真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「子供の頃、ネズミ二人組みが色々する絵本が好きだった」「ああ、あのグラタンみたいな響きの二人組みか」「あとは、勿体無い絵本とか」「良く親から言われたよなぁ、残すとおばけが出るぞって」「俺の屋敷では、本当に出るぞ? 上手く悪霊を組み合わせることに成功してな」「・・・甲賀んちでは何が起こっても驚かないことにしてるんだ」


それでは、どうぞ


第四十二話 みんなで絵本作りに

「絵本を作る」

 

「・・・はぁ」

 

凄くどうでもよさそうな返事をする副長の頬を抓りつつ、話を続ける。

 

「璃々もそろそろ、文字とかを覚えても良い頃だろう。というわけで、丁度良い教材として絵本を作ろうと思うんだ」

 

「それで・・・なんでこの人選なんですか?」

 

副長と同じ卓に座るのは、壱与と卑弥呼、そして詠。

 

「ん? いや、暇そうなの片っ端から引っ張ってきただけだけど?」

 

「・・・ボクは暇そうだから呼ばれたわけ?」

 

「わらわは別に、いつも暇だから文句は無いけど」

 

「ギル様からのお呼びであれば、たとえ邪馬台国が滅亡の危機であろうと駆けつけますとも」

 

「・・・私も一応、お仕事あったんですけど・・・」

 

「副長の仕事は昨日のうちに終わらせておいた」

 

「なんて無駄な先読み・・・」

 

副長にため息をつかれてしまった。

イラついたので、再び頬を抓る。

 

「で、絵本なんだけど・・・詳しく知ってるのは俺だけだと思うから、俺が中心に案を出していくから、それを補強していって欲しいんだ」

 

「・・・ま、仕方ないから付き合ってあげるわ。・・・仕方なくなんだからね!」

 

「ありがとな、詠」

 

「撫でるな! ・・・あ、な、何でやめるのよ・・・ばか」

 

んな理不尽な・・・。

まぁいい。取り合えず詠を宥めて、話を進める。

 

「取り合えず、璃々が見るものだって言うのを忘れないようにして、絵本製作に取り組んで欲しい」

 

「りょーかいです、隊長」

 

「あの小娘のために、というのは業腹ですが、ギル様のご命令でしたら!」

 

「まぁ、わらわとギルの子供とかにも見せるかもしれないんだから、協力してあげてもいいわよ」

 

「よし、それでは、何でもいいから案を出していってくれ。それを後でまとめて議論していくことにしよう」

 

そう言って、俺はホワイトボード(のようなもの)を叩いた。

 

・・・

 

『昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが居ました。

 

「ばあさんや、今日の晩御飯は何にしようかねえ」

 

「じいさんや、今日の晩御飯は鹿にしませんか?」

 

設定上米寿を迎えているのに全く衰えを感じさせないギルお爺さんと、設定上喜寿を迎えているのに全く老いを感じさせない響お婆さんは』

 

「ちょっと待ってください! 設定上って何ですか!? というか何故隊長たちが登場人物に!?」

 

副長からストップが掛かる。

ちなみに、参加者全員には『ストップ』とかかれた札が配られていて、話の展開上変なところがあればその札で主張することになっている。

副長は早速それを使ったみたいだ。

 

「設定上は設定上だよ。それにほら、身近な人が登場人物演じてた方が興味持てるだろ?」

 

「・・・っていうか、響はギルより年上・・・よね?」

 

「そこはスルーで。続けるぞ」

 

『そんな話をしながら朝を過ごします。

一日の予定が決まると、ギルお爺さんは山へ芝刈りへ。響お婆さんは川へ洗濯に向かいました。

 

「さて、今日も低木やら竹やらを刈り取るか」

 

そう言って、ギルお爺さんは蛇狩りの鎌(ハルペー)を使って森の木々を乱雑に刈り取り始めました』

 

「はい止まってー! 可笑しいですよたいちょー! 何でお爺さんが宝具を!? というか乱雑に刈ったら駄目でしょう!」

 

