真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「勇者、副長に対する部下からの評価」「1、張勳さまと組んでいるときの厳しさが容赦ない」「2、隊長と組んでいるときのはしゃぎっぷりが容赦ない」「3、最強の将、隊長についていけている時点で変態っぷりに容赦ない」「ちょっと・・・これって誰が言ってるんですか・・・?」「そこはほら、匿名で集めたから」「・・・2番とか3番とかさー、しゃーねーじゃんよー」「・・・?」


それでは、どうぞ。


第三十九話 勇者と魔法使いの戦いに

「・・・邪魔なんだけど」

 

俺の前に座る壱与にそう声を掛ける。

目の前には白く、ほっそりとした足。

なんで目の前に足なのかというと、俺が椅子に座っていて壱与が机に座っているからだ。

 

「そばに付くなと!? そんな殺生な!」

 

「いや、書類の上に座られたら邪魔なのは当たり前だろ」

 

この娘しばらく放っておくと構って欲しいモードになるからな。

ちっ。卑弥呼も構ってやりゃあ良いのに。

 

「私の足に落書きしても良いですよ?」

 

「確かに目の前に足あるけどさー」

 

「あひゅっ!?」

 

ためしにさらさら書いてみたら奇声を上げて机から落ちる壱与。

何なんだこいつ。

 

「あいたた・・・痛みも嬉しいですが、ギル様のまさかのお茶目っぷりを見れたことにも感動です!」

 

「何とかは盲目ってよく言うよなぁ・・・」

 

「?」

 

「なんでもない。そのままの壱与で居てくれって意味」

 

「はいっ。壱与はいつでも通常運転ですっ!」

 

純真な変態って温かい目で見守るものなんだと壱与から学んだのだ。

地面にぺたんと座る壱与を見ながらそんなことを思っていると、扉がノックされる。

 

「たーいーちょー。あーそーぼー」

 

「・・・チッ」

 

「壱与?」

 

「はい?」

 

「・・・いや、なんでもない」

 

凄く不機嫌そうな声を上げた壱与に声を掛けると、凄くきらきらした瞳で見上げられた。

・・・知らんぞ。一瞬般若のような顔になったとか、俺は知らん。

 

「というか副長、変な声掛けしない」

 

「はーあーいー」

 

「・・・幼児退行でもしてんのか? あの小娘」

 

小学生かのような返答をする副長に、壱与のストレスがマッハである。

 

「・・・壱与?」

 

「はい?」

 

「・・・いや、なんでもない」

 

再びきらきらとした瞳で見上げられ、反りがあわねえんだろうなぁ、と一人納得しておくことにする。

 

「で、何か用かー?」

 

「ああ、そうでした。というか、取りあえず入室してもよろしいですか?」

 

「おっと、そうだったな。入れ入れ」

 

そういえば扉を隔てて会話してたな。

ちょっと失礼だったかもしれないな、なんて思いながら入室の許可を出す。

 

「はーい。失礼・・・しましたー」

 

ガチャリと扉を開けて入室しかけ、中に居る人間を視認した瞬間に退室する副長。

 

「副長?」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。・・・部屋の中にコタケさん居ますよね?」

 

「後で屋上な」

 

「と、壱与さんが申しております」

 

「幻覚じゃなかったー! うぅぅ、何でいるかなー・・・」

 

「でも俺が居る限り壱与は手出さないぞ?」

 

「失礼しまーす」

 

俺の言葉を聴いた瞬間に入室してくる副長。

なんて現金な奴なんだ・・・。

 

「適当に腰掛けてくれ」

 

「いえ、立ったままで大丈夫なんで」

 

「壱与は立ってろ」

 

「はいっ」

 

腰掛けろと聞いて机に再び腰掛けようとした壱与を俺の隣に立たせ、机の対面に立つ副長に視線を向ける。

 

「これ、以前隊長がまとめとけって言ってた隊員の要望書とそれぞれの配属です」

 

「早いな。確か一昨日頼んだばっかりじゃないか?」

 

「昨日は訓練休みでやること無かったんで。というわけで、頑張った部下に御褒美くださいな」

 

「んー・・・はい、これ」

 

宝物庫から一着の服が出てくる。

以前渡すタイミングを逃した赤い服である。

防熱効果はもちろん、寒いときには自動で発熱する効果もつけた。

これからの季節役立つことだろう。

 

「おー! 新しい装備ですね! ありがとうございます!」

 

早速広げて色々と確認し始める副長。

 

「ほうほう・・・これからの季節に良いですね、これ」

 

「お、分かるか?」

 

副長もずいぶん魔術の造詣が深くなったものだ。

ちらりと調べるだけでそこまで分かるとは。

 

「ちょっと着替えてみろよ。そっちの部屋、使って良いからさ」

 

