真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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出会いは大切にしましょう。


それでは、どうぞ。


第六話 将との出会いと戦いに

「ねえお兄さんっ」

 

「お、桃香か。どうした?」

 

蜀への屋敷へ行く道中、桃香に出会った。

桃香は嬉しそうに笑うと、俺の腕に抱きつき、お出かけしよーよ! と上目遣いで誘ってきた。

出会うたびにこうして腕を組まれ、二つの凶器を押し付けられてきて大変だったのだが、最近ようやく慣れてきた。

 

「んー、それも」

 

「ギル殿!」

 

それもいいが、仕事があるんだよ、と続けようとしたとき、後ろから愛紗の声が聞こえる。

・・・しかも、若干ご立腹気味だ。

 

「あ、愛紗ちゃん!」

 

「おはようございます。・・・ギル殿、どこかへお出かけですか?」

 

「い、いや、違うよー? 大丈夫、ちゃんと訓練のことは覚えてたから」

 

「・・・本当ですか? 桃香さまのお誘いに、ずいぶんと乗り気のようでしたが?」

 

・・・聞いてたんですね、愛紗さん。

でもそれ、まだ答えの途中だったんですよ。いや、本当に。

 

「ほ、本当だって!」

 

おそらく怒っている理由は勘違いからによるものだが・・・今は逃げの一手だ。

この世界の将たちは、宝具さえあれば英霊と打ち合えそうな娘が何人かいるから困る。

愛紗もその中の一人で、青龍偃月刀の一撃はこのサーヴァントの身体でも痛みを感じるときがあるほどだ。

なので、怒らせてこの場で仕合になるよりは平和的に逃げる方が良い。

 

「・・・そうですか。では、訓練場まで行きましょう」

 

「あ、ああ。でも、俺屋敷にとりに行くものあるんだ。先に行っててくれないか、愛紗」

 

俺がそういうと、愛紗は俺を見た後、ちらりと桃香を見て、少し目を伏せた後

 

「分かりました。急いでくださいね」

 

きりっとした口調でそう言ってきびすを返し、城へと向かっていった。

その愛紗の後姿を見ていると、急に桃香が

 

「お兄さん、私、ちょっと愛紗ちゃんとお話してくるね?」

 

「おう。・・・悪いけど、ちょっと説明しておいてくれるか?」

 

「ふふ、りょーかい。あ、そうだ。お兄さん、用事があるのに誘っちゃってごめんねっ」

 

両手を合わせ、謝意を表す桃香に、大丈夫、気にしてないよ、と返すと、桃香はもう一度ごめんね、と謝ってから城へと走っていった。

少しして愛紗に追いついた桃香が呼び止めるのを見てから、俺も蜀の屋敷へと向かう。

 

「・・・今日の訓練、ちょっと厳しくなりそうだなぁ・・・」

 

全力で振るわれる愛紗の青龍偃月刀を必死にさばいている俺の姿が容易に想像できた。

・・・うん、良い稽古になると思おう。

 

・・・

 

その後、覚悟して訓練場まで顔を出すと、すでに兵士たちは訓練を始めていた。

愛紗はというと・・・。

 

「・・・あ、あの、ギル、殿」

 

・・・あれ? 

あまり怒っていないように見える。

 

「どうかしたのか? 愛紗」

 

「い、いえ。・・・先ほどは、すこし早とちりをしてしまったようで・・・」

 

ああ、なるほど。さっき追いかけていた桃香に事情を説明されたんだろう。

誤解が解けたんなら良いや。元々そんなに気にしていたわけじゃないし。

 

「はは、誤解が解けたんなら何よりだよ、愛紗。・・・よし、これでこの話は終わりだな」

 

「そう言っていただけると助かります」

 

そう言って微笑むと、愛紗はすぅ、はぁ、と深呼吸を一度してから、先ほどまでの目じりが下がったような弱気な顔ではなく、いつもの凛々しい表情を浮かべる。

 

「では、久しぶりに手合わせをお願いします」

 

「・・・ああ、お手柔らかにな」

 

「それはこちらの台詞・・・ですっ!」

 

言い切ると同時に青龍偃月刀を低く構えこちらに突っ込んでくる愛紗。

地面すれすれを低空飛行する龍のように迫る切っ先は、大戦が終わる前の俺なら視認すら難しかっただろう。

だが、今は違う。

青龍偃月刀の軌道の予測すら出来るようになった俺は、半歩だけ引いて、エアを横薙ぎに振るう。

ちょうど下から切り上げるように迫っていた偃月刀にぶつかり、甲高い音と共に偃月刀は横に弾かれ、一瞬の隙が出来る。

 

「なっ・・・!?」

 

弾かれたことが予想外だったのか、愛紗は目を大きく開いて驚きをあらわにする。

だが、そんな動揺も一瞬で無くなり、横に弾かれた勢いを使って独楽のように一回転。

勢いをつけた高速の一撃を、エアを振った後のがら空きの右半身に叩きつけるように振るう。

 

「食らうかっ!」

 

