真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「打ち上げといえば、学園祭とか体育祭とかの後にクラスのみんなでやったよなー」「打ち上げといえば、やっぱりロケットだろ。宇宙はロマンだぜ。やっぱこう、キター! って叫びたくなるよな」「打ち上げといえば・・・ふむ、俺はぼっちだったな」「・・・マスター、寂しすぎませんか・・・?」


それでは、どうぞ。


第五十二話 打ち上げの後に

「よっし、次は・・・あ、そうだった」

 

「? どうしたんです隊長。そんな、『大事な仕事を忘れてた』みたいな顔して」

 

「・・・その通りだよ。今日の夜な、しすたぁずのライブがあるんだった」

 

「警備兼誘導やります!」

 

俺が言い切るか言い切らないかぐらいのタイミングで、副長が挙手しながら立ち上がる。

・・・お前、そんなに人を斬りたいか。

 

「仕事にやる気を出すのは素晴らしい・・・が、危険思想を修正しないとな」

 

ぱちん、とデコピン。威力は抑えたので、吹っ飛んでいくことは無いだろう。

涙目になった副長に、懇々と注意をする。

 

「良いか? 何度も言っているが、使用する武器は全て刃を潰したもの、もしくは峰での攻撃に限る。更に言えば、あまりに激しい攻撃をした場合は俺からの仕置きが待っている」

 

「りょ、了解っ」

 

「確かに理性をなくしたファンは危険だが、そんなものごく少数。副長たち警備の仕事は、スムーズなイベントの進行であり暴動の誘発じゃないってことは覚えておけよ?」

 

額を押さえながら怯えたように俺の話を聞く副長に、注意事項を一気に言い切る。

まぁ、流石に理性も無いような人間じゃないので、副長も分かってくれるだろう。

 

「分かってますよぅ。もー、隊長ってば、副長である私のことを少しは信じてくださいよー」

 

「無理だな」

 

「酷いっ!?」

 

酷くない。というか、こいつは自身の行動を振り返るとか反省するとかそういうことはしないのだろうか。

俗に言う、退く、媚びる、省みる。という奴だ。なんか妙に陰湿な感じが・・・逆か?

まぁ兎に角、副長は毎回毎回やりすぎるのだ。

・・・そのお陰かも知れないが、毎回ライブの時には「ハメを外しすぎると関節を外しに来る緑の魔王がいる」なんて噂も・・・。

あれ、こいつ魔王属性も獲得してないか。ついに聖なる三角形を独り占めである。

 

「じゃ、俺は会場設営に向かうかな。副長、華雄・・・は連れていかなくて良いや。遊撃隊から何人か選んで警備の打ち合わせ」

 

「はーいっ」

 

「華雄と蒲公英は俺と一緒に会場設営やろうか」

 

「了解だよっ」

 

「うむ、良いだろう」

 

嬉しそうに走り去る副長を見送りながら、俺たち三人もライブ会場へと向かうのだった。

 

・・・

 

「かゆー、そっちの柱持ってってー」

 

「良いだろう。・・・ふんっ!」

 

「蒲公英、その天幕はあっちだな」

 

「分かったよー!」

 

指示を出すと、その通りに動いてくれる二人。

遊撃隊、特に工兵たちもせっせと働いてくれている。

ちなみに、遊撃隊の工兵たち担当の七乃は今他の事務仕事で出払っている。・・・逃げられたか。

さて、指示を出すだけだと暇だし、少し手伝うか。

・・・む、選択肢とか出るの? ・・・あ、出ないんだ。そっか。

 

「じゃ、順当に蒲公英からだな」

 

いくつもある天幕を運ぶのは、蒲公英と兵士数人では厳しいだろう。

宝具を使わない手伝いならば、力になれるだろうし。

・・・あっちで半端ない重さの柱を運んで往復している華雄には、あえて触れないことにした。

 

「蒲公英、俺も手伝うよ」

 

