真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「仲良く・・・か・・・。俺、春蘭と桂花とは仲良くなれる気がしないんだけど・・・」「え? そうか? 意外とギルなら仲良くなれそうだけど」


それでは、どうぞ。


第五話 魏と仲良くなるために

「次は魏か」

 

華琳たちをどう説得して川へと連れて行くか、が問題だな。

とりあえず説得してみる、と玉座の間へ入っていった一刀に取り残されるように、扉の前で待ちぼうけ。

見張りの兵と雑談しつつ時間をつぶしていると、一刀がひょっこりと顔を出した。

 

「水着を見せたいんだ。来てくれ、ギル」

 

「おう。・・・それじゃ、仕事がんばって」

 

「ええ。ギルさまも」

 

兵士に別れを告げ、玉座の間へと入る。

 

「あっ。あんたは、前に私のことを抱きかかえた金髪男!」

 

「・・・第一声がそれか」

 

猫耳軍師、荀彧にびしりと指を指され、大声で糾弾される。

前に、というのはたぶん赤壁のときに沈みかけた船から助けたことだろう。

というか、それ以外に荀彧と接触したことは無い。

 

「うう、北郷がそいつを連れてくるなんて、いやな予感しかしないわ・・・」

 

「一刀、俺ってなんかしたかな」

 

「生まれてから、あんなに男に密着されたことなんか無いのに! ってしばらく騒いでたぞ、あの後」

 

「・・・あー」

 

そりゃ嫌われるか。

 

「だけど、この暑いのを何とかするにはギルの協力が不可欠なんだよ。頼む」

 

「おう。王の財宝(ゲートオブバビロン)

 

「ちょっと、こんなところで宝具を・・・って、なにこれ」

 

一瞬焦りを見せた華琳だが、出てきたのが聖剣や魔剣のような宝具ではなく、水着を着けたあのマネキンもどきであるのを確認すると、訝しげな表情になった。

 

「下着ではないか! こんなところで、そんなものを出すとは・・・!」

 

しゃきん、と七星餓狼を構えた春蘭を慌ててとめる。

その間に、一刀に説明してもらう。これは下着ではなく水着と言って、水遊びのときに着るものである、とか熱弁する一刀を守るように春蘭を押しとどめる。

なんだろうこの威圧感・・・この娘、英霊じゃないよね? 

 

「・・・ふぅん、なるほど?」

 

華琳が納得したように鼻を鳴らす。説得は成功か。

・・・納得したんなら、華琳、この暴走猪とめてほしいんだけど。

 

・・・

 

川へと移動した後、魏の将たちが着替えるのを待つ。

今回は一刀のほうが親しい将が多いので、俺は騒ぎから離れたところで見学することに。

 

「行くぞ北郷ーっ!」

 

「うわ、ちょ、春蘭っ!?」

 

ざっぱーん、と暴れる春蘭に巻き込まれ、一刀が川の中に消える。

・・・まぁ、一刀も水着を着てるし、濡れても大丈夫だけど・・・。

 

「おにーさんは、遊ばないのですかー?」

 

いつの間にか俺の隣で寝転がっていた風がのんびりと口を開く。

 

「そだな、今日は良いかなぁ」

 

「そなのですかー。それじゃ、風と一緒に日向ぼっこですねー」

 

「そうさせてもらうかな。・・・なぁ、風?」

 

「はい? なんでしょうかー」

 

「・・・稟が川に沈んだんだが、アレは大丈夫なのか?」

 

「大丈夫ですよ。いつもはあれより死にそうな目にあってますからー」

 

鼻血とか鼻血とか鼻血のことだろうか。

まぁ、いつも一緒にいる風が大丈夫だというなら大丈夫なのだろうか。

春蘭も、流石に死なせはしないだろうし。

 

「にーいーちゃーんっ!」

 

「季衣っ!? ちょ、今は無理・・・わーっ!?」

 

小柄でも力が強い季衣に飛び込まれて、一刀はしりもちをつく。

跳ねた水が涼しそうだ。

 

