺の中では結構評価の高い子の一人である。

 

「そういえば、晩飯は?」

 

「ん? もうそんな時間か? ・・・今日はどうするかなー。今まではなんだかんだ言って麗羽と食べたりしてたからさ」

 

確かに、無理矢理食事に連れて行かれて、妙に高級な飯店で食事を取っている白蓮を何度か見たことあるな。

あれはそういうことだったのか。・・・ちなみに、その料金は全て俺持ちである。多喜にツケられた時以上にキレそうになったのは秘密である。

 

「だったら、一緒に食うか? 今日は珍しく俺が厨房に立つからな。食べていくと自慢できるぞ」

 

「はは、誰にだよ。・・・ん、ま、そうだな。今日はギルの料理の腕前を見てやろうかな」

 

「お手柔らかにな。じゃ、行こうか」

 

「おう」

 

元気に笑う白蓮をつれ、厨房へと向かう。

私室で作っても良かったが、まぁちゃんと器具の揃っている厨房に行った方が効率はいいだろう。

 

・・・

 

「よっと」

 

「・・・凄い手際だな。前に一度流流のを見たことがあるが・・・それに負けず劣らずじゃないか」

 

近くで俺の調理の様子を見ていた白蓮が、感心したように一人ごちる。

褒められて悪い気はしないので、量をちょっとサービスしてやろう。

 

「私もそれなりに作れるが・・・流石にここまでとなるとやっぱり得意な奴には負けるよ」

 

「白蓮も作れるんだな。・・・ま、このお返しってことでまた今度、白蓮の手料理を作ってくれよ」

 

「別にいいけど・・・あまり期待はするなよ? 流流とか高級飯店みたいな味を期待されても、絶対無理だからな!」

 

「おいおい、俺は華琳みたく味にうるさい、なんてことは無いぞ」

 

「そうかぁ? ・・・お前、結構舌は肥えてるだろ?」

 

「まぁ、それなりには」

 

っていうか、愛紗の料理を食べたりもしてるんだから、『このあらいを作ったのは誰だ!』とやるような人間ではないのは分かると思うんだが。

・・・だが、白蓮と料理の話をしたのは初めてな気がするから、知らないのも仕方が無いか。

 

「ほら、出来た。簡単だけどな」

 

「おぉ・・・簡単に、でこれほどまでのものが出来るのか・・・」

 

流石だな、と呟く白蓮。

ふふん、だろう? 流流と一緒に鍋を何度か破壊しながら練習した甲斐があったというものだ。

作ったのはチャーハンと麻婆豆腐だが、漂う匂いはとても食欲をそそるだろう。

 

「さ、冷めないうちに食べちゃおうぜ」

 

「ああっ。ええと・・・いただきます」

 

「召し上がれ」

 

俺もいただくかな。

手を合わせていただきます、と挨拶。

一口分すくって食べると、俺が思っていたよりも上手に出来ていたようだ。

中々上達しているじゃないか、俺も。今度流流や華琳に振舞ってみようかな。

 

「おっ、凄いなこれ・・・ほど良く辛くて・・・私の好みだよ」

 

「そいつは良かった。俺の好みで作っちゃったから白蓮の口にも合うか不安だったけど・・・ま、好みが一緒でよかったというところかな」

 

「・・・そ、そっか。・・・そうか、好みが一緒・・・ふふっ」

 

「? どうした、白蓮?」

 

「んあっ!? い、いや、何でも!」

 

それならいいんだが・・・。

顔を赤くして取り乱す白蓮をこいつも可愛いなぁと思いつつ目の保養にする。

うむ、白蓮はなんだかんだ言って冷静な子だからな。七乃の次くらいに取り乱さない子だよなぁ。

脳内フォルダに保存しておいて、後で時々思い返すとしよう。脳内CG収集率は白蓮が一番低いからな。スチルが少ないのです。

 

「チャーハンも美味いな。ホント、流流みたいな料理を作るよなぁ」

 