「ありがとー! でも、お兄様がこういうお仕事して大丈夫なの?」

 

「なにがだ?」

 

「えっと、お兄様って結構偉いんだし、こういうお仕事してるとお兄様の威厳とかに関わったりするんじゃないの?」

 

「はっはっは、俺に威厳なんてあるものか」

 

そんな、『ギル将軍が俺たちと同じような仕事をするなんて失望しました。ギル将軍の部下やめます』なんてどこかの猫系アイドルのファンみたいなことにはならないだろう。

・・・ならないよね? え、断言できない? ひどくない?

 

「ふーん・・・そういうものなの?」

 

「そういうものなの。ま、蒲公英はそういう細かいこと考えずに、ラッキー、手が増えたー、とか思ってれば良いんだよ」

 

「らっきー?」

 

「あーっと、ツイてるなってこと」

 

「つい、てる?」

 

「・・・幸運だなってこと」

 

言葉が通じないときの俺自身の語彙に若干不安を抱くことがあるな。

英語は基本的に通じないし、ナウなヤングにバカウケなワードの数々も通じないことが多い。

・・・あ、マジとかは通じるな。みんな真剣に生きてるからだろうか。

 

「そっか。じゃ、そう思うことにする! らっきー!」

 

「おう、蒲公英はそういう言動似合うよなぁ」

 

そう言って、蒲公英の頭を撫でる。

急に撫でられたからか、戸惑いながらもすぐに受け入れてくれた。

頬を赤くしてくれているのは、俺に撫でられて照れているからか。可愛いやつめ。

 

「さて、さっさと運んじゃうか。この天幕は・・・あっちの物販のところのだな」

 

「たんぽぽは警備員控えの天幕持って行くね!」

 

「おう。転ぶなよー」

 

「大丈夫だってー! 副長さんじゃないんだしー!」

 

「・・・不憫だなぁ、あいつ」

 

蒲公英の頭の中では、副長はドジッ娘キャラになっているらしい。

・・・あながち否定できないところが、副長の恐ろしいところだ。

 

・・・

 

さてさて次は華雄だ。

・・・正直、手伝いなんて必要ないと思うな、と目の前で柱を五本ほど纏めて持ち上げる華雄を見て思う。

が、たとえ怪力にドン引きしてても今の華雄は同じ遊撃隊の仲間!

恐れず話しかけていくとしよう! それに実は華雄って意外と小動物系だしな!

 

「華雄、俺も手伝うよ」

 

「む。そうか、助かる。中々数が多くてな」

 

華雄はそう言うが、他の兵士とは違い華雄が一人で何本も持って行くので、数なんて問題じゃないんじゃないか、とふと思う。

いや、だが、華雄一人に負担をかけるわけには行くまい。俺も手伝わないと。

筋力ステータスA+を舐めるなよ! 宝物庫からのバックアップで更に強化だ!

宝具の中には『筋力を上げる』という単純な効用を持った宝具なんて沢山あるのだ。

 

「よっと」

 

だけど、持ち上げるのは常識的な範囲で。

華雄が五本から六本だから、俺は八本当たりが妥当か。

 

「・・・おい、隊長が鉄で出来た柱八本持ち上げてるんだが・・・」

 

「いっつも南蛮の娘さんとか動物とか引っ付けてすたすた歩いてるのは見るけど、これはちょっと・・・」

 

「っていうか、歩くたびに地面沈んでるんだが。そんな重さ持って大丈夫なものなのか、人間って」

 

「隊長なら大丈夫だ、問題ない」

 

「ほらほらー、ぶつぶつ言ってないでさっさと運べー」

 

なにやら顔を寄せ合ってこそこそ内緒の話をしていた兵士たちに声を掛ける。

すると、何故か必要以上にビクリと肩を震わせた兵士たちは、いつも以上の身のこなしで作業を再開した。

・・・? まぁ、気合が入っているのは良いことだな。

 

