真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「あれは作らなくていいのか?」「ん? なんか作ってないのあったっけ?」「タライとホース」「・・・それ作るの、神様に頼まないと無理かなぁ・・・」


それでは、どうぞ。


第二十四話 副長勇者計画実行のために

ある日の朝。

午前中の訓練が行われているはずの中庭を貸し切り、俺と恋が仕合をしていた。

 

一撃(けん、あわせる)無追(ことかなわず)

 

「エア!」

 

長剣形態の軍神五兵(ゴッドフォース)と乖離剣がぶつかり合い、火花を散らした。

すぐに二つは離れ、再び打ち合わされる。

 

「まだ、いく・・・!」

 

「こいっ!」

 

激しい音を立てながら、二つは何度もぶつかり合う。

右からエアが襲い掛かれば、長剣がそれを打ち落とす。

その反撃とばかりに長剣が上から振り下ろされると、エアがそれを受け止める。

 

「く、う・・・! まだまだぁ・・・!」

 

長剣を横に逸らしながら、俺はエアを振るう。

 

二刀(これ、ふれる)神速(ことあたわず)

 

恋は慌てることなく双剣形態に変化させると、片方の剣でエアを逸らし、残った剣で俺の胴を薙いでくる。

一歩踏み出し、剣速が最大になる前に鎧で受ける。

一瞬恋が驚いた顔をするが、すぐに表情を戻し、膝蹴りを放ってくる。

それを左手で受け止め、足ごと体を持ち上げる。

 

「っ!」

 

「ちっ!」

 

だが、完全に持ち上がる前に恋がもう片方の足で俺の胸元に蹴りを入れて離脱する。

蹴りを入れた勢いを利用し、空中で後方にくるりと回りながら後ろに下がった恋は、猫を思わせるしなやかさで地面に着地した。

そのまま流れるような動作で双剣の形態を弓の形態へと変化させ、俺がエアを防御するために構えると同時に矢を発射した。

 

必中無弓(ゆみ、きそうかちなし)

 

「くうっ!」

 

これがヒットしてしまえば、一手隙が出来る。

どんなに短い時間であろうと、恋という強敵を相手に隙を見せるのは致命的だ。

落ち着いて、しかし動作は速く。確実に矢を弾かねばならない。

 

「セイッ!」

 

がぁん、と鈍い音を立ててエアが矢を弾いた。

鈍い振動が腕に響くが、無視できる程度だ。

それよりも、この隙を逃すわけには行かない。

必中無弓(ゆみ、きそうかちなし)は確かに速度も威力も申し分ない形態だ。

だが、それゆえに隙もある。

矢を放った一瞬。どんな行動をとるにしても一瞬体が硬直する。

恋の化け物じみた身体能力を持つならば無視していいほどの硬直だが、このレベルになると無視できないものとなってくる。

迷うことなく俺は地面を蹴る。おそらく土が足の形に抉れているだろうが、そんなものを気にしている暇は無い。

 

「っ・・・!」

 

「・・・絶武(ほこ、まじえるに)・・・」

 

「遅いっ!」

 

恋は形態を変えようとするが、一瞬俺のエアのほうが早かった。

弓のままエアを受け止める恋。

 

「く、はや・・・い・・・!」

 

「俺だって、成長するのさ!」

 

最近は特にな!

セイバーとの特訓では、まず三人を捌く敏捷が必要になるからな。

細かい隙だって、目敏く見つけないといけないし、いろいろと大変なのだ。

 

「でも、恋も・・・強い」

 

全身を使ってエアを押し返した恋は、エアと弓の隙間を縫って掌底を放ってくる。

エアの回転に巻き込まれ、恋の腕が削れて血飛沫が飛ぶ。

すぐに赤兎無尽(せきと、いまだしなず)で回復したものの、まさか回転しているエアをかするように放ってくるとは思ってもいなかったので、驚きでその掌底を避けてしまった。

神秘も何もない攻撃なので額ででも受ければよかったのだろうが、気が動転しているときというのは思わぬ行動を取ってしまうものだ。

 

絶武(ほこ、まじえ)無双(るにあたわず)

 

「ちっ」

 

俺が掌底を避けたとき、すばやく俺から距離を取った恋は、矛の形態に変化させてから再びこちらへ踏み込んでくる。

空気を切り裂きながら頭に迫る横薙ぎの斬撃を、体を反らして避ける。

俺の眼前を刃が通り過ぎ、髪の毛を数本切っていく。

もちろん避けるだけではない。体を反らしながら、エアを上へと斬りあげる。

 

「っ」

 

恋から漏れる、短い吐息。

まさか、という驚きが混ざっているように思える。

 

「んっ・・・!」

 

横薙ぎに振った矛の持ち手を器用に手繰り寄せ、エアの一撃を防いだようだ。

だが、無理な体勢で受け止めたらしく、恋は少し苦しそうな声をあげた。

 

「まだまだっ!」

 

俺は右手に力を入れながら、体勢を戻す。

眉を若干八の字に曲げながらも鋭い瞳を崩さない恋と一瞬だけ目が合う。

この機を逃すほど俺もバカじゃない。

一気に畳み掛ける!