「あららー、お兄さんも大変ですねぇ」

 

「にーさま、風さま」

 

一刀をほほえましい視線で見ていると、流琉が話しかけてくる。

流琉とはたまに厨房で出会って食材を提供して食事を作って貰ったりしているため、魏の将の中でも仲が良い。

 

「ん? ・・・流琉か。どうかしたのか?」

 

「いえ、どうかした、というわけではないのですが・・・お二人とも水の中に入っていないようでしたので・・・」

 

「あー、俺は水着ないし。今回は見学ー」

 

「風はこうしてるだけで満足なのですよー」

 

「そうなんですか・・・」

 

ちょっとがっかりした様な顔をする流琉。

どうかしたのだろうか。

 

「流琉はあなたと遊びたいのよ。察してあげなさいな」

 

いつの間にか近くまで来ていた華琳が呆れたようにそう言った。

あなたって・・・俺か? 

確認するように流琉を見てみると、俯き加減にこちらを見つつ、こくりと頷いた。

 

「そっか、なら俺も参加してこようかな。風、華琳、どうする?」

 

「風は寝てるのですよー」

 

「私は・・・そうね、水着姿の桂花でもからかってこようかしら」

 

ざぱざぱと水の中を移動して華琳は荀彧の元へと向かっていった。

 

「にーさま、こっちですよっ」

 

その後ろ姿を見送りながら、俺は流琉に手を引かれて秋蘭の元へ。

なにやら秋蘭と流琉、俺対春蘭と季衣、凜と一刀、で対戦するらしい。

 

「負けないよ、にーちゃん!」

 

「ギルがそっちかよ・・・」

 

「ふはは! ギルなどおそるるに足らず! いっくぞー!」

 

「よし、行くぞ、ギル」

 

「にーさま、がんばりましょうね!」

 

「おっけー、がんばるかな」

 

魏のみんなとはまだ付き合いが浅いからな。

こうやって、ちょっとずつ仲良くなっていけるのは嬉しい。

 

「よーし、まだまだいくよー!」

 

季衣の元気な声が、空へと響いていく。

 

・・・

 

その後、呉にも水泳大会のことを伝えようとしたが、折り悪く暑い日が来ず、しばらく過ごしやすい気候が続いた。

まぁ、まだまだ夏が終わるようなことは無いので、すぐに暑くなると思うが。

それに、連日みんなを水浴びに連れて行くのも変だしな。ちょうど良い休みになるだろう。

 

「・・・はぁ?」

 

「・・・いや、だから春蘭と秋蘭が喧嘩しちゃったんだって」

 

「何とまぁ、珍しいことで」

 

あの二人が喧嘩したところなんか見たこと無いぞ。

まず、秋蘭が春蘭をいないもののように扱うところから始まり、部屋にある春蘭の家具を片付けるのを手伝って欲しいとまでいわれているらしい。

 

「・・・とりあえず、ギルの蔵に家具を入れて、適当な部屋に春蘭を移動させておきたいんだ」

 

「りょーかい。手伝うよ」

 

秋蘭のところへいくと、隣に立つ春蘭を見えないもののように扱いつつにこやかに家具を片付けるように頼まれた。

 

王の財宝(ゲートオブバビロン)

 

地面に沈むように収納されていく家具。

うーん、しかし、実際に見るとすごい怒りっぷりだな。

露骨な無視じゃなく、本当に春蘭がいなかったかのように振舞うんだから。

 

「うむ、これでさっぱりとした。ありがとうな、ギル」

 

「いやいや、構わないよ。な、一刀」

 

「ああ! ・・・ほら、行くぞ、春蘭」

 

小声でそういうと、一刀は春蘭の手を引いて歩き出した。

うぅー、と唸りながら春蘭は引かれるままに別の部屋へ向かっていった。

 

「それじゃな、秋蘭」

 

「ああ。ギルと北郷も、わざわざ済まないな」

 

・・・これは、手ごわいぞ・・・? 