「わっかりました!」

 

とたとたと寝室へ向かう副長を見送ると、隣からギリギリと歯軋りの音が。

 

「しんしつ! ギル様! あの小娘、ギル様の寝室できっと寝台の匂いとか嗅いでますよ! 私だったらそうしますもの!」

 

「正座」

 

「はい!」

 

だんだんと壱与の扱いにも慣れてきて、仔犬のようにぱたぱた揺れる尻尾が幻視出来る様にもなった。

ぐりぐりと強めに頭を撫でてあしらうと、俺は再び書類に文字を書き込んでいく。

そういえば、さっき副長から受け取った書類も確認しておかないと。

 

「ふむ・・・もうちょっと増やしても大丈夫かな」

 

「成程! 部隊の人員を少しずつ増やしていって、最後に国を転覆させるのですね!」

 

「何言ってるんだお前・・・」

 

「? 違うのですか? 私が行っていることと同じことをしていたので、つい・・・」

 

「おーい卑弥呼ー!」

 

こいつ国家転覆狙ってやがる!

なんで大人しく後を継ごうとか思わないのか!

 

「うふふっ、私というものが近くに居ながら卑弥呼様を呼ぶなんて・・・嫉妬しちゃいます」

 

しかも病みはじめたぞこいつ!

「嫉妬しちゃいます」の声のトーンがマジだった。

後ろ手に包丁持ってても可笑しくないトーンだ。

 

「でも後数十年もすれば卑弥呼様も現役引退、私の時代になるわけですし・・・でもでも、今すぐにでもギル様を独占したいなーって思ったりも・・・」

 

「着替え終わりましたー!」

 

「まずはあの小娘からかなー・・・」

 

「壱与、口にチャック」

 

「はいっ」

 

チャックチャック、と口を閉じる動作をする壱与。

これでしばらく静かになるだろう。

 

「お、寸法は大丈夫みたいだな」

 

「はい。いつもの謎情報で私の寸法ばればれですからねぇ」

 

くるっと周り、背中も見せてくれる。

うんうん、問題なしだな。

 

「後は動作の確認で副長を火山に落とすだけか」

 

「なんと!?」

 

「いや、だから動作の確認で・・・」

 

「普通人間を溶岩の中に突き落としますかね!?」

 

「いやほら、アイルビーバックするんだろ?」

 

「あいるびー?」

 

「私は戻ってくる、って意味」

 

「無理に決まってんでしょーがたいちょー!」

 

うがー、と前のめりに講義してくる副長。

隣の壱与がぴくぴくし始める。

たぶん我慢できなくなってきてるんだろうなぁ。

 

「じゃあ当初の予定通り溶鉱炉だな」

 

「全然変わってませんよ!? 何でそんなに高熱の場所に突き落としたがるんですか!」

 

そういう確認は作った当初にやっておいてくださいよ! と正論を突きつけてくる副長。

 

「うっさいな! 副長の反応見てからかうために決まってんだろ! 馬鹿か!」

 

「開き直った上に逆ギレですか!?」

 

「はっ! 上司の理不尽に耐えるのも部下の務めだ!」

 

「そーですよ! むしろギル様の理不尽とかごほう」

 

「壱与は口にチャック!」

 

「・・・ちゃっくちゃっく」

 

むぐぐ、と壱与は再び口を閉じる動作をとる。

 

「・・・隊長も、苦労なさってるんですねー」

 

「まぁ、可愛いとは思うけどね」

 

再びぐしぐしと壱与の頭を撫でる。

ちょっと頭がイッちゃってても、一旦可愛いと思えば愛いものなのだ。

 

「ふーん。そですかー」

 

「何でお前自分から聞いておいてそんな興味なさげな訳?」

 

はっぷっぷー、とむくれる副長に首を傾げつつ、最後の書類にサインする。

よし、仕事終わりっと。

 

「さてと、んー・・・中途半端な時間だけど昼でも食べるかー」

 

「ご一緒いたします、ギル様」

 

「良いぞー。副長も来るだろ?」

 

「・・・今日一日くらいは隊長と一緒に居ないと、そちらの魔法王女さんにぶっころころされそうになるんで、ご一緒します」

 

動機は不純だが・・・ま、今日一日くらいは庇ってやるか。

最近副長にはちょっと冷たくし続けたしなぁ。

 

「というわけで壱与。俺と一緒にいる間は副長の言動に怒ったら駄目だからな?」

 

「はいっ」

 

「頑張れたらご褒美くらいはやるから」

 

「はひっ! まさかの罵倒フルコースですか!? やりました!」

 

よくもまぁ、フルコースなんて言葉を知っているもんだ。

きっと卑弥呼と共に平行世界旅行で学んだのだろう。

っていうか、そんなこと俺は言ってないんだけど・・・。

 

