真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「社長と言えば革張りの椅子だよな。アレをくるりと回して「待っていたよ」とか言うのカッコイイよなぁ」「ティンと来たのか?」「そうそう、ティンとね」


それでは、どうぞ。


第二十一話 気づけば社長に

「資金援助?」

 

「ええ、そうなのよ」

 

ある日の昼下がりのこと。

一刀経由で華琳に相談があると呼び出され向かうと、そんなことをいわれた。

どうやら、数え役満☆姉妹の活動費用を捻出するのが難しくなっているらしい。

 

「なんでまた。あの子達の活動は魏のときから続いてるんだろ? あのころから比べたら金も潤沢だし、活動費用が出ないってこともないんじゃないか?」

 

「天下三分前の活動だったら、大丈夫だったんだけれど・・・」

 

それから華琳に聞かされたのは、アイドルの弊害というか宿命のようなものだった。

まず、魏の頃からあの姉妹は活動していた。それは俺も聞かされたから知っているのだが、その頃の経理・・・というか、プロデューサーは三女が兼業していたらしい。

最初は一刀を世話役としてあてがおうとしたのだが、まるで狙い済ましたかのように警備隊の仕事が増え、さらに大戦も激化して姉妹たちの活動はほとんど放置状態だったらしい。

移動費、舞台の設置のための人員、護衛、食費などなどの経費は全て国から出していたのだが、若干の余裕はあるとはいえ結構ぎりぎりの金額だったらしい。

さらに、三国からファンが集ってくると、舞台の警備にも金がかかる。

どの子のファンかで派閥すら出来ているらしく、その人たちの抗争もあるとの事。

それを三女が何とかやりくりしていたらしいのだが、問題があった。

長女と次女の存在である。

二人は美味しいもの食べたい、とかおしゃれしたい、とか言って事あるごとに買い物をしようとしていたらしい。

三女がそれを抑えていたのだが、天下三分後は魏だけではなく蜀や呉でも活動することになってしまった。

まぁ、蜀や呉も合同で資金を出していたらしいのだが、活動範囲が広がるということはそれだけ資金も必要になるとの事。

今まではそれを賄えていたのだが、三女一人では二人の姉を抑えきれなかったらしい。

だんだんと浪費が多くなっていった結果、活動資金として渡した金じゃ足りなくなってきたらしい。

そこで、一刀がプロデューサーをギルに任せればいいじゃないか、と言い出したらしい。

 

「・・・なるほどね。つまり、プロデューサーになれということか」

 

「そうなんだ。魏の子たちだから本当は俺がやったほうがいいんだけど、俺だとお金がないからさ」

 

今回必要な人材は、それなりに人を統制するのが得意で、国とは別の資金源を持つ人物、ということなのだろう。

ならば、確かに俺が一番適材か。

 

「ギルにお金のことで頼るのも申し訳ないんだけど、今数え役満☆姉妹の活動を止めるなんて出来ないからさ・・・」

 

申し訳なさそうな顔をする一刀。

確かに、今活動休止、なんてしたら暴動が起きるだろうな。

 

「んー、そうだな、いっそ会社を作ってアイドルとして独立させるか」

 

「お~・・・社長だな!」

 

「そうなるな。一刀、警備隊長をクビになったらうちに来い。アイドルとしてプロデュースしてやるよ」

 

「はは、分かった。そのときは頼むよ」

 

冗談交じりに言った言葉に、一刀も笑いながら冗談を返してくる。

 

「それで、受けてもらえるのかしら?」

 

「もちろん。頑張ってやってみるよ」

 

「頼んだわね。今呼び出して城内にいるから、顔合わせをしてくるといいわ」

 

「そうするよ。それじゃあ、これで」

 

「ええ」

 

「またな、ギル」

 

二人に手を振って、俺は玉座の間を後にした。

 

・・・

 

少し下準備をしてから姉妹たちの下へと向かう。

お茶でも飲んでるんじゃない? という華琳からのアドバイスを元に中庭の東屋を重点的に探す。すると

 

「んー! 天気のいい日に飲むお茶はいいねぇ、ちーちゃん」

 

「ちぃはどっちでもいいんだけど」

 

「それにしても、何の用件なのかしら」

 