「・・・負けてられんな! ふんっ!」

 

「うわぁ、華雄将軍も七本持ってる・・・」

 

「一本ずつ持っていくのが間違いみたいな空気になってきてるんだけど・・・」

 

「いや、俺たちにアレは無理だろ。協力してこっちは数をこなそうぜ」

 

「そう、だな・・・」

 

・・・

 

作業が完了した頃には丁度日も暮れて、会場に続く道にはしすたぁずのファンが並んでいた。

そろそろ入場を開始しても良い頃か。

 

「よっし、みんな、配置につけー」

 

俺の号令とともに、副長も含めた兵士たちが駆け足で移動する。

よしよし、訓練の成果が出てるな。・・・後で、舌なめずりしている副長を躾けておくとしよう。

どう見てもアレはかぐや姫でも勇者でもなく、SAN値直葬の魔王である。

 

「入場券をお持ちの方はこちらですー。列を乱すとすぐに剣を抜きますよー」

 

むしろ列を乱せ、とでも言いたげに列を見て回る副長。

あまりの威圧感に、列に並ぶファンの背筋もピシリと伸びる。

・・・うん、まぁ、きちんとしてくれるならそれで良いんだけど。

そこ、舌打ちするな副長。

軍隊の整列かと思えるほどにきっちりと並んだファンたちは、特に騒ぎを起こすことなく入場を果たした。

これならこの場から離れても大丈夫かな。

 

「おーい、副長」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「俺はちょっと天和たちの様子を見に行くから、この場は任せたぞ」

 

「はいっ、りょうかいですっ。見事任を果たして見せます!」

 

「・・・そのやる気が怖いんだけどなぁ」

 

流石の副長もやって良いことと悪いことの区別くらい付くか。

 

・・・

 

「よう、三人とも」

 

「あーっ、ギルっ、遅いよぅ」

 

「ホントよ! もう本番まで時間無いんだからね!」

 

「・・・一応、最終確認だけでも終わらせる?」

 

待機室に入って挨拶すると、三人からそれぞれ声を掛けられる。

ごめんごめん、と謝りながら、人和の言うとおり最終確認だけ済ませる。

確認と言っても、ステージの進行表をもう一度見たりとか、細かい振り付けを三人が合わせたりするだけなので、十分あれば問題無く終わるだろう。

 

「うん、時間配分も問題ないな。確実にアンコールもあるだろうし、体力はギリギリまで残しておけよ?」

 

「分かってるってば。ちぃたちがどれだけ場数踏んでると思ってるの?」

 

「その通りだな。要らない心配だったか。じゃあ、いってらっしゃい」

 

俺の言葉に、元気に返事をするしすたぁず。

待機用の天幕から出てステージへと向かう三人を見送ろうとして、あることを思い出す。

 

「そうだ、地和、ちょっと待った」

 

「ん? なによ、どしたの?」

 

天和と人和にそれぞれ先に行ってて、と伝えた地和は、再び天幕の中へ戻ってくる。

 

「これ、渡しておこうと思って」

 

「? 髪飾り? うわぁ、綺麗・・・」

 

以前購入していた『呪いの髪飾り』である。

すでに解呪は済んでおり、完全に無害なただの髪飾りである。

 

「いい、の? ちぃばっかり、貰っちゃって」

 

「構わんよ。それとも、気に入らない?」

 

「全然! ・・・ありがとっ。あの、早速着けてくれない?」

 

そう言って、地和は俺に髪飾りを差し出してくる。

もちろん、と地和から髪飾りを受け取った俺は、纏められている彼女の髪を解いて、再び結わい直す。

 

「どうだ?」

 

手鏡を渡しながら聞くと、完璧ね、と返ってきた。

それはよかった。これでも、女の子の髪型とかは勉強しているのだ。

活かせて良かった。

 