 

「ふっ、はっ、せい!」

 

突き、横薙ぎ、振り下ろし。

そのすべてを恋は矛で受け止め、受け流し、相殺する。

 

金剛(たて、くだけ)盾腕(ることなかれ)・・・!」

 

まだラッシュが続くと判断したのか、恋は俺の攻撃と攻撃の合間に軍神五兵(ゴッドフォース)を盾の形態へと変化させた。

矛を振り回すより小回りが利いて、更に耐久ステータスが上昇する盾の形態のほうが良いと判断したのだろう。

 

「しっ・・・!」

 

鋭い声。

槍のように放たれた拳が振るわれたエアを弾く。

おおよそ拳が放つことは無い音を立ててエアの一撃を防ぐと、形成を逆転しようと二撃目が飛んでくる。

だが、俺もここでわざわざ攻め手を譲ることはしない。

エアを振るう。何度も、何度も。

型なんて無い。きちんと剣の道を修めた人間から見れば、滅茶苦茶と評されても仕方の無いものではあるが、それが俺には向いている剣なのだ。

俺の体は剣士(セイバー)ではない。槍使い(ランサー)でも、騎兵(ライダー)でもない、弓使い(アーチャー)であり、王だ。

故に剣の正しい型やら振るい方なんて知らない。知ったところで、今更直す気もない。

一歩踏み出したら体がぶつかるほどの至近距離で、乖離剣と拳がぶつかり合う。

 

「ギル・・・楽しい・・・恋、楽しい・・・!」

 

「はっ。流石恋だな。俺は一本取るために必死だって言うのに!」

 

珍しく歯が見えるほどに笑った恋に苦笑いを返しながら、そう叫ぶ。

その間も、もちろんお互いに手を休めはしない。

サーヴァントであり、人間を超えている俺に良くここまで食いついてくると思うが、おそらく赤兎無尽(せきと、いまだしなず)で自動回復および身体強化されているためにそんな無茶が可能なのだろう。

常人なら、怪我か痛みですでに膝を折っている頃だ。おそらく恋の脳内ではアドレナリンがドバドバ出ているに違いない。

――ああ、それなら笑っている理由にも納得がいく。

 

「っ!」

 

一瞬。

恋の膝が、かくんと落ちた。

俺たちが好き勝手に踏み、抉ったために生まれた土の段差に足を取られたのだろう。

数ミリにも満たない体勢の変化が、拳の威力と方向をゆがめる。

その拳をエアではじくと、恋の体勢がよろりと崩れた。

 

「はあぁぁぁぁっ!」

 

その隙を逃すわけが無い。

叫びながら、エアを振り下ろす。

 

「ぐ、う・・・あぁぁぁっ・・・!」

 

それに応じるように、体勢を崩しながらもアッパーが放たれ、エアとぶつかる。

そういえば、恋が叫ぶところなんて初めてだな、なんて妙な感慨が頭の隅に浮かぶ。

いくつもの音が混ざったような、ガンともゴンともギンとも聞こえるような音を立て、恋の拳が打ち負ける。

 

「とったっ!」

 

そのまま返す刀で恋の首元へとエアが吸い込まれていき・・・。

 

「・・・まいった。恋の、負け」

 

寸前で、ぴたりと止められていた。

・・・勝った、とは言い辛いかな。

なぜなら、俺の腹の前にも、恋の拳が迫っているからだ。

あの時、恋はアッパーを放った拳がエアにぶつかったと同時に打ち負けることを悟ったらしく、もう片方の手を俺の腹へと放っていた。

今更迎撃は間に合わない、と防ぐより攻撃にエアを振ったのだが、それがこうして先に相手にたどり着いただけのこと。

 

「ふぅ・・・相打ちってところかな」

 

「・・・そんなことない。ギルのほうが勝ってた」

 

「はは、恋があそこで躓いてなければ、俺が負けてたと思うよ」

 

「・・・ん、あれは、びっくり」

 

こくり、と頷きながら恋は足元の土を蹴る。

その後均すように靴底を動かしているのを見るに、少し気にしているらしい。

 

