真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「新年って言うと、やっぱかくし芸とか?」「あぁ、俺はアレができるぞ。『タバコ五本吸って口の中にしまいつつ酒飲む』って奴」「俺は『耳の穴に耳を全部しまえる』な」「スゴ・・・俺の『インクを飛ばしてサインを書く』なんて比べ物にならないな・・・」「・・・そこはかとなく俺達のかくし芸に共通性を感じるのはなんでなんだろうか」


それでは、どうぞ。


第六十五話 新年一発目に

新年になったらなったで、体力回復したしすたぁずの新年ライブがある。・・・あ、俺がやってくれと言ったわけじゃないぞ。

年末最終ライブ→新年初ライブのコンボをやりたかったらしい。ちなみに曲調がいつもと違う。『新年版』らしい。

その後日が昇るまで一応深夜帯扱いで希望者のみのステージがある。ええと、確か演目は・・・『多喜と銀のトークショー』とか、『ライダーとランサーのサバイバル教室』みたいなのがあったと思う。

壇上に観客も上る参加型ステージだ。

・・・正直言うと、こっちのほうがしがらみ無く楽しめそうという意味では好きだ。深夜番組のノリだな。ちなみにこの時間以降、未成年は参加禁止なので、もちろん下ネタもオッケーだ。

この辺りで大体の将は一旦城に戻って休憩に入る。まぁ、一旦寝てまた朝ごろにおはようすることになるな。

多喜やら銀やらは昼間がっつり寝ているので、深夜から早朝までの間、頑張ってもらうことになる。

 

「・・・つーか、やっぱ男ばっか残んのな」

 

「そりゃそうだろ。大体の女の人は今日これからのために寝ておかないとだしな。ま、ここにいるのは俺達と同じく暇人ばっかりなんだろ? お互い楽しんでいこーぜー」

 

ステージの上で、いつものように駄弁り始める二人。・・・あれ、いつもの二人を見ているのと変わらない気が・・・。

そういえば、特別ゲストで一刀出るんだよな。あの兵士達と一緒に。・・・カオスになる未来しか見えない。

 

「新年って感じしないな、これ」

 

どう考えてもクリスマスの夜にお互い予定の無い男友達が駄弁ったり愚痴ったりしているレベルである。

だがこの妙な空気感が好きだという人たちも一定数いるのだろう。実際に今、先ほどよりはかなり減ったとはいえ、深夜にしては大量の人がこのステージを見に来ている。

今ぴんときたんだけど、この空気、ラジオの公開収録みたいだ。・・・しすたぁずのライブの合間とかに入れると人気でそうだな。

 

「・・・」

 

「ん? ・・・あ、ああ。そうだな。今は仕事のことは無しだ」

 

「・・・」

 

俺の思考を垣間見たのか、それとも考え込んでいる俺がどう見ても怪しかったのか。

自動人形から脇腹を結構強めにど突かれてはっとする。

・・・あれ。俺普通に暴力受けてるんだけど。どうなってるの?

 

「・・・まぁ、いいか」

 

取り合えず、この場は彼らに任せていいだろう。一刀もある程度はこの後の流れが分かっている人間だし。

ここでずっと見ていたいのは山々なのだが、このあとの準備だとかもあるので、この後副長と合流して準備を始める予定だ。

月も詠たち元董卓軍の皆に送ってもらって後宮に戻ってもらったし、そのまま休んでくれるだろう。日が昇ればまた挨拶にいかないとな。

 

「たーいちょー」

 

「お、きたか」

 

「あけおめーっす」

 

「・・・あけまして、おめでとう、ございます・・・な?」

 

「あ、あけましておめでとうございますわるふざけがすぎましたはんせいしておりますのでなにとぞせっかんはかんべんしてくだしい!」

 

最後噛むほど怖がること無いのに。

でばー、と土下座に似た体勢を取る副長にまぁいい、と頷く。

 

「よろしい。・・・早速舞台裏に行くぞ。カラクリをちょろっと調整してから、町に出て札立てる」

 

「了解ですっ」

 

「札の用意は七乃に任せちゃったけど、報告は受けてるか?」

 

「はいっ。いつもの倉庫にまとめて置いてあるそうです!」

 

「そうか。・・・ん、これだな」

 

宝物庫の範囲を広げ、いつもの倉庫・・・俺の遊撃隊が借りている倉庫から、札だけを宝物庫に入れる。

うん、本当に便利だな。

 

「よし、回収完了」

 

「・・・ちょー便利。じゃあ、からくりの方は私やっちゃいますね」

 

「おう、頼んだ」

 

ごそごそと舞台の下に四つんばいで這っていく副長。

・・・む、もうちょっとなんだが・・・見えないか。

 

「副長?」

 

「はい? なんでしょ?」

 

「もうちょっと・・・こう・・・な?」

 

「え? え? 何? 私は何を求められてるの・・・? た、隊長? 出来れば、何をして欲しいのか言ってくださると私も理解できるかなぁ、と・・・」

 

「もうちょっとでパンチラしそうだから、尻上げろ」

 

「言われても理解できなかった・・・! え、ちょ、お尻見えてます!?」

 

「見えてないから言ってるんだろ」

 

くそ、ちゃんと言えというから言ったのに、こいつ尻を上げないぞ。

もぞもぞと副長は尻に手を回し、スカートを直そうとしている。

もっと舞台の奥に入れば見えなくなるのだが、あたふたしている副長の頭にはそんな冷静なことは考えられる余裕が無いらしい。

あまりの慌てようにがんごん頭をぶつけている音が聞こえるのだが、大丈夫だろうか?

