真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「・・・津軽海峡?」「それは冬景色。雪って言えば、雪だるまに雪うさぎ、かまくらに雪合戦・・・やること沢山あるな」「副長に言えば、大抵作ってくれそうだ。あの子凄い手先器用だから」「へー。意外だな。結構大雑把っていうか、学校で例えれば『他の教化はある程度高いけど、美術だけ1』みたいに思ってた」「・・・一刀ー、後ろ後ろー」「へ? ・・・うわ」「・・・私のこと男の娘って言ってみたりぶきっちょって言ったり・・・ほんごーさんは私のこと嫌いなんですか・・・? ぐしゅ」「・・・一刀、マジ泣きだぞこれ」「わーっ! わーっ! ごめんごめん!」「たいちょー! なーぐーさーめーてー!」「・・・はいはい、よしよし」

「ギルに任せて逃げちゃったけど、後で謝らないと。・・・ん? 副長・・・笑ってる!? まさか、アレ嘘泣き!? ・・・月生まれって凄い。そう思った」


それでは、どうぞ。


第六十二話 雪景色の中に

「・・・っだーっ! 終わった! 終わりましたよたいちょー!」

 

「よしよし、大掃除完了だな」

 

やはり、年末には大掃除。本当ならもうとっくに終わらせておくべきものなのだが、兵舎と城内は広すぎる上、常に何処かを使用しているため、こんなギリギリまで掃除が終わらなかったのだ。

・・・まぁ、副長への罰ゲームとしてこのクッソ長い廊下を雑巾一つで拭かせていたりしたのも、時間が掛かった要因だとは思うが・・・。

ちなみに城内のもっと長い廊下の方も雑巾掛けが合ったのだが、そっちは壱与が率先してやってくれているらしい。

 

「こっしいってぇ・・・あ゙~・・・」

 

おっさんみたいな声を出して、背中を逸らす副長。

ばきぼき、とあんまり女性が出してはいけない音を立てながら、思いっきり背伸びをしている。

 

「たーいちょー、腰の辺りぐいっと揉んでくれませんかー?」

 

「・・・オラッ」

 

「み゙ゅ゙っ!」

 

こちらに無防備に背中を見せて腰の辺りを突き出してくる副長の肩辺りを片手で押さえ、もう片方の手でぐい、と押し込んだ。

・・・ちょっと気を抜いていたせいか筋力ステータスが元に戻っていて、宝物庫からのバックアップも受けていたような気もするが、何やら気持ちよさそうな声を出していることだし、良しとしよう。

 

「ふむ・・・俺のマッサージの腕前も捨てたもんじゃないな」

 

「こ、この状況でぇ・・・よ、良くそんな台詞吐けますね、たいちょー・・・」

 

腰を抑えて地面に這い蹲る副長を見つつ、ごきごきと手を鳴らす。

 

「なんだ、次は寝転がった状態でマッサージして欲しいのか? いいぞ、その体勢だと体重掛けられるからな」

 

「ひぃっ、け、結構ですっ!」

 

ごろり、と横に転がって俺に抑えられるのを避ける副長。

そんな副長を追って、がっしと腕を掴む。

 

「遠慮するな。俺はほら、女の子を組み伏せたりするのは得意なんだ」

 

「寝台でってオチですよね!? っていうかその特技良いんですか英雄として!」

 

「今の俺に英雄としての自負があると思うのかっ!」

 

「開き直った!? ちょ、そういうのは壱与さんにやってあげてくださいよ!」

 

「・・・お前、壱与にこういうことやったって喜ぶに決まってるだろ」

 

なに言ってんの? という視線と一緒にそう言い放つ。

 

「私にやっても喜ばないって知っててやってるんですか!? い、いぢめ! ごーもんですよ! じ、人道的な扱いを求めますっ!」

 

「・・・ふぅ。結構すっきりするな、やっぱり」

 

「うぅ・・・毎度毎度、私を弄ってストレス解消するのやめてもらって良いですか・・・」

 

「嫌だよ?」

 

