真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「祭りかぁ。焼きとうもろこしとかおいしかったよな」「綿飴ガッチガチに固めて食べて歯が欠けたことあるよ、俺」「祭り!? 祭りっつったかてめぇらっ!」「ライダーか。どうした?」「祭りっつったらハから始まってンで終わる世界的行事があるだろうがっ!」「・・・今日の祭りにライダーを解き放っていいものか」「ま、多喜が何とかしてくれるだろ」


それでは、どうぞ。


第三十二話 祭りの終わりに

「おー、にぎやかだねぇ」

 

「町の人ほとんど来てるからな」

 

警備のために城壁などで仕事している兵士や、事情があって来れない町の人を除けば、八割くらい来てるんじゃないだろうか。

まだ昼を少し過ぎたくらいなのに、賑やかな声がそこかしこから聞こえてくる。

まぁ、警備の人間やこれなかった人たちのためのサプライズも用意してるし、楽しめない人が出ないようにはしたけど・・・。

 

「ようっし、はぐれないよーにギルさん手ぇ繋ご? ・・・って、もう取られてる!?」

 

「ふふ、響ちゃん、早い者勝ち、だよ?」

 

「ギルの手は二本しかないもの。ぱっぱと確保しておくのは当然でしょ?」

 

祭りの会場に来た直後くらいから、俺の両手は月と詠が繋いでいた。

響は少し出遅れたということだ。

 

「く・・・流石は月ちゃんと詠ちゃん・・・! じゃあ私は裾で我慢しようかな」

 

「・・・ボクも裾かな」

 

「卑弥呼様卑弥呼様、私たちは背中と首ですかね?」

 

「ギルが大変そうだからやめてあげなさい。それに、わらわたち今浴衣よ? 背中に乗って足広げたら見えちゃうじゃない」

 

「そうでしたね。じゃあ、私たちは我慢しましょうか」

 

「・・・夜まで、ね」

 

なにやら怪しい会話をしている二人は意図的にスルーしつつ、会場を歩く。

まぁ、後で手は交代してやればいいだろう。

月と詠も物を独り占めするような狭量な娘じゃないからな。

 

「とりあえず何か食べようか」

 

「さんせー!」

 

響が元気に答え、アレ食べたい! と桃飴を指差した。

本当はりんご飴なのだが、やっぱりここといえば桃というイメージで作ってみたのだ。まぁ、中々いいものが出来たと思う。

 

「・・・このときばかりは手を離さないといけませんね」

 

「ま、食べ終わったらまた繋げばいいじゃない」

 

「ふっふっふー、早く食べ終わった人がギルさんの手を取るのさ!」

 

はむはむはむ! とリスのように頬を膨らませて桃飴を口の中にほうばる。

 

「そんなに急いで食べなくても。ほら、口の周りついてるぞ」

 

ほえ? と小首をかしげる響の口周りをきれいにする。

恥ずかしかったのか、かぁ、と頬を赤く染める響。

 

「う、うぅ。子ども扱いはひじょーに不本意だよ!」

 

「じゃあゆっくり上品に食べられるように気をつけるんだな」

 

「むむぅ。了解でーす。・・・はむ、もむもむ」

 

残り半分ほどをゆっくりと食べ始めた響を尻目に、すでに月と詠は俺の手を取っていた。

そのことに気づいた響が戦慄するのはまた別の話である。

更に裾も壱与と卑弥呼に取られてガックリしたのも、別の話である。

 

「ん? ギル、アレはなんだい?」

 

「ん、ああ、わたあめだな」

 

わたあめを作る機械・・・というかからくりは、やっぱりというかなんと言うか、真桜に作成してもらった。

このからくりに気を充填し続けると、電力の代わりになるのだ。

なので、この屋台は凪と同じく気を扱う事が出来る武道家たちが交代制でやっている。

 

「わたあめ・・・本当に綿のようですね」

 

とりあえず一つ購入して、みんなでちぎって食べることに。

おずおずと手を伸ばす詠を皮切りに、みんなが思い思いにちぎって食べ始める。

 

「甘いですね」

 

「ふしぎなあじー!」

 

「・・・ん?」

 

なんか妙に幼い声が・・・。

 

「って、璃々か」

 

「んー?」

 

「なんでもない。ほら、あーん」

 

「あーん!」

 

