それでは、どうぞ。
「はい、と言うわけで楽しい楽しい魔術の時間だよー」
「・・・やっぱこう、行事の後の授業って倦怠感半端じゃないな」
「? どしたのギル君。頑張ってこー!」
「そうだよ、ギル君。しまってこーじゃないか」
授業のときだけは何故か俺のことを「ギル君」と呼ぶ二人に励まされつつ、魔術書を開く。
・・・正直言うと、たまに授業以外でも響には「ギル君」と呼ばれることがあるので、なんだかんだ慣れてきているのだが。
「それじゃ、前は錬金術と黒魔術の関連性から見る魔方陣の効率的運用法までやったね。今日は・・・そうだな、この治癒系魔術のほう、行ってみようか」
そう言って魔術書を開くキャスター。
俺達も同じような魔術書(キャスターが夜なべして一晩で
やはり魔術師のクラスなだけに・・・と言うか、錬金術とか色んな成功を収めているからか、それとも晩年の姿ではなく青年の姿で呼ばれたからか・・・。
兎に角、キャスターは魔術についての造詣が深いし、教え方も上手い。
最初から魔術師だった孔雀はともかく、響や俺の上達具合は眼を見張るほどである。
これはもう、俺も将来的にアーチャーだけではなくキャスタークラスでも行けるんじゃないかと思うほどだ。
「・・・これで、理不尽に否定されたら焚書に走る癖を無くせばなぁ・・・」
「そこ、私語んないでね」
「おっと、すまんすまん」
新語を作って注意されてしまった。
隣の響がくすくすと笑っているのが聞こえる。
「・・・ん?」
その逆隣。孔雀のいるほうから、紙切れが俺の机へと飛んできた。
開いてみると、「怒られちゃったね」と言う短い言葉が書いてあった。
「・・・懐かしいな、おい」
キャスターに聞かれないよう、小声で呟く。
こういうことは生前も良くやったものだ。幼馴染と呪われているのかと言うくらい席がずっと近かったからな。
ノート一冊を、授業時間一時間で埋まるほどやり取りをしたこともあるしな。・・・あれ、ノートってそういうことに使う物だったか・・・?
取り合えず、返事を返したほうがいいだろうか。
「・・・よっと」
授業をしているキャスターの隙を突いて、孔雀に紙を渡す。
内容はくだらないことだ。「今日の弁当の中身は?」と言う後で聞けよ、と言うもの。
・・・だが、この緊張感ある状態で手紙を交わすと言うのがいいのだろう。
「・・・ん」
受け取った孔雀はニヤニヤしながら手紙を開き、空白に新しく何かを書いている。
授業を聞く為にキャスターのほうを見ていると、視界の端で響もなにやらもぞもぞしてるようだ。
孔雀から返事が来る前に、響からぽいと紙を投げ渡される。
何々? 「孔雀ちゃんだけずるい」? ・・・いや、授業ちゃんと聞けよ。孔雀はまだ基礎があるから後で取り戻せるけど、響は意外と遅れてるからな・・・?
と言うことをオブラートに包んで紙に書いて渡した。
「・・・ぅ」
小さく呻いた響は、俺の忠告通り授業を真面目に・・・聞かず、せっせと何かを切れ端に書き込んでいる。
・・・両隣が不良になったことに少し罪悪感を感じつつ、その日の授業を聞いた。
ちなみに、だが・・・。
この後すぐにキャスターに見つかり、孔雀と響は教室の後ろでヨガのポーズを取りながら立たされたのだった。
・・・
授業が終わってもまだヨガのポーズで立たされている二人に心の中で謝りつつ、次の仕事場へ。・・・今日の弁当は諦めるほかないだろう。
執務室で桃香と一緒に政務だ。
「はふー・・・えへへ、お兄さんと二人っきりは久しぶりだね!」
「だな。・・・ああ、そういうのは終わってからな」
すす、とこちらに手を伸ばしてくる桃香に釘を刺す。
・・・普通そうやって誘うのは男のほうじゃないのか・・・?
「はっぷっぷー。・・・じゃあ、お昼は一緒に食べようね!」
「おう。・・・今日はなに食べるかなー」
その後の予定を考えつつ、さらさらと手を動かす。
・・・最近料理してねえな。今日はちょっと腕を振るってみるか。
献立を考えつつ手を動かしていると、慣れている仕事と言うこともありすぐに書類は片付いた。
「よし、終わり」
「ふぇっ!? も、もう終わったの!? ・・・うわ、すご、ホントだ・・・」
桃香が俺の手元を覗き込んで驚愕の表情を浮かべる。
ふふん、二つ以上のことを同時に思考するなんて俺には朝飯前。
昼飯の献立、政務、今日のこの後の予定なんかを考えつつ手を動かすのなんかもう慣れたものである。
「それじゃ、先に厨房行ってるよ。仕事終わらせたらおいで」
「・・・て、手伝って貰ったりは・・・」
こちらを小動物のような瞳で見上げてくる桃香。
・・・全く。こういう事されると弱いよなぁ、俺。
「はぁ・・・少しだぞ」
「っ! わぁいっ! ありがと、お兄さん! 大好きっ!」
「愛が安いなー」
桃香の隣に座りなおし、筆を持つ。
・・・あんまり手伝いすぎても桃香のためにならないし、ホントに少しにしておこう。
・・・
「よっと」
「わ、上手・・・! ・・・っていうか、なんていうか負けた気分・・・」
目の前で鍋を振るうお兄さんは、手際よく調理を進めていく。
うぅ・・・なんていうか、女として凄く負けた気分。お兄さんの女子
こ、子供が出来たときとか・・・お母さんとしてお料理が出来ないのはちょっと不味いかもしれない。
練習、頑張ろう・・・!
「次はこっちだな・・・」
黙々と作業を進めるお兄さんを見ていると、むしろ主夫をしてもらってもいいんじゃないかと思ってしまう。
・・・いいかもしれない。お料理はお兄さん任せになっちゃうかもだけど、他の家事は普通に出来るし・・・。
「うん・・・。お兄さんっ!」
「うおっ・・・とと。料理中に大声出すなよ。ビックリするだろ?」
「結婚してくださいっ!」
「・・・別に断る気は無いが・・・唐突だな。ま、座ってろ。もうちょっとで出来るから」
「はーいっ」
・・・あれ、受け入れられちゃった・・・?
