真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「遠征といえば。幼馴染と一緒にとある場所に遠征したんだが、アレは凄かったなぁ・・・」「? 何処行ったんだ?」「ほら、夏と冬にやってる・・・」「・・・なぁ、ホントはギルって俺と同じ時代、同じ世界から来てるよね? 絶対そうだよね?」「ははっ、何のことやら」


それでは、どうぞ。


第四十九話 二人で遠征に

「こんなものか」

 

今俺がいるのは、いつも行動している城ではない。

というか、今はそこよりかなり離れた所に来ている。

 

「おやおや、お疲れ様です~」

 

風に何時も通りの気の抜けるような声を掛けてもらい、ふぅと一息。

ここは五胡と三国を隔てる国境・・・のようなものだ。

以前、三国に五胡が侵攻してきたときから蜀呉魏の三国で計画していたのがこの現地調査計画である。

五胡は何処から来ているのか、どの辺りに拠点があるのか。それを出来る限り調べるのがこの調査の目的である。

まぁ、正直この調査はそこまで力の入ったものではない。

二次調査以降のための土台作りと言ったもので、調査のために安全な拠点を作成すること、周りに危険なものが無いか調査すること、の二点が目的だ。

なので、調査員も俺と風の二人だけだ。・・・いや、そこは本気で抗議したのだが、あれ以降動きの無い五胡の調査にそこまで人は割けない、ときっぱり言われてしまった。

ならばと俺も遊撃隊を動かそうとしたのだが、折り悪く別の遠征任務が入ってしまっていた。

・・・というか、華琳とか蓮華とか桃香とかはあの三国合同訓練以来俺一人で何でも出来るんだと思われている節がある。

最終的に諦めた俺は、風を連れて黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)でかっ飛んできた。

 

「まぁ、取り合えず一晩寝るくらいなら問題ないな」

 

「それにしても、英霊さんというのは皆さんこういうのが得意なものなのでしょうか~」

 

その辺の木を持ってきてログハウスを建ててしまったことを言っているらしい風に、そんなまさか、と返す。

一応天幕は持ってきていたものの、それは別のことに使いたかったのだ。

幸い俺の宝物庫には色んなものがあるので、それを応用しただけのこと。

 

「ではでは、早速お邪魔いたします~」

 

「おう、どうぞどうぞ」

 

内装は簡単なもので、テーブルと椅子、後は簡単な水場、書類整理のための道具置き場、荷物入れ、簡単な寝具くらいである。

 

「・・・三刻足らずで作ったとは思えないですね~」

 

「はっはっは、日曜大工は前から得意だったからな。夏休みの宿題で手製の貯金箱をクラスの人数分作ったこともあるし」

 

「くらす?」

 

「あ、分かんないか。まあ、取り合えず手先の器用さには自信があるよってことだ」

 

「なるほど~。これを見れば、なるほど納得と言ったところでしょうか~」

 

早速風は椅子に座る。

そのままテーブルで食事を取るもよし、書類仕事をしてもよしと結構大きめにテーブルは作ってあるので、小柄な風が座ると少しアンバランスに見える。

 

「さて、早速これからについて話し合いましょうか~」

 

そう言って、風は一枚の地図を取り出した。

この時代、それなりに細かい地図は軍事機密並みの重要品だ。

おいそれと持ち出せるものではないのだが、今回の任務的にはこれが無ければ二進も三進も行かないため、特別に持ち出してきたのだ。

取り合えず今分かっているのは現在地くらいか。この地図も、今回の任務中に少しずつ書き加えていかねばならないな。

 

「今いるのはこの地点ですね。真っ直ぐお兄さんの宝具で来たので、位置の確認は楽でした~」

 

後で地図を修正するので、また乗せてくださいね~、という風の頼みごとに、もちろん、と返す。

上空から確認しながら地図を書けば、相当良いものが出来るはずだ。

 

「それで、以前五胡の目撃情報があったのがここです~」

 

そう言って、風のほっそりとした指がある地点を指差す。

ここから五里ほど離れた地点だ。

なるほど、ここなら人が集まって生活するには十分な水場がある。

 

