それでは、どうぞ。
「はぁ? だって、人数合わせるとあなたが勝つ結果しかありえないじゃない」
は? え?
「そうよね。ギルと十何人か将がいれば、兵力が一万少なくても勝つものね」
そ、そうか・・・?
「もう全部お兄さん一人でいいんじゃないかな?」
そんなどこかのゲル化するヒーローみたいな事言われても!
「いいわね。ギル一人対残り四十三万の兵と将。・・・ふふふ、ゾクゾクするわ」
駄目だこの国王たち・・・早く何とかしないと。
結局理由はそんな国王たちの思いつき立ったらしい。
あいつサーヴァントだし一人で纏められない? 見たいな思い付きからどんどん暴走していって、あんな妙な人員配置になったらしい。
おっかねえよこの人たち。サーヴァントって言ったって限界はあるんだぜ・・・?
「・・・次の軍事訓練は休ませて貰うよ。また一人でやれとか言われたら大変だからな」
「あら、そう?」
きょとん、といかにも不思議そうにこちらを見上げる華琳。
「・・・ま、いいや。それじゃあ片付け手伝ってくる」
「うんっ、頑張ってね、お兄さん」
ああ、桃香は唯一のオアシスだなぁ・・・。
・・・いや、いかんいかん。騙されんぞ。桃香はさっき俺一人でもいいんじゃないかとか言ってたからな・・・。
「・・・とりあえず、月に癒してもらうとするか」
まだ日は高い。膝枕でもう一眠りくらいは出来るだろう。
・・・
「・・・副長の膝枕、ちょっと硬いな」
「文句言わないでくれます? と言うか、頼んできたの隊長ですよね・・・?」
ただいま俺は副長に膝枕されつつ木漏れ日に目を細めている。
何で月でも詠でもなく副長なのかと言うと、単純に月が忙しかったからだ。
訓練の治療班の仕事が終わった後、溜まった午前の分の侍女の仕事を片付けに行ってしまったのだ。
もちろん侍女でもある詠もそちらに行ってしまい、更に俺に膝枕をしてくれそうな人員は全て訓練の事後処理に追われてしまっていて、残ったのは副長一人だった。
・・・完全に膝枕で眠る気分だった俺は、まぁ副長でもいいかと妥協してこうして膝枕してもらっているのだが・・・。
「・・・もうちょっとやわらかく出来ないか。足を中心に脂肪つけてみたり」
「私に太れって言うのですか・・・?」
ぴく、と副長のこめかみに青筋が浮かぶ。
「それ以外の意味に聞こえたか?」
「やだもうこの隊長! 部下に太れって指示する人初めて見ましたよ! しかもすぐにとか無茶振り付きで!」
あぁんまりだぁ、と泣きながら叫ぶ副長を慰めるように、俺は言葉をかける。
「やったな。これで人類史に偉大な一歩を残せたぞ」
「嫌な一歩ですね・・・」
ついさっきとはうってかわって、げんなりとする副長。
だが、足をもぞもぞとさせて出来るだけ肉付きの良い所に俺の頭を動かしてみたりと気遣ってはくれているようだ。
うむうむ、きちんと隊長を労えるようになったのも地獄の特訓プログラムのおかげだろう。
・・・
あの後、璃々と一緒に遊びに来た紫苑にも膝枕をしてもらったのだが、あれは駄目だ。
いや、柔らかさで言えば月よりも柔らかいのだが・・・あの胸!
寝ている俺の呼吸をふさぐあの胸は駄目だ。死ぬ。サーヴァントが胸で窒息死とか笑えない。
え? 璃々? いやぁ、あの娘は無理じゃないかな。まだ小さいので、俺に膝枕するのは辛いだろう。
璃々もするー! とやる気はあるようなので、もうすこし大きくなったらやってもらうことにしよう。
そんなこんなで璃々と遊び紫苑に誘惑され副長に苦笑されつつ時間を過ごすと、日が暮れてしまった。
あぁ、今日は大変だったなぁと思い出しながら、当てもなく城内を歩く。
すでに副長と紫苑たちは部屋に送った。
その後俺は、自室に帰ってもやることないしとこうしてふらふらとしているのだが・・・どうしようか?