「そりゃ、お爺さんと言えど俺だからな。宝物庫くらい使えるだろ」

 

「設定無視!?」

 

『拾った木は焚き木などに使い、竹はさまざまな小物などに加工して売り出し、ギルお爺さんは日々の糧を得ていました。

その日も同じように竹を刈り取っていたのですが、ギルお爺さんは珍しい竹を見つけました。

なんと、竹の中間、丁度ギルお爺さんの視線の高さの部分が、光り輝いていたのです。

 

「こりゃ珍しい」

 

そう言って、ギルお爺さんは絶世の名剣(デュランダル)を抜き去り、その竹を横に真っ二つにしました。

 

「ひゃっ!?」

 

斬った場所には、なんと小さな女の子が身を小さく屈ませながら、頭を押さえていました。

ギルお爺さんの手のひらに乗ってしまうほど小さなその少女は、剣を振りぬいたままのギルお爺さんを数秒見つめると、こういいました。

 

「私を飼って下さいませんか!?」

 

「いいよ。ならば、君は今日からかぐやと言う名前だね」

 

二人は、傍から見ると色々と極まっている発言をしていることに気づかず、会話を続けます。

 

「はいっ、壱与は・・・じゃない、私は今日からかぐやですっ!」

 

そう言って、ギルお爺さんの手のひらに飛び乗ったかぐやは、るんるんと鼻歌を歌いながら、ギルお爺さんと共に下山しました。』

 

「・・・さっきから副長、うるさい」

 

「んー! んんー!」

 

壱与に羽交い絞めにされ、卑弥呼に猿轡を噛まされている副長に注意する。

竹から壱与が・・・じゃなくて、かぐやが出てきたあたりから騒ぎ始めたので、どうやら竹から人が出てくることに納得がいかないらしい。

だがまぁ、昔話なんてこんなもの。ちょっと荒唐無稽なくらいが丁度いいのだ。

 

・・・

 

『場所は変わり、こちらは響お婆さん。

川から突き出た洗濯場で、服を洗濯していると、上流から何か大きなものが流れて着ました。

 

「おや、あれは何でしょう」

 

どんぶらこ、どんぶらこ、と流れてきたのは、大きな桃。

響お婆さんはその桃が目の前を通った瞬間によいしょ、と引っ張りあげました。

 

「うーん、大きくて美味しそう。ギルさん・・・じゃなくて、おじいさんと食べましょう」

 

そう言って、響お婆さんは意気揚々と家へ戻るのでした。

 

「おや、ばあさんや、その大きな桃はどうしたんだ?」

 

「おじいさんこそ、その小さな娘はどうしたんですか?」

 

家の目の前で鉢合わせた二人は、お互いに首をかしげて質問し合いました。

まぁ、取り合えず家に入ろうか、というギルお爺さんに従い、二人は家の中へ。

 

「・・・ええと、この子は竹の中に入っていてな。かぐや、と名をつけた」

 

「そうですか。じゃあ、かぐやちゃんとお爺さんと私で、この桃を食べましょう」

 

「かぐやは、ギルお爺様からのあーんを希望いたします!」

 

「取り合えず割ってみましょうか。お爺さん、宝具を貸してくださいな」

 

響お婆さんはギルお爺さんから宝具を受け取ると、それを桃に向かって振り下ろしました。

しかし、宝具が桃に触れる一瞬前、桃がひとりでに割れて、中から元気な女の子が

 

「おぎゃー、って、危ないっ!?」

 

「おっとっと」

 

出てくる前に、響お婆さんに真っ二つにされかけました。

 

「う、うー、どきどきしたぁ・・・。す、寸止めするって言ったよね、響ちゃんっ」

 

「いや、まぁ、意外と宝具って重くって」

 

「桃から赤ん坊が。こりゃ珍しい」

 

「あ、続けるんだ。・・・ええと、おぎゃー、おぎゃー」

 

ギルお爺さんは、響お婆さんに聞きました。

 

「名前はどうしようか」

 

「そうですねぇ。男の子でしたら、桃から生まれた桃太郎で良かったんですが・・・」

 