「ですので、次の目的地はここですねー」

 

「どうする? また空から行くか?」

 

「うぅむ・・・そこを迷っているのですよ~。空から行けば確かに楽なのですが、あの発光はどうにもなりませんし~」

 

「あー・・・」

 

確かに、黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)は光る。夜だと普通に視認出来る程に光るし、真昼でも太陽の光を反射して光る。

認識阻害の魔術も掛けられるが、あくまで認識しづらくなるだけだ。少し勘がよければ看破されてしまうかもしれない。

 

「人数も二人ですし、ゆっくりと歩いて接近するのがよいかと~。お兄さんならば、もし向こうに見つかって戦闘になっても風を守りながら離脱できるでしょうし~」

 

「出来るけど・・・大丈夫か、風? 結構歩くぞ?」

 

「・・・お兄さん? 風は魏に行く前、星ちゃんや凛ちゃんと旅をしていたのですよ~?」

 

ジト目でこちらを見る風に、そういえばそうだったな、と返す。

ならば、それなりに体力はあると見て良いだろう。途中で小休止でも取れば、十分踏破出来る距離だ。

最悪、俺が風を背負えば良いしな。

 

「出発は何時にする? 明朝か、日が暮れてからか」

 

「賊が出にくい明朝・・・と言いたい所ですが、お兄さんがいるのなら日が暮れてからのほうが良いかもしれませんね~」

 

「目立ちにくいからか?」

 

「はい~。お兄さんは鎧を着なければその黒い服で闇に隠れますし、風も暗い色の服は持ってきていますし~」

 

そう言って、風は自分の服に視線を落とす。

・・・確かに、その明るめの色で金髪となると結構目立つよな。

 

「外套も持ってきていますし、髪の毛は大丈夫かと~」

 

「分かった。なら、出発は明日、日が暮れてからだな」

 

「ですね~」

 

それから、持ってきた荷物の整理なんかの作業をしていると、すぐに夕食の時間に。

このログハウスの隣に天幕を立て、そこを調理場としているので、夕飯を作ろうかと移動する。

天幕の中は竈に調理器具が並んでいるだけのシンプルなものだ。これは以前の買い込みが功を奏したと言えるだろう。

 

「なるほど~、こちらに火の元を用意するから、別の小屋を建てたのですね~」

 

「そういうこと。こっちならもし火の手が上がっても最悪潰せば良いし」

 

貴重品と火の元は離して置いておかないとな。

 

「ほうほう。それで、今日の晩御飯はなんでしょうか~?」

 

「簡単なものにする予定だよ。一応保存食も持ってきてるけど、流石にそれだと味気ないし・・・宝物庫に材料は一通りあるからな」

 

「・・・お兄さんと一緒にいると、糧食と装備、拠点の心配はしなくて済みそうですね~」

 

若干引き気味の風に苦笑しながら料理の準備を進めていく。

風も手伝ってくれたので、効率よく作業が進んでいく。

というか、下ごしらえとはいえ料理できるんだな、風・・・。

ふわりと広がる袖をたすき掛けのように紐で押さえ、いつものゆっくりとした動作が嘘のようにてきぱきと下拵えを終わらせていく風に、少し驚く。

 

「旅をしていた、と言いましたよね~? 簡単なものでしたら、風でもお手伝いできるのですよ」

 

「そっかそっか。それなら、こっちも手伝ってもらおうかな」

 

「了解です。まぁ、流流ちゃんや華琳様並の腕前を期待されても困りますが、この程度のものでしたらなんでもお任せくださいね~」

 

それは心強い、と感心しながら、二人で調理を進めていく。

うんうん、こういう風に料理を作るのが一番楽しいな。

 

・・・

 

「取り合えず拠点はこのままにしておこう。柵は立てたし、無断で進入しようとするとけたたましくベルが鳴る結界も張ったし」

 

「重要なものは持ちましたし、行きましょうか~」

 

