真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「ギルギル! あそこ見て! クマさんが釣られてる!」「うおおおお釣ったクマー!」「浩太!? 何やってんだっ!?」


それでは、どうぞ。


第二十話 ちびっ子たちと釣りに

「・・・あー、疲れたー!」

 

俺の対面で酒を飲みながら管を巻いてるのは、皆さんご存知天の御使い北郷一刀くんである。

今日は珍しく一刀にも政務の仕事が回ってきて、さらに珍しいことに俺と一刀以外に政務をする人間がいなかったのだ。

そのため、いつもはしないような大量の仕事に追われ、昼前に仕事を始めて、日が暮れた今になってようやく政務が終了し、こうして酒屋で疲れを癒しているところである。

 

「一刀、お前おっさんっぽいな」

 

「・・・言うなよ、ギル。俺だって言いたくて言ってるんじゃない」

 

卓に突っ伏しながら一刀が反論してくる。

が、その言葉に力は無く、かなり弱弱しいものとなっている。

・・・うぅむ、さすがに疲れているみたいだな。

今日は珍しく仕事が大量にあったからな。俺も少し手が痛い。

サーヴァントも腱鞘炎にはかなわないか。

 

「仕事の後の一杯がおいしい、ってテレビでよく言うけど、俺今ようやく理解できた」

 

「もう思考回路がサラリーマンだな」

 

苦笑しながら俺も酒に口をつける。

 

「ま、良い経験になったんじゃないか?」

 

「まぁ、うん。それはそうなんだけどさ」

 

「明日は何も無いんだろ? だったらゆっくり休むといいさ」

 

「そうするよ。・・・ふはぁ、酒が美味い」

 

重症だな、と心の中だけで呟く。

 

「あれ? 大将! それに兄貴も!」

 

「本当か、董の兄者! ・・・おお、本当だ!」

 

「ん?」

 

なにやら聞き覚えのある呼称と声が聞こえてきたので視線を向けると、一刀の心の友であり、俺の仲間である兵士一団が店に入ってきたところだった。

 

「おお、お前らか。こっちこいよ、一緒に飲まないか?」

 

「いいッスか!?」

 

「かまわないさ。いいだろ、一刀」

 

「おう、当たり前だ」

 

「だって。ほら、座った座った」

 

「それじゃあ、お邪魔しますね」

 

そういった蜀のを皮切りに、みんなが俺らの座っていた卓にやってきた。

余っている椅子を引っ張ってきたりして、何とか全員座れたようだ。

 

「とりあえず、適当なお酒をもらおうか」

 

「あいよっ!」

 

呉のが店主に人数分の酒を頼む。

店主は元気よく返事をして奥へと引っ込んでいった。

 

「それにしても、大将と兄貴が二人で酒飲んでるなんて、珍しいッスね」

 

「そうだな、いつもは侍女の人たちや将の方と飲んでるのに」

 

「・・・なんだかそれだけ聞くとかなりうらやましく聞こえるんだが、兄者」

 

「まったくだ、弟者」

 

「あー、今日はかくかくしかじかでな」

 

「なるほど、まるまるうまうまというわけか。それは大変だったな、大将」

 

「うぃー」

 

兵士のねぎらいの声に、気の抜けた返事を返す一刀。

もうだいぶ駄目なのかも知れない。

 

「あいよ、お待ちっ!」

 

「お、酒が来たな」

 

「じゃあ、乾杯でもするか」

 

そういってみんなが掲げた杯をぶつけ合う。

 

「今日はおごるよ。好きなだけ頼んでいいぞ」

 

「本当ッスか兄貴! 俺頼みまくっちゃいますよ!?」

 

「ああ、かまわんよ。最近お前らとこうして飲むことなんか無かったからな」

 

それに、どうせ一刀の分をおごるつもりだったんだし、いまさら人が増えても問題は無い。

・・・いやぁ、黄金率の大切さがわかるよなぁ。

 

「そういえば、俺たちが前に飲んだのはいつだったか・・・」

 

「確か・・・水浴びに行ったとき以来じゃないか、弟者」

 

「なるほど、それはかなり前だな、兄者」

 

あ、と董のがぽんと手を打った。

どうした、とみんなの視線が集まる中、董のは口を開く。

 

「そういえば、俺は前に兄貴と飲んだな」

 

「ああ、あの董卓軍の飲み会で」

 

「そうそう。まぁ、そのときは話なんてできなかったんだが」

 

「そうだったのか、兄ぃ」

 

「ああ。お嬢様に賈駆様、呂布様たち董卓軍の将たちに囲まれてたからな」

 

「なんとうらやましい・・・」

 

男たちの視線が突き刺さる。

んなこと言われても・・・。

 

「そういえば、お嬢様があんなに酔っているのは初めて見たな」

 

「董の兄者がいうお嬢様って言うのはあの侍女長のことだよな?」

 

呉のがいうとおり、月は増えすぎてしまった侍女たちをまとめる侍女長としてがんばってくれている。

 

「ああ。いつもおっとりして、儚げな雰囲気のお嬢様が、陳宮さまにお酒を飲ませてたんだ。無理やり」

 

「無理やり!?」

 

「そうだ。俺もあの時は目を疑ったよ。かわいらしい笑顔のまま、酒の入った徳利を陳宮様の口に突っ込むお嬢様なんて、想像できるか・・・?」

 

「そ、想像できないッス・・・」

 

「・・・そういえば、その後そのお嬢様はどうしたんですか?」

 

「ん? いや、それはわからんな。兄貴が賈駆さまと一緒に抱えて帰ってしまったから」

 