速度が最高速になる前に、自分から青龍偃月刀にぶつかりに行く。

鎧の肩の部分にあたるようにして、衝撃を弱める。

ぶつかり合った鎧と偃月刀が火花を散らし、俺と愛紗が同時に顔をしかめる。

俺は言わずもがな、鎧に偃月刀が当たった衝撃で。流石にすべての衝撃をなくすことは出来なかった。

愛紗は、たたきつけた偃月刀からの反動が思いのほか強かったのか、体を硬直させていた。俺も槍なんかの長物に慣れないときは良くそれに苦しめられた。

 

「は、あっ!」

 

「お、りゃあっ!」

 

再び振るわれた武器が、火花を散らす。

どちらも、相手に当てることを考えたものではない一撃だ。

牽制程度にぶつけた一撃の後、お互いに距離を取る為、後方に跳んだ。

ざり、という土を踏みしめる音がやけに大きく聞こえた。

 

「・・・流石です、ギル殿。あの戦乱を戦い抜いただけはありますね」

 

「いやいや、それはこっちの台詞だよ、愛紗。大戦のときはその力を振るっていたと思うと、改めて敵じゃなくて良かったって思うぜ」

 

「ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

腰に手をつけ、ふぅ、と一息。

右手にはエアを持ち、警戒も緩めてはいないが、今の攻防で結構精神をすり減らした。

一息つかないとやってられない。

 

「やはり、あなたのような方には、私のような無骨者よりも――」

 

愛紗は小さな声で何か呟いたが、離れていて何も聞こえなかった。

再び暗い顔をした愛紗が心配になってきた。悩みでもあるのだろうか。

 

「・・・どうかしたのか、愛紗? 何か、悩み事でもありそうな顔だけど」

 

「い、いえっ。何もありません!」

 

慌てて顔を上げた愛紗がそう答えるが、何もないようには見えない。

・・・今は、無理に聞かない方が良いかな。

 

「そう?」

 

「ええ。お気遣い、ありがとうございます」

 

「どういたしまして。でも、何かあったら言ってくれよ? 愛紗がそんな様子だと、俺も元気なくしちゃうから」

 

だから、いつでも相談してくれよ、と笑顔で伝える。

笑顔は人との潤滑油。暗い顔で元気を出せといっても説得力は無いのです。

 

「・・・ええ、分かりました」

 

愛紗も笑顔を返してくれる。

うん、やはり――

 

「笑顔のほうが、愛紗は綺麗だよ」

 

「っ!?」

 

「はは、照れてる愛紗は可愛いなぁ。・・・ほら、続きと行こうじゃないか、愛紗」

 

「ギル殿はずるいです・・・」

 

「ほめ言葉にしか聞こえないね」

 

「・・・ふふっ。行きますよ?」

 

「おう! ドンと来い!」

 

「はいっ!」

 

偃月刀を握りなおした愛紗が、一瞬のタメの後弾丸のように飛び出す。

愛紗の攻撃は激しくなったが・・・少し、すっきりした表情をしているのを見て、まぁいいか、と思ってしまった。

 

・・・

 

結局決着はつかず、兵士たちの休憩に合わせて俺たちも手合わせを終了させた。

木陰の近くにあるベンチに腰掛けると、疲れがどっと押し寄せるようだった。

あー、もう一週間くらい動かなくていいんじゃねえかなぁ、とか思うくらいには疲れた。

 

「お疲れ様です、ギル殿」

 

「愛紗もお疲れ様・・・ってほどには疲れてなさそうだな」

 

「ええ、いつもは鈴々や恋、星と共に手合わせをしているので。まだまだいけますよ」

 

もう一戦しますか? と視線だけで聞いてくる愛紗に首を振って断りを入れる。

少し残念そうにそうですか、とつぶやいた愛紗は、俺の隣に腰掛ける。

 

「ですが、ギル殿もあまり疲れているようには見えませんよ?」

 

「んー、意識的に力を制限してるからかな。その精神的な疲れなのかも知れない」

 

流石に英霊の力を全力で振るうわけにも行かず、意識して魔力の循環を抑えることによって、ステータスのランクをいくつか落としている。

いやはや、そのやり方を身に着けるまでが大変だった。

まぁ、そのおかげで力押しではなく、きちんとした技術を身に着けていくことが出来ているのだが。

ステータスはたぶん全体的に2つ1つくらい落ちてるんじゃないだろうか。

それ以上下げると、愛紗や恋に力で押し負けるため、そこがギリギリの妥協ラインだ。

というか、ステータスのランクCとかDに生身で追いつくとかこっちからしたら驚き以外の何物でもないんだけど。

 

「・・・制限してアレですか」

 

「まぁ、人間とは一線を画してるのが英霊たちだからなぁ」

 

「実際に戦うと、その言葉が身にしみますね。そのおかげで良い訓練になるのですが」

 

愛紗と話していると、休憩が終わった。

 

「さて、次は兵士の訓練だな」

 

先ほどまで走ったり組み手をしていた新兵を、俺と愛紗で集め、別々に手合わせしていく。

数合も持たずに吹き飛ばされるのがほとんどだが、慣れてくると持ちこたえるようになってくる。

それから、だんだんと手加減を弱めていけば、そのうち戦える兵になっていく。

 

「よいしょっと。はい次っ!」

 

こうして、午前中は兵士を吹き飛ばして過ごした。

 

・・・

 

昼の休憩に入ったので、厨房へと向かう。

 

「あ、にーさま!」

 