「ひえぇーっ!?」
「っ。・・・だから、静かに待ってろって」
「き、きき・・・気合! 入れて! 待ってますっ!」
「・・・はいはい」
ため息をつくお兄さんを見て我に帰る。
・・・はう。恥ずかしいことたくさん言っちゃった。
お、大人として、国王として・・・もうちょっと自重しないと。
「ほら、お食べ」
「・・・お婆ちゃんみたい」
「いらないなら鈴々に食べさせるけど」
「いただきますっ!」
少しこめかみの辺りがぴくぴくし始めているお兄さんが怒ってしまう前に食べ始める。
はむはむ・・・あぅ、美味しい。
材料が宝物庫から出てきたものだからって言うのもあるけど、それがきちんと料理されているからきちんと美味しいのだろう。
・・・うぅ、私も愛紗ちゃんと練習してるんだけどなぁ。
「美味しいよ、お兄さん」
「ありがと。・・・結婚するなら、これくらいは作って貰わないとな。・・・女の子だからどうとかって言うつもりはないけどさ」
「はぅ」
「ま、焦らなくていいよ。ゆっくり、俺と桃香のペースでいこうじゃないか」
「・・・ぺぇす?」
お兄さんの口から聞きなれない言葉が聞こえてきて、思わず聞き返す。
おそらく天の国の言葉だろう。たまに北郷さんとか甲賀さんとかと天の国の言葉で話しているから、雰囲気はなんとなく分かる。
「ああ、えっと・・・歩調を合わせてって感じの意味かな。周りがこうしてるから自分も、じゃなくて、自分の歩調で、納得できる道を歩けば良いってこと」
「・・・うんっ。私は、私のぺぇすで、頑張るっ!」
「その意気だ。食後には、運動がてら町に出てみようか」
風も冷たくなってきたとはいえ外は雲ひとつない晴れ模様。
一緒に歩けば、きっと楽しいよね。
・・・えへへ。私とお兄さんのぺぇすで、ゆっくり、ねっ。
・・・
「よう、ギル。元気してっか?」
「多喜か。・・・ライダーと一緒じゃないんだな。珍しい」
町で桃香とデートしていると、多喜に声を掛けられた。
「あ、多喜さんだー。こんにちわー」
「・・・ちわ。あんだ、あれか、逢引中か。悪いな」
声を掛けられてから桃香に気付いたのか、気まずそうに笑う多喜に、桃香は顔を赤くしながらわたわたし始める。
「わ、えっと、えへへ、なんかそういう風に言われると、照れるね。ね?」
「・・・いや、俺はもう慣れたから・・・」
ぷく、と頬を膨らませた桃香に睨まれるが、まったく怖くない。むしろ可愛いので、頬を突いてぷふ、と空気を抜く。
それで更に桃香がヒートアップするが、まぁまぁと宥めつつ多喜に向き直る。
「そういや多喜も買い食いか? ・・・そっちのほうで美味しい串ものがあったぞ」
「お、マジか。ちょっと覗いてみっかなー」
そいじゃな、とこちらに手を振って去っていく多喜。
・・・多分、アレだけさっさと去っていったのは、気まずかったからだろう。
お、向こうのほうで一刀と遭遇してる。・・・一刀がこちらを見て何かを察したのか、多喜と一緒に向こうへ行ってしまった。
「次は何処いこっかー」
そんなことが起こっているとも気付かず、桃香は俺の手を引きながら歩く。
「あんまり食べると後で愛紗ちゃんに訓練とかつき合わされちゃうんだよねー」
「・・・まぁ、今もちょっとやったほうがいいかなー、とも思うけど」
「・・・太ってるって事・・・?」
「ノーコメントで」
「あ、それは前に聴いたことあるよ。えっと・・・そうっ、『何も言いませんよ』みたいな意味だよねっ」
「そうそう。言うことはないよー、みたいな」
偉い偉い、と頭を撫でると、えへー、と笑顔になって鼻歌を歌い始める。
・・・チョロい。なんともチョロい。鈴々ですらもうちょっと煙に巻くのに掛かるのに。
「そういえば、髪留め付けてくれてるんだな。毎日見るような気がする」
「ふぇ? えへ、当たり前だよっ。お兄さんから貰ったものだし、可愛いしっ」
そう言ってくれると助かる。女の子への贈り物なんて、一番神経使うからなー。
好みに合わないとお互いちょっと気まずいし。
・・・ああ、思い出すぞ。幼馴染にリボンを送ってガチギレされたことを・・・。
いや、アレは俺悪くないと思う。その日は幼馴染の誕生日だったのだが、朝のテレビの占いで『おとめ座のあなたの今日のバッドアイデムは「リボン」!』と言われたからって・・・。
何故『バッドアイテム』を紹介するのか、と言う怒りと、朝のテレビの占いでガチギレされた虚しさでギャン泣きした覚えがある。
「・・・懐かしい思い出だ」
「どしたのお兄さん。なんだか凄く悲しい目をしてるよ・・・?」
大丈夫? と俺の頭に手を伸ばす桃香。・・・ううむ、この包容力。
桃香は身体的にも精神的にも、人を受け入れる、と言うことに特化していると思う。
優しさを感じながら、町を再び歩く。
さて、次は何処へ行こうか。・・・今日は仕事も無いし、一日中桃香に付き合うとしよう。
遠くから響くトンテンカンという後宮建設の音を聞きながら、日が暮れるまで遊び倒したのだった。
・・・
「んー・・・っと」
日が暮れて城に戻ってきた後、桃香の部屋に行こうとしたのだが、朱里と雛里がやってきて「急な用件なので」と桃香を連れて行ってしまった。
お陰で暇になってしまったので、今入浴を済ませて出てきたところだ。・・・珍しく襲撃を受けなかったな。
「さて。・・・月はもう寝ちゃっただろうし・・・どうすっかな」
かなりのんびりと入浴したからか、意外と時間が経ってしまっているようだ。
城壁を歩く兵士以外の人影はほとんど見えない。あの飲み屋街というべき歓楽街へ行けば人もいるだろうが、基本的に日が暮れると皆家に帰ったり寝たりする。
だからこうして急に城内が静かになるのだが・・・ふむ、久しぶりに城壁に上ってみるか。あそこだと星とのエンカウント率上昇するからな。
久しぶりに彼女と杯を交わすのも面白そうだ、なんて思いつつ城壁に上る。
「そうと決まれば早速・・・ん?」
「お? なんだ、ギルか。どうしたんだよ、こんな遅くに」
「いや、風呂の帰りだよ。・・・翠こそ、こんなところでどうしたんだ?」
城壁の上で出会ったのは翠だ。・・・意外な子とエンカウントしたな。
「あー、いや、あたしはほら、たまには夜風に当たるのもいいかなってさ」
頬を掻きながら軽い笑いを浮かべる翠。
・・・何かあったのだろうか。
「そっか。・・・なら、一緒に飲まないか?」
テーブルと椅子を宝物庫から出して、そのうちの一つに腰掛ける。
翠は少し遠慮しつつも、俺の対面に座る。
「・・・ギルと二人で飲むのは初めてだな」
俺が酒器に酒を注ぐと、翠はありがと、とそれを受け取った。
お互いに乾杯し、ぐ、と煽る。
「ぷは。・・・やっぱり美味いよなー」
「ああ、幾らでも飲めそうだ。・・・まぁ、実際にそんなことすると翌日大変だけど」
ちなみにそれをやらかしたのは意外にも月である。
初めてこれを飲んだとき、二、三杯飲んだ後俺が止めたにも関わらず飲んでしまい、翌日フラフラになっていた。
・・・まぁ、酔うと人格変わるのは月だけじゃないから驚かなかったが。仕事も休みだったから十分休めたしな。
「そういえば、翠。贈った服は気に入ってくれたか?」
「は? 服? ・・・っ! あ、あのヒラヒラの服か!?」
俺の言っていることに最初は首を傾げた翠だったが、頭の中で思い至ったのか、顔を赤くして身を乗り出してくる。
相当気に入ってくれたらしい。何度か自分の部屋で一人のときに着替えているに違いない。・・・これはそういう反応だ。
「あ、あんなの別に・・・っていうか、あれはお前と蒲公英に無理矢理渡されただけだし・・・」
ぶつぶつ呟いている翠に「でも気に入って何度か試着してるでしょ?」とか図星突くと更に取り乱すのでここは笑顔で頷いてあげるのが正解だ。
・・・ふふ、俺も女性の扱い(恥ずかしがりやの、だが)は慣れたものだ。ふふん、これが余裕と言うやつですよ。