「そうと決まれば早速出発いたしましょうっ」

 

そう急かす壱与とその壱与から若干距離を取ろうと俺を挟んで反対側へと回る副長。

相当苦手なんだろうな。副長が一方的に喧嘩売ってるだけにも見えるが。

 

・・・

 

「そういえば壱与さんは何がお好きなんですか?」

 

「そうですね・・・味付けは薄めのほうが好みですね。まぁ一番はギル様が床に投げてくださる残飯なんですけど!」

 

「・・・隊長?」

 

ジトリとした目でこちらを見て怪しむ副長に手を振って答える。

 

「言っておくけど投げたことは無いぞ。勿体無いし。・・・でもほら、たまに床に落とすことってあるじゃん?」

 

「やってるんですね!?」

 

「いやまぁ、嘘だけど。壱与が俺関係の発言したら七割は嘘だと思って良いぞ」

 

「そうします・・・」

 

壱与は妄想激しい娘だって言うのはあの家族計画ノートで分かってたことだしな。

あのノートを添削してる最中にやってきた副長に一度見せたことあるんだけど、見た後に「良くこんなのと会話できますね」って顔してたぞ。

 

「味付け薄めのほうが良いのか。・・・副長もそんな感じで良いか?」

 

「ええまぁ・・・奢って貰う立場なんで、文句なんて基本的に言いませんよ」

 

「・・・言うときがあるのか」

 

「ふっふっふ。私は所謂不良娘というやつなんです。料金以下の不味いご飯を出すところでは金を払わないなんてしょっちゅうですよ?」

 

「後で拳骨だな。というか金を払うのは俺なんだが・・・」

 

「良く気づきましたね。流石は隊ちょあいた!」

 

副長の頭にごつんと拳を落とす。

 

「うぅ~、冗談ですよぉ。ちゃんとお金も払ってますって。後で周りの兵士たちと「あそこ不味いよねー」みたいな話はしますけど」

 

「・・・まぁ、許容範囲か」

 

それくらいならば個人の感想だな。

幸運にも俺は美味しい店にばかり当たっているが、中にはちょっと腕が足りない店もあるんだろう。

・・・副長ってラック値低そうだしなぁ。

 

「お、こことか良いんじゃないか?」

 

そう言って指差したのは甲賀プロデュースの和食専門店。

・・・時代的に和食のわの字も無いのに和食専門店出してどうするんだと思うが、まぁそこはやけに食文化の進んだ三国時代に文句言うような物だろう。スルースルー。

 

「ほほー・・・なんとも趣き深い・・・是非っ。ここにいたしましょう!」

 

「よし。じゃあ入ろうか」

 

二人を連れて店内へ。

すぐに店員がやってきて、席へと案内してくれる。

 

「お品書きです」

 

「どれどれ」

 

「なんとも魅力的なお料理ばかりですね・・・ふむふむ」

 

「私はこの定食でお願いします」

 

「早いな。・・・うーん、じゃあ俺はこっちかな」

 

「あ、えぇと、えぇと・・・」

 

「ゆっくり選んで良いからな?」

 

「はいっ。お気遣いありがとうございます」

 

一人だけ注文が決まっていないことに少し焦った様子の壱与に声を掛ける。

俺の言葉に答えた壱与は唇に人差し指を当てて考え込む。

空腹が酷いってわけではないし、急かす必要は無いからな。

 

「これにいたします!」

 

「ん、分かった。すいませーん」

 

店員に注文を伝え、ふぅと一息。

すると、壱与がそういえば、と口を開いた。

 

「ここはあの怪しげ忍者が経営しているのですよね?」

 

「怪しげ忍者・・・本人には言うなよ?」

 

きっと泣くだろうから。

 

「ギル様が言うならもちろん言いませんとも。お話は戻りますが、あの無表情忍者がこんなに雰囲気のある店を考え付くなんて驚きです」

 

「甲賀は結構こういうことに積極的だからな」

 

イベント事に積極的に参加してくるというか、むしろ自分から企画することもあるというか。

兎に角活動的で全く忍んでいない忍者なのである。

 

「成程・・・まぁ、こういうお店を作るのでしたら私は大歓迎ですが」

 

「だな。俺とか壱与にとっては故郷の味みたいなもんだし」

 

・・・時代的には壱与は食べたこと無いはずだが・・・まぁ、そこはスルーしておくとしよう。

 

「ふ、ふっふっふ・・・! そういえば、ギル様の故郷は未来の邪馬台国だとか! 結婚した後は邪馬台国で子育ていたしましょうね!」

 

「いやー、どうだろう。こっちにも月とか残ってるからさー」

 