 

「はっ、お、奥に入ればいいのかっ」

 

ずりずり、と舞台の奥に引っ込んで行ってしまった尻・・・じゃなくて、副長。

からかうのはこれくらいにしておこう。これ以上追い詰めると、機嫌を悪くしてしまうだろう。拗ねた副長の面倒くささは宝具で言えば対城宝具なみだ。ちなみに、胸が貧相な副長だが、美尻である。形もいいしすべすべだ。

 

「どうだー? 装置が壊れてたりしないかー?」

 

気を取り直して、装置の奥に入っていった副長にある程度大きめに声を掛けてみると、少しして副長のハスキーな声が返ってくる。

 

「だーいじょーぶでーす! 調整入っちゃいますねー!」

 

「頼んだー」

 

こちらはこちらで地和の妖術と甲賀の魔術の組み合わせによるプロジェクターの調整をしておくとしよう。

ちなみに記録した映像を見ることも出来て、今これには『季刊 副長を知る』の秋号が収録されている。・・・そう、調整のため仕方なく見てしまうのだ。着替えシーンとか入浴シーンとか。

 

「あー、仕方ないなー。調整だもんなー。俺二時間しか寝てないからなー。ミスっても仕方ないよなー。あーてがすべったー」

 

ぶぅん、と低い音を立てて起動するプロジェクター。

舞台裏のここに来る人間なんて俺らくらいのものだし、他の人に見られる心配は無いだろう。

映し出す壁についても申し分ない。舞台の裏の壁そのものが使えるしな。

 

「・・・へーちょ! ぐずっ。・・・たいちょー? なんか噂してます? 私関連で」

 

「ヒント1、上映中。ヒント2、秋。ヒント3、副長は風呂に入ると左足から洗い始める」

 

「? ・・・っ! ちょっ、何でその映像がある、あいたっ、狭いっ、ここ狭いです!」

 

「舞台は壊すなよー」

 

「先に私の心が壊れそうなんですけど! ・・・あっ、か、厠のところは見ちゃダメッ!」

 

舞台の下で作業していた副長がこちらに向かおうとするが、なにぶんそこは狭い。

こちらにたどり着くまでに、先に映像の副長が風呂から上がるだろう。

ちなみにこの撮影は壱与に頼みました。

 

「ふむ、まぁ異常は無いな」

 

プロジェクターに回していた魔力をカットする。

再び低い音を立てて、プロジェクターはただの水晶に戻る。

・・・音が出ないのが難点だよなー。別にスピーカーを用意する必要があるか。

 

「や、やっと出れた・・・! た、隊長! 今すぐ再生を止め・・・止まってる!?」

 

「作業は終わったのか?」

 

「・・・あと仕上げだけですけど」

 

「ほら最後の一頑張りー。十分以上たつと俺が再び手を滑らせる可能性がある」

 

「行ってきます!」

 

反論もせず・・・いや、反論するだけ無駄だと判断したのか、副長はそそくさと舞台下に再びもぐり始めた。

かこんかこんと作業の音は聞こえるので、スムーズに進んでいるらしい。

 

「・・・札の用意だけしておくか」

 

予想以上に早く作業が終わりそうだ。次の作業を早めてもいいだろう。

屋台通りも今はほとんどが閉まっているだろうし、今なら人も少ない。

 

「お、終わりましたー・・・」

 

丁度俺の準備が終わった頃、憔悴した様子の副長が舞台下からのっそりと出てくる。

 

「どうした、そんなに疲れた顔をして。ほら、新年だぞ」

 

「・・・うぅ。ちょっとだけ壱与さんの気持ちが分かっちゃった自分が憎い・・・」

 

何故か壱与に親近感を覚えてしまったらしい副長が、札の残りを持って俺の後ろをついて来る。

まぁこの札を立てる作業はすぐに終わるだろうし、そしたら副長を誘って温かいお茶でも飲むことにしよう。

夏は手足をそのまま露出していた副長も、流石に冬は寒いのか、年なのか・・・今は足も手も白いインナーで隠されている。

 

「ん? どしたんですたいちょー、そんななんとも言えない目で私のこと見て」

 

「いや、厚着してる奴ほど脱がしたときの感動大きいよなぁと思って」

 

「っ!」

 

俺の発言に、ばっと自分の身体を抱くように隠す副長。

 

「へっ、変態っ。へんたいちょーだ!」

 

「ははっ、副長には言われたくないな。ほら、さっさと終わらせて茶でもしばこうや」

 

「・・・たいちょーがやんきーさんになっちゃったみたいです」

 

「ん、お気に召さないか?」

 

「ふつーの口調がいいです。そういう乱暴な口調は、壱与さんにしてあげてください」

 

「ふーん」

 

そっか、と言う俺のつぶやきに、そうです、と小さく返される。

ほう、という副長のため息が、白く立ち上る。

こういうのを見ると、冬だなぁ、と改めて実感する。俺は温度の変化は感じ取れるけど、寒い、暑いという不快感とは無縁だからな・・・。

 

「・・・よっと。これで最後ですか?」

 

「だな。ありがと。眠くないか?」

 

「仮眠は取ってます。バッチリですよ、隊長」

 

ぐ、とサムズアップ。それならいいけど。

取り合えず一旦城に戻って休憩するか。

 

「ほら、戻るぞ。俺が手ずからお茶を煎れてやろう」

 

「え、そんな、私がやりますよ!」

 

「そういう気分だ。心配しなくても、変なものは入れないさ」

 

「そ、そういうわけじゃないんですけど・・・でも、そこまで仰るなら、お任せします」

 

人差し指同士をツンツンと合わせる副長に苦笑しつつ、城へと向かう。

 

・・・

 

「ほら、熱いから気をつけろ」

 

「どもです。・・・ずず」

 

座る副長の前に、湯飲みを置く。湯気が立っていて、外を出歩いて冷えた身体には丁度良いはずだ。

俺も自分の分を卓に置き、副長の対面に座る。

休憩とは言ったが、後十分もすれば愛紗と朱里、雛里が年明けの挨拶兼その後の打ち合わせに来るはずだ。

それが終われば次は亞莎と穏、そして桂花と風、凛が来て、最後に後宮に向かって詠、ねねとの打ち合わせがある。

 