「お、お持ち帰りしたのか! うらやま・・・けしからんぞ、兄貴!」

 

「まて、お嬢様と兄貴は恋仲だと聞く。おかしくは無いぞ、弟者」

 

「だが、酔った女性とにゃんにゃんするなど・・・興奮するぞ、兄者!」

 

「落ち着け弟者!」

 

興奮している袁紹弟を、兄が止める。

・・・ちょっと目が血走ってるぞ。大丈夫か、弟。

後半はどう聞いても性癖暴露してるようにしか聞こえないが・・・酔いすぎだろ、袁紹弟。

 

「・・・言っておくけど、あの後は普通に寝てたぞ、あの二人。酔いつぶれてたしな」

 

「そういえば、珍しくお嬢様が急に仕事を休んだりしていたな」

 

「ああ、二日酔いがひどかったらしくてな。頭痛いって唸ってたよ」

 

「二日酔いの侍女長・・・想像できませんね・・・」

 

「それはそれで少し見てみたい気もするがな」

 

「・・・もう二度と月は酔わせん。あれは酷かったからな」

 

「まぁ、確かに」

 

俺の言葉に、董のがうなずく。

実際に見ていたからか、うなずきに説得力があった。

 

「侍女といえば、最近もう一人兄貴の側近の侍女増えましたよね?」

 

「ん?」

 

「ほら、侍女長、賈駆さま、あと楽元ちゃんと程則さんの四人だけでしたよね? それに最近、もう一人加わりませんでしたか?」

 

「あー・・・卑弥呼か?」

 

「ええと、それは・・・」

 

「ああ、真名じゃないよ」

 

「そうですか。卑弥呼さん・・・名前の響きからしてこの大陸の人じゃないですね」

 

「よくわかったな」

 

まぁ、大陸どころか世界が違うんだけど。

 

「というか、侍女を五人も侍らしてるのか、兄貴」

 

「それに、劉備様や関羽様、それに孔明様や鳳統様も最近兄貴の部屋に通っているといううわさも聞くな」

 

「なんと・・・!」

 

呉の情報提供に、袁術のが驚きの声を上げる。

 

「ほんとなんスか?」

 

「・・・まぁ、事実ではあるな」

 

「うらやましーッス!」

 

魏のがこぶしを握って叫んだ。

・・・俺もお前の立場だったら、同じこと叫んでただろうなぁ。

 

「というか、それを言うなら一刀もだろ。凪たち三人とかと仲良いんだろ?」

 

「ん? あー、まぁな」

 

ぽりぽりと頬を掻きながら一刀が答える。

そういえば一刀ってあの三人と華琳以外とのうわさは聞かないな。

魏はちょっと百合っぽいとはいえ、一刀の性格ならもっとモテてそうなんだが。

 

「俺とギルはこうして話したんだし、お前たちはどうなんだ?」

 

「どうといいますと?」

 

「ほら、彼女とか・・・奥さんとかいないのか?」

 

「あー・・・」

 

一刀の言葉に、呉のが声を漏らす。

どうやら、ちょっと遠慮したい話題のようだ。

 

「触れちゃいけないところに触れちゃいましたッスね」

 

「え、まさか・・・」

 

「ええ、そういう話はありませんね。私たちも欲しいとは思っているのですが・・・」

 

「軍だとほとんど出会いが無いからな、弟者」

 

「そうだな。将以外はほとんど男だからな、兄者」

 

そこからはもう暴露大会のようなものである。

こうこうこういう彼女が欲しい、将で例えればあの人だな、というような話になっていく。

こんな話は男同士でしか出来ないため、なんだか新鮮な気分になる。

 

「やっぱり、みんなこだわりみたいなのがあるんだな」

 

「当たり前ッスよ! ・・・あぁ、また水浴びの警護やりたいッス」

 

魏のがため息をつきながらそう呟く。

 

「あー、最近はめっきり涼しくなってきたからなぁ。もう夏も終わるし、来年まで無理じゃないか?」

 

「うぅ、一年は長いッス・・・」

 

しょんぼり、と落ち込んでしまった魏のにつられたのか、ほかの兵士たちもため息をつく。

・・・まぁ、あれは兵士のみんなにとっては素晴らしいイベントだったんだろう。

かくいう俺も月や詠の水着姿を見ることが出来たので、あのイベントにはかなり満足している。

 

「まぁ、一年間楽しみを溜めていくしかないな」

 

「・・・爆発したら死にそうだな、こいつら」

 

俺の一言にぼそりと突っ込みを入れる一刀。

・・・確かに。

 

「夏が待ち遠しいッスよ~」

 

そんなくだらない話をしながら、俺たちは店が閉まるまで飲み続けた。

 

・・・

 

「うーむ、少し飲みすぎたか」

 

若干ふらつきながら部屋へと戻る。

扉を開けて部屋の中へ入ると、小さい寝息が聞こえた。

 

「すぅ・・・ん」

 

「月・・・来てたのか」

 

あれ、でも一刀と飲みに行くから今日の夜は部屋にいないって言っておいたはずなんだが・・・。

起こさないように気をつけながら、掛け布団を直す。

 

「むにゃ・・・あ、ギルさん」

 

「ごめん、起こしちゃったか」

 

「あ、いえ、お気になさらないでください。私が勝手に寝てしまっただけですから・・・」

 

申し訳なさそうにそう言う月の頭を撫で、それこそ気にするなよ、と返す。

頬を赤らめてはにかむ月に癒されつつ、隣にお邪魔する。

 

「えへへ、今日はギルさんを独り占めです」

 