「大丈夫です! ちょちょっと世界を滅ぼせばこっちに移住せざるを得なくなりますよ!」

 

「お前それ俺が頑張って聖杯壊したの台無しにする気か」

 

「はっ! ・・・そ、そうでした。ギル様が命まで賭けて守った世界でしたね・・・分かりました! 二つの世界をくっ付けて大陸もくっ付けましょう!」

 

「隊長、この人凄く怖いことさらっと言うんですけどどこまで本気なんですか?」

 

小声で尋ねてくる副長に真実十割の答えを返す。

 

「言ってる事は妄言だけどやろうとしてることはすべて本気だしやる力も持ってる」

 

「最悪じゃないですか!」

 

そりゃもう、最悪だよ。

壱与なら秘匿がどうとかあんまり考えないし、自分がやりたいと思ったら与える影響考えずにやる。

・・・言ってて流石卑弥呼の直弟子だなと思った。

 

「壱与、やめろ」

 

「・・・はぁい」

 

凄く不満そうに了承する壱与。

 

「はぁ・・・。その代わり、今日の夜きちんと相手してやるから」

 

「本当ですかっ! 聞きましたよ!? 絶対ですからね! 罵倒フルコースと徹夜責め・・・今からドキドキしてきました!」

 

「へっ、変態っ、隊長、変態が居ますよ! へ、変態だー!」

 

「黙れ」

 

「壱与もな」

 

「・・・」

 

コクコク頷きながら壱与と副長の二人は口を閉じる。

それからしばらく同じようなやり取りを繰り返していると、料理が運ばれてきた。

 

「お待たせいたしました」

 

並べられる料理を見て、壱与がほほぅ、と呟く。

壱与が頼んだ定食の内容は精進料理のように見える。

 

「なるほどなるほど・・・あ、いただきます」

 

「それじゃ俺もいただきます」

 

そう言いながら、副長の分の箸を取って渡す。

 

「あ、ども。いただきまーす」

 

一口目は三人ほぼ同時だった。

もぐもぐと咀嚼。

・・・うん、薄めの味だが、決して物足りなく感じない。

 

「もぐもぐ・・・このお料理は・・・お豆腐というのですね。豆腐・・・腐っているのでしょうか」

 

「腐ってるにしては白くて四角くて綺麗ですが・・・」

 

「中身も問題ないように見えますね。・・・謎です」

 

「大丈夫、腐ってはないから。安心して食ってくれ」

 

「はいっ。あ、ギル様のご命令でしたらどんな腐ったものでもパクつきますよ! むしろご馳走みたいなものです!」

 

「ご、ごめんなさい隊長。私はちょっと壱与さん並の忠誠心は身に付かなさそうです」

 

「安心して良いぞ副長。これは忠誠心って言わないから」

 

ほっ、と一息つく副長。

そんなこんなで、五分に一度ほど壱与の変態発言が飛び出す昼食会は騒がしく過ぎていくのだった。

 

・・・

 

「あ、げっ・・・」

 

「あら? 卑弥呼様? お仕事は片付いたのですか?」

 

「終わらせてなきゃこっち来てないわよ」

 

「チッ・・・結構押し付けてやったと思ったんだけどな・・・」

 

「あら、そっちはギルの部隊の・・・」

 

「・・・どーも。副長やってます」

 

「そうそう、勇者副長ね」

 

大雑把だけど、まぁ間違っていないだろう。

 

「あ、思い出した。わらわのことコウメって言った奴よね」

 

「私はコタケですね」

 

「・・・わらわたちは魔法使いであって魔導師じゃないんだけどねぇ」

 

「似たようなもんじゃないですかー。・・・それで卑弥呼様、立場的に私たちは勇者をフルボッコにしなければいけないわけですが・・・」

 

そう言って、自身の獲物である銅鏡を取り出した壱与。

卑弥呼もニヤニヤしながらそうね、と銅鏡を取り出す。

 

「は? ちょ、え?」

 

「・・・暴れるなら、あっちのほうにいいところがあるぞ。俺が魂込めて建てた神殿でな。名前を「魂の神d」」

 

「待ってください! 何で戦うこと前提になってるんですか!?」

 

俺の言葉を途中で遮って副長が抗議してくる。

 

「ほら、せっかく魔法使いが二人もいるんだし、魔法使いとの戦い方でも学んでくれば良いだろ」

 

「学んだところで絶対役に立ちませんよね!?」

 

「まぁほら、世界は広いんだし、いつ第二魔法使いと戦うか分からないだろ?」

 

「そんなほいほい魔法使いに遭遇するわけないじゃないですか!」

 

「・・・まぁ、俺は現に二人ほいほい遭遇してるけど」

 

「・・・ええと、あの、ごめんなさい」

 