「あぁっ、ギルっ」
「お、シャオじゃないか。どうしたこんな時間に」
まるで暇なのを察知してくれたかのように俺の前にタイミングよくやってきたのは、呉の弓腰姫ことシャオである。
・・・思えば、この世界で珍しく性別が反転していない存在である。体系はロリってるけど。
そんな失礼な事を考えていると、頬を膨らませたシャオがこちらへずんずんと近寄ってくる。
足音と表情から推測するに、どうも怒っているらしい。理由は不明である。
「雪蓮お姉様から聞いたんだからねっ。シャオより先に蓮華お姉様と恋仲になっちゃって!」
「・・・あぁ、そういう・・・」
何を怒っているのかと思えば、なるほど得心した。
「別に、先に仲良くなったからって後の人が蔑ろにされるわけじゃないだろ」
「そうだけどぉ・・・納得は出来ないのっ」
「女心は複雑だなぁ・・・」
「そうだよ、複雑なんだよっ。と言うわけで、ギル、今日は私とするんだからねっ」
「あー、今日は疲れてるからまた今度。駄目か?」
「うー、むー・・・」
悩んでるなぁ。
シャオだったらそんなの関係ないとばかりに押し切りそうな物だが・・・。
もしかしたら、俺が疲れていると言ったのを気にしてくれてるんだろうか。
成長したなぁ、シャオ・・・。
「じゃあ、今日は一緒に寝るだけで勘弁してあげる」
「ま、それくらいなら良いか」
やることがないとぶらぶらしていた俺が言うのもあれなのだが、寝台に寝転がれば数分で眠る自信がある。
「じゃあ早速シャオの部屋までいこっ」
そういって俺の手を引くシャオ。
ちみっこくて暖かい手である。
・・・
「む・・・もう朝か」
瞼に朝日を感じて、意識が目覚める。
シャオの部屋で寝たからか、なんだか妙な感覚を覚える。
目を開くと、目の前にシャオの頭が。
・・・ああ、昨日は確かシャオに腕枕しながら寝たんだったか。
そのまま抱き枕のようにして眠ってしまったらしい。
まぁシャオもすやすやと眠っている事だし、不快だったと言う事もあるまい。
「あー・・・ヤバイな。今日の仕事サボりたくなる・・・」
シャオのこの抱き心地・・・程よく小さくて、程よく細くて・・・抜群の抱き心地だ。
一日中寝てろと言われても大丈夫なぐらいだ。
「・・・ぐ、だが今日は昨日の軍事訓練の報告書とか後片付けとか次の軍事訓練の企画書とかいつもより仕事があるんだった・・・」
サボると確実に愛紗が飛んでくる。物理的に。
ついでに青龍偃月刀も飛んでくるだろう。
仕事内容的に蓮華あたりも来るだろう。そうすると思春もやってくる。
・・・考えれば考えるほど、サボると大変な事になると分かる。
「仕方ない。起きるか・・・」
シャオを起こさないように腕を抜く。
ふふふ、月で鍛えたこの技術、今ならばこうして腕を抜いた事も気づかせずに寝台から降りる事も可能になったのだ!
「ふ、ん・・・っと。よし、昨日の疲れなんかは全部抜けてるな」
あれだけ動いたから何かしら疲れが残るかと思ったが・・・流石だな、英雄王ボディ。
と言うか魔力があるから疲れを感じないだけか?
魔力があればあるだけ活動できそうだしな。
「あー、そういえば副長のところに立ち寄って宝具返してもらわないとな」
ついでに新しく開発した鏡の盾を渡してこよう。
太陽の反射を利用する事によって相手の目をくらませることも出来、更には三度までならどんな魔術でも吸収する事が出来る優れものだ。
もちろんその後にその魔術を開放する事も出来る完璧な仕様となっている。
きっと副長も泣いて喜ぶに違いない。
まぁ、唯一の欠点は背中に装備していると味方に光が反射してしまうから取り扱いには気をつけないといけないところかな。
・・・なんだって? 副長に何をさせる気かって?
いや、ほら、ロマンと言うかなんと言うか・・・。副長に緑の服を着せてるのも若干そのためだし。
幸いこの世界に魔王はいないようだが、まぁ副長を強くしておけば俺の部隊を任せられるしいいこと尽くめだろう。
副長も結構気に入ってるみたいだし。
「おー・・・朝の日差しが気持ち良いなぁ」
伸びをしつつ城内を歩く。
後数十分もしたらシャオが起きて騒ぐだろうが、まぁいつもの事だ。
朝早かった(それでも兵士たちは起きはじめる時間)ためか、寝巻きに寝ぼけ眼の副長から宝具を返却してもらい、そのまま副長を着替えさせて訓練場まで引きずっていった。
まったく、世話の焼ける部下だ。
もうちょっと時間がたって目が完全に覚めてから副長には盾を渡す事にしよう。
「さて、お仕事お仕事」
今日も張り切って書類を片付けるか!