「当然でしょ? 見たいな顔しないでくださいよ。・・・構ってもらえるのは嬉しいですけど、もうちょっと平和的に構っていただきたいです」

 

「なんだなんだ、素直になれよー。うりうり」

 

「な、なんですか急に、そんな、ほっぺたつつかれたからって、ふみゅ、別に嬉しいとか・・・はふぅ」

 

くぅん、と懐いた犬のような声をあげる副長。結構嬉しいらしい。

流石副長はチョロイン筆頭を突っ走るだけはある。煙に巻きやすさといい、誤魔化しやすさといい、変な人に騙されたりしないかお兄さん心配です。

顎の下だとか、頭だとか、色々喜びそうなところを一通り撫で回し、お互いに満足したところで次の仕事場へ向かう。

 

「次はどこでしたっけ?」

 

「呉の政務室だ。雪蓮が逃げ出したとかで冥琳しかいないらしくてな。そこの手伝いを要請されている」

 

「あぁ・・・ご愁傷様ですね」

 

かわいそ、という呟きが聞こえるような副長の表情に苦笑する。

政務室にノックをして、入室の許可を得てから部屋の中へ。

 

「ああ、ギル。良く来てくれた。・・・忌々しいことに、雪蓮がいつの間にかいなくなっていてな・・・」

 

「うん、まぁ、なんというか・・・元気出してくれ、としかいえないが。・・・俺と副長が増えれば、それなりにやれることもあるだろ」

 

「全力で頑張りますよっ。なんなら羽衣使いますか!?」

 

「何興奮してんだお前」

 

ふんす、と鼻息荒く気合を入れる副長。・・・何かに中てられたかのように興奮している。

まぁ、こうなることはちょいちょいある。さっきも軽いスキンシップしたし、それで若干気分が盛り上がってるのかもな。

 

「ギルが手伝ってくれるのなら百人力だな。早速だが、こちらの片づけから頼む。私はこちらから振り分けていくから、仕分けられたものを簡単に片付けていってくれ」

 

「了解」

 

「私は何手伝いましょう?」

 

「副長はあちらのほうで道具類の片づけを頼む。多分すぐに終わるから、それが終わった後はむこうの棚の中身を降ろしておいてくれ」

 

「はいはーいっ」

 

冥琳のテキパキとした指示の元、俺達は早速作業を始める。

筋力だけはあるので、大量に持って片付けることが可能なので、かなりの速さで部屋が綺麗になっていく。

しばらく作業していると、副長の何処か気の抜けた声が聞こえてきた。

 

「めーりんさーんっ。降ろした物はそっち持ってった方がいいですかー?」

 

「む、副長のほうはやはりすぐに終わったか。・・・ああ、こちらに持ってきてくれ!」

 

仕分けする手は止めないまま、冥琳は副長にそう伝える。

副長は棚から物を下ろして冥琳のそばに置き、さらにまた棚から物を下ろして、という作業を繰り返す。

しばらくそれぞれの作業を続けていると、一時間もしないうちに全て片付いた。

すっきりとした政務室で、三人同時に息を吐いた。

 

「やはり、人がいると違うな。私一人だったときはどうしようかと思ったものだが。・・・全く、雪蓮め」

 

「お疲れさん。ま、こういうことなら多少無茶しても手伝うからさ。また何かあったら呼んでくれよ」

 

「はは、まぁ、余りギルに負担も掛けたくないのだが・・・まぁ、呉の姫を三人も手篭めにした男だからな。頼りにさせてもらうよ」

 

メガネをキラリ、と光らせてそう笑う冥琳だが、なんだか目が笑っていない気がする。

・・・あれ、怒られてる?