「じゃ、行って来るわね、ギルっ。あっ、もちろんあんたも、ちぃの活躍見てなさいよ!」

 

「分かってるって。それじゃ、頑張って来い!」

 

「うんっ」

 

・・・

 

「こうして特等席で見れるのは、ご主人様の部隊にいるからこそ、ですよねー」

 

「・・・いたのか、七乃」

 

「ええ~、それはもう、美羽様とご主人様のそばに私はいますから~」

 

「いつから、とは聞かないでおこう」

 

「賢明かと~」

 

いつの間にか背後にいたらしい七乃に声を掛けられる。

・・・どうやら、先ほどのやり取りを見られていたらしい。

 

「そういえば・・・ご主人様? 美羽様がご主人様に会いたがってましたよ?」

 

「あー・・・そういえば最近遊んでないなぁ。うん、そうだな、明日にでも一緒に出かけようかな」

 

以前遊んだのは・・・あー、一週間くらい前に饅頭食べに行ったっきりかな。

その後も色々回る予定だったのに、いつの間にか俺の部屋に戻ってたしな。

・・・何をしてたのかは、想像にお任せするが。

 

「こうして美羽様は女として順調に経験を積んでいくのですねぇ・・・」

 

「その言い方はやめろ。なんか俺が美羽を誑かしてるみたいじゃないか」

 

「違うんですかー?」

 

「・・・さて、客の盛り上がりは上々だな。これならいつもどおり大成功だろ」

 

「目を逸らしましたね~」

 

下からジトリとした視線を送ってくる七乃から、努めて目をそらす。

いや、うん、誑かしてるわけじゃないって。キチンと愛してるし、ちゃんと教育もしてるし・・・。

 

「七乃は心配性だなぁ」

 

「なんで私を撫でるんですかぁ・・・?」

 

「いやなに、美羽を取られて拗ねてる七乃は可愛いなと思っただけだよ」

 

「取った、という自覚はあるんですねぇ」

 

俺に頭を撫でられつつもこちらを非難するような視線を向ける七乃に、苦笑を返す。

実際その通りだしなぁ、と誰に聞かせるでもなく呟く。

 

「・・・まぁ、それならそれで良いんですけど~」

 

なにやら少し考え込んだ後、七乃はそう呟きながら俺にしな垂れかかってくる。

・・・って、おいおい。立ちくらみか?

 

「おい、大丈夫か七乃・・・っ!」

 

七乃が俺の胸元に顔を埋めたかと思うと、すぐに顔を上げてこちらに唇を押し付けてきた。

柔らかく、そして湿っているこの感触は、宝具が月まで吹っ飛ぶほどの衝撃である。

 

「ん、ちゅ」

 

「んむ・・・ぷはっ。・・・おい、七乃、これは一体・・・」

 

「美羽様を虜にしたご主人様の技術が、気になっただけです・・・黙って受け入れてくださいねー・・・」

 

するり、と七乃の手が背中に回される。・・・なんだか、少し遠慮しているようだ。

流石の七乃も、経験はないのだと見える。

 

「・・・ん、ふ、ちゅ」

 

こちらから背中に手を回して口付けると、七乃は少し驚いたように目を見開いた後、静かに眼を閉じた。

・・・多分、ここからは止まれないよなぁ。

 

・・・

 

「ふ、あ、はぁ・・・ご主人様は、意地悪なんですねぇ」

 

乱れた服のまま息を荒げる七乃が、俺を非難するような視線を向けてくる。

・・・簡単に説明すると、行為中に天幕に戻ってきた副長にバッチリ見られたり、行為後休憩していると、同じように休憩で戻ってきたしすたぁずに「あれ? なんか変なにおい」とか感付かれかけたりしたのだ。

それはもう焦った。けどまぁ、副長に見つかったくらいなら、とガンガン続行したら、何故か一部始終を観察されたけど。

なんというか、初めてで人に見られながらされた七乃に心の傷が無いことを祈るばかりだ。

 