真っ黒な外套を被った風と、真っ暗になった荒野を歩く。

星の見方を知っている風に先導されながら、真っ直ぐ目的地へと進んでいく。

 

「今日は雲も無いので、方角が見やすくて助かります~」

 

「北斗七星とかを見て進むんだよな。・・・ん?」

 

前方に不自然な光を見つけ、風を急いで抱えながら身を隠す。

物陰からそっと顔だけを出して確認してみると、いくつかの光がゆらゆらと揺れている。

どうやら、数人が松明を手に歩いているらしい。

 

「風、もう目的地に着いた、なんてことは・・・」

 

「無いでしょうね~。まだ歩き出して一刻。幾ら急いでいても不可能ですよ~」

 

「なら、アレは・・・賊か?」

 

「可能性は高そうですね~。どうしましょうか?」

 

「あまり絡みたくないが・・・見過ごして被害が出るのも考え物だな。よし、接触してみよう」

 

「はいなのですよ~」

 

さて、どうやって判断しようかな。

・・・まぁ、一つしかないか。

 

・・・

 

集団の前に、黄金の鎧を着て待ち受ける。

普通の人間なら無視するか、軽く声を掛けてくるかのどちらかだが・・・。

 

「おっ? ・・・アニキ、あそこの男・・・」

 

「ん? ・・・おおっ、黄金か、ありゃ」

 

「みたいですぜ。二人だけのようですし、武装もみあたりやせん」

 

先頭を歩く数人がこちらを見てひそひそと話し、残りが俺たちを囲むように動く。

・・・嫌な予感が当たったか。

 

「この先にある良くわからねえやつらの里で返り討ちにあってむしゃくしゃしてたが・・・あんなのを見つけられるんだったら良かったかもな」

 

ふむ、会話を聞くにどうやら彼らはこの先にある里の帰りらしい。

ならば、方角はあっているのだろう。

 

「おい、お前! その鎧を置いていけ! そうすりゃ、命だけは助けてやるよ!」

 

・・・なんというか、そういう台詞って何か決められてるわけ?

黄巾党の残党とかに荒野で出会うと九割その台詞だぞ。

 

「なるほど、今の台詞で確定した。・・・風、ちょっと顔伏せてろ」

 

フードを目深に被らせ、顔を見せないようにする。

こういう手合いが風のような美少女を見たときの台詞は、十割の確立で「おっ、その女は高く売れそうだな! そいつも置いていけ!」だからだ。

余計なやり取りはなくすに限る。

 

「じゃ、賊なのは分かったから拘束するぞ」

 

「はぁ? お前、何言って・・・はぁ!?」

 

「だって長いんだもの。ほら、その馬車に乗って」

 

天の鎖(エルキドゥ)と同じ要領で賊全員を縄で拘束して、馬車に載せる。

この馬車、いつか使うだろうと宝物庫に入れてあったうちの一つで、今まで使う機会も無く宝物庫の肥やしとなっていたものだ。

こういうところで使っていかないとね。

 

「あ、そうだ。ちょっと尋問していくかな。風、ちょっと待ってて」

 

俺はそう言って、賊を詰め込んだ馬車へと乗り込んだ。

 

・・・

 

「なるほどねー」

 

「おやおや、おかえりなさい、お兄さん。何か有益な情報は得られましたか~?」

 

馬車から飛び降りて一人頷いていると、風が声を掛けてきた。

 

「まぁね。大体の人の数だとか、色々聞けたよ」

 

言ってみたい台詞トップテンに入っているあの台詞も言えたしな。満足満足。

 

「さてと、馬車も送ったし、俺たちも行こうか。まだ歩けるか?」

 

「大丈夫ですよ~。お兄さんが尋問していたときに休憩できたので~」

 

なら大丈夫だな、と歩き始める。

千里眼で辺りを確認しながら歩いていると、目的地が見えてきた。

ここまでくれば、星空を雲が覆っても目的地にはたどり着けるだろう。

 

「風、目的地が見えた。このまま真っ直ぐ行けば日が昇る前にはたどり着けるだろう」

 

「分かりました~。もうちょっと、頑張りますね~」

 