エプロンをつけ、鍋や包丁を用意している流流に出会った。

食材から見るに・・・チャーハンだな。

 

「流琉か。今から調理か?」

 

「はいっ。あ、にーさま、お昼は食べましたか?」

 

「いや、まだだけど」

 

「良かった。なら、今からおつくりしますね!」

 

「本当か? 助かるよ」

 

「えへへっ、それじゃあ、座って待っててください」

 

「了解。あ、なんか手伝うことあったら遠慮なく言ってくれよ」

 

「はい」

 

嬉しそうにそういうと、鼻歌でも歌いそうなくらいに上機嫌で調理を始める流琉。

 

「ん~ふふーん」

 

訂正、鼻歌を歌うぐらい上機嫌に料理し始めた。

手際は華琳が認めるほどのものなのでもちろん早いし丁寧だ。

俺はそんな流琉の後ろ姿を見ながら、妹がいればこんな感じなのかなぁと微笑ましく思っていた。

 

「よしっ、良い出来」

 

味見をした流琉が、頷きながらそう言った。

料理が出来たらしい。皿にチャーハンを移すと、卓へと運んでくる。

 

「はいっ、どうぞ、にーさま」

 

「ありがとう。いただくよ」

 

「どうぞっ」

 

レンゲですくって口へと運ぶ。

・・・うん、やっぱりおいしい。

 

「ど、どうですか・・・?」

 

「おいしいよ。流琉も食べたらどうだ?」

 

さっきから拳を握って俺がチャーハンを食べる一挙一動を見ている流琉にそう促すと、そうしますっ! と元気に返事をしてくれた。

二人で他愛も無いことを話しながら食事をしていると、チャーハンはすぐになくなってしまった。

 

「ごちそうさま」

 

「お粗末さまです。お茶、飲みますか?」

 

皿を片付けた流琉が、茶葉を手に持ちながら聞いてくる。

欲しいな、と答えると、ちょっと待っててくださいね、と準備に取り掛かる。

 

「はい、お茶です」

 

ことり、と湯飲みが置かれる。

お礼を言ってから一口飲む。・・・当然のことながら美味い。

 

「あ、そういえば、華琳様がにーさまのこと探してましたよ」

 

「え? 華琳が?」

 

「はい。急ぎの用事ではないとおっしゃっていましたが・・・」

 

「そっか。なら、落ち着いたら行ってみるかな」

 

ずず、とお茶を飲みながらなんで呼ばれたのか、と考える。

んー、別に華琳の機嫌を損ねるようなことしてないし・・・。

それとも、前の会議の時に話していた経済支援のことだろうか。

 

「むむー」

 

「どうかしたんですか、にーさま」

 

「いやぁ、なんか華琳に呼ばれるようなことしたかなぁと」

 

「・・・確かに、そうですよねぇ」

 

というか、華琳が直接呼ぶなんて相当なことなんじゃなかろうか。

まさか、第八のサーヴァント呼び出したとか? 

・・・本当にそうだったらすぐに呼ばれるよな。

全く予想がつかないぞ・・・

 

「ふぅ・・・。ま、行けばわかるか」

 

流琉の入れてくれたお茶を飲み干し、再びお礼を言ってから厨房を後にする。

 

・・・

 

道行く兵士に華琳の居場所を尋ねると、玉座の間にいると聞いた。

玉座の間ということは、何か政務での話だろうか。

 

「華琳ー? いるかー」

 

「いるわよ」

 

珍しく一人のようだ。

春蘭とか秋蘭とか荀彧とか凜とか側近がいないのは珍しい。

 

「何か用だって?」

 

「ええ、あなた、これから時間はある?」

 

「有り余ってる」

 

「そう。なら、ちょっと来なさい」

 

そう言って先に歩いていってしまう華琳。

・・・何の用かはいまだに分からないが、とりあえず着いていかないと。

 

「・・・この辺でいいかしら」

 

あまり人の来ない中庭へやってきた。

セイバーと一緒に宝具を使って戦う時なんかにここは良く使うので、ここにあまり近づかないのは暗黙の了解みたいになっている。

 

「で、何の用なんだ? そろそろ教えてくれよ」

 

「ええ、もちろん。用というのは簡単よ。あなたの宝具を見せて欲しいの」

 

「・・・はぁ」

 

今のは呆れた、というはぁでは無く、そうですか、というニュアンスのはぁ、だ。

 

「以前見た時は唐突だったし、混乱もしていた。落ち着いてきた今、あなたの力を少し見ておきたいのよ」

 

あなた、三国の中で一番ありえない存在だから、と締めくくった華琳。

それは俺も思う。英雄王の能力というのは本当にありえないくらいに反則(チート)だ。

・・・まぁ、本気で全力を出した場合は、という前提があるが。

 

「ええっと、あなたの宝具は宝物庫と乖離剣の二つでいいのよね?」

 

「ああ。その二つが俺の宝具だと思って良い」

 

厳密には王の財宝(ゲートオブバビロン)天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)だが、わざわざ今言うことでもないだろう。

それに、横文字は華琳たちには難しいみたいだし。

 

「宝物庫の能力は、大量の剣を発射すること、でいいのかしら?」

 

「んー、それはちょっと違うかな。宝具の原典がすべて入っていて、それを発射したり使用したりすることが出来るってところだな」

 