「・・・まぁ、美羽様が・・・他の恋人の方たちが夢中になるのも分かりますー」

 

「はいはい。ほら、一旦部屋に送るよ」

 

いまだしすたぁずのライブは続いてる。

十数分程度なら、この場を離れても大丈夫だろう。

 

「みんなー! まだまだいくよー!」

 

天和の元気な声と、ファンの地鳴りのような応援を背に、七乃を抱えて天幕を出る。

日はもうすっかり落ちていて、ライブ会場の照明がまぶしくしすたぁずを照らしているのが見えた。

 

「・・・で、七乃。なんでいきなりこんなことを?」

 

「なにがですかー?」

 

「惚けるな。美羽が取られたから云々、って言うのは多分、建前だろ?」

 

「・・・いいえー? ご主人様と一夜を共にしてからの美羽様が、そのー・・・」

 

「?」

 

七乃にしては珍しく、言いよどんでいるようだ。

しばらく沈黙した後、意を決したように口を開く。

 

「遠く、感じて」

 

「ほほう?」

 

「信じてませんねー?」

 

「いや、信じるさ。今まで子供だと思ってた子が、いきなり成長して見えること、あるよな」

 

俺にとっては鈴々がそうだった。

七乃からすれば、美羽が急に遠くに行ってしまったように思えたのだろう。

それで、その理由が知りたくて、あんなことをした、と。

 

「・・・七乃って、美羽のことになるとたまに回り見えなくなるよな」

 

「遠まわしに、馬鹿って言ってますー?」

 

「そうじゃないって。・・・でも、それで俺に身を任せるって言うのもなぁ」

 

一応、俺に好意があるってことは確認して手を出したけど・・・そうじゃなかったら、流石の七乃でも説教モノである。

 

「ま、ゆっくりと休むことだな。美羽の様子見てれば分かるだろうけど、だいぶ違和感あるみたいだから」

 

もちろん、それも人それぞれだけど。

七乃の私室にたどり着いた俺は、数多の誘惑を振り切って七乃を寝台に寝かせ、すぐにライブ会場へと踵を返した。

 

・・・

 

「ほああぁぁあぁぁぁぁああぁああぁぁ!」

 

「・・・ここまで熱が伝わってくるな」

 

「うっさいです、変態ちょー」

 

しすたぁずの控えの天幕で一人呟くと、副長が凄まじい悪態をついてくる。

やけに不機嫌だな。最近滅多にこんな口調されなかったのだが。

 

「それはもしかして『変態』と『隊長』をくっ付けているのか」

 

俺の指摘に、副長は顔を真っ赤にして反応する。

 

「だぁって! ふ、不潔! 不潔ですよたいちょー! こんな、誰に見られるかもわかんないところで・・・し、しかも七乃さん初めてですよね!? それにしてはプレイが上級者向けすぎます!」

 

といわれてもなぁ。七乃が誘ってきたところがここなんだから、仕方ないだろう。

なんて言い訳を言ってみるが、火のついた副長には通じない。むしろ、火に油を注ぐ結果になった。

 

「そんなに言うんだったらあのときに止めればよかったのに。お前、凄いガン見しながらもじもじしてただけじゃねえか」

 

「ゔ・・・だ、だって・・・その、他の人のとか、見たことないし・・・。いっつも、私もこうされてるんだなー、とか思って、ぼーっとしちゃって・・・」

 

「はんっ、人のこと言えないな、副変態ちょー」

 

「うぐぅっ!」

 

まっ平らな胸を押さえて唸る副長。

そんな副長を笑いながら強めに撫でてやると、やーめーろーよー、と小学生のような抗議と抵抗が返ってきた。

 

「お前の髪の毛って触り心地良いよなー」

 

「・・・私の自慢ですから」

 

「全部抜いてカツラ作って良い?」

 