 

「・・・で、どうするんだ?」

 

翌日、一刀と荀彧と歩いていると、秋蘭に出会った。

秋蘭はいきなり弓を構えると、城の通路を曲がってきた春蘭に向けて矢を放った。

 

「うおっ!?」

 

「秋蘭!? いきなり何してるんだよ!」

 

「いやなに、急にここからあそこの壁際まで矢が届くのか試したくなってな」

 

・・・まぁ、当てる気はないみたいだし、春蘭も矢を弾き始めたので大丈夫だろう。

 

「何とかしなさいよ! あんた、超人なんでしょ!?」

 

こちらを睨む荀彧にそう言われるが、いやぁ、それは無理ってもんですよ。

 

・・・

 

「ギル、何とかならないの?」

 

「・・・なんでみんな、俺のところに来るかね」

 

その日の夜、華琳にまでそういわれた。

まぁ、魏の中でも華琳に告ぐ実力者である二人が喧嘩したままというのはまずいことなのだろう。

うーん、一刀に聞いたところによると、杏仁豆腐のさくらんぼを食べてしまったのがいけないのだと聞く。

だが、その前にもいくつか春蘭は秋蘭のおかずをつまんでいたらしい。好物だから、という理由があったとしても、さくらんぼだけで怒るような人間じゃないはず。

・・・なら、何か他のものと違う出来事があったはずなんだが・・・。

 

「まぁ、いろいろと話を聞いて解決してみるよ」

 

「ええ。一刀の手にも余ってるみたいだから、協力してあげて」

 

「おうさ。じゃあ、失礼するぞ」

 

「構わないわ。それじゃあ、頼んだわよ」

 

「任せろって」

 

そう言って玉座の間を後にする。

・・・うーん、とりあえず一刀にその時の状況を詳しく聞いてみるかな。

うんうんと考えこみつつも、足は一刀の部屋へと向かっていった。

 

「一刀ー、いるかー」

 

こんこん、とノックしながら声を掛けると、おー、いるぞー。入れーと返ってきた。

 

「邪魔するぞ」

 

「ギル、何か進展はあったか?」

 

「いや、華琳にも何とかしてくれって言われたところだ。だから、一刀から起こったときの状況を詳しく聞きに来たんだ」

 

「そっか。それくらいなら、お安い御用だ。ええっと、あの時はだな・・・」

 

一刀から、詳しい話を聞いていく。

ふーむ、それだけ聞いてると、やっぱり好物を取られたから、としか考えられないなぁ。

・・・ふむ、ちょっと確かめてみるか。

 

「怒った理由は分からないが・・・何とか秋蘭から聞き出してみよう」

 

その日は流琉にある頼みごとをしてから眠りについた。

・・・これで何とか仲直りしてくれればいいんだけど。

 

・・・

 

翌日、流琉にお菓子を作ってもらい、秋蘭と一刀、季衣、そして俺の五人で食べようとしていたとき、春蘭がやってきた。

 

「おー、良い匂いがすると思ったら!」

 

ここまでは計画通り・・・ってうお!? 秋蘭の顔に怒りのマークが!? 

ぴくぴくと怒りに震える秋蘭に、あと一人人を呼んでいいかと聞いてみる。

 

「構わんぞ。誰だ? 華琳様か、桂花か?」

 

「えぇ?」

 

「風を呼ぶなら稟も呼ばねば拗ねるしな」

 

「ちょ、秋蘭様・・・?」

 

・・・こりゃ、理由を聞くどころじゃないな・・・。

俺の作戦としては、春蘭がいる前で秋蘭の怒っている理由を話してもらえば、理由も分からずに謝れるかと言い張る春蘭も理由が分かるだろうと思っていたのだが・・・。

しかし、そこで思い切って一刀が口を開いた。

 

「な、なぁ、秋蘭?」

 

「なんだ、北郷?」

 

「その、俺の知り合いの姉妹の話なんだけど、姉が妹を怒らせちゃったんだ。だけど、姉は何で妹が怒っているか分からないって言ってるんだけど・・・」

 

一刀がそういうと、秋蘭は良く分からないといった顔をして

 