「温かいですねぇ・・・」

 

「暖房も完備だからな。正直やり過ぎなくらい過ごしやすいぞ、ここ」

 

「・・・ですよね。前も素っ裸で寝ましたけど、風邪引きませんでしたもん。むしろ布団被るとちょっと暑いくらいで」

 

「俺は風邪引かないからなんとも言えないが・・・まぁ、ここと後宮は一番過ごしやすいところだと思うぞ」

 

ずず、とお茶を一口。

なんというか、コタツ欲しくなるな、コタツ。

邪馬台国行けばあるだろうか。・・・あるわけないな。

 

「みかんあればもっといいですね。コタツにみかん。日本人なら外せませんよ」

 

「時代的に何処にもないだろうけどな」

 

「月行けばありますよ。私の牢獄にもあったくらいですもん。ちなみにネット環境も完備。犯罪者という名のニートやってました」

 

「・・・甘すぎるだろ、月の牢獄」

 

「姫ですもん。私。どうです? 私のこと、贔屓する気になります?」

 

えっへん、と無い胸を逸らして強調してくる副長。

・・・そういえばこいつ、かぐや姫なんだよな・・・。

 

「して欲しいならするけど」

 

「・・・ごめんなさい、やっぱり普通に接して欲しいです」

 

「おっけー」

 

再びずず、とお茶を啜る。

副長も同じように湯飲みに口を付け、しばらく会話が無いまま時間が過ぎる。

 

「ん」

 

「来ました?」

 

「みたいだな」

 

俺が扉に視線を向けるのと同時に、こんこん、とノックの音。

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

「失礼しますっ」

 

「し、しつれしまっ・・・あわわ、噛んじゃった・・・」

 

扉のところでペコリ、と頭を下げてから入室する三人。

・・・雛里はホント、慌てる姿も可愛いなぁ、なんて思いながら迎える。

 

「あけましておめでとう。ごめんな、疲れてるだろうに」

 

「おめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。・・・私達のことであれば、ご心配は無用ですよ」

 

「はわわ、お、おめでとうございますっ。わ、私も夜更かしは慣れてますからっ」

 

「あわわ・・・ま、ます・・・。私も、だいじょぶです・・・!」

 

「そっか。よし、じゃあ座って座って。お茶持ってくるよ」

 

そう言って立ち上がると、朱里と雛里にはわあわと止められた。

 

「わ、私たちが持って来ましゅ! ・・・はわ、噛んじゃった」

 

「す、座っててください・・・!」

 

「ん、そ、そうか? ・・・なら、お願いしようかな。もうお湯は沸いてるから」

 

はい、と律儀な返事をして、二人は台所へと消えていく。

さてと、と浮かした腰を椅子に降ろし、愛紗にも着席を促す。

 

「失礼します。・・・副長、今年もよろしく頼む」

 

「あ、どもです。こちらこそ。・・・っつか、なんで『あけましておめでとう』が通じるんだろ・・・」

 

「? なにか言ったか?」

 

「いえいえ、何でも無いですともっ!」

 

なんだか妙に力の入った副長の返事に、流石の愛紗もたじたじのようだ。

若干引き気味に納得したという態度を取ると、そのまま手元の書類の整理に移ってしまった。

 

「お、お待たせしましたっ」

 

「そーっと・・・そーっと・・・」

 

緊張した面持ちの朱里と、ちょっと不安になるようなことを呟きながらフラフラと歩いてくる雛里。

・・・こぼすなよ? いや、フリとかじゃなくて。

 

「ど、どぞ」

 

「ありがとう。偉いぞ、雛里」

 

「あわわっ、そんな、お褒めの言葉なんて・・・あわわっ」

 

「・・・雛里ちゃんだけ、ずるいなぁ」

 

副長と愛紗に湯飲みを渡しながら、朱里がなにやら呟く。

む、雛里を撫でるのに夢中でちょっと聞いてなかったな。・・・だがまぁ、表情からしてうらやましいなぁとかそんなことを呟いたのだろう。

ちょいちょいと朱里を手招きして、首をかしげながら近づいてきた彼女を帽子ごとモフモフと撫でる。

 

「は、はわわわっ!?」

 

「特に理由は無いけど、なでなでー」

 

「は、はわっ、はわわはわっ!?」

 

しばらくして見かねた愛紗が咳払いをして俺が我に帰るまで、言語すらわやわやになった朱里は撫でられ続けたのだった。

 

「さて、それで本日の議題ですが」

 

きちんと全員席に着き、手元に資料がいきわたったのを確認して、愛紗が口を開く。

新年はやることがいろいろある。まずはあいさつ回り。めでたい事なので行事が必要とのことだったが、それは今年からは大丈夫だろう。

『年越し祭り』をやることにしてからはそれを行事として扱うことにした。あいさつ回りに関しては・・・特に何か問題があるわけでもないだろう。

基本的に裏にいることになっている俺はその間後宮に引きこもることになるだろうし。それならば出会うのは元董卓軍の将たちか、蜀の将くらいだろう。

それくらいならば大変なこともあるまい。

 

「・・・何を言っているのですか。ギル殿は周りの村からの長や代表者たちからの挨拶の窓口になっていただくのですよ?」

 

「え? ・・・何それ聞いてないんだけど」

 

「言ってませんから。言えばギル殿から何かしらの妨害工作を受けると思いましたので、こうして突然発表させていただきました」

 

「詠もびっくりの奇策だな!? ・・・愛紗も成長したんだなぁ」

 

基本的に春蘭側だったのに。いまや朱里すらだまくらかして俺に面倒な仕事を押し付けるほどになって・・・。

 

「挨拶の担当とはいえ、来るのはある程度の人数に絞ってはあります。その後、一応桃香様の玉座へ向かっていただき、そこでも挨拶をしていただくので」

 