・・・
「ふえーん、何この書類の量! おかしくない!?」
「桃香様、愚痴を言う暇があったら手を動かしてください」
「あ、そういえば朝飯食べてないな・・・通りで腹が減ると思ったら」
「じゃあお兄さん、お昼一緒に食べに行かないっ!?」
「桃香様!」
「ひーんっ」
・・・面白いなー、桃香。
正直に言ってあそこまでがっつり引っかかるとは思ってなかった。
ただいまこの政務室には俺、桃香、愛紗、朱里、雛里の五人が作業をしている。
いつもの机では広さが足りないので、いくつか机を運び込んでいる。
ちょっと手狭にはなるが仕方あるまい。
何せ桃香一人では昨日の訓練の書類を纏めるなんて不可能なので愛紗の手は必要だ。
そしてその分後回しになってしまう事務書類などの処理と俺の側の訓練報告書なんかを朱里と雛里がやってくれている。
俺はいつもどおりみんなの仕事の手伝いだ。
書類の量は一番多いが、まぁこれくらいならいける。
「んー・・・と、これは、三回くらいで・・・」
「あわわ、間違えちゃった・・・えとえと、こっちが百二十だから・・・あれ?」
政務室の机の上では、桃香が愛紗に怒られながら仕事をこなしている。
運び込まれた机のほうには、俺と朱里、雛里が座っており、少し顔を上げれば対面で仕事をしている二人を見る事が出来る。
真面目な顔で何かの回数を書き込んでいる朱里と、慌てて計算をしなおして首をかしげる雛里。
・・・これは、いいものだ・・・。
もちろん表情にも声にも出さずに二人を眺め、手も止めてはいない。
しばらく作業を進めていると、政務室の扉がノックされる。
「はーい、どうぞー」
桃香が書類から顔を上げてそう声をかけると、ガチャリと扉が開かれ、月と孔雀が入ってきた。
「皆さんお疲れ様です。お茶が入ったので休憩にいたしませんか?」
月の言葉に、もうそんなに時間がたったのかと驚く。
机の端に置いておいた『絶対に狂わない時計の宝具』を見てみると、なるほどもう三時間近く経っていた。
ちなみにこの宝具、たとえ異次元に行こうと異世界に行こうと宇宙でブラックホールに飲まれても・・・は分からないけど、とにかく正確な時間を教えてくれる。
しかも知りたいと思った地域の時間を教えてくれるので、たとえここから移動したとしてもその場所での時間を教えてくれるだろう。
「わー! 休憩するするー!」
「桃香様っ・・・。まったく、仕方ありませんね」
そういいつつ愛紗も筆をおく。
休憩自体には賛成なのだろう。
「はわ、お茶菓子までありますっ」
「あわわ、おいしそう・・・」
「ふふ、美味しそうなのではない・・・美味いのだよ」
胸を張りながら孔雀は得意そうにそう言った。
「・・・孔雀が作ったのか?」
「いや? 買ってきた」
それがどうかしたのか、とでも言いたげな孔雀にため息を返しつつ、お茶菓子に手を伸ばす。
もふもふとお茶菓子を食べて満足そうな顔を浮かべる朱里たちを見ながら口に運ぶと、桃香たちにお茶を淹れ終わった月がこちらにやってくる。
「ギルさんっ、お茶をどうぞ」
にっこりと微笑んで湯飲みにお茶を注いでくれる月にお礼と笑顔を返しつつ、背もたれによりかかり息をつく。
「お疲れですか・・・?」
朱里たちにも同じようにお茶を注いだ月は、こちらを見て心配そうに聞いてくる。
そんな月に苦笑しつつ手を振って否定しながら、湯飲みを口に運ぶ。
「大丈夫。気が休まるなぁって思っただけだから」
「そうですか」
「ああ。ま、疲れたときはまた月の膝枕にお世話になろうかな」
「ふふ、分かりました。そのときはまた、ゆっくりしましょうね」
それから少しの間休憩して、仕事を再開する。
さて、甘いものも食べたし、昼までもうひと頑張りだ。
・・・
終わった。全部終わった。
報告書も陳情も草案の手直しも予算の計算も全部終わった!