東屋から少女たちの声が聞こえる。

ん、あれが数え役満☆姉妹か。

流石はアイドルと言ったところか。容姿はもちろんのこと、スタイルも良いようだ。

そんな彼女たちに近づいていくと、メガネをかけた女の子がこちらに気づく。

メガネをかけているのは張梁だったか。三姉妹でアイドル兼プロデューサーをしてるって言う。

 

「こんにちわ」

 

できる限り明るく声をかけてみる。

 

「? あなた、誰ー?」

 

桃色の髪をした、桃香に似た少女が首を傾げながら聞いてくる。

この子は・・・おそらく、長女の張角だろう。

ならば、最後の一人のサイドポニーの少女は張宝だろう。

 

「俺はギル。華琳から君たちのプロデューサー・・・ええと、そう、世話役を任された者だ」

 

プロデューサー、という言葉が通じないことに気付き若干焦ったが、まぁ問題なく接触できた。

 

「世話役~?」

 

張宝が胡散臭そうな顔でこちらを見上げてくる。

 

「まぁ、後で華琳にでも確認とってくれればいいや。俺が今日来たのはな・・・」

 

姉妹に簡単に事情を説明する。

アイドルとしてプロデュースすること、新しく会社というものを作って、資金的に国から独立すること。

そこに所属して活動してほしいということを伝えた。

 

「ええと、魏から会社っていうやつに所属が変わるの?」

 

「ああ。・・・まぁ、変わるのは所属ぐらいのものだし、後は俺って言う世話役が出来るくらいかな」

 

「ふぅん・・・ま、ちぃは良いわよ」

 

「私も、文句はないよ~」

 

「・・・世話役って言うのは、どんな仕事なの?」

 

張梁の質問に良い質問だ、と心中で呟きつつ答える。

 

「基本的には君たちの補助になるな。後は活動予定の調整とか、雑事なんかを代わりにやって、三人が歌と踊りに集中できるようにすること、かな」

 

「・・・そう。分かった。私も文句はないわ」

 

「よし、なら決定だな」

 

それから、拠点となる小屋に案内してもらった。

 

「・・・ほうほう」

 

舞台はそれなりに大きいが、やはり限界はあるのだろう。

三人が思う存分に踊るには、少し狭く感じる。

それに、小屋のほうも若干古いようだ。補修の後が目立つ。

新しく土地を買って事務所を建てたほうがいいかねえ。

 

「・・・仕方ない。またランサーの力を借りるしかないか」

 

明日までに完成させるには、それしかないだろう。

 

・・・

 

「わぁ・・・!」

 

翌日完成した事務所は、二階建てのビルのような建物だ。

ランサーたちはいつも良い仕事してくれるよなぁ。

 

「ここが新しい事務所になるな。基本的な拠点はここで、あとは少しずつ支部を広げていくか」

 

後は入場料だけじゃなくてグッズ販売やら何やらで利益を得なくちゃいけないから、そのための部門も作らないと。

姉妹たちが売れてくれば、後輩のアイドルたちを育成していくのもいいだろう。

この時代、娯楽に飢えてる人間は沢山いるからなぁ。兵士たちの息抜きとしても有効だしな。

 

「というか・・・昨日までここには何もなかったはずなんだけど・・・」

 

「気にしたら負けだぞ、張梁」

 

「・・・人和でいいわ」

 

ふと、思い出したように張梁がそう言った。

 

「それ、真名だろ? いいのか?」

 

「かまわないわ。これから世話になるんだし、信頼の証ってことで」

 

「そうか? なら、ありがたく預かるよ。・・・俺の真名はそのままギルって言う」

 

「・・・ええ、改めてよろしく、ギル」

 

「おう、よろしくな」

 

人和と真名を交換していると、張宝が事務所から出てきて叫んだ。

 

「れんほー! ちょっとこの事務所すごいわよー!」

 

「・・・だって、人和」

 

「うん。・・・はいはい」

 

人和は少しあきれながらも、張宝の元へと小走りに掛けていった。

うむ、内装もすでに完成しているので、問題はほとんどないだろう。

 

「これで拠点は完成だな。次は営業か」

 