「ん? ああ、そういえば今日は詠がいないな」

 

「はい。こっそり抜け出してきちゃいました」

 

「・・・明日怒鳴られると頭痛くなりそうなんだけど」

 

「大丈夫ですよ。詠ちゃんもきっとわかってくれます」

 

「そうかなぁ」

 

「そうですよ」

 

ニコニコと俺の腕に抱きつきながら自信満々に言い放つ月の様子に、ま、何とかなるかと考えることをやめた。

 

「よし、じゃあ寝るか」

 

「はい。おやすみなさい、ギルさん」

 

「おやすみ」

 

月に返事して寝ようとしたとき、おずおずといった感じで月が口を開いた。

 

「・・・あ、あの、ギルさん」

 

「ん、どうした?」

 

「えと・・・んー・・・」

 

・・・月が目を閉じながら唇を少しつきだしているんだが・・・これはあれをしなきゃならない流れなのか? 

 

「・・・月、それやったらたぶん今日寝れなくなるけどいいのか?」

 

「へぅ・・・えと、頑張りますっ」

 

「そ、そうか」

 

なら良いか、と開き直り、月に口付けしながら服を脱がしていく。

酒を飲んできたからか、少し自重が効かなさそうだ。

今は喋れないので心の中で謝っておくとしよう。すまんな、月。

 

・・・

 

「・・・なにこれ」

 

「ええと、ちょっと自分でも引いてる」

 

「へぅ・・・ち、力入らないです・・・」

 

おそらく二度目であろう腰ががくがくになった月を見た詠の一言が、あれである。

いや、うん。自分でもちょっとやりすぎたなぁと反省しているので、ジト目でこちらを見るのやめてください。

はぁ、とため息をついた詠は、まぁいいわと諦めたようだ。

 

「・・・でも、月が動けないのは困るわね・・・今日の仕事、どうしようかしら」

 

「ん、俺が手伝うよ。こうなったのも俺の所為だし」

 

「あ、いや、ギルはちょっと」

 

「え?」

 

そんな微妙そうな顔をして断られるとは・・・と少しショックを受けていると、詠が慌てて説明を加える。

 

「ち、違うっ。今日はその・・・男のあんたじゃ不都合なのよ」

 

「あー・・・」

 

その言葉で大体理解した。

詳しい仕事内容はわからないが、きっと侍女のみでしか出来ない仕事なんだろう。

女子には秘密がいっぱいだからな。

 

「そうだ。じゃあ、副長貸すよ」

 

「副長ってあんたの隊の?」

 

「ああ。あの子意外と家庭的だし、たぶん手伝いくらいなら出来るだろ」

 

「へぇ、何よ、そいつのことずいぶん推すじゃない」

 

「そりゃ俺の隊の副長だからな」

 

「まぁいいわ。腰の抜けてる月よりは使えるでしょうし」

 

「へぅ・・・ごめんね、詠ちゃん。少し休んだらすぐいくね」

 

「いいわよ、別に。すぐには無理かもしれないけど、ちょっと休んだら動けるようになるでしょ? それからでいいわよ」

 

・・・詠が優しい。

いや、月には最初から優しいか。

 

「うん。分かった」

 

「よし。それじゃ、副長のところ行こうか」

 

「そうね。・・・そういえば、副長って今日休みだったりしないの?」

 

「ん、大丈夫。今日も訓練だから、それから離れられるって言われたらすぐに食いついてくるだろ」

 

「・・・そいつ、ほんとに副長なの?」

 

詠の疑問ももっともだが、副長はあれできちんとやるやつだ。

大丈夫だろう。多分。きっと。おそらく。めいびー。

 

・・・

 

「侍女さんのお手伝い、ですか?」

 

「ああ。今日の訓練は俺が変わるから、午前中だけてつだ」

 

「わかりましたっ!」

 

・・・俺の言葉を遮ってまで答えたぞ、この子。

 

「そういえば、侍女さんのお手伝いって事は侍女服着れたりするんですかね」

 

「着るわよ。もちろんじゃない」

 

「おぉ~! あの服、一回着てみたかったんですよっ」

 

「・・・仕事、ちゃんとしなさいよ?」

 

「はいっ。もちろんですっ」

 

こうして、ルンルン気分で詠と去っていった副長を見送ってから、兵士たちの訓練を始めるのだった。

 

・・・

 

「頭いてぇ・・・」

 

「あっはっは、昨日飲んでたからなぁ、一刀は」

 

「・・・なんでギルは平気なんだよ・・・俺とかあいつらに飲まされまくってたのに・・・」

 

「酒には慣れたからな。それに、俺自身も知らなかったけど、意外と酒に強いらしいぞ、俺」

 

「くっ・・・流石飲兵衛たちに唯一ついていける男・・・」

 

何だその妙な評価。

というか飲兵衛っていうのは・・・まぁ、あのあたりだろうなぁ。

 

「ま、二日酔いも合わせていい経験になるだろ。じっくり苦しめ」

 

「く・・・次は絶対にギルが二日酔いするぐらい飲ませてやるからな・・・!」

 

「おう。いつでも来い」

 

そういって、苦しむ一刀に水を渡す。

 

「サンキュ。・・・ぐぅ、これは辛いな・・・」

 

「みんなこれを乗り越えて大人になっていくのさ・・・」

 

「かっこよく言ってるところにこんなこと言うのもあれだけどさ、ギルはまだ乗り越えてないよな・・・?」

 

「・・・お、俺はもう大人だし?」

 

「そっか。うん、分かったよ」

 

