真・恋姫†無双 ご都合主義で萌将伝!   作:AUOジョンソン

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「聴診器を当てられたときのあのひやっとした感覚・・・」「ちょうしんき・・・ですか?」「ああ、月はわかんないか。えーと、こんな感じ」「ひゃうんっ!?」「・・・ごめん、ちょっと興奮した」


それでは、どうぞ。


第十七話 みんなで健康診断に

「・・・健康診断?」

 

中庭にいつの間にか立っていた高札。

内容は、健康診断の実施についてのものらしかった。

 

「お兄ちゃん、けんこーしんだんってなんなのだ?」

 

「ん? ・・・そうだなぁ、病気してないかとか、どれくらい身長があるのか、とか調べるんだよ」

 

「鈴々は病気してないのだ!」

 

「自分では分からない病気とかもあるからな。そういうのも纏めて見るんだろう」

 

「その通り」

 

鈴々に説明していると、背後から声が。

 

「華佗。それにキャスターも」

 

背後に立っていたのは、華佗とキャスター。

そういえば、キャスターには医術の心得もあるんだっけ。

 

「医者が一人じゃ大変だろうと思ってね。微力ながら手伝うことにしたのさ」

 

なるほど、と頷く。

 

「実施は一週間後位を予定してるから、立て札を読んでいない将たちにも教えておいてくれないか」

 

「了解。・・・そういえば、何でいきなり健康診断なんかを?」

 

「ああ、ギルは知らないんだっけ? わくわくざぶーんの建設中、天の御使いが風邪をひいてね」

 

なんと。

あの頃は建設の指揮に忙しかったから分からなかった。

そうか、しばらく見てないなと思ったけど、風邪引いてたのか。

 

「それで、他の将にも何か病気の兆候なんかがないかと実施することにしたのさ」

 

「なるほど、得心いった。・・・そういえば、サーヴァントは受けなくていいんだよな? 会場案内の手伝いとかしようか?」

 

俺は受肉しているが、それでも普通の人間とは違う。

健康診断のときは人手も足りなくなりそうだし、と思ってそう言ってみると、キャスターから驚きの返答が。

 

「何を言っているんだ、ギル。もちろんサーヴァントもやるよ?」

 

「霊体だぞ!?」

 

おっと。思わず突っ込みを入れてしまった。

だが、サーヴァントは俺を除いてみんな霊体である。健康診断とか・・・いるのか? 

 

「まぁ、人間と同じ健康診断ではなく、マスターからの魔力はちゃんと供給されて循環してるか、とか魔術的なものになるんだけど」

 

「・・・ああ、そういうことか」

 

それならばサーヴァントにも健康診断があるというのも頷ける。

魔力供給が上手くいかなければサーヴァントは消えてしまうからな。

 

「でもまぁ、サーヴァントは七人しかいないんだし、すぐに終わるだろうから、手伝ってくれるのは嬉しいけどね」

 

「ん、了解した」

 

ふぅむ、健康診断か。

 

・・・

 

と言うわけでやってきました三国合同記録会。

体重を量るの反対、やら胸囲を測るの反対、なんて反発もあったものの、何とかみんなを納得させ、開催することができた。

 

「いやぁん、ご主人様と目が合っちゃったわん。卑弥呼、どうしましょ」

 

「うぬぬ、このようにビシッと目が合ってしもうては妊娠してしまうやもしれんぞ!」

 

・・・あれらは一刀に任せよう。

決して係わり合いになりたくないとかそういうことではないので。あしからず。

あ、いや、やっぱ係わり合いになりたくねえや。

 

「・・・ギルの兄さん、あの面子が暴れだしたら、鎮圧手伝ってな・・・?」

 

そう言った真桜の視線の先には

 

「・・・体重」

 

「・・・おっぱい」

 

血走った目をした将がいた。

・・・いや、誰とはいわないけど。

 

「・・・ああ、尽力しよう」

 

「ほんまか! これで少し気が楽になるわぁ!」

 

「ありがとなのー!」

 

真桜と沙和はそのまま軽い足取りで凪の元へと駆けて行った。

・・・いつでも宝物庫を開けるようにしないとなぁ。

 

「あ、ギルさん」

 

「月。それに詠たちも」

 

ぞろぞろとやってきたのは侍女組+侍女卑弥呼、そして恋だ。

・・・っていうか、卑弥呼はいつまでメイド服でいるつもりなんだろうか。

 

「あれ、卑弥呼も来てるのか」

 

「ええ。偽者が健康診断やるのにわらわがやらないわけには行かないでしょ?」

 