 

「ふふ、いや、勘違いしないで欲しいんだが、私は嬉しいんだよ、ギル。あれほど自由奔放だった雪蓮をある程度真面目にして、蓮華さまから肩の力を抜くように導いて、小蓮さまを成長させてくれたからな」

 

「・・・それは、俺がやったことじゃないと思うんだが・・・」

 

「幾ら謙遜しようが、事実は変えられんさ。それに対して私は感謝してる。素直に受け取っておけ」

 

「そーですよたいちょ。私が思うにですね、隊長はご自身の影響力って奴を過小評価しすぎなんです」

 

「うむ。副長の言うとおりだ。ギル、あまりに自分を過小評価すると、逆に足かせになるぞ」

 

冥琳と副長二人から攻め立てられ、そうかな、と頭の中で色々と思い返してみる。

・・・うぅむ、確かに。後宮建設のときもそうだし、俺もそれなりに人望はあると自覚したほうがいいだろう。

神様から衝撃の真実である神性ランクカンストもあるしな。二人の言うとおり、何かのときに齟齬が発生したりするのは避けたい。

よし、これからすぐに、とは行かないだろうが、徐々に意識を変えていくとしよう。もう、一般人と同じ感覚ではいけないのだろう。

・・・しかし、元日本人・・・いや、まぁ、今も日本人だけど。そんな俺に、将とか王とか神の様な考え方できるかなぁ・・・。頑張らないとな。

 

「・・・良い目になったな。私が言うのもなんだが、とても輝きのある瞳だ」

 

「当然ですねっ。隊長ですからっ」

 

「・・・ふふ、当然、か」

 

こちらを見て柔らかく微笑む冥琳と、少しだけ見詰め合う。

・・・? 

まぁ、いいや。取り合えず、焦らず、ゆっくり変わっていけばいいか。

 

・・・

 

「・・・」

 

左肩の辺りに開いた空間に手を突っ込み、宝物庫から取り出した聖槍をぶん、と真横に振るってみる。

そのまま魔槍を宝物庫へ回収し、新たに出現した宝剣を取り出して袈裟切りに振り下ろす。

一歩踏み出して短剣に持ち替え、逆手で振り上げる。それと同時に何も持っていない手で魔杖を取り出して雷を呼び出し、前方に落とす。

二つとも宝物庫に収納し、その隙をつかれないように上方から神の大槌を落としつつ、武人の篭手を左手に装備。

「風を殴って飛ばせる」というその篭手で何も無い空間を殴り飛ばすと、前方に風の塊が飛んで行く。

その風の塊を追いかけるように、取り出して組み合わせたエンキの矢が飛んで行く。

地面に突き刺さりビーコン代わりになった矢を確認することなくエアを取り出し、軽めに真名開放。

 

天地乖離す(エヌマ・)開闢の星(エリシュ)!」

 

空間の断裂が目の前を切り裂いていく。エアを突き出した体勢で一つ息を吐く。

・・・うむ、こんなものか。

未だに軽く回転しているエアを完全に止め、姿勢を戻す。

 

「宝物庫も、乖離剣も終末剣も変化なし・・・だよな。うぅむ、神性がカンストしても、あんまり変化は感じられないよな」

 

神様から言われた「神性:EX」を確かめる為に軽く体を動かしてみたのだが、魔力の動きなんかにも変化は見られなかった。

ステータスに上方修正があるわけでもなさそうだし・・・。まぁ、新しくスキルが増えていたりするのだが、それを含めてみても何時も通りだった。

 

「まぁ、『どれだけ直接的に神様に近いか』が神性スキルだし、変わり無いのが当たり前か」

 

ためしに宝物庫の扉を開けるだけ開いてみる。

 

「・・・うお、やめやめ! 閉まれ!」

 

感覚的に『地球の空を覆っても有り余る』ほど広がることが分かったので、急いで宝物庫を閉める。

恐ろしいな、宝物庫。・・・うお、分類が『対軍』から『対国』に変わってる・・・。

展開範囲を考えれば、国というより『対星』じゃないのか、とも思うが。・・・まぁ、概念とか、展開範囲だけじゃそういうのは決まらないのだろう。

・・・というより、宝具の分類って変わるんだ・・・。

 

「・・・まぁ、気にしすぎたら負けか」

 

