真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「合コンといえば!」「王様ゲーム!」「王様おーれだ!」「さっすが英雄王!」「・・・ちょっと楽しいな」「少しだけな。ストレス解消にはなる」「確実に他人には見せれないけどな、このストレス解消方」「封印、するか」


それでは、どうぞ。


第四十八話 みんなで合コンに

「あっ、ギル! ちょっと助けてくれよ!」

 

警備の仕事中、一人で歩くギルを見つけて声を掛ける。

こっちに気付いたギルは、何だ? と気さくに近寄ってきた。

 

「いや、こいつらがさ・・・」

 

そう言って、隣に立つ兵士たちに視線を移す。

 

「兄貴からも何とか言ってくださいよ!」

 

「待て待て、何があったんだ? 一刀、説明求む」

 

「ああ、実はな」

 

そう言って、俺はギルにことの顛末を説明する。

話が進むに連れて嫌そうな顔になっていくギルに苦笑しつつも、最後まで説明しきる。

 

「・・・合コン、ねぇ」

 

「まぁ、端的に言うとそうだな」

 

そういうと、ギルは兵士たちのほうへと視線を向けて、はぁ、とため息をついた。

 

「ちょっと待ってろ」

 

ギルはきょろきょろと周りを見回して、すたすたと歩いていった。

その視線の先には、三人ほどでお茶をしている町の女の子だ。

 

「あの、ギルの兄貴はなにを・・・?」

 

「さぁ・・・あ、女の子に話しかけに行きましたよ!」

 

「あれは・・・将の方たちではないですね。見たことが無いです」

 

話しかけられた女の子たちもびっくりしてるみたいだから、初対面なんだろう。

ギルは一言二言話しかけると、自然に一緒に席に着いた。

 

「・・・あの、兄貴は待ってろっていってたッスよね? ・・・みせつけてんスかね」

 

「あ、兄者! 俺、兄貴に対して黒い感情が・・・!」

 

「弟者、俺もだ・・・!」

 

や、やばいぞ! 兵士たちが殺気立ってる!

何だってギルはあんな俺たちを煽るようなことを・・・。

しばらくの間、兵のみんなを抑えていると、話し終えたらしいギルが戻ってきた。

俺たちが何かを言うより早く、ギルが口を開く。

 

「今日の夜、日が暮れたあたりにあそこの飲み屋な」

 

「・・・は?」

 

主語の抜けている言葉に、全員でハテナマークを頭上に浮かべる。

 

「いや、合コン。したいんだろ? 今セッティングしてきたから」

 

「はぁ!?」

 

「え!? 今のは兄貴の知り合いで!?」

 

「いや、初対面。何か暇そうにしてたし。人数は合わせてくれるって。良かったじゃん」

 

「いやいやいやいや! おかしいッス! ・・・あれ、おかしいんスよね!?」

 

「大丈夫です、魏の。私もおかしいと思っています」

 

全員でギルに詰め寄ってみるも、ギルは何がおかしいんだ、とばかりに首を傾げるばかり。

・・・これが・・・! これがギルの実力・・・!

 

「・・・何を戦慄してるか知らないが、行かないのか?」

 

そしたら俺ひとりになるんだが、と困ったように笑うギル。

・・・多分ギル一人になっても恋人増えるだけで問題ないような気も・・・。

 

「い、行くッス!」

 

「兄貴が折角下さった機会! 逃すわけにはいきません!」

 

兵士全員でわーわーと騒ぎながらギルを囲む。

ばんざーい、だとかさっすがー、だとか、道の真ん中なのに騒いでいた。

 

「はは、まぁ良く分からんが・・・集合には遅れるなよ」

 

そう言って、ギルはじゃーなー、と去っていった。

 

「・・・兎に角、時間には遅れないようにしないとな」

 

・・・

 

取り合えず、合コンがしたいとか言う兵士たちのために女の子を集めるのには成功した。

初対面の女の子にそんな事頼んで大丈夫かとも思ったが、まぁ嫌な顔はされなかったし、大丈夫じゃないかな。

 

「どうしたんですか、ギルさん。そんなに私を見て・・・」

 

「ん、いや、今日も月は可愛いなぁと」

 

「そ、そんな、えへへ・・・照れちゃいます」

 

頬に手を当てて照れる月を撫で、何とか誤魔化せたかと一息。

 

「ああ、そうそう、今日はちょっと一刀たちと飲んでくるよ。遅くなるから、今日は詠と先に寝ててくれ」

 