「あ、やめろ! からかったのは謝るから、その目で見るのをやめろ!」

 

なんだか優しげな瞳でこちらを見てくる一刀にそう返すと、一刀は失笑する。

どうやら一本とられたようだ。

 

「はは、これでお返しは出来たかな」

 

「ああ、あのころの純粋でピュアな一刀君はいずこに・・・」

 

こんな人をからかって遊んでくるような子じゃなかったのに・・・。

 

「さて、それじゃそろそろ行くよ」

 

「おう。わざわざ悪いな」

 

「気にすんなって」

 

俺が少し飲ませすぎた罪悪感もあってのことだし、一刀が気にするようなことじゃない。

・・・まぁ、ノリノリだったのは一刀もなんだけど。

 

・・・

 

「よい、しょっと」

 

川に船を浮かべてみる。

・・・黄金の船体と緑色の光が眩しいこいつは、毎度おなじみ黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)である。

龍を倒しにいったときにつけていた装備はすでにはずしてある。

あれをつけっぱの船を川に浮かべるわけにもいかないからな。

 

「よし、これでオッケーだな」

 

何でこんなに目立つものを川に浮かべているのかというと、以前ちらっと言っていた船釣りのためである。

一応船体には認識阻害の魔術をかけてあるので、目立つことは無いだろう。

 

「さて、それじゃあ行こう」

 

「兄ぃぃぃぃー!」

 

「ヘブンっ!?」

 

かな、と言う前に何かに突進されて川に落ちた。

何だこれ! ふにふにしたやわらかいものがくっついて・・・って。

 

「ぷはっ! み、美以!?」

 

「そうなのにゃー!」

 

元気に答える美以を抱えながら、とりあえず川から上がる。

・・・服がびしょ濡れである。まぁ、一瞬で着替えられるんだけど。

 

「主様ー!」

 

「あれ、美羽。それに、ミケトラシャムも」

 

美以がいつも遊んでいるメンバーである。

たまに鈴々とかも加わるのだが、今日はいないようだ。

 

「きらきらしてるのにゃー」

 

「まぶしいのにゃー!」

 

「ごーかなのにゃー・・・」

 

ミケたちは黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)に興味津々のようだ。

 

「金で船を作るなんて、主様はお金持ちじゃの」

 

そういって船を見上げる美羽はちょっとあきれたような顔をしている。

いや、まぁ、俺が作ったんじゃないんだけどなぁ。

 

「兄はどこかにいくのかにゃ?」

 

「ん? いや、どこかにいくんじゃなくて、船釣りをしようかなって」

 

「ちゅり・・・ちゅりはだめにゃ。狩ったほうが早いにゃ」

 

「そうじゃの。釣るより狩ったほうがはやいのじゃ」

 

・・・この二人が釣り? 

たぶん、釣り針に餌を付けなかったからとか、そんな理由で釣れなかったんじゃなかろうか。

 

「じゃあ、俺と一緒に釣りしてみないか?」

 

「兄と一緒ににゃ?」

 

「ああ。この船に乗るついでに、やってみようぜ」

 

「わかったのにゃ。兄がそこまで言うなら一緒にやってみるのにゃ」

 

薄い胸を張りながら、美以が答える。

 

「船に乗るのにゃ?」

 

「乗るにゃー!」

 

「乗るにゃー・・・」

 

ミケトラシャムも乗り気のようだ。

 

「主様主様、妾も乗りたいのじゃ!」

 

「もちろん。さ、みんな乗った乗った」

 

さらに後から来たちびっ子たちも乗り込み、騒がしく船は出港した。

この黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)は思考で操作できる船なので、きちんとちびっ子たちの面倒を見ながら船を操縦することが出来る。

川に落ちないようにしてあげないとな。

 

「ほらほら、幸、あんまり覗き込むと落ちるぞー」

 

「だいじょうぶだよー」

 

妙に甲板を動き回る幸を抱き上げて、落ちないように縁から離す。

本人が大丈夫といっているからといって、油断しているとさらっと落ちるからな。

 

「おー! この船は早いの! 帆も無いのに動いてるのじゃ!」

 

「早いのにゃー! 兄はすごい船を持ってるのにゃ!」

 

「はは、さ、釣りをしようか」

 

一旦引っ込んで、宝物庫から黄金の釣竿を取り出す。

 

「よーし、釣りするぞー」

 

「おー! 俺も手伝うぞー!」

 

「お、浩太、手伝ってくれるか」

 

八本ほどあるので、一人では辛い。

浩太なら父親と釣りに出かけるので慣れているらしく、以前も俺の釣りを手伝ってくれたことがあるので、安心して手伝わせられる。

 

「何を付けてるのじゃ?」

 

「ん? 餌だよ。釣り針には、餌を付けないと魚が寄ってこないからな」

 

「・・・そ、そうなのかえ?」

 

「ああ。・・・もしかして・・・」

 

「う、し、知らなかったのだから仕方ないのじゃ!」

 

・・・やっぱりか。前に釣りをしたときに釣れなかったのは、餌を付けなかったかららしい。

予想通りというかなんと言うか・・・。

 

「さ、美羽と美以も魅々と幸に教えてもらって、ちょっとやってみなよ」

 

「う、うむ。やってみるのじゃ。魅々とやら、よろしく頼むぞ」

 

「にゃ! 幸、頼むのじゃ!」

 

「あ、うんっ!」

 

「わかったよー」

 

二人の元気の良い返事を聞いて、微笑ましいなあ、なんて思いながら釣りを始めた。

 

・・・

 

「釣れたのじゃー!」

 