「・・・桃の香りがするから、桃香でどうかな、お婆さん」』

 

「その台詞言いたかっただけですよね隊長!? 絶対その一言のためにこの話題振ったんむぐぅっ!」

 

ストップの札を高く挙げた副長が熱弁するが、背後に忍び寄る壱与によって再び猿轡をされる。

なんて猿轡の似合う女の子なんだ。もちろん、褒め言葉ではない。

 

「はい、続けるよー」

 

「はーいっ」

 

壱与の元気な返事に満足しながら、朗読を続ける。

 

『かぐやも桃香も、三ヶ月ほどで成人にまで成長しました。

ギルお爺さんと響お婆さんは、最近の娘は発育が早いんだねぇと楽しそうに頷くだけでした。

かぐやは絶世の美女となり、さまざまな貴族や王様から求婚されるようになりました。

 

「・・・ええと、おお、かぐや姫。そなたこそ私の妃に相応しい。・・・いや、私としては遠慮したいのだけれど」

 

「言わないでよー、華琳・・・じゃなかった、帝さま。私なんて貴族よ、貴族。似合わないったらないわよね~」

 

苦虫を噛み潰したような顔をする華琳帝と、けらけらと笑う四大貴族の一人の雪蓮公は、人前でもギルお爺さんにべったりなかぐやを尻目にため息をつきました。

 

「なんでわらわがかぐやに求婚しなきゃならないのよ・・・」

 

「ボクも不満しかないわ・・・」

 

「あらー、お嬢様を差し置いて貴族なんて、恐れ多いですねー」

 

雪蓮の後ろには、五大貴族の残り四人が疲れたような顔をして座っていました。

 

「えーと、かぐや。君の美しさに惹かれて、帝さまと貴族が求婚に来たぞ?」

 

「えー? 私は正直ギルお爺様だけで良いって言うか・・・あ、そうだ! じゃあ、私が言うもの持ってこれたら結婚しますよ!」

 

かぐやが持ってきて欲しいものとは、燕の子安貝、火鼠の皮衣、仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、龍の首の珠の五つでした。

五人がくじ引きでそれぞれの宝を持ってくれば、その人間と共に生きると言ったのです。

 

「面倒くさいわね・・・仏の御石の鉢? なにそれ?」

 

「くじ引きで決めるの? ・・・うわ、火鼠の皮衣? 何よそれ・・・」

 

「蓬莱の玉の枝・・・あー、惜しいなぁ。わらわ、龍の首の珠なら持ってんだけど」

 

「うっ、ボクがその龍の首の珠ね。・・・龍なんか討伐できるわけ無いじゃない」

 

「えーと、蓬莱の珠の枝・・・ほうらいってどこですかねー?」

 

口々に文句を言いながら、五人の求婚者たちは家を出て行きました。

その五人とすれ違うように部屋へと入ってきたのは、大きく、それはもう大きく育った桃香でした。

 

「お爺さんお爺さん! 鬼が島の鬼たちが、人々を苦しめていると聞きました! 放っては置けません! 私は鬼退治に向かいます!」

 

「まぁ待ちなさい桃香。桃香一人では太刀打ちできないだろう。まぁとりあえずこの靖王伝家を持っていきなさい」

 

「あ、しばらく見ないと思ったら宝物庫の中にあったんだね」

 

「おばあさんがきびだんごを用意しているから、それも持って行きなさい」

 

「はーいっ」

 

元気良く返事した桃香は、響お婆さんからきびだんごを受け取り、鬼が島へと出発していった。

 

「・・・お爺さん、私、桃香が鬼退治出来るとは到底思えないんですけど」

 

「ははは、大丈夫だよ」

 

かぐやの言葉に、ギルお爺さんは朗らかに笑うだけでした。』

 

「いや、これは壱与さんに同意ですよ。あの人に鬼退治とか不可能に決まってるじゃないですか。逆に鬼に退治されますよ?」

 

「上手いな。座布団一枚やろう」

 

「は、はぁ・・・まぁ、いただけるなら貰いますけど・・・」

 