「分かりました。・・・えと、このお部屋で寝てても良いですか?」

 

「別に構わないけど・・・帰ってきたときに起こすかもしれないぞ?」

 

「全然構いません! む、むしろ起こされたほうが・・・その」

 

てれりこ、と頬を染める月。

起こされた後、何をされるかまで分かってるんだろう。

というか、何かされたいんだろうなぁ。

 

「ま、いいや。取り合えず仕事も終わったし・・・行ってくるよ」

 

「はい。楽しんできてください」

 

手を振って見送ってくれる月に若干の後ろめたさを感じながら、合コンの会場へと向かった。

 

・・・

 

全員集合して、店の中へ入る。

男性女性で分かれて座り、何はともあれと自己紹介タイムだ。

俺の浅い合コン知識では、自己紹介と席替え、それと王様ゲームは必ずこなさなければならない必須イベントのはずだ。

七人の女性が、端から自己紹介をしていく。うんうん、みんな元気そうで良い娘たちだ。

 

「ヨウコです! 今日はよろしくね!」

 

「メイですぅ。よろしくね~」

 

「あははー、私、マミっていいます!」

 

「始めまして、ハルですっ」

 

「どうもー! ミカでーっす!」

 

「アケミでーす!」

 

「モモです。えっと、よろしくお願いしますねっ」

 

「ギルでーっす!」

 

「ちょっと待て! なんでギルがそっち(女性)側にいるんだよ!」

 

女性たちと一緒に自己紹介すると、何故か突っ込まれてしまった。

しょうがないじゃないか。女性側が一人少ないんだからさ。

 

「何が気に食わないんだ。・・・ああ、そういうことか」

 

うんうんと頷く俺に、一刀はほっと息をついた。

 

「分かってくれたなら・・・」

 

「☆が足りなかったんだな。こほんっ・・・亞茶でぇーっす☆!」

 

「イラッ」

 

「お、落ち着いてくださいっ」

 

気合を入れた俺の裏声にイラついたのか、がたん、と立ち上がりかけた一刀を、蜀のが慌てて止める。

女性たちはおもしろーい、と笑うくらいだから、別段問題はないだろう。

 

「さて、男のほうも自己紹介しようか。じゃあ、俺から改めて。亞茶だ。よろしく」

 

「あーっと、じゃあ次は俺かな。俺はほんご・・・じゃなくて、えーっと、か、カズだ! よろしくな!」

 

ちなみに、顔が知られすぎている俺と一刀は変装中だ。

町の人たちと同じような服を着て、俺は髪型を弄り、一刀は伊達メガネを装備している。

その上にキャスター直伝の認識を逸らす魔術も使っているので、女性たちに気付かれることはないだろう。

 

「・・・ちなみに、女性たちの名前はプライバシー保護のため変更してあります。ご了承ください」

 

「何言ってるんだよ、ぎ・・・亞茶」

 

一刀の冷たい目線をあえて気にしないようにしながら、説明する。

これから先、あまりにも現代っぽい女の子たちの名前、言動、それから注文する商品など、『何故か』現代で合コンしているような雰囲気になりますが、お気になさらず。

 

「取り合えず人数分のお酒とつまみか。すいませーん」

 

一応幹事である俺が場を仕切る。

全員から飲み物の注文を受け、後は適当におつまみ、と頼む。

客が俺たちしか居ないからか、酒と軽いつまみはすぐにやってきた。

 

「みんなにいきわたったら、乾杯しようか。かんぱーい」

 

全員が乾杯の声を上げて、最初の一口。

まぁ、それからは俺が話を振ったりして兵士たちと女性を仲良くさせるように振舞う。

月たち侍女から聞いた話や、兵士たちの良い所なんかを話してみると、中々好感触だ。

 

・・・

 

みんなそれなりに酔いが回ってきたころ。

俺はよし、と一人頷いて口を開く。

 

「そろそろ、席替えしようか」

 

「お、いいッスね~!」

 

「さんせー!」

 

男女共に賛成が取れたので、席順をくじで決めなおす。

うんうん、中々良い席順になった。

俺と一刀は今回は残念ながら女性と仲良くなるのではなく兵士たちと仲良くさせるのが目的だ。

 

「それでですね・・・」

 

「えー!? そうなのー?」

 

「いやー、綺麗ッスよねー!」

 

「あははー。きみもカッコイイよ!」

 

よし、順調だ。マンツーマンくらいにはなってるか。

一人余る計算だけど、それは一刀に押し付けよう。

俺はみんなが盛り上がってるのを見て酒を飲んでるだけで・・・。

なんて思いながら杯を傾けていると、声を掛けられた。

 

「ありゃ? たいちょー?」

 

「は?」

 

聞こえてきた声のほうへと視線を向けると、そこには副長が。

・・・は?