「宝具の原典?」

 

「そう。英霊を英霊たらしめるものが宝具。で、その宝具の原典になったものがこの宝物庫には入ってる」

 

だから、剣だけじゃなくて槍も斧も鎌も縄も鎖も発射するぜ、と補足する。

何よそれ、反則じゃないの。と呆れる華琳に同意する。

 

「すべての英霊の宝具の原典がこの中には入ってる。だから、もちろんすべての英霊の弱点となる宝具も入ってる」

 

「・・・なるほど? ならば、あらゆる英霊に対して常に弱点をつける、というわけね」

 

「そうだ。そもそもギルガメッシュという英霊は『戦争そのもの』とまで呼ばれる力を持っている。ほら、兵や将や軍には勝てるだろうけど、戦争という概念には勝てないだろ?」

 

まぁ、原作の英雄王さんは油断と慢心のおかげで勝つ可能性が存在してるんだけど。

俺? 俺は言わずもがな、精神的に付け込む隙もあるしまだまだ鍛錬不足だ。『戦争そのもの』には遠い。

 

「ならば、乖離剣のほうは? 私は見たことが無いけれど、刀身の回転で旋風を巻き起こしたと聞いたけど」

 

「えーっと、乖離剣の説明は難しいな。・・・この世界がまだ、あらゆる生命の存在を許さなかった頃の生命の記憶の原初。その光景を再現する宝具、って言って通じる?」

 

「・・・ちょっと待ちなさい」

 

少し俯いた華琳は、頭に指を当てて考え込むそぶりを見せた。

 

「あらゆる生命を許さなかった頃、というのは?」

 

「えーと、それの説明は長くなるんだけど」

 

「構わないわ。今日は珍しく仕事が無いの」

 

「・・・なら、華琳はこの大陸が巨大な球体・・・地球、というものに張り付いてるって言ったら信じる?」

 

「はぁ? ・・・そんなの、裏側の人間が落ちるじゃない」

 

「ええっと、球体の中心が下なんだよ。重力っていうのがあってだな・・・」

 

それからしばらく、重力や引力についての話になる。

数十分をその説明に費やしたからか、華琳はきちんと理解してくれたようだ。

 

「・・・ふむ、地球の概念については大体理解したわ。で、それが何か関係するの?」

 

「地球って言うのは、最初、人間どころかどんな動物も植物も無かった。ただ、地獄が広がっていた」

 

「ああ、だから『あらゆる生命を許さない』のね」

 

「そ。だから乖離剣は別名『地獄を識るもの』とも呼ばれる」

 

「・・・はぁ、反則反則と言ってきたけど、ここまでとはね」

 

「そういわれると言い返せないな」

 

なんともまぁ、ありえない能力を貰ったよなぁ。

使いこなすのも大変だったが、隠しておくのはもっと大変だった。

 

「あ、宝物庫がどうなってるのか、実際に見せてちょうだい」

 

「構わないけど・・・どうすればいい?」

 

「あそこにちょうど良い人形があるわね。アレを目掛けてみて」

 

あの人形は・・・ちょくちょく宝具の標的となっている人形か。

基本この場所に置きっぱなしだもんなぁ。

 

「分かった。王の財宝(ゲートオブバビロン)

 

少しだけ扉を開き、十数本の宝具が人形を串刺しにする。

 

「これでいいか?」

 

「ええ、十分よ。そういえば、鎖も出せるのよね?」

 

「一応。天の鎖(エルキドゥ)!」

 

串刺しになった人形に、四方八方から拘束するように鎖が巻き付く。

宝物庫の扉はある程度離れた場所にも出現させることもできるので、そのまま鎖を戻すことによって相手を引きちぎることも可能だ。

・・・まぁ、英霊相手だと引きちぎる前に拘束から抜けられちゃうんで、対人間用だ。未だ引きちぎったことは無いけど。

 

「ふぅん、それ、便利ねぇ」

 

背筋が冷えるような笑みを浮かべた華琳が、嬉しそうにつぶやく。

 

「ねえ、あなたに頼みたいことがあるんだけど」

 

「ん? 構わないぞ。なんだ?」

 

この頼みの内容を聞かずに頷いてしまったことは、ここ最近でもっとも後悔したことである。

 

・・・

 

「ぎる、ちょっときて」

 

ある昼下がり。恋が現れ、俺をちょいちょいと呼ぶ。

手には軍神五兵(ゴッドフォース)。まさか、手合わせのお誘いだろうか。

 

「どうしたんだ、恋」

 

「ぎる、恋と・・・本気で、戦って欲しい」

 

「・・・えーっと?」

 

「恋も、今ある全部の力使う。ギルも、ほーもつこと、乖離剣使う」

 

「それ、本気で言ってるのか?」

 

「ん」

 

こくり、と首肯する恋。

いったい何がどうしてそんな結論に至ったのか・・・。

 

「・・・恋、天下一品武闘会出れなかった」

 

「え? なんでだろ。恋はかなり強いのに」

 

怪我するから出ちゃだめ、みたいな理由での出場拒否じゃないと思うんだが・・・。

ちなみに、麗羽が出ようとしていたのだが、怪我するとうるさいしたぶん初戦で負けるのが目に見えてるため、と出場拒否されていた。

 