怪訝そうな顔をしながら座布団を受け取る副長。

うんうん、そのなんだか良く分からないうちに流される副長の性格、結構お気に入りである。

 

『桃香は、ギルお爺さんから貰った靖王伝家と、響お婆さんから貰ったきびだんごの入った袋を装備して、まるで散歩に出かけているかのような気軽さで歩いていました。

しばらく歩いていると、目の前に犬が現れました。

 

「ここ掘れわんわん!」

 

「わー、わんちゃんだ! 可愛いなぁ・・・」

 

「きびだんごをくれたら鬼退治にご一緒しますよ! お宝の位置も教えちゃいます!」

 

そう言って、明命犬は駆け寄ってきました。

 

「ほんとう!? じゃあ、きびだんごあげるね!」

 

「わーい! あ、お宝はここですよ! ざくざく行きましょう!」

 

「分かった! えーと、何か道具は・・・あ、靖王伝家があるね!」』

 

「いくら物語の中だからってやっていいことと悪いことがありますよね!? 代々伝わる名剣を採掘道具代わり!? というか良く許可しましたねこの人!」

 

「何言ってるんだよ。これはフィクションだぞ? 実際の人物、団体等とは一切関係ありません」

 

「ふぃ、ふぃ、ふぃくしょん?」

 

「そんなくしゃみみたいな・・・。作り物とか、嘘とか、まぁ大体そんな意味。これは現実じゃないから、実際の人たちとは関係ないですよって」

 

「ああ、そういう・・・」

 

「ギル様、その小娘は放っておいて、続きに参りましょう!」

 

「はいはい。ええと、何処まで読んだかな」

 

『「靖王伝家より、この乖離剣のほうが良く掘れますよ!」

 

「あははー、御免ね、明命犬さん。私、魔力無いから回せないよ」

 

「あ・・・そっか。私にも魔力は無いし・・・ギル様に返しておきますね!」

 

「うん! それがいいよ! ・・・あ、あそこに鋤があるから、それで掘ろうよ」

 

「はいっ、頑張りますっ」

 

そう言って、二人はざくざくと木の根元を掘りました。

 

「あっ、これかな。箱に入ってる・・・」

 

「そうみたいですね。なんだか細長い気もしますが・・・」

 

箱を掘り出して中身を見てみると、なんと明命犬の武器、魂切が入っていました。

 

「なんと! お宝だと聞かされていましたが・・・まさか没収されていた魂切がこんなところに眠っていたなんて!」

 

「没収されたんだ・・・」

 

「はい。ギル様・・・ギルお爺様が、「明命は犬の役な。あ、後それ没収」と事のついでのように没収されていきました」

 

「のように、じゃ無くて間違いなく事のついでだと思うよ?」

 

兎に角、これで戦力になりますよ! と背中に魂切を装備した明命犬と共に、桃香は再び鬼が島へと向かって歩き始めました。』

 

「・・・これ、あれですか? もしかして、新しい武将と出会う→仲間になる→装備を得る→新しい武将と・・・っていう繰り返しですか?」

 

「ネタバレは減点」

 

「ネタバレも何も、普通に予想でき」

 

「しっぺ!」

 

警告もなしに副長の腕に振り下ろされる指二本。

ぱちーん、と乾いた音が響く。

 

「あいたぁっ! ちょ、なんで私魔法王女さんにしっぺされて・・・ああっ、魔法女王さんも準備してる!?」

 

「しっぺ!」

 

「さっきより強いっ!?」

 

ぺちーん、と再び室内に乾いた音が響く。

指の跡がきれいに残った腕をふぅふぅと冷ます副長を微笑ましく眺めつつ、絵本に目を落とす。

ちなみにこれ、きちんとイラスト付である。原案・俺、作画・副長&壱与である。卑弥呼は・・・まぁ、アドバイザーってことで。

今開いているページは、ごまだれー、と嬉しそうに靖王伝家を掲げる桃香と魂切を掲げる明命の二人が描かれている。

これを描いたのは副長だ。間違いない。

 