卑弥呼はやる気満々のようだ。

・・・まぁ、別に良いか。

ちらり、と手元にある割り振り表を見る。

ええと、月たちは・・・呉と一緒に回ってもらうことになってるのか。

 

「月たちは呉と一緒らしい」

 

「・・・偽者はどこと一緒にまわるわけ?」

 

「蜀だな。麗羽たちと白蓮もこっちだ」

 

「ならわらわもそっちに行くわ。偽者との決着は直接つけなくちゃならないのよ」

 

「・・・あー、うん、まぁいいや」

 

ここでごねられても困るしな。

 

「じゃあ、俺もちょうど蜀のところで手伝いだから、一緒に行くか。・・・悪いけど、月たちは沙和に着いていってくれ」

 

「はい。それでは、また後で」

 

そう言って去っていく四人を見送った後、卑弥呼と共に槍投げの会場へ。

 

・・・

 

「お、一刀じゃないか。一刀も蜀と一緒に健康診断か?」

 

「ああ、ギル。いや、俺は見回りだよ。・・・それにしても、みんな凄いよな。見てくれよ、この記録」

 

そう言って手渡されたのは、記録表。

それを見てみると・・・おお、凄いなこれ。

 

「ほとんど百メートル越えじゃないか」

 

凄いなぁ。・・・うわ、愛紗とか一番飛ばしてるじゃないか

 

「あ、ギル殿っ!」

 

「凄いじゃないか愛紗。一番だぞ」

 

「あ、ありがとうございますっ」

 

こちらに駆け寄ってきた愛紗をねぎらうと、てれりと俯いてしまった。

 

「さて、次はっと・・・え?」

 

名簿にあったのは、貂蝉と卑弥呼の文字。

・・・まさか。

 

「うーん、ちょっと軽いわねぇん」

 

・・・まさかの人外じゃないか! 

っていうか、貂蝉、卑弥呼、卑弥呼(女)って、事故の予感しかしない! 

 

「ぬっふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!」

 

掛け声と共に、圧倒的な気が爆発する。

貂蝉は身体の中を暴れまわる気を収束し、最大の瞬発力を発揮させる。

天まで届けとかご主人様のお尻まで届けとか不穏な言葉が聞こえるが、そこはスルーさせていただく。

 

「ドゥルァァァァァァァァッ!」

 

ドガァン、とおよそ槍投げの際に発するようなものではない音を立てながら、貂蝉は腕を振りぬく。

何かが破裂するような音と共に、槍を中心とした衝撃波が発生する。

・・・あれを人は、ソニックブームと言う。

 

「まさか、だな・・・」

 

卑弥呼と貂蝉以外の将が呆然と空へ消えていった槍を見つめる中、貂蝉がサムズアップした。

さ、流石人外。

 

「貂蝉。・・・甘い、甘いのぅ」

 

「もうちょっとズンズン来る感じならもっと良いんだけどねん」

 

・・・なんて会話を交わし、次は卑弥呼の番だ。

 

「ぬぅんっ!」

 

地面がめくり上がるんじゃないかと言うほどの気の放出。

どうみても貂蝉以上の強さの上、淀みの少ない気のようだ。

 

「ぬっふぅぅぅぅ・・・!」

 

槍を構え、目を閉じる卑弥呼。

周囲の将たちも、しんと静まり返る。

 

「見えたぞ、汗の一滴!」

 

かっと目を見開き、踏み込む。

 

「でえええええええええええええいっ!」

 

その瞬間、爆発が起こった。

 

「槍投げで、爆発だとっ!?」

 

その疑問はごもっともだ、星。

いや、俺も信じたくないが・・・うーん。

空の彼方へと光って消えた槍は・・・って、なんか爆発してる・・・? 

 

「おいおい、何打ち落としたんだよ」

 

千里眼を発動してみるが、爆煙が晴れた頃には何もなくなっていた。

・・・なんだったんだろうか。

 

「・・・よし、わらわの番ね。・・・ちょっと格闘娘。これって自分の持てる力をすべて出し切って槍を遠くへ届かせればいいのよね?」

 

「格闘娘って私ですか・・・? ・・・ええ、そうですけど・・・」

 

「そう。・・・なら、わらわの勝ちね偽者!」

 

「ほう?」

 

卑弥呼(女)の言葉に、興味深そうな表情を浮かべる卑弥呼。

槍を持った卑弥呼(女)は、懐から鏡を取り出す。

 

「行くわよ、合わせ鏡!」

 

その言葉と共に、合わせ鏡になった二枚一対の鏡が四組、斜め上を向いて直線上に並んだ。

合わせ鏡が砲台を形成しているようだ。その鏡は回転しながら魔力を充填し始める。

って、まさか合わせ鏡で槍を加速させて・・・

 

「行きなさい、わらわの超魔力砲!」

 

うわぁ、そのまさかだ! 