盛り上がる魔法使い二人と対照的に一気にテンションが下がる俺たち。

無理やり空気を断ち切り、じゃあ行くか、と副長の手を引く。

 

「ちょっ、ギル様!? 私たちを放って部下としっぽりなんて許されませんよ!?」

 

「そーよそーよ! わらわ達も最近ご無沙汰なのに!」

 

「た、隊長!? まさか私を路地裏にでも連れて行って・・・そういうことを・・・?」

 

「いやー、それは無いかなー」

 

「ですよねー」

 

「ギル様と仲良さげなやり取り・・・羨ましいですの!」

 

壱与のキャラがなんだか変な方向に暴走してるんだが・・・。

 

「・・・わらわは手拭いでも噛んでればいいのかしら。きぃー」

 

「いや、卑弥呼は無理に空気読まなくて良いから」

 

・・・

 

「はい、というわけで特設会場までやってきたわけですが」

 

「はっ!? いつの間にか魔法使いに挟まれてる!?」

 

「そういやわらわ炎の魔術なんて使えないわよ?」

 

「私も氷の魔術なんて使えませんから大丈夫ですよ」

 

「そ。ま、わらわ達にはこっちのほうがお似合いよね」

 

背中から取り出した銅鏡を構えて微笑む卑弥呼。

そんな卑弥呼に壱与も元気に笑顔を返す。

 

「はいっ。共闘なんて初めてじゃないですか?」

 

「そうね・・・あんたが魔法を覚えてからは初めてじゃないかしら。行くわよ!」

 

「ちょ! 二人だけで盛り上がるとかやめてくださうひゃあっ!?」

 

自身に迫る光線を何とかサイドステップで避ける副長。

装備を王国の盾から鏡の盾に変更し、剣と共に構える。

 

「や、やるしかないならやったりますよこらぁ!」

 

「よく言った小娘! 消し飛べ!」

 

「ほらほらほらほらぁ! 私と壱与の即興技! 「真・合わせ鏡」!」

 

いつものように鏡を召喚して砲台とするのではなく、お互いが一つずつ銅鏡を構え、副長を挟む。

 

「卑弥呼さま、発射はこっちに合わせて下さい!」

 

「しゃーないわね!」

 

異なる魔法使いから発射される二つの光線を、副長は前転で距離を取って避ける。

きちんと余波を盾で防いでる当たり流石だろう。

やけに威力が高いが、一人でいくつも鏡を操るわけじゃないためその分魔力の収束に集中できるからだろう、と推測する。

 

「同時攻撃とか殺す気ですか!」

 

「ええ」

 

「うん」

 

「うわぁん! 否定してくれないー!」

 

光線の魔力を避けたり反射しながら悲鳴を上げる副長。

卑弥呼は光線のみだが、壱与は媒体の銅鏡を光弾に変えて発射しているようだ。

まぁ、媒体の銅鏡は平行世界から無限に取り出せるみたいだしな。

弾丸にするには適しているだろう。

 

「うひゃあ!? 反射しない!? きゅ、吸収しちゃったんですけどたいちょー!」

 

「はぁ? 機能は説明してるだろ」

 

「・・・ああ!」

 

どうやら忘れていたようだ。

まぁ、一回しかその能力って役立つ場所無いからなぁ・・・。

いや、こっちの話だけどさ。

 

「じゃあ、先に壱与さんを落とします!」

 

「吸収できるからって・・・調子に乗ってるとやられちゃいますよ!」

 

そう言って光弾をめちゃくちゃに放つ壱与。

 

「ちょ、馬鹿! わらわまで巻き込んでどうすんのよ!」

 

「ついでに亡き者に!」

 

「あんた後で覚えてなさいよ!?」

 

卑弥呼は副長とは違って空を飛べるようなのであまり深刻ではないようだが、それでも結構必死に光弾を避けている。

副長は副長で盾があるので何とか凌げているようだ。

お、三回目。

 

「爪撃ち!」

 

右手に盾を持ち、もう片方の手で爪撃ちを放つ。

建物の中なので、突き刺すところは沢山ある。

 

「弾いてやりますわ!」

 

「甘いです! 鎖を走れ、爆弾ネズミ!」

 

「お、新装備」

 

あれは少ない爆薬を何とかかき集め、十個ほど作ったネズミ型走行爆弾である。

本当に貴重な物だって言うのに・・・使いどころは良いけど。

 

「はぁ!? 走る爆弾とか何考えて・・・わわ!?」

 

爪撃ちの鎖を弾こうとした壱与は、その鎖を走ってくる爆弾の爆発に巻き込まれる。

それで鎖の方向も変わってしまうが、副長はそれも事前に分かってて打ち込んだらしい。

にやりと口の端を歪めながら、鎖に引っ張られて上昇する副長。

壱与は爆煙で視界が悪く副長が見えていないらしい。

卑弥呼も先ほどの壱与の滅多打ちで離れているため、助けに向かえない様だ。

 

「魔力、開放します!」

 

「っ、上!?」

 

「はい!」

 

奇襲なのに返事してどうする・・・。

まぁいいか。副長らしいし。

 

「ふっ・・・!」

 

壱与は避けられないと判断したのか、銅鏡を自身の前で構えて受けることにしたらしい。

というか、この魔法使いと勇者、三人とも鏡を装備してるんだけど・・・やっぱ仲良いのかな?