 

「あ、そういえば天の御使いさんと飲みに行くって月さんから聞い・・・合コン?」

 

怪訝そうな顔をした副長は、こちらの卓を一通り見渡しそういった。

こいつ・・・! 一瞬で状況を把握しやがった!

 

「あの、隊長まだ恋人足りないって言うんですか・・・?」

 

しかも俺が欲求不満みたいな言い方しやがった!?

 

「ちょっと来い!」

 

「ひゃうんっ!?」

 

副長の腕を取って厠まで。

 

「お前、なんでここに?」

 

「いや、私には仕事終わりの一杯の権利すらないんですか!?」

 

「あー・・・そうだよなぁ。お前遊ぶ友達居ないプロぼっちだからなぁ」

 

「プロぼっち!?」

 

ぼっちにプロとかアマとかあるんすかたいちょー! と副長が騒ぐ。

あるに決まってるだろうが、プロぼっちめ。

というか、まずはぼっちを否定しろ。

 

「取り合えず、副長帰れ」

 

「ちくる」

 

俺の言葉を聞いた副長は、ぼそりと一言呟いた。

 

「は?」

 

「・・・いまかえったら、ゆえさんに、ちくるもん」

 

あー、拗ねた。

人差し指をつんつんと合わせながらぐずる副長を前に、どうしようかと腕を組む。

口八丁手八丁で返したとしても、きっと月には情報が行くだろう。

そうなると黒月降臨以外の未来が見えない。

 

「わたしもさんかするもん。かんしするもん」

 

「あー・・・」

 

うん、無理だ。上手い解決法が浮かばない。

しかし、正直この副長が可愛いと思い始めているのでもうちょっと見ていたい気もする。

 

「分かったよ。仕方ないな。でも変装しろよ?」

 

「了解です。・・・先、戻っててください」

 

説明忘れないでくださいね、と念を押してくる副長に返事をして席へと戻る。

どうしたの、と言いたげにこちらを見てくる参加者たちに事情を説明する。

 

「えーっと・・・その、俺の知り合いが一人、偶然店にきててな。参加したいって言ってるんだが・・・」

 

話を切り出してみると、意外とみんな歓迎しているようだ。

・・・チッ。ここで反対してくれると帰せたんだが。

 

「こんばんわー」

 

まるで話を聞いていたかのようにバッチリなタイミングでやってきたのは、十二単に身を包み、天の羽衣をっておい!

 

「ちょっとこい!」

 

「ひゃうっ!?」

 

また厠に逆戻りである。

しかし、こうして何度も厠前で騒いでいると迷惑をかけてしまうな。自重せねば。

 

「なんでそれをチョイスした!?」

 

「勝負服ですし・・・二つの意味で。どやぁ」

 

「上手いこと言おうとしないで良いから」

 

ごつん、と副長の頭に拳骨。あと、口で「どやぁ」とか言わない。

というか、豪華絢爛十二単に天の羽衣とか他の参加者が霞む。二つの意味で。

 

「お前、他に服無いの?」

 

「うぅ、他に道具が入る服は・・・」

 

「だからその判断基準はやめろ! ・・・仕方ねえな」

 

妙なことを口走り始めた副長を止めつつ、宝物庫を開き、一通りの服を出す。

まぁ普通の町娘には見えるだろう。

 

「うぅぅぅ・・・ゆ、弓が入らない・・・つ、爪撃ちもぉ・・・どうしましょう、隊長ぅ」

 

「いや、入れなくていいから」

 

「そんな! じゃあ急に立体機動したくなったらどうすればいいんですか!」

 

「店内での爪撃ちの使用はお控えください」

 

「隊長が他人行儀に!?」

 

ようやく自分の言動の不味さに気付いたのか、慌てて着替えを終わらせる副長。

 

「ほら、行くぞ」

 

・・・

 

「何度もすみませーん。えーっと、かぐ・・・じゃ無くて、ヒメでーっす!」

 

副長の偽名候補は『副長(ふくなが)』やら『ぐや』だとか『グリーン・デイ』だとか色々あったが、『かぐや姫』から『ヒメ』となった。

まぁあながち間違っては居ないし、問題はないだろう。

 

「ヒメちゃんってお仕事何してるのー?」

 

早速女性の一人から質問が。

もう一人の女性から撫で回されつつ、副長は元気に答える。

 

「はい! 犯罪者を追いかけて斬りころ・・・じゃないや。逮捕してます!」

 

「じゃあ、お城で働いてるんだ!」

 

女性陣からはすごーい、と褒められ、兵士たちからはあんなの居たかと首を傾げられる。

はっはっは、今の副長は俺の見立てた服に身を包んだ町娘モード! 見破られるかよぉ!