グッズの製作を任せる店と、スポンサー探しだな。

後は経理を任せられる事務員の確保と舞台担当の労働力。

・・・うぅむ、これから忙しくなりそうだ。

政務のほうをすぐに片付ければ余裕はあるだろうし、忙しいのもすぐに終わるだろう。

こうして、俺はプロデュース会社社長兼プロデューサーとしての活動も開始したのだった。

 

・・・

 

黄金率すげー。

そう思うことは、これまでに何度もあった。

経営を任されているわくわくざぶーんは夏も終わるというのに満員御礼だし、そうじゃなくても宝物庫の中には黄金や宝石が無限といっていいほどに収納されている。

それでも、これは予想外だった。

 

「ほあ、ほあ、ほわあああああ!」

 

事務所の完成からしばらくの後のこと、新たに始動した数え役満☆姉妹のライブは、大盛況となっている。

もともとそれなりに知られていたので、少し宣伝するだけでかなりの客を動員することが出来た。

ファンたちは新たにグッズとして販売した法被に身を包んでいる。

うぅむ、一つの事に熱中している人間というのは、誰であろうと凄まじい熱気を持つものだ。

これなら、大成功といっていいだろう。

というか、予想外と言ってもいいかもしれない。

この町のどこからこんなに人が来たのだろうかと思うほど人がひしめいているからなぁ・・・。

 

「遊撃隊も・・・うん、きちんと警備できてるみたいだな」

 

何人かは警備しつつもライブに参加してしまっているようだが、副長が上手くまとめている。

暴れだしたファンや舞台に上がろうとしたファンを取り押さえている姿がよく見える。

・・・あれ、普通に剣を振りかぶってるんだけど大丈夫なのか? 

口の動きを見るに「安心してください、峰打ちです」って言ってるけど、その剣って峰無いよね? 

本当に大丈夫なのか? 運ばれていったファンが痙攣してるけど・・・。

 

「・・・まぁ、流石に副長も殺しはしないだろ」

 

そう信じることにして、俺は舞台のそばにある小屋に入った。

以前まで事務所だったここは、今はライブのときに休憩したり衣装を着替えたりするための場所となっている。

そろそろ休憩の時間なので、水でも用意しておくとしよう。

 

・・・

 

「疲れたー!」

 

「今日は今までで一番お客さんが来たわねー」

 

「・・・売り上げも期待できそう」

 

ライブも終わり、興奮冷めやらぬファンたちがようやく全員帰った後、部隊の隣にある小屋で三人は水を飲んで一息ついていた。

この三人もそうだが、ファンもよくあんなに体力が続いたものだ。

遊撃隊の隊員としてスカウトしてみるのも面白いかもな。

 

「お疲れ様、今日は凄かったな」

 

「ふふん、見とれちゃったでしょー」

 

張宝がそういって薄い胸を張る。

・・・三女より小さいとは、少し不憫である。

 

「ああ、少しだけ仕事を忘れそうになったよ」

 

「そうでしょそうでしょ」

 

「ねえねえれんほーちゃん、今日は大成功を祝して、打ち上げしようよ!」

 

「だめよ。大成功したのは確かだけど、浪費するわけにはいかないわ」

 

「ぶー! れんほーちゃんのいじわる!」

 

「いいじゃない、ちょっとくらい。れんほーだって、少しくらい羽目をはずしたいでしょ」

 

「それはそうだけど・・・油断してると、また前みたいに使いすぎることになるんだから」

 

・・・やはり張角と張宝の二人の浪費を人和が防いでいたんだな。

だがまぁ、今日は会社を建設してからの初ライブだったわけだし、大目に見るか。

 

「仕方ない、今日は会社で打ち上げの代金は持とうじゃないか」

 

「ほんとにっ!?」

 

「ああ。その代わり、これからもがんばってくれよ」

 

「もっちろん! ちぃたちをなめないでよね!」

 

「そかそか、それは安心だ。・・・よし、じゃあどこ行こうかね」

 

「あ、じゃあ、あそこいきたーい!」

 

そういって張角が名前を挙げた店に行くことになった。

人和が「高いけど・・・大丈夫なの?」とこちらを気遣うようなことを言ってくれたので、嬉しくなったのは内緒である。

四人で向かったのはなかなかに高級な場所であり、人和だけでなく張宝まで「ほんとにいいの?」と心配していたが、大して問題はない。

その食事の席で張角と張宝から真名を預かり、姉妹全員と真名を呼び合う仲となったので、ちょっとくらいは認めてくれたのかな、と思う。

 