いきなり璃々が来たのには驚いたが、まぁ璃々のことだ。

はしゃぎすぎて紫苑からはぐれる位は予想できる。

だったら、紫苑と合流するまで一緒にいたほうがいいだろう。

 

「ほーら、肩車してやろう」

 

月たちの浴衣とは違い、璃々の浴衣は動きやすいように少し裾が短くなっている。

肩車しても問題は無いだろう。

 

「わーい! たっかーい!」

 

月たちにはしばらくは手を繋ぐのを我慢してもらうとしよう。

しばらく璃々を肩車してわたあめ二つ目を食べ終わるころ、紫苑の声が聞こえた。

 

「璃々っ!」

 

「あ、おかーさん!」

 

「もうっ、急に走り出して! 心配したんだからね!」

 

「ごめんなさーい・・・。ギルおにーちゃんが見えたから、遊びたかったの」

 

「一言くらい言ってくれれば、一緒に行ったのに。もう」

 

一通り叱った後、紫苑はこちらに謝罪と礼をした。

 

「ごめんなさいね、璃々がお邪魔してしまって」

 

「はは、このくらいなら大丈夫だって。紫苑も一緒に回るか?」

 

「良いんですか?」

 

「もちろん。さ、行こうか」

 

こうして、二人増えた俺たちは、少し動きづらくなりながらも出店を回る。

 

「たーいーちょー!」

 

「あん?」

 

「ちょっとこれ帯が変になって解けてきてるんですけどどうしたらいいですかね!?」

 

「ばっかお前! 何でそんな格好で外出てるんだ!」

 

帯が解けかけ、体中に絡まりながら走ってくる副長を受け止めつつ、全力で叱る。

というかどうやったらこんな器用に絡まれるんだ!?

 

「ああもう、こっちこい! ・・・悪い、その辺回って待っててくれないか」

 

「あ、はい」

 

月たちに声をかけ、俺は副長とともに裏路地へと入る。

 

「・・・ったく、だから卑弥呼や月に教われって言ったのに」

 

「だ、だって・・・その、忙しそうでしたし」

 

絡まった帯を外し、浴衣を合わせて巻きなおす。

 

「遠慮しなくていいんだって。・・・まったく、俺には遠慮ないのにな、っと!」

 

「はうっ! ちょ、ちょっときつ過ぎませんか!?」

 

「このくらいやっとけば解けないだろ?」

 

「確かにちょっとやそっとじゃ解けませんけど! 完全に呼吸阻害してますよねこれ!?」

 

副長がうるさいので、少しだけ緩めてやる。

 

「おー! 凄いです隊長!」

 

「だろ? ・・・さて、月たちも心配だし、そろそろ戻るか」

 

「あ・・・っと、すいません、私母上と待ち合わせしてるので」

 

「ん? そうなのか。挨拶しておきたいが・・・これ以上月たち待たせられないからな・・・また、機会があったらな」

 

「はいっ。ふふっ、それでは!」

 

そういって、副長はからんからんと走り去っていった。

 

「さて、月たちに追いつかないと・・・ん?」

 

「あ、あわわ・・・ここはどこ・・・?」

 

「雛里?」

 

「あわっ! ・・・ぎ、ギルさん? ギルさぁんっ!」

 

「おっとっと」

 

おそらく一人で逸れたのであろう雛里が俺の胸へと飛び込んでくる。

雛里を受け止めて頭を撫でつつ、どうしたのか聞いてみる。

 

「あわわ・・・朱里ちゃんと桃香様と来てたんですけど、誰かにぶつかったときに桃香様の手を離してしまって・・・」

 

「あー、なるほど」

 

桃香が二人と手を繋ぎ、人ごみに流されないようにしていたのだろう。

それが、人とぶつかったときの衝撃で手を離してしまい、今に至ると。

 

「良し、桃香たちが見つかるまで、俺たちと一緒に回ろうか」

 

「あわ・・・ありがとうございますっ」

 

「良いって良いって。ほら、手」

 

「は、はひっ」

 

手を繋ごうと手を伸ばすと、雛里は真っ赤になって俯きながら俺の手を取った。

そのまま月たちの元へと歩く。

おそらくあの娘たちは・・・あ、やっぱり。

変な人垣が出来てる。

 

「おーす、ただいまー。お、射的か」

 

空気で打ち出す銃は普通に作れたので、射的屋は現代とほぼ変わりない。

まぁ、景品はこの時代に即したものだけど。

 

「お、ギル。おかえりー。ほら見て、こんなに取れた」

 

「おー、凄いじゃないか」

 

「ギールーさーん! 取れないんだけど! 千里眼とクラススキル駆使して全部落としてくれない!?」

 

響はお菓子一つしか取れていないようだ。

月と詠はそれぞれに楽しんで二つほど。卑弥呼は打ち出す瞬間に魔力を込めて大物を落とし、壱与は未来予知で一番落としやすい場所を打ち抜いて落としている。孔雀は見学しているようだ。

・・・この時点でもうすでに店の人泣きそうになってるんだけど、トドメを刺せと?