『成長する英霊』という意味の分からない状態の俺だ。サーヴァントの常識から外れまくっていても仕方ないのだろう。

・・・というより、抑えすぎたステータスでもこれだ。魔力を開放して、ステータスを全力に戻した瞬間多分この辺り一体吹き飛ぶと思う。

ああ、そうか・・・神性がカンストしたのには、これも関係あるのかな。なんというか、『存在』の段階が違うというか・・・。

 

「こういうのに詳しそうな神様には夜聞くとして・・・」

 

後何か試しておくことあったかな。エンキの能力は一週間経つと手加減とか出来なくなるので却下。

もう一つは俺の死後追加されるから今は無理。エアと宝物庫はもう検証終了。うん、やること無いな。

 

「どうすっかなー」

 

昼飯は食べてからこの検証を始めているので、いまだ日が高い今の時間、特にやることは無い。

正直この為に一日休みを貰っているので、仕事はすでに他の人に回してしまっている。

 

「宝具コレクションを眺めるのもなぁ・・・」

 

宝具の他にも、宝物庫には人間を操れる黄金の球体だとか、手首を捻ると刃が出てくる手甲とか、結構色々と使えそうなものも一緒に入っている。

・・・甲賀辺りにあげると喜ぶだろうか。いや、なんだか妙な陰謀に巻き込まれそうだ。具体的に言うと、第一文明とかその辺の面倒そうなアレだ。

 

「・・・あれって土下座神とかの親戚なんだろうか。聞きたくは無いから聞かないけど」

 

まぁ、世界が違うってことで納得しておこう。・・・となると、これを甲賀にあげても問題ないことになるな。

明命とかに渡しても使いこなしてくれそうだ。取り合えず甲賀に解析を依頼するとしよう。

それで量産できれば、明命たちにも渡してみるとしよう。手の上に手甲を取り出し、色々と眺めてみたりする。

 

「俺はあんまり扱えそうに無いけどなぁ。アサシンの適正はなさそうだし」

 

「なんですか? それは」

 

「うおっ・・・。い、壱与か。驚かすなよ、全く」

 

いつの間にか俺の背後を取って手元を覗き込んでいた壱与に、反射的に拳骨を落とす。

・・・ダメだな、壱与を見るとどうしても手が出てしまう。しかも、それを壱与が喜んでいるというのがそれを加速させている。

現に、今も壱与は頭を抑えながら悶絶している。嬌声を上げているので、何時も通りである。

 

「はぁぁぁああぁぁああ・・・頭に残るこの鈍痛・・・広がる熱さ・・・! さいっこーっ・・・!」

 

「・・・ほんと、何時も通りで頭が下がるよ」

 

「ふぅ、ふぅ・・・ふぅっ・・・あ、そ、そうでした。あの、ギル様? そういえばそれはなんなのですか?」

 

ある程度落ち着いたのか、服についた土を払いながら壱与が立ち上がる。

そして、再び俺の手元を覗き込んで首を傾げる。

 

「あー、これか? これはその・・・暗殺者が使う仕込み刃みたいなもので・・・」

 

「暗殺・・・あの、一つお願いがあるのですが・・・」

 

「む? ・・・今からここで激しいことは出来んぞ」

 

「あっ、いえ、性的なことではありませんっ。それももちろんしていただきたいのですが、それはそれとして・・・」

 

早とちりした俺の言葉を否定し、壱与は言いにくそうに口を開く。

 

「その手甲・・・いただけますでしょうか? む、無理でしたらお借りするだけでも構いませんっ!」

 

「これを? ・・・そうだなぁ。壱与が物をねだるなんて珍しいからな。うん、あげよう」

 

「本当ですかっ」

 

「ただし、一つ条件。本当は甲賀に任せようと思ってたんだけど・・・これを解析して、ある程度量産して欲しいんだ」

 

「解析、ですか。・・・ふむ。壱与はあの面白忍者と同じくらい・・・いえっ、それ以上に魔術に長けております! 必ずや解析し、量産いたしましょう!」

 