っていうか、この人何の躊躇いも無く名前パクッた! 

俺がそんな風に心の中で突っ込みを入れている間に槍は砲台を通り魔力によって加速させられていく。

 

「ぬぅ!?」

 

「あらぁん」

 

音を置き去りにした槍は卑弥呼の槍と同じように空の彼方にある「何か」を撃墜した。

 

「どうよ! わらわのほうがかっ飛んだわよ!」

 

「・・・健康診断だっていうの、忘れてるだろ」

 

「ふむ、なかなかの力・・・流石はワシと同じ名を持つだけはあるわ! ふははははは!」

 

・・・もういやだ。

 

・・・

 

「・・・ぶぅ。なんでわらわが拳骨貰わなきゃならないわけ?」

 

「危ない事したから。あれだけの魔力使ったら大変なことになるって分かってただろ?」

 

「まぁ、平行世界からも魔力引っ張ってきたからね」

 

ふふん、と無い胸を反らしながら卑弥呼は得意げに言った。

・・・卑弥呼に対する対抗心さえなければ元気はつらつなだけの魔法使いなのに・・・。

あれ、それでも駄目な気がしてきた。不思議だなぁ。

 

「・・・まぁ、ギルがそこまでいうならちょっとは自重してあげる」

 

「ありがとさん。・・・さて、魏のテスト会場はここか」

 

「頭の悪い奴らは大変ねえ。こんなのに苦労するなんて」

 

「あら、ならあなたも受けてみなさいよ」

 

卑弥呼の言葉に答えるように声をかけてきたのは、華琳だった。

そばにはいつもどおり春蘭と秋蘭が侍っている。

 

「受けても良いけど・・・一位は貰っちゃうわよ?」

 

「ふぅん? それはいい事を聞いたわ。あなたは・・・蜀と一緒に回っていたはずね。次は蜀が筆記試験のはずだから、そのときを楽しみにしているわ」

 

ばちばちとお互いに火花を散らす二人。

 

「・・・なぁ秋蘭?」

 

「なんだ、ギル」

 

「何で華琳と卑弥呼って仲良いんだ?」

 

俺の言葉に、秋蘭は少しだけ考え込んで

 

「多分、華琳様ご自身と近い感覚を持っているから、だと思うがな」

 

・・・そういうもんか。

 

「そういうものだと思うぞ」

 

そっかそっか、と納得していると、春蘭が話しかけてくる。

 

「それに、華琳様と卑弥呼さんは立場も似通ってらっしゃるという点もあると思いますよ」

 

・・・その言葉を聞いた瞬間、血の気が引いた。

いや、比喩とかではなく確実に俺の顔色は真っ青になっていることだろう。

 

「・・・しゅ、しゅしゅしゅ秋蘭?」

 

「・・・言いたい事は分かるぞギル」

 

「何が起こったんだよ?」

 

秋蘭に顔を寄せ、耳打ちする。

ふぅ、とため息をついた秋蘭は、ぼそりと

 

「ここ数日の勉強漬けが祟ったらしい」

 

うわぁ・・・人格が変わるほどだったのか。

 

「というか、理性的な春蘭とか鬼に金棒みたいなものじゃないか」

 

そう考えないとやっていけない気がする。

 

「お、終わりましたぁ・・・」

 

秋蘭とぼそぼそと話していると、流流が部屋から出てきた。

へとへとになっているようだ。

 

「お疲れ、流流。どうだった?」

 

「あ、にーさま。・・・えと、問題は大体わかったんですけど、問題文が読めなくて・・・」

 

「まぁ、それならこれからの努力しだいで何とでもなるな。秋蘭や・・・今の春蘭に教えてもらうと良い」

 

「え? 秋蘭様はともかく・・・春蘭様は・・・」

 

「私でよければ、喜んでお力になりますよ、流流さん」

 

「っ!?」

 

流流は、ぞぞぞ、と鳥肌の立つ腕で自分を抱きながら、驚愕の表情でこちらを見てくる。

ああ、うん。その反応が多分正しいんだと思う。

そして試験終了の銅鑼が鳴り、残っていた人たちも出てくる。

 

「うぅー・・・頭痛い・・・」

 

「季衣か。お疲れ様」

 

「あ、にーちゃん。にーちゃんも試験受けに来たの?」

 

「俺は案内役の手伝いだよ。大変だったみたいだな」

 

「大変だったよぅ・・・にーちゃんも受ければ良いのに」

 

「俺はもう良いかなぁ、そういうの」

 

曖昧に返しながら言葉を濁していると、桂花も出てきた。

 