「今度蒲公英と一緒に来てるところ見に行くからな。着慣れておくんだぞ」
「おう、分かったよ。・・・いやいや! 自然に頷いちゃったけど、着ないからな!」
「着ないと駄目だぞ。落とし穴から助ける条件がそれだっただろ?」
「うっ・・・だ、だけど・・・恥ずかしいだろ」
そう言ってそっぽを向く翠に、本気で首を傾げてしまった。
「なんでだ? 似合ってたし、むしろ誇っていいぐらいだろ」
「なっ!? ・・・そ、そうやって、あたしをからかって楽しいかっ」
「からかってなんかないって。本気さ。だから、考えておいてくれよ」
「・・・わ、かった。一応、前向きには」
「ありがとう。・・・そろそろ冷えるな。送るよ。お開きにしよう」
しんとした城内を、翠と二人で歩く。
やはり秋の夜は冷える。どう見ても翠は薄着だし、本格的に冷える前に部屋に帰して上げないと。
ちなみに翠と蒲公英は同室である。姉妹とか仲の良い子は一緒の部屋になったりする。朱里と雛里とか、月と詠みたいに。
「にしても最近冷えるよなー。ギル、月に風邪ひかせたりすんなよ」
「分かってるって。翠も気をつけろよ? 蒲公英にも言っておいてくれ」
「ははっ。あたしはあんまり風邪とかひかないけど・・・蒲公英は意外と季節の変わり目とかに寝込むからなー」
バカは何とやら、と言うよりは健康的な生活をしているから風邪の菌に負けないと言うだけだろう。
ちなみにこういうときに例に挙がるのは春蘭のような極まった頭の将だけだ。
「ん、着いたな。ありがとな、送ってもらっちゃって」
「構わんよ」
それじゃ、おやすみと言って踵を返そうとすると、中からとたとたと人の動く音が。
・・・どうやら、蒲公英がまだ起きていたらしい。俺達の話し声を聞いたってところかな。
「あっ、やっぱりお姉様とお兄様だっ。どしたの、二人でなんて珍しいじゃん」
「ああ、さっきまで飲んでたんだ。秋の夜長を楽しむのもいいと思ってな」
「もーっ、そういうのには呼んでよねっ。・・・って言うか、お姉様風流とか理解できたんだー」
「あ、あんだって!? あたしだってな、ちゃんとそのくらいは・・・」
「はいはい、分かったよー。あ、お兄様、寄ってく? 三人で飲みなおそーよ。ね?」
俺の手を取って上目遣いに誘ってくる蒲公英。
だが、ため息をついた翠が止めに入る。
「やめとけって。あたしも蒲公英も明日訓練あるだろ」
「ぶー。・・・じゃあじゃあ、また一緒にっ。ねっ、いいでしょ?」
「俺はもちろん構わんよ。その時に翠にアレを着てもらうかな」
「あれ? ・・・あー、アレね! そうだね、そのときはたんぽぽとお姉様でお揃いでお出迎えするねっ」
ニコニコと小悪魔らしい笑顔を浮かべる蒲公英と、諦めたようにため息をつく翠。
・・・うん、これで次にこの部屋に来たときにゴスロリ姉妹と酒が飲めるんだな。・・・っしゃ。
「それじゃ、そろそろお暇するよ。またなー」
「おう、おやすみー」
「おやすみなさい、お兄様っ」
二人が部屋に入っていくのを見送ってから、俺は一人自室へと戻るのだった。
・・・
「お姉様ばっかりずるいよー。次のときは呼んでよねっ」
「呼んでよって言ったってなぁ・・・いちいち人を呼びにいくもんでもないだろ」
ギルが去った後、二人に宛がわれた部屋で、翠と蒲公英の二人は寝台に座って他愛ない話に花を咲かせていた。
すでに二人とも髪を下ろして寝巻きに着替えており、お互いに寝台の上でそれぞれ思い思いの姿勢を取っている。
蒲公英は自分の爪を気にしているようで、寝台の上で膝を抱えるように座っており、翠は寝台の縁に腰掛け、最近気になる枝毛を探しているようだ。
お互いが向き合っているので、会話をしながらたまにそちらに視線はいくようだが、基本的に二人の視線はそれぞれ気になるところに向いている。
「確かにそうだけどー・・・」
「それに、蒲公英、お前なぁ・・・なに勝手に変な約束してんだよ!」
「約束? ・・・あー、あの服のお話?」
えへへー、と子供っぽく笑う蒲公英に、翠はお前なぁ、ともう一度咎めるような口調で呼びかける。
どう考えても口じゃ勝てないので、明日の訓練のときに正々堂々完膚無きまでに叩きのめす事を心の中で決めた。
「いーじゃん。お姉様とお揃いで買った白いごすろりはまだたんぽぽも着れてないし。ね? 二人でお揃いの服着て、お兄様に可愛がってもらおうよっ」
「か、かわっ・・・!? ま、まさか蒲公英、お前・・・!」
目の前の従妹の考えていることが分かった瞬間、翠の顔は真っ赤に沸騰する。
この年下の少女は、一緒に恋人と閨を共にしようと言っているのだ。
「お姉様もお兄様のこと、好きでしょ?」
「すっ、好き、とか・・・良く、分からないし」
「・・・たんぽぽとお姉様、結構考えること似てるから分かるよ。まぁ、たんぽぽと違ってお姉様はまだ中身が子供っぽいから自覚はしてないだろうけどねー」
目の前であたふたしている翠を見て、蒲公英は薄く笑う。
彼女の性格ならば、服を着替えさせて一緒に寝台の上までいけば、後は流されやすいお姉様のことだし、と蒲公英は従姉の性格を頭の中で思い描いていた。
「そろそろ、お姉様も大人にならないといけない頃だよね」
悪い道に友人を引き込むような、いかにも悪巧みをしている顔で目の前の従姉を見つめるのだった。
・・・
・・・一緒に酒を飲んだあの夜から、若干翠に避けられているようだ。
まぁ多分蒲公英に有る事無い事(「無い事」が八割くらいだろうけど)を吹き込まれたのだろう。
そういう誤解は慣れて・・・え? 誤解じゃない? ハハッ。ぬかしおる。
「ギルお兄ちゃん? どうしたの?」
「ん、いや、なんでもないよ。ほら、口についてる」
「んー、んー・・・とれた?」
「はは、こっちこっち。ほら、んー、ってしてみ」
舌を伸ばして口についたものを舐め取ろうとするが、どうも舌が届かないようだ。少しして諦めたらしく、俺の言うとおり、素直に口を突き出す璃々。
・・・今日の俺の仕事は、璃々のお守りだ。紫苑、桔梗、焔耶の三人がそれぞれ遠征や訓練などの仕事で璃々の面倒を見れず、他の桃香達も璃々を一日中見ていられるほど手が空いている人間がいなかったので、俺に白羽の矢が立った。
俺にも仕事があったのだが・・・まぁ、そこは偉い人らしく部下に任せてきた。副長、七乃、華雄の三人がいれば大体の俺の業務は肩代わりできる。
どうしても俺じゃないと出来ないものは明日に回してあるので、俺は今日一日璃々に付き合ってやれる。
今は昼ちょっと前くらい。俺の手製の料理を璃々に振舞っているところだ。璃々の口を拭ってやると、輝くような笑顔でこちらを見上げてくる。
「えへへー。ありがとっ、ギルお兄ちゃんっ」
「どういたしまして。どうだ? これは初めて作ったんだけど・・・美味いか?」
「おいしいっ。あのね、次は、璃々がおりょうりして、ギルお兄ちゃんに食べさせたげるね!」
「ああ、期待してるよ」
そう言って撫でておく。子供は褒めて伸ばす教育方針です。・・・む、後一年もしないうちに俺も子育てに参加だな。
「・・・」
「ん? どうした、璃々。俺もついてるか?」
こちらをじっと見つめる璃々。俺の口の周りにも何かついちゃったか、と触ってみるが、璃々は首を横に振る。
? じゃあどうしたんだろう。食事の手も止まっているみたいだし。
そんなことを考えていると、璃々はいつもより小さい声で、遠慮がちに口を開いた。
「・・・あのね、璃々がおりょうりできるようになったら、ギルお兄ちゃんは璃々とけっこんしてくれる?」
「ん゙ん゙っ!? ゲホッ、ゲホッ・・・!」
璃々が唐突に変なことを言ったからか、むせてしまった。
け、結婚!? あれか、おままごとの時のカッコカリ的なアレじゃなくて、マジもんか!?