「女の子の命に何言ってるんですかっ!?」

 

俺に突っ込みを入れながら、頭を押さえて後ずさる副長。

何だ、本当に俺がやると思ってんのか。・・・思ってるんだろうな、この顔を見るに。

 

「い、今伸ばしてる途中なんですからぁ・・・」

 

「ああ、伸ばしてるんだ。伸びてきてるからそろそろ散髪してやろうかって声掛けようとしてたんだけど、いらん世話だったか」

 

「・・・隊長の中で私はどれだけ女を捨てた扱いなんですか・・・?」

 

ちょきんちょきんと宝物庫から取り出したカット用の鋏を手元で弄んでいると、さらに一歩副長が後ずさる。

 

「でもまぁ、髪の毛を伸ばすなら大歓迎だ。いつでもわしゃわしゃしてやろう」

 

「嬉しいですっ。やっぱ黒髪ですよねー! どこかの誰かが黒髪好きに『黒髪と金髪どちらが好きか』というアンケートをとったところ、なんと十割の人が『黒髪が好き』と答えたらしいんですよ!」

 

「・・・そうか」

 

誰がそんな出来レース・・・じゃねえや、アンケートを取ったんだ。

まぁいいや、俺はどんな髪の毛でも好きだしなー。なんか女子の髪の毛って良い匂いがするし。

・・・副長の『変態ちょー』を否定できなくなってきた。

 

「ん、一旦しすたぁずが戻ってくるな。副長、蒲公英と警備交代して来い」

 

「あらほらさっさーです。頑張ってきますねー」

 

副長が元気に走り去ると、入れ替わるようにしすたぁずが戻ってきた。

 

「ぎぃーるぅー! おーみーずー!」

 

「はいはい、ほら、手ぬぐいも」

 

「ありがとっ」

 

「すぐに再演奏よ。衣装、着替えましょ」

 

客席から聞こえてくる「もう一曲!」というアンコール。

毎回のことなので、今回はアンコールで新曲を発表することにした。

そのための衣装も用意してある。・・・おっと、さっさと俺も出てかないとな。

 

「じゃ、水とかは用意してあるから、着替え終わったらそのまままた舞台にな」

 

「分かってるよぉ」

 

「ギルもちぃたちの新曲、聴いていきなさいよね!」

 

「・・・期待してて」

 

汗を拭いながらこちらに笑いかける三人に俺も笑顔を返しながら、天幕から出る。

秋も深まってきて、冬に突入しようかという時期なのに、この辺りは暖かい。

しすたぁずのファンの熱が、ここまで届いているのかもしれない。

 

「お兄様ーっ」

 

「お、蒲公英。お疲れ様」

 

「お疲れっ。今日はみんな問題ないみたいだよ!」

 

「開始前にあれだけ副長が睨み効かせてたらなぁ・・・」

 

沙和の隊かと勘違いするほどの足並み揃った行動を取ってたからな。

一瞬しすたぁずのライブじゃなくて沙和の訓練に迷い込んだのかと思ったくらいだ。

 

「あっ、しすたぁずが出てきたよ!」

 

「ホントだ。おー、新しい衣装も良いなぁ」

 

「むぅー・・・えいっ、ぎゅーっ!」

 

「おぉっ? どうしたんだ蒲公英、いきなり抱きついてきたりして」

 

「べっつにぃ! お兄様の背中ががら空きだっただけだよーっ」

 

嬉しそうな声を上げながら、蒲公英が俺の背中に引っ付いてきている。

背中の感触からするに、顔をぐりぐりと押し付けられているらしい。

じゃれてきている犬のようで、なんだかほっこりとした。

気が済むまでやらせてあげれば良いだろう。

 

「今回も、ライブ大成功だな」

 

背中に美少女をくっつけたまま、俺はこの状況に一番そぐわぬ言葉を呟いた。

 

・・・

 

「おつかれさまーっ!」

 