「だから、引き分けってことで」

 

「・・・んーん。それでも、ギルの勝ち。・・・戦場では、何が起こってもおかしくないから」

 

「強情だなぁ」

 

「ギル、も。・・・普通は、勝った事を喜ぶ」

 

まぁ、そういわれればそうなんだけど。

殺す気ではなかったが、宝具を装備して本気だった恋にエアを使用したとはいえ勝利したのだ。

普通なら誇ってもいいことだろう。

つい忘れそうになるが、恋はかの呂布奉先。三国志最強といわれている呂布が宝具である軍神五兵(ゴッドフォース)を持っているのだ。

鬼に金棒ってレベルじゃない。

 

「・・・まぁ、今日は勝った事よりも・・・」

 

「・・・?」

 

「恋が叫んでるのを聞けただけ、よしとしようかな」

 

「・・・! あれは・・・忘れる」

 

ぎゅう、と俺の腰についているマントを引っ張り、上目遣いにこちらを見上げてくる恋。

・・・いや、可愛い。可愛いけど、あれを忘れるのはちょっと難しいかもしれない。

 

「ギル、忘れないと・・・」

 

そこまでいうと、くぅ、と恋の腹の音が聞こえてきた。

勝負の前に腹いっぱい食べたはずなんだが、もう消費したというのか・・・!

まぁ、それであれだけ動けるなら、燃費がいいのかもしれないな。

 

「昼飯、食べに行こうか」

 

朝食を取り、少しの休憩のあと今までぶっ続けで戦ってきたのだ。

少し早い昼食だと思えばいいだろう。

 

「・・・ん」

 

素直に首肯を返す恋の頭を撫でながら、町へと向かう。

歩きながら鎧からライダージャケットへの着替えを済ませ、隣を歩く恋に今日は何を食べるか聞いてみる。

まぁ、沢山食べられれば特にこだわりは無いだろうけど、店を選ぶときに参考になるかなと思ってのことだ。

予想通り何でも良いと返され、さてどこが一番沢山食べられるか考えつつ、町を歩く。

 

「・・・」

 

くい、と少しだけ服を引っ張られる感触。

何度もされていて覚えてしまったこの感覚は、恋が裾を握っているものだろう。

ちらりと引かれている裾へと目を移してみると、そこには考えていたとおり、恋の手が。

 

「・・・掴んでて、良い?」

 

「構わないぞ」

 

いつものように服の裾を握ってくる恋が珍しく戸惑いつつそう聞いてきたので俺も内心戸惑いつつ許可を出す。

ううむ、恋なら許可なんて要らないし普段は許可なんか取らずに掴んでくるのだが、何か心境の変化でもあったのだろうか。

 

「・・・ギル」

 

「ん?」

 

「・・・なんでもない」

 

「はは、変な恋だな」

 

「・・・ん、恋、へんかも」

 

「?」

 

「なんでもない。早く、ごはん」

 

よほど腹が減っているのか、そう急かしてくる恋。

 

「分かってるって」

 

言葉を返しながら、人ごみの中を進んでいく。

午前中のこの時間帯は、町に人があふれる時間帯でもある。

それなりに移動には気を遣わなければならないだろう。

 

「・・・んっ」

 

そんなことを考えていると、唐突に恋が声を上げて俺に抱きつくようにぶつかってきた。

 

「おっと。大丈夫か、恋」

 

どうやら人にぶつかってしまったらしい。

三国志最強の将とはいえ、あの勝負の後では流石に疲労もたまっているのだろう。

腹が空いているというのもあるのかもしれないな。ぶつかられて踏ん張れずに倒れこんだのも理解できる。

 

「ほら、俺の腕で良いなら貸すからさ。つかまって良いぞ」

 

「・・・ありがと」

 

腕全体を抱きしめるようにくっつく恋。

・・・強さとか無口なこととかで忘れそうになるけど、恋って結構胸あるんだよな・・・。

こうして腕に当たる感触からすると・・・Dぐらいか?

煩悩全開でそんなことを考えながら、人ごみの中を歩く。

たまに人に押された恋がその胸を腕に押し付けたときの感触を楽しみつつ、目星の店まで歩いていった。

今日は恋と引き分けるぐらい頑張ったのだから、これくらいの役得はあってもいいだろう。

 

・・・

 

「・・・なぁ、もう城だけど・・・」

 

「?」

 

俺の言葉に、恋は首をかしげてこちらを見上げてくる。

 

「いや、もうつかまらなくて大丈夫じゃないかなぁって」

 

昼食を食べて城まで帰ってきたのだが、いまだに恋は俺の腕を抱きしめて放さない。

どうしたんだろうか。今日はいつにもまして甘えてきている気がする。

 

「何か、あったのか?」

 

「・・・ん」

 

どっちとも取れる返事をして、恋は俺から目を離す。

・・・どうやら、あまり言いたくない理由らしい。

なんだろうか。・・・もしかして、あの仕合でどこか怪我したとか?