 

「あははー。まぁ、楽しい職場ですよ」

 

「へー、そうなんだぁー!」

 

それから副長中心に話は弾み、全員がわいわいと騒ぎ始めた。

うんうん、さっきプロぼっち認定したけど、もうぼっち卒業かな。

しばらくして、若干場が落ち着いてきた頃、女性陣が化粧室へと向かっていった。

・・・ふむ、ちょっと遅いが、品定めタイムだろうか。

 

・・・

 

「で、ヒメちゃんは誰がいいと思うの?」

 

ここは女性用の化粧室。私は他の参加者の人たちとお化粧を直しながら会話をしています。

なるほど、ここならまかり間違っても男性が来ることはありませんし、こういうお話をするにはぴったりですね。

 

「私はたいちょ・・・亞茶さん以外に興味ないです」

 

「そ、そうなんだ。・・・知り合いなの?」

 

「まぁ、職場の上司ですね」

 

「上司!?」

 

だからちょっと気まずそうだったんだねー、と納得したように頷く女性たち。

そんな彼女たちに、それで、皆さんはどうなのでしょう、と聞き返してみる。

・・・隊長狙いの方が居たら、申し訳ないんですけど天の羽衣で記憶操作させていただきます。

え? 何処につけてるのかって? ・・・ははっ。隊長には内緒ですけど、天の羽衣は透明にも出来るんですよ。

使用者以外に見えないようになってるんです。

いつでも記憶操作が出来るようにしながら他の女性たちの話を聞いていると、奇跡的に隊長を狙っている方は居ませんでした。

まぁ、話を聞くに今回は盛り上げ役に徹していたそうですし、仕方が無いといえば仕方ないのですが・・・。

っていうか、皆さん狙いがそれぞればらばらなんですね・・・それも奇跡です。

 

「なーんかなぁ・・・」

 

「ん? どしたの、ヒメちゃん」

 

「なんでもないです。ま、皆さん狙いは被ってないようですし、良かったですね」

 

「そだねー」

 

それから、全員が情報交換をした後、卓へと戻ることになりました。

・・・隊長の隣、確保しておかないとなぁ。

 

・・・

 

作戦会議から戻ってきた女性陣は、狙いを完全に絞ったらしい。

完全にマンツーマンになっているようだ。

俺? ・・・俺は、ほら。

 

「たーいちょ、飲んでますー?」

 

「飲んでる飲んでる。酔った振りして絡んでこなくても構ってやるから」

 

そう言って副長の頭を抱き寄せる。

驚いたような声を上げたが、素直にこちらに寄りかかってきたので、正解だったのだろう。

・・・それはそれとして、そろそろお開きにするべきだろう。

ま、この後は兵士たち次第ということで。

 

「そろそろお開きにしようか。この後は、まぁ・・・それぞれで」

 

全員から了承の返事を聞いて、会計を済ませる。

まぁ、人数で割れば文句も出ないだろう。仕方が無いから、副長の分は出しておくとしよう。

 

「あ・・・えと、たいちょ、どもです」

 

「はは、今月も金欠なんだろ? この分は仕事で返せよ」

 

「りょーかいですっ。あ、あと、えと、よ、夜の分でも返せませんかね・・・?」

 

「恥ずかしいなら言わなきゃ良いのに」

 

合コン参加者に別れを告げ、城へと戻りながらそんなやり取りをする。

落ち着かない、という理由から町娘モードからいつもの勇者服へと変わっているが、それでもやり取りはいつもと変わらない。

 

「あ、そうだ。明日の訓練には十二単の方で来いよ?」

 

「ふぇ?」

 

「アレの属性別耐性を確かめるから」

 

「まぁ、いいですけど・・・半端なものは全て遮断しますよ?」

 

「そこは大丈夫。安心して・・・いや、心配したほうがいいのか・・・?」

 

「きゅ、急に不安になってきたんですけど・・・?」

 