・・・だとしたらなんてませてるんだ。全く。
「わ、ギルお兄ちゃん、だいじょうぶっ?」
「んく・・・あ、ああ。大丈夫だ。問題ないぞ」
落ち着いて水を飲み、席を立って背中を擦ってくれた璃々に礼を言う。
その後、俺のそばに経つ璃々の肩に手を載せながら、いいか? と話しかける。
「あーっと、璃々、アレだ。結婚するには、お料理だけじゃ駄目だぞ。璃々のお母さん・・・紫苑も、お料理が出来るだけじゃないだろ?」
そう言って、璃々を諭すように続ける。
「お料理も、お洗濯も。後璃々のことをきちんと育てられるようにお仕事だって頑張ってるだろ?」
「・・・うん」
「今からお母さんになる月も、沢山勉強したり、練習することが一杯あるんだ。・・・璃々も、もうちょっと勉強することがあるな」
出来るだけ優しくなるように笑いかけて、璃々の頭を撫でる。
余り納得したような顔はしていないが、一応理解はしているって感じかな。
・・・今は璃々も幼いから俺しか選択肢が無いのかもしれないが、大人になれば他の男性も目に入るようになるだろう。
それでも尚、俺のことを好いてくれるならそれに答えようとは思うけど・・・今はまだ、ちょっと早いかな。
「ん、わかった」
渋々、と言った様子だが頷いてくれる。
よしよし、と強めに撫でてあげると、璃々は嬉しそうに笑う。
「良い子だ。・・・さ、ご飯を食べたら出かけようか。今日はずっと一緒にいてやれるからな」
「ほんとっ!? わーいっ。あのね、じゃあじゃあ――」
・・・
「・・・なるほどね」
「一緒にお買い物がしたい」と言う璃々のお願いによって、人で賑わう大通りへやってきた。
もちろん、逸れないようにと手はきちんと繋いでいる。
「何処から見て回る?」
先ほど「お母さんからお小遣い貰ってるからお買い物できるのっ!」と嬉しそうに報告してくれたが、まぁお手ごろなものを扱っている店に行くとしよう。
ある程度は自分で支払わせて金銭感覚を養ってもらうが、基本的には俺が出すことにしよう。娘を甘やかすのも、父親としての使命だろう。
・・・今は娘でも、将来は妻になるかもしれないと思うと少し首を傾げてしまうが・・・まぁ、今は考えないようにしよう。
「お、ここなんかいいんじゃないか?」
女性向けの小物が売っている店が見えたので、璃々に勧めてみる。
瞳をキラキラとさせているので、この店でいいだろう。値段もお手ごろだしな。
「いらっ、しゃいませー」
入店すると、店員から声を掛けられる。
・・・む? それにしては店員の姿が見えないな。
まぁ、裏で在庫の整理でもしているんだろう、と結論付ける。
「わぁ・・・! キラキラしてるね、ギルお兄ちゃんっ」
「ああ。・・・月に何かプレゼント買ってくかなー」
璃々の手は離さないように気をつけながら、俺も品物を見てみる。
・・・ん?
「あれ? 客が少ない・・・っていうかいないな」
「ほんとだー。すいてるねっ」
「・・・いや、おかしいだろ。なんだろう、この違和感」
ッ! そうか、この違和感は、三国の大戦中・・・聖杯戦争のときに感じたプレッシャー!
俺は急いでステータスを全部元に戻して、スキル、宝具も十全に扱えるようにする。
「わぁー、ギルお兄ちゃん、このお人形さん、凄いおっきー!」
「璃々、お人形さんはいいから近くに・・・うおっ!?」
思わず後ずさった。璃々が『お人形』と言ったものは、浅黒く、筋肉で出来ているかのごとく巨大な・・・ポージング中の貂蝉だった。
なるほど、店内に客どころか店員すらいない理由が今わかった。俺が聖杯戦争中かのようなプレッシャーを感じたのもな。
「うっふんっ」
バチコン、とこちらにウィンクをしてくる貂蝉。
璃々を抱きかかえるようにして後ずさり、警戒しながら鎧を装着。
「あらぁん。そんなに嫌わなくてもいいじゃなぁい?」
「・・・嫌ってるわけじゃない。色々助けてもらったこともあるしな。・・・これはまぁ、生物としての生存本能みたいなものだろう」
「そぉう? まぁ、嫌われてるわけじゃないなら、嬉しいわぁん」
再び、バチコン、とウィンク。
その射線上から外れるように首を傾げて避ける。
ちなみに、璃々の目はずっと俺の手によって塞がれている。
俗に言う「しっ! 見ちゃいけません!」と言うのである。
「それにしても、何で貂蝉がこんなところに? ここは女性向けだぞ?」
「しっつれいしちゃうわん。ワタシだってね、
「・・・ああ、そういえばそういう言い分だったな」
ぷりぷりと怒った様なしぐさを見せる貂蝉。
・・・だが、完全に貂蝉とかが来て良い店じゃないだろ、ここ。
アンダーグラウンドな地下闘技場とかが似合ってると思うぞ。
「・・・ギルお兄ちゃん、なんで見せてくれないのー?」
そう言って、俺の手からばっと抜け出てしまう璃々。
あ、こら、あんまり教育に良くないから見せられないんだけど・・・まぁ、璃々ならトラウマになることも無いか。
「あらぁ。可愛らしい女の子ねぇん。こんにちわ」
「こんにちわっ。・・・えっと、おに・・・おね・・・おじ・・・?」
璃々はこの存在をなんと呼んでいいのかわからないようだ。
・・・「おじさん」でも問題は無いと思うけどな。激怒するだろうけど。
「ワタシは貂蝉よん。お姉ちゃんって呼んでいいのよぉん」
「うんっ。ちょーせんさんっ」
「・・・おお、素晴らしい回避法だな」
性別を固定するような呼び名を避けるとは。・・・もしかして、璃々は幼いながらこいつの脅威を感じ取っているのではなかろうか。
「そういえば何しにきたんだ?」
「あら。ウィンドウショッピングは漢女の嗜みよん?」
「・・・それは現代の価値観じゃ・・・ああもう、この世界にそんなの求めても無駄か」
ある種の諦めを感じながら、ため息をつく。
・・・璃々がある意味心の強い子で助かった。恋ですら漢女と出会ったら威嚇するくらいだからな・・・。