俺は先ほどの鎧から黒いライダースーツへと着替え、更に風と同じように外套を頭から被っていた。

砂から身体や髪を守ってくれるし、体温もあまり奪われない。更に、俺も風も金髪なので、目立つ頭を隠すという意味も持つ。

 

「何か、お話をしましょうか~」

 

「何か、って言ってもなぁ。・・・そうだなぁ、最近あった男子会の話でもしようか」

 

あの話なら、ライダーが(妖怪を)吐いた話だとか、面白いエピソードがいくつかある。

サーヴァントやマスターが入り乱れた宴会の話をしてみると、予想以上に受けた。

風は口元を手で隠しながら、くすくすと笑う。

 

「騎兵さんは不可思議な身体をしているのですね~」

 

「ああ。・・・それにしても、あの男子会、後半の記憶が無いんだよなぁ」

 

目が覚めたら客室の布団に寝かされてたし。

酔い潰れたんだろうな、きっと。

 

・・・

 

「やや、見えてきましたね~」

 

ついに風にも見えるほどに目的地が近づいてきた。

幽かな光が灯っているので、きっと人はいるのだろう。

 

「さてと、歩哨が立ってるな」

 

「見つからないよう、外側を回っていきましょうか~」

 

「だな。それで警備の薄いところを見つけて、進入するぞ」

 

「・・・そこまでしなくてもよいのですよ~?」

 

「ここまできたら気になるじゃないか。それに、さっき尋問したら妙なことも聞いたしな」

 

「妙なこと、ですか~?」

 

首を傾げる風に、首肯だけ返す。

行って確認するしかないのだが、何でも慌しかった、らしい。

だから襲撃を決意したらしいのだが、あっけなく返り討ちにあい、半数以上の仲間を失ってあそこをとぼとぼ歩いていたらしい。

何故慌しかったのか、それが分かれば、何か進展があるかもしれない。

そう考えて、進入できそうなところを探す。

 

「ん、ここから行けるな。風、ちょっと抱えるぞ」

 

「どうぞ~」

 

よいしょ、と風を肩に抱え上げ、柵を飛び越える。

着地してすぐに辺りを警戒。

・・・うん、誰にも見つからなかったようだ。

 

「さて、何処から行くかな」

 

「あちらから話し声が聞こえます~」

 

「ん、じゃあそっち行ってみるか」

 

柵を越えて入ってきたこの集落は、川を中心に家が十数件建っている。

確かに、なんだか雰囲気が慌しい。ちらほら走り回っている人もいるし。

 

「・・・だってよぉ」

 

「だな。・・・おい、俺は水汲んでくるぞ」

 

「おう! 俺は薬草調達してくる!」

 

おっと危ない。

急に駆け出した男に見られるところだった。

・・・しかし、薬草が必要とは、急病人かけが人でもいるのだろうか。

その辺の家のタンスに入っていないのかな、やくそう。

 

「なにやら忙しそうですね~」

 

「ああ。あの一際大きい家が騒ぎの中心みたいだな」

 

「侵入してみましょうか~」

 

「よし、ゆっくり行くから付いて来い」

 

「了解ですー」

 

こそこそと家に近づいていく。

騒ぎの中心だけあって人の出入りが激しく、屋根からの潜入になってしまった。

確実に怪しい人間である。いや、フードを目深に被っている時点で怪しいのだが。

 

「・・・やっぱりか」

 

「? どうか・・・ああ、なるほど~」

 

俺の視線の先を見て、風は一人頷いた。

少し服装なんかは変わっているものの、あの銀色の髪、そして傍らの巨大な戦斧。

間違いない、あそこで寝込んでいるのは華雄だ。

ところどころに手当ての後が見えるのは、先ほどの賊に襲われたからだろう。

賊の話によると、数十人でここを襲った際、銀髪で大斧を振るう女に半数以上をやられた、と聞いたからもしやと思っていたのだが・・・。

 

「落ち延びた後、探しても見つからないわけだ。国境を越えてこんなところまで・・・」

 