こちらを見上げてくる副長を安心させるように撫で、安心させようと口を開く。

 

「死にはしない」

 

「死ぬ寸前くらいまではいくってことですね!?」

 

あれ、間違ったかな。更にがたがた震え始めたぞ。

 

「えーと、うん、そう、予想を超えてなければ痛くないから」

 

何とか宥めたころには、副長の部屋の前まで来ていた。

寄って行きます? と聞いてくる副長にすまないけど、と事情を説明する。

渋々ながらも納得したらしく、おやすみなさい、と挨拶された。

 

「お休み。また明日な」

 

「はい。また、明日」

 

・・・

 

「ギールっ。こっちこっちー!」

 

「分かってるって。前向いて走れー、転ぶぞー」

 

「その時は助けてよねー」

 

水着姿ではしゃぐシャオの後ろを歩きながら注意するが、まるで聞く耳持たないようだ。

プールサイドで走るなというのはいつの時代も守られないようだ。

もしすってんころりんされても俺は鎖を射出するくらいしか出来ないぞ?

水着でそれは痛いと思うのだが。

 

「いつ来ても不思議な場所よねー。あっ、滑り台いこっ、ギル!」

 

「おーう」

 

もう秋に突入して、厚着の人も増えてきたというのに、ざぶーんはいつでも大盛況である。

むしろ温水プールなのでこれからの季節も来場者は絶えないことだろう。オーナーとして、とても喜ばしいことである。

シャオが滑り落ちたりしないように一段一段注意しながら階段を上ると、すぐに龍の形をしたウォータースライダーの入り口へとたどり着く。

うん、ここに来るのは何度目だろうか。璃々やら鈴々やら、色んな女の子を膝の上に乗せて滑った記憶がある。あの時は大変だった。色んなところが。

 

「さ、ギルっ。座って?」

 

「はいはい」

 

予想通り、シャオも俺の膝の上に乗って滑るらしい。

よっこいしょ、と滑り台の入り口に腰掛けると、シャオが軽い足取りで俺の脚の上へ。

背中を俺に預けてくるシャオのお腹に手を回し、少し勢いをつけて滑り出す。

 

「わわっ、きゃー!」

 

「おぉーっ」

 

結構な勢いで滑るが、シャオは全然平気なようだ。

もし現代でシャオと遊ぶことがあったら、遊園地に連れて行くことにしよう。

・・・え? 何に乗せる気かって? 決まってるだろうに。

 

「きゃー・・・わぷっ」

 

「よっと」

 

水面に着水。で、沈みかけるシャオを救出。

ここまでがウォータースライダーに乗ったときのテンプレである。

俺たちが滑った後からも子供たちやカップルが続々と滑り降りてくる。

やはり物珍しいのか、ウォータースライダーはざぶーんの目玉アトラクションだ。

まぁウォータースライダー以外には流れるプールと普通の25メートルプールしかないのだが。

 

「あっ、浮き輪だって! 借りてこよっ」

 

「おー」

 

受付で浮き輪を借り、流れるプールへ。

シャオを浮き輪の上に座らせ、ゆったりと流れるプールを楽しむ。

 

「んーっ・・・! 何か、こうやってぼーっとするのも良いものね」

 

「はは、俺もこういう時間は好きだな」

 

「そう? じゃあ、やっぱりシャオとギルは相性バッチリなのね! どう? 今からでも全然大丈夫だよ?」

 

「大丈夫って・・・衆人環境の中は厳しいだろ・・・」

 

俺がそう返すと、シャオは真っ赤になってしまった。

 

「ちっ、違うっ。今からっていうのは、今からお城に戻ってしても大丈夫ってことで・・・ああもう! なんでこんな恥ずかしいこと説明しないといけないの!?」

 

「怒られても」

 

「怒ってない!」

 

いや、それは厳しいだろ。

完全に頬を膨らませている時点で、怒っているじゃないか。

 

「いくらシャオだって時と場所は考えるもん!」

 

「そ、そうか。そうだよな」

 

「あーっ、何その顔ー! 絶対『その通りじゃないのか?』って思ってたでしょー!」

 

「そんなことは無いさ。ははっ」

 

「目逸らしたー!」

 

そんな風にきゃっきゃうふふしていると、勢い良く身を乗り出したシャオがバランスを崩した。

浮き輪ごとひっくり返ったシャオを危なげなくキャッチする。

まったく、浮き輪の上で騒ぐからこうなるんだぞ。

 

「あ、う、ありがと・・・」

 

真正面から俺に抱きつく形になったシャオが、しおらしくなって礼を言って来た。

うん、お礼を言えるのはいいことだ。・・・だけど、そろそろ離れてくれないかなー、なんて。

 

「えー!? やーだよっ。折角ギルに抱きつけたんだもん。水の中じゃないと、顔の高さ合わせて抱き合えないでしょー?」

 

そう言って、手を俺の首に掛けたまま顔だけを離すシャオ。

俺と視線を合わせたシャオは、そのままこちらに顔を近づけ・・・ってちょっとまて!