確かに壱与は魔術の才能があるよな。それも、探索やら判別やら、やたら補助系の魔術に長けている。それに、魔法も使えるし。

 

「それで・・・数はいくつほど? それによっては協力者を増やさねばなりません」

 

「んー・・・取り合えず十個くらいかな」

 

「それでしたら、壱与一人でも十分そうですね。・・・了解いたしましたっ。それでは、早速邪馬台国に戻り、これの解析に入りますっ」

 

そう言って、魔法を使う壱与。その姿は来たときと同じように唐突に消える。

・・・俺が絡まなければ優秀な魔法使いである壱与だし、きっとやってくれるだろう。

 

「きちんと完成させたら、ご褒美あげないとな」

 

何が喜ぶかなぁ。・・・ちょっと今から考えておかないと。

 

・・・

 

さく、さく、と雪を踏みしめながら、町を歩く。

外にある屋台なんかはほとんどが休業状態だ。根性ある人や、運良く他の店の中にスペースを空けてもらった人たちだけが縮小しつつも営業を続けている。

結構、雪も降るものだな。夏と同じく、俺は外的環境に余り左右されないが・・・月たちの健康状態が心配だな。風邪をひきやすくなるし・・・。

傷付け害なす魔法の杖(レーヴァテイン)』で無理矢理灼熱を作りだし、季節を夏に戻すことも考えたが・・・三国全てや月からストップが掛かった。・・・ち。

 

「あー、でもアレ貸し出し中だったな。どっちみち無理だったか」

 

うまくいかないな、と頭をかく。

だが、冬は冬で楽しめる。雪だるま、雪合戦、年越しの御節なんかも楽しみである。

ちなみに、まさかと思って宝物庫を覗くと、門松やら何やらが準備されていた。しまいには自動人形が餅を口に含みつつ、手に持つ皿を「食べる?」とでも言うようにこちらに差し出してきたことだ。

もちろんいただいたが。大変美味でした。

服装は全員メイド服から和服に変更されていた。振袖とか浴衣とか、お前ら和服だったら何でもいいと思ってないか、と突っ込みを入れたのはナイショだ。

 

「あーっ、お兄ちゃんなのだっ!」

 

「ん? お、鈴々。・・・流石に靴は履いてるか」

 

鈴々を見たとき、ふと足元に視線がいってしまった。幾ら鈴々がバ・・・げふんげふん。病気しらずの風の子だって、雪の上を裸足に近い状態で歩かせるわけには、とすでに靴をプレゼントしている。

最初は嫌がっていた鈴々だが、大人の女性として、これも必要なことだと鈴々の自尊心をくすぐるような説得をしたところ、こうして靴を履いて厚着してくれるようになった。

だが下半身は未だにスパッツ一枚だ。・・・元気すぎないか、この風の子。靴自体もスノトレのようなものだからあんまり長くはないし・・・。

 

「こんなところでどうしたのだー?」

 

「んー? いや、散歩だよ散歩。色々と煮詰まりそうだったから、こうして気分転換にね」

 

政務のこともそうだが、宝物庫の中身だとかこれから生まれてくるであろう新しい命のことについてだったりだとか、最近は結構考え込むことが増えた。

・・・ふと、鈴々の腹にも視線がいってしまう。・・・幾ら鈴々がロ・・・げふんげふん。お腹ぽっこりめの幼児体形だからって、これは子供を宿しているとかじゃ・・・ないよね?

 

「散歩ー? じゃあ、鈴々も一緒に散歩するのだ!」

 

「お、いいね。ほら、じゃあ、手を繋いで行こうか」

 

「あ・・・う、うんっ。分かったのだ!」

 

俺が手を差し出すと、一瞬照れくさそうな顔をして躊躇った後、ぎゅ、とその小さな手を絡めてきた。

ニコニコと笑顔をこちらに向け、鈴々は最近の出来事を話してくれる。

なんと最近おしゃれに目覚め始めたらしく、外に出るときに着る物に悩む、なんてことを相談してきたのだ。

これにはお兄さんもびっくり。・・・うん、自分で言っておいてなんだけど、お兄さんって柄か、俺。

でも、結構『兄』と呼ぶ子は多い。そしてそれを満更でもないと思うということは・・・なるほど、俺は妹萌えだったのか!