 

「仕方ないな、一つだけだぞ。どれ欲しいんだ?」

 

「あれ」

 

そういって指差されたのは、髪留めのようだ。

あの程度なら、千里眼を使わずとも・・・よっと。

 

「おー、落ちたー!」

 

「よっしゃ。・・・後数発残ってるな。雛里、どれ欲しい?」

 

「ふぇっ!? あ、あわわ、えと、その、わ、私はいいです・・・!」

 

慌てふためきつつも、雛里がちらりと景品の一つに目を向けたのを俺は見逃さなかった。

・・・なるほど、この辺では見かけない本だな。

アレを取るには・・・。

 

「そこっ!」

 

ぽんっ、と軽い音を立てて本は倒れた。

 

「はい、これ」

 

店の人から受け取った本を雛里に渡す。

 

「な、なんで分かったんでしゅ・・・ですか?」

 

「雛里のことだからだよ。・・・ん?」

 

「お兄さーん!」

 

「ギルさーん、雛里ちゃんを見ませんでしたかー!?」

 

人ごみの向こうから俺を見つけてやってきたのは、桃香と朱里の二人。

 

「桃香だ。雛里、桃香と朱里が来たぞ」

 

「あ・・・あの、その、あ、ありがとうございましたっ!」

 

そういって、雛里は景品の本を抱えて走っていった。

・・・ふむ、可愛いなぁ。

 

「ギールーさーん?」

 

「・・・分かってるって。これから一杯いろんなところ回るんだから。な?」

 

「・・・えへへ」

 

・・・

 

日も暮れ、大通りに並べられた提灯に火が灯り始める。

さて、後数刻もすればサプライズの時間である。

 

「んふー、だいぶお腹も一杯になってきたねぇ」

 

「そうだね。いくつか屋台はしごしたし、お腹も満たされてきたころだね。どうする? 解散するにはまだ早いんだろう?」

 

「ああ・・・取り合えず、城壁にでも上ろうか」

 

「? 何で城壁なんて上るのよ。なんかあるの?」

 

詠の言葉に、他の侍女たちも頷く。

そんな侍女たちに笑いかけながら、俺は城へと向かう。

 

「着いてくれば分かるよ」

 

「りょーかいっ! 響ちゃんは着いてくよー!」

 

「ああもうっ。何するか位言ってくれれば良いのに・・・!」

 

「ふふっ。でも、ちょっと楽しみだね、詠ちゃん」

 

「ほら、ひーちゃんたちも行くよー?」

 

「ああもう、待ちなさいよ男女。ほら壱与、それ以上ギルの使ってた箸舐るようだったら置いてくわよ・・・? というか、もうこの時点で置いていきたい・・・」

 

「んぷ、ちゅ・・・わわっ、ギル様があんなに遠くに・・・待ってくださぁーい!」

 

騒がしい声が後ろから聞こえてくる。

みんな着いてきてくれているようだ。

城内はやはり人が少ない。当番ではない兵士は息抜きにとみんな祭りを回っているのだろう。

当番の兵士も極限まで減らしているので、城下町とは正反対に静かだ。

不思議そうな顔をしてついて来るみんなとともに、城壁への階段を上っていく。

浴衣のみんなに合わせてゆっくり上っていると、ちょうど良い時間に城壁の上に着くことができた。

 

「あれ? ギル様、もうお祭りから帰られたのですか?」

 

「はは、まだ祭りは終わってないよ。むしろ、これからさ」

 

「?」

 

何を言ってるのか分からない、とばかりに首をかしげる兵士に苦笑と激励を返し、事前に調べた位置にベンチをセットする。

このベンチ、たくさん作って宝物庫の中に入っているので、数十人なら座れるようになっている。

ま、二つ三つ出せば全員座れるだろう。

 

「これで良し。さ、座ろうか」

 