確かに今日は恋にしては弱弱しい足取りだし、食事のときもずいぶんおとなしかった気がする。

おかわりも30回くらいしかしてないし・・・あれ? 大人しい・・・?

 

「・・・言いたくなったら、言ってくれよ。相談には乗るから」

 

「・・・ん。ありがと」

 

「どういたしまして。・・・ほら、もう恋の部屋までついたぞ」

 

「はやい・・・」

 

「早い・・・か?」

 

俺の言葉に、首肯を返す恋。

そうかなぁ。恋がくっついているから、いつもの倍以上の時間を掛けて慎重に歩いてきたんだけど。

 

「夜」

 

「ん?」

 

「夜、何してる?」

 

「何って・・・寝てるかな」

 

「そう」

 

それだけつぶやいて、恋は部屋の中へと帰っていった。

・・・?

 

「なんだったんだろうか」

 

「ちーんきゅぅ~」

 

「はっ、この声は・・・!」

 

声の聞こえてきた方向に振り返ると、すでに飛び上がり体勢を整えているねねが見えた。

 

「きぃぃぃっく!」

 

「フィッシュ!」

 

「うなぁう!」

 

跳び蹴りを放ってくるねねの足を掴み、こうして逆さづりにするのも、慣れたものだ。

出来ればあんまり慣れたくは無いけどな・・・。

 

「離すのですー!」

 

「はいはい」

 

よいしょ、とねねの上下を元に戻して地面へとおろす。

 

「で、今日は何のようだ?」

 

「何のようだ? じゃないのです! 恋殿の部屋の前で、何をしてるのですかっ! ま、まさか・・・!」

 

「何してるって・・・ああ、違うよ。今恋を送ったところでな。もう部屋に帰ろうとしてたんだ」

 

「・・・ま、紛らわしいのです!」

 

「・・・ねねって可愛いよなぁ」

 

「い、いきなりなんなのですかっ! な、撫でるななのです!」

 

何が可愛いって自分が勘違いしてることに気づいて頬を真っ赤に染めたりするのが可愛いよな。

この小動物的な可愛さがねねの魅力だよなぁ・・・。

 

「うぅ~・・・」

 

「さて、それじゃあ俺は帰るよ。ねねも、仕事があるなら早く戻るんだぞ」

 

「分かってるのです!」

 

ふん! とそっぽを向いて、そのまま外套を翻して走り去っていくねね。

・・・さて、俺も午後の仕事に行かないとなぁ・・・。

 

・・・

 

「・・・ねえ、壱与を何とかしてくれない?」

 

「それより先に、お前が散らかした書類を何とかしてもらおうか。話はそれからだ」

 

「う・・・。わ、分かったわよ。わらわが拾えばいいんでしょ、拾えば」

 

「ほう? 文句がありそうな口ぶりだなぁ・・・?」

 

「喜んで拾わせていただきますっ!」

 

「よろしい」

 

仕事中の机に転移してきた卑弥呼が再びその衝撃で書類を散らしやがったので、お仕置きついでに書類を拾わせる。

流石に俺も、ここまで仕事の邪魔をされてキレないような聖人君子ではないのだ。

 

「拾ったわよ・・・」

 

「そこにおいといて。で、何だって?」

 

反省しているようだし、これくらいにしておくか。

安心させるように頭を撫でつつ話を聞きだすと、どうやら壱与が大分ハッスルしているらしい。

 

「以前壱与を連れて帰った後、酷かったのよ。わらわに四六時中付きまとって、次はいつ行くんですか、次はいつですか、って・・・あれ、頭おかしくなるんじゃないかと思ったわ」

 

「相当懐かれたみたいだな・・・」

 

「懐かれた、なんて言葉じゃ生ぬるいわ。あんたのことをずいぶんと愛してるみたいよ? わらわ、あの子が書いた家族計画読まされたもの。ギルとの」

 

一目ぼれにしては愛が重くないですか!?