「一刀には会っていくのか?」
「そうねぇ・・・そうしようかしらぁん」
・・・一刀、すまん。紫苑から璃々を預けられている身として、これ以上有害なものを見せるわけにもいかんのだ。
心の中で一刀に謝罪しておく。・・・いや、なんというか・・・漢女たちの好みじゃなくてほんと良かった。
・・・まぁ、漢女を求めるちょっとアレな町人もいるみたいだし・・・。
そういえば最近漢女たちは一刀の追っかけだけではなく一刀×多喜とかにも興味があるらしい。
絶対に朱里たちとは交流させないようにしている。朱里たちも流石に漢女たちと進んで会話する勇気は無いようなので助かる。
「それじゃあねん。ご主人様とお話・・・出来ればその先まで、頑張ってくるわぁん」
「あ、ああ・・・ホント、すまんな一刀」
のっしのっしと巨体を揺らして店から出て行く貂蝉。
・・・それから少しして、店員が様子を見て、ほっとした息を吐いて出てきた。
「あ、あの・・・ギル様、本当にありがとうございます。流石は黄金の将と呼ばれるお方だと実感いたしました・・・!」
感動した面持ちで俺の手を握り跪く店員さん。・・・ホントに困ってたんだなぁ。
実際に何か害を及ぼしたわけじゃないから出て行けとも言えなかっただろうし。
将などの強い存在はほとんど女性だとは言え、目の前の店員さんのようにか弱い女性もいる。後はウチの侍女とかな。
「民の安全を守るのが俺達の役目だよ。・・・さてと、それじゃ買い物続けさせてもらうかな」
少しだけ料金にサービスしてもらったりしながら、璃々と一緒に買い物をする。
母親譲りのサラサラとした髪を揺らしながら、璃々は何を買おうか迷っているようだ。
こちらをちらちらと窺っているので、もしかしたら悩んで時間を掛けている事に罪悪感でも感じているのかもしれない。
・・・少し、離れてみるか。もしかしたら、俺がいるから決められないのかもしれないし。
「璃々、俺はちょっとあっちのほうを見てくるよ」
「あ・・・うんっ、わかったっ。璃々はここでみてるね!」
まぁ、店内にいるなら俺が普通に見ていられるし、店員も見ていてくれるだろ。
離れたところで別のものを物色しながら、璃々の気配だけは見逃さないようにしておく。
少しして、こっそりと璃々は品物を会計へと持って行ったらしい。小声で囁きあう璃々と店員が少し遠めに見える。
・・・なんだか除け者にされてるみたいで少し寂しくもあり・・・璃々が成長していると言うことを感じ取れて嬉しくもある。
会計が終わった頃を見計らって、璃々に近づく。こちらに気付いた璃々は、満面の笑みでこちらに駆け寄ってくる。
「璃々のお買い物終わったよ! ギルお兄ちゃんは?」
「ん、俺も終わったよ。さ、次は何処に行こうか」
月へのプレゼントも選び終わったので、俺も会計を済ませる。
・・・さて、次はどうしようかな。っとと、その前に鎧を戻さないと。
・・・
「おっさんぽおっさんぽ~」
「楽しそうで何よりだ。・・・いやー、天気が良いよなぁ」
ぽかぽかという擬音が似合いそうなほどに快晴だ。散歩や訓練にはもってこいだな。
隣を歩く璃々も楽しそうに歌なんか口ずさんでいる。
「? ・・・あ、ええと、ほんじつは、おひがらもよく!」
「・・・誰から聞いたんだ・・・?」
「いよお姉ちゃん! あのね、おみあいのときのごあいさつなんだって! ・・・おみあいってなーに?」
「・・・壱与ェ。あいつ、後で百叩き・・・いや、彼女らの業界ではご褒美か」
体罰が効かないとか、若干あいつやりたい放題である。
あいつに一番効くお仕置きってなんなんだろうか。無視すれば放置プレイ扱いだし、叩けばSMプレイ扱いだし・・・。
また詠に頼んで密室お勉強コースやってもらうか?
「あーっと、そうそう、お見合いだけど・・・そうだな、男の人と女の人が二人でお話して、仲良くなるためのものだよ」
「へーっ。じゃあ、今の璃々とギルお兄ちゃんも、おみあい?」
「・・・お見合いと言うよりはデート・・・いやいや、普通にお散歩だって、お散歩」
危ない危ない。璃々はまだデートとかの間柄ではなく、義理の娘みたいなものだ。
そんな娘と二人で歩くのは、世間一般では散歩と言うのだ。
「ふーん。・・・いつか、璃々とおみあい、してね!」
「・・・そのうちなー」
良くお母さんが子供に使う魔法の言葉の一つ、「そのうちね」を使用する。
そのほかに似たものは「また今度ね」だ。これと「ヨソはヨソ。ウチはウチ」の三つが三大お母さん用語として抜群の威力を誇っている。
「あっ、あそこで何かやってるー!」
「お、ホントだ。・・・ん?」
あそこで絡まれてるのは・・・斗詩? 何で一人であんなところに。
まぁ、彼女も将の一人だ。あの程度なら一人でも・・・。
「なんてスルーは出来ないよなぁ」
「? どしたの、ギルお兄ちゃん」
「ん、いや、斗詩を・・・斗詩お姉ちゃんと一緒にお散歩でもいいか?」
「うんっ。斗詩お姉ちゃん、いつもあそんでくれるのっ」
良い笑顔の璃々の手を引き、騒ぎの中心へと向かう。
・・・
「な? いいだろ姉ちゃん。ちょっとだけだからよ」
「いえ、ですから用事がありまして・・・」
「ほんとちょっとだからさ! な!?」
どうやら斗詩は武装も鎧も着けていないらしい。
彼女はちょっと気弱なところもあるし、鎧を着けていなければ武将に見えないから絡まれてしまったのだろう。
・・・あれ、猪々子がいないのは珍しいな。斗詩を一人にして何処かに行くとは思えないんだが・・・。
「まぁ、そんなことより助けてやらないとな」
良くあの大きな槌を振り回しているから、他の将同様に「絡まれてるんならふっ飛ばせばいいんじゃね?」と思われがちだ。
だが、斗詩はある程度力持ちとはいえあの大槌に若干振り回されるくらいにはか弱いのだ。