「座るのは良いけど、何が始まるのか教えなさいよ」

 

「そうね。まさか、星を見るだけってわけじゃないんでしょ?」

 

「星を見るのも良いかもしれないけどな。今日はもうちょっと特別だ」

 

「良く分かりませんけど、少し待っていれば分かるんですよね?」

 

俺の隣で団扇をぱたぱたと仰ぎながら微笑む月。

そのとおり、と頭を撫でながら答えると、詠は渋々と言った感じでベンチに座った。

それを皮切りに、みんなが座りだす。壱与以外は。

むしろ壱与は最初の段階でベンチに正座してた位の速度だった。

 

「あっ、いたいた! おにーさーん!」

 

「ん? お、桃香! 愛紗たちも! 来てくれたか!」

 

「? どういうことギルさん」

 

「ん、ああ、月たちは俺が直接連れてくるから良かったとして、他のみんなには事前にここに来るように言ってたんだよ」

 

ベンチを追加しながら、響の質問に答える。

桃香がこちらに来てえへへぇ、と笑ってから少しすると、ぞろぞろと将たちが集まってきた。

 

「お、大所帯だねぇ。わわっ、今ボクをくすぐった人いるねっ!?」

 

「きゃーん! ねねちゃん可愛いですねぇっ!」

 

「はっ、離すのです響殿っ。れ、恋殿ぉ、お助けを~」

 

「楽しそう」

 

片っ端から声を掛けたからか、なんだか大変混沌としてきたぞ・・・。

 

「お、一刀。やっぱり来たか」

 

「おう。やっぱこればっかりは良い所で見たいからな」

 

「やっぱりあなたたちが何か企んでたのね。こういうときにばっかり元気になるんだから」

 

一刀とともにやってきた華琳がはぁ、とため息をつく。

 

「急にこいつが華琳様を城に連れて行くから何事かと思ったわ! まさか、人がいないことを良い事にあんなことを・・・とか思っちゃったじゃないの! 死ね!」

 

「何で桂花いつもより機嫌悪いんだ・・・? ・・・ああ、そうか!」

 

なるほど、そりゃ機嫌も悪くなるな。

一人うんうんと頷いていると、一刀が何でなんだ? と訊いてくる。

 

「だってほら、浴衣ってフード無いじゃん。猫耳になれないから機嫌悪いんだろ?」

 

「ちっがうわよ! 何であの頭巾がないと機嫌悪くなる、みたいに思われてるわけ!?」

 

「違うのか!?」

 

「違うわよ!」

 

「あら、違うの?」

 

「華琳様まで!?」

 

浴衣姿で崩れ落ちる桂花を見て、三人でくすりと笑った。

なんだかんだで突っ込みを入れてくれる桂花は良い娘なのだろう。

 

「あっ、小蓮さま、ギル様がいましたよ!」

 

「ほんとだっ。ギールーっ!」

 

「ちょっとシャオ!?」

 

ぽふっと軽い衝撃が背中に走った。

やりとりを聞くだけで振り向かなくてもわかる。

 

「シャオか。お、浴衣似合うなぁ」

 

シャオと明命は完璧である。

やっぱり貧乳には映えるなぁ、浴衣。

 

「・・・なーんか、ギルのことぎゅっとしたくなっちゃったかなぁっ!」

 

「ギル様・・・何か妙なことをお考えではないですか・・・?」

 

むっ、思考を読まれたか・・・?

 

「シャオと明命が可愛いから、変なことも考えちゃうさ。ほら、膝の上においで」

 

「きゃーっ、ギルったらだ・い・た・んっ!」

 

「か、かわっ、あぅあぅ・・・!」

 

・・・乗り切ったか。

胸の話になると明命ってたまに取り返しつかないキレ方するからな。

主にマンハントとかで。

素直な二人で助かった。これで紫苑とかだと確実に矢の一発や二発飛んでくるからな・・・。

 

「そこをどくのだーっ! お兄ちゃんの膝は鈴々がいただくのだっ!」

 

「きゃっ。ちょっとぉ! ギルの膝は妻である私のものなんだからねっ」

 

シャオがそう宣言した瞬間、月の手がシャオに伸びた。

的確に太ももを抓っている様だ。

 

「ちょっとお聞きしたいんですけど・・・ギルさんの膝は、なんの、誰のものであるんですか・・・?」

 

「いたっ・・・あ、月? ・・・ちょっと、なんか目がこわ・・・いたたたたたたっ!?」

 