というか、やっぱりあの娘って・・・

 

「す、ストーカー・・・!」

 

「あの子、ギルとの間に五人の子供を授かる気でいるわよ」

 

「部屋の結界強化しておこうかな・・・」

 

本格的に貞操の危機である。

進入してきたことを感知する結界を部屋に張ってあるのだが、それの強化が必要かな、と思ってつぶやいたのだが・・・

 

「無駄よ。あの子、わらわより魔術の才能あるって言ったじゃない。結界なんてなかったかのようにするっと抜けるわよ」

 

「なんて娘を弟子入りさせたんだ・・・」

 

「それは、わらわも反省しているわ・・・」

 

はぁ、と二人してため息をつく。

まさかそこまで想われているとは・・・。

 

「仕方ない、これ以上酷い行動に出る前に、話し合う必要があるな」

 

「・・・ほ、本気で言ってるの?」

 

あの傍若無人を体現したような魔法使いである卑弥呼が戦慄するほどのことを俺は言ってしまったようだ・・・。

ちょっとまて、それマジでやばいんじゃ・・・。

 

「ギルが思ってる数十倍はまずいことになっているわよ?」

 

「・・・いや、それでも一応話はしておこうかな。・・・その様子だと、俺に会うためだけに第二魔法を完成させかねない・・・」

 

「いや、まぁ、もう九割は体得してるんだけどね・・・」

 

「ほぼ完璧じゃないか!」

 

「そんなに褒められると、照れてしまいますね・・・」

 

俺が叫ぶのと同時に、背後から声と魔力反応が。

いやな予感がする・・・振り向きたくない感じのいやな予感が・・・!

 

「・・・ひ、卑弥呼、俺、急に外を走ってきたくなっちゃったなぁ」

 

「ぐ、偶然ね。わらわもちょっと運動しようかなって思ってたところよ」

 

「それなら私も一緒にお願いしますっ」

 

「おわっ!」

 

いきなり背後から抱擁される。

間違いない。この声、妙な行動力・・・壱与だ!

 

「えへへー、ギル様に会うために第二魔法頑張って勉強して、会得してきました!」

 

「ちょ・・・」

 

「何でここにこれたかというと、卑弥呼様の痕跡を辿ってきたからですっ」

 

卑弥呼が何かを聞く前に先回りして答える壱与。

・・・流石は予知に近い占いが出来るだけはある・・・魔法使いになって、更に強力になったんじゃなかろうか。

 

「・・・はぁ、ちょっと落ち着くか」

 

「そうね・・・もう壱与のことで驚くのはやめにしておくわ」

 

「? どうしたんですか、お二人とも・・・あっ、そ、そうだ・・・すみませんギル様、お背中に乗ったりして・・・!」

 

壱与は俺の背中から飛び降りると、すばやく俺の前に回って膝をついた。

完璧な臣下の礼である。なんつーことだ・・・。

 

「いきなりお背中に飛び乗ったりして申し訳ありません! お久しぶりに会えて、嬉しくなっちゃってつい・・・申し訳ありません!」

 

「いや、いいよ。そこまで怒ることじゃないし」

 

書類をばらけさせないだけ卑弥呼よりはましだ。

 

「で? 第二魔法完成させたんだって?」

 

「はいっ! 卑弥呼様がいなかったので、ご報告が遅れました!」

 

「それは良いんだけどね・・・後数年かかると思ってたのに・・・」

 

規格外ね・・・と呆れたように呟く卑弥呼。

その言葉には同意せざるを得ない・・・。

 

「今日はその報告にきただけか?」

 

「いえ! せっかくですので、しばらくギル様の身の回りのお世話などをさせて頂ければと!」

 

「・・・悪いけど、間に合ってるよ」

 

掃除洗濯は侍女たちがやってくれるし、仕事の管理は朱里と雛里が受け持ってくれている。

魔法を使えるようだが、日常生活で魔法を使うような身の回りの世話ってないからなぁ・・・。

 

「えぅ・・・そ、そうですか・・・えぐっ、そうですよねっ。私みたいなのは、要りませんよね・・・」

 

「な、泣くなよ・・・ああもう、分かったから。今日一日、壱与に侍女として俺についてもらうから」

 

「えぐ、ほんと・・・ですか?」

 

「ほんとほんと。だから泣き止めって。ほら、これで涙拭いて」

 

懐にいつも入っているハンカチを壱与に渡すと、少し逡巡した後それで涙を拭いた。

 

「これ、洗って返しますね・・・」

 

「ん? あー、いいよ、洗わなくても」

 

汚れるためにあるようなものなんだから、涙程度でそこまでしてもらうこともないだろう。

涙を拭いた後のハンカチを返してもらおうと手を伸ばすと、壱与はハンカチを抱きしめるようにして俺の手から逃げた。

 

「い、いいえ! 洗ってから返します! それまではお、お借りしておきたいのですが・・・」

 