どちらかと言うと彼女の担当は頭脳派なので、武器は「一応扱える」みたいな扱いだと思う。
だから、鎧も大槌もなしに成人男性数人に囲まれてしまっては対処する術が無いのだろう。
「な、ほら、取り合えず皆に見られてっからさ、落ち着ける場所に行こうぜ」
「そうそう。そ、そこの路地の裏とか、さ」
取り囲んでいる街の人も疎らで、数人は城か交番へ人を呼びに行っているのだろうが・・・ここは結構人通り少ないからなぁ。
時間的にも巡回の兵士はまだしばらく来ないだろうし。・・・っていうか路地裏に連れて行こうとするな。薄い本みたいな展開にするつもりか。
「おい、若人達よ。その辺にしておけ」
「あん!?」
先ほどから彼らは周りを取り囲む人たちに睨みを効かせて近づかせないようにしていたらしい。
それと同じように、俺にも威嚇の言葉と共に睨んでくる。
「正直に言って、それで成功するナンパは無い。今逃げるなら見逃してやろう。・・・一応、最後通告な」
俺がため息混じりにそう伝えると、彼らの視線は俺から璃々へ移って、更に俺へと戻ってきた。
「おいおい、命知らずだなお前。子連れでそんな事言っても、全く怖くねえんだけど!」
「この人数に子供連れて喧嘩売るとか、本気か?」
・・・おや、これは珍しいな。本格的なバカだ。
今までのは物分りの良いのや俺だと知ると逃げ出すまだまともな部類だったのだが・・・ふむ、俺もまだまだと言うことか。
確かに斗詩を囲んでいるのはそれなりに体格の良い若者が八人ほど。・・・そんなにいるのに何故一人で歩いている斗詩を選んだのか。
いや、まぁ何人であろうと無理矢理女性に迫るのは褒められたものじゃないのだが。
「あ、あの~・・・。ホントに、皆さん早めに逃げたほうがいいと思うんですけど・・・」
困ったように助け舟を出す斗詩。・・・優しい子だな。俺からの警告も聞かない青年達を庇うなんて。
だが、それを聞くとは思えないが・・・。
「ははっ、姉ちゃんは俺達よりこのあんちゃんの心配してやれよ!」
薄ら笑いの後、それぞれが構えを取る。
中には短剣なんかの武器を持っている者までいる。
あーあ、それさえなければもうちょっと弁護のしようもあるだろうに。
「璃々、斗詩お姉ちゃんの所で一緒にいられるか?」
「うんっ」
「よし・・・」
じりじりとこちらに距離をつめ、斗詩から距離を取ったのを確認して、璃々を投げる。
「たかいたかーい!」
「きゃーっ」
「きゃー!?」
嬉しそうな悲鳴を上げて飛んで行く璃々と、心の底から驚いた声を上げる斗詩。
璃々を危なげなくキャッチすると、斗詩はこちらに叫ぶ。
「あ、危ないじゃないですかっ! 私が受け取れなかったらどうするつもりですかっ!」
「斗詩なら大丈夫だろうと思っただけだって。おっと」
「おら、さっさとくたばれっ!」
振るわれる拳を避け、地面に叩き付ける様に投げる。
その隙を突いて背後から短剣の一突き。
・・・だけどまぁ、そのくらいは普通に察知できるので、それを手で掴んで同じように投げる。
一人目の上に重なるように落ちたので、二人分の悲鳴が聞こえる。
「っだらぁっ!」
殴りかかられたので、近くにいた一人の首根っこを掴んで頭同士をゴツンとぶつけてやる。
・・・あーあ、痛そうだなぁ。
「な、何だよこいつ・・・」
「い、一瞬で四人も・・・!」
残りの四人は少したじろいでいるようだ。
・・・今更怖気づいたのか。遅いぞ。
「まぁ、もう警告はしてるから・・・逃げ出しても無駄だけどな」
地面を蹴ってそのうちの一人に迫る。
手に持つ短刀を叩き落し、返す拳で頬の辺りに裏拳だ。
錐揉みして宙に浮いた後、土煙を立てて全身で着地する男。少し痙攣しているので、ちょっと危ない状態かもしれない。
「ひ、ひぃっ! ・・・お、俺は、なんにもしてないのにっ!」
「あ、おい!」
残った男達の一人が、悲鳴を上げて逃げ出した。
疎らな人垣の人のいないところを駆け抜けようとしたので、こっそり宝物庫から自動人形の手を出して足を掴ませる。
急に足を捕まれた男は、走った勢いを殺しきれずに派手に顔面から転ぶ。
アレでしばらくは動けまい。残った二人のうち一人を掴んでもう一人に向かって投げ飛ばす。
その上に足でストンピングをかまし、最後に転んで悶絶している一人の首を軽く絞めて失神させる。
・・・うん、大体一分くらいかな? 周りに被害もないようだし、及第点ではあるだろう。
「斗詩、怪我は無いか?」
「あ、はいっ。私は全然・・・。この人たちの心配をしてあげたほうが・・・」
「いいか、斗詩? 俺は彼らにやめておけ、と警告した。それを聞かないからには、ちょっと痛い目見てもらう必要があるだろう?」
「そ、そう、ですねっ。あのっ、お、おっしゃるとおりですっ!」
何故かびくびくがくがくし始めた斗詩から璃々を受け取る。
空中を飛んだのが気に入ったのか、もう一回! とせがんでくる璃々を斗詩と二人で宥め、青年達八人を捕らえて城へ戻っていく兵士を見送る。
・・・裁判官、また卑弥呼に頼むか。
「それにしても・・・すみません、ギルさん。あの、変なことに巻き込まれてしまって・・・」
「謝ることじゃないさ。・・・しかし、猪々子はどうしたんだ? 斗詩を一人っきりにするなんてあんまり考えられないが・・・」
「あ、文ちゃんはその・・・麗羽さまの無茶振りで今山の中にいるんじゃないかなぁ・・・」
「・・・そっか。そろそろ麗羽も躾が必要な時かも知れんな」
「あ、あのっ、えっと・・・多分閨に呼ばれるのは麗羽さまも初めてなので、優しくしてあげてくださいね?」
「・・・何故『躾』をそういうことだと思った? ん?」
完全に勘違いしているであろう斗詩に、出来るだけ笑顔で問い詰めると、涙目になって弁解し始める。
何故俺が『躾ける』と言うと閨に呼ぶことになるのかな?