「まぁ、そりゃ一番近くで教えてもらってるからな。それこそ手取り足取り」

 

「ははっ、違いない」

 

屈託無い笑みを浮かべる白蓮と共に食事を終わらせ、満足して厨房を出る。

 

「いや、それにしても麗羽が何とかやってるって聞いて安心したよ」

 

「そりゃ良かった」

 

「まー、その、今までも世話になってるけど、またなんかやったときは手助けしてやってくれよな」

 

「おう、任せとけ」

 

「・・・んと、それじゃ仕事残ってるから失礼するよ」

 

「ああ。頑張ってな」

 

ありがと、と言いながら手を振り、駆けていく白蓮。

・・・やっぱり、面倒見良いよなぁ、あいつ。

 

・・・

 

麗羽が侍女隊に編入してから一ヶ月くらい経っただろうか。

すでに町から新年のお祝いムードはなくなっており、皆寒そうにいつもの業務を行っている。

一刀たちと豆まきをしたのだが、あれは白熱した。まさかランサーが豆を銃に詰めて撃って来るとは。

月も順調にお腹が大きくなってきているようだし。いい事ずくめだな。

何時も通りぶらぶらと町を歩いていると、前からシャオが駆け寄ってくる。

 

「ギルーっ!」

 

「おっと。どうした、シャオ。一人で歩いてるなんて珍しい」

 

「えへへー。一人じゃないよー? 明命たちもいたんだけど、ギル見つけたから一人で来ちゃった!」

 

「おいおい。・・・あ、おーい、こっちこっちー!」

 

抱きつきながらサラっと酷いことを言うシャオを撫でつつ辺りを見渡すと、焦ったようにキョロキョロ辺りを見回しながら動く明命たちが。

平均より若干高い俺が声をあげながら手を振ると、こちらに気付いた亞莎が他の皆を呼んでこちらに駆けてくる。

 

「ギル様っ、この辺りでシャオ様を・・・って、シャオ様!」

 

「みんな、おっそーい! あてっ」

 

「全く。お姫様だってことを自覚しなさい。一人で行動したら心配されるのは当たり前だろ」

 

「ありがとうございますギル様。シャオ様を捕まえていてくれたのですね!」

 

「んー? あー、ま、まぁ、そうなるかな?」

 

亞莎のキラキラとした目で見つめられたので、取り合えず頷いておく。

彼女の期待を裏切らないように、と思いすぎて俺を持ち上げるような言葉には取り合えず頷くようになってしまった。

そこはかとなく「俺はそんなに凄い人間じゃないんだよ」というのは伝えているのだが、それすら謙遜に受け取られてしまうようだ。

 

「今日はどうしたんだ? 仕事から逃げてきたのか?」

 

「ちっがうもん! 明命が甲賀に会ってみたいって言うからおうち探してたの!」

 

「甲賀の家?」

 

「・・・確かに前行って道覚えたと思ったんだけど・・・全然見つからなくて・・・」

 

なるほど。ま、甲賀の家には認識阻害とかの魔術が大量に掛かってるからな。

見つからなくても仕方あるまい。

俺が普通に見つけられるのだって、甲賀から『通行証』を貰っているからだし。

シャオが以前甲賀の家にいけたのも、その『通行証』を持っている俺と一緒にいたからなのだ。

 

「・・・まぁ、確かに明命を見せるとどういう反応をするかは興味あるな。よし、一緒に行こうか」

 

「ほんとっ!? ありがとー! ギル、大好き!」

 

「はっはっはー、嬉しいなー。もっと言っていいんだぞー」

 

「ぎっ、ギル様っ。だ、大好き・・・です!」

 

「私もっ。私も大好きですよーっ!」

 

亞莎と明命も俺の両サイドを固めてそう言ってくれる。

・・・幸せだなぁ。

何時も通り腕に絡まってくるシャオと、少し離れて・・・それでも、以前よりは遥かに近い位置で歩く明命と亞莎を連れて、一行は甲賀の家に向かうのだった。

 