「釣れたにゃー!」

 

しばらくすると、二人の嬉しそうな声が聞こえる。

 

「釣れたのにゃ、兄!」

 

「おめでとう。釣りも楽しいだろう?」

 

「楽しいのにゃっ」

 

「主様ぁっ、釣れたのじゃ!」

 

「ああ、よかったな。ほら、もっともっと釣ってみようか」

 

「うむっ」

 

二人がびちびちと動く魚を持ってこちらにやってきたので、頭を撫でて褒める。

子供は褒めて伸ばす方針です。いや、まだ子供いないけど。

あれ、そういえばミケたちはどうしているんだろうか。

 

「うにょー! おっきいのが引っかかったのにゃー!」

 

「引っ張るのにゃー!」

 

「引っ張るにゃー」

 

いた。

三人で一つの竿を引っ張ってるようだが・・・うお、すげえでかい魚がかかってる!? 

なにあれ、この川の主!? 

 

「おー! がんばれー!」

 

「でっけー!」

 

司と浩太も興奮しているようだ。

ま、まぁ、楽しそうで何より。

 

「釣れたにゃー!」

 

「うおー! 飛んでるー!」

 

「・・・なんとまぁ」

 

少し目を放した間にあの巨大な魚を釣り上げたらしい。

反動で高く飛び上がった魚が、太陽の光を反射しながらこっちに落下してくる。

 

「あぶなっ!」

 

慌てて天の鎖(エルキドゥ)で魚を雁字搦めにする。

ゆっくりと甲板におろし、動かなくなるまで待つ。

・・・宝物庫を見られてしまったが、まぁこの子達なら大丈夫だろう。

 

「ふむ・・・これだけ釣れたならいいか。よし、港に戻って調理するとしよう」

 

そういって、俺は船の針路を港へと向けた。

 

・・・

 

魚に串を通し、焚き火の周りに刺していく。

これで、たぶん焼けるはず。幸は料理が出来るらしく、アドバイスをしてくれるので助かる。

 

「うおー! 燃えろー!」

 

「・・・なんで浩太はこんなにテンションが高いんだ・・・?」

 

「てんしょん?」

 

「ああ、幸は気にしなくていいんだぞー」

 

そういって頭をなでると、えへへーと笑う幸。

 

「そっかー」

 

「・・・この子、きっと将来桃香みたいになるんだろうなぁ」

 

頭の妙なゆるさとか、ほんわかとした空気とか、似通いすぎだろ。

うん、まぁ、そのままやさしい子に育ってください。

 

「魚! 魚を燃やせー!」

 

「燃やすな! 焼け!」

 

ついに司からの突っ込みが入った。

激しく頭を叩かれたにもかかわらず、楽しそうに笑っている。

・・・あれ、叩かれたからおかしくなったのか・・・? 

 

「お、おい司、あれ大丈夫なのか・・・?」

 

「大丈夫じゃない? 魅々に叩かれてもああなるし」

 

「浩太の立ち位置がわからない・・・」

 

何でそんなに引っ叩かれてるんだ・・・。

あれか、ボケなのか、浩太。

 

「良いにおいがするのじゃ! やっぱり魚は焼くのが良いのじゃっ」

 

「もう大丈夫だと思うよ、ギル」

 

幸がそういうと、みんなが串に刺さった魚を手に取っていく。

俺も一つとって、かぶりついてみる。

 

「おお、おいしい」

 

「えへへー、でしょー」

 

「・・・なぜ魅々が偉そうなんだ」

 

胸を反らして偉ぶった魅々に突っ込みを入れながら、魚を食べ進めていく。

 

「さて、この巨大魚、どうしようか」

 

あ、そうだ。

 

「ちょっと木を刈るか」

 

宝物庫から取り出したグラムで木を一本切り倒す。

その木を加工して、組み立てて・・・っと。

 

「よし、これでいいはず」

 

見よう見まねではあるが、完成した。

 

「これに魚を通して・・・火をつける」

 

ちびっ子たちが興味津々と言ったように周りに集まってくる。

視線を受けながらも、俺は魚を通した棒を回し始める。

ぐるぐると回りながら、魚に火が通っていく。

焼けていく魚を見ながら、タイミングを見計らって・・・。

 

「・・・ここだっ! ・・・よし、上手に焼けましたっ!」

 

気分はハンターである。

いや、特に何も狩らないけどさ。

 

「おー! 上手に焼けたかえ!」

 

「ああ。おそらく完璧だと思う」

 

美以がいつの間にか用意していた巨大な葉っぱの皿に魚を乗せ、切り倒した木から作成した箸をみんなに渡した。

・・・そういえば、どんな魚か分からないまま焼いて食おうとしてるんだけど、大丈夫だろうか。

 

「いただきまーす!」

 

「・・・一応、いろいろな霊薬を用意しておくか・・・」

 

考えているうちにみんなが食べ始めてしまったので、取り合えずだめだった場合の用意だけしておくことにした。

 

・・・

 

「おいしかったー!」

 

「おなかいっぱいなのにゃ!」

 

「なのにゃー!」

 

「なのにゃー」

 

魅々とミケトラシャムが満足そうに叫ぶ。

シャムは若干眠そうな声だったが。

 

「まんぷくなのにゃ」

 

「じゃの」

 

「食った・・・食いきったぞー!」

 

「・・・浩太、元気だなぁ、ほんとに」

 

若干自重しろと思うぐらい元気だ。

 

「お片づけ~、おっかたっづけ~」

 

早速幸が片づけをはじめている。

・・・偉い子だなぁ。こういう娘がほしいものだ。

 