・・・

 

「・・・ギル」

 

「ん? 恋か、どうした?」

 

背後からの声に振り返ると、恋がいつもどおりの無表情で立っていた。

 

「・・・ねこ、見なかった?」

 

「猫?」

 

「ん。ちょっと前までうちにいたんだけど、最近みない」

 

「飼ってたのか?」

 

俺の質問に、恋は首を横に振って答える。

んー、猫はたとえ飼ってても気ままに生きる動物だからなぁ。

 

「じゃあぶらっと散歩してるだけなんじゃないのか?」

 

「でも、ちょっと心配」

 

「そこまで言うなら少し探してみようか。どんな猫なんだ? 特徴とか」

 

「んー・・・黒い」

 

「そ、そうか。黒いか」

 

それだけの情報じゃ無理だな。

黒猫って結構いるし。

 

「他にはないか?」

 

「ほかに・・・んー・・・。あ、足と尻尾の先が白い」

 

「ふむ・・・それならちょっとは探しやすくなるか」

 

「あと、他の猫より人懐っこい」

 

「なるほどなるほど。分かった、俺もその猫を探してみるよ」

 

「おねがい」

 

そのまま恋は大通りを進んでいったので、俺は路地裏に入っていく。

こっちのほうに猫のたまり場があったはずだ。

 

・・・

 

「お猫様~!」

 

猫のたまり場にたどり着くと、そこには先客が。

明命が目をきらきらと輝かせながら猫に抱きついている姿が見える。

ああ、そういえば彼女は猫が大好きだったか。

 

「明命、こんにちわ」

 

「ふにゃふにゃ~・・・ふぇ? あ、ぎ、ギル様っ!?」

 

猫を抱きかかえたまま驚いて飛び上がる明命。

しばらくはあたふたしてるだろうから、今のうちに猫を探しておくか。

 

「・・・んー、いねえなぁ」

 

「何かお探しなんですか?」

 

だいぶ落ち着いたらしい明名が俺の様子を見て声を掛けてくる。

お、復活したかとそちらを向いてみると、抱いていた猫を地面に下ろした明名が首をかしげていた。

 

「ああ、恋に頼まれてな。猫を探してるんだ」

 

「どんなお猫様でしょうかっ」

 

「んーと、黒猫で、足と尻尾の先が白いらしい」

 

「ふみゅう・・・ここでそんなお猫様は見たことないです」

 

「そうか・・・他をあたってみるかな」

 

「あの・・・もしよろしければお手伝いしましょうか?」

 

明命の申し出に、少し考える。

・・・まぁ、仕事は休みみたいだし、俺の知らない猫情報を知ってるかもしれないから、いいかも。

 

「・・・そうだな。他に猫のたまり場とかあるならそこまで案内してくれると助かる」

 

「はいっ」

 

俺の頼みに快く頷いてくれた明命を連れて、俺はその場を後にした。

 

・・・

 

「ここにもお猫様たちがいっぱいいるんですよ!」

 

「ほうほう」

 

明命に案内されてたどり着いたのは、路地裏を進んだ先にある広場だった。

先ほどのたまり場よりも広く、猫の数もなかなかのようだ。

 

「・・・んー、黒猫黒猫・・・」

 

「お猫様・・・お猫様・・・」

 

「くー」

 

・・・ん? 

 

「あれ、今誰かの声が・・・」

 

「ふぇ? お猫様がしゃべったんでしょうか?」

 

「違うと思うが・・・だけど、人影も見えないしなぁ・・・」

 

「くー」

 

まただ。

どこから聞こえるんだろう。

感じからして寝息のようだが・・・。

 

「あれ? あそこ、なんだか他よりお猫様が集まってませんか?」

 

そういって明命が指差したのは、猫が密集しているところだった。

 

「ほんとだ。なんかを下敷きにしているような・・・」

 

あれ、あのちらっと見える袖と見覚えのある人形は・・・。

 

「・・・風か?」

 

「くー・・・んー? 誰ですかー?」

 