『二人(主に明命)はたまに現れる賊をばったばったとなぎ倒しながら陽気に歩いていました。

その道中、二人は悪いお爺さんとお婆さんに囲まれた雉が舌を引っこ抜かれようとしている現場に出くわしました。

 

「おーっほっほ! 私を騙すような雀の舌など、引っこ抜いてしまいましょう!」

 

「雀じゃなくて雉・・・ああもう、こんなところでもそんな役割なのか、私・・・」

 

「おやおや~、風は舌を抜かれるようなことはしてないのですよー?」

 

これは大変、と二人は悪いお爺さんたちの前に飛び出します。

 

「麗羽お爺さん、白蓮お婆さん、雉さんをいじめるのは駄目ですよ!」

 

「そうですよ! 宝譿さんを切り取るなんて、そんな残酷なこと、許せません!」

 

「え? いや、宝譿じゃなくて舌を・・・どっちみち残酷だけどさ・・・」

 

諦めたようにため息をつく白蓮お婆さんを無視して、麗羽お爺さんは勝手に盛り上がっていきます。

 

「あら! なんですのあなたたちは! これは私たちの問題ですわ! 関係ない人たちは引っ込んでてくださいまし」

 

「お助けを~」

 

麗羽お爺さんとは対照的に、眠そうな瞳でダウナー気味に助けを求める風雉さん』

 

「あ、ちょっと待ってください隊長。璃々ちゃん、だうなーって意味分からないと思います」

 

「ああ、そっか。うん、訂正しておく」

 

・・・やっとまともなストップが掛かったな。

ほぼ突っ込み専用の札になってたからな、あれ・・・。

 

『ですが、桃香はそれに気づかず、靖王伝家を抜いて悪いお爺さんと対峙します。

 

「風雉さんが何をしたのか分からないけど・・・舌を引っこ抜くなんて駄目だよ! 話し合いで解決しないと!」

 

「そうですよ! ごめんなさいって謝ってもらえればいいじゃないですか。何でも暴力は良くないです!」

 

「ちょ、なんでそう言いながらお前ら武器構えて・・・実質二対一だからなこの状況!」

 

分かってんのか!? とヤケクソ気味に叫ぶ白蓮お婆さん。

可哀想に思った二人は、取り合えず二人を気絶させ、風雉さんを助け出しました。

 

「ありがとうございますー。もう少しで宝譿を・・・いえいえ、舌を引っこ抜かれるところでした~」

 

「良いんだよ、全然。それで、風雉さん。きびだんごをあげるから仲間になって欲しいんだ!」

 

「構いませんよー。それでは、仲間になった記念というわけではありませんが・・・この小さな葛篭を差し上げましょう~」

 

そう言って、風雉さんは小さな葛篭を差し出してきました。

 

「わーいっ、開けてみて良い?」

 

「どうぞどうぞー。空けてびっくり玉手箱ー」

 

「・・・葛篭じゃないんですか?」

 

「おぉっ、そうでした~。全く玉手箱とは関係の無い葛篭ですので、全然警戒しないで開けてくださいねー」

 

「う、うぅ・・・そんなこと言われると開けづらいよぅ・・・」

 

開けようとした体勢のままで固まる桃香。

少し涙目になっているのを見るに、風雉さんの言葉に本気でビビらささっているようです。

 

「開けないと風は着いていかないですが、よいのですか~?」

 

「き、きびだんごあげたのに! 酷いよ風雉さんっ」

 

「ふっふっふ~。風は戦闘能力がありませんからね~。こういう風に頭脳戦で敵を倒すのですと実践しただけなのですよ~」

 

風のその言葉で、桃香は自分がからかわれている事に気づきました。

 

「そ、そっかー! じゃあ、この葛篭は安全なんだね!?」

 

「・・・ふっふっふ~」

 

「肯定してくれないの!?」』

 

「仲間が裏切りそうなんですけど、この一行大丈夫なんですか?」

 

「まぁ、桃香なら大丈夫だろ」

 

「・・・えー?」

 

「少しくらいは信用してやれよ、卑弥呼・・・」

 