「わかんないけど、みんなにお願いだから出ないでって言われた」

 

「・・・あ、そういうことか」

 

少し考えて答えに至る。

恋が強すぎて仕合にならないからだ。

軍神五兵(ゴッドフォース)を使っている時はもちろん、方天画戟を使っている時でさえサーヴァントを圧倒する飛将軍呂布だ。

そりゃあストレートに勝ち抜くに決まってる。

 

「だから、出れない分をぎると戦って何とかする」

 

「なんとかって・・・愛紗とか鈴々とかと手合わせすればいいじゃないか」

 

愛紗たちも武闘会前の良い訓練になるだろうし、恋もストレス(?)を解消することもできるだろうし・・・。

 

「んーん。思いきり、身体動かしたい。ぎるじゃないと、恋は受け止められない」

 

どれだけ本気で動く気なんだろう、この娘。

場合によっては城を半壊させるくらいまで覚悟しないといけないぞ、これは・・・。

 

「・・・いい?」

 

いつもならやんわりと断っているところだが、先日の華琳の頼みの内容を聞いてもうどうにでもなれー、となっていた俺は頷いてしまった。

俺もいろいろと溜まっていたんだろうか。今思い出しても恋との手合わせを承諾したのが信じられなかった。

 

「じゃあ、やる」

 

手に持った軍神五兵(ゴッドフォース)を構える恋。

形態は矛だ。ならば、スキルの絶武(ほこ、まじえ)無双(るにあたわず)が発動していると思っていいだろう。

防御に圧倒的に有利な補正を受けるスキルで、相手の防御行動に一定の妨害効果がある。

距離を取って戦うのが一番だが、それだと必中無弓(ゆみ、きそうかちなし)で打ち抜かれる。

下手すると打ち抜かれ、隙を無理やり作らされることになる。

一瞬とはいえ、スタン状態は絶体絶命のピンチだ。

しかも、赤兎無尽(せきと、いまだしなず)のおかげでダメージの自然回復までこなす万能武器となっている。

さらに恋自身の戦闘のセンスも合わせて考えると、勝率が見えない。

たぶん王の財宝(ゲートオブバビロン)の宝具の雨すら何とかするんじゃなかろうか。

 

「・・・こないの?」

 

「どうやって戦おうか考えてるんだよ」

 

とりあえず鎧は着て、エアを手に持っているものの、どう戦おうかという点については全く思いつかない。

 

「こないなら、恋から行く」

 

そう言って恋は肩に乗せていた軍神五兵(ゴッドフォース)を両手で構え、こちらに走りこみながら振り下ろす。

こうやって説明しているだけだとゆっくりに思えるが、恋がいく、と言い終わってからこちらに軍神五兵(ゴッドフォース)を振り下ろすまで、二秒も掛かっていない。

 

「ちょっ!」

 

慌ててエアを当て、軍神五兵(ゴッドフォース)を弾く。

危ない。とっさに防御行動を取りそうになったが、恋の攻撃に合わせるように攻撃して何とか相殺した。

・・・ステータスをセーブしてる場合じゃないな。

俺は急いで魔力を身体に循環させ、ステータスを元に戻す。

 

「ん、ぎるも、本気出した」

 

・・・最初の一撃を防げたのは奇跡みたいなものだ。

これは、全力で行かねば負ける。

 

「回れ、エア。恋も本気みたいだし、こっちも出し惜しみなしだ」

 

エアを回し、背後には宝物庫への扉を開けておく。

 

「恋は、こういう風に戦って欲しいんだろ?」

 

「そう」

 

ゆけ、と宝具たちに命ずる。

その瞬間、発射待機状態だった宝具たちが恋目掛けて飛んでいく。

 

「っ」

 

短く息を吐いた恋は、踊るようにステップを踏んで宝具の密度が少ないところへと移動する。

そこでしばらく宝具を弾いた後、また密度が少ないところへ・・・と何度か繰り返す。

いくつか恋の身体を掠る宝具もあったが、赤兎無尽(せきと、いまだしなず)によって軽症ならほとんどタイムラグ無しで修復する恋にはほとんど無視していいものとなっている。

改めて思うが・・・呂布に軍神五兵(ゴッドフォース)は鬼に金棒と同じかそれ以上の相性だ。

 

「は、はは・・・」

 

だが、滾る。

目の前の宝具の雨を凌ぐ英雄を見て、エアを握る手に力が入る。

 

「・・・止まれ」

 

降り注いでいた宝具の雨がぴたりと止まり、地面に突き刺さっていたものも、今にも発射されそうになっていたものもすべて宝物庫の中へ引っ込む。

 

「どうしたの? 疲れた?」

 

恋は軍神五兵(ゴッドフォース)を肩に担ぐいつもの格好で、息も切らさずに聞いてくる。

そんな恋に、違うよ、と答え

 

「発射しても意味無いから、止めたんだ」

 

回転するエアの刀身は、風を巻き起こし、木々を揺らす。

この状態のエアは、全力ではないにしろ天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)を放てるようになる。

その風で宝具が散ってしまうため、俺は宝物庫を閉めたのだ。

 

「行くぞ、恋。俺も今、すごく恋と戦いたくなった」

 

・・・

 

「あ、その洗濯物はそっちに干しておいて、詠ちゃん」

 