「・・・」

 

「桂花、大丈夫か?」

 

だいぶ顔色が悪いが・・・。

 

「お疲れ様です、桂花さん」

 

「ひっ!? あ、あんた・・・」

 

そう言ってこちらを見る桂花。

 

「・・・俺の宝物庫にもいろいろな霊薬があるが、これを治すのは・・・どうだろうか?」

 

「うわーん、華琳様ー!」

 

いつもどおり桂花が華琳に抱きつくのを尻目に、理性的な春蘭に視線を移す。

・・・この状態の春蘭はあと何時間持つのかなぁ・・・。

 

・・・

 

と言うわけで、呉のみんなが身体測定をしている部屋の近くまできました。

ここは流石に中の様子を覗くわけにも行かないので、月あたりが出てきたら感想を聞いてみるかな。

 

「あれ、ギルー!」

 

「ん、おおっ!? ・・・って、シャオか」

 

声に反応するより速く、シャオがこちらにタックルしていた。

 

「あのね、あのね、シャオの身長とおっぱい、ちゃんと大きくなってたんだよ!」

 

「おお、やったな。やっぱり孫家の姫だな」

 

「えへへぇ。・・・でもまぁ、お姉さまたちもきちんと成長してたんだけどね・・・」

 

しゅん、と落ち込むシャオ。

これはいけない。何とかフォローしてあげなくては。

 

「そんなに気にしなくて良いだろ。シャオも成長期なんだからさ。きっとすぐに追いつくさ」

 

「そ、そうだよね、うん!」

 

そう思えば、身体測定も悪くないわね、とご機嫌なシャオ。

そうだ、と何かを思いついたらしい。輝かんばかりの笑顔で

 

「ギルにだけ、こっそり触らせてあげようか?」

 

「おおう!?」

 

「あのね、シャオ・・・ギルにだったら、いいよ・・・?」

 

上目遣いにこちらを見上げるシャオ。

おおお、不味いぞ、この破壊力は不味い・・・! 

 

「ほら、ギルぅ・・・」

 

そう言ってシャオは理性と戦う俺の手を取って自身の胸へと・・・

 

「って、危ねえ!」

 

運ばれる前に、背後からの一閃をギリギリで避ける。

 

「ちっ、惜しい」

 

「惜しいって言った!? 思春さん、惜しいといいましたか!?」

 

「やかましい。全く、油断も隙もない」

 

そう言って思春は獲物を仕舞う。

・・・あぶねえ。ほんとにデンジャーだよこの人。

迷わず首を刈りにきたからな・・・。

 

「小蓮さまも小蓮さまです。もう少し場所と時間をお考えください」

 

「ぶぅ。・・・今日のところは引き下がってあげる」

 

渋々といった様子で、シャオは俺から離れた。

 

「あら? ぎ、ギル・・・?」

 

思春の後に部屋から出てきた蓮華は、こちらを見て頬を赤く染めた。

よぉ、と手を上げると、小走りにこちらへ近づいてきた。

 

「ど、どうしたの? こんなところで・・・」

 

「いろんなところを見て回って手伝ったりしてるんだ」

 

「そうなの? 大変ね。お疲れ様」

 

「いやいやそっちこそ。これから槍投げとか筆記試験もあるんだし」

 

「う・・・そういえばそうだったわね・・・」

 

これから待っているであろう筆記試験のことを思い出したのか、蓮華は少し落ち込んだようだ。

・・・まぁ、こればっかりは頑張ってくれとしか言えない。

 

「・・・槍投げでやらかしそうなのがいないって言うのは良いよな」

 

「え? 何か言った?」

 

蓮華の怪訝そうな声にいや、なんでもないと返す。

さて、ここで手伝えることもないだろうし、月もしばらく出てこなさそうだから他のところ手伝ってこようかな。

 

・・・

 

春蘭が槍投げで槍と共に知性も放り投げたり一刀が魏の身体測定を見に行って桂花に気絶させられたりといったハプニングがあったものの、ある程度平穏に健康診断は終わっていった。

そして朱里と雛里が結果をまとめて発表するので、みんながそれを見に来た。

 

「みなさーん、結果はっぴゅ・・・発表です!」

 

「よっと。こんな感じかな」

 

朱里たちの代わりに立て札を立てる。

俺はお手伝いなので、こうして朱里たちには不向きな力仕事を担当している。

 

「あわ・・・ギルさん、お手伝いありがとうございます・・・」

 

「いやいや、これくらいはしないと」

 

発表されるのは筆記試験の結果と槍投げの記録だったはずだ。

春蘭に筆記試験で負けた桂花がショックを受けたり一刀が身体測定の結果を知りたがって春蘭にしばかれたりといろいろあったが割愛する。

 