 

「シャオ、バランス崩れ・・・っ!」

 

「んー・・・ふぇっ!?」

 

水の中でシャオを抱きとめていた俺は、シャオに体重を掛けられてあっさりと後ろに倒れてしまった。

二人とも勢い良く水中に沈み、一瞬視界が泡で塞がれる。

 

「――ッ!」

 

シャオを溺れさせるわけには、と意識をすぐに取り戻し、視線だけを巡らせてシャオを探す。

泡が視界から無くなった瞬間、目の前には飛び掛るように泳いでくる小柄な体。

俺に抱きつくように再び首に手を回すと、シャオは眼を強く閉じて唇を合わせてきた。

 

「――っ、っ」

 

「――――」

 

驚いて目をぱちくりさせる俺と、無言で微笑むシャオ。

水中なので喋れないのは当たり前なのだが、透明な屋根から差し込む太陽光が水面に揺らめき、シャオのその笑顔を綺麗に照らしていた。

 

「――――」

 

俺に抱きつき、唇を離して至近距離で見つめあっていると、シャオがパクパクと口を動かした。

この程度なら俺でも口の動きで何が良いたいのかは分かる。

ええと、何々・・・? あ、い、し、て、る? ・・・『愛してる』、ね。

口を開くたびに小さく洩れる泡を視界の端に捉えながら、にこりと柔らかい笑みを浮かべるシャオに言葉・・・じゃないけど、返事をする。

当然、『俺も』だ。

 

「っ!」

 

ぎゅう、と首に回した手に力を入れて、強く抱きついてくるシャオ。

どうやら、無事伝わったらしい。

・・・花嫁修業やらでシャオの気持ちは十分に分かったし、鈴々との一件で妙な葛藤も解決した。

もう、多分俺に迷いは無い!

 

「ぷはぁっ」

 

「ふぅっ」

 

しばらくして抱き合っていた俺たちは、息苦しさを感じてようやく水面へと上がった。

冷たい水の中でも、ずっと抱きついてきているシャオの体温だけは分かる。うん、俺の一部分も体温急上昇中である。

 

「シャオ」

 

「えへへっ、なーにっ、ギルっ」

 

「あっちの物陰行くぞ」

 

「・・・ふぇっ?」

 

「建設中に見つけたところでな。あそこなら客も従業員も来ない」

 

「え、ちょ、ちょっと待って! ギル! 色々吹っ切れすぎ!」

 

知るものか。やると決めたらやるのだ。

シャオを横抱きに抱えながら、俺は秘密の物陰へと歩みを進めた。

 

・・・

 

「け、計画とはちょっと違ったけど・・・うん、結ばれたんだし、いいよねっ」

 

ざぶーんを後にして城への帰路についていると、腕に抱きつくシャオがぼそりと呟いた。

どうやら何かの計画にずれが生じたらしい。

 

「でも・・・えへへー。ね、これでシャオもギルの奥さんだよねっ」

 

「ん? ・・・まぁ、そうなるのか」

 

「順番的には月とか詠とかには適わないけどー、気持ちは負けてないんだからねっ」

 

「はいはい。おっと、着いちゃったな」

 

「ホントだ。・・・ね、寄ってく?」

 

ぎゅう、と強く抱きつきながら、シャオがこちらを見上げて言う。

最近気付いたのだが、シャオがこうして抱きついてくるときは何かしら寂しさを感じているときだ。

・・・かといって言われるがままに部屋によっていくと、事の最中に雪蓮か蓮華辺りに乱入される未来が見えてしまう。

 

「んー・・・今日は最初だったし、疲れただろ。ゆっくり休んだほうが良い」

 

「え~っ!? シャオ、全然平気だよっ。さ、最初は痛かったけど・・・も、もう慣れたもんっ」

 

「いや、どうも後でもう一度波が来るらしいぞ」

 

「腹痛と同じ扱いなの・・・?」

 