 

「お兄ちゃん? 聞いてるのだ?」

 

「お、ごめんごめん。聞いてるよ。やっぱり鈴々には、そういうのが似合うよ」

 

今鈴々が着ているのは、フードにファーのついたダウンジャケットのようなものだ。

色は水色。意外と鈴々は寒色が似合う。イメージ的には赤とかオレンジだけど。

 

「えへへー。そうなのかー。お兄ちゃんにそういわれると、鈴々なんだか変な気分になるのだ」

 

変な気分・・・いやいや、俺が思っているような「変な」ではないだろう。

多分、恥ずかしいとかその辺りの気持ちを理解し切れなくて、「変な」と表現しただけだろう。

これから鈴々も色んなことを経験して、きっとその気持ちも理解するだろう。・・・完全に理解する前に手を出した俺が言うことではないが・・・。

 

「そういえば、愛紗がお兄ちゃんのこと探してたのだ。あんまり急いでないって言ってたけど」

 

「そっか。・・・あー、多分あれのことかな」

 

「あれ?」

 

鈴々が俺の言葉を聞いて首を傾げる。・・・可愛い。

ぐしぐしと頭を撫で、記憶を辿る。

確か年を越すに当たって、色々と準備があったはず。それの打ち合わせのことを言っているのだろう。

急いでないとわざわざ言っていたというし、この散歩が終わって城に戻ってから愛紗を探すとしよう。多分他の仕事をしているだろうし、政務室か倉庫辺りに行けば会えるだろう。

 

「むー・・・お兄ちゃんだけ一人で分かった顔してるのだ」

 

「あはは、すまんすまん。ほら、そろそろ一年も終わるだろ? だから色々仕事の打ち合わせとかあるんだよ。やっぱり特別な行事だしさ」

 

「一年の終わりまでお仕事してるなんて、お兄ちゃん達は大変なんだなー」

 

しゃがむのだ、と言われたので素直に屈むと、よしよしと頭を撫でてくれた。

・・・ふむ。これは母性の目覚めなんだろうか。ちょっと段階飛ばしすぎじゃない?

 

「ありがと、鈴々。これでまた頑張れるよ」

 

「えへへー、なのだ。お兄ちゃんに撫でられると、鈴々嬉しいのだ。だから、お兄ちゃんも鈴々に撫でられると、嬉しいかなって思ったのだ!」

 

「その通りだな。・・・さ、そろそろ城に戻ろうか」

 

「分かったのだ! ・・・あ、そういえばお兄ちゃん?」

 

「ん?」

 

城へ戻ろうと踵を返すと、手を繋いでいる為に一緒に方向転換した鈴々がこちらを見上げながら口を開く。

 

「最近寒いのだ。・・・お兄ちゃんとにゃんにゃんして、ぽかぽかしたいのだ」

 

「ぶっ!」

 

だめ? と涙目でこちらを見上げ続ける鈴々。おま、なんて、誰の入れ知恵だ? 朱里か? 孔雀か・・・?

・・・断ることも出来そうだが、ここまで真剣な眼差しされちゃあなぁ・・・。

 

「・・・あー、っと、愛紗も急いでないって言ってたしな。俺の部屋、行こうか」

 

「っ! うんっ、いくのだっ!」

 

早く早く、とこちらを急かすように手を引く鈴々についていきながら、苦笑する。

・・・まぁ、鈴々は体温高いから、アレをすれば更に温かくなるだろう。少しゆっくりめに弄ってあげようかな。

 

・・・

 

「・・・うん?」

 

ぱち、と目を覚ます。あーっと、感覚的に遅刻を確信したような気もするが、まぁ気のせいだろう。時間的には日はまだ高い。

隣には鈴々。・・・ほぼ抱き枕と化しているが。

肌と肌の触れ合いって・・・暖かいよね! ね!