「私に姉妹はいないぞ?」

 

「それでもいいから、意見が欲しいんだよ」

 

「ふむ・・・察するに、好物を黙って取られでもしたんじゃないのか? 流石に、許可も無く好物を取られては、その妹も怒るだろう」

 

「・・・!」

 

なるほど、上手いな、一刀。

そういう風に聞き出せば、秋蘭も話しやすいし、春蘭もきちんと理解できるだろう。

実際に、その後はとんとん拍子に進んでいった。

もう黙って人のはとらないし、麻婆茄子一つに対して餃子を二個渡すようにするだとか言いながら、二人は仲直りをしていた。

 

「ふふ、それでは姉者、お菓子を取る皿を持ってきてくれないか」

 

「ああ! ちょっと待っていろ!」

 

そう言ってだだだっ、とどこかへいき、だだだっ、と帰ってきた。

その手には皿を抱えており、嬉しそうな顔をしている。

 

「持ってきたぞ!」

 

「よし、それでは食べようか」

 

「おう! ・・・む? 秋蘭、これをいただくぞ!」

 

「・・・!?」

 

「・・・あー、流琉」

 

「・・・えと、季衣」

 

俺は流琉の手をつかみ、一刀は季衣の手をつかむ。

 

「逃げるぞ」

 

二人同時にそう言って、全速力で駆け出した。

もう、面倒見切れん! 

 

・・・

 

ある日、中庭を何気なく歩いていると、急に地面が消えた。

 

「うおっ!?」

 

急いで天の鎖(エルキドゥ)を上から張り巡らせ、落下を阻止する。

・・・ふう。地面が消えたと思ったのは、落とし穴に落ちたからか・・・。

 

「全く、こんなところに落とし穴を作るなんて」

 

誰だろうか。一瞬で浮かんでくる候補は蒲公英と荀彧だけど。

・・・下には蠢く爬虫類。こういうタイプの精神的にくる罠を仕掛けるのは、荀彧のほうか。

 

「はぁ・・・とりあえず、下の爬虫類たちは逃がして、穴は埋めておくか・・・」

 

ふむ、これはまた、たくさん集めたなぁ。

とりあえず落とし穴を一つ埋めることに成功し、ふぅとため息をついて歩き始める。

・・・二歩目を踏み出した瞬間、地面が消えた。

 

「またかっ!」

 

天の鎖(エルキドゥ)にお世話になりながら、全く、とつぶやく。

次はただの落とし穴だ。・・・うーむ、いくつも落とし穴を作る手口は蒲公英のものだが、これはどちらのなんだろうか。

宝具をフル活用して穴を埋めて、再び一歩を踏み出す。

瞬間、無重力かの様な感覚にとらわれる。

 

「・・・」

 

無言で鎖に引き上げられつつ、ぷつんとどこかで何かが切れた。

 

王の(ゲートオブ)・・・」

 

右手を上げる。宝剣聖剣魔剣聖槍魔槍・・・さまざまな宝具の原典が空中に待機する。

 

財宝(バビロン)ッ!」

 

地面に突き刺さっていく宝具たちは落とし穴を隠すカモフラージュを吹き飛ばし、落とし穴を白日の下へ曝け出す。

 

「・・・こんなに作ってたのか。全く、二人とも懲りないんだから・・・」

 

落とし穴を埋めつつ、地面を平らに整地していく。

後で、それとなく注意しておくか。

 

・・・

 

「ギルさんっ、大変なんですっ」

 

「どうした、月」

 

慌てた様子でこちらに走ってきた月を落ち着かせて、話を聞いてみる。

何でも詠についての話らしいが・・・。

 

「あの、信じられないかもしれませんが・・・詠ちゃんは、不幸を溜め込む体質なんです」

 

「・・・ほほう」

 

周りの不幸を肩代わりしている、ということだろうか。

おおむねそんな認識で間違っていないらしい。

そして、その溜め込んだ不幸が辺りに撒き散らされることがあるらしい。

 

「で、それが今日だと?」

 

「・・・はい」

 