 

「きゃっ!」

 

何とかダメージは抑えたものの、少しだけ服や肌には煤が付いている。

魔法使いの攻撃三回分だから、相当な威力だったのだろう。

 

「うぅ・・・ちょっと予想外かもです」

 

「あんたは駄目駄目ねぇ。わらわが本物の魔法を見せてあげる! くたばれ!」

 

「一人の光線なら!」

 

そう言って副長は盾を構えてしゃがみこむ。

一瞬卑弥呼が「あ、やべっ」という顔をしたのを俺は見逃さなかった。

だが、流石の卑弥呼も発射した光線を止めることなど出来るはずなく、盾に反射された光線は・・・。

 

「げおるぐ!」

 

「あちゃー・・・」

 

副長の盾の魔力を食らってふらふらしていた壱与に直撃したのであった。

まぁ、断末魔からして覚悟完了してたみたいだし、良いんじゃないかな?

 

「はぁっ、はぁっ・・・。め、滅茶苦茶怖いんですけどたいちょー! 目の前まで迫る光線・・・反射すると分かってても恐怖が・・・。つーか反射してる最中もちょっと熱かったし!」

 

最後にちょっとだけ素が出てるのはご愛嬌である。

 

「・・・まぁいいわ。最近壱与も調子に乗ってきてうざかったし・・・丁度良いお灸になったんじゃないかしら」

 

「よっと。壱与はちゃんと受け取ったから、安心して良いぞー」

 

光線を食らう前よりさらにふらふら落ちてきた壱与をキャッチして、そっと寝かせる。

ま、これくらいなら少しすれば起きるだろ。

 

「さて、どうわらわを攻略するのかしら? もう光線の反射はくらわないわよ?」

 

「そうなんですよねぇ・・・。ま、ここは勇者らしく・・・正面突破で行ってみます!」

 

そう言って副長はとん、と地面を蹴った。

・・・まさか本当に正面突破? いやいや、あの捻くれ過ぎて逆に素直な副長がそんなことするはずが無い。

そんなことを思っている間に、副長は卑弥呼に肉薄する。

だが、工夫も無い接近を許す卑弥呼ではない。

 

「はっ、邪魔」

 

「知ってます!」

 

蝿でも払うように手を振るうと、扇状に広がる魔力が副長を地上に叩き落そうと袈裟懸けに迫る。

斜め上方から迫る魔力に目も向けずに副長は靴を重量靴に変更する。

急激に増えた重量が、重力の力を借りて落下速度を加速させる。

卑弥呼の攻撃範囲から逃れた瞬間に重量靴から普通の靴に戻し、爪撃ちを放つ。

 

「ち、後ろ・・・いや、上!?」

 

がらがらと鎖を巻き取る音を聞き取ったのか、背後に振り向きながら上空へと光線を放つ卑弥呼。

しかし、そこにあったのは・・・。

 

「はぁ!? 盾だけ!?」

 

爪撃ちの持ち手に鏡の盾が引っ掛けられているだけだった。

そこに一瞬遅れるように副長が残り一つの爪撃ちで鏡の盾を追いかけるように昇っていく。

鏡の盾は光線を反射し、鏡の盾を追いかける副長へと向かっていく。

 

「何考えて・・・んぁ!?」

 

卑弥呼が驚愕の声を上げる。

そりゃそうだろう。俺も驚いてる。

なんてったって、反射された光線を王国の盾を装備した背中で受け、光線の勢いを受けて加速しながら高速で卑弥呼に迫ってるんだから。

 

「さ・ら・にぃ~! 重量靴!」

 

「ちょ、それは洒落にならな・・・ぐっ!?」

 

重量靴を履いた副長が上空からキックを放つ。

相当な速度のそのキックは、卑弥呼の反応速度を若干超えた。

辛うじて卑弥呼は銅鏡で防御したものの、副長の蹴りは銅鏡を砕きながら卑弥呼の腹に刺さる。

 

「よ・・・っと」

 

途中で卑弥呼を蹴って副長は特設会場に着地する。

 

「オーライオーライ・・・よっと」

 