「もう一度お聞きしますね? ギルさんのお膝は、何である、誰のものなのですか・・・?」

 

「そ、それはもうっ! 恋人である、みんなのものですっ!」

 

「・・・よろしいです」

 

背筋をピンと伸ばして答えたシャオに、満足げに頷いて手を離す月。

・・・こ、こえぇ・・・。

目からハイライト消えてたぞ月・・・。

 

「・・・月って、こんなに怖かったっけ・・・?」

 

「これを黒月というんだ。サーヴァントに攻撃を通せるようになるから注意な」

 

「人間超えてるじゃない・・・」

 

うう、ぐすっ、と泣きまねをするシャオをあやしながら、もう片方の膝に鈴々を呼ぶ。

 

「わーい、なのだっ。お兄ちゃんの膝は座り心地が良くて好きなのだっ!」

 

「嬉しい事言ってくれるなぁ、鈴々。うりうり」

 

「にゃっ、くすぐったいのだぁ・・・」

 

頭をぐりぐりと撫で回すと、鈴々は嬉しそうに肩を竦めながら目を閉じた。

 

「お兄さん、みんなをここに呼んで何かするの?」

 

「ああ、そうだよ。まぁ、俺たちは何もせず空を見上げるだけで良いんだけどな」

 

「空を?」

 

「そ。ゆったり空を眺めてれば、何で呼んだのか分かるから」

 

「そっか・・・えへへ、じゃあ私、お兄さんの後ろに座っちゃおっと」

 

桃香はそういうと、ベンチの後ろに回った。

このベンチ、奥行きが結構あるので人が背中合わせに座っても大丈夫なのだ。

 

「ほーらっ、愛紗ちゃんも」

 

「わ、私はそのっ・・・! あ、いえ、その・・・お、お邪魔します」

 

勢いで断りかけた愛紗だが、数秒の沈黙の後、桃香と並んで座った。

 

「あっ、あのっ、本、ありがとうございましたっ!」

 

「はは、さっきも聞いたよ。雛里は律儀だなぁ」

 

「はわ・・・雛里ちゃん、良いなぁ」

 

「朱里にはこれ」

 

「ふぇっ!? わ、私にもでしゅかっ!?」」

 

先ほど響と雛里のために景品を落としたのだが、その後も二発ほど残っていたので朱里の分も落としておいたのだ。

雛里と同じく本と言うのは味気ないので、朱里にはぬいぐるみを取っておいた。

 

「わぁ、ぬいぐるみですね? 作れる人が少なくて、とても珍しいものだと聞いています。ありがとうございますっ。嬉しいでしゅっ! ・・・噛んじゃった」

 

ぬいぐるみを抱きしめて顔を真っ赤にする朱里。

喜んでくれたようで何よりだ、と一人満足していると、美羽の声が聞こえてきた。

 

「主様ー!」

 

「おっとと。お、美羽もちゃんと浴衣着れたんだな」

 

「ちゃんと着せたのは私ですけどね~」

 

美羽は雛里と同じく髪をまとめてアップにしている。

こうしてみるとお嬢様に見えてくるから不思議である。

七乃は物腰柔らかな風貌が、浴衣を着ることで更に増している。

中身はまぁ・・・見なかったことにするとして。

 

「呼ばれて飛び出てきたのですよー」

 

「風。・・・今日はペロキャンじゃなくて桃飴なんだな」

 

「お祭り仕様の風なのですよー。浴衣で魅力も倍増ですねー」

 

いつものように宝譿は頭の上にいるものの、ペロキャンが桃飴に、いつものひらひらとした服が浴衣へと変わっていた。

そのまま、眠そうな目をして俺の膝の上へとやってきた。

先ほどの騒ぎでシャオは俺の膝から・・・と言うより、月のそばから退避していったので、片方空いているのだ。

はふ、と満足げな息をつく風を数回撫でる。

 

「だいぶそろってきたな。・・・うん、時間もちょうど良い」

 

そういって空を見上げると、みんなもそれに釣られて視線を空に向けた。

一瞬の間の後、ひゅるるるる、と光の線が空に上る。

一番高くまで上った後、光の線は大輪の花となった。

まぁ、もうお分かりかもしれないが花火である。

火薬を手に入れ、倭国に何故か存在していた花火職人に作成してもらったのだが、結構な量を用意できたのでよかった。

まぁ、その分いろいろと苦労はあったが・・・それだけの価値はあっただろう。

空を見上げていた将たちから、ため息のような感嘆の声が漏れている。

 