「了解。・・・にしても、洗濯するには良い天気よね」

 

「そうだね。すぐに・・・きゃっ!?」

 

「な、なによこれ!?」

 

洗濯物を干していた月と詠の二人は、突然の地震に慌てる。

すぐに収まったが、間隔を置いて何度か地面が揺れる。

 

「魔力反応・・・まさか、ギルさん!?」

 

「じゃあ、まさか・・・ギルが全力出すような相手が出たってこと!?」

 

アーチャーが全力を出せば、世界が揺れることはすでに知られていた。

ならば、今こうして地面が揺れているのも、アーチャーが全力を出しているからだろう。

そう判断した二人は、洗濯物を干すのも放り出し、魔力の反応があるところへと走った。

 

「全くもう、平和になったと思ってたのに!」

 

「ギルさん・・・!」

 

アーチャーの元へと向かう途中、響と孔雀が合流する。

 

「月ちゃん、これってやっぱり・・・?」

 

「たぶん、そうだと思います・・・!」

 

「・・・そっか。ハサン、先に行ってて! もし何かあるようだったら、ハサンが判断して」

 

響が虚空に話しかけるようにアサシンに話しかける。

気配遮断でいないように感じるだけで、アサシンは常に響の周りを警戒しているのだ。

 

「キャスター、何か異常は感知できた?」

 

「いいや、何も。セイバーと本気の手合わせでもしてるのかと思ったけど、この魔力はセイバーじゃないね」

 

「バーサーカーとかランサーとかは?」

 

「どれとも違う。既存の七つのサーヴァントのどの魔力にも当てはまらない」

 

「え・・・? じゃあ、八体目のサーヴァント!?」

 

孔雀が珍しく驚きをあらわにする。

キャスターはなにやらうんうん唸りながら、何が起こっているのかを把握しようとしているらしい。

途中で、後ろからセイバー組が追いついた。

 

「・・・やはり、ギルか」

 

セイバーは諦めたようにつぶやく。

やはり、の部分にはいっそう呆れのようなものが篭っていた。

 

「あ、あははー。ギルさんって罪な男だよねー」

 

「そうね。天変地異が起こったらまずあいつが真っ先に浮かぶものね・・・」

 

はぁ、とため息をつきながらも、走る足は緩めない詠。

 

「いたっ! あそこ!」

 

「あれ、ハサン・・・? 何で突っ立って・・・え?」

 

「ギル、誰と戦って・・・おや?」

 

「ん? おー、みんなそろって。どうした?」

 

「みんな、見に来た?」

 

全員がぽかんとした顔になる。

そこには、アーチャーと恋が武器を持ってたっていたからだ。

 

「え、えーと、ギル? 何をやってるのかな・・・?」

 

孔雀が少し引き気味に質問する。

地面はところどころ抉れ、木の葉は散り、壁には穴があいていた。

 

「何って・・・手合わせだけど。なぁ、恋」

 

「うん。全力の手合わせ」

 

「ば、ば、ば・・・」

 

「ば?」

 

「ば?」

 

詠の言葉に首をかしげる二人。

次の瞬間。

 

「馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁー! !」

 

詠の絶叫が、中庭にこだました。

 

・・・

 

「あんたね、自分が何振り回してたか分かってんの!?」

 

「・・・はい」

 

「恋、あんたも! こんな状況で宝具振り回したら騒ぎになるって分かるでしょ!?」

 

「・・・ごめんなさい」

 

先ほどまで暴風吹き荒れ火花散る戦場だった中庭で、ギルさんと恋ちゃんの二人は正座させられていました。

その目の前では、詠ちゃんが仁王立ちでお説教中です。

 

「大体、何でこんなことになったのよ」

 

「それは――――」

 

かくかくしかじか、とギルさんが詠ちゃんに説明を始めました。

・・・恋ちゃん、武闘会から外されて寂しかったみたいですね。

 

「・・・そう。確かに、今の恋じゃギルくらいしか相手できないわね」

 

「ぎる、悪くない。恋が無理やり誘った」

 

「いやいや、途中で自重を忘れた俺のほうが悪い」

 

「はいはい、分かったわよ。全く」

 

むすっとした顔で詠ちゃんは二人の言葉をさえぎりました。

 

「・・・とりあえず、この中庭何とかすること。いくわよ、月」

 

もう、走ってきたのが馬鹿みたい、とつぶやいてきびすを返す詠ちゃん。

慌てて後ろを追いかけます。

 

「あちゃー、改めてみるとやりすぎたなぁ」

 

「・・・頑張って直す」

 

「そだな、頑張るか」

 

・・・あの二人を二人っきりにするっていうのに若干の抵抗はあるけど、今は詠ちゃんの機嫌を何とかするのが先です。

暴れちゃったギルさんも悪いけど、詠ちゃんも詠ちゃんで心配したんだから、って素直に言えばいいのに。詠ちゃんはやっぱりツン子だなぁ。

 

「まぁ、そこが可愛いんだけど」

 

「月、何か言った?」

 

「んーん、なんでもないよ、詠ちゃん」

 

振り向いて質問してきた詠ちゃんに首を振りつつ答えます。

 

「ぎる、恋の所為で仕事増やしてごめん」

 

「気にしてないよ。だからそんな風に暗い顔するなよ」

 