「・・・そういえば鈴々。散々季衣と身長で争ってたけど、どっちが上だったんだ?」

 

「あれは引き分けだったのだ!」

 

「引き分け・・・同じ身長だったのか」

 

「でも、明日になったらボクのほうがおっきくなってるもんねー!」

 

「そんなことないのだ!」

 

また言い合いになりそうな二人をたしなめると、桃香が朱里たちに質問した。

 

「そういえば・・・身体検査の記録はどこに保存するの?」

 

「はい。最初は厳重に封印して誰にも分からないところに保管しておこうと思っていたのですが・・・」

 

「ですが?」

 

「それでも万が一、と言うのがありますので、もっと確実で厳重なところに保管することにしました」

 

え、どこどこ? と桃香が聞く。

普通はどこにあるかなんていわないだろうが、保管場所はおそらく誰にも手出しできない場所だ。

言っても構わないだろう。

 

「はい、ギルさんの宝物庫の中へ仕舞わせていただきました」

 

「ギルの宝物庫・・・なるほど、あそこなら本人以外は手出しできんな」

 

朱里から事前に頼まれていたのもあり、資料の入った箱ごと宝物庫へと保管した。

経年劣化もせず、誰にも見られることがない最高の保管場所だと思う。

 

「お、お兄さん、絶対に見ちゃ駄目だよ!?」

 

「分かってる分かってる。そんな信用を無くすような真似しないって」

 

「それに、もし見ようとすれば・・・令呪がありますし」

 

にっこり笑った月が「ですよね、ギルさん」と笑いかけてくる。

本当に令呪を使うとは思えないが、乙女の秘密をわざわざ暴こうとも思わない。

こうして、波乱の健康診断は終わったのだった。

 

・・・

 

「健康診断二日目、サーヴァント一斉検査を始めようと思います。はい拍手ー」

 

「わーぱちぱち」

 

「・・・響、無理に乗ることはないのよ?」

 

「えー、ほら、だって・・・キャスターかわいそうじゃん」

 

唇を尖らせた響がそういうが、キャスターは別に反応があろうがなかろうがどっちでも大丈夫そうだけどな。

 

「ええと、それじゃあ詳しい検査内容を発表させてもらうよ。まずサーヴァントたちがきちんと身体を動かせるか体力測定。そして、霊核やらを検査する身体検査って所かな」

 

孔雀が手元の資料を見ながらそう言った。

まぁ、それくらいが妥当だよな。

 

「と言うわけで、まずは体力測定だね。槍投げから行くよー」

 

「あ、そこは同じなんだ」

 

「うん。槍をきちんと投げられるってことは魔力がちゃんと行き届いていて身体を動かすのに不自由してないってことだから」

 

ほうほう。

 

「はい、と言うわけでこの槍をぶん投げてください」

 

「ならば、まずは私から行こう」

 

そう言ってセイバーが槍を持つ。

槍を持った腕を引き、十分に力を溜めた後、思い切り振りかぶる。

セイバーの腕から離れた槍は、空気を切り裂いて彼方へと飛んでいく。

おー、飛ぶ飛ぶ。流石は英霊だよな。

 

「お、飛ばしたじゃねーかセイバー」

 

心なしか銀も嬉しそうな顔をしている。

やっぱり自分の相棒がいい結果を残すと嬉しいものなんだろう。

 

「よっしゃ、次は俺か」

 

そう言って槍を掴んだのはライダー。

今日も黒い靄は元気である。

 

「せいやぁっ!」

 

ライダーが投げた槍は、セイバーの槍の少し前に刺さった。

おお、接戦だなぁ。

 

「まー、こんなもんかー」

 

「じゃー次はバーサーカーの番ね! 握りつぶさないように投げるのよ!」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

シャオから槍を受け取ったバーサーカーは、投げ方なんて気にせずにただただ力づくで槍を投げる。

セイバーとライダーの投げた槍を軽々と飛び越し、肉眼では見づらくなるまで飛んでいった。

 

「・・・さっすがバーサーカー! 力だけはあるね!」

 

だけはって・・・。

それは褒め言葉なのか? 