「周りに部下らしき人が見えますねー。一緒に落ち延びた方でしょうか~」

 

「だろうな。・・・さて、どうするかなー」

 

「一度接触したほうが良いでしょう~。元董卓軍の元へ戻りたいというのなら連れて帰ればよし、ここに残るというのならその意見を尊重すれば」

 

それしかないよな、とため息。

先ほどの薬草がどうとか水がどうとかは、手当てのためのものだったのか。

 

「宝物庫にはお薬は入っていないのですか~?」

 

「入ってるよ。・・・取り合えず、正面から入りなおそう。ここにいる人たちは、まだ話が通じるっぽい」

 

「ですね」

 

進入するときより出るときのほうが楽だった。

ちょっと踏み込んでジャンプするだけで、柵から外には出れる。

着地音を気にすることは無いので、土ぼこりを起こしながら衝撃を和らげて着地。

腕の中の風も特に痛みを感じている様子は無い。

 

「よし、いくぞ。俺の後ろに隠れてろよ」

 

首肯して俺の後ろに回り、片手で俺の外套を掴む風。

ゆっくりと表の門に近づいていくと、番兵らしい男に止められる。

 

「止まれ! ここに何の用だ!」

 

武器を突きつけて誰何してくる番兵に、両手を上げて抵抗の意思がないことを示す。

その上で、ここに知り合いがいると聞いて、確認しに来たのだと伝えた。

知り合い・・・というか、華雄の外見上の特徴を口にすると、番兵は一旦柵の中へと戻って言った。

もう一人の番兵がこちらに警戒を向けてくるのを意識して無視しながら、こちらも辺りへの警戒を怠らない。

自分ひとりだったらぼうっとするかもしれないが、今は風と一緒。彼女に危害を加えさせるわけにはいかないからな。

 

「・・・お前たち、名前は?」

 

戻ってきた番兵に名前を尋ねられた。

 

「俺の名前はギル。こっちは・・・」

 

「程昱ですよ~」

 

「・・・男のほうはこの辺では聞かない響きだな。まぁいい、もう少し待っていろ」

 

もう一度走り去っていく男を見送ってから、再び少しの無言の時間。

番兵もちょっと気まずそうにしている。うん、分かるよその気持ち。

俺もあんまり知らない人と二人きりとか結構困るもの。

 

「おい、長から許可が出た。入って良いぞ」

 

「ありがとう。ほら、離れるなよ」

 

「はいですよ~」

 

一応敵地ではあるので、慎重に進んでいく。

先ほど進入した家の前まで案内されると、番兵に顎で「いけ」と指示される。

 

「おじゃましまーす」

 

「します~」

 

長の家らしい建物に入ると、幽かに苦しそうな吐息が聞こえてくる。

真正面に見える扉の奥が華雄の寝ている場所だ。

 

「ギル、と言ったか」

 

意識をそちらに向けていたからか、一瞬声に気付くのが遅れた。

そこには、仙人、というイメージがぴったりな老人が立っている。

 

「おぬしの名前を聞かせたところ、彼女の共が反応してな。知り合いのようなので、ここに通したわけだ」

 

「ああ。元々仲間だったからな。華雄の様子を見たい。通してもらえるか?」

 

「よいじゃろう」

 

そう言って通されたのは、奥の間。

寝台には手当てをしている女性数人と、華雄の部下らしき女性兵士が数人。

俺たちが来るのは伝えられていたのか、特に驚かれずに迎え入れられた。

 

「・・・少し、やっぱり変わったな」

 

髪の毛が長くなっているし、戦装束も少しだけ変化している。

 

「む・・・この声は、ギル、か?」

 

「ああ。久しぶり」

 

身体を起こせるくらいには回復したらしい華雄が、苦しそうな顔をしながらゆっくり上体を起こした。

肩口を押さえているのをみるに、いまだ肩に受けた傷が治っていないのだろう。

恋と同じように露出させた腹部にも包帯が巻いてあり、赤く血が滲んでいる。

 

「取り合えず、これは差し入れ。ぐいっといってくれ」

 