もうすでに、それらしき現象がいくつか起きているらしい。

空腹で倒れた恋を介抱していた詠と響が、ねねの持ってきたお茶を掛けられ服をびしょびしょにされたこと。

その後、着替えた詠が紫苑とぶつかり、メイド服が少し破れてしまったこと。

それを紫苑に直してもらった後、部屋から出るときに璃々とぶつかりそうになり、紫苑の手を掴もうとして服を掴み、びりびりに破いてしまったこと。

その余波で、璃々のお菓子が抜きになったこと。

 

「・・・なるほど」

 

詠から月が聞いた話はそれだけらしいが、今また何か不幸な現象を起こしているのかもしれない、と月は締めくくった。

 

「それで、ギルさんにお願いなんですけど・・・」

 

「ん?」

 

「ギルさんの能力で、幸運って高いですよね?」

 

「・・・ああ、そういうことか」

 

不幸が溜まり、詠の近くに降りかかるなら、それを相殺するように幸運の高い人が一緒にいればいい。

月はその考えに至り、俺に詠の手助けを頼むために探していたらしい。

 

「いいよ。他でもない詠のためだ。そのくらいならお安い御用だ」

 

「・・・気をつけてくださいね」

 

・・・え、そこまで覚悟が必要なこと!? 

 

・・・

 

詠を見つけるために人づてに目撃情報を聞いていると、荀彧が新しく掘っていた落とし穴に春蘭が落ちたとき、近くに詠がいたり、荷物を届けにきた業者が荷台を引かせていた牛が倒れてしまったときに詠が近くにいたり・・・。

何か不幸な出来事が起きた場所をたどっていけば、必ずと言ってもいいほど詠の目撃情報があった。

とりあえず、詠には近づかないようにすること、と軍部に通達し、将や兵に近づかせないようにした。これ以上、犠牲を増やすことは無い。

一刻も早く合流して、詠の不幸を何とかしないと・・・。

 

「あわわ、ギルさん、大変ですっ。軍師会議で、皆さんが・・・!」

 

城の通路の向こうから走ってきた雛里があわあわと慌しくまくし立ててきた。

 

「落ち着いて、雛里。深呼吸をしてくれ」

 

「は、はひっ、す、すぅ、はぁ・・・すぅ、はぁ・・・」

 

数回の深呼吸で落ち着いた雛里は、ゆっくりと話し始める。

さして重要な軍議ではなかったため、お菓子でもつまみながら話し合おうということになったらしい。

ところが、そのお菓子やお茶がまずいことになっていた。

お茶はめんつゆに、肉まんは中身が入っていないスカスカなものになっており、煎餅はかなり古くカチカチになったものだった。

雛里は小腹が空いていたため、事前に少し食事を取っていたらしい。そのため、お菓子に手をつけることなく無事だったのだが、他の軍師は軒並みノックダウン。

なぜか放心しているという詠を残して、助けを求めに雛里は走っていたとのことだ。

 

「分かった、会議をしていた場所へと案内してくれ」

 

「はいっ。こちらです」

 

そう言って走る雛里の後ろについていく。

そのまま軍議を開いているという部屋の前に着くと、声が聞こえてきた。

先に月が何人かを連れてここに来ていたらしい。

 

「近づかないほうがいいわよ。あんたたちもこうなりたくなければ・・・ね」

 

なんだ、立てこもりの犯人みたいな事言ってるぞ、詠。

 

「詠ちゃん、もしかして・・・」

 

「ええ。やっぱり、あれみたいね。久しぶりだから、かなりやばいかも」

 

「ふむ・・・詠よ、不幸体質とは本当なのか?」

 

月に続いて、星が詠に質問する。

詠はもうあきらめた、とでも言うような口調で

 

「これを見たら分かるでしょ。これが不幸体質なのよ」

 

扉を開け、中に入ると、自嘲するかのような表情をしてそう言っている詠がいた。

 

・・・

 

あの後逃げるように去って行った詠。

それを追うより先に、軍師たちの介抱をする必要があった。

武官と違って体が弱いからな。もしかしたら長引く可能性もありうる。

 