首を傾げつつツッコミを入れるシャオに、なんだかこの子ツッコミ役似合いそうだな、なんて考えてしまう。

副長と一緒に並べておけば、丁度良いツッコミが出来るだろう。

 

「というわけで、今日は寝てなさい。焦んなくても、これから沢山時間はあるんだから」

 

「んー・・・。そうよねっ。えへへ、シャオは月たちに年齢で勝ってるもんね! 特にしお」

 

「馬鹿シャオ!」

 

「ふぇ? ひゃっ!?」

 

びぃん、とシャオの顔すれすれに矢が突き立つ。

・・・危なかったな。名前を言い切ってたら多分もうちょっとスレスレだったぞ。

 

「こ、これって・・・」

 

「ああ、完全にあの人だな」

 

「・・・下手なことは言わないことにするわ」

 

「それがいいと思うぞ」

 

何か疲れたから戻って寝るわ、と疲れたように部屋へ戻るシャオ。

最後に正面から俺に抱きついてすりすりとマーキングするように顔を擦り付けてきたので、頭を撫でる。

しばらくして満足したのか、ぱっと離れて部屋へと入っていく。

 

「じゃーねっ。また明日からも、いっぱいしようねっ」

 

「いっぱいは・・・難しいかなぁ」

 

シャオの元気な笑顔と言葉に、手を振りながらそう返すのが精一杯だった。

 

・・・

 

「話をしよう」

 

「どうした一刀、いきなり真剣な声を出して」

 

恒例となってしまった甲賀の家での茶のみ会に出席していると、急に一刀がそう切り出してきた。

机の上に肘を乗せ、両手を組んでその上に顎を乗せるという総司令スタイルの一刀は、俺の疑問にああ、と言葉を挟み

 

「胸の話を、しよう」

 

「すみません私は急用を思い出しましたのでッ!」

 

「ランサー、令呪によって――」

 

「分かりましたマスター! 分かりましたから令呪だけは!」

 

一刀の言葉に、急に立ち上がって部屋を出ようとしたランサー。

だが、甲賀が令呪を使う素振りを見せると、凄まじい勢いで反転して甲賀を止めに来た。

なんとも忙しない奴である。

 

「で、前はフェチの話、今回は胸の話か」

 

「ああ。まずは一番大切な・・・大きさの話から行こうと思う」

 

「大きさ、ねぇ」

 

「まぁ、ギルやら北郷やらは『好きな人の胸ならどんなのでも構わない』とか言うのだろうがな」

 

「あー・・・」

 

「そこは、俺たちも一応は好きな大きさを言うさ。今日だけはそういうどっちつかずはなしだ」

 

それならば、俺も好きな大きさを言わなければならないのか。

まぁ、好きな大きさを言っても、イコールそのほかの大きさが嫌い、というわけではないからな。

数多ある大きさの中で、どれが一番好きか、っていう話なんだから。

 

「じゃあ、まずは言いだしっぺの俺から行こうかな」

 

「ああ、どうぞ」

 

俺が先を促すと、一刀は少しだけ眼を閉じて考え込んだ後、口を開く。

 

「俺が好きな大きさは、真桜位の大きさだな」

 

「アレは・・・カップ的にはどれくらいなんだろうか。Hとか?」

 

「もうちょっとありそうな気もするけど・・・話を進めるために、Hくらいだと仮定しておくか」

 

そう言って、一刀は話を続ける。

 

「なんていうかさ、あの柔らかさに包まれる感じが良いよね。仰向けになったときにも重力に負けずに形を保つところとかさ」

 

「・・・なるほど、一刀は日々真桜とそういうプレイをしていると」

 

「ゔ・・・い、いや、恥ずかしがらないぞ! やっぱりぱふぱふは男の夢なんだって!」

 

「まぁ、否定はせんがな。やはり巨乳というのは素晴らしい。単なる脂肪の塊以上の価値がある」

 

「だろ!?」

 

甲賀の援護を受け、一刀がテンション高く声を挙げた。

 

「まぁ、挟めるし、揉んでもいいし、大きいって結構良い物だね。俺はそう思うよ」

 

「ふぅん。じゃあ、次は俺かな。俺は一刀と違って小さめ・・・AとかBくらいが結構好きかな」

 

「ああ、璃々ちゃん襲ってたしな」

 

「璃々? ・・・ああ、あの。え、お前そういう・・・」

 

「違う! というか璃々だとAどころかAAぐらいじゃないのか! いやそれより俺は襲ってないからな!」

 

「知ってるか、ギル。合意でも犯罪になることがあるんだぞ?」

 

「合意でもしてねえよ! 手を出してないって言ってるんだよ!」

 

なんで伝わらない、この気持ち!