『「あ、開けるよ? ・・・えいっ」

 

かぱっ、という軽い音と共に、葛篭の蓋が開きました。

中には、何かの巻物が。

 

「おぉ~、これを風に下されば、作戦立案にさらに強くなれるでしょう~」

 

「ほんとに!? じゃあ、これは風雉さんにあげるね!」

 

「どもですー」

 

巻物をごそごそと懐にしまい、桃香たちと歩き始める風雉さん。

道中、果物を沢山持ったお猿さんと出会いました。

 

「あ、桃香なのだ!」

 

「あっ、鈴々猿ちゃんっ。いっぱい果物持ってる!」

 

「あうぅ、なんだかおなかが減ってきましたね・・・」

 

「風は先ほどきびだんごをもらったので、まだ少し大丈夫ですが~」

 

「少しこれを分けてあげてもいいのだ! でも、代わりにきびだんごを食べたいのだ!」

 

「いいよ、はいっ」

 

「ありがとなのだー! はぐっ」

 

嬉しそうにきびだんごを頬張る鈴々猿さん。

はいなのだ、と渡された果物をみんなで分け合い、お腹いっぱいになりました。

 

「そうだ、鈴々猿ちゃん、私たちと一緒に鬼退治に来てくれない?」

 

「分かったのだ! 鈴々猿の丈八蛇矛が火を噴くのだ!」

 

こうして、桃香たち鬼退治組み一行は、一路鬼が島を目指して旅を続けるのでした。』

 

「・・・私の予想、全然ネタバレじゃなかったじゃないですか! しっぺされ損ですよ!?」

 

「壱与」

 

「しっぺ!」

 

「痛いっ! なんで!?」

 

壱与からのしっぺを食らって涙目の副長を撫でてから、朗読に戻る。

 

『ついに鬼が島へとたどり着いた一行。

桃香を筆頭に、四人で鬼が島へと乗り込んでいきました。

 

「たのもーっ」

 

「たのもー、です!」

 

「たのも~」

 

「たのもーなのだー!」

 

「あーはいはい、新聞なら間に合ってますよー」

 

のっそりと出てきたのは、眠たそうに頭をかく副長さんでした』

 

「ちなみに、この出演している「副長」のよみは「ふくちょう」ではなく「ふくなが」さんです」

 

「勝手に名前みたいにされた!?」

 

『「鬼さんですか?」

 

「ああ、まぁ、そうですけど。もしかして、退治しに来ました?」

 

「・・・凄く冷静なんですけど、この鬼さん」

 

「というより、むしろ冷めているというか~・・・」

 

「副長はまだ戦ったこと無いから楽しみなのだ!」

 

副長鬼さんは、一旦家の中に引っ込みました。

 

「うぅ、というか何でこの仮面持ってるだけで鬼役に・・・絶対理不尽だ。隊長のほうが鬼じゃない。・・・まぁ、やれって言われたらやりますけど」

 

一瞬ぴかりと室内が光りました。

再び副長鬼さんが出てきたとき、その姿は先ほどとは全く違っていました。

 

「副長・鬼神もーどです。ふふん、身長もあがりましたし、服も変わるんですよ」

 

そう言って、8の字のような形をした両手剣を構える副長鬼さん。

全身が白を基調とした服装に変化し、顔には隈取のようなお化粧が。

 

「果たして私に勝てますかね? いきますよー?」

 

「が、頑張ろう、みんな!」

 

「これは配役に納得いかない私の分! それでこれが物語の中でも無茶振りされる私の分! これもこれもこれも! これもこれもこれもこれも! 私の分ですっ!」

 

「きゃー!? こっ、光線が! 光線が襲ってくるよー!?」

 

「主人公が勝つといったな! あれは嘘だ!」

 

「最低だよ副長鬼さん!」

 

「だから鬼役なんて押し付けられるんですよー?」

 

風雉さんの言葉に、プッツンする副長鬼さん。

 

「なんっ・・・でそこまで! 的確に人を傷つける台詞が言えるんですかあんたはああああっ!」

 

「うわぁ、被害妄想・・・?」

 