「わぁ・・・!」

 

背中にわずかな重みを感じる。

桃香が俺の背中に乗り出すように体重を掛けているのだろう。

ちらりと一刀のほうへ視線を向けると、一刀もこちらを見ていたようで目が合った。

二人同時に笑い、今回の花火の成功を確信した。

これなら城壁の上で警備している兵士も祭りに参加している気分になれるだろう。

むしろ、城壁の上と言うことで他の人たちより見やすいかもしれない。

 

「・・・ん?」

 

ふと、ベンチに置いていた手を誰かに握られた。

ふっと視線を向けてみると、月が無意識に握っているようだ。

視線は花火に向けたまま、手だけ別の人間になったように動いて俺の手と繋がっている。

花火に照らされた月の顔を横目で眺めながら、来年も絶対花火を作成しようと一人決意するのであった。

 

「あー・・・」

 

しばらく花火を眺めていると、だんだんとあがる数が少なくなり、終わってしまった。

 

「終わっちゃいましたねー」

 

風のその言葉で、みんなに再起動がかかったようだ。

いっせいに息を吐いてそれぞれ感想を言い合ったりしている。

 

「はふー、凄かったねギルさん! ギルさんが見せたかったのってこれだったんだ」

 

「ああ。結構苦労して作ったからな。驚かせたかったんだ」

 

まぁ、苦労して作ったのは職人なのだが。

俺も相応の苦労をしたと言うことで。

 

「凄かったねお兄さんっ。どーんっ、って!」

 

「ああ、凄いだろ?」

 

花火が終わった後も、みんな興奮冷めやらぬと言った感じである。

まぁ当然か。火薬が珍しいこの時代で、火薬を目一杯使った花火なんて見たことあるわけ無いもんな。

 

「とっても綺麗でした。来年も、楽しみです」

 

こうして、三国共同夏祭りは大成功を収めたのだった。

 

・・・

 

夏祭りも終わり、みんな部屋まで送り届けた後、俺は後片付けの指示を出すため祭りの会場へと再度向かっていた。

すると、途中でからころ歩く副長を発見。向こうも気づいたようで、こちらに近づいてくる。

そういえば、副長も城壁に呼んだ一人であったのだが、最後まで来なかったな。

 

「お、副長。何で城壁来なかったんだよ」

 

「・・・ごめんなさい、母上とお祭り回ってたら、すっかり時間が過ぎてしまってて・・・」

 

しゅん、と落ち込む副長に、ちょっと言い過ぎたかと反省する。

 

「それなら仕方ないか。・・・で、その母上はどこに? 今のうちに挨拶しておきたいんだが」

 

「うぅ、更にごめんなさい。母上、もう帰っちゃったんです」

 

「帰った? ここに住んでるのか?」

 

「いいえ。前に隊長が来てくださった村に住んでますけど・・・」

 

「こんなに暗いのに帰ったのか?」

 

現代で夜に帰るのとはわけが違うぞ。

現代だと明かりもあったり交通手段が発達してたり、基本的に犯罪者なんていないからな。

だがこの時代はだいぶ平和になったとはいえまだ賊がいたりして夜の城外なんて危険極まりない。

 

「あ、えっと、ええ、母上もそれなりに腕の立つ方なので、大丈夫でしょう」

 

「・・・ふぅん?」

 

「う、疑ってますね? その目は完全に疑っている目です」

 

「・・・まぁいいや。理由は知らないけど、俺と会わせたくないようだし」

 

「勘が鋭すぎます。仕舞いには泣きますよ?」

 

恨めしそうな顔でこちらを見上げる副長。

泣くのは理不尽すぎないか。

 

「・・・でも、ありがとうございます。察してくれて、ちょっと嬉しいです」

 

「ま、誰にでも事情とか秘密はあるしな」

 

「隊長にも、誰にもいえない秘密があったりします?」

 

「あるぞ、そりゃ」

 

「えへへ、じゃあ、一緒ですね」

 

「何で嬉しそうなんだよ、まったく」

 

良く分からない奴である。

 

「そういえば、どこへ向かっているのですか?」

 

「どこ向かってんのか分からないのに着いてきてるのか?」

 

苦笑交じりにそう返す。

 