「・・・典礼ってやつ? ・・・うおお、面倒だ・・・!」

 

「はわ・・・お気持ちは痛いほど分かります・・・」

 

「ですが、いまやギルさんがこの三国に与える影響は計り知れないものとなっております・・・」

 

「確かにそですねー。私のいる遊撃隊とか、そのほかの兵士とか村の人とかも、隊長が『よし、世界征服するか』って言ったら多分国を捨てて付いてきますよ」

 

「何その征服王。・・・でも『世界征服』って男の浪漫だよね」

 

ふとそんなことを口走ってしまう。

まぁ、征服して何をしたいかって言う目的が無いからちょっとアレだけど、浪漫って口で説明できるものじゃないだろ。

 

「たいちょー、私は付いてきますからねっ」

 

「・・・その、わ、私も・・・です」

 

「ギルさんがされるというのなら・・・! わ、私も一緒にいきます・・・!」

 

がたん、と立ち上がる三人。

 

「おいおい、流石にそれは早計に過ぎるぞ。特に朱里と雛里。二人がここからはなれたら、蜀はどうなるんだよ」

 

「はわ・・・そ、それは・・・」

 

「あわ・・・えと・・・」

 

「そうだぞ、二人とも」

 

先ほどまで立ち上がった三人を見て驚いていた愛紗がゆっくりと口を開く。

そうだそうだ。愛紗からも言ってやれ。

 

「ギル殿が『世界征服をするぞ』と仰るならば、朱里と雛里だけでなく、蜀全体で協力するのが筋であろう」

 

「なるほど・・・それは考え付きませんでしたが、当然のことでしたね」

 

「え、ちょっと待って。当然なの?」

 

「・・・蜀が呼応するとなれば、呉からも魏からもある程度は協力を得られます。・・・全くの絵空事ではない・・・かと」

 

「や、やらないからね? まだやらないからね?」

 

「・・・朱里ちゃん、征服した地域だけど・・・」

 

「そうだね、まずは人心を掌握して・・・でもギルさんだからそこはあんまり心配要らないかも」

 

完全に俺を無視して軍師の顔をし始める二人。・・・え? 何これ。冗談が大事になってる・・・。

一縷の望みを掛けて愛紗と副長を見て見るが、こっちはこっちで軍部の掌握の話してるし。

いつの間にやら、俺を除け者にして俺が世界を征服する話が持ち上がっていた。

 

「・・・もう、好きにしてくれ」

 

姦しい話し声を聞きながら、俺はあいさつ回りの書類を一人寂しく片付けるのだった。

 

・・・

 

「朱里ちゃんから聞きましたよぉ。世界征服をなさるおつもりだとか」

 

「そ、そうなんですかっ!? 私、そのための協力は厭いません!」

 

「何で話が通ってるんだよ・・・朱里め。後で801本半分燃やしてやる」

 

呉の穏と亞莎の二人を迎え、作業を始めて少したった辺りで、唐突にそんなことを言われた。

なんで朱里は呉にさっきの話を通しているのか。大事になればなるほど面倒なことになるというのに。

ちなみに、燃やす801本は俺が題材にされてる奴を中心にだ!

泣いたって許してやるものか。むしろ、これを機に俺がネタにされている801本を効率的に処分してやる。

 

「・・・それは冗談だから。気にしなくていいんだぞ」

 

取り合えず、話は流すことにする。・・・後で風に聞いて、魏にも話が流れていないかどうか確認しなくては・・・。

ああもう、どうしようもないな、これ。以前の璃々の一件で知ったが、勘違いしている人間はどうやってもその認識を改めてはくれないらしい。

 

「そういえば冥琳は? 一緒に来るものだと思ってたけど」

 

「はれ? そういえばそうですね。穏さま、何かご存知ですか?」

 

「えぇ~っとぉ・・・あ、そういえば蓮華さまと一緒に雪蓮さまと祭さまをお迎えに行ったとか」

 

「ああ・・・そういえば潰れてたな、あの飲兵衛たち」

 

半分以上星の仕込んだ薬の所為だとは言わないでおく。

だがまぁ、この場に冥琳がいないことを喜ぶべきだろう。いたらいたで世界征服の計画が俺を無視して進んでいたに違いない。

英雄王の力を持っていても俺は元々日本人なのだ。世界征服なんかしても、特に何かしたいことがあるわけでもないし・・・。

それに、人類の歴史を見ようと決めているのに、それを自分から破壊することは遠慮したい。

 

「ですがまぁ、冥琳さまがおらずとも、打ち合わせは簡単なものなのでよかったですねぇ」

 

「だな。・・・うん、こんなもんじゃないかな。確認してくれるか」

 

纏めた書類を二人に渡す。

受け取った二人はそれぞれぺらぺらと捲り、たまに筆を取って追加で書き足したりしている。

さて、こちらはこちらで他の案件纏めちゃうかな。

 

「・・・はい、大丈夫みたいですね~」

 

「こちらも確認終わりました!」

 

「ん、良かった。それじゃあ、また頼むよ。夜遅くにすまんな」

 

「いえいえー。では、今年も一年、よろしくお願いいたしますねぇ」

 

「あ、あのっ、私も・・・よろしくお願いいたします!」

 

「おう。迷惑掛けると思うけど、頑張ろうな」

 

そんな事無いですよ、と返事をして、二人は退室する。

 

「・・・たいちょ、ほんとにしないんですか?」

 

「しないよ。・・・お前も大概しつこいな」

 

ちょっと強めの口調が出てしまった。・・・が、否定しているのにしつこくされては、俺の機嫌も若干悪くはなる。

いつもなら副長もあたふたしながら言い訳をするのだが、今回に限ってなにやらぶつくさ考え込んでいるようだ。

 

「・・・ま、いっか。・・・次は桂花と風と凛だな。三人分・・・いや、五人分か」

 