ちらり、と後ろを見ると、恋ちゃんの頭を撫でているギルさんが見えました。

恋ちゃんも嬉しそうにして・・・とっても仲睦まじいですね。

・・・何故かは知りませんが、ちょっと戻って二人の作業のじゃま・・・げふんげふん、お手伝いしてあげたくなっちゃったなー。

 

「ふ、ふふふ、ふ」

 

「ゆ、月? ちょっと、目が怖いわよ?」

 

詠ちゃんに声を掛けられて顔を戻すと、詠ちゃんが変にこわばった顔をしていました。

 

「え? どうかしたの、詠ちゃん」

 

「・・・ううん、なんでもないわ」

 

変な詠ちゃん。

 

・・・

 

「水泳大会?」

 

本日は晴天なり。気温はかなり高く、政務室にいる雪蓮やシャオが暑い暑いと騒ぎ、蓮華が暑いわねとため息をついていた。

あ、ちょうどいい、と思った俺は、説得しやすそうな雪蓮に水浴びでもしたらどうだと持ちかけた。

 

「・・・ふぅん、水着、ねえ」

 

宝物庫から取り出した水着の中から一つ選びいろいろ弄っている雪蓮。

水を掛けたり引っ張ったりして水浴びに使えるのかどうかを確認しているようだ。

 

「いいじゃない、これ。幸い今日は急ぎの仕事もないし、暇そうな子を何人か誘って行きましょうか」

 

「よしきた。準備はこっちでしておくから、雪蓮は人集め頼んだ」

 

「あら、張り切ってるじゃない」

 

「当然だろ。龍を倒しに行ってまで作った水着だぜ。着てるところを見ないと倒した甲斐がないからな」

 

「そう? じゃあ、目の保養になりそうなのを何人か連れて行こうかしら。・・・あ、シャオは確定ね」

 

「ん、まぁそりゃあそうだろうな」

 

誘わなかったら後が怖いし、シャオがどんな水着を選ぶのかも気になる。

 

「意外ね。嫌がるかと思ったけど」

 

嫌がる? ・・・ああ、いつもシャオに迫られ絡まれてるからか。

 

「別にシャオのことは嫌いじゃないしな。ああやって好かれるのは嬉しいし。・・・ちょっと押しが強すぎるからこっちも引いちゃうっていうのはあるけど」

 

「でも、お淑やかなシャオとか想像できないでしょ?」

 

「・・・なるほど、確かに。あれもシャオの良い所なんだなぁ」

 

俺がそう答えると、雪蓮はにぱっ、と笑って

 

「そうよ、あの子は少し感情を素直に出しすぎるだけなんだから」

 

だから、きちんと受け止めるのよ、と雪蓮はどこか嬉しそうに言った。

 

「了解。分かったよ。それにしても・・・やっぱり雪蓮もお姉さんなんだな」

 

「ん?」

 

「いや、シャオのことキチンと分かってるみたいだし、妹の誤解解く思いやりもあるし」

 

「な、なーに、急に褒めて。何もでないわよ?」

 

いつものようにおちゃらけつつ、恥ずかしそうに苦笑いを返す雪蓮。

そんないつもとは違う雪蓮を見れて嬉しいみたいだ。雪蓮を見て、俺の顔には微笑が浮かんでいる。

 

「俺もシャオを見習って素直になってるんだよ。雪蓮も、素直に受け取っておけ」

 

「・・・ふふ、分かったわ。ありがとね、ギル」

 

「いえいえ。さて、じゃあそろそろ行くか」

 

「ええ。みんなも誘わなきゃだし。・・・あ」

 

「大丈夫。お酒も用意してある」

 

何かを思い出したとばかりに手を叩く雪蓮が何か言う前に答える。

俺の言葉を聞いた雪蓮は一瞬きょとんとしたがすぐに笑みを浮かべ

 

「あら、分かってるじゃない。それじゃ、楽しみにしてるわよ?」

 

「おう、期待しててくれ」

 

そう言って、雪蓮の部屋の前で俺たちは別れた。

さーて、一刀呼んで、兵士かき集めて・・・。ちょっと急ぐかな。

 

・・・

 

少し上流に行った川へとやってきた。

滝があったりといつもより起伏に富んだ地形となっている。

 

「ギールっ、お待たせー!」

 

「おおっと。シャオか。どうだ、水着は」

 

「えへへ、ぴったりだよ。どう? 悩殺されそう?」

 

背中に抱きついてきたシャオが俺の目の前まで移動してくる。

おお、紐じゃないですか。この子、三姉妹の中でも一番セクシー路線を突っ走ってるんじゃなかろうか。ロリぃのに。

 

「すごいな、シャオ。ここまでこの水着を着こなせるなんて」

 

できればスク水着て欲しかったけど。・・・っと、危ない危ない。口が滑った。

 

「んふふっ。こーんな風に、くっついてみちゃったりー・・・」

 

「こ、こら! シャオ!? ギルにそんな破廉恥なこと・・・!」

 

俺に背中を預けたまま艶かしい動きをするシャオに、とうとう蓮華が怒った。

だがシャオはそんなもの聞こえていないかの様に振舞う。

 

「どうどう? シャオのこと、お嫁さんにしたくなっちゃった?」

 