「午後からは何をしようか・・・」

 

あ、そうだ。

 

「うん、午後からは空に行こうか」

 

「空?」

 

司が首をかしげる。

 

「おう。よっしゃ、船に乗り込め!」

 

「お? お、おー!」

 

よく分からない、といった表情のまま、いの一番に浩太が船に駆け込んだ。

それについていくようにミケたちが走り出し、その後ろに美以と美羽が続く。

幸と魅々はゆっくりと船に乗り込んでいく。

 

「よし、みんな乗り込んだな」

 

最後に俺が乗り込んで、船の周りに結界を張る。

川と違って、落ちたら生死に関わるからな。

 

「これで良いな」

 

依然として甲板ではしゃいでいるちびっ子たちを見張りながら、黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)を上昇させる。

 

「お・・・? ぎ、ギル! 浮いてる! 船が浮いてる!」

 

「おう、この船な、空飛ぶんだ」

 

「初耳だよ!?」

 

「今初めて言ったからな」

 

司の焦ったような声に、苦笑しながら答える。司の驚いた顔がちょっと面白い。

完全に水から船が離れ、高度を上げていく。

 

「高いのじゃー!」

 

「にゃー! 街が見えるのにゃ!」

 

認識阻害の結界もちゃんと発動しているようだし、ゆっくりと午後の遊覧飛行と行こうじゃないか。

最初はびくびくしていたちびっ子たち(美羽と美以除く)だったが、すぐに慣れたらしく空からの景色を楽しんでいた。

 

「あ! 俺んちだー!」

 

「じゃあ、俺の家はあっちかな」

 

「いつも遊んでる広場があんなに小さいよ、魅々ちゃん!」

 

「うんっ!」

 

「高いのじゃー!」

 

みんな喜んでくれたようでよかった。

その後、日が暮れるのを空から見届け、地面に降りた。

最後にちびっ子たちを家に送り届け、一日が終わったのだった。

 

・・・

 

一人執務をしていたとき、月が休憩しませんか、とお茶を持ってきてくれた。

せっかくなので休憩することにしてお茶を飲んでくつろいでいると、月が俺の湯飲みを持ってない方の手を両手で掴み、さすったり指を絡めたりしてきた。

 

「・・・なにやってんの?」

 

思わず疑問が口をついて出てきてしまった。

いや、でもかなり混乱している。何で? 

 

「ふぇ? え、えと、ギルさんの手を触っています」

 

小首を傾げながらも、俺の手をさするのはやめない月。

 

「うん、それは見たら分かる。何で?」

 

「へぅ・・・だ、だって、ギルさんの手っていうかお肌ってつるつるすべすべじゃないですか。あんなに沢山訓練して、私たち侍女の仕事とかも手伝ってくれるのに、ぜんぜん荒れてないって言うか・・・」

 

「・・・そういう月だってすべすべだが」

 

ずるいです、と小さい声でむくれる月にそう返す。

俺の手を触っている手の感覚だと、それこそ侍女の仕事をしているなんて信じられないくらいだ。

 

「そ、そうですか・・・? ありがとうございます・・・」

 

そういって照れる月だが、未だに手は俺の手を握ったままだ。

 

「~♪」

 

鼻歌まで歌って、相当ご機嫌なようだ。

というか、お茶を差し入れに来たのか俺の手を触りに来たのかどっちなんだ・・・? 

 

・・・

 

あの後、存分に楽しんだのか来たときより二割り増しの笑顔で月は帰っていった。

 

「・・・本当に手を触りに来ただけじゃないんだろうな・・・?」

 

それにしても、未だに月の手の感触が残っている気がする。

 

「邪魔するわよ」

 

こんこん、とノックの後にそんな声が聞こえた。

 

「ん、詠か。どうした?」

 

「・・・別に。暇になったから、ちょっとあんたの手伝いでもしようかなって思っただけ」

 

「それはうれしいね。ぜひ頼むよ。あっちの山から片付けてくれないか?」

 

「ふ、ふんっ。言われなくてもやるわよっ」

 

そういって、筆を準備する詠。

しばらくさらさらと筆を走らせる音だけが部屋の中に響く。

そんな中、俺はふと思いついたことを実行しようと口を開いた。

 

「・・・そうだ、詠」

 

「なによ?」

 

「ちょっと、こっち来てくれないか?」

 

「へ? な、なんで?」

 

「いいから」

 

「・・・」

 

少し怪訝そうな顔をしながら、詠は筆を置いてこちらに寄ってくる。

そして、俺のすぐそばまで来ると、腰に手を当てるいつものポーズをとって

 

「で、なんなのよ」

 

「ちょっと、手を貸してくれないか?」

 

「はぁ? 手伝いなら今してるじゃない」

 

「いや、そういう意味じゃなくて、手をちょっと出してくれないか?」

 

「?」

 

頭の上に疑問符ばかりが浮かんでいる詠が、おずおずと右手をこちらに差し出してくる詠。

その詠の右手を握り、手触りを確かめるようにさすってみる。

 

「ひゃうっ!? ちょ、な、なにを・・・!」

 

「まぁまぁ」

 

「まぁまぁじゃな・・・!」

 

うーん、やっぱりすべすべである。

 

「ちょ、もういいでしょ」

 

「・・・嫌なのか?」

 

「う・・・い、嫌ではないけど・・・は、恥ずかしいじゃない」

 

「裸になるよりは恥ずかしくないだろ」

 

「ばっ・・・! ばかぁっ。変なこと言うんじゃないわよ!」

 