もう俺も副長もお茶を飲みきってしまっている。全員分一気に入れたほうが楽だろう。

未だにぶつくさ言っている副長を横目に、備え付けのキッチンへと移動する。

ちょっと気分を変えて、邪馬台国原産の緑茶でも入れるか。・・・ホント、この世界の文化って妙に進歩してるよな。

 

・・・

 

「来たわよ」

 

「こんばんわー」

 

「失礼します」

 

こんこん、というノックの後、返事も聞かずに扉を開けた桂花を筆頭に、風と凛が入室してくる。

三人とも少し眠そうだ。・・・当たり前か。もう深夜。仕事でもなければ普通は寝ている時間だしな。

 

「おぉー? 副長さんは何を考え込んでいるのですかー?」

 

いつもより眠そうな半眼で、風は副長に視線を向ける。

そんな風に、俺は首をかしげて答える。さぁ? というジェスチャーだ。

 

「・・・なるほどー。まぁ、副長さんは変な方ですからね~。そんなことも有るでしょう」

 

「ひでぇ言い草だな」

 

容赦の無い風の一言に、宝譿からツッコミが入る。

そんなやり取りを見ていた桂花が、はぁ、とこちらに聞こえるようにため息を一つ。

 

「さっさと終わらせて帰るわよ。全くもう、新年早々呼び出すなんて・・・」

 

「こんな夜更けに呼び出されたので、もしや風たちを食べてしまうお積りなのではー、と思いましたですよー」

 

「たっ、たべっ、そんな、私は初めてなのに、いきなり多人数で・・・!? ぶふっ」

 

風の言葉に刺激されたのか、凛が鼻血を噴出す。ああ、久しぶりに見たなこれ。

 

「はーい、とんとんしましょうね~」

 

「ほら、これ詰めとけ」

 

小さくしたガーゼのようなものを巻いて手渡し、止血させる。

風は凛の首の後ろをとんとんといつものように叩いて介抱している様だ。

しばらくして鼻血も収まり、鼻に詰め物をしたままの凛を加えて会議を始める。

 

「で、最初の議題だけど・・・」

 

「あいさつ回りの件ね。華琳様は日が昇ってからならいつでも良いって仰ってたわよ」

 

「だろうな。ま、そう言ってくれると助かるよ。時間が組みやすい」

 

今日の俺の行動シフトに、華琳との挨拶の予定を入れる。

最初に蜀、次に呉、最後に魏という順番になるだろう。

その合間合間に他の邑から来た長や責任者との挨拶が入り、さらにその隙間を縫って他の将との付き合いや月のいる後宮への見舞いもある。

そのほかに何か俺の参加するべき行事があれば臨機応変に対応する必要が出てくる。

 

「・・・よし、纏めてみたぞ。確認してくれ」

 

「さっさと渡しなさいよ」

 

「どもです~」

 

「お預かりしますね」

 

先ほどと同じように、纏めた書類を三人に渡す。

渡した書類を三人が確認している間暇なので、こっくりこっくりと舟をこぎ始めた副長を膝の上に迎える。

 

「ほわ、なんでふ?」

 

「ほーれ、なでなで」

 

「あーうー・・・なんでしょー・・・びっくりするほど甘やかされてるー・・・」

 

眠気と戦っているためか、全く覇気のない言葉遣いになってしまっている副長。

俺の膝の上に腹を乗せるようにしてだらんとしている副長を、好き放題撫でる。

 

「・・・ん、良いんじゃない」

 

「何処かで手助けが必要かとも思いましたが~・・・必要ないようですね~」

 

「流石の手際ですね。想像以上の完璧さです」

 

「それは良かった。・・・あ、そうだ。お茶菓子があるんだ。食べていかないか?」

 

こんな深夜まで彼女達は働いているのだ。少しくらいは労わないと。

宝物庫を開き、壱与が作った和菓子を並べる。

 

「おぉ~。これが噂に聞く邪馬台国のお菓子、『和菓子』ですか~」

 

ちょいちょい作ってプレゼントしてくれるので、すぐに食べきれない場合は宝物庫に収納してあるのだ。

劣化せずに保管できるので、宝物庫は俺のなかでは半分食物庫として機能しているといっても過言ではない。

 

「・・・何よ、結構綺麗じゃない」

 

なんだかんだ言って桂花も女の子だ。綺麗に整えられた和菓子を見て、仕方が無いなぁという表情をしつつも誰よりも早く菓子楊枝に手を伸ばしている。

あの菓子楊枝、黒文字で作られているもので、これも卑弥呼と壱与からプレゼントされたものだ。

 

「目でも楽しめるお菓子になっているのですね」

 

風と凛も、菓子楊枝を取って食べ始める。

毎回思うのだが、和菓子を食べるときの最初の一口は結構躊躇してしまう。この綺麗な花だとかを崩すのが勿体無いからだ。

前世でもキャラ弁とかは食べるのに時間を要する人間だったので、これはもう俺の性なのだろうが・・・。

 

「・・・よっと」

 

さく、と楊枝を入れる。・・・あーあ、崩れちゃった。

またしばらくすれば壱与が作って持ってきてくれるとはいえ、毎回この逡巡の時間は必要だ。

 

「うん、美味しい」

 

俺の好みに合わせてくれているのか、甘すぎないのが丁度良い。ほとんど砂糖を使っていないのだ。

白餡や寒天、柿などで味を調えているこの和菓子は、ほとんどが俺の読書の時間のお供になっている。

その中でも甘めの羊羹などは鈴々や璃々が遊びに来たときなどに少量出しておもてなしとしている。

 

「もむもむ・・・美味しいわね。これがあの変態の手から生まれたとは信じがたいほどに」

 

「言ってやるな。でもああ見えて壱与ってお嬢様だからな。俺が絡むと変態なだけで」

 