「・・・なんだかいやな予感がするから返してくれ」

 

「や、やっ!」

 

「やっ、って! 子供か!」

 

・・・はぁ・・・ハンカチの一枚くらい、良いか。

別になくなっても困るものじゃないし・・・。

 

「よし、じゃあ俺は仕事を再開するから、壱与も手伝ってくれるか」

 

身の回りの世話、というカテゴリには入っていないかもしれないが、仕事の補佐くらいは出来るだろう。

邪馬台国女王である卑弥呼の下にいたのだし。

 

「もちろんですっ!」

 

「ん、じゃあこっちの書類を項目別に分けて・・・」

 

「じゃ、わらわはお茶でもいれてくるわー」

 

「お、ありがと」

 

ばたん、と卑弥呼が部屋から出て行く。

卑弥呼の淹れた茶かー・・・初めて飲むかもなぁ・・・って!

 

「しまった、あいつ・・・逃げたな・・・」

 

茶を淹れるのを口実にして、この部屋からの逃亡を図りやがった・・・。

こりゃあしばらくは帰ってこないな・・・。

 

「んーと、これはこっちで・・・」

 

まぁ、仕事はまじめにする娘みたいだし、しばらくは心配ないかな。

卑弥呼と同じく、黙ってりゃ可愛いんだけど・・・。

 

「ぎ、ギル様・・・そんなに見つめられると・・・きゅんっ」

 

・・・うん、もう諦めるとしよう。

 

・・・

 

「はい、お茶」

 

ことん、と目の前に湯飲みが置かれる。

それを横目でちらりと見てみると、湯気が一切立っていない。

 

「ありがと。一時間もかけて淹れてきてくれたんだから、相当美味しいんだろうなぁ」

 

皮肉げに口角を歪めて卑弥呼に言うと、つい、と顔を逸らして一言。

 

「・・・逃げるが勝ちって奴よ」

 

「もういいや・・・」

 

仕事が終わった後。

壱与に書類の片づけをお願いしてあるのでこの部屋にはいない。

それを狙ってか、ようやく卑弥呼が茶を淹れて帰ってきたのだ。

 

「あー、温い・・・」

 

「まぁ、三十分は放置してたからね。当然じゃない?」

 

「おかしい。何かがおかしいぞ卑弥呼」

 

「それよりも・・・ね?」

 

「は? おい、そろそろ壱与も戻ってくる頃だぞ」

 

そっと俺にしなだれかかる卑弥呼をそういって抑える。

だが、卑弥呼に引く気はないらしい。徐々に力を増しながら俺に唇を近づけてくる。

 

「壱与が第二魔法覚えた以上、こうやって二人きりなのも減るかもしれないじゃない? だから、今のうちにわらわと・・・」

 

「・・・はぁ、仕方ないな」

 

効果があるかは分からないけど、執務室に魔術を掛けておこう。

接近を感知する結界と、扉が開かなくなる魔術と・・・後宝具をいくつか使って、扉を打ち付けておこう。

 

「これでちょっとはマシかな」

 

「そうね。・・・じゃ、はい、脱がせて?」

 

「緊張感のない・・・まぁ、いいか」

 

卑弥呼とするのも久しぶりだから、嬉しいのも事実だ。

ノリノリで服を脱がせながら、執務室の机に押し倒す。

 

「興奮してきた・・・服を脱げ」

 

「いや、今脱がしてるじゃないの。どうしたの、ギル?」

 

「・・・いや、平行世界から変な電波を受け取っただけだ。気にするな」

 

「そう?」

 

「ああ。・・・というか、いつも思うんだけどこれちょっと脱がしづらいな・・・」

 

「ん、ここをこうして・・・」

 

半分以上卑弥呼に脱いでもらったりするアクシデントもあったが、無事にすべて脱がせることが出来た。

その後はもちろん、お楽しみタイムでございます。

・・・ちなみに、俺と卑弥呼が一番盛り上がった瞬間に壱与が帰ってきたのは焦った。

扉をノックする壱与に、遠隔で天の鎖(エルキドゥ)を発射して縛っておいた。

嬉しそうに嬌声を上げていたのにはびっくりしたが、まぁ壱与だし、と納得しておいた。

 

・・・

 

卑弥呼も満足し、壱与も俺の身の回りの世話に満足して帰っていった後、俺は部屋にて寝台に倒れこんでいた。

そうかぁ・・・魔法使いが二人かぁ・・・凄いな邪馬台国・・・。

 

「ふぁ・・・にしても、今日は疲れた・・・」

 