 

「ランサー、行け」

 

「はっ!」

 

いつもと同じ緑色の軍服を着たランサーが槍を構える。

きびきびとした動きから放たれた槍は・・・

 

「む、惜しいな」

 

セイバーの槍よりも後ろに落ちた槍を見て、甲賀が呟く。

やはりステータスの差なのか、わずかに届かなかったようだ。

 

「ようっし、じゃあハサン、行ってみようか!」

 

響の言葉に頷きながら、アサシンが右腕で槍を持つ。

・・・あれって投げられるのか? なんて思ってしまう。

 

「・・・」

 

助走をつけて投げられた槍は、右腕のリーチの為かかなり飛距離を伸ばした。

おお、ライダーとほぼ同じところだ。

 

「おー、ハサンって意外とやるじゃん!」

 

ね、ね、凄いよねハサン! と俺に絡んでくる響。

そうだな、と言って頭を撫でておく。こうすれば静かにするだろう。

 

「さて、そろそろ私もやっておこうかな」

 

「お、がんばれー」

 

孔雀の気の抜けるような声援を受けながら、槍を構えるキャスター。

その結果は・・・まぁ、あえて触れるまい。

最後は・・・俺か。

 

「ギルさん、頑張ってくださいね」

 

そう言って槍を手渡してくれた月に、もちろん、と頷く。

身体に魔力を循環させ、宝物庫からのバックアップも十分。

槍を投げる一瞬だけ、ステータスが若干上昇するようにしておいて、全身を使って槍を投げる。

槍は空気を切り裂いて飛んでいき・・・

 

「お、バーサーカーと並んだな」

 

見事、バーサーカーの投げた槍の近くに突き刺さった。

 

「凄いですギルさんっ!」

 

今にも飛び跳ねそうなくらいに喜んでいる月を抱きとめる。

うんうん、無邪気にはしゃぐ女の子は可愛いものだ。

槍投げの結果は、同率一位で俺とバーサーカー、そして三位ライダー、四位セイバー、五位アサシン、六位ランサー、七位キャスターとなった。

 

「次は身体検査だね。じゃあ、マスターとサーヴァントのパスを調べていくよー」

 

そう言って、キャスターは一組一組診察していく。

俺も月と一緒に診察されたが、特に異常はないとの事。

以前は不安定だった魔力の供給も、最近はかなり安定しているようだ。

 

「ま、問題はないよ」

 

「そうですか・・・良かった」

 

診断結果を聞いた月がほっと胸をなでおろした。

まぁ、月はこういうのに責任感じるほうだろうしな。

診察が終わった後、みんなの結果を聞いてみる。

一番心配だったのはバーサーカーのマスターであるシャオだったが、弁慶はまだ魔力消費の低いほうらしく、魔力切れで自滅はほぼありえない、との事。

他のサーヴァントたちも特に異常はなく、身体検査は終わった。

 

・・・

 

「ちょっと月」

 

洗濯物を干している最中のこと。

月は背後から聞こえた声に振り向いた。

 

「はい? ・・・卑弥呼さん、どうかしましたか?」

 

「アンタにいいものあげるわ。ちょっとこっち来なさい」

 

「え? で、でもまだ仕事が・・・」

 

「良いから」

 

「だ、だれかー・・・」

 

あーれー、と卑弥呼に引っ張られていく月は、とりあえず考えることをやめた。

 

・・・

 

「ギル、どうよこれ」

 

「ん? なにがどうした・・・って、月?」

 

「へぅ・・・ど、どうですか、ギルさん」

 

いきなり部屋に入ってきた卑弥呼と月へと顔を向けると、そこには驚きの光景が広がっていた。

なんと、月が着物を着ていたのだ。

おそらく一緒にいる卑弥呼が用意したものだろう。

 

「全く。平行世界移動しまくっちゃったわよ。ほら、月はナイチチだからさ、着物とか似合うのよねぇ」

 

わらわのセンスは完璧なのよ、という卑弥呼の背後で月が「ナイチチ・・・ナイチチって・・・」とへこんでいる。

いや、ほら、大丈夫! 胸の大きさイコール魅力じゃないから! 

っていうか、卑弥呼も人のことは言えない気が・・・

 

「あん? ちょっとギル。何わらわの胸を見て・・・」

 

そこまで言うと、卑弥呼はばっと胸に手を当てて隠した。

 

「そんな、わらわがあまりにも魅力的だからってこんな真昼間からなんて・・・」

 

「何を勘違いしてるのか知らないけど、多分それ間違ってるぞ」

 

頬に手を当ててぶんぶんと頭を横に振る卑弥呼にそう言ってみるが、まるで聞いちゃいない。

着物姿で落ち込む月と、メイド服姿で恥ずかしがってる卑弥呼が俺の部屋の中にカオスな空間を作り出している。

・・・どうすりゃいいんだろう、これ。

とりあえず、月から復活させることにしよう。

 

「月、そんなに落ち込むなって」

 

「ギルさん・・・」

 

「胸の事は気にしなくて大丈夫。それよりも、着物着た月をもっと見たいな」

 