それが致命的ではあるが、まぁ対外的には彼女の評価は『お嬢様』で間違いないだろう。

勉学に励み、家事の腕を磨き、美しい和菓子作りに精を出す。まぁ魔法を使えたり恋に燃えすぎていたりするところはあるが・・・。

 

「・・・まぁ、その辺は桂花ちゃんも否定できないのですが~」

 

「何よ風。何か言った?」

 

「いえ、何でもないのですよ~」

 

桂花に聞こえないように小声で呟いた風に、桂花が鋭い視線を送る。

席の近い俺には聞こえたが、流石に対面に座る桂花には聞こえなかったようだ。

なんでもないといった後にぼそりと『変態仲間ですね~』と呟いていたのは俺の心にしまっておくとする。

こちらを見上げてくすりと笑う風の様子からすると、わざと俺に聞かせているようだ。

それからしばらくして和菓子に舌鼓を打っていたが、ふあ、と欠伸をする桂花の様子にさて、と話を切り出す。

 

「もう夜も遅い。・・・多分三人ともまだ作業が残っているだろうから、ここで解散にするか」

 

「・・・そうね。ま、ちょっと仮眠はとるけど。風、凛、行くわよ」

 

俺の部屋に備え付けてある時計をちらりと見て、更に窓の外の景色に目をやった桂花が立ち上がる。

それに釣られて、風と凛も席を立つ。

 

「お菓子とお茶、ご馳走様でした~」

 

「とても美味しかったです。・・・それでは、またお手伝いがあれば」

 

「・・・美味しかったわ。ありがと」

 

「・・・桂花がデレた!?」

 

発言した直後にふい、とそっぽを向いたものの、赤く染めた頬は怒りではなく恥ずかしさで染めたものだろう。

俺の言葉に、デレてない! と必死に否定してくる桂花とそれを面白そうに眺める二人を送り出すと、部屋に静寂が戻る。

 

「・・・ふにゅ・・・くぅ・・・すぅ・・・」

 

静かな部屋の中で、副長の寝息が妙に耳に入る。

・・・多分あれだな。深夜寝ようとベッドに入ったとき、外を走る車の音とか時計の針の音とかに妙に神経尖らせちゃって眠れなくなるあの状況に酷似している。

 

「流石に寝台に運んでやるか」

 

よいしょ、と持ち上げ、他の部屋とは違い隣室に大きく作られている寝室に副長を運ぶ。

俺の部屋は廊下に面した扉から入ってすぐに居間、そこから右に向かうと厨房、左に向かえば寝室になっている。

更に隠し部屋があってそこには実験中の色々なものがあったりするのだが、まぁそれは後々機会があれば。

寝室に入ると、左はすぐ壁になっており、右側に部屋が広がっている。

丁度真ん中に位置するように置いてある寝台は、キングサイズより少し大きい。

頭が居間の方向を向いている寝台を中心に、右手側には化粧台が置いてある。その化粧台は、寝起きにある程度の化粧が出来るようにと皆が自分の化粧品なんかを置いていくため、多分どの女性の部屋よりも大きいものとなっている。

ちなみにどれが誰のものかも全部覚えてるぞ。毎夜毎朝使う人間がいるから覚えてしまったのだ。

後副長は一切化粧品を置いていない。こいつ、化粧をしたことが無いそうだ。すっぴんでこの美貌・・・流石はかぐや姫というところか。

置いてある化粧品が少ないのは、鈴々や月、愛紗かな。逆に多いのは壱与と卑弥呼だ。理由はあの顔にしている隈取のような化粧。アレでさまざまな紅を使っているため、専用コーナーが設けられるほどだ。

 

「よっと。・・・ほんとこいつ軽いな」

 

あ、そういえば寝巻きに着替えさせないと。

 

「ほら、副長脱がすぞー」

 

「んみゅ・・・」

 

「はい、腰上げて」

 

「ふぁい・・・」

 

「ほら、ばんざーい」

 

「ふぁんふぁーい」

 

こいつの服を剥くのも手馴れたものだ。勇者服の作りを一番理解しているというのも有るが、何度も脱がせた経験もある。

下着は・・・いいか。上はつけてないし、下はさっき風呂に入ったときに着替えたばかりだろうし。

化粧台の近くに置いてあるタンスから副長の寝巻きを取り出す。・・・え? なんであるのかって? そりゃあんた、化粧台と同じ理由だよ。

なんやかんやで服が汚れたとき、風呂場まで行く服が必要だったりするだろ? それで、下着とか寝巻きとか・・・化粧品よりは少ないが、それでも置いていく子は多いのだ。

 

「もう一回腰上げろー」

 

「んぅ・・・」

 

「・・・小さいと色々楽だなー」

 

服を着せ、掛け布団をそっと掛ける。

日の出前には起きてくるだろ。そのぐらいの習慣は付いてるはずだ。

 

「さて・・・次の予定は・・・っと」

 

寝室から出て、居間に置いてある大き目の卓につく。

副長への書置きと、一息つくためにお茶を飲む。

 

「・・・よし、行くか」

 

まずは、後宮だ。

 

・・・

 

「おっす、あけましておめでとう」

 

「あっ、ギルさんっ。あけましておめでとうございますっ」

 

「あれ? 月だけ?」

 

他の皆は? という視線をきょろきょろと部屋に向けてみるが、誰もいないようだ。

 

「他の皆さんは・・・その・・・」

 

気まずそうに寝室のほうへ視線を向ける月。

え、寝てるの? ・・・いや、深夜だからそれ自体に文句を言うつもりは無いけど・・・。

 

「霞さんが持ってきたお酒で、皆酔っちゃったみたいで・・・今、寝台で仲良くお休み中です」

 

「月が寝る場所が無いから、ここで待っててくれたのか?」

 

「それもありますけど・・・やっぱり、新年を迎えてお会いするギルさんと、起きて挨拶をしたかったので」

 

・・・可愛い。何この子。持って帰っていいの?