「ああ、やっぱり。風、俺だよ、ギルだ」

 

猫の塊の中から風の声が聞こえたので、核心を持って声を掛ける。

もぞもぞ、と何かが動くと、猫たちがいっせいに散っていく。

 

「おー、ギルさんでしたかー。こんなところまでお散歩とは、変な人ですねー」

 

「・・・変な人とは失敬な」

 

「まぁまぁ。それで、呉の方を連れてこんなところまでお散歩なんて・・・何かあったのですかー?」

 

「んー、そこまで大事じゃないんだけどさ」

 

風にこれまでの経緯を伝える。

ほうほう、と頷いた風は、なら、と頭に宝譿を乗せなおし

 

「私もお手伝いするのですよー。それなりに猫には詳しいつもりですし」

 

「お、そりゃ助かる」

 

「あ・・・。むぅ・・・」

 

「どうした、明命」

 

「へ? あ、いえ、何でもありませんっ!」

 

「そ、そうか? ・・・調子が悪かったりしたらきちんと言ってくれよ。明命もいないとだめなんだから」

 

「は、はいっ。精一杯がんばります!」

 

先ほどから妙に感情の起伏が激しい明命と、いつもどおりほとんど感情に動きのない風。

・・・うぅむ、こんなに正反対な人間と一緒になったのははじめてかもしれん。

 

「よし、とりあえずここの猫たちを調べていこう」

 

「その必要はありませんよ~」

 

「風?」

 

「ここの猫たちは大体見ているから分かるのです。ここに、お探しの猫はいませんよ~」

 

「ふむ、なら、場所を移動しようか。他に猫たちが集まる場所は分かる?」

 

「ええっと、城壁近くの路地に数匹集まっているのをよく見かけますけど・・・」

 

「風が知ってるのはお城近くの飯店の裏路地なのですよ~。あそこは店主が猫に余ったご飯を上げてるので、良く集まっているのを見るのです」

 

「城の近くと城壁の近くか」

 

まぁ、そこくらいしか手がかりはないし、しらみつぶしにあたってみるか。

 

・・・

 

「見つからないなぁ・・・」

 

「ここでも無いとすると・・・うぅ、すみませんギル様、私にはもう思いつかないです・・・」

 

「そんなにしょげるなよ。別に怒らないからさ」

 

しょんぼりとしてしまった明命を撫でながら励ますと、そうですか・・・? と涙目で上目遣いされてしまった。

・・・猫好きなのに、明命自身は犬っぽいんだよな。

ああ、なぜかは分からないが明命に犬の尻尾が見える気がする・・・。

 

「ほ、ほんとですか・・・?」

 

「く、首輪っ。首輪ってどこで売ってるっけ!?」

 

「ギルさーん、落ち着いてくださいね~」

 

「はっ!? ・・・お、俺はいったい何を・・・」

 

「ちょっとおかしいことになってましたね~」

 

「そ、そうか。記憶が定かじゃないが、ありがとう風。助かった」

 

「いえいえ、なのですよ~」

 

一体何を口走ったんだろうか、俺・・・。

まぁいい。それっぽい猫もいないし、一度恋に合流して・・・。

 

「あれ? 風、あんたこんなところで何を・・・げ、あんたもいたの」

 

「げ、とはご挨拶だな桂花。余程お仕置きが欲しいと見える」

 

「ばっ! 華琳様から以外のお仕置きなんていらないわよ!」

 

顔を真っ赤にしながら拒否してくる桂花。

うぅむ、あのくすぐりがかなり効いてたんだな・・・。

 

「大丈夫。華琳から許可は得てる」

 

「そんなことあるわけないでしょ!」

 

「まぁまぁ、落ち着いてください桂花ちゃん」

 

「あんた、どっちの味方なのよ!」

 

「もちろん、ギルさんですよ~」

 

「ああもう!」

 

地団太を踏む桂花を見ていると、フードに目がいく。

 

「・・・もう、桂花でよくね?」

 

「なるほど、良い案ですね~」

 

とりあえず、恋への土産に桂花を持っていくことにした。

 

「よいしょ」

 

「ちょっ、何私を抱えてんのよ! 離しなさいよ全身精液男!」

 