俺は昼を食べる! 実を言うと大分腹が減ってる。
休憩のときに下手にお茶菓子なんてつまんだからか、もっと溶かすものをよこせと胃が要求してきているようだ。
まぁ、昼を食べたらまた書類と格闘したあとに訓練だけどな。午前中よりは楽だろう。
そんなわけでたまたま立ち寄った飯店にいた亞莎を昼飯に付き合わせ、呉の話を聞きながら食事を楽しんだ。
最初は戸惑って萎縮していた亞莎も、最終的には笑顔で話が出来るようになったので、よしとしよう。
・・・さて、そのまま亞莎をつれて呉の政務室へ。
今日は三国全ての政務の手伝いなので、訓練の後魏の仕事も手伝う事になっている。
「そういえば、政務っていつも誰がやってるんだ?」
その政務室への道すがら、亞莎に話を振る。
「ふぇっ!? え、えっと、いつもは私と冥琳様、穏様、蓮華様が主にやってます。たまに・・・本当にたまーにですけど、祭様もやったりしてます」
「・・・雪蓮は?」
「・・・私が文官として来てからは、お仕事してるのあんまり見た事ないです」
ああ、やっぱりそうなのか・・・。
雪蓮が大人しく机に座ってるところなんて想像できないからな・・・。
「あ、着きましたね」
おお、ここが呉の政務室だったか。
主に蜀の政務室で仕事をしているから、こうして他の二国の政務室に来る事はあんまりない。
あっても書類を渡してすぐに帰るくらいだ。
そのせいか、政務室についた事すら気づかなかった。
「おじゃましまーす」
きちんと扉をノックしてから扉を開く。
室内には、背筋を伸ばして椅子に座り、筆を滑らせる冥琳がいた。
「む、亞莎か。おお、ギル、来てくれたか」
入ってきた俺たちに視線だけを向ける冥琳。
冥琳の掛けているメガネが太陽の光をちらりと反射して、瞳の鋭さを増したように見える。
いつ見てもクールだなぁ、この軍師。
朱里と雛里にこのクールさがくっ付いたら無敵になるのに。
・・・あ、でも今のはわわとあわわの二人も良いなぁ。
結局、みんな違って良いじゃない、と頭の中で結論が出た。
「で、俺は何を手伝えば?」
「うむ、とりあえず亞莎と手分けして書類を片付けておいてくれ。・・・ああ、機密とかそういうのは気にしなくて良い。ギルならば、どの書類を見ても構わん」
「了解。よろしくな、亞莎」
「は、はははいっ!」
慌てつつも元気に返事をした亞莎を見て頷いた冥琳は、唐突に立ち上がる。
「すまないが、しばらくは二人でやっていてくれ」
「?」
「・・・当初、ギルを含めて四人でやる予定だった仕事なのだ」
俺の頭の上に浮かぶ疑問符が見えたのか、冥琳がそう付け足した。
四人? 残りの一人は・・・ああ、雪蓮か。
「大変だな。・・・まぁ、頑張って」
「人事のように・・・最近あれがギルに興味を持っているようでな。少しすればこうして探しに行くのは私ではなくお前になるのやもしれん」
「なん・・・だと・・・!?」
雪蓮に興味もたれるとか完璧に何かあるフラグじゃないですかー! やだー!
と言うかあの人愉快犯みたいな性格してるからな・・・。
シャオと蓮華たきつけたのも雪蓮っぽいし。
「ふふ、今のうちに楽しんでおく事だな」
メガネをくいっ、とあげる冥琳。
再びそれにあわせてメガネが光を反射する。
二人だけになった政務室に、亞莎の言葉が響く。
「あ、あの・・・わ、私は味方です、よ・・・?」
「・・・ありがとう。ちょっと今泣きそうなくらい嬉しい」
「そこまで傷ついてるんですかっ!?」
・・・
「あれっ? 何でギルがウチの政務室で仕事してるの?」
政務室の扉を開けて入ってきた雪蓮と冥琳。
はぁとため息をつきながら入った雪蓮がこちらを見て口に出した第一声がそれだった。
雪蓮の言葉を聞いて、冥琳もため息をつきつつ口を開く。
「はぁ・・・。雪蓮、昨日言っておいただろうが。訓練の報告書やらの関係で、明日はこっちにも出向いてくると」
「あれぇ・・・? そ、そうだったっけ?」
「雪蓮。まだ説教が足りないか・・・?」
「つ、次から! 次からはちゃんと覚えておくから! ね!?」
冥琳の静かな怒りを感じたのか、ずいぶん必死そうに弁解する雪蓮。
・・・雪蓮って本気で怒られると弱いのかもしれないな。意外だけど。
蓮華にも冥琳にも怒られてタジタジになっていたときがあったし。
そう考えると意外と真面目な性格してるのかもしれない。
「・・・さっさと仕事を始めろ、雪蓮。・・・それで、ギル。どれほど進んだ?」
「あー、報告書関係は全部終わってて、暇だから亞莎の手伝いしてた。えーっと、今は何やってたんだっけ?」
「あ、えっと、各部隊の予算についてですね。ギル様はやっぱり凄いですっ。状況とか季節に応じた予算配分で、二割ほど無駄がなくなりました!」
「ほう」
「あー、そこまで褒められる事じゃないよ。外の人が見たから分かる問題点みたいなところもあったし」
「ふむふむ・・・これからもたまにギルを呼び出して政務を手伝わせるべきだな」
しまった! なんか今墓穴ったっぽい!