「夏祭りの後片付け、指示出しに行こうと思ってな。前もって打ち合わせはしてるけど、それで完璧ってわけじゃないし」

 

「ああ、隊長って実行委員長でしたね。大成功でよかったですね。おめでとうございます」

 

ぱちぱち、と小さい手で拍手を送ってくれる副長。

 

「ありがと。これで経済効果が見込めるって実証できたから、来年からも開けると思うぞ」

 

「・・・そのときは、花火、ご一緒しますね」

 

「何だよ、今日は妙に殊勝じゃないか。浴衣だからか?」

 

「服装で性格変わってたらやってらんないですよ。・・・まぁ、ちょっと気分は上々ですが」

 

そういって、副長は右側頭部に着けているお面を数回撫でた。

まぁ、それなりに楽しんだと言うことだろう。

 

「明日からの訓練も頑張ってくれよ?」

 

「う・・・。か、軽めでお願いします」

 

「仕方が無いなぁ。・・・お、見えてきた見えてきた」

 

屋台を片付けているみんなの様子が視界に入ってくる。

と言っても、取り合えず大事なものは片付けて、後の屋台とかは明日の昼間片付ける予定なので、特に指示を出すようなことは無いだろう。

ぐるっと見て回って、問題が無ければ帰っても大丈夫かな。

 

「なんか、終わった後って寂しいですね、隊長」

 

「そうだなぁ。なんかこう、終わっちゃったなぁ、って感じするよな」

 

「ふふっ。まさか隊長がそんなに繊細な感性の持ち主だとは思ってませんでしたよ」

 

「ほほう? 明日の訓練、よほど恋と戦いたいと見える」

 

「おっ、お茶目な部下の冗談じゃないですかー! やだなぁもう! ・・・だから恋さんは勘弁してもらえませんかね!? 土下座しますんで!」

 

そういって、本当に土下座の体勢に移った副長を慌てて止める。

プライド無さ過ぎだろこいつ・・・。迷い無く土下座を決断しやがったぞ・・・。

 

「ちょっ、馬鹿っ。本当にするんじゃないっ。お前今浴衣着てるんだぞ」

 

「はうっ。そうでした。これ、借り物なんですよね。危ない危ない・・・」

 

膝を着く前に止められて良かった・・・。

 

「分かったよ、仕方ないなぁ。恋は勘弁しておくよ」

 

「ありがとうございますっ」

 

いつものテンションに戻ったようだ。

副長の足取りが軽いように見える。

 

「お礼に私の帯であーれー、ってさせてあげますよ? 確か、この帯つきの服を着てるとき限定の儀式なんですよね?」

 

「お前・・・そんなことしたら回転したまま地面掘り進むことになるけどいいのか?」

 

「隊長の辞書にはちょっと自重するとかそういう言葉は無いんですか!? どれだけ本気で回す気なんですかっ!」

 

「退魔の剣持ってたら回転支援機能もあるからもっといけるな」

 

「何で高速回転前提で話が進んでるんですかっ!? 冗談ですっ! 冗談ですよ!」

 

「なんだ、つまらん」

 

「・・・本気だ・・・本気でつまらないって思ってる顔ですよこの人・・・」

 

勝手に戦慄している副長を尻目に、俺はすべての屋台の様子を見終えた。

まぁ特に問題も起こってないし、帰っても大丈夫だろう。

 

「よし、帰ろうか副長」

 

「ひっ。あ、あーれーは嫌ですっ!」

 

「やんねえよ。あんまりその話引きずると本当はやりたいと判断するぞ」

 

「さ、さーいえっさー! 帰りましょう隊長!」

 

その後、副長は部屋に帰るまでガクガクブルブルと沙和の部下のようになっていた。

・・・ちょっと面白かったので、脅かすように帯に手を伸ばしたりしてみたりもした。

そのときの副長は、雪蓮に出会った美羽の様であったと言っておこう。

 

・・・




「この浴衣っていう服、ちょっと駄目ですね」「? 涼しいし、中々良いもんじゃないか?」「えー? だって爪撃ち片方しか入らなかったし、弓も諦めましたし、重量靴も入りませんし・・・」「いつの間にか副長の服を選ぶ基準が「武器をどれだけ収納できるか」に変わってる・・・」「んもー、あ、こここうしたらもう片方入るな・・・うんっ、ぎりぎり許容範囲ですねっ」「・・・ごめんな、副長」「ふぇっ!? い、いきなりどうしたんですかっ!?」


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