「華佗からいろいろと貰っておいてよかった」

 

龍を素材とする薬を飲ませつつ、月に話しかける。

 

「月、詠のこれからの予定は分かるか」

 

その問いかけに、月ではなく星が答える。

 

「む、それならこれから私たちと訓練だったはずだが・・・」

 

「・・・星、急いで訓練の中止を伝えて来い」

 

「了解した」

 

そういうと、星は軽い足取りで走り去っていく。

あの速さなら、詠を追い抜いて先に撤収させる事も可能だろう。

 

「よし、大体大丈夫だな。後は任せたぞ、月、荀彧、雛里」

 

「はい」

 

後は三人に任せて、俺は詠を追う。

 

・・・

 

・・・体質の事を完全に失念してたわね。

 

「ふぅ、しばらく無かったからなぁ」

 

いつからだろう。確か、最後に溜まった不幸が降りかかってきたのは・・・ギルがくるちょっと前ね。

という事は、かなり溜め込んでるんじゃないかしら。

でも、あれだけの数の軍師に不幸が降りかかったわけだし、おそらくアレは終わったわね。

 

「・・・他の軍師たちの代わりに訓練を見に行かないと」

 

みんなの分まで働いて、汚名返上よっ。

 

「なに、朱里がっ!? ・・・それは恐ろしいな」

 

「うむ。私も最初は笑っていたのだが、あの惨状を見ると、流石に眉唾とは思えん」

 

訓練をしている場所へと着くと、愛紗と星がなにやら話し合っていた。

 

「何やってるの。訓練中に兵士を放っておいて雑談なんて」

 

「こ、これは詠!? ど、どどどうしたのだ?」

 

「噂をすれば影。・・・なるほど、恐ろしいな」

 

「なによ。何の話?」

 

私が聞くと、二人は顔を見合わせていや、なんでもないぞ、と口を合わせたように答えた。

・・・二人が後ずさりしているように見えるんだけど、それは気のせいなのかしら。

ためしに一歩近づいてみる。

 

「・・・」

 

ずざっ、と近づいた分だけ離れる二人。

 

「・・・」

 

もう一歩近づく。同じ分だけ二人は離れる。

 

「ははは、どうした、詠。そんなに怖い顔をしていると、鬼も逃げてしまうぞ?」

 

「うむ。娘はやはり笑顔が一番だと思うのだがな」

 

「ええ、ボクもそう思うわ。・・・ねえ、何でさっきから距離が縮まらないのかしら」

 

良く見ると、ボクが近づくと、将軍である二人だけじゃなく後ろの兵士たちも同じ分だけ後ずさっている。

・・・どう見ても避けられてるわね。

 

「あ、あいたたた。急にお腹の調子が・・・」

 

「む、大丈夫か星。これはいかん、訓練どころではないようだな」

 

「・・・ちょっと。将軍が仮病でずる休みなんて士気にかかわるわよ? ちゃんとなさい!」

 

「む、兵の皆も腹の調子がおかしいらしい。先ほど食った肉まんにあたったのだろう」

 

そう言って星が目配せすると、兵士たちもお腹を抱え始める。

仮病だって言うのがばればれで、バカバカしくなってくる。

 

「む? ・・・う、うぐ、何だこれは・・・まさか、本当に・・・?」

 

「これでは訓練にならないな。今日はこれにて終了とする!」

 

そう言って兵士たちに解散を宣言すると、蜘蛛の子を散らすように走り去っていく。

・・・馬鹿ね、もう不幸は終わったのに。って、知らない人には分かるわけもないか。

 

「はいはい。邪魔者は消えるわよ。ふんだ!」

 

そう言って背中を向けた私は、演技ではなく、本当に腹痛に襲われている二人を見る事はなかった。

 

「う、うぅ・・・っ。愛紗、私はこれで失礼するっ」

 

「え? ・・・ちょ、ちょっとまて、私もお腹が・・・!」

 

・・・

 

お腹を抱えながら疾走する星と愛紗を見つけた。

 

「星、愛紗! 詠は!?」

 

「分からん。どこかへ去っていった。・・・いつつ・・・!」

 

「すみませんギル殿、失礼しますっ」

 

そう言って、二人は走り去っていった。

・・・詠、まだ不幸が残ってるのか・・・。

とりあえず、詠の性格からして城から出ているはずだ。

城の中には詠の体質の事を知っている人たちばかりだからな。

って、街に出たらさらに被害が広がらないか・・・!? 