「何処からだし・・・ああ、そういえば何か妙な蔵を持っていたな」

 

華雄は俺から渡された怪しげな色の薬を一気に呷った。

幾ら元仲間とはいえ、数年間会っていない人間から渡された怪しげな色の薬を一気するとは・・・。

豪快というか、何も考えてないというか・・・。

 

・・・

 

回復した華雄から今までの足取りを教えてもらった。

落ち延びた後、敵に出会わないように迂回しながら洛陽に戻ろうとしたところ、誤って国の境にある森に迷い込み、五胡の領土へとたどり着いたらしい。

その時点で戻れば良いのだが、華雄はこのまま進軍を決行。・・・まぁ、森で迷ってしまった時点で戻れないのは分かるけど。

それから、襲ってくる賊やら何やらをばったばったとなぎ倒しながら日銭を稼ぎ、たまにたどり着く村で農作業なんか手伝ってお礼を貰ったりしながら洛陽へ向かおうとしていたんだそうだ。

部下が優秀だったのか、洛陽へ向かう道は分かっていたのだそうだ。だが、華雄の活躍を聞いた村からの救援を聞いていたりするうちに、だんだんと北上していってしまう。

ようやくそれが落ち着いて、何とか南下してきたものの、途中立ち寄った村(今いる村のことだろう)で賊を返り討ちにして怪我を負い、こうして寝込んでいた、と。

 

「なるほど~。・・・まぁ、困った人を放っておけないというのは、話に聞いていた華雄さんらしさが垣間見えるというか~」

 

「それで・・・ここからが本題なんだが、華雄、お前戻ってくる気はある・・・んだよな?」

 

「もちろん! 董卓軍のものが全員生きているとなれば、戻らなければならんだろう! まだ決着を着けていない奴もいるしな!」

 

「了解。・・・よし、じゃあこの村を出発して、一旦仮拠点まで戻ろう。そこで装備を整えて、城まで戻るぞ」

 

二人だけなら黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)で何とでもなるのだが、華雄プラス部下数十名となっては、まず神秘の秘匿が難しくなる。

となれば陸路しかないのだから、準備するために仮拠点には戻らないとな。

 

「怪我も治ったことだし・・・手当ての礼をしたらすぐに出発するぞ!」

 

部下たちが応! と答えて準備を開始する。

華雄の部下なだけあって単細ぼ・・・熱血な兵が揃っているようだ。行動に戸惑いが見えない。

それから、手当ての礼として農作業やら村の周りを囲っている柵の補修なんかを手伝って、仮拠点へ。

こそこそする必要も無いので、昼間に堂々と進軍する。

俺の隣で眠そうに歩く風に話しかける。

 

「・・・この調子でいけば、日が暮れる前に着くな。風、ちょっとこの場を任せて良いか?」

 

「構いませんが~、お兄さんはどうするのですか~?」

 

「少し仮拠点を大きくしてくる」

 

「・・・すみません、風の耳が少し遠いみたいです~」

 

「だから、仮拠点を大きく・・・というより、もう一個大きいの建てて来る」

 

風はペロキャンを咥えたままため息をつくと、無言で俺の腰をぺしんと叩いてきた。

え、なんで俺は怒られているのだろうか。

それとも、いって来いという激励なのだろうか。・・・いや、ため息の時点でそれは無いな。

 

「・・・華雄さんと一緒に歩いていますので~」

 

「あ、ああ。それじゃあ、取り合えず行ってくる」

 

俺は敏捷と筋力のステータスを元に戻し、更に宝物庫からのバックアップも開始した。

これで、俺は一瞬ならランサーやアサシンに競り勝つほどの敏捷値を得ることになる。

一足で数百メートルを移動する俺は、ものの数分で仮拠点まで戻ってきた。

・・・さて、どんなに華雄たちが急いできても数時間はかかる。

その間に、数十人を収容できる建物を作らなきゃな。

 

・・・

 