そういえば最近は誰か彼かが傍にいたので、一人でこうして眠るのは久しぶりな気がする。

たまには、一人もいいかもしれないな。・・・ちょっとだけ、寂しい気もするけど。

そんな益体もないことを考えていると、だんだんと意識が落ちていく。

・・・そして、鳥の鳴き声と朝日で目を覚ます。

うお、凄いな・・・目を閉じたと思ったら朝だったとは。

体はかなり調子いいので、きちんと睡眠は取れていると思うが・・・なんだか、眠った気がしないというのも事実。

 

「二度寝するかなぁ・・・」

 

午後まで暇だし、朝早く起きてもすることないし・・・。

まどろみつつもう一度寝ようと布団を手繰り寄せると、なんだか違和感が。

 

「・・・?」

 

あれ、なんだか布団の中が暖かいというより・・・暑い?

それに、なんだか腰の辺りが重いような・・・。

 

「っ!」

 

誰かが布団の中に潜んでやがる!

一瞬で覚醒した意識で体を掌握し、高速で自分の布団を剥ぎ取る。

刺客ではないだろうが、知らないうちに布団の中に潜り込まれているというのはちょっと怖い。

 

「・・・おはよ」

 

「・・・恋?」

 

「ん」

 

「何して・・・あ、やめろって、ベルトに手をかけるな!」

 

「?」

 

なんで? という顔をして首をかしげる恋。

いやいや、むしろ何でいいと思ったのだろうか。

 

「ギルは、何もしなくて良い」

 

「いやいやいや、そういうことじゃなくて、何でこんなことをしてるかって・・・」

 

「・・・朱里の持ってる本で、勉強してきた。大丈夫」

 

だ、駄目だ・・・安心できる要素がない。

朱里の本ってあれだろ、艶本だろ。

しかも最近は朱里過激なやつしか集めてないし・・・。

 

「まず、舐める」

 

「ばっ、とりあえず手をはな・・・む、無駄に力強いな・・・!」

 

ぎぎぎ、と恋の腕には万力のような力が篭っていて俺のベルトから手を離さない。

こんなところで三国最強の力を振るわないで欲しいんだが。

 

「恋、ギルのこと大好き。・・・好きな人を気持ち良くさせると喜ばれるって本に書いてあった」

 

「本に書いてあることを鵜呑みにするのもどうかと思うよ俺は」

 

会話をしつつも、恋はベルトにかけた手の力を緩めないし、俺も恋の腕を引き離そうと必死だ。

何がここまで恋を突き動かすのか・・・!

 

「お、落ち着いて話し合おう! 何でこんなことをやらかしたかっていうのは・・・」

 

・・・ああ、それは本人が言ってたな。

俺のことが好きだから、って。・・・ううむ、つい口から出たって感じじゃないよなぁ。

 

「ん。ギルのこと、大好き。好きな人とは、こうするって月も言ってた・・・」

 

月・・・なんてことを教えてくれたんだ!

 

「分かった! 分かったからいったん手を離してくれ!」

 

俺がそういうと、しぶしぶといった様子で恋はベルトから手を離す。

ふぅ、と安堵の息を吐きつつ、警戒は怠らない。

いつ恋が手を伸ばしてくるか分からないからだ。

 

「・・・恋、少し手順を吹き飛ばしすぎだ」

 

「手順?」

 

「そう。まず、お互いが好き合ってることを確認してからじゃないと、こういうことはしちゃいけないんだぞ」

 

何で俺がこんな親のようなことをしなければならないのだ・・・。

 

「・・・ギル、恋のこと好き? 恋は、ギルのこと大好き」

 

「ん、そりゃ、俺も恋のことは好きだ」

 

そりゃあ、弱っている動物を見つけたら放っておけない優しいところとか、昨日みたいに可愛らしいところを見せられて好きじゃないとはいえない。

 

「じゃあ、良い」

 

「だから、ちょっと待てって」

 

ズボンに伸びる手を押さえる。

再び俺に向けてなんで? という視線を向けてくる恋。

 

「そんなに急がなくていいんだぞ、恋」

 

「・・・こんなこと初めてだから、急いでるとか分からない」

 

「あー・・・まぁ、まずは」

 

ゆっくりと恋を抱き寄せ、口付ける。

目を開けたままの恋に少し笑いそうになってしまうが、それを抑えて唇が触れるだけの口づけをする。

 

「こういうのから、はじめていくものだ」

 

「・・・ん。今の、どきどきした」

 

「そっか」

 

「もっと」

 

「はいはい、とりあえず、いけるところまでいってみるか」

 