「ちょ、冥琳、それは・・・」
「大丈夫だ。そんなに頻繁には呼ばん。今日の報告書のように、うちの人員だけじゃどうにもならなくなったときに頼む事にする」
「・・・まぁ、それなら」
今の俺ならばそのくらい出来るだろう。
それに、蓮華も政務をするからここで会えるようになるしな。
「うむ、話もまとまった事だし政務に戻るぞ、雪蓮」
「あ、あははー・・・に、逃げようなんてしてないわよー?」
がっしと雪蓮の肩を掴んで座らせ、冥琳も座る。
・・・そういえば雪蓮って政務出来るんだろうか。
・・・
無事に仕事も終わり、様々な事が起きた一日の事を思い返しながら、俺は風呂に入っていた。
呉の政務の手伝いのあと、恋と星の訓練を手伝い、その後ほぼ休憩なしで魏の政務の手伝いへ。
隣で一息ついている一刀も今日の政務の手伝いをしてくれていた。お疲れさん。
「む? おお、ギル、一刀。今日は早いな」
「おー、セイバー。訓練帰りかー?」
「うむ、そんなところだ。よいせ、っと」
三国志の時代に生きた劉備であるセイバーといえど、いきなり湯船に入るような事はしない。
きちんと体を流してから入るように俺と一刀で広めたおかげである。
「そういえば今日はギルを見なかったが・・・政務室に篭っていたのか?」
「ん? まぁ、そんな感じかなぁ」
「昨日の訓練の報告書やら何やらで、今日はずっと三国の政務室で仕事だったんだってさ」
俺の返事を一刀が補足すると、なるほどなぁとセイバーが頷く。
「私も苦労したものだ。それを考えれば、今の状況は中々にいいものだな」
こうして気持ちよく汗をかくだけでいいのだから、なんて笑いながら、体を流したセイバーが湯船に入ってくる。
ちっ、同じサーヴァントなのになんだこの差は。
「その点ギルは大変だよな。政務もやって訓練もやってだからな」
「更に夜は夜で色々と忙しいしな。ん?」
苦笑気味の一刀の後に、ニヤニヤとしながらセイバーが問いかけてくる。
「夜? ・・・ああ、そういう。そうだな、ギルは俺より大変だもんな」
「くっ・・・。いや、嬉しいんだよ? みんなが俺の事を好いてくれてるのは。・・・サーヴァントとして存在してなかったら、多分俺死んでると思うんだ。腹上死とかで」
最初は月と詠だけだったのだが・・・増えたなぁ。
だがまぁ、俺に好意を断る事なんて出来ないし。
「あ、あはは・・・冗談だと言い切れないのが辛いところだな」
一刀の言葉の直後、かぽーん、と言う気の抜けた音が聞こえる。
俺たちが入ってきてから二回目の音なので、十分経っている事になる。
「で、仕事は全て片付いたのか?」
「ああ、なんとかな」
なんとか、とは言っても、魏の手伝いに行ったときは華琳がほとんど仕事を片付けていたため手伝う仕事がないぐらいだった。
・・・代わりに、呉は大変だった。雪蓮がことあるごとに逃げ出そうとして、冥琳がそれを嗜めて・・・の繰り返しで、その二人はほとんど作業に加わらなかった。
あの時亞莎が「だ、大丈夫ですっ。私頑張りますっ」と言ってくれなかったら逃げてたかもしれない。今度お礼に何か美味しいお菓子を買ってあげるとしよう。
そんなこんなでしばらく男三人でむさむさしく風呂に浸かっていると、がららと浴場の扉が開く。
「おや? なんだなんだ、男三人でむさ苦しいなぁ」
「・・・キャスター、喧嘩を売っているなら買おうではないか」
「あっはっは、ちょっとした冗談だよ。場を和ませるための、ね」
自身の発言で立ち上がりかけたセイバーを手で制しながら、笑顔でそう取り繕うキャスター。
いや、むさ苦しいのは認めるが・・・キャスターが来たおかげで男四人になってむさ苦しさが増しただけなんだが・・・。
「・・・ぎ、ギルっ」
「なんだ、セイバーを落ち着かせるのに忙しいから後で・・・」
「いや、ちょ、こっち! こっち見て!」
あまりにも一刀が必死そうに呼んでくるので、セイバーを一旦放っておいて一刀の指差すほうに視線を向ける。
「ぶっ!?」
何故かアサシンが風呂に浸かっていた。
さ、流石気配遮断持ち。一切気づかなかったぞ・・・。
と言うかこれで男五人の大所帯になっちゃたんだけどどうするの? と言うか誰が得するの?