「まさに理解不能ですねー・・・」

 

「なんか良くわかんないけど、副長と戦えるならどうでもいいのだ! いくぞ、なのだ!」

 

鈴々猿さんが光線を掻い潜りながら丈八蛇矛を振るいました。

ですが、鬼神となった副長鬼さんは簡単にはじいてしまいます。』

 

「・・・私、あくど過ぎやしませんか?」

 

「まぁ、副長って大体こんな感じだろ?」

 

「・・・」

 

「否定、しないのね・・・」

 

『そのまま副長鬼さんは鈴々猿さんをそっと吹き飛ばし、風雉さんを優しく戦闘不能にし、明命犬さんを気軽にはっ倒しました。

そして、靖王伝家を構えた桃香を熾烈に攻めたて、じっくりと嬲り始めました。

 

「ちょっ、わ、私だけっ、扱い違うよね!?」

 

「はっ、ちょっと私言葉分かんないですねぇっ!」

 

「完全に通じてるよね!? きゃっ」

 

突っ込みに意識を割いてしまった所為か、それとも普通に体力が持たなかっただけかは判断できませんが、桃香は靖王伝家を弾き飛ばされてしまいました。

そのまま副長鬼さんは止めを刺そうとしますが、上空からの光線にさえぎられます。

 

「・・・来ましたね、魔法王女さん!」

 

「あーやだやだ、副長にぴったりですよ、その鬼神の姿」

 

なんとそこには、ギルお爺さんと一緒にいるはずのかぐやがいるではありませんか。』

 

「完全に読者置き去りにしてきましたね」

 

「ちなみにこのあたりは卑弥呼の発案だぞ? 意外と王道が好きなんだな」

 

「そりゃ、わらわは女王だし?」

 

「窮地に他の仲間が助けに来るなんて、幻想ですよ、幻想」

 

「というか、混沌となりすぎてる気がしないでもない」

 

いまさらー? とジト目を向けてくる卑弥呼に何も言い返せないまま、続きを朗読する。

 

『「ちくしょー、きやがれ、です! 実は私は一度刺されただけでやられるぞー!」

 

「桃香、その靖王伝家の力を解き放つのですー」

 

「てりゃー」

 

「く、くそー。このざ・不死身と呼ばれた私が・・・」

 

こうして、かぐやの助けを得た桃香は鬼神となった副長鬼さんを倒し、平和を取り戻しました。

ちなみに貴族たちは全員宝を求める最中に行方不明になりました。

めでたしめでたし』

 

「・・・あー、確かに最後のほう、考えるのめんどくせー、って適当になってましたね」

 

最後まで朗読した後、副長が開口一番そう呟いた。

 

「だって副長が十回刺されないとやられないとか意味分からない設定作るから・・・」

 

「物語作ってから設定消したから、文章が修正されてなくて副長鬼がただの雑魚みたいになってますね」

 

「貴族たちの冒険の行方もめんどくせーってなって全員行方不明で片付けましたしね」

 

「っていうか副長と壱与だけ優遇されすぎじゃない? わらわ行方不明オチよ?」

 

「いや、私も適当にやられましたけど。一番は壱与さんじゃないですかねー。姫役ですしー」

 

「・・・姫?」

 

「・・・あ、いえ、普通に口滑りました。なんでもないです」

 

まぁかぐやはかぐや姫が元だから間違ってないんだが・・・あれ? 俺かぐや姫って言ったっけ?

・・・こいつ、たまにほんとにこの時代の人間か疑わしい言動するからな・・・。

ちょっと、後で話し聞いてみるか。

俺の中で、一つの疑惑がむくむくと膨らんでいく。

こいつ・・・副長は、もしかして・・・。

 

・・・




「副長のモードはいくつかある。鬼神モードは破壊に特化したモードで、攻撃力が基本的に1.8倍!」「・・・二倍にちょっと足りないあたりが副長の残念さをあらわしてるわよね」「噂では光の速度で移動する副長幻影ちゃんとした版なんて技もあるとか・・・」「何処の生徒会長よ・・・」

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