「あたた・・・ん、ありがと。つぅ~・・・」

 

腹を擦りながら卑弥呼がお礼を言ってくる。

一応防御したらしいのだが、やはり重量靴で蹴られたのは相当なダメージだったのだろう。

 

「というか、副長! 女の子の腹を蹴ったら駄目だろうが!」

 

「・・・あ、ご、ごめんなさい・・・」

 

「ま、良いわよ別に。わらわたちから喧嘩売ったみたいなものだしね。気にしてないわ」

 

「・・・どもです」

 

そう言って、副長は特設会場から飛び降りた。

よっと、と軽い調子で着地すると、こちらへ駆けて来る。

 

「た、たいちょーたいちょー、ちょっと頬を抓って貰って良いですか?」

 

「頬を千切れば良いのか?」

 

「そこまで強くなくて良いんですよ!?」

 

突っ込みを入れてくる副長に言われるままに頬を抓ってやる。

 

「あたた・・・やっぱ夢じゃな、いたたた! もういいでふらいひょー!」

 

「なんだよ、やめて欲しいなら早めに言えよな」

 

「うぅ・・・何なんですかこの仕打ち・・・」

 

「ギル様にほっぺたつねつねされるとかうらやま!」

 

壱与復活である。

起き抜けから意味分からんことをつらつらと・・・。

 

「で、でもでも夢じゃないんですね! 魔法使い二人破りましたよ隊長!」

 

「偉い偉い。正直あの「真・合わせ鏡」とやらで落ちると思ってたからな」

 

「へへーん。もっと褒めても良いんですよ? た・い・ちょ・う?」

 

天狗になるという言葉を体現したかのような態度をとる副長。

どやっ、と口で言いながらドヤ顔をするのが少しイラつく。

 

「・・・まぁいいや。三人ともお疲れさん。特に副長は凄かったな。あんな突飛な作戦を取るなんて」

 

「わらわも驚いたわー。鏡の盾だけを飛ばして光線を反射。それをもう一つの盾を装備した背中で受けて勢いを増して突っ込んでくる、なんて誰が思いつくんだっつー話よね」

 

流石は捻くれ過ぎて逆に素直な副長である。

トリッキーな戦い方をしながら最後は正面突破とは。

 

「久しぶりに汗かいたわ。・・・壱与、副長、汗でも流しに行かない?」

 

「あ、賛成です卑弥呼様! 今夜は朝までギル様の寵愛を受けるので、今から日が暮れるまでじっくり身を清めたいと思います!」

 

「・・・私も汗を流したいです。というか、光線受けたり光弾受けたりで負った傷の治療もしないとなー・・・」

 

「満場一致ね。じゃ、行くわよ。・・・じゃ、また後でね、ギル」

 

「おう。ゆっくりして来い」

 

三人をそう言って見送った後、しばらく俺は建物の修復作業に当たった。

光線とか光弾とかが壁や天井や床を傷つけていたので、それの修復と瓦礫の撤去である。

・・・ま、これは後で業者でも雇ってやらせるか。

面倒くさくなった俺は軽い片付けだけを行って、特設会場を後にした。

また使うことあるかな、この神殿。

 

・・・

 

「じゃ、今日の授業はここまでだね」

 

「きりーつ、れーい、ちゃくせきー」

 

気の抜けた孔雀の号令に俺と孔雀、そして響が従う。

副長たちを見送った後、俺はキャスターの座学を受けていたのだ。

ついでなので、と孔雀と響が一緒に勉強しているのだが、なぜか制服着用なのである。

俺は学ラン、女子はセーラー服である。

・・・懐かしくはあるが、キャスターはこれをどこで調達したのだろうか・・・。

まぁ、詳しくは聞かないけど。

セーラー服を着た少女というのは中々郷愁を誘うものがある。

 

「ギールさんっ、お腹減らない?」

 

そう言ってお弁当の包みを見せる響の両肩を掴む。

 

「・・・「さん」を「くん」に変更してもう一回」

 

「ふぇ? ・・・えと、ぎ、ギールくんっ、お腹、減らない?」

 

「いただこうか!」

 

「す、凄い食いつき様だねぇ・・・」

 

孔雀の若干引いた感想を気にすることなく俺は机をくっ付ける。

うむうむ、やはり学生時代の昼休みを思い出す。

・・・というか、さっきちょっと早い昼食を食べたばかりなんだけど・・・。

まぁいいか。時間的に三時のおやつだと思えば。

 

「・・・まぁ、ボクもお弁当作ってきたんだけどね。食べてくれるだろう? ギ・ル・く・ん?」

 

「あたりまえだ!」

 

「なんか「くん」付けって凄く新鮮だね!」

 

「・・・まぁ、孔雀はともかく響は俺より年上だからな。「くん」付けでも可笑しくは無いんだが」

 