へぅ、と恥ずかしそうにこちらを見上げる月を別の部屋の寝台に持っていって夜戦したくなるが、何とか抑える。

安定期に入ったとはいえ、流石に身重の月に無理をさせるわけには行くまい。

 

「そっかそっか。んー、急がないから良いけど、どうしようかな」

 

元々詠とねねの打ち合わせは新年を向かえる前に終わらせてあるので、確認だけだったのだ。

だから起きてからでも十分なのだが・・・月を放っておくわけにも行くまい。

 

「あ・・・それなら、ギルさん」

 

「ん?」

 

「お話、したいです。私は後宮に篭りっきりで、ギルさんとこうして二人っきりでゆっくり過ごすの、久しぶりですから・・・」

 

寂しそうな顔で俯いてしまった月の頬に、手を添える。

・・・そうだな。最近忙しさにかまけて、ここに来る回数が減っていたかもしれない。

 

「よし、それじゃあ話しようか」

 

椅子に座ると、月が立ち上がって俺の元へ。

 

「あの、お膝の上・・・いいですか?」

 

「ん、もちろん。・・・はは、お母さんになるっていうのに、月は甘えん坊だな」

 

「へぅ・・・ギルさん、意地悪言わないでください・・・」

 

膝の上に月を迎えてそう言うと、月は恥ずかしそうに頬に手を当てていやいやと首を振る。

恥ずかしいと思ったときの月のいつもの癖だ。

 

「それに、お腹の子が生まれたら、ギルさんのお膝の上、あんまり乗れなくなりそうですから」

 

「かもしれんな」

 

後ろから手を回し、大きくなったお腹を撫でる。

うんうん、順調に育っていているようだ。問題なく、春ごろに生まれてくれるだろう。

 

「あの、そういえば、卑弥呼さんと壱与さんからひざ掛けをいただきました。冷えるといけないからって」

 

「へえ、あいつらもそういう気は回るのか。流石は女王だな。そういわれると、確かにみたことないひざ掛けだな」

 

触ってみると中々手触りも良い。肩にはカーディガンのようなものを掛けているが、これは俺のプレゼントだ。

 

「そうそう、先ほど詠ちゃんたちがお話していたのですが――」

 

しばらく話していると、月がこちらに身体を預けてくる。

静かな寝息が聞こえるので、眠ってしまったのだろう。・・・ちょっと無理をさせちゃったかな。

まぁ、もう少しで初日の出だ。この窓からも見えることだし、直前になったら起こしてあげればいいかな。

 

「・・・ギル、さん」

 

「んー?」

 

寝言だとは分かっているが、何とはなしに応える。

むにゃむにゃ、としばらく口を動かして

 

「大好き・・・でふ・・・」

 

「・・・嬉しいな。俺もだよ」

 

す、と髪を梳く。手触りは抜群だ。

新年から、とても良い気分になれたな。

 

・・・

 

「お、ギルじゃねーか!」

 

「随分ゆっくりの出勤だな。俺達はここで盛り上がりながら初日の出見たぞ」

 

月の部屋で二人初日の出を見た後、ゆっくりと準備をして舞台へと戻ってきた。

壇上の二人が舞台袖の俺を見つけるとちょいちょいと手招きをしながら話しかけてくる。

 

「俺は後宮で月と二人で見てたよ。さて、一晩喋りっぱなしは疲れたろう」

 

「いんにゃ、中々こいつらも面白いもんでよ。ほら、酒飲みながら駄弁ってる感じ? あの空気がたまんねえよな」

 

「ああ。こればっかりは参加した奴らじゃないと共有できないよな。なぁ?」

 

銀が観客にそういうと、少なくなったとはいえ相当数いる観客はおー、と応える。

欠伸をしたりしている人はいる者の、寝ている人間は皆無だ。かなり楽しいのだろう。

 

「いやー、あれは面白かったな。性癖暴露大会」

 

「ああ、いや、世界は広いなと思ったね」

 

笑う二人に釣られて、会場からも笑い声が響く。

楽しい時間を過ごしたのだろうな、と俺も自然に笑顔になっていた。

 

「さ、そろそろ閉会式の時間だ。名残惜しいだろうが、そのまま聞いてくれ」

 

閉会式はあんまり大々的ではない。

というのも、この後昼過ぎに城のほうで祝い事をするからだ。

まぁ時間的にはそんなに無いが、それで町のほうは何時も通りの日常に戻ることだろう。

 

「今回の祭り、良いことも悪いことも色々あったと思う。またそれを今年の終わり、来年の始めに向けて活かしたいから、何か意見があったら城のほうまで陳情として上げてくれ」

 

観客達は、うんうんとうなずいている。

まぁ、表情を見るに不満を抱いている人間はいないようだ。・・・まぁ、屋台通りは屋台通りで何かしらあったかもしれないから油断はしないが。

 

「今年も一年、皆が無事に過ごせるように願っている。・・・それでは、解散!」

 

「お前ら、お疲れー」

 

「良い一年を、って奴だ」

 

しばらく手を振る人間もいたが、ぞろぞろと皆帰っていく。

自動人形たちが、全員いなくなったのを待っていたかのように片づけを開始する。

・・・ここは彼女達に任せておいて問題は無いだろう。

 

「さて、多喜、銀、お疲れ様。助かったよ」

 

「俺達もそうだけど、ライダーとランサーにも言ってやれよ。仮眠取ってる間、繋いでくれてたし」

 

「そういえば二人は何処に?」

 

「さぁ? なんか二人で盛り上がってたけど・・・屋台通りか何処かで飲みなおしに行ったんじゃね?」

 

意外だな。あの二人、気が合ったのか。

 

「そうか。・・・ま、兎に角ゆっくり休んでくれ」

 

「おうよー。ふああ・・・終わったと思うと眠いな」

 

「だな。・・・くあ・・・ふぃー、寝るかー」

 

じゃーな、と手を振る二人に別れを告げ、舞台を後にする。

 