・・・

 

「・・・なるほど、確かにくの一だな。だが、まぁ、忍者ではない」

 

「おお?」

 

以外だ。甲賀のことだから『くの一! くの一ヒャッホウ!』とかいいそうだと思ってたんだけど。

 

「あれだな、亀甲縛りにして天井から吊るされるのが似合いそうな女だとは思うが」

 

「マンハントのときは逆に亀甲縛りにして木から吊るす役なんだけどな、明命は」

 

「何の話してるのか分からないけど、大体内容が分かっちゃうんだけど・・・」

 

「はっはっは、気にするなシャオ。甲賀と俺は大体こんなんだ」

 

「こんなことばっかり話してるの? ・・・んふ、だったらー、シャオで実戦、してみる?」

 

そう言って、俺を上目遣いに見上げて胸元をちらりと見せるシャオ。

 

「・・・分かってないな、シャオは」

 

「ええっ!? な、何でため息つかれてるの・・・」

 

そういうのじゃないんだよ。

わっかんないかなー、実際にするのと、馬鹿話の中で妄想するのとは違うんだよなー。

 

「ま、そういうのが分かるまではもうちょっと掛かるかもな」

 

「んむー・・・」

 

まさに納得いかない、という顔をしているシャオを撫で、俺達の後ろで緊張で固まりながら正座している二人に声を掛ける。

 

「そんなに緊張しなくて良いんだぞ? もっと寛いじゃえよ」

 

「お前・・・俺の家だぞ。まぁ、別に構わんが」

 

「そっ、そんなわけにはっ!」

 

「そうです! ギル様のご友人のお宅で、寛ぐなんて・・・!」

 

「・・・まぁ、二人がそれでいいならいいんだけど」

 

背筋を伸ばしてそこまで反論されては仕方が無い。

・・・まぁ、後で足痺れても知らないぞ、とだけ言っておく。つんつんしてやろう。

 

「そういえば貴様、あの卑弥呼の故郷に行ったそうだな」

 

「ん、おう。行って来たよ。なんていうか・・・凄いところだった」

 

「・・・興味深いな。隣の世界とはいえ古代日本だ。今度連れて行ってもらえるか聞いておいてくれ」

 

「問題ないと思うけどな。ま、取り合えず伝えておく」

 

「失礼します。お茶とお茶菓子をお持ちしました」

 

話がひと段落すると、丁度良くランサーが入ってきて、目の前のちゃぶ台に持ってきたものを並べていく。

羊羹・・・流石甲賀の家だ。まさしくタイムスリップしている気分。

 

「な、なんでしょう・・・この、四角いのは・・・?」

 

「お茶菓子って言ってたから・・・甘いのかな?」

 

明命と亞莎は出された羊羹に興味津々のようだ。

先ほどまで俺の後ろにいたのに、ちゃぶ台の前まで出てきている。

 

「羊羹って言ってな。甘いぞ」

 

「ほわぁ・・・ようかん、ですか。なんだか不思議な響きですね」

 

菓子楊枝でさくっと切り分けて一口食べる女子達。

頬を押さえて感動した顔をしているということは美味しかったのだろう。

流石甘味。女子受けはいいよな。

 

「なんだか、ほっとする味ですね。お茶も、お菓子も」

 

「確かに、和むよなぁ」

 

ほぅ、と明命と同時にため息をつく。

 

「・・・ギルのほうが異国人に見えてくるな。貴様、そこまで日本人離れした外見しておきながら中身は日本人とか詐欺過ぎる」

 

「そんな事俺に言われても。・・・でもまぁ、客観的に見て明命のほうが『それっぽい』のは否定しない」

 

同じお茶を飲んで和んでいる光景でも、俺だと『日本に旅行に来てる外国人』に見えるだろうし、明命は『日本の茶道の家元』みたいに見えるのはまぁ、外見的に仕方なかろう。

そんなことを思いながら明命を見ていると、明命もこちらに気付いて俺を見上げる。

 