「え」

 

同じく机を移動していた孔雀の動きが止まった。

 

「ん? どうした孔雀。そんな顔して」

 

「きょ、響って、ギルより、年上?」

 

「ああ。前に俺の歳は言ったろ?」

 

「う、うん。ボクの三つくらい上だったね」

 

「響の年齢は・・・ごにょごにょ」

 

「うひゃ!?」

 

「驚くよなぁ、やっぱ」

 

「う、うん」

 

俺たちのやり取りを見守っていた響へと視線を向ける。

 

「ふぇ? どしたの、二人とも」

 

「あ、いえ、なんでもないです」

 

「孔雀ちゃんの敬語とか始めて聞いたよ!? どうしたの!?」

 

「ほんと、大丈夫なので。はい」

 

「いやいやいや! 真顔で敬語とか本気だよね!? 何があったの!?」

 

いやまぁ、あの歳で「ふぇ?」とか言う娘がいるとは誰も思わないだろう。

俺も響から年齢を聞いたときは思わず敬語になったものだ。

直後に「何時も通りでいいよ~」と言われたのでやめにしたが。

 

「ま、面白いからしばらく放っておくか」

 

この後、孔雀が自分の年齢を知ったから妙な反応をしているのだと響が気付いたのは昼食をすべて片付けた後だった。

 

・・・

 

「もー、私の歳を知ってそんな妙な言葉遣いだったんだね?」

 

「・・・いや、ほら、ボクもちょっと動揺していたというか・・・」

 

「自分のこと「わたくし」って言う孔雀ちゃんなんか初めて見たよ・・・」

 

そう呟きながら二人は風呂場へと向かう。

ギルは「うっぷ・・・ちょっと休んでくる」と言い残して自室へと戻っていってしまった。

その後、制服から着替えるついでに汗でも流そうとこうして風呂場へと向かっているのだ。

 

「・・・おや? 先客がいるみたいだね」

 

「ほんとだね。んー、服装からして副長さんと、邪馬台国の二人組みたいだね」

 

「緑色の服なんて一人しか着てないからね。邪馬台国の服装も毒々だし」

 

「・・・どくとく、ね?」

 

「さぁ、早速着替えようじゃないか」

 

そう言っててきぱきと制服を脱ぎ始める孔雀。

逃げたな・・・、と思いながらも、響も制服を脱いでいく。

 

「よいしょ・・・響、ちょっと手伝ってー」

 

「はいはーい」

 

隻腕とはいえ、孔雀は日常生活に必要な大抵のことは出来る。

だが、人と一緒にいるときは面倒くさがって手伝ってもらうことがある。

 

「よっと。はい、大丈夫だよ」

 

「ありがと。入ろうか」

 

「うんっ」

 

からからと扉を開けると、そこには思ったとおりの人物がいた。

 

「あ、やっぱり孔雀さんたちでしたか」

 

「おっつー」

 

二人が浴場に入ってきたのをいの一番に気づいた壱与に、響が軽く挨拶を返す。

仕事はー? さっきは授業してたんだー、というやり取りをしながら、響と孔雀は身体を洗う。

その後、壱与たちが入っている湯船へ身体を沈めた。

 

「あふー・・・この瞬間が一番好きだね、僕は」

 

「あぁ、分かる分かる。わらわも湯船に入った瞬間の気の抜ける感じが好きだわ」

 

「毎回その瞬間にお命狙ってるんですけどねー。卑弥呼様ったら毎回察知するんだから・・・」

 

全く、素直に襲われてくださいよ、と言って卑弥呼に拳骨を食らっている壱与を見ながら、副長が呟く。

 

「・・・こえー。何なんですかこの邪馬台組の殺伐とした師弟関係」

 

「あ、あははー・・・」

 

響の乾いた笑い声は、かぽーん、という気の抜けた音に紛れて誰の耳にも届かなかった。

 

・・・




「えーと、俺はギルと同い年ぐらいだな」「俺はギルの二つほど上!」「ボクはギルの三つ下」「・・・俺はギルの二十上だ」「シャオはー、ギルのちょっと下だよっ」「へぅ、私はギルさんと同じくらいです」「私はー、ええと、十二、くらい上・・・」「は?」「はぁ?」「ほ、ほほう・・・」「ふぅむ・・・」「へぇー」「・・・へぅ」「な、なんなのさっ、その反応!」

「・・・なぜ全員俺を基準に年齢を発表するのか」「いやほら、分かりやすいじゃん?」「俺が六十歳だぞー、とか言ったらどうするつもりだったのか」「・・・きっと女子がいっせいにサバ読み始めるな」

「・・・あ、ちなみに私は隊長より・・・モニョモニョ、です」


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