湯船が広いため全然余裕なのだが・・・ビジュアル的にカオスだ。
すっきり青年の一刀、いかにも武人なセイバー、マッドな雰囲気のキャスター、骸骨の仮面装備で不気味なアサシン・・・。
古今東西どこを探してもここまでカオスな面子はないだろう。
ちゃぽちゃぽとみんなと距離を取りつつ、再び湯船の淵に背中を預ける。
「そういえば、後ちょっとしたらランサーの団体さんが来るみたいだよ?」
「え?」
湯船に入ってきたキャスターが唐突にそう言うのと、扉が開くのは同時だった。
入ってきたのは十人ほどのランサー。
「皆様も入っていたのですか」
「・・・ランサーか」
ぞろぞろとやってきたランサーたちの中でも一際存在感を放つランサーがこちらにやってきた。
何だってんだ、今日は。サーヴァント大集合じゃないか。
「・・・まさか、バーサーカーとか来ないよな・・・?」
「・・・ごめん、一刀」
「へ?」
一刀が引きつった笑みのまま、こちらを向く。
「シャオに話しつけてて、元々今日、来る予定なんだ」
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」
俺が説明を終えるのと、実体化したバーサーカーが叫ぶのはほとんど同時だった。
以前から思っていた、バーサーカーをこの銭湯に入れる計画。
本当の温泉ではないが、バーサーカーにも楽しんでもらおうと思っていて、ちょうどシャオに誘われたあの夜に頼んでみたのだ。
シャオのバーサーカーの制御は完璧で、特別な命令でもない限り暴れまわる事はない。
だが、それは俺が事情を知っていて更に言えば抑える力を持っているからいえることなのだろう。
一刀は若干テンパっているようだ。
「死ぬ!?」
「大丈夫だから! シャオはちゃんと制御できてるって!」
「そ、そうか・・・ふー、びっくりしたー」
ランサーに手伝われつつ体を流したバーサーカーは、広い湯船に入ってきた。
・・・ちょっと湯量が減ったけど、気にしないことにしておく。
「ふぃー、今俺、結構凄いところにいるよな」
そういって一刀がオレンジ色の何かの上に腕を乗せた。
・・・おい、それ・・・。
「ケケケ」
「か、カボチャがしゃべ・・・ライダー!?」
「イエス! その通りだぜボォォォゥイ!」
なんだか知らんがテンションの高いライダーも加わり、浴場はかなり大変な状態に。
繁盛してるスーパー銭湯みたいな状況になってしまっている。
「・・・ライダー、それ意味あるのか?」
「あんだよぉ。カボチャが風呂入っちゃいけねーってのか?」
「そうは言ってないけど」
いつもの外套もなく、顔のついたカボチャの状態でぷかぷか浮かぶライダー。
体も見えないし、どう考えてもハロウィンの日にカボチャを風呂に浮かべてるだけにしか見えない。
「大丈夫大丈夫。風呂に入る前にマスターに磨いてもらったからよ。綺麗だぜ?」
多喜・・・苦労してるんだな。
「・・・そういえば、みんなにはマスターがいるんだよな」
「いきなりどうした?」
「いや、いつもはマスターとどんな事してるのかなぁって。魔術師とかって俺よく知らないし」
「あー・・・なるほど」
・・・
「俺は・・・そうだな、マスターとは大体一緒の部隊で動いてるな。警邏の出番は違ったりするが」
「そういえばセイバーは部隊長とかになる気はないのか?」
「ないよ。私は死んだ身だし、劉備が二人もいてはいけないだろう? それなりに抑えて過ごして行くさ」
確かにセイバーは英霊として座に押し上げられている英雄だ。
女になっている自分がいる時代に召還されるとはなんとも因果な存在だなと苦笑しつつ続きを聞く。
「後は・・・そうだな、ギルの訓練の相手もしてるな」
「・・・最近は固有結界に引き込まれるようになったけどな」
「はは、強くなっているのだからいいだろう。それに、マスターが固有結界の使用を許可してくれているのだ」
・・・銀ってそういえば魔力量多いんだっけか。
あの魔法に一番近い魔術と言われる固有結界を一週間に二回も展開させるとか戦争やるわけじゃないのにすごいな。
「ああ・・・そういえば固有結界の中は桃園なんだっけ?」
「うむ。我ら兄弟の心象風景と言えばそこだからな」
「あ、そういえばセイバーのマスターの意外なところとかあるのか?」
「意外なところか?」
「うん。やっぱりサーヴァントとして一番近くにいるんだし、それなりにお互いの事知ってるのかなって」