「へぅ。ちょ、ちょっと恥ずかしいですけど・・・分かりました」

 

そう言って、月は両手を広げてくるくるとその場で回った。

月の持つ雰囲気と着物はかなりマッチしている。

 

「ど、どうでしょうか?」

 

「ああ、かなり似合ってる。完璧だ」

 

「へぅ・・・ありがとうございます。とっても嬉しいです・・・!」

 

すっかり立ち直った月は、鼻歌を歌いながら鏡に映った着物姿の自分を見ている。

どうやら着物を気に入ったようだ。祭りのときとかに着て貰いたいな、これは。

 

「えへへぇ、もぅ、ギルぅ、そんなところまで・・・」

 

・・・次はこっちか。

寝台の上でくねくねと身体をよじる魔法少女を何とかしないとな。

 

「おーい、卑弥呼。戻ってこーい」

 

期待は一切していないが、とりあえず声をかけてみる。

卑弥呼はいまだ妄想の世界から帰ってこない。

次の手段は・・・揺すってみるか。

 

「おーい、卑弥呼ー!」

 

「はうっ!? ・・・な、何よギル。・・・ってあれ? わらわなんで寝台なんかに・・・」

 

ああ、記憶ないんだ・・・。

 

「まぁいいわ。結構満足したし。ほら月、帰るわよー」

 

寝台から起き上がった卑弥呼は、服についたしわをぱっぱと払うように直すと、月に声をかける。

 

「あ、はい。・・・それでは、また後で、ギルさん」

 

「ああ、二人とも、またな」

 

「ええ、またね」

 

最終的に上機嫌になって帰っていった二人を見送る。

・・・着物、似合ってたなぁ・・・。

 

・・・

 

「どうどう」

 

馬に乗せた鞍にまたがりながら、手綱を引く。

この鞍は宝物庫にあった特別製で、馬を上手に乗りこなせるようになる加護がつく様になっている。

鐙もきちんとあるので、乗馬初心者である俺でもこうして一人前に乗りこなせるのだ。

 

「お、ギル。今日は乗馬か?」

 

「セイバーか。そっちこそ、馬に跨ってどうしたんだ?」

 

「いやなに、この馬は私の宝具と言うか英霊化した愛馬でな、今日は天気もいいし、走らせてやろうかと思って」

 

セイバーの愛馬といえば・・・的盧か。

ふとセイバーのほうを見ると、セイバーは的盧の首を撫でていた。

的盧も嬉しそうに嘶いている。

 

「・・・そうだ、ギル。競争しないか?」

 

「俺とセイバーで?」

 

「ああ」

 

「騎乗スキルのあるお前に勝てるわけないだろう。俺、初心者だぜ?」

 

「はっはっは、見たところ、その鞍や手綱、普通の品ではないだろう?」

 

笑いながらそう聞いてきたセイバーに、まぁそうだけど、と返す。

 

「ならば良いではないか。それに、馬上での動きに慣れるのは大切だぞ?」

 

「・・・はぁ、分かったよ。で、どこでやるんだ?」

 

「もちろん、競馬場だ。着いて来い」

 

ぱっからぱっからと先に進んだセイバーに、ため息をつきつつついて行く。

ちょっと馬の練習をしたいだけだったんだが・・・まぁいいか。

 

・・・

 

「ここを・・・そうだな、先に一周した方が勝ち。それで良いか?」

 

「ん、大丈夫だ」

 

「よし・・・ならば、この石が地面に落ちたら開始だ」

 

そう言ってセイバーは拾った石を上に放り投げる。

その石が落ちるまでの一瞬、俺とセイバーは神経を集中させていく。

 

「・・・せいっ!」

 

「・・・はぁっ!」

 

石が地面についた瞬間、俺たちは同時にスタートを切った。

宝物庫の中身をフルに使った俺の馬と、英霊化したセイバーの愛馬。

その二頭は勢い良く駆ける。

・・・ちっ、流石にセイバーのほうが速いか! 

 

「だが、勝負といわれた以上・・・努力はしないとな」

 

魔力放出。

ランクは低いが、馬を強化することはできる。

鞍と手綱を媒介に、俺の駆る馬の筋力を強化し、速度を上げる。

 

「くっ、そんな手が・・・!」

 

「はっ、勝たせてもらうぞ!」

 

速度が上がっても、鞍によって付加された騎乗スキルによってよどみなく馬を操ることができる。

カーブの際に少しだけ膨らんだセイバーの隙を突き、内側からセイバーを抜く。

 

「なんと、油断したかっ」

 

後ろからセイバーの悔しそうな声が聞こえるが、今はコースの内側を守っていけば良いだろう。

 