「はっはっは、よし、うるさい詠はこうだ!」

 

そういって、俺は詠を抱き上げ、こちらに背を向けるようにひざの上に乗せる。

これで詠も暴れられまい。俺も満足だし、一石二鳥である。

詠も本気で嫌がっているわけじゃなく、ただ恥ずかしいだけだろうから、そのうちおとなしくなるだろ。

 

「・・・」

 

あれからしばらくした後、詠が予想以上におとなしくなってしまった。

顔を真っ赤にして、詠の手を握っていた俺の手に指を絡めてきている。

・・・うん、なんというか、満足です。

 

・・・

 

あの後、真っ赤になって機能停止した詠を呼び戻した後、政務を終わらせた。

・・・詠が可愛すぎて真昼間から政務室でやらかしてしまったのは反省しておこうと思う。

 

「・・・にしても、二人とも手がきれいだったなぁ」

 

手首を愛する殺人鬼の気持ちが少しだけ分かった気がする。

かといって手首切り落とす趣味はないが。

 

「よっと」

 

「・・・卑弥呼がいきなり来るのにもなれたなぁ」

 

そんなことを考えていると、短い掛け声とともに背中にかすかな衝撃が。

どうやら、背中に卑弥呼がくっついているらしい。

 

「弟くんには会ってきたのか?」

 

「うん。・・・あ、そうそう、弟から手紙」

 

「俺に?」

 

背後から差し出された手紙を受け取る。

・・・今まで話でしか聞かなかった弟君からの手紙か。

 

「そ。・・・さ、あんたの部屋に行くわよ」

 

「いいけど・・・何もないぞ」

 

「何言ってんのよ。寝台があるじゃない」

 

きょとんとした顔の卑弥呼の言葉で、何がしたいのかが分かった。

・・・さっき詠としたばかりなんだが、大丈夫だろうか。

 

「・・・まさか」

 

「そのまさかよ。ほら、日も高いし、体力は有り余ってるでしょ? それとも、わらわじゃ不満?」

 

「んなことはないが・・・ああもう、分かったよ。分かったから涙目になるなっ」

 

「なってない。・・・じゃ、行くわよ」

 

ぐしぐしと服の袖で目元をこすり、卑弥呼が俺の手を引いて歩いていく。

あ、卑弥呼の手もきれいだなぁ、なんて妙なことを考えながら、俺は引っ張られていくのであった。

 

・・・

 

「どれどれ」

 

最後のほうになると「もうらめぇっ」とか呂律が大変なことになっていた卑弥呼を寝台に寝かせてから、俺は卑弥呼の弟さんからの手紙を開く。

うぅむ、少し読みづらいが、読めなくはない。

聖杯からの知識には、どんな言語でも読んだり話したりできるというものがあるようだ。

たぶん一番使用する率が高いものじゃないだろうか。

 

「ええと・・・」

 

なになに? 

 

『いつも私の姉がご迷惑をかけているようで申し訳ありません。先日の帰郷の際、姉から「愛する人ができた」と聞いたときは驚きました。まさかあの頭がイカレ・・・もとい、頭が壊れかけの姉にそんな人が出来るとは思ってもいませんでした』

 

・・・なかなか弟君は辛らつなようだ。いや、身内にはこんなものなのか? 

フォローがフォローになってないし。

 

『このまま姉の貰い手がいなかったら、と心配になっていたころだったので、とても安心しました。お会いしたことはないですが、あなたのことは姉からいつも惚気られているので姉のことは安心して任せることが出来そうです』

 

それにしても丁寧な物腰である。彼が王になったほうが邪馬台国は安定するんじゃなかろうか。

 

『それでは、これからも姉の相手をよろしくお願いします。・・・そうそう、今度倭国に遊びに来てください。全力で歓迎いたします』

 

そこで手紙は終わっていた。

うぅむ、弟君は常識人のようだ。姉があれだから反面教師でそうなったのだろうか。

少しだけ姉の世話を押し付けられたような気がするが、まぁそのぐらいはかまわないだろう。

 

「・・・むにゃ、んぅ」

 

「まぁ、今度暇なときにでも連れて行ってもらおう」

 

この世界の倭国じゃないため、卑弥呼の魔法で一緒に連れて行ってもらうしかないから、後で卑弥呼に相談してみるか。

俺は手紙を宝物庫の中にしまい、筆と紙を取り出す。

とりあえず、弟君に手紙の返事を書かなければ。

 

・・・

 

卑弥呼が復活したので服を着せて少し出かけることに。

詠が手伝ってくれたおかげで今日の仕事はなくなったのでこうして町に出かけても誰にも文句は言われまい。

 

「ん~、なんかご飯って気分じゃないのよねぇ」

 

「腹減ってないのか?」

 

「どうかしら。身体動かしたから減ってるとは思うんだけど・・・」

 

「思うんだけど?」

 

「なーんか気が進まないのよねぇ。ま、いいわ。適当な店に入りましょ。美味しそうな匂いでも嗅げばわらわも食欲わくだろうし」

 

「そうか? あんまり無理するなよ」

 

「分かってるわよ」

 

卑弥呼の様子からして病気ってわけじゃなさそうだが・・・。

まぁ、本人が大丈夫って言ってるんだし、少し気にする程度にしておこう。

あんまりうるさく聞いても困るだろうし。

いつものように人通りが多い大通りを少し歩くと、飯店が見えた。

うむ、これといって何か「食べたい!」っていうものもないし、ここでいいかな。

卑弥呼を連れて店の中に入ると、店員の元気な挨拶が聞こえてくる。

席に座り、採譜を見ると、卑弥呼も食欲が復活してきたらしく

 