「はっはっは、諦めろ」

 

「いやーっ! 助けてー!」

 

・・・

 

「恋、猫は見つけられなかったんだけど、珍しい猫がいたんで持ってきたぞ」

 

恋の屋敷に戻ってみると、すでに恋は戻っていたらしい。

桂花を降ろしてフードをかぶせ、恋の前に突き出す。

 

「すまないな、これくらいしか出来ないんだ」

 

「ちょっとあんた! 俺の力不足だ・・・みたいな顔してんじゃないわよ!」

 

「・・・猫?」

 

「人よ!」

 

恋が首を傾げて呟いた一言に、桂花は噛み付くように突っ込む。

 

「大丈夫。そのうち猫になるから」

 

「ならないわよ!」

 

「なん・・・だと・・・!?」

 

「何その反応っ!?」

 

「ならないの・・・?」

 

「ああもう! 何なのここ! 言葉通じてないの!?」

 

「落ち着けよ。どうどう」

 

「私は馬でもなーい!」

 

ちなみに、探していた黒猫は俺と恋が分かれた後すぐに恋が見つけていたらしい。

まぁ、捜索してる間は楽しかったしよしとしようか。

 

・・・

 

桂花を生贄にして無事猫捜索も終了し、部屋へと戻っている途中のこと。

背後からどどどど、と猛烈な勢いの足音が聞こえたので振り返ると、そこには身体の一部をぶるんぶるん揺らしながら走ってくる桃香の姿が。

あ、桃香だ、と認識したときにはもう桃香は元気良く地面を蹴ってこちらに飛び込んできていた。

 

「おにーさーんっ」

 

「桃香っ!? ちょ、ダイブはあぶな・・・ふおっ!?」

 

胸、胸がっ、凶器が・・・胸器がっ・・・! 

 

「お仕事疲れたよー!」

 

「ふがふが、ふがー!」

 

「ふぇ? お兄さん、何言ってるの? よく聞こえないよ?」

 

顔面が胸に埋まって声が上手くしゃべれないんだよ! 

なぜそんな狙ったような抱きつき方をするんだ! 

しばらくじたばたしていると、天然の桃香でも気づいたのか慌てて俺から離れた。

 

「わわ、ごめんね! お兄さんの息止めちゃってたかな・・・」

 

「・・・死因は胸で呼吸が止められることによる窒息死とか洒落にならんぞ・・・」

 

「うぅ、わざとじゃないもん」

 

「もん、じゃない。まったく、子供みたいにはしゃぐなよ」

 

というか、いい年した大人が唇を尖らせながら言う台詞じゃないだろ・・・。

あれ、でも桃香なら別に不自然でもない気が・・・。

 

「だってだって、お兄さんに久しぶりに会えたから嬉しくって。えへへ、思ったとおりちゃんと受け止めてくれたからちょっとはしゃぎすぎちゃった」

 

「・・・今度から気をつけてくれればいいや。それで、もう今日は仕事終わったんだって?」

 

「うんっ。あ、そうだ! 聞いてよお兄さん! 愛紗ちゃんったら酷いんだよ! お仕事中の休憩はお茶を飲むだけの短い時間しかくれなかったし、居眠りすると怒るんだよー!?」

 

ぷんすか、と頬を膨らませる桃香だが、それはおかしいだろ。

 

「・・・いや、居眠りしたら怒るのは当たり前だろ」

 

「そのとおりですよ、桃香様」

 

「ふぇ? ・・・あ、愛紗・・・ちゃん?」

 

「こんにちわ。なにやら面白そうなことを話しておりましたが、何を話していたのでしょうか?」

 

ぎぎぎ、と音が鳴りそうなほどにゆっくりと振り向いた桃香の視線の先には、こめかみをぴくぴくとさせた愛紗が。

・・・あーあ、しーらね。

 

「あー、えーっと、その、ね、えっとぉ・・・」

 

しどろもどろになりながら、ちらり、と視線を向けてくる桃香。

その視線は、助けてお兄さん、と言っているようだった。

 

「なんでしょうか?」

 

「あうぅぅ、愛紗ちゃんが怖いぃ・・・助けてお兄さん・・・」

 

あ、口でも言った。

仕方がない、少しだけ助け舟を出してやるか。

 

「まぁまぁ、あい」

 

しゃ、と続けようとしたら、愛紗がこちらに微笑を向けて

 

「ギル殿は、少し黙っててくださいね?」

 

なんていってきたので、こちらも笑顔で即答した。

 

「はい」

 

「お兄さん!?」

 

いや、だってあれはだめだろ。

微笑が怖いなんて思ったのは、月に続き二人目だよ。

え? まさかの黒愛紗? 