「く、ギルよギル! 私の運命を妨げるか!」

 

しかし、最後の直線のとき事は動いた。

セイバーがいきなり叫んで馬に鞭打つと、的盧は突然飛び上がり俺の頭上を越えていく。

呆然とする俺の前を悠々と走って一着でゴールするセイバー。

 

「あ、ありか!? それはアリか、セイバー!」

 

「当たり前だ。私は私の持つすべてを出し切って戦ったのだからな」

 

「・・・そうか、そういうことならこっちにも考えがある」

 

もう一戦だ、と言う俺の言葉に笑顔でおう、良いだろうと答えたセイバー。

・・・見てろよ。

 

・・・

 

「よし、それじゃルール確認だ。直接相手を傷つけない宝具の使用は可能。良いな?」

 

「おう。それで良いだろう。・・・くっくっく、次も勝って見せよう、ギル」

 

「はっ、今のうちに言ってろ。・・・セイバー、開始の合図を」

 

俺がそういうと、セイバーは手に持った石を再び上に放り投げる。

石が地面についた瞬間・・・俺は宝物庫を解放する。

 

「風よ! 俺の背を押し出せ!」

 

風を放出する宝具によって風を生み出させ、それを宝物庫から放つことでスタートダッシュのブースト代わりにする。

急加速によって一瞬馬が慌てるが、上手く手綱を操って落ち着かせる。

いい加速だ。これでだいぶセイバーとの差がついただろう。

 

「くっ、味なまねを・・・頼む、我が兄弟よ!」

 

「おうよ!」

 

「了解だ!」

 

セイバーの掛け声に応じるようにコース前方に現れたのは、関羽と張飛。

彼らは圧倒的な攻撃力を持ってして地面を粉砕し、悪路を作り出した。

 

「コースを破壊するなんてなんとまぁ力ずくな・・・!」

 

「はっはっは! 何とでもいえ!」

 

一瞬戸惑った隙をつかれ、セイバーに抜かれる。

そのまま的盧に鞭打ち、悪路を飛び越えると、カーブに差し掛かった。

・・・さて、俺はどうするかな。

この悪路、もし馬の足でもはまってしまえばその時点で負ける。

かといって、こいつにはこんな重装備でここを飛び越えられるはずもなし・・・。

 

「仕方がない、先に謝っておく。ごめん天の鎖(エルキドゥ)!」

 

背後の宝物庫から鎖が延び、一本の道を作る。

 

「これならば、騎乗スキルで何とでもなる!」

 

同じようにカーブに差し掛かり、セイバーに追いつくと、先ほどのを見ていたのか、呆れながら

 

「あんなどこぞの鉄球使いと同じようなこと、良くやる」

 

なんて言ってきた。

直線に入り、俺とセイバーが並ぶ。

 

「兄弟使って地面破壊するような奴に言われたくはないね」

 

あれ、後で戻しておけよ、と付け加えておく。

 

「分かっている。最後の直線だ! 駆けろ、的盧!」

 

「よし、最後だ、頑張ってくれ!」

 

差はほぼない。

ここでどれだけ相手を離せるかにかかっている・・・! 

そして、一着でゴールしたのは・・・

 

・・・

 

「っぷはー!」

 

競馬が終わった後。

俺とセイバーは酒屋でお互いをねぎらっていた。

先ほどの順位は・・・同着。

地面を破壊した後手持無沙汰になっていた関羽と張飛が見て同着だといっていたので間違いはないのだろう。

その後召喚された関羽と張飛とセイバーと俺の四人で地面を元通りにして、こうして酒屋まで来たのだ。

 

「いやはや、それにしてもギルの宝物庫には何でもあるな!」

 

「だな。大体のものは入ってると思うぜ」

 

馬を上手に乗りこなせる道具でてこい、と念じたところあの鞍が出てきたしな。

ほんとに何でも入ってるのかもしれない。

 

「それにしても、やっぱり英霊化しただけあって的盧は凄かったなぁ」

 

まさか飛び越して抜いてくるとは思いも寄らなかった。

 

「はっはっは! そうだろうそうだろう!」

 

酔ってるのか、上機嫌なセイバーとの酒盛りは、日が暮れるまで続いた。

・・・その後、セイバーともども愛紗に説教を食らったのは言うまでもない。

 

・・・




「ギルおにいちゃん! お医者さんごっこしよう!」「ちょ、響きが危ない!」「ふえ? なんでー?」「・・・俺の心が汚れてるだけか。よし分かった。じゃあ俺が患者さんやるよ」「うんっ。えーっと、お医者さんって患者さんを針で刺せば良いんだよね?」「それは特殊な医者だけかなぁ・・・」


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