「何にしようかしら・・・むぅ、チャーハンかシュウマイか・・・」

 

なんて難しい顔をして眉間に皺を寄せながら悩んでいた。

とりあえずは一安心かな、と内心で安堵のため息をつきながら、俺も食べるものを決める。

 

「決めたっ。シュウマイ定食にするわ!」

 

「そっか。すいませーん」

 

卑弥呼が決まったようなので、店員を呼んで注文する。

 

「そういえば、ギル」

 

「ん?」

 

「弟からの手紙はなんて書いてあったのよ」

 

「あーっと、今度遊びに来てくれって」

 

さすがに頭がイカレ云々は話せない。

弟君が合わせ鏡されても困るからな。

 

「そう・・・そっか。そうね、一度あんたを連れてくのも良いかもしれないわね」

 

「今度長い休みが取れたら倭国に連れてってくれよ」

 

「良いわよ。・・・そういえば、女王のわらわの恋人なんだから、あんた王になるのね」

 

そういえば卑弥呼って女王だったな。

遊んでるイメージしかなかったから、どうも忘れがちだったが。

 

「流石に三国の政務と倭国の政務は兼任できんぞ」

 

「あっはっは、それは大丈夫よ。わらわの弟たちはそれくらいできてるわ」

 

なんともまぁ、大事になったもんだ。

 

「そうなったらいろいろと伝えとかなきゃいけないのか・・・めんどいわね、弟に全部押し付けようかしら」

 

「・・・流石にやめてやれ」

 

「そう? ま、あんたがそこまで言うならやめておこうかしら」

 

「ああ、そうしてやってくれ」

 

弟君も倭国の政務と姉の無茶振りに対応してたら死ぬぞ。

それから、やってきた料理を食べつつ話を続ける。

 

「・・・そういや、後継者育てようと思ってんのよねー」

 

「後継者?」

 

「うん。一番良いのは自分の子供なんだけどさー、娘が生まれるとも限らないじゃない?」

 

「まぁ、そうだなぁ」

 

っていうか、やっぱり後継者は女王じゃないといけないんだな。

 

「それに、生まれるのを待ってたら手遅れになっちゃうかもしれないし」

 

「確かになぁ・・・」

 

「そこでわらわは考えたのよ。自分に子供がいないなら拾ってくれば良いじゃない」

 

「・・・おいこら」

 

「まぁまぁ、落ち着きなさい。あんたとの子供も女子だったら後継者にはするわ。だけど、それまでのつなぎがいるじゃない」

 

「つなぎ、ねぇ」

 

「ついでに言うと、もう後継者候補はいるのよ」

 

「へえ、そうなのか」

 

卑弥呼にしてはずいぶんと行動が早いな。

こういうことこそ弟君に投げっぱなしジャーマンすると思っていたんだが。

 

「ええ。壱与っていうわらわの親族なんだけど、なかなか才能があるのよね」

 

「・・・ほ、ほう」

 

俺の知っている歴史では、卑弥呼の後は男子の王がついたけど、争いが止まなかったからまた女王を立てることになったらしい。

そこで選ばれたのが壱与だったはずだ。

・・・あれ、歴史がちょっと違うぞ。

まぁ、平行世界の倭国だし、卑弥呼が壱与を直接後継者にしていても不思議じゃないな。

 

「このまま順調に行けば第二魔法も使えそうだし、魔術もなかなか良いの使えるのよねぇ」

 

「そういえば、卑弥呼は魔術使えるのか?」

 

「ん? まぁ、一応ね。それでも、魔術だけでいったら壱与のほうがすごいけど」

 

「卑弥呼がそこまで言うなんて、相当すごいんだな」

 

「ええ、すごいわよあの子。なんてったって占いがほとんど予知みたいな的中率なんだから」

 

「卑弥呼の占いは?」

 

「わらわ? わらわは・・・そうね、二割ってとこかしら」

 

ひ、低い・・・! 

あれ、卑弥呼って占いで国の方針とか決めてなかったか? 

 

「わ、わらわは・・・ほら、平行世界にいけるから、それを参考にして国を動かしていけばいいもの」

 

「ああ・・・なるほど」

 

「それが、壱与は魔法を使わなくても分かるってだけだから、あんまり違いはないわね」

 

「じゃあ、魔法を使える壱与が王女になったら安心だな」

 

「そうなのよねぇ。正直あの占いの才能はわらわもほしかったわ。まぁ、魔法が使えたおかげであんたに会えたんだけど」

 

「・・・恥ずかしいことをさらっというな」

 

俺の言葉に、卑弥呼はそう? と首を傾げるだけだ。

 

「ごちそうさま。それじゃ、わらわはちょっと用事思い出したからちょっと帰るわね」

 

「ああ、じゃ、またな」

 

「うん。・・・またね」

 

そういって卑弥呼は俺に口付けをして、店の外へと消えていった。

人目のないところで平行世界を移動するのだろう。

 

「・・・何という恥ずかしいことを。ああ、お客さんの視線が痛い」

 

おいおいマジかよ今は昼だぜ、という視線を向けてくる客たちに耐え切れず、そそくさと金を払って店を出た。

流石はわがまま女王だ。周りの視線なんて気にしてないぜ! 

 

・・・




「ど、どうですかね隊長、私の侍女姿は」「んー、背中に武器背負ってなきゃ完璧なんだけど」「戦って家事も出来る侍女を目指してますので!」「それよりきちんと副長としての仕事が出来るのを目指そうな」


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