あれって感染するの? 

 

「・・・逃げようかな」

 

「お願い待ってぇ!」

 

ぼそりと呟くと、隣にいた桃香が俺の腕に抱きつくようにして制止してきた。

そのせいで愛紗のこめかみのぴくぴくが少し大きくなったような気がするが、きっと嫉妬しているからだろう。それか、こんな状態なのに人に抱きついてる桃香に怒ってるか。

・・・あ、両方とも、っていうのもありえるな・・・。

俺だって女心を学んでいるんだ! このくらいの機微ならきちんと分かるさ! 

 

「・・・お、おいで?」

 

余っているほうの腕を広げながらそういうと、愛紗が目に見えてうろたえ始めた。

 

「はいっ!? あ、えと、その・・・」

 

「ほらほらー」

 

「えっと・・・し、失礼します」

 

そういって抱きついてきた愛紗を撫でて宥め、何とか落ち着いてもらった。

・・・ふっ。月のおかげで黒化対策は完璧なのさ! 

 

「うふふ、ギルさん、楽しそうですね?」

 

「・・・ゆ、月?」

 

良かった良かったと頷いていると、背後からの声。

さっきの桃香のようにぎぎぎ、と振り返ると、そこには微笑みを浮かべた月さんが。

 

「はい。こんにちわ」

 

・・・あ、だめかもしれない。

 

・・・

 

「ど、どうしたんですか、ギル様」

 

「・・・いや、どうもしてないよ」

 

「どうもしてない顔じゃありませんよ!?」

 

大丈夫ですか、何でお怪我を!? と一人で慌てているのは、呉の筆頭犬娘こと明命さんである。

月からのありがたい魔術・・・じゃなく、月からの愛を頂いたので、若干ぼろぼろである。

こんなところで自分の対魔力の低さを実感するとは思わなかった。

 

「しばらくしたら治るし、気にすることはないよ」

 

「そ、そうですか・・・?」

 

「ああ。心配してくれてありがと」

 

そういって頭を撫でると、気持ちよさそうに目をつぶる明命。

うん、今日も良い犬っぷりだ。ぱたぱたとゆれる尻尾が見えるよ。

 

「えへへ、そんな、ありがとうだなんて・・・」

 

頬に手を当てながらくねくねと悶える明命を見て癒されていると、通路の曲がり角から蓮華が顔を出した。

 

「あ、蓮華」

 

「ん? ・・・あ、ギル。き、奇遇ね」

 

「ああ。今日は仕事か?」

 

蓮華が呉の屋敷を出て城まで来る用事といったらそれぐらいしか思いつかないが・・・。

 

「まぁ、そんなところね」

 

「そっか、お疲れ様。・・・で、雪蓮はやっぱり酒か?」

 

「・・・ええ、冥琳が部屋に行ったときはすでに出かけた後だったそうよ」

 

雪蓮が蓮華に家督を譲ってからというもの、雪蓮は祭たちと酒を飲み歩いたりと悠々自適に過ごしているらしい。

いきなり・・・というほどでもないが、姉から呉を任された蓮華は、冥琳や穏たちと協力しながら頑張っている。

 

「そ、そうか。・・・何というか、姉も妹も世話しないといけないって・・・大変だな」

 

「ふ、ふふふ・・・もう慣れたわ・・・」

 

何かを諦めたような目で、明後日の方向を見ながら笑いを漏らす蓮華。

なんだか、この目、どこかで見たような・・・。

ああ、そうだ。

雪蓮に逃げられた後の冥琳の目が、確かこんな感じだったはず。

 

「蓮華様、そろそろ剣術の稽古の・・・む、貴様か」

 

俺が思い出にふけっていると、蓮華を呼びに来た思春がやってきた。

こちらを見た瞬間ピクリと目じりが動いたような気がしたが、そんなの気にしていたらきりがないのでスルーする。

 