「・・・ーっ!」

 

すぐに恥ずかしがって俯いてしまい、所在なさげに羊羹をぶすぶすと刺している。あ、こら、食べ物は粗末にしない。

・・・そういえばさっきからシャオが静かだな。

そう思ってちらりとシャオへ視線を向けると、羊羹を一口食べた体勢のまま止まっていた。

 

「シャオ? どうした?」

 

「・・・ギル? んー? なんだろ、なんか、気持ち悪い」

 

「お前、人が出した菓子を食って気持ち悪いとか・・・あ、いや、ランサー! すぐにジイを呼んでこい!」

 

「は、はっ!」

 

何かに気付いたのか、甲賀はランサーに指示を出した後、すぐに立ち上がる。

 

「ギル、この娘についていてやれ。多分悪阻だろう」

 

「・・・は? ああ、なるほど」

 

確かに、月と同じような症状ではあるな。

・・・え? 悪阻? マジで?

 

「マスター! 連れてまいりました!」

 

「ジイ、すまんがこの娘を診てやってくれ」

 

「ふぇ? ふぇ!?」

 

「な、何が・・・?」

 

「あーっと、明命、亞莎、雪蓮か蓮華を探してきてくれないか?」

 

戸惑う二人に取り合えず指示を出して退去させる。

華佗も呼んだ方がいいだろうか。

 

「うぷ。・・・うえ、ほんとにぎぼぢわ゙る゙・・・」

 

取り合えず、シャオの背中をさすってあげることにする。

 

・・・

 

「うむ、この子も妊娠しているな。一ヶ月とちょっとだろう」

 

「わーいっ! お姉様達より先ね!」

 

甲賀の家に急遽呼ばれた華佗により、シャオに宿る気が二つあることが確定。

おめでただと伝えられた。

 

「・・・まぁ、あれだな。話には聞いていたが・・・実際に妊娠させてるとなると笑い事じゃないな」

 

「何が言いたいんだよ、甲賀」

 

「ギル殿はロリコンなのですね」

 

「馬鹿、ランサー。俺も濁してたのにそんなにはっきりと」

 

「お前らな・・・」

 

いつもの恨みとばかりにランサーから辛辣な言葉を投げかけられる。

否定しきれないのが悔しいが、まぁ本気で貶めようとしているわけではないのだろう。

 

「ギルっ、赤ちゃん出来たって!」

 

「おっとと。おいおい、お母さんになるならそういうことも我慢しなきゃだぞ」

 

「あ、そっか・・・んー、少し我慢しないとなのね」

 

むぅ、と口を尖らせるシャオ。・・・いや、ホント犯罪臭しかしないぞ・・・。

 

「後で月のところに行こうか。色々と話をしてくれると思うぞ」

 

「うん、分かったわ! っと、その前にお姉様たちね! ちょっと行ってくる!」

 

「あ、おい、走ったりしたらあぶな・・・」

 

「だーいじょーぶ!」

 

俺の制止も聞かず、シャオは駆けていってしまった。

・・・大丈夫かな。一応自動人形に追いかけさせよう。

 

「・・・」

 

「頼んだぞ」

 

宝物庫から出てきた自動人形は、俺の言葉にこくりと頷くと、そのまま屋根の上に飛び乗りシャオと同じように駆けて行った。

 

「いや、お騒がせしちゃったな」

 

「む、構わん。俺の家で良かったな。医者が常に待機してるから、早く対応できたしな」

 

「ギル殿っ。改めておめでとうございます!」

 

「ん、おう、ありがと。・・・にしても、城に戻るのが怖いな」

 

「そこは俺達ではどうにもならん。諦めろ」

 

「ですね。取り合えず今日も徹夜ではないのですか?」

 

ランサーの言葉に、そうだよなぁ、と一人ごちる。

取り合えず宝物庫の中にある栄養ドリンクか眠気覚ましでも飲んでいくか。

あ、龍の秘薬もあったな。月に飲ませたのとは別の効能で、男用だったはずだ。あれも飲んでおくとしよう。

 

「・・・俺、生きて帰ったらお前達を邪馬台国に連れて行くんだ」

 

「何で今はっきりと死亡フラグ立てるんだこいつは」

 

「ということは連れて行ってくださらないということでしょうか?」

 

「何で死ぬこと前提で話進めるんだよ・・・」

 

俺嫌われてないよね? 大丈夫だよね?