「ち、違うんですっ。七乃さんから美羽さまをそうして躾けたって聞いたから・・・」
「情報提供ありがとう。・・・七乃め、明日の朝日を立って拝めると思うなよ・・・」
「・・・うぅ、ごめんなさい、七乃さん・・・」
斗詩は申し訳なさそうにここにはいない七乃に謝るが、まぁ大丈夫。痛いことはしないから。
「あ、そういえば猪々子のことは聞いたけど・・・斗詩は何か買い物か?」
「あっと・・・はい。いくつか生活用品を買い足しに。麗羽さまや文ちゃんだとその・・・不安なので」
「ああ・・・確かにな」
もとより主人の麗羽にはお使いなんて頼めないだろうし、猪々子は・・・まぁ、春蘭にお使い頼むようなものだ。
やっぱり斗詩がいないと麗羽たちは生活力ないよなぁ・・・。
「・・・よし、今日は斗詩も一緒に食べ歩きしようか」
「唐突に何を・・・と言いますか、いいんですか? その・・・璃々ちゃんと遊んでらしたんじゃ・・・?」
そう言って璃々に目を向ける斗詩。
「璃々、斗詩お姉ちゃんも一緒に遊んでもいいか?」
「いいよーっ! あのね、おさんぽしてたのー!」
「そうなんだ。じゃあ、お姉ちゃんも一緒にお散歩しようかな」
少し屈むようにして、璃々に笑いかける斗詩。
斗詩ならば子供の扱いも上手いだろうし、心配することは無いだろう。
それに、たまにこういう風に癒し系の武将とかと交流しないと、俺の思考が武闘派寄りになってしまうからな。
いやだろう? 誰彼構わずエアを振りかぶって襲い掛かる英雄王とか。・・・いやほら、副長へのあれは愛の鞭というか。
璃々を真ん中に、両サイドから俺と斗詩が璃々と手を繋ぐ。
「それにしても、良いお天気ですねぇ。・・・あ、そうそう、麗羽さまが、ギルさんをお茶に誘いたいって言ってましたよ」
「・・・そりゃまたなんで」
「ほら、ギルさんって私達みたく黄金の鎧ですし・・・それに、美羽様と懇意になさってるからって」
「黄金の鎧について親近感を持たれていたのは知っていたが・・・まさか、気に入られるほどだとは」
「あははー・・・。その、麗羽さま曰く「わたくしと同じく黄金の鎧を着用するとは、中々お話のわかる方ではありませんか」ということらしくて・・・」
大きなため息を一つ。
・・・強引に末席に加えられそうになってそうだな。後ではっきりと立場を分からせてやらないと。
「麗羽を抑えるのは斗詩と白蓮にまかせっきりだったからなぁ。今度また、改めて二人には何か感謝の品でも贈るよ」
そう言った俺の顔を、少し驚いたように見つめる斗詩。
・・・?
「どうした、鳩が豆鉄砲食らったような顔して」
「あ・・・いえ、その・・・白蓮さんのことも、きちんと気付いてらっしゃったんですね」
「・・・斗詩、お前それ本人の前で言うなよ。泣かれても俺は慰めるの手伝わないからな」
「そ、それはもちろん。でも、白蓮さんに感謝の言葉とか掛けてあげたら、とっても喜んでくれると思いますよ」
彼女は仕事の貢献度とその対価が合ってない気がする。もうちょっと評価されてもいいはず。
俺だけでもきちんと彼女を褒めてあげることにしよう。
「だな。ま、今日は璃々との散歩で勘弁してくれな」
「ふふ。そうですね。・・・麗羽さまや文ちゃんと騒いだりするのも好きですけど・・・こうして落ち着いて歩くというのも・・・良いものですね」
璃々も喜んでいるみたいだし、良かった良かった。
・・・
疲れて眠ってしまった璃々を背負いながら、斗詩を部屋へと送る。
「ごめんなさい、送ってもらっちゃって・・・」
「気にするなよ。こっちに付き合って貰ってるんだから、これくらいは当然だって」
時間的には夕方。太陽も大分西日になってきた。
ありがとうございます、とはにかむ斗詩の顔も、太陽に照らされて赤くなっている。
「今度は猪々子も一緒に、何か食べに行こうか。麗羽に結構振り回されてるみたいだし、慰安は必要だろ?」
「あ、じゃあ、文ちゃんに伝えておきますね。ふふ、きっと喜ぶだろうなぁ」
斗詩からは、麗羽や猪々子、白蓮辺りの話を聞くことが出来た。
新鮮な情報ばかりで、中々面白いことも聞けた。
「・・・最近『麗羽用』の支出が多いと思ったら・・・」
三国では面倒見切れない、ということで、麗羽たち三人、美羽と七乃、しすたぁずなどは俺が私財で面倒を見ていることになっている。
まぁ、美羽は七乃が俺の部隊で軍師やってるし、しすたぁずはアイドルとして俺の設立した会社で働いているので、ニートなのは麗羽だけになっている。
「・・・斗詩と猪々子も、俺の部隊で働くか? 正直、最近麗羽たちに向かってる視線が冷たくなってるの、ちょっとは感じてるだろ?」
「う・・・やっぱり、そうですか? 軽くなんですけど、白蓮さんから忠告を貰ったこともあって・・・」
やはりというかなんというか、人のいい白蓮から注意を受けているようだ。
「その、「ギルがお前達の尻拭いするのにあんまりいい顔しないやつらもいるんだぞ」って事をですね、遠まわしに・・・」
「あー・・・みたいだな」
たまにだが、陳情とかにも麗羽関係の陳情がきたりするのだ。
町で好き勝手なことをしてるんだけど、みたいな。何処から情報が漏れてるのか、麗羽たちの生活を面倒見てるのは俺、みたいなことも言われていて、それも陳情で上がってきたりする。
・・・まぁ、蜀で保護してるわけだし、桃香も出来れば皆助けたい、っていう精神の持ち主だから蜀で面倒見ればいいじゃない、って話なんだが・・・。
華琳と蓮華から桃香に猛抗議がきたのだ。「国民の税で、そんなのを保護するのは、王として、政務者として示しがつかない」ってな。
そこで桃香に泣きつかれて、こっそりと俺の私財から生活費やら諸経費を出してあげているのだ。・・・まぁ、斗詩と白蓮に頼んで、何に使ったかは報告させるようにしているが。
「ち、陳情にも上がってるんですか!? ・・・ほ、ホントにごめんなさい・・・」
「まぁ、俺自身は迷惑だと思っているわけじゃないから別にいいさ。これからはほら、町の人にあんまり迷惑かけないように気をつけてくれな」
「はいっ。・・・あ、ここです。私の部屋」
「おっと、そっか。・・・それじゃ、また誘うよ。じゃな」
「はい。あの、今日は色々とありがとうございました」
「どういたしまして」
深々と頭を下げて部屋に戻った斗詩を見送り、背中の璃々を起こさないように再び歩き始める。
さて、次の目的地はここから結構近いはず。
・・・
「あ、ギルさんっ」
「お邪魔します。月、調子はどうだ?」
「んーと・・・まだ、やっぱり全然わからないですよ。お腹も全然ですし・・・」
そう言って、月は自分の腹を擦る。
・・・璃々を背負ってやってきたここは、お察しの通り月と詠の部屋である。
出産間近になれば産婆さんとか華佗が詰めてくれている後宮に行く手はずになっているが、それはまだ建設中。
月の様子もまだまだ問題ないようだし、今はこうして普通に仕事もしてもらっている。
「ふふ、璃々ちゃんの寝顔、可愛いですね」
「はは、だろう? ちょっと休ませて、また起きたら紫苑の部屋に連れて行くよ」
「はい。・・・えっと、その、お膝の上、よろしいですか?」
「ん? ああ、構わんよ。ほら、おいで」
そう言って、俺は月を抱きかかえ、膝の上に迎える。
「へぅ・・・やっぱり、落ち着きます」
「そっか。・・・いや、それにしても、母親になるっていうのに甘えん坊だな」
「ギルさん・・・意地悪です」
「好きな子は構いたくなるんだ」
そう言って、月の頭を撫でてみたり、腹を擦ってみたりする。
あちらを向いているので表情はわからないが、耳を見るに顔も真っ赤なのだろう。
「は、あぅ・・・あの、そんなに触られると、へぅ・・・璃々ちゃん、起きちゃいます」
「へっへっへ、よいではないか、よいではないか・・・」
「ぎ、ギルさぁん・・・しゃ、喋り方がなんだかやらしいです・・・」
ふにふに触っていると、若干月が興奮してきてしまったらしい。
・・・だがまぁ、確か落ち着くまではアレは出来ないので、俺もほどほどにしておく。
「へぅ・・・ぎ、ギルさん? その、あちらなら多分璃々ちゃんも聞こえないと思うので・・・」
「おいおい、華佗にも言われただろ? お腹の様子が落ち着くまでは・・・」
「・・・そ、その、朱里ちゃんたちの持っていた本では、えっと・・・」
そう言ってもじもじし始める月。
・・・まさか、「そっち」か!?