 

「あーっと、ちょっと遅くなったが・・・愛紗の元にいくか」

 

がっしり掴んでくる鈴々を揺らして起こす。

気持ちよさそうに眠っているところ申し訳ないが、ちょっと風呂に入りたい。

 

「むー・・・? お兄ちゃん、眠いのだー・・・もっと、一緒に寝るのだー・・・」

 

「ごめんごめん。一回起きて、風呂行こうか」

 

「お風呂ー、なのだー?」

 

いまだ寝ぼけている鈴々に取り合えず服を着せ、手を繋いで風呂場まで。

そこで体を綺麗にした辺りで、鈴々が完全に目を覚ました。

先ほどまで眠い眠いと言っていたのが嘘のように元気になった鈴々は、風呂から上がって愛紗の元へと向かうまでの間もはしゃぎっぱなしだった。

 

「愛紗ー、遅れてごめん」

 

「お兄ちゃんを連れてきたのだー!」

 

「おや、鈴々。・・・ギル殿を連れてきてくれたのか。助かる」

 

「えへへー」

 

書類に何やら書き込んでいた愛紗は、作業の手を止めて鈴々を撫でる。

 

「すまんな・・・ちょっと外を出歩いてたら、遅くなった」

 

「いえ、急がないと言ったのは私ですので。全然問題ありませんよ。むしろ、他の仕事で色々と出歩いていたので、この時間にギル殿が来て下さって丁度良かったです」

 

「そっか。そう言ってくれると助かる。・・・それじゃ、早速打ち合わせしちゃうか」

 

椅子を引いて愛紗と同じ机に座る。それなりに大きい机なので、愛紗の書類仕事の邪魔にはならないだろう。

愛紗はそんな俺に頷くと、鈴々に向けて口を開く。

 

「はい。・・・鈴々はどうする? それなりに難しい話になるだろうから・・・先に桃香様の所へ戻るか?」

 

「んー・・・お兄ちゃん、どのくらい掛かりそうなのだ?」

 

「時間か? えーっと・・・早かったら三十分くらいかな」

 

そっか、と小さく呟いた鈴々は、俺の膝にぴょんと乗った。

 

「じゃあ、鈴々も一緒に打ち合わせするのだ!」

 

「・・・そうか。なら、鈴々にもいくつか意見を出してもらおうかな。構いませんよね、ギル殿」

 

「もちろん」

 

新たに愛紗が取り出した書類を元に、年越し、新年のお祝いの話を進める。

まぁ、今までも何回かやってきたことだし、大きな問題はなさそうだ。・・・ただまぁ、三国一緒にって言うのは初めてだし、そこは気をつけないといけないだろう。

こういうイベントごとの兵士の休暇のローテーションも大変だ。兵士達の希望を聞いたりして、何とか今のところシフトは文句の無いものになっている。

メイド達も同じだ。・・・ただし、こちらのほうはどちらかと言うと『休みを取りたがらない』ので、何とか休みを取ってもらえるように説得するのが主だ。

彼女達の言い分としては『侍女長が休まずギル様の身の回りをお世話するのに、その部下が休むわけには』というなんとも感動を禁じえないものなのだが・・・。

休まず精一杯働くというのは確かに素晴らしいことだが、その無理はいつか絶対に自分に帰ってくる。

月だってずっと俺の世話だとか侍女長の仕事をしているわけじゃない。むしろ最近は俺の我侭で休ませたり早く上がらせたりしているので、負担は少ないほうだ。

だから、定期的に休みを入れる週休制度を導入しているのだが、侍女達はたまにそれを無視することがある。そのたびに休みなさいと俺と月から怒られることになるのだが・・・。

おっと、話が逸れたな。

 

「見張りの兵はもうちょっと減らしていいだろう。宝具での監視もあるしな」

 

「・・・自動人形たちですか」

 

「そうそう。宝具も扱えるから、宝物庫の中から監視用宝具で色々と見ててくれてるよ」

 