全く、お兄さんは困った方ですね~。

大斧を持って隣を歩く華雄さんと様々な話をしながら、駆けて行ったお兄さんを想う。

この旅で少しでも近くなろうと思いましたが・・・一番最初に飛行宝具を使われたのは予想外ですね。

アレの所為で、数日はかかると思っていた国境までの道のりが数分になってしまいましたし~。

 

「・・・上手くいかないものですね~」

 

この越境探索のとき、お兄さんにあぷろーち? というものをしようとしていたのですが、まさに出鼻をくじかれましたね~。

仕方ありません。迦具夜さんから貰ったこのめもには、後なんて書いてありましたっけ・・・。

 

「む? 程昱よ、それは・・・」

 

「ああ、風で良いですよ~」

 

「そうか・・・すまない、私の真名は・・・」

 

「お兄さんから聞いていますよ~」

 

そうか、と納得してくれた華雄さんに、笑みを向ける。

お兄さんから聞いた話によると、彼女には真名が無いらしいのです。

それがどんな事情によるものなのかは想像できないですが・・・あまり詮索するのもいけないでしょう。

するりと流して、再びめもへと視線を走らせる。

 

「ふむふむ・・・なるほど~」

 

「それは・・・なんと書いてあるのだ?」

 

「んふふ~。秘密ですよ~」

 

「むぅ、そうか」

 

案外素直に引いた華雄さんから視線を外して、次の策のために頭を働かせる。

お兄さんは一旦戻って拠点を大きくすると言っていました。

・・・おそらく、元々立てていた小さい仮拠点を崩すことは無いでしょう。

ならば、そちらを使えば・・・。

 

・・・

 

「よっし!」

 

日も沈みかけ、西日が俺と建物を照らす。

無事に大型拠点が出来た。

ついつい柵とかグレードアップさせたり結界張りなおしたり防御を固めてしまった。

 

「さて、そろそろみんなも来る頃か」

 

千里眼で荒野を見渡すと、こちらへやってくる軍団が。

途中で襲撃も受けずに無事たどり着けたらしい。

少しして、向こうもこちらの拠点を視認したらしい。進行速度が気持ち上がったような気がする。

 

「よし、みんなが到着するのにあわせて簡単な食事でも作っておくか」

 

そうと決まれば天幕の中で調理開始だ。

量が多くてかつ作りやすい・・・カレー決定だな。

スパイスを宝物庫に突っ込んでルーを作り、調理を開始する。

宝物庫はきっと作業台と同じ効果を持つのだろう。材料を組み合わせれば別の何かが出来る辺り、似ている。

 

「さて、じっくりことこと煮込んでやるか」

 

と言ってもあと一時間弱。ああ、ご飯も炊かないとな。

丁度最後の仕上げ、と言ったところでみんながやってきた。

よしよし、いい時間配分である。流石は俺。伊達にギルえもんと呼ばれてはいない。

・・・響にしか呼ばれないけどな。

 

「むむっ、良い匂いがすると思ったら、やはりお兄さんだったんですね~」

 

「初めて見る料理だな。これは天の料理なのか?」

 

「天というか・・・まぁ、俺の故郷で大人気の料理だな」

 

「なるほど~」

 

巨大な鍋を五つほど用意して作成したからな。

全員分当たるだろう。ご飯もたっぷりだ。鈴々か恋が一人いても大丈夫なくらいはある。

 

「うむ! 美味いな!」

 

「それは良かった。どんどん食べてくれ」

 

日もすっかり沈み、ところどころで燃える焚き火が兵士たちを照らしている。

食事を取った後は簡単な風呂も開放している。・・・まぁ、こっちには川も宝具ボイラーも無いので普通に水を沸かしただけなのだが。

それでもやはりすっきりするのは嬉しいのだろう。女性たちが嬉々として出入りをしている。

 

「さ、華雄たちはあっちの大きい拠点で休んでいてくれ。申し訳ないけど、数人で一部屋だ」

 

「いやなに、用意してもらっただけでもありがたい。この礼は必ず」

 

「気にするなって。俺も楽しんで建ててたし」

 