・・・

 

「よっし、祭りは終わり、後は挨拶周りと祝い事だけど・・・祝い事のほうは俺関係ないから良いか」

 

国主の三人が主となってやるものだから、俺は関係なかったはず。

なら、俺も寝ておくか。全く眠気は感じないが、精神衛生的にそろそろ必要だろう。

 

「よっと・・・ん、副長の匂いがする」

 

慌てて出て行ったのだろう。寝巻きが寝台の端に引っかかるように脱ぎ捨ててある。

・・・少し手を伸ばしかけたが、やめた。自分で畳ませるとしよう。

 

「しっかしあれだな。眠くないと思ってはいるが、いざこうして横になると睡魔が襲ってくるな」

 

そういえば、一応神様にも新年の挨拶しておくか。・・・むこうがこっちと同じ時の流れしてるとは思えないけど。

そんな益体も無いことを考えていると、だんだんと意識が沈んでいく。

この身体になってから、眠りに落ちる瞬間というのを自覚できるようになったな、なんてことを考えながら、意識を手放した。

 

・・・

 

「はい、おはようございます」

 

「あけおめ、神様」

 

もうこの流れにも慣れた。『眠りに落ちたと思ったら起きている』という妙な感覚にももう慣れてしまっている。

唐突に目の前に現れた神様に勧められずとも、ソファに腰を下ろす。

 

「あれ? 飲みかけのお茶?」

 

「ああ、さっきまで面接してたんです」

 

「? 面接って言うと・・・俺みたいなのがまた出たのか?」

 

「そんなに頻繁にミスするわけないじゃないですか。これでも、結構経験も積んでそれなりの役職に就いたんですよ、私」

 

そうなのか、と流すように答える俺に、そうなんですよ、とティーカップを片付けながら神様が言う。

しばらくして新しいティーカップに緑茶を煎れて戻ってくる。

 

「はい、どうぞ」

 

「お、ありがと。・・・それで? 誰を面接してたんだ? 神様見習いみたいな奴?」

 

「んー、まぁ、そんなもんですかね。聖人って奴ですよ」

 

「へー。聖書とかに出てくるような?」

 

そんな感じですね、と対面に腰を下ろした神様はお茶を啜る。

・・・どうやら、あんまり触れて欲しくはないらしい。

 

「ま、この後も何人かとお話しないといけないんですよ。意外と忙しいんですよ、私」

 

「恩着せがましいな、おい」

 

「ふふっ。あんまり放置されてたんで、拗ねてみました。それにしてもあれですね、久しぶりにゆっくり出来た気分です」

 

「そんなに忙しかったのか」

 

「ええ。さっき言った面接もそうですけど、通常業務も色々とあるんです」

 

それもそうか。神様は色々な世界を管理していると言っていたしな。その管理とか維持にも力を注いでいるのだろう。

 

「そちらはそういえば新年でしたね。あけおめです」

 

「今更挨拶か。ま、今年も世話になると思うけど、よろしくな」

 

「こちらこそ。貴方の行動はとても興味深いですし、こちらこそよろしくお願いしたいくらいですよ」

 

くすくすと口元に手を当てて笑う神様。

なんとも無邪気な笑顔だ。

 

「あ、お雑煮食べます?」

 

「貰う貰う。何々、もしかして甘酒とかも用意してる感じ?」

 

「もちろんですよ。鏡餅だって飾ってますし、門松もちゃんとありますからね」

 

そう言って、す、と腕を振る神様。

それだけの動作で、目の前にお雑煮が現れる。

 

「一応言っておきますが、私が調理しました」

 

「その割には、一瞬で現れたように見えたけど・・・」

 

「ふふん。貴方がこちらに来る前に時間を圧縮して停止し、その空間内で調理を進めて、固定された時空に置いておいたんです。で、今取り出したんですよ」

 

「・・・なるほど。俺の宝物庫みたいなもんか」

 

「その上位互換だと思ってください。貴方の宝物庫は空間を繋ぎますが、私はそれにプラスして時間も弄れますので」

 

「あれ? でもそういうのって時間とか空間の神様が操れるレベルのものじゃないの?」

 

何で生命の神で、しかも結構下っ端っぽい土下座神様が弄れるのだろうか。

 

「そういう神様が操る時間とかってやばいですよ。こんなの序の口です、序の口。あの人たちもっとえげつない弄り方しますから」

 

「そ、そうなのか」

 

考えるだけでぞっとします、となんともいえない表情をしながらお茶を飲む神様に、俺は苦笑を返す。

 

「・・・ん。そろそろ業務再開ですね。ええと、次の面接者はっと。・・・あ、貴方も戻ったほうがいいですよ。以前と同じように、あのお姫様が姫初めしに来てますから」

 

「あー・・・起きるか」

 

って言うか、今日一月一日だけど。普通二日じゃないのか・・・。

そんなことを思いながら、神様の空間から弾かれるように意識が戻っていく。

 

「・・・行ったかな? じゃ、次の人呼びますか。・・・えーと、アタランテさーん」

 

・・・




「えーと、あ、凄い。アーチャークラスなのに敏捷高いんですね」「そうだ。自慢の一つだな」「後は・・・なるほど。正統派アーチャーって感じですね」「・・・一つ聞きたいのだが、私を召喚するのは・・・『アーチャー』なんだな? 『キャスター』ではなく」「そうですね。ちょっと・・・というよりかなり特殊な人なので」「・・・世界は広いな。そんな器用なことが出来る『アーチャー』も居るのか」「・・・まぁ、『宝具を雨あられのように降らせ』『英霊を召喚し』『世界を洪水で押し流したり』『世界を乖離する』なんてことが出来る『アーチャー』とか、正直神霊クラスですよねー・・・」「・・・英霊、やめようかな」「ああっ、ちょっと待って! 自信喪失しないで! ・・・でも、なんかこの子とは気が合いそう・・・」


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