「うぅむ・・・意外なところか・・・」
しばらく考えこむと、セイバーはぽんと手を叩いた。
「そういえばあやつ、意外と家事や裁縫なんかの細かい仕事が得意だな。裁縫は特別才能があるようだ」
「へえ、裁縫。服に開いた穴をふさいだりって言う、あれ?」
「ああ。時間さえあれば服も作れるだろうな。服屋の店主も手際を見て驚いていたよ」
何故それを知ったのか詳しく聞いてみると、巡回の途中で服屋の前を通りすがったとき、服屋が騒がしい事に気づいた銀が店主に事情を聞いたんだそうだ。
店主は裁縫を担当する店員が急にこれなくなって、注文の品が間に合わなくなってしまいそうなんだと相談したらしい。
少しなら出来るぜ、と名乗り出た銀が店主を押し切って手伝うと、その手腕は店主が目を見張るほどだったんだそうだ。
へえ、銀にそんな才能が。今度一刀と現代服再現プロジェクトでもやってもらおうかな。
「なるほどねえ・・・。銀ってなんていうか・・・そういうのには向かない大雑把そうな性格だと思ってたよ」
「うむ、私も最初はそう思っていた。と言うか、私を呼び出した時に聞いた聖杯を得る理由は『楽して生きることが出来るようになる』だからな。大雑把と言っていい性格だろう」
「あー、そっか。銀も聖杯にかける願望があってセイバーを呼び出したんだよな」
「ああ。従軍しているときに考えが変わって、戦いを止める、って言う思いを持つようになったんだけどな」
「なるほど・・・。次は・・・ランサー。ランサーはいつもマスターの甲賀とはどんな感じなんだ?」
「私ですか」
一瞬虚を突かれたような顔をしたランサーだが、すぐにうむむと考え込み始める。
「そうですね・・・特に何かしている、と言う事はありませんね。マスターは忍者を育てる計画を立てたり実際に仕事をしたりしていますし、私たちは私たちでその後方支援や必要なときは隠れ家の改修なんかを行っていますし」
「あんまり一緒にはいないのか?」
「いえ、そういうわけではありません。仕事が終わればマスターはいつも居間で寛いでいますし、私も居間でお茶を飲んでいたりします」
そのときに会話など少々いたしますよ、と付け加えるランサー。
「例えば?」
「例えば・・・そうですね、お互いの仕事の進捗状況や・・・まぁ、他愛もない話ですね」
「そっか。でもあの隠れ家凄いよな。ほとんど日本の家屋だもん」
「ええ、まぁ、そういう風に作っていますので」
あそこに白黒テレビとか扇風機とかあったら完璧に昭和の住宅である。
甲賀の趣味なのかランサーの趣味なのかは知らないが。
「で、そんな甲賀の意外なところは?」
「意外なところ、ですか。そうですね、マスターにこんなことを言うのも不敬ですが、ああ見えてお笑い好きですね」
「お笑いって言うと・・・芸人とかが漫談するような?」
「ええ。たまに私の部下たちにやらせて大笑いしているときがあったりしますよ」
・・・なんともまぁ。
いっつもむすっとした顔をしているだけに、その情報は驚きだ。
「意外だ・・・後はえーと、キャスター?」
「私か? まぁ、一緒にいるときは大抵魔術の研究を一緒にしてるね。私もマスターも魔術師だ。それくらいしかする事がないとも言うけど」
「魔術か・・・錬金術が得意なんだっけ、キャスターは」
「そうだね。賢者の石も作れるし。得意と言っていいだろうね」
「孔雀の得意魔術って何なんだ?」
俺の質問に、待ってましたとばかりに笑顔になるキャスター。
「マスターは総魔力が低めな割に意外と多才でね。宝石魔術に錬金術、どこから仕入れたのかルーン魔術もそれなりに出来る。・・・その代わりなのか、治療魔術が苦手らしくてね。自身の腕の喪失からそれに拍車が掛かってる」
一瞬だけ、キャスターの視線がバーサーカーに向かう。
「・・・キャスター」
「分かってるって。バーサーカーに何かいうつもりはないよ。あと・・・意外なところねえ。乙女に憧れてるところとか? 意外とフリフリとした服が好きみたいだよ。良く新しい下着を買ってはギルの閨へと通ってるみたいだから」
「・・・ああ、そういう裏があったのか。いや、来るたびに下着が新調されているなぁとは思っていたけど」
「裏と言うほどでもないけどね。新しい下着を買ってギルのところに行って反応を見て、それをもとにまた新しい下着買いに行ってるみたいだね」
・・・そんな甲斐甲斐しいことしてくれてたのか、孔雀。
クールな顔の裏では意外と乙女チックな事考えてたりして。