改めて考えると、こうやって堂々と気持ちを言えるっていうのはすごいよなぁ。

 

「しゃ、シャオ! もう、離れなさいって!」

 

「えー? お姉ちゃんもくっついちゃえばいいのに。ギルの背中、あいてるよ?」

 

「うっ・・・せ、背中・・・直接肌に・・・触れ・・・っ!」

 

シャオの言葉を聞いてからぶつぶつ言い始めた蓮華だが、すぐに川へと顔を突っ込んだ。

少しすると顔を上げてこちらを見据え・・・

 

「え、えいっ」

 

俺の背中に、少しだけくっついてきた。

 

「うおっ、蓮華冷たいなぁ。びっくりした」

 

まぁ、さっきまで川に入ってたしなぁ。そりゃ冷えるか。

 

「ふ、ふふふふふ。ここここのくらい、どどどうってことないわね」

 

「お姉ちゃん、声、すっごいどもってるけど・・・」

 

「気のせいよっ」

 

「ふぅん?」

 

「なによ?」

 

・・・どうでもいいんだけど、俺の身体を挟んでにらみ合うのやめてもらっていいですかね・・・? 

というか、蓮華といえば尻に目が行きがちだけど、胸もなかなか・・・。

だめだ。意識するといらんところに血液がいってしまう。何か別のことを考えないと。

 

「亞莎ちゃん、それ~!」

 

「きゃっ!? の、穏さまっ! やりましたね~」

 

「えへへ~、先手必勝なのですよぉ?」

 

きゃっきゃと戯れる亞莎と穏に目を向ける。

亞莎はスク水着用だ。あの野暮ったい感じと亞莎の鋭い目がちょうど良くマッチしていると思う。

穏は・・・あ、駄目だ。また血液が・・・。あの胸、桃香と良い勝負・・・いや、穏の方が攻撃力は上か!? 

とにかく、あの二人は駄目だ。他には・・・。

 

「んー、このお酒、おいしいわねぇ」

 

「何でも、ワインと言うらしいが・・・」

 

「ぷはぁ~! 何杯でもいけるわね!」

 

パラソル(のようなもの)の下で酒を飲みつつ涼む雪蓮と同じく酒を飲みつつ本を読んでいる冥琳が視界に入った。

雪蓮は赤、冥琳は黒の・・・って、あっちも駄目じゃないか。何で呉には巨乳が多いんだ。全く、けしからん。

最後の砦、滝行をしている思春と明命に目を向ける。

 

「・・・ほわぁ」

 

「どこを見ている、明命。今は集中しろ」

 

「は、はいっ!」

 

「・・・穏の胸か」

 

「思春さまも気になりますか!?」

 

「いやでも目に入る。・・・ちっ」

 

「おっきいですよね~・・・もげればいいのに」

 

「? 何か言ったか?」

 

「いいえ、なんでもないです」

 

・・・なんであんな競泳の水着みたいなものまであるんだろう。

一刀、お前・・・ストライクゾーン広いなぁ・・・。

それとも、先見の明があるというべきか・・・。

 

「・・・ふぅ」

 

しかし、あの二人を見ていると自然と落ち着いた。これならば、冷静に対処できるだろう。

そう思っていた矢先・・・。

 

「ギル、この水着、というものはなかなかよいな」

 

祭が黒いビキニとパレオを装備して近くに立っていた。

・・・しまった、忘れてたぞ、この穏と双璧を成す巨大な敵の存在を・・・! 

 

「どうしたのじゃ、ギル。急に固まって」

 

そっちこそどうしたんですか。胸、こぼれそうになってますよ? 

・・・しまった、思考回路にバグが。あまりの衝撃に碌な事考えられん。

 

「い、いや、どうもしてないよ? 祭が綺麗過ぎたから、驚いてたんだ」

 

「そう褒めるな。年甲斐も無く嬉しくなってしまうじゃろう」

 

かっかっか、と笑う祭は髪をかき上げながら雪蓮のほうへと歩いていった。

・・・何とか、凌いだか。

さて、そろそろこっちの二人の相手をしないとな、と思いながら口を開く。

 

「よし、シャオ、蓮華、せっかく水遊びしに来たんだ。遊ぼうぜ」

 

「ほんと!? じゃあ、シャオはギルとおいかけっこしたい!」

 

「そ、それより、ギル。私と向こうで涼まないか・・・?」

 

「えー!? ギルはシャオと追いかけっこするの! お姉ちゃんは一人で涼んでれば!?」

 

「な、まだそう決まったわけではないでしょう!? シャオこそ、一人で走ってきなさいよ!」

 

「まぁまぁ、とりあえず川にいる魚でも探しながら涼むとしよう」

 

もちろん、三人一緒にな、と付け加えるのを忘れない。

姉妹は仲良くしないと。

蓮華とシャオの相手をしているうちに穏や雪蓮に絡まれたりもしたが、とてつもなく充実した時間だったといえるだろう。

・・・あと、雪蓮酒飲みすぎ。

 

・・・




「よっこいしょ。木の生長を促進する宝具を使うか」「ぎる、こっちは?」「そこはこの鉱石を突っ込んどいて」「・・・何の石?」「さぁ。ミスリルとかそんな感じじゃないの?」「・・・みすりる?」


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