「あ、もうそんな時間? ・・・ごめんなさいね、ギル。私、そろそろ失礼するわ」

 

「ん。・・・あ、そうだ」

 

「え? 何?」

 

「もし良かったら、蓮華の稽古見せてもらってもいいかな?」

 

蓮華がどんな風に稽古してるのか気になるし、思春の稽古の仕方を見れば遊撃隊の訓練のときに役立ちそうだし。

 

「え、ええっ!? わ、私の稽古なんて見ててもつまらないわよ・・・?」

 

「いやぁ、蓮華が稽古してるの見たことなかったからさ、気になって。・・・ダメか?」

 

「あ、う、ううん、別に、ダメじゃない」

 

蓮華は人差し指同士をつんつんと合わせ、照れたように俯く。

 

「良かった。思春も、良いかな?」

 

「・・・蓮華様が決めたことならば、反対する理由はない」

 

「よし。じゃあ、早速行こうか」

 

「あ、お、おい・・・!」

 

何か言いたげな思春をスルーしながら、俺は二人の背中を押しながら中庭へと向かった。

 

・・・

 

「いきますっ!」

 

「ええっ!」

 

自分の武器を構えた二人は、思春の掛け声で稽古を開始した。

始まると同時に駆け出した蓮華と、それを待ち構えるように腰を落とす思春。

 

「ふっ!」

 

蓮華が振るう横薙ぎの斬撃を受け流し、思春が口を開く。

 

「まだまだ腰が入っていません! 腕だけではなく、全身で振るうように意識してください!」

 

「分かってる!」

 

そう返して、蓮華はさらに剣を振るっていく。

 

「そうです!」

 

「ふっ! はぁっ!」

 

「その調子です。・・・それでは、次はこちらから行きます!」

 

「はっ・・・くっ・・・!」

 

急に思春が攻めに転じ、剣で攻撃を防ぐ蓮華に連続で仕掛ける。

金属同士がぶつかり合う高い音が中庭に響く。

 

「おお・・・思春が手を抜いてるって言うのもあるんだろうけど、蓮華もなかなかやるなぁ・・・」

 

流石は孫家のお姫様。

雪蓮やシャオにも負けず劣らずの戦闘センスだ。

・・・雪蓮のような戦闘狂にならないように願っておこう・・・。

 

・・・

 

「お疲れ様、蓮華。思春も」

 

「あ、ありがとう」

 

「・・・ふん」

 

稽古を終えた二人を出迎え、飲み物を手渡す。

思春が素直に受け取ってくれたのに驚いた。

少しは俺のこと認めてくれたと思っていいのだろうか。

 

「そういえば、雪蓮は酒飲んでるとして・・・シャオは?」

 

「シャオ? あー・・・明命や亞莎と一緒に何かやってたわね・・・」

 

「・・・明命も、ですか。・・・まったく、何をやっているのやら」

 

蓮華の言葉に思春がこめかみをピクつかせる。

・・・おおう、明命ドンマイ。

 

「また何か企んでいるのかしら・・・もう、あの子ったら」

 

はぁ、とため息をついてやれやれと頭を振る蓮華。

 

「・・・シャオのお母さんみたいだな、蓮華」

 

「おかっ・・・!?」

 

俺の呟きに、蓮華が顔を真っ赤にして後ずさる。

 

「変なこと言わないでっ。そ、それに、お母さんになるような行為もまだ・・・って、何言わせるのっ!」

 

「ちょ、今のはほぼ自爆だろっ! そんな理不尽な! し、思春、ヘルプ!」

 

「へるぷ?」

 

「助けてっ」

 

「・・・私は蓮華様の邪魔をすることは出来ないからな。あきらめろ」

 

「そんな殺生な!」

 

蓮華が振り回す南海覇王を避けながら思春に助けを求めるも見捨てられてしまった。

基本的に思春は蓮華側なので、これが通常運行である。

 

・・・




「またしすたぁずのライブやらないかなぁ。あれ、合法的に人を気絶させられるから大好きです」「・・・副長、いつもよりいらいらしてないか?」「最近隊長殿が訓練にいらっしゃらないからなぁ」


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