ふむ、今度お姫様が着るようなドレスでも着せてみるか。案外喜ぶかもしれない。
「えーっと、それじゃ次は・・・ライダーかな」
「アァン? 俺? あーっと、特にねーなー。キノコ採取したり動物狩ったりを一緒にしてるぐらいだわなー」
「なんてサバイバル・・・そういえば多喜って運動が好きだったよな。そういうのも関係してるんだろうか」
二人して野生児みたいな事やってるんだな。
それなりに給金貰っているだろうに、動物や野草で腹を満たしてるのか。
「後は意外なとこかー。あー、んー、あぁーっと、酔うと泣き易くなるとか?」
「泣き上戸?」
「あー、それそれ。一滴でも酒が入ると、涙もろくなって困るね。まぁそれはそれで楽しいから一緒に酒は呑むけど」
「呑めるの!?」
一刀の驚いた声に、ライダーは不満げに声を上げる。
心なしか、目と口の奥に光る炎が大きくなったような気がする。
「呑めないわけないだろ。口があるんだぜ?」
「いや、あるって言っても・・・」
「・・・一刀、そういうものなんだって」
「ギル・・・お、おう。納得しておくよ」
俺の言葉に何かを感じたのか、とりあえずは納得してくれたようだ。
「後は・・・バーサーカーとかは何やってるんだ?」
「あー、ちょくちょく裏路地への道を塞いでるのは見るな」
「あ、それ俺も見る。何やってんだ?」
「俺なんか覗き込もうとしたら吼えられたよ・・・」
みんながそれぞれあーだこーだと意見を交換する中に、俺も言葉を投げかける。
「あれ、シャオの秘密の場所への道を守ってるんだって」
「へえ、そうなんだ」
「・・・っていうか、本人に聞いたのか? それともバーサーカー吹っ飛ばした?」
「後者は流石に危ないだろ。この城下町吹っ飛ぶぞ?」
・・・確かに、バーサーカーと打ち合うなら町の一つや二つぶっ潰す事も考えないといけないだろう。
いや、もしやるんだったらそうならないようにはするけどさ。
「路地裏で迷ってたら偶然その秘密の場所に迷い込んじゃってさ。それからいろいろ聞いたんだよ」
「へえ、そういうことだったのか。後・・・アサシンって喋れるの?」
「・・・良く響と念話してるのは見るけどな」
確か設定的には喋れるはずなんだが・・・。
喋れるのか喋らないのかは分からん。
「じゃあラストはギルだな」
「俺かぁ・・・。そうだな、二人でいるときはいつもまったり過ごしてるよ。お茶飲んだりな」
「恋人どうしだもんな」
「まぁね。あと意外なところって言ったら・・・意外と黒い、とか?」
「黒いって言うと・・・あれか、前に言ってた黒月って奴か」
「そうそう。あのときの月は怖い。少しでも口答えすると令呪ちらつかせてくるし」
「想像できないな・・・」
「・・・強く生きろ、ギル」
ぽん、と一刀に肩を叩かれた。
凄く同情されてる気がする。
・・・
あの後それぞれのマスター談義に花が咲いてしばらく話し込んでいたのだが、一刀が上せかけたのをきっかけに風呂からあがる事になった。
うーむ、それぞれのマスターの新しい一面を見ることが出来た、有意義な時間だったな。
「あ、お帰りなさい、ギルさん」
「お、月。来てたのか」
「はい・・・ん、ひゃっ、くすぐったいです」
くしゃくしゃと月の頭を撫でてから、首に掛けていたタオルを干す。
こうしておけば、明日また使えるだろう。
「今までお風呂に入っていたんですか?」
「ん? ああ、そうだよ」
「とっても長湯ですね。私だったら上せちゃいそうです」
「はは、一刀も上せそうになってたな」
「北郷さんもいたんですか?」
「ああ。サーヴァントの六人もいたし、凄い大所帯だったよ」
「ば、バーサーカーさんってお風呂入れるんですか・・・?」
きょとんとした顔で月が聞いてくる。
ん、まぁ、疑問に思うよな、そこ。
「ああ、シャオがきちんとバーサーカーに言い聞かせてたみたいだし、大丈夫だったよ」
「あれ? サーヴァント全員と言うことは・・・ライダーさんとかアサシンさんも・・・?」
お風呂入るんですか? と月の視線が問いかけてくる。
その日の夜は、風呂場であった事を話して聞かせ、いつものように二人で眠りについた。
・・・
「愛紗(物理)。偃月刀が飛んでくる。」「・・・(特殊)だとどうなるんだ?」「愛紗特製の料理が飛んでくる」「ムドオンカレーと同じレベルなのか・・・」
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