 

「まずいな・・・間に合えよ!」

 

街へ出て大きい通りを走ると、詠と凪が話しているのが目に入った。

周りには・・・頭上の籠から・・・蛇が落ちそうになってる!? 

 

「おっちゃん、この籠借りるよ!」

 

「ええっ!? ギル様、いったい何を・・・!」

 

『幸運にも』近くにあった空の籠を引っつかむと、凪の頭上に構える。

どさどさ、という感覚と共に、落ちてきた蛇が籠へと入ってくる。

 

「すいませーん! 食用の蛇を落としちまいましたー!」

 

「ああ、こちらで受け止めた! 気をつけてくれよー」

 

「ギルっ!?」

 

「ぎ、ギル様っ!?」

 

「ふー。危なかったな」

 

驚く二人を尻目に、持ち主に蛇と籠を返す。

 

「悪いな、いきなり。凪は街の巡回に戻ってくれ。ほら、あっちから沙和と真桜が来てる」

 

「は、はいっ。それでは、失礼します、詠さん、ギル様!」

 

少し緊張した面持ちで去っていく凪を見送り、詠のほうに振り向く。

 

「ようやく見つけた。全く、探したんだぞ」

 

「ボクの事、聞いてないの?」

 

「聞いてる。不幸が降りかかる一日があるんだって?」

 

「・・・なら、離れてなさいよ。あんたも、不幸になるわよ」

 

「ならん。なぜなら、俺の幸運ランクはA++だからな」

 

「なにそれ」

 

くすり、と笑みを浮かべる詠

 

「とりあえず、城に戻るわ。まだ不幸が終わってないなら、町にいるわけにはいかないもの」

 

「ああ、そうしようか」

 

城へと戻り、東屋で休憩しようとすると、兵士から声を掛けられる。

 

「ギル様ー!」

 

「ん?」

 

声の聞こえてきた方向に身体を向けようと立ち止まると、べちゃっ、と何か液状のものが落ちた音がした。

恐る恐る視線を向けてみると、目の前に鳥のフンが落ちていた。・・・危ない。『幸運にも』呼び止められてなければ、直撃してたな。

 

「・・・どうした。って、蜀の」

 

「はい。これを渡すように、と諸葛様から・・・」

 

「あ、ああ。ありがとう」

 

「それでは!」

 

そう言って去っていく蜀の兵士。

 

「なに、それ」

 

「ん? 分からない。たぶん、町の整備がらみだと思うんだけど」

 

「ふぅん・・・」

 

詠からの質問に答えながら、東屋を目指す。

・・・近くにみんなの気配を感じる。

たぶん、巻き込まれないようにしながら詠の不幸が終わるのを確認するつもりだったんだろう。

 

「あ、着いたぞ、詠」

 

「そうね。なんだか、今日は朝から慌しかったから座るのが久しぶりな気がするわね・・・」

 

そういいながら、ベンチのような椅子に座る詠。

俺も詠と卓を挟むようにして背もたれの無い長椅子に座る。

 

「それにしても、助かったわ。あんたみたいなのがいれば、不幸も何とかなりそうだし」

 

「そうか? 詠にそう言ってもらえるなら、助けにきた甲斐があったな」

 

「・・・全く、そういうこと、真顔で言うんじゃないわよ。馬鹿」

 

「ははは、ごめんごめん」

 

それから、詠の不幸体質がいつから始まったのか、なんて話をしながら時間をつぶしていると

 

「ギールーさーんー!」

 

「どうっ!?」

 