「かーんぱーいっ」

 

「・・・おつかれ」

 

「お疲れさーん」

 

「お疲れ様っ」

 

「乙でーす」

 

しすたぁずのライブ終了後、彼女たちのお気に入りである一報亭へとやってきていた。

お察しの通り、打ち上げである。

蒲公英と副長も警備と誘導を仕切ったということで来てもらっている。

華雄も誘ったのだが、「私には合わん」という一言と共に断られてしまった。

あいつ、なんか硬派なところあるからなぁ。きゃぴきゃぴしているしすたぁずの姉二人や蒲公英とは合わないのだろうか。

でもまぁ、まだまだ華雄も遊撃隊に入って浅いし、時間をかけて付き合っていこう。

 

「今日のライブも大成功だったな。・・・というわけで、今日はご褒美だ。支払いはこっちで持とう」

 

「さっすがー!」

 

「いやー、やっぱり資本金九億六千百万は違うわねー」

 

「・・・姉さん、何を言ってるの・・・?」

 

「あっはっはー、てんほーさんは流石の天然属性ですねー」

 

「んー? なにがー?」

 

副長が笑う声を聞いて、天和は首を傾げる。

・・・資本金、もっとあるけどな。俺もシルエットだけじゃなくてきちんと立ち絵あるし。

ん・・・? 立ち絵? 俺は何を言ってるんだろうか。

 

「お兄様っ、あーんっ!」

 

「おう、あーん」

 

「えへへー。おいしー?」

 

「ああ、もちろん」

 

頭に浮かんだ妙な考えを振り払いながら、蒲公英に差し出されるままにシュウマイを食べる。

本当に嬉しそうに笑いながら、蒲公英がもひとつどーぞ、とこちらに箸を伸ばしてくる。

それを食べて、俺も同じくシュウマイを蒲公英に差し出す。

 

「ほら、蒲公英も。あーん」

 

「ふぇっ!? わ、わ、えーっと、あーんっ」

 

「あーっ、蒲公英ちゃん、ずるーい!」

 

そのやり取りを見てた天和がこちらに飛び込んでくる。

うお、ちょ、座っている人間に飛び込むとか・・・なんとぉっ!

 

「おーおー、やっぱ隊長はモテますねー。隊長がモテるのはどう考えても隊長が悪い!」

 

「・・・何言ってんの?」

 

「ドン引きしないでくださいよ、地和さん」

 

「やっぱ副長って変人よね」

 

「ほら、ギールっ。あーん!」

 

地和と副長がなにやらやり取りをしている横で俺は、膝の上を占拠してきた天和と少しむっとする蒲公英に挟まれていた。

取り合えず、二人ともあーんしてくるのをやめて欲しい。この調子で行くとすぐ腹いっぱいになりそうだ。

 

「・・・助けないですからねー」

 

「まぁ、どう見てもいちゃついてるだけだもの。天和姉さんたちは放っておいて良いんじゃない?」

 

「・・・むー」

 

視線だけで副長に助けを求めるも冷たくあしらわれてしまったので、自力で何とかするか。

よいしょ、と持ち上げて、膝の上から少し無理やりに天和をどける。

それでも隣をキープする天和を見て、俺はまだ食わせられるんだろうかと少し戦慄する。

 

「あーあー。こういうところ月さんに見られたらメシウマなのになー」

 

「メシウマとか言うなよ・・・」

 

副長はため息を吐きながらおかわりをした酒をぐいっと煽る。

外見は自棄酒飲んでる学生にしか見えないが、中身はミレニアム級のおっさんである。

っかー、とか良いながら器を卓に叩きつける様は本当におっさんである。

 

「・・・でもま、こういうのも可愛いと思えるのもなんだかなー」

 

そう言って撫でると、一気に顔を赤くして卓に突っ伏す副長。

あー、とかうー、とか言ってるので、ただ可愛いといわれて照れただけだろう。

こいつ、酔うと性格乙女寄りになるからなー。

 