ちゃぶ台を叩きながら思わず身を乗り出してしまう。

まぁまぁ、と諌めてくるランサーに促され、すとんと座布団へ腰を下ろす。

 

「ま、それを抜きにしても、ギルが手を出した女の子は結構そのくらいの胸の子多いからな」

 

「ふむ、侍女長、姦し三人娘、二大軍師、邪馬台国ズ・・・本当だな」

 

「あと最近流流ちゃんもギルの部屋行ってるよな。・・・まさか」

 

「否定はしない」

 

「やっぱりちっぱい好きか!」

 

「やかましい! でかい声でちっぱいと叫ぶな!」

 

「ちっぱいちっぱいやかましいぞ二人とも!」

 

「・・・もう、帰りたい」

 

最終的に俺と一刀と甲賀の三人で「ちっぱい!ちっぱい!」と手を振るまでこの騒ぎは収まらなかった。

終わった後に、ランサーからの絶対零度の視線を受け、はたと正気に戻る。

 

「・・・じゃ、次は甲賀だな」

 

「俺か。俺はまぁ・・・普通にあればいいな。Dとか」

 

「可もなく不可もなくってやつか」

 

「まぁ、バランスが取れてるって感じはするな」

 

そのぐらいだと・・・白蓮あたりか?

あ、あと星もそのくらいかな。

 

「で、オチのランサーは?」

 

「オチ!?」

 

「暴露せよ、ランサー」

 

「マスターまで・・・いえ、もう諦めましたけど。私ですね。こほん、私は・・・まぁ、その、小さいほうがいいですね」

 

「ギルと同じか。・・・まさか、サーヴァントは貧乳好きの傾向が?」

 

「いや、それは無いな。ライダーは爆乳好きだし。いわく、『大きくなければ胸じゃない』だそうだ」

 

目の前に孔雀と響がいたから思いっきりぶっ叩かれてたな、あいつ。

 

「それに、私はギル殿と違ってロの付くコンプレックスではないので。以前も言いましたが、和服の似合う女性が好きなのです」

 

ああ、確かに和服は胸が無くて寸胴なほど似合うと聞くしな。

 

「っていうか、ランサーの俺に対する当たりが強い気がする」

 

「まぁ、普通にいつもの仕返しなんだろうけど」

 

「となると、ランサーは胸は小さくても背はそれなりにあるほうが好き、ということか」

 

「そうなりますね」

 

だから私はまともなのです、とでも言いたげな顔で頷くランサー。

 

「だから私はまともなのです」

 

うわ、しまいには言いやがった。

何故ドヤ顔・・・。

いや、別に俺がまともじゃない訳じゃ・・・訳、じゃ・・・。

自信ないな、それだけは。

 

「小さめの胸ってさ、こう、女の子が恥ずかしがるのが良いよね」

 

「あ? あー・・・『あんまり胸無くて・・・ごめんなさい』みたいなのか?」

 

「それそれ! 流石は貧乳党後援会のギル!」

 

「一刀、後で屋上な」

 

「何処のっ!?」

 

だが、一刀のその気持ちも分からなくはない。

何を隠そう、俺もそれを言われたことのある人間だからな。

 

「しかしアレだな、議論を重ねていくごとに『みんな違ってみんな良い』みたいな結論に向かっていくな」

 

「どんな胸も、それぞれ良いところがあるということでしょう。・・・ささ、そろそろこのお話も終わりにして、お茶にしませんか。良いお茶菓子があるのです」

 

ランサーの一言にみんなで賛成する。

そろそろランサーが居心地悪そうにしてたからな。この辺りで終わらせてあげないと。

ほっと一息つきながら、複製のランサーたちとお茶菓子の用意を始めるランサーに苦笑しながら、一日が過ぎていく。

 

・・・




「そういや副長、お前合コンって概念知ってたけど、やっぱ副長の故郷にもそういうのあるの?」「・・・ありますけど、参加したことは無いです。先日のが初参戦ですね」「さすがプロぼっち」「いつまでそれ引っ張るんですかっ」「・・・ギールさんっ。合コンって、なんですかー?」「・・・ゆ、月?」「あ、黒月さんじゃないですか? じゃ、私は訓練行くんで」「ふっくちょーさんっ。先日のって、なんですかー?」「ひっ・・・!」


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