背後から誰かにタックルされた。

それによって机に突っ伏すように倒れこむ。

強かに顔面を打つが、全く痛くない。・・・でも、びっくりしたぁ。

 

「危ないのだー!」

 

そして、その直後。

先ほどまで俺の頭があったであろうところに、何かが飛んできた。

ずどん、と鈍い音が聞こえるが、何があったのかは分からない。

 

「ねーねー、なんか今日私お茶被ってから微妙に不幸なんだけど! さっきも水汲みの途中で転んじゃってー!」

 

「きょ、響か? ああ、うん、わかったから、とりあえずどけてくれ!」

 

背後で騒ぐ響と何故か震えている詠。何だこのカオス空間。

鈴々がごめんなのだー、と謝って近づいてくる足音が聞こえる。

そんな中、ようやく身体を起こすと、次は思いのほか背中の響が引っ張る力が強く、仰け反るように後ろに傾いた。

 

「おっとっと」

 

何とか倒れないように耐えていると、目の前を高速で何かが通り過ぎていく。

 

「・・・ボク、今すごいものを見たわ・・・」

 

「ふぅ、ほら響、どうしたんだ?」

 

何とか体勢を建て直し、呆然としている詠を尻目に響から話を聞く。

 

・・・

 

「・・・ねえ、今のって・・・」

 

草むらの影から、桃香が半ば呆然としながら口を開く。

 

「・・・ええ、響がギル殿に飛び込んだ瞬間、ギル殿の頭があったところに鈴々の蛇矛が吹っ飛んできて、柱に突き刺さりましたね」

 

「しかも、その後後ろに引っ張られて仰け反ったときに、鈴々ちゃんが振り回した蛇矛がお兄さんの目の前通っていったよね・・・」

 

「あれは、仰け反っていなければ直撃していましたね」

 

「・・・『幸運にも』、響が飛んでこなければギル殿は・・・」

 

「へぅ、ギルさんの幸運は、やっぱりすごいです・・・」

 

「えーっと、らんくえーぷらすぷらす、っていうのだったよね。それってどのくらいなの?」

 

「ええっと、確か基本の値をを1としたら、えーぷらすっていうのは、ええっと、えーが50で、ぷらすぷらすの効果で三倍まであがりますから・・・」

 

「普通の人の150倍の幸運!?」

 

「袁家ですら勝負にならない位の幸運ですね・・・」

 

全員が驚きながら再びアーチャーを見る。

 

「・・・まぁ、納得だよね」

 

「月、もしよければ、今度ギル殿のすべての能力値を教えてくれないだろうか」

 

「ええっと、ギルさんに許可を得るなら、全然大丈夫ですけど・・・」

 

ほんとに聞くんですか? と視線で訴えてくる月に、愛紗はゆっくりとつぶやく。

 

「・・・うむ、覚悟して聞くとしよう」

 

・・・

 

「でねでね、もうハサンがいなかったら私今頃六着ぐらい着替えてたんだよー・・・」

 

背中に飛び込んできた響は、それからというものマシンガントークを続けていた。

俺と詠は時たま笑いながら話を聞いていくんだが、さっきの鳥のフン以来不幸は起きていないようだ。

 

「・・・詠」

 

「うん、もう終わったみたいね」

 

安心したように笑う詠に笑顔を返しながら、俺は響を慰める。

 

「ほら、響。そろそろ部屋に帰ろうか。日も暮れてきたし、身体も冷えるぞ?」

 

「・・・うん。もう帰るぅ」

 

すっかり凹んでしまった響をつれて、俺は詠と共に城の通路を歩く。

さて、いろいろあったが、これで詠の不幸な一日は終わったと思っていいだろう。

 

「詠、これからは不幸の日になったら俺のところに来るんだぞ?」

 

「ええ、もちろんそうするわ。あんたの幸運、馬鹿に出来ないってわかったしね」

 

・・・




「おにーさん、容赦ないですねー」「そりゃあ、勝負だからな。負けるわけにもいかないだろう」「顔面にあたったのは痛そうでした~」「あー、後で一刀には謝っておくよ」

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