「まぁ、兵士達の負担が少なくなるのはよいことです。様々なところで無理をさせてますからね。新年ぐらいは、家族と過ごして貰いたいですし」

 

愛紗の言うとおりだ。本来ならば兵士達を全て休みにしてやりたいのだが、それでは『軍隊』として機能しなくなる。

武器やら何やらを常に保守点検し、拠点を守備する。そして、何か有事があれば即時対応する。その最低ラインまで人員を減らすことは出来ても、全ての人員を休ませることは出来ないのだ。

 

「よし、これで兵士と侍女の休みは完了っと。・・・そういえば邪馬台国から招待受けてるんだよな」

 

「ええと、それは・・・」

 

「もちろん、平行世界のほうな。初めてだけど、ちょっと行ってみようかなと思ってる」

 

「そうですか・・・。ええと、何泊ほどの予定でしょうか?」

 

「まぁ、二泊くらいかな。もしかしたら一泊で戻ってくるかもしれないし、二泊以上してくるかもしれないけど」

 

「それでは、二泊の予定で仕事の調整をしておきますね」

 

さらさらと手元の予定表に書き込む愛紗。

卑弥呼と壱与から誘われているし、弟君からも手紙を貰うたびに是非、と書かれていたのだ。

流石にこれ以上先延ばしにすると失礼だろう。正月というイベントごとで丁度良いし。俺が行くと答えてから、卑弥呼と壱与は邪馬台国のほうで色々と忙しいらしい。

歓迎の準備やら色々とあるらしい。

 

「・・・うん、こんなもんじゃないかな」

 

「そうですね。・・・後は魏呉とも調整するだけですね。ご協力、ありがとうございます」

 

「良いって良いって。・・・さて、鈴々? ・・・って、あれ?」

 

そういえばさっきから静かだな、と思って顔を覗き込むと、すぅ、と眠ってしまっているようだ。

最初は話し合いにもちょっと意見を出してくれたりしてたけど、途中から暇になっちゃったかな? まぁ、鈴々には少し難しい話だったかもしれないな。

でも、こうやって少しずつでも会議やらなんやらに出てもらえれば、そのうち慣れてくるだろう。・・・やっぱり、鈴々にはそれなりに学も持って欲しいしな。朱里たち並とは言わないが、それでもある程度こちらの話し合いに着いて来れる程度には。

 

「寝てしまっていますね。・・・こら、鈴々っ」

 

「ああ、良いよ。このまま部屋に連れてくさ」

 

起こそうと手を伸ばした愛紗をやんわりと止め、起こさないように鈴々を横抱きにする。

こてん、と落ちた頭を抱えなおし、愛紗に声を掛ける。

 

「そういえば、愛紗はこの後まだ仕事か?」

 

「いえ、私は今日この後何もありませんよ。今の話の調整やらは、明日でないと進みそうにありませんので」

 

「そっか。じゃあ、一緒に鈴々送りに行こうか。その後・・・な?」

 

視線だけで意図を伝えようと笑いかけると、その意味を理解したのか愛紗が茹でダコのように真っ赤になって俯くように頷いた。

その後、鈴々を部屋で寝かせ、愛紗の部屋へ。・・・まぁ、昼間からというのも、ほら、良いもんだよ?

 

・・・




「ばんわー」「こんばんわ。・・・まだやってんのか、そのゲーム」「ええ、神様的には睡眠とかって基本必要ないので、ぶっ続けです。・・・ここをクリアすれば、新たにマスターが増えるらしいんですよ」「前に言ってたアレか?」「それ以外も出るみたいですよ。あの後調べてみたら、上司同僚部下含めて六人ぐらいに協力要請してたみたいです」「・・・最低六人増えてるのか」「あ、これ見てくださいよ! 魔槍から宝剣、短剣魔杖大槌篭手終末剣乖離剣の必殺コンボ! これ滅茶苦茶入力ムズいんですから!」「・・・なーんか見覚えあるコンボだな・・・」


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