恋が怖がったりやめて欲しいといったらやめればいいだけだ。

いきなり布団に潜り込んできたのはびっくりしたが、異性を好きになることがなかったからだと思えば可愛いものだ。

 

「ん・・・体が、熱い・・・」

 

恋を寝台に押し倒しながら口付けていると、恋がそんなことを呟く。

 

「恋、触るよ?」

 

どこ、とは言わない。

頷きを返してくれた恋を怖がらせないよう、ゆっくりと服を脱がせていった。

 

・・・

 

「・・・ちょっと、変な感じする」

 

恋と一つになったあと、午後の訓練のために中庭に来ているのだが、軍神五兵(ゴッドフォース)を携えた恋が体を動かしながら首をかしげる。

 

「・・・まだ、入ってるみたいなかんじ」

 

「大事を取って休んでおくか?」

 

「んーん。訓練を見るぐらいなら大丈夫。ギルとか愛紗とかと戦うのは少し難しい」

 

「そうか? ・・・まぁ、恋本人がそういうなら強要はしないけど・・・無理はするなよ?」

 

「ん。大丈夫」

 

「そっか。じゃあ、頑張って」

 

そういって恋の頭を撫でる。

嬉しそうに目を細めた後、恋は頷きを返し、自分の部隊へと向かっていった。

 

「さて、じゃあこっちも訓練開始かな」

 

といっても、副長がすでに遊撃隊の訓練を開始しているので、それを見ながら何をするかを決めていくかな。

あ、そうだ。遊撃隊に弓兵が増えたんだっけな。それの調練でもしておくか。

流石の副長も、弓は専門外だろうし。

・・・ふむ、緑の勇者シリーズで弓も作ってみるか。

 

「よーっし、いったん止めてくれー」

 

「あ、隊長。いらっしゃってたんですね」

 

隊員たちが整列する中、俺の隣にやってきた副長が聞いてくる。

 

「ああ。それで、新しく入った弓兵たちはどこだ?」

 

「えーっと、あっちの班ですね。弓兵とはいえ剣をまったく使わないってわけじゃないので、普通に剣を教えていましたが」

 

「それでいいと思うぞ。よし、弓兵たちはこれから俺と弓の訓練を行う! それ以外の隊員たちは、副長に訓練してもらってくれ」

 

「はっ!」

 

隊員たちが一糸乱れぬ返事をするのを確認して、号令を出す。

 

「それでは、はじめろ!」

 

「はっ!」

 

副長が至近距離で使う武器の訓練場へと兵士を連れて行くのを見送りながら、俺の前に集まった弓兵たちを見回す。

・・・うん、副長の訓練でそれなりに体は温まってるみたいだな。これなら準備運動もしてあるだろうし、すぐに訓練に入っても問題はないか。

 

「よし、各自訓練用の弓と矢は受け取っているな?」

 

「はっ!」

 

「じゃあ良い。練兵場に向かうぞ」

 

「はっ!」

 

何も言わずとも駆け足で向かっていく弓兵たち。

うんうん、中々良い練度じゃないか。

 

「全員弓の経験はあるんだよな?」

 

元々紫苑や桔梗の部隊にいた兵士たちなので、それなりに弓の練度はあると見ていいだろう。

俺の予想通り、ほとんどすべての兵士があると答えた。

まぁ、残りの経験なしの兵士たちは新入りなのだろう。見てみると、顔立ちも若いというより幼げだ。

 

「大戦が終わったとはいえ、俺たちが戦うことは多々あると思う。そんな時、味方を射掛けないよう、きちんと狙った場所に当てられるよう、訓練していこうと思う」

 

全員が元気良く返事する。

それじゃあ、と数十メートル離れた的へ向けて静止状態での射的訓練を始める。

俺が紫苑たちに教えてもらったことをこいつらにも教えればいいだけだ。

それに、プラスして俺の経験で分かったことなんかも伝えられれば良いかな。

 

「よし、今日中に静止状態での的中率が八割を超えるようにするぞー」

 

「応ッ!」

 

誰一人嫌がることなく目標に向けて訓練するのを見て、良い調子だと一人頷く。

これなら、一ヶ月以内に実践投入しても大丈夫なほどに仕上がるかもしれない。

 

・・・




「・・・もう三十分くらい経つわね。完全に湯気が立たなくなったわ」「・・・卑弥呼さん、厨房でそんなにぼうっとしてどうしたんですか?」「別にどうもしてないわ」「お茶にも手をつけてないようですけど・・・何か悩み事ですか?」「いや、これはギルのだから飲んでないだけだけど」「何でにーさまのところに持っていかないんですかっ!?」


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