食事を終え、湯浴みも終わらせた兵士たちが続々と巨大拠点へと入っていく。

まぁ、部屋割りは勝手にやっていくだろう。

俺も疲れた。仮拠点に戻るとしよう。

 

「俺は先に戻るけど・・・二人はどうするんだ?」

 

「おや、そうですか~。ではでは、風も戻りましょうかね~」

 

「む、私もそうするか」

 

「・・・」

 

ん? 風が「むむっ?」って顔をしている。

まぁ、華雄は将扱いとはいえあまり親交が無いだろうからな。驚くのも無理は無い。

だけど、華雄も一応とはいえ将。兵士たちとは拠点を別にしないと。

ということを風に説明すると、再び腰の辺りを叩かれた。

え、なんで俺はまた怒られているのだろうか。

 

「・・・お兄さん。以前風はお兄さんにお返しをすると言っていたのを覚えていますか?」

 

「ん、ああ。念壷事件のだろ? ・・・だから、むしろ俺が詫びる側だって・・・」

 

「ではでは、今夜、一つお願いを聞いて欲しいのですが~」

 

「おう、俺に出来ることなら。作って欲しい夜食でもあるのか?」

 

「いえいえー。そういうものではないのですよ~」

 

言葉を濁す風に、首を傾げてみるが、まぁ考えたところで分かるものではないだろう。

兎に角、後で聞かせてくれるだろうし、仮拠点に戻るか。

 

・・・

 

この状況は何なんだ。

まさにその言葉しか浮かばない。

仮拠点に戻った後、別に作った風呂に入るという風と華雄を見送り、自室に戻ったまでは、特に変わりは無かった。

それから自室に戻ってちょっとだけ書類を片付けて、さて寝ようかと寝台に潜ったのも問題なかろう。

・・・問題はその後か。

寝台がきしむ音と身体に走った衝撃に目を覚ますと、風が四つんばいの体勢で、寝ている俺に跨っていた。

ああ、まさに何を言っているか分からない。

こちらをじっと見つめる眠そうな瞳や、俺の頬や顔を容赦なくくすぐっていく柔らかな金髪はまさに風のものだ。

その状態で数分見つめ合っていると、こんな状況なのに眠気が再び襲ってきたりする。

 

「・・・おやすみ」

 

「流石にそれはどうかと思うのですよ~」

 

いや、これは確実に風の所為だ。

彼女の眠たげな瞳とあまりの衝撃に現実逃避するかのような眠気が俺を襲うのだ。

 

「まぁ、眠っても良いのですが、その間下半身に何が起こっても自己責任ということで~」

 

「なんという限定的な脅し文句! 風はそういうことする娘じゃないって信じてたのに!」

 

「まぁ、そう思ってるならそうなんじゃないですか? お兄さんの中では、ですけど~」

 

「くっ・・・」

 

口で勝てる気がしない。かといって無理にどけようとも思わない。

何故風がこんなことをしているかについての予測は付いている。いや、確信と言っても良い。

これで間違っていたら本気で墓穴掘って埋まる覚悟だが・・・。

 

「むぅ・・・そういうことは、分かるのですね~」

 

片手で風の頬を触れると、風は手のひらに頬を押し付けてきた。

正解らしい。ふふん、もう鈍いとは絶対に言わせない!

 

「なら、これから風がして欲しいことも・・・分かりますよね~?」

 

「もちろん。・・・好きだ、風」

 

「っ。・・・風も、ですよ~」

 

・・・自然と口付けして、お互いに見つめあう。

そういえば、宝譿がいない。留守番なのだろうか。

いや、いても困るのだけど。

 

・・・




副長メモ
・隊長は基本的に意味不明です。
・隊長は例外的に穏和です。
・隊長は平和的に物事を運ぼうとします。
・隊長は全般的におにちくです。
・隊長は積極的に攻めれば落ちます。

「・・・なるほど~」

その後、そのメモは迦具夜と風の手によって厳重に保管され、壱与と卑弥呼によって続編が作られた。そして、かの黄金の将と結ばれた娘たちによって項目が追加されていき、彼を落とすための参考にされるのだった。


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