そんな不安を抱きつつも、城へと戻るのだった。

 

・・・

 

「・・・で? 言い訳を聞きましょうか」

 

「いや、言い訳とかそういうのは無いんだけど・・・」

 

「ふぅん? そう? 最近週に一度くらいで、今日どうかなーとか思ってたんだけど・・・シャオ、ギルとは週に何回くらいしてたの?」

 

「ふぇ? えーと、三回くらいかな!」

 

「・・・幼女趣味だったってホントだったのね」

 

シャオを追いかけて城に戻ると、城門前で待ち伏せしていた蓮華に手を引かれ、呉の政務室につれてこられた。

そこで詰問され、受け答えしていると、こうして蓮華からの絶対零度の視線を受けた。

・・・いや、それはほら、蓮華は国主としての仕事が忙しくて、しかもシャオは俺を見つけるたびにくっ付いてきてせがんで来たからだし・・・。

あ、これは言い訳か。

 

「・・・はぁ、まぁ、おめでと、シャオ」

 

「うんっ。ありがと、お姉ちゃんっ」

 

シャオに言葉を掛けた後、俺の横にすすす、とやってきて「今日は私の番だからね」とぼそりと呟く。

おおう、これで一人目である。多分この後桃香とか思春とかに話が行くんだろうなぁ。

 

「じゃあ、月のところに行こうか、シャオ」

 

「うん。行ってくるね、お姉ちゃん」

 

「ええ。月にあんまり迷惑掛けないのよ」

 

「分かってるー!」

 

・・・

 

「へぅ。シャオちゃんが・・・ですか」

 

「ああ。びっくりしたよ」

 

「・・・それは私の台詞なんですけど・・・」

 

シャオを連れて月のいる後宮へやってきたのだが、説明してからため息をつかれる。

今日で一生分のため息をつかれたんじゃなかろうか。吸い取ったら幸運になったりしないかな。・・・あ、もう凄い幸運だった、俺。

 

「いやー、それにしてもあれだな。後宮を広くしておいて良かったな」

 

「そうですね。・・・まぁ、シャオちゃんはもうちょっとお腹が大きくなってからこちらに来てもいいんじゃないですか?」

 

「だなぁ。月は侍女の仕事があったりしたからちょっと早めに後宮に引っ込めたけど、シャオはまだお腹も目立ってないし・・・」

 

仕事もあまりしてないから、しばらくは自由に外出させるとしよう。自動人形は三体くらいつけるけど。

 

「それにしても、私のときみたくギルさんが制御不能にならなくて良かったです」

 

「・・・俺だって、ほら、反省はするんだぞ」

 

「ふふ。そうですね」

 

くすくすと楽しそうに笑う月。

もう七ヶ月・・・八ヶ月かな? かなりお腹も目立ってきている。

あ、シャオの服着替えさせないと。あのヘソ出しルックは母親としてどうかと思うのだ。

そのことをシャオに伝える。

 

「あ、そういえばそうね。女の子はお腹冷やしちゃいけないってお姉ちゃんにも言われたの」

 

「なら、後宮にいる自動人形さんに言えば作ってくれますよ」

 

「そうなの?」

 

「・・・」

 

月の後ろに控えている自動人形が、シャオの言葉にコクコクと頷く。

両手には編み針を持っているので、作る気満々なのだろう。・・・あの様子だと、腹巻くらい作りそうだけど・・・。

 

「ふぅん。じゃあ、お願いしちゃおうかな」

 