「ふくちょーさん、かっわいー!」

 

「わ、ちょ、やめれー」

 

これまた酔った天和にぐりぐりと頭を撫でられ、ぐでんぐでんになりながらも一応抵抗する副長。

だが、声に覇気が無い上に力も入ってないみたいで、頭が凄く揺れている。

 

「あ、天和姉さん、そんなに揺らすと・・・」

 

「えー?」

 

「やーめーれー・・・あ、ちょ、マジで・・・う、ぷ・・・おぶろろろろろろろ」

 

「きゃーっ!?」

 

「わー! 副長がオロった!」

 

人和の注意もむなしく、天和が頭を揺らすように撫で続けたからか、副長がリバースした。

・・・直接的な表現は避けた、んだけど、地和、何だその新語。

 

「・・・はぁ、ほら、口拭ってやるから」

 

「わぷ、あぷ、ふみゅ・・・ご、ごめんなさい・・・」

 

「いいから、水やるから濯いで来い」

 

「ふぁーい・・・」

 

「あ、たんぽぽがついてったげるー!」

 

「どもですー・・・」

 

すっかりグロッキーになった副長を連れて、蒲公英が厠に向かう。

たははー、と気まずそうに笑う天和に、人和がため息を吐く。

 

「全く・・・天和姉さん、あんなに揺らしたら気持ち悪くなるでしょうに」

 

「後で副長さんに謝んないとねー」

 

「うぅ・・・今いってくるぅー!」

 

少し涙目になりながら蒲公英たちの後を追いかける天和。

 

「・・・まったく、成長してるんだかしてないんだか」

 

ま、天和らしいといえばらしいんだけどなぁ・・・。

 

・・・

 

店主に謝り倒し、副長へのフォローと天和への軽い説教を同時進行させながら、床を宝具で綺麗にする。

色んな宝具があるって良いよね! すげー楽!

 

「ごめんねぇ、副長さん」

 

「良いってことですよー。飲み過ぎた私も悪いんですし。気にしてませんから」

 

「今日は責任を持って、副長さんを送り届けるねー」

 

「え、それはちょっと。そんなことされたら、隊長に送り狼してもらえな・・・うひゃあっ、引っ張らないでーっ」

 

「じゃあ、ギル、みんなをお願いねー」

 

「・・・はぁ。天和姉さんって一度決めると突っ走っちゃうんだから」

 

副長の手を引いて去っていく姉を見ながら、人和がメガネを押し上げながら呟く。

ため息を吐いてはいるものの、その顔には笑みが浮かんでいるので、全くしょうがないなぁ、なんて思っているのかもしれない。

 

「さてと、俺はいつの間にか潰れてた蒲公英送ってくけど・・・その後二人とも送るから、ちょっと着いてきてくれ」

 

「しっかたないわねぇ。ちぃの優しさに感謝しなさい! 美少女で優しいなんて、中々いないんだから!」

 

「おう、ありがとな」

 

自信満々に胸を張って言い放つ地和に、皮肉ではない、本心からの言葉を伝える。

自分で言っても問題ないくらいに可愛いしな。・・・じゃないと、アイドルなんてやってないか。

 

「うにぃ~・・・世界が揺れるぅ~」

 

「・・・吐くなよ、蒲公英」

 

流石に背中でやられるとフリーズするしかなくなる。

 

・・・




「ふ、ふわっ、ふわあああああ!? た、隊長!? な、何をして、うわ、すっげえ入ってる・・・! え、ちょ、すっげぇ・・・じゃなくて! う、動くのをやめて・・・あ、それすご・・・ほう、ふむ・・・うん、うん。・・・おー、そういう、あぁー」

いつの場面の台詞かは、皆様のご想像にお任せいたします。ちなみに、外では「ほあっ、ほあーー!」という野太い叫びが聞こえていたそうです。


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