「・・・だめ、ですか?」
恥ずかしそうにこちらを見上げる月。
その瞳は潤んでいて・・・これは、断れんな。
「わかったわかった。無理しない程度にな?」
「わ、わかりましたっ。・・・あ、でも、準備とか色々あるんだったっけ。・・・す、少し璃々ちゃんの様子を見ていてください!」
そう言って部屋を出て行く月。
・・・ええと、準備って、アレ・・・だよな?
「・・・準備万端とか、月、もしかして近々やるつもりだったのか?」
知識の出所は何処だろうか。・・・朱里辺りが一番怪しいが、卑弥呼とか孔雀とか、怪しいのは結構いるからなぁ・・・。
まぁ、そこまでして月もやりたがるということは・・・最近欲求不満だったとか・・・?
「お、お待たせしました・・・」
頬を上気させた月が戻ってくるまでの間、俺はそんなことをつらつらと考えていたのだった。
・・・
「・・・それじゃ、璃々を送ってくるよ」
「ばいばーい、月お姉ちゃんっ。こし、おだいじにね!」
「へぅ・・・は、はいぃ・・・。ば、ばいばい、璃々ちゃん」
寝台の上で布団を被って起き上がれないでいる月に、俺と璃々はそれぞれ挨拶する。
・・・まぁ、月に何が起こったかはご想像にお任せする。あえて言うならば、まぁ・・・後で腹を下さないかは心配だなってぐらいだ。
もちろん、璃々に何か見られたりなんてことは無い。・・・宝具でいい夢見てて貰ったけどな。
「月お姉ちゃん、こしがいたくなっちゃったの?」
「ああ、まぁ、侍女のお仕事は結構屈んだりするからなぁ」
何食わぬ顔で、つらつらと嘘を璃々に伝える。
・・・いやほら、言えないだろ、本当のこととか。
「ふぅん・・・璃々、大きくなったらじじょさんになる! 月お姉ちゃんのおてつだいする!」
「お、偉いぞー。じゃあ、好き嫌いせずにたくさん食べて、沢山遊ばないと」
「うんっ!」
元気に返事をする璃々に笑いかけながら、紫苑の部屋まで向かう。
もう日も暮れてしまった。晩御飯は月の部屋で月を介護・・・じゃなくて、介抱しながら食べたので、後は紫苑のところへ送るだけだ。
「えへへー。今日は、お母さんにいっぱいおはなしすることできたね!」
「そうだな。沢山教えてあげると良い。紫苑も喜ぶだろ」
「はーい!」
先ほどまで寝ていたからか、食事をしたからか・・・とても元気だ。
もう夜だから少し静かにな、と注意しつつ、紫苑の部屋にたどり着く。
「こんばんわー、紫苑、いるかー?」
こんこん、と扉をノックして、声を掛ける。
「おかーさん、ただいまーっ」
「あらあら、璃々? それに、ギルさんね。今あけます」
とたとた、と足音の後、扉が開かれる。
笑顔で俺達を迎えた紫苑は、おかえりなさい、と声を掛けると、駆け寄ってきた璃々を抱き上げる。
「ギルさん、ごめんなさいね、一日璃々に付き合わせてしまって」
「気にすること無いって。別に苦労でもなんでもないからさ」
「そう言っていただけると、嬉しいです。・・・立ち話もなんですね。どうぞ。お茶をお出ししますね」
柔らかく微笑みながら部屋へと入っていく二人の後から、俺も部屋の中へ。
すでに紫苑は璃々を椅子に座らせ、コトコトとお茶の用意をし始めていた。
「どうぞ、お好きなところにお座りください。すぐに出来ますので」
「ん、お邪魔するよ」
「ギルお兄ちゃん、こっちこっちー!」
璃々が隣の椅子をぽんぽん叩くので、素直に従うことにする。
「あのねあのね――」
そして、璃々が調理中の紫苑に話しかけ、今日あったことをちょろちょろと話し始める。
それに相槌を打ったり、ちょっとだけ補足したりしながら、紫苑のお茶を待つ。
「お待たせしました。・・・璃々、熱いから気をつけるのよ?」
「はーいっ! ・・・ふー、ふー」
それから少し、またお茶を飲みながら璃々の話を聞く。
途中で、何か思い出したのか、璃々がずっと持っていた肩掛けの中から袋を二つ取り出した。
「これっ! お母さんと、ギルお兄ちゃんに!」
「あら、私にも?」
「おっと、俺にもか?」
それぞれの前に置かれた袋は、それなりに小さい。
まぁ、璃々の肩掛け鞄に入る大きさだからなぁ・・・。
「何かしら。開けても良い?」
「うんっ」
俺と紫苑が、それぞれ包みを開ける。
これは・・・お香?
「えへへ・・・あのね、璃々、ギルお兄ちゃんのにおい大好きなの! それでね、ギルお兄ちゃんみたいなおこーさがして、璃々とおそろい!」
そう言って、璃々は俺の持っているお香と同じ物を取り出した。
「・・・でも、どうやってつかうんだろ? なんかね、おみせだとけむり出てたの」
「それは・・・紫苑に教えてもらうと良いな」
「ふふ。そうね。明日、早速炊いてみる?」
「はいっ」
紫苑の手には、小さなブローチ。
それを、紫苑は大切そうにもう一度箱に戻す。
「私にも、ありがとうね、璃々。大切にするわ」
「えへへ・・・」
照れくさそうに笑う璃々。
それからしばらく三人で話をした後、夜も遅いから、と泊まっていくことになった。
・・・もちろん、璃々がいるから変なことはしないぞ。川の字で三人並んで寝ただけだ。
真ん中の璃々に抱きつかれてちょっと寝づらかったのはナイショだ。
・・・
「・・・」「どうしたんだ、ギル? そんな悲しそうな目をして」「・・・男の娘、かぁ」「ッ!? ま、まさか・・・ギルの恋人に新しく追加されたのか!?」「・・・違う違う。・・・まぁ、もし加わったとしても問題ないような経験は積んだけど」「? どういう・・・なぁ、そのくっ付いてぽかぽかギルを叩いてる月ちゃんは何か関係あるのか?」「もちろん。・・・関係あるというより、当事者って感じだ」「~っ! ギルさんのいじわるぅ・・・」「可愛い」「可愛いな」「結婚しよ」「いやいや、もう結婚してるようなもんだろ」
誤字脱字のご報告、ご感想お待ちしております。