「私も一緒に作りますね」

 

「月も自動人形と一緒にやってるのか」

 

「はい。編み方とか教えてもらって、何着か」

 

まぁ、そうだよなぁ。後宮では生活に困らないとはいえ、相当暇なはずだ。

読書と編み物くらいしかやることが無いのかもしれない。

・・・うぅむ、自動人形を増やしてたまに外出してもらったほうがいいかなぁ。

 

「・・・よし、そうだよな」

 

「? どうしたんですか、ギルさん?」

 

「いや、月も後宮に缶詰じゃなぁ、と思ってさ。外に出て散歩とかしたいだろ」

 

「・・・へぅ」

 

否定も肯定もしなかったが、少し俯きかげんになったということはそういうことだろう。

あんまり引きこもってばかりでも健康に悪そうだしな。

 

「・・・よし、今自動人形に警護も頼んだから、外出したいときは伝えてくれれば了承してくれるようにしたぞ」

 

念話を送って自動人形に任務を追加する。

こういうことも出来るから、自動人形は便利なのだ。

 

「ごめんな、気が回らなくて」

 

「いえ。確かにお外を散歩したいとは思っていたんですけど、お部屋で本を読んだり編み物したりするのも、とても充実していましたから」

 

「・・・月って良い子よねぇ」

 

シャオが感心したように頷く。

・・・俺もそう思う。その部分に甘えすぎないようにしないとな。

月は結構ストレスとか溜め込みそうな性格だし。

 

「さて、それじゃあそろそろお暇するよ」

 

「また来てくださいね」

 

「もちろん。また様子見に来るよ」

 

「それじゃね、月。シャオはもしかしたら月と入れ違いになっちゃうかもしれないけど」

 

「そういえばそうですね。・・・えへへ、頑張りましょうね」

 

「うんっ」

 

それじゃ、と月と自動人形に別れを告げ、俺達は後宮を後にする。

城に向かっててくてく歩いていると、シャオが後ろを振り返って首をかしげる。

どうも、後ろを付いてきている自動人形に目が行っているらしい。

 

「あれ? 後ろに侍女の人が付いてきてる」

 

「ああ、これがシャオの担当の自動人形だ。警護してくれたり補助してくれたり、色々してくれるからなんかあったら言うといい」

 

「へぇ・・・お名前とかあるの?」

 

「いや、特には無いな。自動人形とか、黄金とか侍女とかって呼んでる」

 

「黄金?」

 

「黄金で出来た人間って存在だからな。一応宝具扱いなんだよ」

 

「へえ・・・黄金で出来た・・・宝具ってなんでもありなのね」

 

疑問が解けたからか、また前を向いて歩き出すシャオ。

部屋まで送り届け、誘惑してくるシャオを宥めすかす。

最後には自動人形に丸投げして、部屋をあとにするのだった。

確か今日の政務室には愛紗がいたはず。・・・うわぁ、すげえ行きたくねえ・・・。

 

・・・




「そこの姉さんよりも・・・壱与ちゃんは変態なんだ。・・・もう、(ピー)才になるのに・・・!」「はぁ? あんた、何当たり前のこと言ってんの? しかもなんか妙に渋い良い声で」「お父様、壱与が変態なのには反対なのでしょうか?」「・・・まぁ、彼なら安心して任せられそうだけど。迷惑だけはかけちゃダメだよ?」「はい! ギル様も壱与も、健全で健康的な『えすえむぷれい』を楽しんでおります!」「・・・ん、まぁ、彼が迷惑だと思ってなければそれでいいんだけどさ」「そういえば義妹は元気してんの? あの白髪の」「銀髪、と言って欲しいね、姉さん」「・・・なんでか知らないけど、あの義妹、わらわたちとは違う人種っぽいんだよねー。日本人離れしてる美貌っつーかさー・・・」「確かに、壱与もそう思っております。どちらかと言うと、ギル様と同じ系統じゃないのでしょうか?」


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